説明

設備診断方法、設備診断システム及びコンピュータプログラム

【課題】設備ごとに多くのセンサを備える必要がなく、精度の高い設備診断方法及び設備診断システムを提供する。
【解決手段】診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得部21と、データ取得部21で取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データが決定論的であるか確率論的であるかの指標となる決定論性を表す値を算出する並進誤差演算部24と、並進誤差演算部24で算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する故障判定部26と、を備える。決定論性を表す値は、並進誤差又は順列エントロピーである。決定論性を表す値として順列エントロピーを用いる場合は、順列エントロピー演算部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の状態を診断する設備診断方法、設備診断システム及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大規模工場などでは、製造設備や空調設備などの多くの機械設備が設置されている。それらの異常を見つけるために熟練した保守員が巡回して耳で音を聞いたり、振動具合等を視認又は触診して設備の状態を診断していた。
【0003】
そこで、例えば、空調用のファンやポンプの多様な異常を的確に検知し故障による停止を未然に防止するために音響法による非接触式の設備診断方法が提案されている(特許文献1)。特許文献1の技術は、あらかじめ測定しておいた正常時の音圧信号と測定時の音圧信号とを比較して異常信号を検出するにあたり、信号を回転周波数に対応した低周波数域と部材の固有振動数に対応した高周波数域とに分離した後、線形予測法を適用したARモデル(Auto-Regressive(自己回帰)モデル)によるフィルタを用い、測定時の音圧信号から正常時の音圧信号の特性を除去した値によってファン及びポンプの異常を検出する。
【0004】
一方、近年のカオス時系列解析を用いて、非線形力学的理論に立脚した時系列データの解析方法がある。例えば、特許文献2は、電力消費量、ガス消費量、物流量などの各種の時系列データの多面的かつ総合的な解析、例えば短期予測などに適したシステムを提供することを目的としている。特許文献2の技術は、時系列データの埋め込み処理により再構成された状態空間内の軌道データを基にして、軌道表示解析、次元解析、リアプノフスペクトラム解析、エントロピー解析および決定論的非線形予測解析などの多面的解析を行ない、さらに各解析結果を相互に利用しつつ総合的に処理する時系列データ非線形解析システムに関するものである。
【0005】
また、生体などの複雑で微妙な組織の状態を的確に反映した診断情報を出力する超音波診断装置の技術が提案されている(特許文献3)。特許文献3の技術は、アトラクタ上でランダムに選んだ基準点の位置ベクトルを対象ベクトルとして設定し、対象ベクトルのK個の近傍点を検索してそれらの位置ベクトルを設定する。基準点およびK個の近傍点の各々について、Tステップ後(T時間経過後)の位置ベクトルを検出する。そして、基準点およびK個の近傍点の各々について、Tステップ後にどれだけ移動したかを示す並進ベクトルを計算し、基準点の並進ベクトルおよびK個の近傍点の並進ベクトルから、並進誤差(ベクトル分散)を算出する。
【特許文献1】特開平10−133740号公報
【特許文献2】特開平6−96055号公報
【特許文献3】特開2005−95327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の設備診断方法は、保守員の巡回によって診断を行っているため、保守の自動化、省力化が難しい。また、振動検知のために設備毎に多くのセンサを備える必要がある。そして、設備の状態によってメンテナンスの時期を事前に予測、又は異常を検知するのでなく、設備メーカの推奨する周期でメンテナンスの時期を判断する定期保守が行われている場合が多い。
【0007】
特許文献1の技術では、設備ごとの特性の違いに応じて、異常音の周波数と検出レベルを調整する必要がある。また、正常時の音と異常時の音のスペクトル分布に特徴的な違いが見られない場合には、異常を検出することが困難である。
【0008】
特許文献2の技術は、時系列データ非線形解析システムに関するものであるが、時系列データからどのように短期予測を行うかについて明らかではない。また、設備の診断を行う方法については記載されていない。特許文献3は、生体などの超音波診断装置の技術であるが、設備の時系列データと設備の状態との関係については記載されていない。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、設備ごとに多くのセンサを備える必要がなく、精度の高い設備診断方法及び設備診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る設備診断方法は、
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データが決定論的であるか確率論的であるかの指標となる決定論性を表す値を算出する決定論性算出ステップと、
前記決定論性算出ステップで算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0011】
特に、前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される並進誤差であって、
前記決定論性算出ステップは、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込みステップと、
前記埋め込みステップで算出された埋め込みベクトルのうち、ある埋め込みベクトルについて所定の数の最も近接するベクトルを抽出する最近接ベクトル抽出ステップと、
前記最近接ベクトル抽出ステップで抽出した所定の数の最も近接するベクトルの分散である並進誤差を算出する並進誤差算出ステップと、
を含み、
前記警告判定ステップは、
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より大きい場合に、前記並進誤差算出ステップで算出された並進誤差が前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より小さい場合に、前記並進誤差算出ステップで算出された並進誤差が前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする。
【0012】
又は、前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される順列エントロピーであって、
前記決定論性算出ステップは、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込みステップと、
前記埋め込みステップで算出された所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルについて、前記埋め込みベクトルの要素の大小関係が有する順序と同じ順序の度数を累計し、前記所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルの数に対する相対実現度数として算出する実現度数算出ステップと、
前記埋め込みベクトルの次元の数の順序からなる全ての順列を確率変数とし、前記実現度数算出ステップで算出された前記相対実現度数を確率分布とするエントロピーである順列エントロピーを算出する順列エントロピー算出ステップと、
を含み、
前記警告判定ステップは、
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きい場合に、前記順列エントロピー算出ステップで算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さい場合に、前記順列エントロピー算出ステップで算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、前記診断の対象となる設備の状態を示す変数が、温度センサ、温湿度センサ、風速センサ、液体流量センサ、光ファイバセンサ、圧力センサ、回転センサ、加速度センサ、音響センサ又は振動センサの時系列データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0014】
なお、前記診断の対象となる設備が回転機を備え、
前記データ取得ステップは、前記設備から音響センサで音響信号を時系列データとして取得し、
前記故障判定ステップは、前記回転機の警告すべき状態を判定する、
ことを特徴としてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点に係る設備診断システムは、
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段で取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データが決定論的であるか確率論的であるかの指標となる決定論性を表す値を算出する決定論性算出手段と、
前記決定論性算出手段で算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
特に、前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される並進誤差であって、
前記決定論性算出手段は、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込み手段と、
前記埋め込み手段で算出された埋め込みベクトルのうち、ある埋め込みベクトルについて所定の数の最も近接するベクトルを抽出する最近接ベクトル抽出手段と、
前記最近接ベクトル抽出手段で抽出した所定の数の最も近接するベクトルの分散である並進誤差を算出する並進誤差算出手段と、
を含み、
前記警告判定手段は、
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より大きい場合に、前記並進誤差算出手段で算出された並進誤差が前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より小さい場合に、前記並進誤差算出手段で算出された並進誤差が前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする。
【0017】
又は、前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される順列エントロピーであって、
前記決定論性算出手段は、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込み手段と、
前記埋め込み手段で算出された所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルについて、前記埋め込みベクトルの要素の大小関係が有する順序と同じ順序の度数を累計し、前記所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルの数に対する相対実現度数として算出する実現度数算出手段と、
前記埋め込みベクトルの次元の数の順序からなる全ての順列を確率変数とし、前記実現度数算出手段で算出された前記相対実現度数を確率分布とするエントロピーである順列エントロピーを算出する順列エントロピー算出手段と、
を含み、
前記警告判定手段は、
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きい場合に、前記順列エントロピー算出手段で算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さい場合に、前記順列エントロピー算出手段で算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする。
【0018】
好ましくは、前記診断の対象となる設備の状態を示す変数が、温度センサ、温湿度センサ、風速センサ、液体流量センサ、光ファイバセンサ、圧力センサ、回転センサ、加速度センサ、音響センサ又は振動センサの時系列データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする。
【0019】
なお、前記診断の対象となる設備が回転機を備え、
前記データ取得手段は、前記設備から音響センサで音響信号を時系列データとして取得し、
前記故障判定手段は、前記回転機の警告すべき状態を判定する、
ことを特徴としてもよい。
【0020】
本発明の第3の観点に係るコンピュータプログラムは、
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段で取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データの決定論性を表す値を算出する決定論性算出手段と、
前記決定論性算出手段で算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定手段、
として機能させることを特徴とする。
【0021】
本発明において設備が警告すべき状態であるとは、その設備が点検・整備を必要としている状態、予防保全的に部品又もしくはユニットを交換する時期である状態、又は何らかの障害が発生しているもしくは故障している状態などをいう。
【発明の効果】
【0022】
本発明の設備診断方法及び設備診断システムによれば、一見して異なる時系列データでパワースペクトルが同じになるようなデータでも、時系列データの背後にある決定論的構造を定量化し、時間遅れ座標変換により時系列データから位相空間における軌道を再構成することによって、正常時と故障時の時系列データの違いを定量的に表現できる。そして、比較的少ないデータ数でも精度の高い故障診断ができる。また、設備毎に多くのセンサを設置する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(実施の形態1)
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、その説明は繰り返さない。半導体製造装置などのコンプレッサーを診断の対象とした設備診断システムを例にして以下に説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態1に係る設備診断システム1の論理的な構成を示すブロック図である。設備診断システム1は、データ取得部21、埋込ベクトル生成部22、近接ベクトル抽出部23、並進誤差演算部24、中央値演算・平均処理部25、データ保持部5、故障判定部26、表示処理部27、表示装置7、プリンタ装置8などから構成される。データ保持部5には、故障診断の対象となる設備の状態を表す時系列データ、埋め込みベクトル、最近接ベクトル及び並進誤差が記憶保持される。
【0025】
ここで、並進誤差とそれが決定論性を表す指標となることを説明する。Waylandらの時系列解析アルゴリズム(R. Wayland, D. Bromley, D. Pickett, and A. Passamante, Physical Review Letters, Vol. 70, pp. 580-582, 1993.)を用いると、複雑な変動においてどの程度決定論的側面が認められるか定量的に評価できる。
【0026】
時系列データ{r(ti)}(i=0,...,N−1)から、ある時刻tiにおける埋め込みベクトル
r(ti)={r(ti),r(ti−Δt),...,r(ti−(n−1)Δt)}
を生成する。右肩の添え字は転置行列を表す。nは適当な埋め込み次元である。Δtは、例えば、相互情報量から選択された適当な時差である。
【0027】
埋め込みベクトルの集合から、ある埋込ベクトルr(t0)のK個の最近接ベクトルを抽出する。ベクトル間距離はユークリッド距離で測る。K個の最近接ベクトルをr(tj) (j =0,...,K)と書く。r(tj)の各々について、TΔtだけ時間が経過した後のベクトルはr(tj+TΔt)である。このとき、時間の経過に伴う埋め込みベクトルの軌道の変化は、
v(tj)=r(tj+TΔt)− r(tj) (1)
によって近似的に与えられる。時間発展の様子が決定論的に見えるならば、近接ベクトルの各軌道群の近接した部分は、TΔt後に近接した部分に移されるであろう。したがって、v(tj)の方向の分散は、観測された時間発展がどの程度決定論的に見えるかを定量的に評価する指標となる。v(tj)の方向の分散は次式で与えられる。
【数1】





【0028】
Etransは並進誤差(translation error)と呼ばれる。r(t0)の選択から生じるEtransの誤差を抑えるために、無作為に選択したM 個のr(t0)に関するEtransの中央値を求める操作をQ 回繰り返し、Q 個の中央値の平均値でEtransを評価する。時系列データの決定論的側面が増加するにつれてEtrans→0となる。時系列データが白色ノイズならば、差分ベクトルv(tj)は一様等方に分布するから、中央値としてのEtransは1に近い値となる。時系列データが強い線形相関をもつ確率過程ならば、自己相関のために近接軌道群の方向がある程度揃うので、Etransは1よりも小さい値をとる。
【0029】
数値実験によると、Etrans >0.5である。0.1<Etrans<0.5の範囲では、確率過程である場合もあるし、また、観測ノイズに汚染された決定論的時系列であることもあり得る。Etrans <0.1ならば、確率過程では説明できず、決定論的側面は十分に認められる。
【0030】
本実施の形態では、並進誤差Etransが診断対象の設備の状態を示す時系列データの決定論性を表す指標となることを利用して、設備の故障を診断する。設備が正常な状態における時系列データが確率論的である、すなわち並進誤差が大きい値である場合には、並進誤差が所定のしきい値を超えて小さい値になったときに、設備が故障したと判断する。例えば、温度や回転速度などを一定に保持するよう制御している設備では、時系列データである温度や回転速度は様々な外乱によって不規則に変動し、確率論的であると考えられる。温度や回転速度の変動が決定論的側面が増加したときは、何らかの固定的要因(故障)が発生したと判断できる。
【0031】
逆に、設備が正常な状態における時系列データが決定論的である、すなわち並進誤差が小さい値である場合には、並進誤差が所定のしきい値を超えて大きい値(1に近づく)になったときに、設備が故障したと判断する。例えば、加工用ステージを昇降しているときには、音響、振動、変位などの時系列データは昇降制御動作によって支配されているので、決定論的であると考えられる。そこで、音響、振動、変位などの時系列データに確率論的側面が増加したときは、制御以外の外因(障害)が発生したと判断できる。
【0032】
並進誤差は連続的に変化する値であるから、しきい値を適当に設定して、診断の対象となる設備が、例えば、清掃や潤滑油の注油などの点検・整備を必要としている状態、障害には到っていないが摩耗などが進展し予防保全的に部品等を交換したほうがよい状態、又は障害が発生している状態等を区別することも可能である。本発明では、これらの状態を総称して警告すべき状態という。実際にどのような状態で警告するか(しきい値をどのように設定するか)は、診断の対象となる設備の用途、障害の影響、又は経済的な特性などを考慮して選択する。
【0033】
図1に戻って、設備診断システム1の各部の作用を説明する。データ取得部21は、診断対象の設備の状態を示す時系列データを収集し、データ保持部5に収集時系列データ51として記憶する。時系列データとしては、例えば、温度、流量、液面レベル、圧力、回転速度、変位、音響、振動などである。時系列データは各種のセンサ(図示せず)から、適当な周期でサンプリングして入力される。
【0034】
埋込ベクトル生成部22は、収集時系列データ51から前述の埋め込みベクトルr(ti)を生成する。埋め込みベクトルの次元nと時差Δtは、時系列データの特性に合わせて予め設定しておく。埋込ベクトル生成部22は、生成した埋め込みベクトルの集合をデータ保持部5に記憶する(埋め込みベクトルデータ52)。
【0035】
近接ベクトル抽出部23は、埋め込みベクトルの集合から任意の埋め込みベクトルr(t0)を選択し、埋め込みベクトルの集合から選択された埋め込みベクトルr(t0)に最も近接するK個の埋め込みベクトル(最近接ベクトル)r(tj)(j=0,1,...,K)を抽出する。無作為に選択したM個の埋め込みベクトルについて、最近接ベクトルを抽出し、データ保持部5に記憶する(最近接ベクトルデータ53)。近接ベクトルの数Kと選択数Mは、並進誤差演算の統計誤差を抑えるために時系列データの性質に合わせて予め設定する。さらに、M個の埋め込みベクトルの無作為選択と、それらの最近接ベクトル抽出をQ回繰り返す。
【0036】
並進誤差演算部24は、最近接ベクトルの組からそれらの方向の分散である並進誤差Etransを計算する。無作為に選択されたM個埋め込みベクトルの最近接ベクトルについて並進誤差Etransを計算する。さらに、Q回のM個の埋め込みベクトルの最近接ベクトルの組について、並進誤差Etransを計算し、それらの値をデータ保持部5に記憶する(並進誤差データ54)。
【0037】
中央値演算・平均処理部25は、1回ごとのM個の並進誤差の中央値を求め、Q回の繰り返しそれぞれの中央値の平均を算出する。並進誤差の平均値は故障判定部26に入力される。故障判定部26では、所定のしきい値と並進誤差の平均値を比較し、並進誤差の平均値がしきい値を超えて変化した場合に、対象設備が警告すべき状態であると判定する。
【0038】
前述のとおり、正常状態における並進誤差が確率論的である場合には、並進誤差の平均値がしきい値より小さくなったときに警告すべき状態であると判定する。また、正常状態における並進誤差が決定論的である場合には、並進誤差の平均値がしきい値より大きくなったときに警告すべき状態と判定する。
【0039】
表示処理部27は、例えば、並進誤差の平均値の推移、及び故障判定結果を表示装置7に表示する。また、同時にプリンタ装置8に印字出力する。表示処理部27では、時系列データ、並進誤差を合わせて表示させてもよい。故障と判断された場合は、ライトを点滅させたり、ブザーを鳴動させるなどの警報表示を行ってもよい。
【0040】
図2は、設備診断システム1の物理的な構成の一例を示すブロック図である。図1に示す本発明の設備診断システム1は、ハードウェアとしては図2に示すように、制御部11、主記憶部12、外部記憶部13、操作部14、画面表示部15、印字出力部16、送受信部17、表示装置7及びプリンタ装置8から構成される。制御部11、主記憶部12、外部記憶部13、操作部14、画面表示部15、印字出力部16及び送受信部17はいずれも内部バス10を介して制御部11に接続されている。
【0041】
制御部11はCPU(Central Processing Unit)等から構成され、外部記憶部13に記憶されているプログラムに従って、データ取得部21、埋込ベクトル生成部22、近接ベクトル抽出部23、並進誤差演算部24、中央値演算・平均処理部25、故障判定部26及び表示処理部27の処理を実行する。データ取得部21、埋込ベクトル生成部22、近接ベクトル抽出部23、並進誤差演算部24、中央値演算・平均処理部25、故障判定部26及び表示処理部27は、制御部11とその上で実行されるプログラムで実現される。
【0042】
主記憶部12はRAM(Random-Access Memory)等から構成され、制御部11の作業領域として用いられる。データ保持部5は、主記憶部12の一部に記憶領域の構造体として記憶保持される。
【0043】
外部記憶部13は、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD(Digital Versatile Disc)、DVD−RAM(Digital Versatile Disc Random-Access Memory)、DVD−RW(Digital Versatile Disc ReWritable)等の不揮発性メモリから構成され、前記の処理を制御部11に行わせるためのプログラムを予め記憶し、また、制御部11の指示に従って、このプログラムのデータを制御部11に供給し、制御部11から供給されたデータを記憶する。例えば、時系列データは、外部記憶部13に格納されている場合がある。
【0044】
操作部14は、オペレータが設備診断システム1に指令を与えるために、キースイッチ、ジョグダイヤル、キーボード及びマウスなどのポインティングデバイス等と、それらを内部バス10に接続するインターフェース装置を備える。操作部14を介して、故障判定条件の入力、時系列データの入力、故障診断の開始などの指令が入力され、制御部11に供給される。その他、埋め込み次元n、時差Δt、近接ベクトルの個数K、埋め込みベクトルの選択数M及び繰り返し演算数Q等が、操作部14から入力されて設定される。
【0045】
表示装置7は、CRT(Cathode Ray Tube)またはLCD(Liquid Crystal Display)などから構成され、操作部14から入力された指令に応じた制御部11の命令によって、時系列データ、並進誤差の推移、故障診断結果などを表示する。画面表示部15は、表示装置7に表示する画面のデータを、表示装置7を駆動する信号に変換する。
【0046】
印字出力部16は、プリンタ装置8と接続するシリアルインタフェース、パラレルインターフェース又はLAN(Local Area Network)インターフェース等から構成されている。制御部11は印字出力部16を介して、プリンタ装置8へ印刷する表示データを出力する。
【0047】
送受信部17は、モデム又は網終端装置、及びそれらと接続するシリアルインタフェース又はLAN(Local Area Network)インタフェースから構成されている。制御部11は、送受信部17を介して、各センサから時系列データを入力する。時系列データは、図示しない他のサーバ等に格納されている場合がある。その場合、制御部11は送受信部17を介して、ネットワーク(図示せず)を経由して、サーバ等から時系列データを受信する。
【0048】
図3は、コンプレッサー3を診断の対象とする場合の設備診断システム1の構成の例を示す図である。コンプレッサー3の音を入力するマイク2が設備診断システム1に接続されている。設備診断システム1は、マイク2から入力される音響信号をある周期でサンプリングして収集し、時系列データとする。
【0049】
コンプレッサー3が定常運転しているとすると、音響信号の時系列データは正常な場合に確率論的であると考えられる。したがって、音響信号の時系列データから算出される並進誤差が、あるしきい値より小さくなったときに、コンプレッサー3が警告すべき状態であると判断できる。
【0050】
つぎに、設備診断システム1の動作について説明する。なお、上述のように、設備診断システム1の動作は、制御部11が主記憶部12、外部記憶部13、操作部14、画面表示部15、印字出力部16及び送受信部17と協働して行う。
【0051】
図4は、並進誤差を用いる設備診断の動作の一例を示すフローチャートである。まず、診断対象となる設備の状態を示す時系列データを入力する(ステップA1)。図3のコンプレッサー3の例でいえば、マイク2から入力される音響信号をある周期でサンプリングして収集し、時系列データとする。
【0052】
収集された時系列データから、設定されている埋め込み次元nと時差Δtで、埋め込みベクトルr(ti)を生成する(ステップA2)。埋め込みベクトルの集合から任意の埋め込みベクトルr(t0)を選択し、最近接ベクトルr(tj)(j=0,...,K)を抽出する(ステップA3)。無作為に選択したM個の埋め込みベクトルについて最近接ベクトルを抽出し、さらに、M個の埋め込みベクトルの無作為選択と、それらの最近接ベクトル抽出をQ回繰り返す。
【0053】
無作為に選択されたM個の埋め込みベクトルの最近接ベクトルについて並進誤差Etransを計算し、さらに、Q回のM個の埋め込みベクトルの最近接ベクトルの組について、並進誤差を計算する(ステップA4)。そして、M個の埋め込みベクトルの最近接ベクトルについて並進誤差Etransの中央値を求め、M個の並進誤差の組の中央値についてQ回の平均値を求める(ステップA5)。
【0054】
並進誤差の平均値から故障を判定する(ステップA6)。図5は、故障判定の動作の一例を示すフローチャートである。正常な状態の判定値(この場合は並進誤差)が確率論的(すなわちしきい値より大きい)か、決定論的(すなわちしきい値より小さい)かによって、故障判定の基準を変更する(ステップB1)。
【0055】
正常な状態の判定値がしきい値より大きい場合は(ステップB1;>しきい値)、現在の判定値(並進誤差の平均値)がしきい値以下のとき(ステップB2;Yes)、故障と判定する(ステップB3)。判定値がしきい値をより大きいときは(ステップB2;No)、故障と判定しない。
【0056】
正常な状態の判定値がしきい値より小さい場合は(ステップB1;<しきい値)、現在の判定値(並進誤差の平均値)がしきい値以上のとき(ステップB4;Yes)、故障と判定する(ステップB5)。判定値がしきい値をより小さいときは(ステップB4;No)、故障と判定しない。
【0057】
なお、ステップB2、B3、B4、B5において、前述のとおり、複数のしきい値を設定して、点検・整備が必要な状態、予防保全として部品交換が必要な状態、故障している状態を区別するようにしてもよい。
【0058】
図4のフローチャートに戻って、故障判定の結果、故障と判定された場合は(ステップA7;Yes)、設備が故障であることを表示装置7に表示する(ステップA8)。また、同時にプリンタ装置8に印字出力してもよい。故障と判定されなかった場合は(ステップA7;No)、故障であることを表示しない。なお、判定値が正常な値から故障判定のしきい値に近づく傾向にある場合に、点検・整備を促す警報を表示するようにしてもよい。
【0059】
(実施例1)
図6は、コンプレッサー3の音響信号の時系列データの例を示すグラフである。図6(a)は故障モードにあるベアリング交換前の音響信号、図6(b)はベアリング交換後の正常な状態の音響信号である。両者のパワースペクトルには、例えばある周波数のスペクトルが大きいとか、小さいといった特徴的な違いは見られない。パワースペクトルによる解析では、故障か正常かを明瞭に識別することは難しい。
【0060】
図7は、コンプレッサー3の音データの並進誤差の例を示すグラフである。埋め込み次元を横軸に並進誤差を縦軸にとって、埋め込み次元を変えて図6のベアリング交換前とベアリング交換後の音響信号について並進誤差を計算した結果を示す。いずれも、時差Δtは10サンプリング周期である。図7のAはベアリング交換後(After)の音響信号についての並進誤差、Bはベアリング交換前(Before)の音響信号についての並進誤差である。
【0061】
埋め込み次元が小さい範囲では、AとBの違いは小さいが、埋め込み次元が5以上ではAとBの違いは明らかである。適当なしきい値を設定して、並進誤差がしきい値より大きい場合は正常、並進誤差がしきい値以下の場合は故障と判断することができる。この例では、埋め込み次元を6以上にとることが望ましい。
【0062】
本発明の設備診断方法及び設備診断システム1によれば、一見して異なる時系列データでパワースペクトルが同じになるようなデータでも、時系列データの背後にある決定論的構造を定量化し、時間遅れ座標変換により時系列データから位相空間における軌道を再構成することによって、正常時と故障時の時系列データの違いを定量的に表現できる。そして、比較的少ないデータ数でも精度の高い故障診断ができる。
【0063】
(実施の形態2)
次に、決定論性を表す値として順列エントロピーを用いる場合の設備診断システム1について説明する。図8は、本発明の実施の形態2に係る設備診断システム1の論理的な構成を示すブロック図である。
【0064】
設備診断システム1は、データ取得部21、埋込ベクトル生成部22、実現度数演算部28、順列エントロピー演算部29、平均処理部30、データ保持部5、故障判定部26、表示処理部27、表示装置7、プリンタ装置8などから構成される。データ保持部5には、故障診断の対象となる設備の状態を表す収集時系列データ51、埋め込みベクトルデータ52、順列実現度数データ55及び順列エントロピーデータ56が記憶保持される。
【0065】
ここで、順列エントロピーとそれが決定論性を表す指標となることを説明する。BandtとPompeによって導入された順列エントロピー(C. Bandt and B. Pompe, Physical Review Letters, Vol.88, pp. 174102-1 - 174102-4, 2002.)は、無限長の時系列におけるKolmogorov-Sinai エントロピーと漸近的に等価な量であるが、順列エントロピーは次のように定義される。
【0066】
所定の時間における時系列データから、ある次元nの埋め込みベクトルr(ti)をすべて生成する。各埋め込みベクトルについて、埋め込みベクトルの要素の大小関係で昇順又は降順で要素に番号をつける。要素の昇順又は降順の番号の配列は、要素数の番号の順列である。所定の時間の全ての埋め込みベクトルについて、同じ昇順又は降順の順列を有する埋め込みベクトルの個数を集計する。集計された個数は、その順序を有する順列の実現度数である。全ての埋め込みベクトルの数に対する実現度数を相対実現度数とする。相対実現度数の和は1である。なお、埋め込みベクトルの時差Δtは1であってもよい。Δt=1の場合は、埋め込みベクトルr(ti)は時系列データの連続するn個の要素から構成される。
【0067】
埋め込みベクトルの要素の大小関係の順序は、埋め込みベクトルの次元の数の順序からなる順列である。埋め込みベクトルの次元の数nについて、1からnまでのn個の数の順列の集合をΠ、順列の集合の要素(ある順列)をπとする。所定の時間の時系列データの個数をN、埋め込み次元をn、時差をΔtとすると、所定の時間の時系列データから生成される埋め込みベクトルの数はN−(n−1)Δtである。ある順列の実現度数をm(π)と書くと、ある順列πの相対実現度数p(π)は次の式(4)で表される。
【数2】


【0068】
相対実現度数p(π)は,時間変動の複雑さを粗視化してパターンに分類していることに等しい。相対実現度数p(π)を順列πの実現確率とみなし、情報エントロピーを計算すると、元の時系列の複雑さ(決定論性)を定量的に評価できる。埋め込みベクトルの次元の数の順列πを確率変数とし、相対実現度数p(π)を確率分布とするエントロピーを順列エントロピーという。順列エントロピーは次の式(5)で定義される。
【数3】



但し、p(π)=0の項は算入しない。
【0069】
順列エントロピーによって元の時系列の複雑さ(決定論性)を定量的に評価できる。最も単純な挙動は単調過程である。単調増加過程または単調減少過程では、順列エントロピーは最小となる。一方、最も複雑な挙動は完全ランダム過程である。この場合、可能なすべてのパターンが実現されるから、順列エントロピーは最大となる。
【0070】
πは埋め込み次元nの順列であり、順列の集合Πはn!個の要素(順列)を含むから、式(5)の定義によって、0≦H(n)≦logn!である。下限は単調増加過程あるいは単調減少過程に対応する。上限は完全ランダム過程を表す。
【0071】
BandtとPompeは、H(n)がnに対して線形に増加することに着目し、次の式(6)で定義される量を導入した。
【数4】


【0072】
h(n)をlogn!で正規化し、次の式(7)で定義されるエントロピーを利用すると便利である。
【数5】



0 ≦ h*(n) ≦ 1が成り立つ。時系列データの決定論的側面が増加するにつれてh*(n)→0となる。時系列データが白色ノイズならば、h*(n)は1に近い値となる。
【0073】
本実施の形態では、順列エントロピーH(n)あるいはH(n)を正規化したh*(n)が診断対象の設備の状態を示す時系列データの決定論性を表す指標となることを利用して、設備の故障を診断する。設備が正常な状態における時系列データが確率論的である、すなわち順列エントロピーが大きい値である場合には、順列エントロピーが所定のしきい値を超えて小さい値になったときに、設備が故障したと判断する。例えば、温度や回転速度などを一定に保持するよう制御している設備では、時系列データである温度や回転速度は様々な外乱によって不規則に変動し、確率論的であると考えられる。温度や回転速度の変動の決定論的側面が増加(順列エントロピーが減少)したときは、何らかの固定的要因(故障)が発生したと判断できる。
【0074】
逆に、設備が正常な状態における時系列データが決定論的である、すなわち順列エントロピーが小さい値である場合には、順列エントロピーが所定のしきい値を超えて大きい値(h*(n)が1に近づく)になったときに、設備が故障したと判断する。例えば、加工用ステージを昇降しているときには、音響、振動、変位などの時系列データは昇降制御動作によって支配されているので、決定論的であると考えられる。そこで、音響、振動、変位などの時系列データに確率論的側面が増加(順列エントロピーが増大)したときは、制御以外の外因(障害)が発生したと判断できる。
【0075】
順列エントロピーは連続的に変化する値であるから、実施の形態1の並進誤差と同様、しきい値を適当に設定して、診断の対象となる設備が、点検・整備を必要としている状態、障害には到っていないが予防保全的に部品等を交換したほうがよい状態、又は障害が発生している状態等を区別することも可能である。実際にどのような状態で警告するか(順列エントロピーのしきい値をどのように設定するか)は、診断の対象となる設備の用途、障害の影響、又は経済的な特性などを考慮して選択する。
【0076】
図8に戻って、設備診断システム1の各部の作用を説明する。データ取得部21は、診断対象の設備の状態を示す時系列データを収集し、データ保持部5に収集時系列データ51として記憶する。時系列データとしては、例えば、温度、流量、液面レベル、圧力、回転速度、変位、音響、振動などである。時系列データは各種のセンサ(図示せず)から、適当な周期でサンプリングして入力される。
【0077】
埋込ベクトル生成部22は、時系列データから前述の埋め込みベクトルr(ti)を生成する。埋め込みベクトルの次元nと時差Δtは、時系列データの特性に合わせて予め設定しておく。埋込ベクトル生成部22は、生成した埋め込みベクトルの集合をデータ保持部5に記憶する(埋め込みベクトルデータ52)。
【0078】
実現度数演算部28は、埋め込みベクトルの要素の大小関係で要素に順序をつけ、所定の時間の全ての埋め込みベクトルについて、同じ順序を有する埋め込みベクトルの個数を集計する。集計された順列の実現度数をデータ保持部5に記憶する(順列実現度数データ55)。
【0079】
順列エントロピー演算部29は、順列実現度数55から相対実現度数に変換し、順列エントロピーを計算する。さらに、式(7)のh*(n)を計算する。順列エントロピーH(n)又はh*(n)をデータ保持部5に記憶する(順列エントロピーデータ56)。
【0080】
平均処理部30は、複数の所定の時間の時系列データから計算された順列エントロピーH(n)又はh*(n)を平均する。順列エントロピーH(n)又はh*(n)の移動平均としてもよい。所定の時間の時系列データが充分長い場合は、平均処理はなくてもよい。
【0081】
順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値は故障判定部26に入力される。故障判定部26では、所定のしきい値と順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値を比較し、順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値がしきい値を超えて変化した場合に、対象設備が警告すべき状態であると判定する。
【0082】
前述のとおり、正常状態における順列エントロピーが確率論的である場合には、順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値がしきい値より小さくなったときに警告すべき状態であると判定する。また、正常状態における順列エントロピーが決定論的である場合には、順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値がしきい値より大きくなったときに警告すべき状態であると判定する。
【0083】
表示処理部27は、例えば、順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値の推移、及び故障判定結果を表示装置7に表示する。また、同時にプリンタ装置8に印字出力する。表示処理部27では、時系列データ、順列エントロピーH(n)又はh*(n)を合わせて表示させてもよい。警告すべき状態と判断された場合は、ライトを点滅させたり、ブザーを鳴動させるなどの警報表示を行ってもよい。
【0084】
実施の形態2においても、設備診断システム1の物理的構成は実施の形態1と同様である。設備診断システム1は、例えば、図2の物理的な構成のブロック図で示される。データ取得部21、埋込ベクトル生成部22、実現度数演算部28、順列エントロピー演算部29、平均処理部30、故障判定部26及び表示処理部27は、制御部11とその上で実行されるプログラムで実現される。
【0085】
実施の形態2の設備診断システム1についても、例えば図3のコンプレッサー3を診断の対象とする場合として、設備診断システム1の構成が示される。コンプレッサー3の音を入力するマイク2が設備診断システム1に接続されている。設備診断システム1は、マイク2から入力される音響信号をある周期でサンプリングして収集し、時系列データとする。
【0086】
コンプレッサー3が定常運転しているとすると、音響信号の時系列データは正常な場合に確率論的であると考えられる。したがって、音響信号の時系列データから算出される縦列エントロピーが、あるしきい値より小さくなったときに、コンプレッサー3が警告すべき状態、例えば、故障したと判断できる。
【0087】
つぎに、決定論性を表す値として順列エントロピーを用いる場合の設備診断システム1の動作について説明する。なお、前述のように、設備診断システム1の動作は、制御部11が主記憶部12、外部記憶部13、操作部14、画面表示部15、印字出力部16及び送受信部17と協働して行う。
【0088】
図9は、順列エントロピーを用いる設備診断の動作の一例を示すフローチャートである。まず、診断対象となる設備の状態を示す時系列データを入力する(ステップC1)。図3のコンプレッサー3の例でいえば、マイク2から入力される音響信号をある周期でサンプリングして収集し、時系列データとする。
【0089】
収集された時系列データから、設定されている埋め込み次元nと時差Δtで、埋め込みベクトルr(t)を生成する(ステップC2)。埋め込みベクトルの要素の大小関係で要素に順序をつけ、所定の時間の全ての埋め込みベクトルについて、同じ順序を有する埋め込みベクトルの個数を実現度数として集計する(ステップC3)。
【0090】
順列の実現度数から相対実現度数に変換し、順列エントロピーを計算する(ステップC4)。さらに、式(7)のh*(n)を計算する。そして、複数の所定の時間の時系列データから計算された順列エントロピーH(n)又はh*(n)を平均する(ステップC5)。前述のとおり、平均処理は省略してもよい。
【0091】
順列エントロピーH(n)又はh*(n)の平均値から故障を判定する(ステップC6)。故障判定の動作については、実施の形態1と同様であり、図5にフローチャートの一例が示される。実施の形態2では、並進誤差に代わって順列エントロピーH(n)又はh*(n)になるだけなので、故障判定動作の説明を省略する。
【0092】
図9のフローチャートに戻って、故障判定の結果、故障と判定された場合は(ステップC7;Yes)、設備が故障であることを表示装置7に表示する(ステップC8)。また、同時にプリンタ装置8に印字出力してもよい。故障と判定されなかった場合は(ステップC7;No)、故障であることを表示しない。なお、判定値が正常な値から故障判定のしきい値に近づく傾向にある場合に、点検整備を促す警報を表示するようにしてもよい。
【0093】
(実施例2)
図10は、コンプレッサー3の音データの順列エントロピーの例を示すグラフである。埋め込み次元を横軸に、正規化された順列エントロピーh*(n)を縦軸にとって、埋め込み次元を変えて図6のベアリング交換前とベアリング交換後の音響信号について順列エントロピーを計算した結果を示す。いずれも、時差Δtは5サンプリング周期である。図7のAはベアリング交換後(After)の音響信号についての正規化された順列エントロピーh*(n)、Bはベアリング交換前(Before)の音響信号についての正規化された順列エントロピーh*(n)である。
【0094】
埋め込み次元が小さい範囲では、AとBの違いは小さいが、埋め込み次元が6から8の範囲ではAとBの違いは明らかである。適当なしきい値を設定して、順列エントロピーH(n)又はh*(n)がしきい値より大きい場合は正常、順列エントロピーH(n)又はh*(n)がしきい値以下の場合は故障と判断することができる。この例では、埋め込み次元を6又は7にすることが望ましい。
【0095】
図10において、埋め込み次元が9以上の範囲でAとBの差が小さくなり、両者とも小さい値になっているのは、所定の時間の時系列データに対して埋め込み次元が大きく、埋め込みベクトルの数が充分とれないためである。埋め込み次元又は時差を大きくする場合は、生成される埋め込みベクトルの数が相対的に少なくなり、発生しうる順列の数(n!)が多くなるので、所定の時間を長くとって時系列データの数を充分大きくする必要がある。
【0096】
本発明の設備診断方法及び設備診断システム1によれば、一見して異なる時系列データでパワースペクトルが同じになるようなデータでも、時系列データの背後にある決定論的構造を定量化し、時間遅れ座標変換により時系列データから位相空間における軌道を再構成することによって、正常時と故障時の時系列データの違いを定量的に表現できる。そして、比較的少ないデータ数でも精度の高い設備診断ができる。
【0097】
(実施の形態の応用)
図11は、半導体製造装置を診断の対象とする場合の設備診断システム1の構成の例を示す。図11の半導体製造装置は、半導体基板の洗浄装置を含むメッキ処理装置4である。
【0098】
メッキ処理装置4は、カセットステーション41と、処理ステーション42とから構成される。カセットステーション41は、外部からウェハカセット単位で供給されるウェハをカセット43からメッキ処理装置4に搬入し、または、メッキ処理後のウェハをメッキ処理装置4からカセット43に搬出する。
【0099】
カセットステーション41には、カセット戴置台44が設けられ、メッキ処理されるウェハを収納したウェハカセット43が外部から供給される。また、カセット戴置台44では、メッキ処理されたウェハが搬出用のカセット43に収納される。
【0100】
上述したカセット戴置台44でのウェハの搬送は、搬送機構45によって行われる。搬送機構45は、カセット戴置台44上に複数戴置されたウェハカセット43にアクセス可能なように、x軸方向(紙面に垂直な方向)に移動可能であり、かつ、z軸方向に昇降可能である。また、処理ステーション42からカセット戴置台44へウェハを搬送できるように、z軸を中心として回転可能である。搬送機構45はx軸方向及びz軸方向の変位を検出する変位センサ及び加速度センサを備える。また、z軸周りの回転角度を検出する回転センサ及び加速度センサを備える。
【0101】
なお、カセットステーション41及び処理ステーション42には、清浄空気のダウンフローによって内部の雰囲気は清浄に保たれている。メッキ処理装置4は雰囲気の状態を一定に保つために、温湿度センサと風速センサを備える。
【0102】
処理ステーション42は、ウェハに一枚ずつメッキ処理を行うメッキ処理ユニット46およびメッキ処理後の洗浄と乾燥を行う洗浄乾燥ユニット47を、それぞれ複数台、所定の位置に備える。
【0103】
メッキ処理ユニット46では、シード層が形成されたウェハにメッキ処理が施され、例えば、ウェハ上にCu薄膜が形成される。メッキ処理装置4では、溶液の温度を検出する温度センサ、薬液の流量を制御するために液体流量センサを備える。また、溶液の液面を感知するための光ファイバセンサ、薬液ポンプ用の圧力センサ又は加速度センサを備える。
【0104】
洗浄乾燥ユニット47では、メッキ処理されたウェハの表面、裏面および周縁を薬液、純水等の洗浄液で洗浄し、洗浄後、Nパージ下でウェハを高速回転させて、ウェハの乾燥を行う。洗浄乾燥ユニット47には、薬液の温度調整用の温度センサ、液体流量センサ、液面感知用の光ファイバセンサ、薬液ポンプ用の圧力センサ、ウェハの回転速度を検出する回転センサとしてエンコーダなどを備える。
【0105】
前述の変位センサ、回転センサ、加速度センサ、温湿度センサ、風速センサ、温度センサ、液体流量センサ、光ファイバセンサ及び圧力センサは、半導体製造装置としてのメッキ処理装置4を制御するために、それぞれ制御装置に接続されている。同時にそれらの各センサの出力を分岐して、設備診断システム1に入力する。
【0106】
各センサの出力を送信する装置を用いて、ネットワークを介して設備診断システム1に接続してもよい。ネットワークを介して設備診断システム1を接続することにより、1台の設備診断システム1で複数の設備の故障診断を行うことができる。また、遠隔地から設備の故障診断を行うことができる。
【0107】
設備診断システム1は、各センサから入力する信号を時系列データとして、決定論性を表す値である並進誤差又は順列エントロピーを計算し、それらの値がしきい値を超えて変化した場合に、対象となっているユニットが警告すべき状態であると判断する。
【0108】
例えば、温度センサ、温湿度センサ、風速センサ、光ファイバセンサ、ウェハの高速回転用の回転センサなどでは、一定の値に保つように制御されるので、その出力の変動は確率論的であると考えられる。それらの時系列データが決定論的になったとき、すなわち、並進誤差又は順列エントロピーがしきい値以下になったときに、警告すべき状態であると判断できる。
【0109】
また、例えば、搬送機構の変位センサ、回転センサ及び加速度センサ、薬液ポンプ用の圧力センサなどでは、動作中の動きを検出するので、その場合の時系列データは決定論的であると考えられる。それらの時系列データが確率論的な傾向になったとき、すなわち並進誤差又は順列エントロピーがしきい値以上になったときに、搬送機構や薬液ポンプが警告すべき状態であると判断できる。
【0110】
以上説明したとおり、本発明の設備診断システム1によれば、例えば図11の半導体製造装置などのように、故障診断のための特別なセンサを設ける必要がなく、設備の制御に用いられているセンサの出力から時系列データを入力して解析することにより、設備診断を行うことができる。また、設備の動作状態において警告すべき状態であるかどうかの診断を行うことができる。
【0111】
その他、前記のハードウエア構成は一例であり、任意に変更及び修正が可能である。
【0112】
制御部11、主記憶部12、外部記憶部13、操作部14、画面表示部15、印字出力部16、送受信部17、内部バス10などから構成される設備診断処理を行う中心となる部分は、専用のシステムによらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。たとえば、前記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、コンピュータが読み取り可能な記録媒体(フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM等)に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、前記の処理を実行する設備診断システム1を構成してもよい。また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することで設備診断システム1を構成してもよい。
【0113】
また、設備診断システム1の機能を、OS(オペレーティングシステム)とアプリケーションプログラムの分担、またはOSとアプリケーションプログラムとの協働により実現する場合などには、アプリケーションプログラム部分のみを記録媒体や記憶装置に格納してもよい。
【0114】
また、搬送波にコンピュータプログラムを重畳し、通信ネットワークを介して配信することも可能である。たとえば、通信ネットワーク上の掲示板(BBS, Bulletin Board System)に前記コンピュータプログラムを掲示し、ネットワークを介して前記コンピュータプログラムを配信してもよい。そして、このコンピュータプログラムを起動し、OSの制御下で、他のアプリケーションプログラムと同様に実行することにより、前記の処理を実行できるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施の形態1に係る設備診断システムの論理的な構成を示すブロック図である。
【図2】設備診断システムの物理的な構成の一例を示すブロック図である。
【図3】コンプレッサーを診断の対象とする場合の設備診断システムの構成の例を示す図である。
【図4】並進誤差を用いる設備診断の動作の一例を示すフローチャートである。
【図5】故障判定の動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】コンプレッサーの音響信号の時系列データの例を示すグラフである。
【図7】コンプレッサーの音データの並進誤差の例を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態2に係る設備診断システムの論理的な構成を示すブロック図である。
【図9】順列エントロピーを用いる設備診断の動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】コンプレッサーの音データの順列エントロピーの例を示すグラフである。
【図11】半導体製造装置を診断の対象とする場合の設備診断システムの構成の例を示す図である。
【符号の説明】
【0116】
1 設備診断システム
2 マイク
3 コンプレッサー
4 メッキ処理装置(半導体製造装置)
5 データ保持部
7 表示装置
8 プリンタ装置
10 内部バス
11 制御部
12 主記憶部
13 外部記憶部
14 操作部
15 画面表示部
16 印字出力部
17 送受信部
21 データ取得部
22 埋込ベクトル生成部
23 近接ベクトル抽出部
24 並進誤差演算部
25 中央値演算・平均処理部
26 故障判定部
27 表示処理部
28 実現度数演算部
29 順列エントロピー演算部
30 平均処理部
51 収集時系列データ
52 埋め込みベクトルデータ
53 最近接ベクトルデータ
54 並進誤差データ
55 順列実現度数データ
56 順列エントロピーデータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得ステップと、
前記データ取得ステップで取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データが決定論的であるか確率論的であるかの指標となる決定論性を表す値を算出する決定論性算出ステップと、
前記決定論性算出ステップで算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定ステップと、
を備えることを特徴とする設備診断方法。
【請求項2】
前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される並進誤差であって、
前記決定論性算出ステップは、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込みステップと、
前記埋め込みステップで算出された埋め込みベクトルのうち、ある埋め込みベクトルについて所定の数の最も近接するベクトルを抽出する最近接ベクトル抽出ステップと、
前記最近接ベクトル抽出ステップで抽出した所定の数の最も近接するベクトルの分散である並進誤差を算出する並進誤差算出ステップと、
を含み、
前記警告判定ステップは、
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より大きい場合に、前記並進誤差算出ステップで算出された並進誤差が前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より小さい場合に、前記並進誤差算出ステップで算出された並進誤差が前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の設備診断方法。
【請求項3】
前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される順列エントロピーであって、
前記決定論性算出ステップは、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込みステップと、
前記埋め込みステップで算出された所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルについて、前記埋め込みベクトルの要素の大小関係が有する順序と同じ順序の度数を累計し、前記所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルの数に対する相対実現度数として算出する実現度数算出ステップと、
前記埋め込みベクトルの次元の数の順序からなる全ての順列を確率変数とし、前記実現度数算出ステップで算出された前記相対実現度数を確率分布とするエントロピーである順列エントロピーを算出する順列エントロピー算出ステップと、
を含み、
前記警告判定ステップは、
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きい場合に、前記順列エントロピー算出ステップで算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さい場合に、前記順列エントロピー算出ステップで算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の設備診断方法。
【請求項4】
前記診断の対象となる設備の状態を示す変数が、温度センサ、温湿度センサ、風速センサ、液体流量センサ、光ファイバセンサ、圧力センサ、回転センサ、加速度センサ、音響センサ又は振動センサの時系列データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の設備診断方法。
【請求項5】
前記診断の対象となる設備が回転機を備え、
前記データ取得ステップは、前記設備から音響センサで音響信号を時系列データとして取得し、
前記警告判定ステップは、前記回転機の警告すべき状態を判定する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の設備診断方法。
【請求項6】
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段で取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データが決定論的であるか確率論的であるかの指標となる決定論性を表す値を算出する決定論性算出手段と、
前記決定論性算出手段で算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定手段と、
を備えることを特徴とする設備診断システム。
【請求項7】
前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される並進誤差であって、
前記決定論性算出手段は、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込み手段と、
前記埋め込み手段で算出された埋め込みベクトルのうち、ある埋め込みベクトルについて所定の数の最も近接するベクトルを抽出する最近接ベクトル抽出手段と、
前記最近接ベクトル抽出手段で抽出した所定の数の最も近接するベクトルの分散である並進誤差を算出する並進誤差算出手段と、
を含み、
前記警告判定手段は、
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より大きい場合に、前記並進誤差算出手段で算出された並進誤差が前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記並進誤差が前記所定のしきい値より小さい場合に、前記並進誤差算出手段で算出された並進誤差が前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の設備診断システム。
【請求項8】
前記決定論性を表す値が、前記時系列データから算出される順列エントロピーであって、
前記決定論性算出手段は、
前記時系列データからある次元の埋め込みベクトルを算出する埋め込み手段と、
前記埋め込み手段で算出された所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルについて、前記埋め込みベクトルの要素の大小関係が有する順序と同じ順序の度数を累計し、前記所定の時間における前記時系列データから算出されるすべての前記埋め込みベクトルの数に対する相対実現度数として算出する実現度数算出手段と、
前記埋め込みベクトルの次元の数の順序からなる全ての順列を確率変数とし、前記実現度数算出手段で算出された前記相対実現度数を確率分布とするエントロピーである順列エントロピーを算出する順列エントロピー算出手段と、
を含み、
前記警告判定手段は、
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きい場合に、前記順列エントロピー算出手段で算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定し、又は
前記設備の正常状態における前記順列エントロピーが前記所定のしきい値より小さい場合に、前記順列エントロピー算出手段で算出された順列エントロピーが前記所定のしきい値より大きくなったときに、前記設備が警告すべき状態であると判定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の設備診断システム。
【請求項9】
前記診断の対象となる設備の状態を示す変数が、温度センサ、温湿度センサ、風速センサ、液体流量センサ、光ファイバセンサ、圧力センサ、回転センサ、加速度センサ、音響センサ又は振動センサの時系列データのうち少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の設備診断システム。
【請求項10】
前記診断の対象となる設備が回転機を備え、
前記データ取得手段は、前記設備から音響センサで音響信号を時系列データとして取得し、
前記警告判定手段は、前記回転機の警告すべき状態を判定する、
ことを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の設備診断システム。
【請求項11】
設備の状態を診断するために、コンピュータを、
診断の対象となる設備の状態を示す変数であって、時間と共に変動する時系列データを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段で取得した時系列データから、前記設備における前記時系列データの決定論性を表す値を算出する決定論性算出手段と、
前記決定論性算出手段で算出された決定論性を表す値が、所定のしきい値を超えて変化した場合に、前記設備が警告すべき状態であると判定する警告判定手段、
として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−14679(P2008−14679A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183887(P2006−183887)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】