説明

診断用ゲル組成物、前記診断用ゲル組成物の製造方法

本発明は、診断装置で診断用素子として使用される診断用ゲル組成物に関する。前記診断用ゲル組成物は、式D−Sp−Po(ここで、Dは診断基、Spは親水性スペーサー基及びPoは重合可能な基を表す)を持つ化合物から得られる。本発明の前記診断用ゲル組成物は、約250ナノメートルから1000マイクロメートルの範囲の寸法を有し、約10キロパスカルから約200キロパスカルのヤング率を持つ。本発明はまた、前記診断用ゲル組成物を製造するための方法を提供する。前記方法は、ポロゲン、開始剤及び式D−Sp−Poを持つ化合物を含む組成物を準備し、前記組成物を重合させて重合化組成物を形成し、かつ前記重合化組成物を洗浄して前記診断用ゲル組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には迅速疾患検出を実施するため、より具体的にはチップ上で免疫アッセイを実施するためのマイクロ流体チップ系プラットフォームの開発及び製造に有用な診断用素子のための診断用ゲル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体液流体及びその他の生物由来のサンプルからタンパク質、DNA/RNA及び代謝物を含む検体の検出は、医学的検査、毒物検出及び法医学を含む種々の応用において本質的である。かかる検体の改善されたポイント・オブ・ケア検査は、緊急の世界的な要求の1つである。かかる応用のために設計される現在のシステムは、高コスト、大きさ及び結果が遅いなどの欠点がある。従って、低コストでポータブルであり、容易に扱え、かつ高い検出効率を示すシステムの開発のために満たされるべき大きな要求が存在する。これらのシステムはまた、生物起源のサンプルからの広い範囲の検体を迅速に特定することができるものでなければならない。マイクロ流体ラボ・オン・チップ方法はこの問題を解決するものとして過去数十年にわたり高い評価を受けてきた。マイクロ流体免疫アッセイを用いるタンパク質の測定は、この重要領域の1つであった。マイクロ流体技術はかかる問題を解決するものとして評価されてきたが、これらの多くは、アイデアを研究室レベルから工業レベルに移転できる十分な製造能力が未だに存在しないという弱点を持っている。これらは通常は実験室レベルの技術及び材料を用いるものであるが、これらは標準の工業プロセスとは互換性がなく、また多くの装置の迅速な生産のためにスケールアップするために資するものでもない(非特許文献1)。従って装置の全ての部品が、ここで説明された要求を満たす装置を製造するために開発され適合される必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Becker、H. and C.Gartner、Polymer microfabrication technologies for microfluidic systems.Analytical and Bioanalytical Chemistry、2008.390(1):p.89−111
【非特許文献2】Dendukuri、D.、et al.、Continuous−flow lithography for high−throughput microparticle synthesis.Nat Mater、2006.5(5):p.365−369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、診断装置で診断用素子として使用される診断用ゲル組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの側面で、本発明は診断用ゲルを提供する。本発明の診断用ゲルは、約250ナノメートルから約1000マイクロメートルの寸法、及び約10キロパルカルから約200キロパスカルのヤング率を持つ。前記診断用ゲル組成物は、式D−Sp−Po;を含む化合物から得られる。ここでDは診断基;Spは親水性スパーサー基;及びPoは重合可能性基を表す。
【0006】
他の側面では、本発明は診断用ゲル組成物を製造するための方法を提供する。前記方法は、ポロゲン、開始剤及び式D−Sp−Poを含む組成物を含む組成物を準備し;前記組成物を重合させて重合化組成物を形成し;前記重合化組成物を洗浄して前記診断用ゲル組成物を形成することを含む。
【0007】
さらなる本発明の側面で、本発明の診断用ゲル組成物を含む診断用素子が提供される。
【0008】
さらに本発明の他の側面では、本発明は、本発明の診断用ゲル組成物を含む前記診断用素子を含む診断装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
本発明のこれらの及びその他の構成、構造、側面及び利点は、以下の詳細な説明を添付図面と共に読むことでより理解される。ここで図面中の類似の符号は類似の部品を表す。
【図1】図1は、本発明の1つの側面による1つの例示的診断用素子を図示する。
【図2】図2は、本発明の他の側面による1つの例示的診断装置を図示する。
【図3】図3は、本発明の1つの側面による1以上の保持ポートを持つ他の例示的診断装置を表す。
【図4】図4は、前記保持ポートが直列で接続される、他の例示的診断装置を表す。
【図5】図5は、本発明の1つの側面による診断用ゲルの診断端部へ付着した検体を模式的に表す。
【図6】図6は、本発明の他の側面による検体を保持するための2つの診断端部を示す模式図である。
【図7】図7は、前記診断用素子を製造するための例示的ステップを示すフローチャートである。
【図8】図8は、図7で説明されたプロセスの結果を示す写真であり、前記保持ポートで本発明の診断用ゲルの捕捉を示す。
【図9】図9は、前記診断用素子を製造するための形状化チャンネルを設ける方法のための例示的ステップを示すフローチャートである。
【図10】図10は、前記診断用素子を用いるための方法のための例示的ステップを表すフローチャートである。
【図11】図11は、本発明の1つの側面による多重イムノアッセイのための診断用素子を模式的に表す。
【図12】図12は、本発明の1つの側面による複数の検体を持つ図10の診断用素子を模式的に表す。
【図13】図13は、本発明の1つの側面による蛍光ラベル化第2抗体を持つ図11の診断用素子を模式的に表す。
【図14】図14は、本発明の診断用ゲルの写真である。
【図15】図15は、蛍光体含有タンパク質溶液で処理された本発明の診断用素子の蛍光画像である。
【図16】図16は、蛍光体含有タンパク質溶液で処理されたヒドロゲルの蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
明細書及び特許請求の範囲で使用される、「ひとつの」、「前記」には特に記載されない限り複数を含む。
【0011】
留意すべきことは、以下詳細な説明では、本発明の異なる実施態様で示されていても同一のコンポーネントは同じ参照符号が付される、ということである。留意すべきことは、本発明を明瞭にかつ簡潔に開示するために、図面は必ずしも寸法通りではなく、本発明の特徴は模式的に描かれている、ということである。
【0012】
1つ側面で、本発明は診断用素子及び前記診断用素子を含む診断装置を提供する。本発明の診断装置はまた、当業者により診断チップ又は簡単にチップとして参照され得るものである。本発明の診断用素子は図1に示され、数字10で表される。前記診断用素子は形状化チャンネルを含み、一般に図1で数字12が付される。前記形状化チャンネルは少なくとも1つの保持ポート14を含む。前記保持ポートは、長方形の2次元的表現で示されるが、形状は、限定されるものではないが、台形、正方形、円筒形、立方形など及びそれらの形状の組合せのいかなる形状であってよい。前記形状化チャンネルはさらに入口通路16及び出口通路18を含む。前記入口通路は、本発明の流体及び他の材料が前記保持ポート内に流れ込み、かつ前記出口通路は流体を適切な貯留容器又は収集装置内に流し出すことを可能とする。前記出口及び入口通路幅の比は、前記保持ポート内で前記診断用ゲルを確実に保持するために変更され得る。本発明の前記形状化チャンネルは、一般的に、前記目的で以下説明する目的に適する材料からなる。
【0013】
本発明の前記診断用素子はまた、診断用ゲル20を含む。本発明で好ましく使用される典型的診断用ゲルは、式:D−Sp−Poを持つ化合物を含む組成物から誘導され得る。ここでDは診断基であり;Spは親水性スペーサー基であり;かつPoは重合可能基である。
【0014】
本発明の診断用ゲルを製造するために使用される化合物は、重合可能な基を含む。ここで使用される重合可能な基は、繰り返し単位として当技術分野で知られる、結合連載を形成するために相補的な化学基と反応し得る全ての化学基を意味する。重合可能な基の例はビニール基であり、2つの炭素原子間の二重結合で表される。この基は他のビニール基と反応して炭素−炭素鎖を形成する。他の例示的重合可能な基は、エポキシ基であり、これは他のエポキシ基と反応してアルコキシ鎖を形成する。ここで使用される重合可能な基はまた、1以上の基を含むことも意味する。従って1つの化合物が1以上のビニール基を持つ。複数のかかる化学基が存在する場合、重合の結果、クロスリンクネットワークを形成する。このことは本発明において特に有利である。1つの例示的実施態様では、本発明の診断用ゲルを製造するために使用される化合物は、1つのみの重合可能な基を持つ第1の化合物、及び1以上の重合可能な基を持つ第2の化合物を含み、その重量比はそれぞれ90:10である。他の例示的実施態様では、前記第1及び第2の化合物の重量比は50:50であり、さらに他の例示的実施態様では前記重量比はそれぞれ0:100である。いくつかの例示的実施態様では、重合可能な基はジカルボン酸基である。この基は、例えばジアルコールと反応してポリエステルを形成する。この場合、前記化学基は、カルボン酸基であり、前記相補的化学基はアルコールと考えられる。同様にジカルボン酸及びジアミンもまたポリアミドを形成するために使用され得る。他の例示的重合基には、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリエーテルなどが挙げられる。例えばジカルボン酸とジアルコールの場合、混合物中に、トリカルボン酸又はトリアルコール又はその両方を持つ化合物を含むことが、診断用ゲルを得る前記化合物を形成するために有用となり得る。この場合、ジカルボン酸に対して約10重量%のトリカルボン酸が存在し得る。
【0015】
本発明において有用な前記化合物はまた、式Spで表される親水性スペーサー基を含む。本発明で使用される典型的親水性基には、限定されるものではないが、エーテル、アルコール、グリコール、アミン、エステル、アミド、アルコール、カルボン酸などが挙げられる。これらの基は最終の診断用ゲル組成物中に存在する必要があり、従って前記診断用ゲル形成ステップの際に化学変化を受けてはならず、また化学変化を受ける場合には、他の親水性基へ変換されるものでなければならない。ここで使用される親水性基は、水を吸収することができる全ての基を意味する。親水性基を説明する他の方法は、これらの基が水滴に曝露されると、水と前記材料表面との間の接触角度が、鋭角となる傾向を有する、ことである。特に有用なスペーサー基はエーテル基である。
【0016】
前記化合物はさらに、少なくとも1つの診断端部を含む。ここで使用される診断端部は、あるその他の基を検出するために使用され得る全ての化学基を意味する。例えば、前記診断端部は、特定の種類の細胞または抗原を検出するために使用される抗体であり得る。
【0017】
前記診断用ゲルはここで記載の前記組成物から形成される。1つの実施態様では、前記診断用ゲルは本発明の組成物であって、単一重合性基を含む化合物、スペーサー基及び診断端部を90重量%、及び2つの重合性基を持つ化合物を10重量%含む本発明の組成物を、光に曝露して硬化させて3次元構造を有する構造を形成させ、前記構造の寸法が約100nmから約1000μmの範囲である。寸法には、長さ、幅、高さ、堆積、面積、周縁、円周などが含まれ、寸法の選択は前記構造の形状に依存する。診断用ゲル形成の1つの方法は米国特許出願第2007/0105972A1に開示されている。
【0018】
前記診断用ゲルを製造するために使用される前記組成物はまた、ポロゲンを含む。ポロゲンは、前記組成物に、例えば孔サイズ、孔密度など及びそれらの組合せにつき規定された特徴を持つ孔(ポア)を導入するために添加される外部化合物である。有用なポロゲンは、5ナノメートルから約1000ナノメートルの範囲の既定のサイズを持つ孔を形成することができる化合物である。1つ実施態様では、前記ポロゲンは、炭酸水素ナトリウムであり、他の実施態様では前記ポロゲンは、塩化ナトリウムであり、さらに他の実施態様ではクエン酸である。いくつかの実施態様では、前記ポロゲンは、前記診断用ゲルを製造するために使用される前記化合物中に分散される液体組成物である。いくつかの例には、限定されるものではないが、酢酸、ポリ(エチレン)グリコール−2000、エチレングリコール、グリセロールなどが含まれる。他の実施態様では、前記ポロゲンは、二酸化炭素などの気体流体である。かかる気体流体は、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどの適切な化合物を用いてその場で生成させ得る。いくつかの他の実施態様では、前記気体流体は、吸収剤などの適切な手段を介して前記組成物内部に閉じ込められ得る。
【0019】
前記ポロゲンは、前記診断用ゲルの性能に影響を与えないことが知られる限り、本発明の前記組成物中に残存することができる。この場合、前記診断用ゲルは前記ポロゲンも含む。又は、前記ポロゲンは前見診断用ゲルを適用するステップで洗浄して除かれ得る。前記ポロゲンと前記化合物、及び前記診断用ゲルの製造に含まれるステップの選択は、前記ポロゲンが残存し得るか除去され得るか、又は本発明の前記診断用ゲルを形成するための独立したステップで洗浄除去され得るかどうかを決める。
【0020】
本発明の組成物はさらに、前記重合反応を開始させる開始剤、触媒、連鎖移動剤、抑制剤、禁止剤、例えば強度やゲル化性改善などを与える添加剤、及びその他の有用な成分を含み得る。
【0021】
本発明の診断用ゲルはここで記載された前記組成物を硬化させて形成される。ここで使用される硬化は、少なくとも1つの重合可能な基の重合を意味する。当業者は、前記組成物の重合が、本発明の前記組成物の性質により、直鎖ポリマー、又は分岐ポリマー、又はクロスリンクポリマーネットワークを与える結果となることを理解する。1つの実施態様では、本発明の前記組成物の硬化は、クロスリンクポリマーケットワークを与える結果となり、これを適切な溶媒に曝露させるとクロスリンクゲルを形成する。硬化は有利には光重合方法により、これは前記組成物を適切な波長の光に曝露することである。1つの例示的実施態様では、前記組成物は液体形状で存在し、適切な容器内に流し入れることができる。1つの具体的な実施態様では、前記容器は前記診断用素子の前記保持ポートである。1つの具体的な実施態様では、前記容器は、ここで説明される調製ポートなどの診断装置の個別の部品である。他の実施態様では、前記容器は、本発明の前記診断装置と独立して利用可能な別のゲル形成装置であり、それから形成された前記診断用ゲルが別に集められ前記診断用素子で使用される。硬化は通常、前記組成物を、既定の時間期間の間に形状化マスクを通じて暴露し、前記組成物の曝露された部分のみを硬化させる。硬化をさせるために使用される光は通常紫外線であり、通常は特定の波長、振幅及び強度を持つ紫外線放射光であるが、ガンマ放射線などの他の放射光もまた前記診断用ゲルを形成する化合物を硬化させるために使用され得る。硬化をさせるために必要な時間は前記化合物の性質、光開始剤の量などに依存し、及び約0.5秒から約30秒の範囲である得る。続いて、前記診断用ゲルは適切な溶媒又は洗浄混合物で洗浄されて前記診断用ゲルから前記組成物の未硬化部分を除去する。
【0022】
他の実施態様では、少なくとも1つの重合可能な基を持つモノマーが光への曝露により部分的に硬化される。前記部分的硬化は、完全に硬化させるために必要な時間よりも短い時間、例えば3秒よりも短い時間前記モノマーを光源へ曝露させて実施され得る。又は、部分的硬化はまた、前記モノマーを、完全に硬化させるために使用される光とは異なる強度を持つ光へ曝露させることで実施され得る。さらに、不完全な硬化はまた、前記モノマーの濃度に関して光開始剤のより低い濃度を用いることで実施され得る。続いて、前記本発明の化合物は、診断端部及び重合可能な端部を含む化合物とともに流し入れられる。前記混合物の完全な硬化が、本発明の組成物を、所定の時間間隔の間場合により形状化マスクを介して前記光源にさらに曝露することで実施される。これにより、前記診断端部が前記診断用ゲルの表面に追加されることなる。最終硬化製品はその後必要ならば洗浄ステップの対象とされ得る。
【0023】
又は、重合可能端部と第1の反応基を含む組成物は硬化されて、反応性基を含む重合化材料を形成する。この重合化材料はその後、診断端部と前記重合化材料上の前記反応基と反応することができる共反応基を含む診断分子と反応させ得る。前記重合化材料上の前記反応基と前記診断分子との反応により本発明の前記診断用ゲルが得られる。1つの例示的実施態様では、前記重合化材料上の前記反応基はマレイミド基であり、前記診断分子上の共反応基はスルフヒドリル基である。
【0024】
前記本発明の組成物はすでに、内部に含まれる孔を含み得る。これらの孔はまた、当業者により、空隙容積又は空隙孔として参照され得る。これらの孔は一般的に、2つのクロスリンク点の間の平均距離とみなされる。前記洗浄ステップはまた、前記診断用ゲルから前記ポロゲンを洗浄除去して、前記診断用ゲル内に孔を残す。前記孔のサイズは、前記洗浄ステップの前に存在したポロゲンのサイズに直接対応するものである。又は、前記ポロゲンは、前記診断用ゲル内に孔を形成する一方で、本発明の診断用ゲル内に残されてもよい。他の実施態様では、異なる光源からの干渉パターンが、本発明の診断組成物内に孔を導入するために使用され得る。これはJangらのAngew Chem.2007に記載されている。この技術は前記組成物中のポロゲンの必要性を取り除く。
【0025】
前記形成された診断用ゲルは、約250ナノメートルから約1000マイクロメートルの範囲の寸法を持つ。ここで使用される寸法は、全ての所定の立体形状の標準測定特徴を意味し、限定されるものではないが、長さ、幅、高さ、対角線長さ、周辺、直径、半径又はその組合せなどを含む。この診断用ゲルはまた、孔のサイズでも特徴づけられる。本発明で使用される孔サイズは、一般的に約5ナノメートルから約1000ナノメートルの範囲である。本発明の診断用ゲルはまた、ヤング率でも特徴付けられる。ヤング率の測定方法は当該技術分野に知られており、ヤング率の測定に使用される1例示的装置は精密万能試験機(Universal Testing Machine)であり、ヤング率を評価するために応力ひずみ間線図を用いる。
【0026】
前記のとおり、前記診断用ゲルは以前のステップで形成され、その後集められて別に精製され、化学的に変成され及びその後適切な流体液体で流すことにより前記形状化チャンネル内に導入される。さらなる別の実施態様で、前記診断用ゲルが前記形状化チャンネルの別の区分内で形成され、その後前記保持ポート内に流し入れられることができる。さらに他の実施態様では、前記組成物は前記保持ポート内に流し入れられ、及び前記診断用ゲルはここで記載される方法を用いて前記保持ポート内で形成される。本発明の組成物の流れは、当業者に知られた適切な流し入れ技術で実施され得る。又は、本発明の組成物の液滴は前記組成物を既に流れている非混和性第2の液体内に流し入れることで形成され、ここで前記組成物は、前記第2の液体の流れ方向に関して垂直角で前記第2の液体中に流される。いかなる理論にも束縛されるものではなく、前記液滴のサイズ及び形状は、一般的に、前記組成物の粘性、前記第2の液体による剪断速度、チャンネル形状及びその他のファクタに依存することが知られている。これらの液滴はその後前記保持ポート内又は前記形状化チャンネルの別の区分内で硬化され得る。いくつかのファクタが、本発明の前記診断用ゲル又は組成物が前記保持ポート内に包埋されることを確実にするために考慮される。いかなる理論に束縛されるものではなく、本発明の診断用ゲル又は組成物の保持ポート内への流れ入れ性及び包埋可能性は:前記診断用ゲルのサイズ;前記診断用ゲル又は組成物の前記ヤング率;前記流体流れの粘性;前記流体流れの流速;前記形状化チャンネルを形成する材料のヤング率;温度;前記入口通路の寸法;前記出口通路の寸法;前記診断用ゲル又は前記組成物の圧縮ファクタ;所定に表面領域での真空などの圧力など、に比例する。前記診断用ゲル又は前記組成物が前記保持ポートへ流れそこに包埋され得るにはその他の多くのファクタがあり得る。
【0027】
従って1つの実施態様では、前記形状化チャンネルは低ヤング率を持つ軟材料から形成され、かつ前記診断用ゲルは非常に硬い。前記形状化チャンネルを製造するために使用され得る軟材料の例としてPDMSが挙げられる。この場合、流れる間前記軟形状化チャンネルは変形して前記診断用ゲルが前記保持ポート内に流れることを可能とする。他の実施態様では、前記形状化チャンネルは剛性の硬い材料から形成される。硬い剛性材料の例は、ポリ(メチルメタクリレート)であり、種々の商品名で市販されており、例えば、プレキシグラス(Plexiglass)(R)、ガブリエリ(Gavrieli)(R)、ビトロフレックス(Vitroflex)(R)、リマクリル(Limacryl)(R)、Rーキャスト(R−Cast)(R)、パークラックス(Per−Clax)(R)、パースペックス(Perspex)(R)、プラズクリル(Plazcryl)(R)、アクリレックス(Acrylex)(R)、アクリライト(Acrylite)(R)、アクリプラスト(Acrylplast)(R)、アルツグラス(Altuglas)(R)、ポリキャスト(Polycast)(R)、オログラス(Oroglass)(R)、オプチックス(Optix)(R)及びルーサイト(Lucite)(R)などが挙げられる。この応用で使用可能な他の材料は、環状オレフィンコポリマーであり、例えば市販品としてPolyplastics社のトーパス(Topas)(R)が挙げられる。この場合には、正圧又は負圧が、保持ポートを含むチャンネルを介して前記診断用ゲルを押すか引くために使用され得る。負圧は望ましい位置で真空を適用することで達成され得る。さらに、かかる場合には、前記診断用ゲルは十分に軟性であり、前記入口通路を通って前記保持ポートに入りそこに包埋される間変形することができる。前記ゲルは、前記入口通路幅が前記出口通路幅よりも大きい立体形状を適切な束縛を用いることで前記保持ポートから流れの方向に流れ出ることから防止される。
【0028】
1つの実施態様では、本発明の診断用ゲルのヤング率の有用な値は約1kPaから約200kPaの範囲である。1つの例示的診断用ゲルは、インスリン抗体を付着されたポリ(エチレングリコール)−ジアクリレートから得られ得る。他の例示的実施態様では、前記診断用ゲルは、HIVウイルスに曝露させて生成した抗体に対する抗原を持つゲルから得られるポリ(エチレングリコール)ジアクリレートであり得る。
【0029】
いくつかの実施態様では、前記診断用ゲルは、正及び負圧の適切な使用によりある位置で保持される。正圧が、前記流れをチャンネルを介して押すために使用され、一方で負圧が前記流れをチャンネルを介して遅らせるために使用され得る。負圧は望ましい位置で真空を適用することで達成され得る。従って、前記診断用ゲルは前記チャンネルを通って流され、その後ある望ましい位置に、前記チャンネルの壁を通してその位置に真空を適用することで保持され得る。このことはまた、前記チャンネルの壁がそれを通って真空を適用することに順応し得る材料から成形されること、を意味する。
【0030】
図1を参照すると、本発明の診断用素子はさらに前記入口通路上に第1の凹部22及び前記出口通路に第2の凹部24を含む。前記第1及び第2の凹部は、前記保持ポートがこの2つの凹部の間に位置されるように設けられる。この凹部は、前記入口通路及び出口通路をそのままにして前記保持ポートのみを除去を実施することができるように提供されている。前記診断用ゲルを含み、かつ前記凹部で除去された前記保持ポートはその後種々の診断目的のために使用され得る。1つの例示的実施態様では、前記診断用ゲルは顕微鏡観察の対象となり、顕微鏡的に見える粒子の有無を決定する。他の例示的実施態様では、前記診断用ゲルは所定に抽出方法ステップの対象とされ、前記診断端部に付着するあらゆる外部粒子を抽出する。他の実施態様ではまた、前記診断用ゲルは、定量を目的として適切な波長と知られた強度と振幅の放射線照射の対象とされる。
【0031】
1つの実施態様では、本発明の診断用素子は1以上の診断用ゲルを含み得る。それぞれの診断用ゲルは別々の診断端部を有し、それぞれは1つの特定の基(モイエティを識別する特定の目的のために使用される。それぞれの診断用ゲルは、前記組成の他の側面、同じか異なるスペーサー基及び重合可能な基を持ち得る。当業者は、過度の実験を行うことなく前記診断用ゲルを製造するために前記組成物に含まれる成分の適切な組合せを選択することができる。多重の診断用ゲルが存在することは、単一チップを用いて多重の検査及び診断を可能とし、それに伴う時間及び労力を大きく節約するものである。他の実施態様では、本発明の診断用素子は、空間的に分離された診断端部を持つ診断用ゲルを含むことができ、それぞれの端部は同じ又は異なるものであり得る。かかる診断用ゲルの製造技術は当技術分野に知られており、例えば、(非特許文献2の図4)Dendukuri、D.、Pregibon、D.C.、Collins、J.、Hatton、T.A.and Doyle、P.S.“Continuous Flow Lithography for High−Throughput Microparticle Synthesis”、Nat.Mater.、5、365−369、May 2006である。
【0032】
図2は本発明26の1つの診断装置を示す。前記診断装置は、少なくとも1つの保持ポート12、入口通路16及び出口通路18を含む。便宜上ここでは1つの保持ポートのみが図示目的で示され、診断用ゲル14はここでは示されていない。同様に、前記第1の凹部22及び第2の凹部もここには示されていない。しかしそれらはまた本発明の前記診断装置に存在し得るものである。前記診断装置はまた、少なくとも1つの入口ポート28を含む。前記入口ポートは、適切な流体を前記装置内へ導入するための貯留容器であり得る。前記装置で使用される流体は、分離及び識別のために使用される全ての溶媒を含み得る。前記流体はまた、当技術分野では場合により、移動相として参照される。1つの実施態様では前記装置へ導入される流体はリン酸緩衝液であり得る。前記装置はまた、サンプル導入ポートを含み、ここを通じて分析されるサンプルが前記装置に導入される。前記入口ポートが前記サンプル導入ポートとして使用され得る。又、別のポートが前記装置の意図された適用に基づく目的のために使用され得る。当技術分野では検体として知られる興味対象を含むサンプルは、通常は、前記移動相内の1つの溶液として前記装置内に導入される。通常は前記サンプルは未知濃度である。いくつかの実施態様では、1以上の前記入口ポートはまた、前記診断装置内にサンプルの適切な導入のためのサンプル導入ポートとしての役割を行うことができる。サンプルの導入の通常の方法は、前記サンプルの溶液を注入することを含む。図2に示されるように、1以上の入口ポートが所定の装置に設けられ得る。前記装置は、所定の応用のために必要な数の入口ポートのみを使用することができ、この場合にはその他の入口ポートは前記装置の残り部分と密閉隔離して装置の操作がスムーズに進行することを確実にする。
【0033】
前記装置はさらに入口腕部30を含み、これは前記入口ポートを前記装置の残り部分と接続する。それぞれの入口ポートは1つの入口腕部と関連付けられている。前記装置は、調製ポート32を含む。前記調製ポートは、最終的応用に依存して多くの機能を持ち得る。1つの例示的実施態様では、前記調製ポートは、種々の入口ポートからの流体をよく混合するために移動流体を撹拌する。他の例示的実施態様では、前記調製ポートは前記移動相を脱ガスするために使用される。他の例示的実施態様では、前記調製ポートは、サンプルから1ミクロンの閾値サイズを超える細胞や他の粒子を濾過して除くために使用され得る。前記装置はさらに出口ポート34を含み、これは前記出口通路に接続される。前記出口ポートは、廃液のためのシンクであり得る。又はこれは前記装置を通る全ての流体を回収する貯留容器である。
【0034】
前記流体は通常は、当技術分野で知られる方法を介して前記装置内に流し入れられる。1つの典型的実施態様では、前記流体は前記装置内に、制御可能な流速で定量ポンプを用いて送り込まれる。他の実施態様では、吸引圧を前記装置の出口ポート側に適用して前記流体の流れを可能とする。他の実施態様では、電磁力が前記装置の適切な位置で適用されて、流れを可能とする。流体の流れを可能とする他の方法には、限定されるものではないが、キャリピラリ流れ、音響駆動流れ、遠心力駆動流れ、圧電ポンプなどが挙げられる。1つの例示的実施態様では、本発明の診断用ゲルは、高圧で前記保持ポート内に押し込まれ、及びその後流し込まれた圧力よりも低い圧力を用いて前記保持ポート内部に保持される。この方法により、前記診断用ゲルを、操作の間前記保持ポート内にしっかりと落ち着かせることとなる。
【0035】
1つの例示的実施態様では、前記装置が機能している状態にある場合、前記装置が1つの入口ポートを含み、それを通って前記サンプルが装置内に所定の流速でポンプで送り込まれる。前記サンプルは前記入口腕部を通り、その後前記調製ポートで実質的に濾過される。前記サンプルはその後第1の保持部を通過する。前記第1の保持部は診断用ゲル又はその他の吸収材料、例えばその中に物理的に包埋された蛍光ラベル化検出抗体を含むポリサッカライド系材料を含む。これらの抗体は、特異的検体、例えば前記サンプル中に存在するHIVウイルス誘導抗体に結合し複合体を形成する。この複合体はその後前記診断用ゲルから滲み出てその後下流の前記第2の診断用ゲルに伝達される。前記第2の診断用ゲルは、表面に化学的に結合されかつ対象興味検体に特異的である第1抗体種を含む。そこで、第1抗体−検体−第2抗体の3元複合体が前記第2の診断用ゲルの位置で形成される。検体の残り部分はその後前記出口通路を通って前記出口ポートへ出る。対象興味検体の存在及び濃度は、前記3元複合体から発光される蛍光を試験することで評価され得る。1つの実施態様では、前記検体の吸収された部分を持つ診断用ゲルを、その後前記第1及び第2の凹部で切り離される。この切り離された診断用素子はその後、例えば疾患の広がりの特徴や範囲を決定するために分析対象とされる。他の例示的実施態様では、顕微鏡などの診断用道具が、前記診断装置の1部分として存在する前記診断用素子の分析に使用され、ここで前記診断用道具は、適切な診断を行うために前記診断用素子から適切な距離内に置かれる。
【0036】
前記説明された実施態様の1つの変更例として、前記検体に吸着された本発明の診断用ゲルの診断部分を前記最初の診断用ゲルから適切な溶媒混合物を用いて流すことで分離し、それを続いて、前記検体を含む前記第1の診断端部を吸収して第2の診断用素子を形成することができる異なる診断用ゲルを含む保持ポートへ流し込まれる。
【0037】
図3は、本発明の例示的診断装置を示し、1以上の保持ポートを含み、それぞれ12で示され、それぞれはそれ自体の入口通路16及び出口通路18に関連付けられている。この具体的な実施態様では、前記保持ポートはお互いに平行に接続されている。移動相はそれぞれの保持ポート内に、適切な手段、例えば必要な保持ポート内に流れることを確実にするために吸引又は圧力を適切な位置に適用することで流し込まれる。図4は本発明の他の例示的診断装置を示し、前記装置は1以上の保持ポートを含み、かつそれぞれの保持ポートは他の保持ポートと直列に接続される。便宜上、図3及び図4は、保持ポート内に含まれる診断用ゲルは示されていない。
【0038】
図5は診断用ゲルの機能40を単純化して図示したものである。診断用ゲルは診断端部42を含み、適切な検体44が付着されている。前記診断端部は、検体の1つのタイプに選択的かつ特異的である。従って、前記検体以外の物を含む移動相は前記診断端部を通過し、前記特異的検体は前記診断用ゲルに保持される。図6は、2つの異なる診断用ゲル42が1つの検体44を保持する方法を図示する。かかる図示された方法を利用する1つの典型的例示的状態は、サンドイッチELISAであり、これは前記検体が、2つの異なる相補的診断端部の間に保持されるものである。このような分析の方法は、有利には、1以上の保持ポートを含み前記保持ポートが直列様式で設けられている診断装置を用いて実施され得る。ELISA技術により例示されるように本発明の診断装置を用いて実施され得るその他の知られた技術は、競合ELISA、サンドイッチELISA、化学発光免疫アッセイ、PCR増幅ELISA、ELONA(酵素リンクオリゴヌクレオチドアッセ)、DNAマイクロアッセイなどが挙げられる。
【0039】
診断用ゲルにリンクした検体を含む診断用ゲルの検出は、当技術分野に知られる適切な技術を用いて達成され得る。標準技術には、限定されるものではないが、光学顕微鏡、蛍光、化学発光、電気発光、電位測定、測色、吸収、表面プラズモン共鳴など及びそれらの組合せが挙げられる。
【0040】
他の側面で本発明は、診断素子の製造方法を提供する。診断用素子の製造に関連する方法ステップは図7で示され、一般に数字48で示される。前記方法は形状化チャンネル50の準備のステップが含まれる。前記方法はさらに、前記保持ポート内に前記入口通路を介して診断用ゲル52内に流仕込むステップを含む。前記流れは、移動相などの流体を所定の流速でポンプを用いて生じさせることができ、これは前記入口通路を介して前記保持ポート内に押し込むが前記出口通路は通過させない、適切な圧力を診断用ゲルに適用することである。従って前記診断用ゲルは、ステップ54に示されるように前記保持ポート内に包埋される。他の実施態様では、前記診断用ゲルは前記保持ポート内で形成され、続いて流体を前記保持ポート内に流して前記診断用ゲルに関連しない全ての外部成分を洗浄除去する。前記洗浄ステップはまた、その診断用ゲルとしての機能をよりよく奏するための最大容積とする前記診断用ゲルの膨潤を含み得る。他の実施態様では、診断用ゲルは前記保持ポート内に流され、続いてそれを前記保持ポートの壁に対して適用される真空を適切に使用して、前記保持ポート内に保持される。診断用ゲルを含む診断用素子が、検体への対象とされた後、前記診断用素子はステップ56で示さるように切り取られる。前記切り取りは前記第1及び第2の凹部でなされ得る。又は、診断用素子が前記第1の凹部でのみ切り取られ、従って前記診断用素子を前記出口通路及び可能である限り前記出口ポート及びその他の部分と共に取り出す。
【0041】
図8は、本発明の方法を用いた前記保持ポートにある本発明の診断用ゲルを捕捉する工程で撮影された画像を示す。図8(a)は、前記入口通路16を通って保持ポート12へ入る前の前記調製ポート内の診断用ゲル14を示す。図8(b)は、前記入口通路16を通って前記保持ポート12内へ絞り込まれる前記診断用ゲル14を示す。こ具体的な例で、前記診断用ゲルは、適切な流速での移動相の流れを用いることで前記保持ポート内へ押し込められる。図8(C)は、診断用ゲル14が前記保持ポート12内に閉じ込められたことを示す。診断用ゲルは前記出口通路を通過することはできない。というのは前記出口通路の寸法は、前記診断用ゲルが通過することを補助しないからである。
【0042】
形状化チャンネルを準備するための1つの例示が、図7に示され、また図9には数字50で示される。ここでは前記方法はパターン化されたチャンネルを含むシリコンウェハ58を準備することが含まれる。前記パターン化チャンネルを含むシリコンウェハは、市販原料から入手でき、又は当技術分野で知られた標準の微細加工技術を用いてエッチングやフォトリグラフィを適切に使用する簡便な方法で製造することができる。例示的フォトリソグラフィ方法はホトレジスト材料SU−8を用いることを含む。
【0043】
その後前記方法は、第1の硬化材料60を、ネガの形で硬化可能チャンネルを形成するためにポジ形構造を含むシリコンウェハ上に注ぎ込むことを含む。通常の硬化材料は、高温度又は適切な波長を持つ適切な放射線に曝露することで硬化させ得る材料を含む。硬化可能材料の選択のために使用される具体的な特徴は、硬化可能材料の流動性、硬化条件に曝露させた際の硬化時間、透明性、強度などの硬化材料物の性質などを含む。いくつかの例示的材料には、限定されるものではないが、PDMS、ポリウレタンなどが挙げられる。いくつかの実施態様では、材料の組合せが、前記第1の硬化可能材料として使用され得る。
【0044】
形状化チャンネルの形成方法はさらに、図9で数字62で示される硬化可能材料を硬化させることを含む。硬化は、当技術分野で知られる全ての適切な方法で実施され得る。例示的方法として、加熱、UV放射線への曝露などが挙げられる。硬化により、前記硬化可能材料からパターン化された材料が形成される。続いて図9に数字64で示されるように、前記パターン化材料は前記シリコンウェハから剥がされる。シリコンウェハから剥がされたパターン化された材料は、図9の数字72で示されるように少なくとも1つの表面上に密閉される。1つの例示的実施態様では、前記硬化材料がPDMSの場合、硬化は約60分間加熱することで実施され、それをシリコンウェハから剥がした後、ガラススライド上に可逆的に押し付けて密閉されるか、又はプラズマ活性接着によりガラススライドへ非可逆的に密閉される。
【0045】
他の実施態様では、前記密閉されたチャンネルは、熱可塑性樹脂などの射出成形可能な又は熱エンボス加工可能な材料を射出形成することで準備される。射出形成され得る通常のプラスチックスとしては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリビニルクロリド)、ポリ(メタクリレート)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイミド、環状オレフィンコポリマー(COC)などが挙げられる。かかるプラスチックスは通常は種々の市販品から入手できる。1つの具体的な実施態様では、本発明で使用され得るプラスチックスはポリ(メチルメタクリレート)である。複製されたプラスチック装置はその後、類似のプラスチックの平面シートに適切な結合プロセス、例えば熱結合や接着剤活性化結合などを用いて、完全に閉鎖して装置を形成する。
【0046】
他の側面では、本発明は本発明の診断用素子を用いる方法を提供する。この方法は、図10に模式的に示され、数字76で示される。前記方法は、サンプル78が前記入口通路を通って診断用素子内に流れ込むことを含み、前記診断用素子は、検体診断用素子を与えるための少なくとも1つの診断用ゲルを含む。前記検体診断用素子はその後前記検体に関与する寄与物80を検出するために分析される。本発明の診断装置内に含まれる診断用ゲルの診断端部と検体との間の相互作用の正確な性質は図3及び4に図示されている。
【0047】
多重免疫アッセイのための診断用素子の形成を示す例示的実施態様において、前記診断用素子は次の構成を含む:3つのヒドロゲル84のストリップを含む図11に示され数字82で示される診断用素子であり、これは米国特許出願公報第2007/105972A1に記載される固有のマイクロ流体方法を用いて形成される。即ち、前記方法は、層流を用いてヒドロゲル84の空間的に分離されたストリップを形成し、その後形状化ホトマスクを介して定められた形状を持つ固体ヒドロゲルを形成するためのUV光重合を用いることを含む。ドロゲル84のそれぞれのストリップは、特異的な捕捉抗体86、88及び90を含む。この例示的実施態様では、ヒドロゲルのそれぞれのストリップは約幅100μmであり、200から300μm長さである。
【0048】
図12は、数字92で示される、多重免疫アッセイのための診断用素子の使用を示す。その後自動流体制御が使用され、特定の体液流体をこれらのヒドロゲルストリップ84を含むチップに供給する。前記ヒドロゲルストリップ84には特異的捕捉抗体86、88及び90が含まれ、その後所定の時間の間インキュベートされ得る。前記インキュベートに要する時間間隔は抗体及び抗原、温度、圧力などの物理的特質などに依存し、当業者にとっては容易に決定できるものである。数分間のインキュベートの後、抗体86、88及び90はそれ自体特異的抗体に結合する。前記特異的抗体は図12で数字92、94及び96で表される。続いて洗浄ステップが実施されて、結合していない抗原を洗浄除去する。図13は、数字98で表され、アッセイステップのための診断用素子の調製を示す。このステップでは、図13で数字100で表される蛍光ラベル化された第2の抗体が前記チップ内に流され、数分間インキュベートされ、非結合の蛍光ラベル化抗体を洗浄除去される。前記蛍光ラベル化された第2の抗体は通常はその付加物には非特異的であり、所定のシステムで全ての抗原及び抗体と結合可能なものである。又は、蛍光ラベル化された第2抗体は、特定の抗原又は抗体上の特定の基のみに結合することができるものであり得る。前記蛍光シグナルはその後、お互いのレーンから読み取られ、前記サンプル中に存在するそれぞれの抗原の量が前記蛍光シグナルを用いて導き出される。
【0049】
この種類のアッセイシステムが与える大きな利点は、アッセイを実施するために僅かな血清量(約1μl)のみを必要とする、ということである。蛍光シグナル感度は、使用される検出装置に依存し、場合によりピコモル(10−12M)レベルまで読取可能なものである。前記方法はここでは3つのストリップのみが示されているが、容易に10タンパク質まで拡張することができ、かつそれらのストリップと対抗するタンパク質の配列を用いることでそれ以上にさせ拡張され得る。本発明はまた、特定の領域内の所定の対象粒子の包埋及び位置の一般的問題を解消するものであり、この問題は、Beckerらの、Anal.Bioanal.Chem.(2008)390:89−111に詳しく記載されている。本発明の方法はまた、バルブ、電極内の流れのため、及び特定の領域での細胞などの適切な対象体の位置付けを制御するための技術として使用され得る。
【0050】
実施例
ヒドロゲル形成
次の成分を含む組成物が本発明の診断用ゲルを形成するために使用された:12.3マイクロリッター(μl)のポリエチレン−ジアクリレート−700(PEG−DA−700)(Sigma Aldrichから入手)、0.4μlの光開始剤DAROCUR(R)1173、5ミリグラム(mg)のNaHCO(0.62M)及び87μlのリン酸緩衝生理的食塩水(PBS)。曝露条件:10秒。光強度25〜200mW/cm。H=75マイクロメートル(μm)。W=200−400μm。長方形状マスクが曝露の際に使用された。本発明の診断用ゲルの寸法は次の通りであった:300μm長さ、200μm幅及び75μm厚さ。図14は、数字102で表される、本発明の診断用ゲルの写真を示す。前記ポロゲンで生成される孔はここで明瞭に見ることができる。
【0051】
比較実施例で、以下の成分を部組む組成物がヒドロゲルを形成するために使用された:12.3μlのPEG−DA−700(Sigma Aldrich)、0.4μlのDAROCUR(R)1173光開始剤及び87μlのPBS。比較実施例で作られたヒドロゲルの寸法は、本発明の診断用ゲルの寸法と同じであった。
【0052】
ここで記載された前記実施例からの診断用ゲル及び比較実施例からのヒドロゲルを、100μg/mlのFITCタグ化されたインスリン(150キロドルトンタンパク質を含む発光体)に対する抗体の水溶液と処理された。図15は、数字104で表される、前記発光体含有タンパク質溶液と処理された診断用ゲルの蛍光画像を示す。これから、発光体含有タンパク質は本発明の多孔性診断用ゲルを通過することができ、従前記診断用ゲルの輪郭をぼんやりさせることが、分かる。図16は、発光体含有タンパク質で処理された比較実施例のヒドロゲルを示す。数字106で表されたヒドロゲルは、前記ゲルの暗い色から分かるように前記タンパク質が前記ヒドロゲルを通過できない、ことが示される。
【0053】
前記実施例の多孔性ヒドロゲルはまた、適切な圧力/真空値で前記保持ポート内に押し込まれ得る性質を示した。比較実施例でのヒドロゲルは、NaHCOなしで調製されたものであるが、望むようには前記保持ポート内へ押し込むことができない。
【0054】
装置の製造
装置を、SU−8ほとレジスト((Microchem)でパターン化されたポジ型チャンネルを含むシリコンウェハ上にポリジメチルシロキサン(PDMS、Sylgard(R)184、Dow Corning)を流しこんで作成された。前記PDMS装置の厚さは、常に5mm以上が維持された。装置は、外科メスでPDMSチャンネルから切り出して製造し、入口ポートを作るために生検パンチを用いて1端部に孔を開けた。PDMS装置はその後、ガラススライドへ密閉された。前記ガラススライドは前記チャンネルだけの上、及び前記チャンネルの下に置かれる前記ガラススライドの領域上にPDMSの薄い犠牲層を置いた後にPDMSでスピンコーティングされている。このことは、前記オリゴマーが非プラズマ処理PDMS表面へのみ曝露されることを確実にし、一方で前記装置がなお効果的に密閉されることを確実にする。
【0055】
前記バルブ形状を含むホトマスクはAUTOCAD 2007で設計され、Fineline Imaging(Boulder、CO)から入手した高解像度印刷を用いて印刷された。それぞれのマスクは、投影フォトリソグラフィのために使用される顕微鏡の視野絞り内に挿入された。100WのHBO水銀ランプが、UV光源として使用された。広幅UV励起(11000v2:UV、Chroma)を与えるフィルタ設定が、望ましい波長の光を選択するために使用され、及びコンピュータ制御VCM−D1シャッタドライバにより駆動されたVS25シャッタシステム(Uniblitz)がUV光の特定のパルスを与えるために使用された。使用された通常の曝露時間は100〜1000ミリ秒(ms)であり、圧力は0.1及び1ポンド/平方インチ(psi)であった。装置は、倒立顕微鏡(Ti−S、Nikon)上に置かれ、ゲル構造形成がCCDカメラ (Micropublisher3.3 RTV、Qimaging)を用いて可視化された。
【0056】
マイクロ流体装置の設計及び製造:
マイクロ流体装置の設計は図2に示される。前記マイクロ流体装置は、3つの入口(タンパク質の多重性のための)を持ち、これらは1つのチャンネル及び他の端部で1つの出口を形成するように組み合わされている。前記チャンネル寸法は、5000μm長さ、300μm幅及び75μm高さであった。前記チャンネル幅は、構成領域又は前記ゲルを押し込むための入口通路として呼ばれる1端部でくびれている。前記くびれ部の左側はゲル形成領域、又は調製ポートとされ、多孔性ゲルを形成するために層流理論を用いて多重様式で重合される。前記ゲルは前記くびれ部に押し込まれ、捕捉領域又は保持ポートとされるくびれ部の他の側に捕捉される。異なる幅のくびれ部、即ち200μm、150μm及び100μmを持つ3つの異なる装置が設計された。前記出口チャンネルの幅は、前記くびれ部領域チャンネルの幅の半分であり、即ち100μm、75μm及び50μmである。
【0057】
前記包埋プロセスは2ステップを必要とし−第1のステップがヒドロゲル製造であり及び第2のステップがヒドロゲル捕捉である。ヒドロゲル構造は、既に設計されたストップフローリソグラフィ技術を用いて製造された。ヒドロゲル捕捉のための重要な要求は、前記製造された構造が十分に柔らかでありくびれ部を押し込まれて通過できる、ということである。これを達成するために、マクロポーラスヒドロゲル構造が上で説明した技術を用いて製造された。これらの構造は、必要な機械的性質を示し、それらのそのままのサイズよりも小さいくびれ部チャンネルを通過して流れることを可能とするものである。
【0058】
前記マクロ流体チャンネルを通じる流体の流れは、D771−11BTC−IISシリーズミクロポンプ(Hargraves、USA)により生成される真空及び圧力を両方使うことで制御された。前記ソースをタイゴンチューブを通じてマイクロ流体装置に接続し、流体作用をLabview softwareで制御された、最小化された「Ten Millimeter」セレノイドバルブを用いて自動化した。
【0059】
検出
ヒドロゲルから発光される蛍光シグナルの検出は、Coolsnap EZ CCDカメラ(Photometries、Singapore)を用いて撮影された画像を用いて測定された。それぞれのストリップからのシグナル強度は定量化する前にImageJ softwareを用いて平均化された。
【0060】
ヒドロゲル捕捉への圧力の効果
ヒドロゲルの捕捉は、ある最小閾値圧力(Pmin)が前記構造をその幅よりも小さいチャンネルを通って絞り込まれるためには要求される、という前提に依存する。さらに一度捕捉されると前記粒子は、反対方向に搾り出される前に、ある最大閾値圧力(Pmax)に耐え得る。従って前記製造プロセスにおいて、圧力Pmanが使用され、ここで(Pmin<Pman<Pmax)である。前記アッセイの間、前記使用圧力(Peli)は、前記粒子がそれが入った方向へ絞り出されないようにする必要があり、従ってPeli<Pminである。前記記載された閾値圧力は、ヒドロゲルの機械的性質及び前記チャンネル構造の立体構造の関数となる。これらのパラメータへの前記閾値圧力の定量的依存性を記述する式は、ユーザの知識と熟練度、装置経験及びデータ履歴に基づいて導き出され得る。
【0061】
我々の実施例では、ヒドロゲル構成を形成する試薬の流れのために使用される前記ポートへ正圧が適用され、かつ前記形成されたヒドロゲル構造内に留めるために前記ポートへ負圧が適用された。圧力と真空は、コンピュータ制御セレノイドバルブを用いて交互に適用された。
【0062】
チャンネル数の効果
ここで説明された包埋スキームは、包埋ヒドロゲルを含む多数のチャンネルを製造することに拡張され得る。1つの例では前記PDMSガスケットが使用され、かつ別々のチャンネルで制御されて圧力及び真空が前記ガスケットをそれぞれ閉じかつ開くことが望まれるように適用される。圧力又は真空は、超小型3方向セレノイドバルブ(Pneumadyne)を介して適用され、Labview(TM)で書かれたプログラムを用いて制御された。
【0063】
ここでは本発明の1つの構成のみが示され説明されたが、多くの修正・変更を当業者は想到することができる。従って、理解されるべきことは、添付の特許請求の範囲は、これらの全ての変更・修正などを本発明発明の範囲内に含むように意図されている、ということである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断用ゲル組成物であり、前記組成物が、
約250ナノメートルから約1000マイクロメートルの範囲の寸法を持ち、及びヤング率が約10キロパスカルから約200キロパスカルであり、前記診断用ゲル組成物が、式D−Sp−Po(ここで、Dは診断基、Spは親水性スペーサー基及びPoは重合可能な基を表す)を持つ化合物から得られる、診断用ゲル組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物であり、Dが、ウイルス上の表面抗原に対して前記身体により生成される抗体である、診断用ゲル組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物であり、Spがポリ(エチレングリコール)系基である、診断用ゲル組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物であり、Poがビニール基である、診断用ゲル組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物であり、さらに、約5ナノメートルから約1000ナノメートルの範囲の孔サイズを持つ孔を含む、診断用ゲル組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物であり、Poがビニール基及びSpがポリ(エチレングリコール)系基である、診断用ゲル組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の診断用ゲル組成物を含む診断用素子。
【請求項8】
請求項7に記載の診断用素子を含む診断装置。
【請求項9】
診断用ゲルを製造するための方法であり、前記方法は:
ポロゲン、開始剤及び式D−Sp−Po(ここでDは診断基、Spは親水性スペーサー基、Poは重合可能な基を表す)を持つ化合物を含む組成物を準備し;
前記組成物を重合して重合化組成物を形成し;
前記重合化組成物を洗浄して前記診断用ゲル組成物を形成することを含む、方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であり、前記重合が光重合である、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であり、前記重合がフォトマスクを通じて実施される、方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であり、前記ポロゲンが炭酸水素ナトリウムである、方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であり、前記開始剤は光開始剤である、方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であり、Dは特定の抗原に特異的であるHIV抗体である、方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法であり、Dはアプタマーである、方法。
【請求項16】
請求項9に記載の方法であり、Dはオリゴヌクレオチドである、方法。
【請求項17】
請求項9に記載の方法であり、Spがポリ(エチレングリコール)系基である、方法。
【請求項18】
請求項9に記載の方法であり、Poはビニール基である、方法。
【請求項19】
請求項9に記載の方法であり、さらに前記ポロゲンを洗浄除去することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−515953(P2013−515953A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545457(P2012−545457)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/IB2009/055967
【国際公開番号】WO2011/080537
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512164654)アチラ ラボズ プライベート リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】ACHIRA LABS PVT. LTD.
【住所又は居所原語表記】108/29,29th Main Road,23rd Cross BTM−II,Bangalore 560076 India
【Fターム(参考)】