説明

試料に含まれる化合物を検出するシステムおよび方法

【課題】中性子を用いて試料に含まれる過酸化物および超酸化物を検出する。
【解決手段】試料に含まれる化合物を検出するシステムは、中性子源と、試料に近接して設置された少なくとも1つのガンマ線検出器と、信号プロセッサと、を備える。中性子源は、試料に向けて中性子ビームを送る。ガンマ線検出器は、試料から放出されたガンマ線を収集し、信号プロセッサは、ガンマ線検出器によって収集されたガンマ線に基づいて、試料に含まれる化合物を同定する。同定される化合物は、過酸化物および超酸化物からなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、試料に含まれる化合物を検出する分野に関し、詳しくは、試料中に存在する過酸化物および超酸化物を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化物および超酸化物は、単独では不活性な化学薬品であり得るが、他の化学薬品と混合した場合には、大きな脅威となることがある。過酸化物および超酸化物は、有機物などの他の化学薬品と組み合わせることにより、爆発物を作るために使われることもある。たとえば、過酸化水素とアセトンの混合物は、不安定な爆発反応を生じる可能性がある。アセトンなどの有機物は、数多くの家庭用製品の中にも存在するため、密閉された容器の中にある過酸化物および超酸化物を監視することが、より安全である。反応性の高い領域に存在する多量の酸化剤を検出し、これらの使用を禁止することにより、2つの化学薬品が混合して爆発性の燃料が形成される恐れを大きく低減することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
爆発物を検出するために現在使用されている方法は、小型の中性子源を使用して、窒素の存在を検出することである。試料に含まれる窒素は、爆発物に共通の酸化剤である硝酸塩を生成する可能性がある。中性子が試料に含まれる原子と衝突すると、中性子が原子と反応し、ガンマ線を生成する。試料から生成されるガンマ線のエネルギー、数、および強度を測定して、試料に特定の量の窒素が含まれているかを判定する。必要であれば、試料を取り外して、爆発の可能性について検査してもよい。しかし、窒素を検出するこの技法では、過酸化物および超酸化物を検出することはできない。密閉容器の中に収容されている酸化剤を迅速かつ正確に検出することができれば、航空機、列車、バスなどの乗り物に、爆発性の化学薬品が持ち込まれることを防止できる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
試料に含まれる化合物を検出するシステムが、中性子源と、試料に近接して設置された少なくとも1つのガンマ線検出器と、信号プロセッサと、を含む。中性子源は、試料に向けて中性子ビームを送る。ガンマ線検出器は、試料から放出されたガンマ線を収集し、信号プロセッサは、ガンマ線検出器によって収集されたガンマ線に基づいて、試料内の化合物を同定する。同定される化合物は、過酸化物および超酸化物からなる群から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図1は、試料12に含まれる過酸化物および超酸化物を検出するために使用する検出システム10を概略的に示す。検出システム10は、概して、中性子源14と、シールド16と、ガンマ線検出器18と、ビームダンプ20と、信号プロセッサ22と、を含む。検出システム10により、試料12に含まれる危険な化学薬品を迅速かつ正確に検出することができる。試料12は、たとえば密閉容器に含まれていてもよい。特に、過酸化物および超酸化物は、他の化合物と組み合わせて爆発物を生成することにも使用されるため、過酸化物および超酸化物を検出することは、爆発の可能性を防止することに著しく役立つ。潜在的に危険な過酸化物の例として、過酸化水素や過酸化アセトンなどがあるが、これらに限らない。潜在的に危険な超酸化物の例として、超酸化ナトリウム(sodium superoxide)、超酸化カリウム(potassium superoxide)、超酸化セシウム(cesium superoxide)、超酸化ルビジウム(rubidium superoxide)などがあるが、これらに限らない。図1では、過酸化物および超酸化物を検出することに関して検出システム10を考察しているが、窒素原子も含めて任意の数の化合物または元素を検出するために、検出システム10を使用することができる。
【0006】
中性子源14が、試料12の上流に配置され、試料12の方向に高速中性子を向ける。シールド16は、中性子源14を囲み、放射線が作業員に接近することを最小限に抑え、かつ中性子源14に近接している物体を損傷から守る働きをする。シールド16は、中性子源14から放出される中性子ビーム26を試料12に照準合わせするための開口24を有する。中性子ビーム26は、過酸化物および超酸化物の主な組成元素である水素原子および酸素原子からガンマ線を生成させられるだけの十分なエネルギーで、中性子源14から試料12の方向へ送られる。一実施例において、中性子源14は、少なくとも6メガ電子ボルト(6MeV)よりも大きなエネルギーで、中性子ビーム26を導く。中性子ビーム26が試料12に衝突すると、中性子が試料12に含まれる原子と反応し、試料12に含まれる原子に基づく離散的エネルギーでガンマ線を生成する。中性子源14には、コンパクト中性子源、核融合中性子源、または高速中性子スペクトルを使用する原子炉(nuclear reactor with a fast neutron spectrum)などがあるが、これらに限定しない。
【0007】
試料12の近くに設置されたガンマ線検出器18を使って、中性子ビーム26が試料12に衝突するときに放出されるガンマ線を検出する。ガンマ線検出器18は、中性子ビーム26に含まれる中性子の固有のエネルギーに基づいて試料12によって生成されるガンマ線のエネルギー、数、および強度を測定することができるエネルギー分解能を有する。ガンマ線のエネルギー、数、および強度は、ガンマ線検出器18に集められ、試料12に含まれる水素および酸素の濃度を決定するために使用される。次に、潜在的に危険とされる量よりも高濃度の過酸化物または超酸化物が試料12に含まれているかを判定するために、各ガンマ線のエネルギー比率を測定して比較することができる。一実施例において、ガンマ線検出器18は、高純度ゲルマニウム、テルル化亜鉛カドミウム(cadmium zinc telluride)、およびタリウムでドープされたヨウ化ナトリウム(thallium−doped sodium iodide)などを含み得るが、これらに限定しない。
【0008】
次に、試料12によって生成されたガンマ線の数および強度が、信号プロセッサ22に送られ、記録される。信号プロセッサ22は、各ガンマ線の量、強度、エネルギー、および比率を解析して、試料12の組成元素を同定し、アウトプットをユーザに提供する。ガンマ線検出器18は、試料12に含まれる各原子のエネルギー、数、および強度を測定することができるため、信号プロセッサ22は、過酸化物および超酸化物の存在を、害が少ない他の化合物の存在から区別することができる。この区別ができる理由は、各元素のそれぞれ固有のエネルギーでガンマ線が生成され、生成された各ガンマ線の固有のエネルギーおよび強度をガンマ線検出器18で記録することができ、この記録を信号プロセッサ22で解析することによる。たとえば、2個の水素原子と2個の酸素原子からなる組成の過酸化物の存在を、2個の水素原子と1個の酸素原子からなる組成の水の存在から区別することができる。水と過酸化物とは異なる化学組成を有するので、水が存在する場合には過酸化物と異なる信号が得られる。過酸化物の場合には、水の場合よりも、水素ガンマ線に対する酸素ガンマ線の割合が高くなる。
【0009】
中性子ビーム26が試料12に到達するとき、一部の中性子は試料12に衝突しない。試料12を通過する中性子ビーム26に含まれる中性子は、そのままビームダンプ20に進む。ビームダンプ20は、検出システム10に近接する作業員または他の物体に誤って中性子が衝突することがないようにシールドとして働き、かつ中性子を収集する。
【0010】
図2は、試料12に含まれる過酸化物および超酸化物を検出する方法100のフローチャートを示す。ある試料に含まれる過酸化物または超酸化物を調べようとするとき、中性子源14が、シールド16の開口24を介して、試料12に向けて、中性子ビーム26を放出する(ステップ102)。中性子ビーム26が試料12に衝突すると、中性子が試料12の中に存在する原子と反応して、ガンマ線が放出される。試料12に近接して設置された複数のガンマ線検出器18が、試料12から生成された各ガンマ線を検出する(ステップ104)。一実施例において、ガンマ線検出器18は、試料12から放出された各ガンマ線の種類、数、および強度を測定する。次に、集められた情報がガンマ線検出器18から信号プロセッサ22に送られる。信号プロセッサ22は、この情報を使って、試料12の中に存在する原子の濃度を決定する(ステップ106)。次に、信号プロセッサ22は、試料12の組成を列挙するアウトプットをユーザに提供することができる。試料12に衝突しない中性子ビーム26の中性子があれば、その後にビームダンプ20に収集される。
【0011】
この検出システムは、潜在的に危険な過酸化物および超酸化物などの化合物を、密閉容器に収容されている場合にも検出する。中性子源から、水素原子および酸素原子からガンマ線を放出させられるだけの高いエネルギーで、検査する試料に向けて高速中性子が放出される。中性子ビームから作業員を保護するため、試料に照準合わせされた開口を有するシールドが、中性子源の周りに設置されている。中性子ビームが試料に衝突すると、ガンマ線が放出され、試料に近接して設置された複数のガンマ線検出器によって検出される。ガンマ線検出器は、試料から放出されている各ガンマ線のエネルギー、数、および強度を検出する。各ガンマ線のエネルギー、数、および強度を使用して、試料に含まれる水素原子および酸素原子の量を決定することができる。試料に衝突しない残りの中性子は、試料の下流に設置されたビームダンプの中に収集される。試料に含まれる過酸化物および超酸化物を迅速かつ正確に検出することにより、乗り物に爆発物が持ち込まれる危険性を低減することができる。
【0012】
本発明について、好ましい実施例を参照して記述したが、当業者であれば、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、形態および詳細にいくつかの変更がなされ得ることを理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】試料内の過酸化物および超酸化物を検出するために使用される検出システムの概略図。
【図2】試料内の過酸化物および超酸化物を検出する方法のフローチャート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる化合物を検出するシステムであって、
前記試料の方向へ中性子ビームを向ける中性子源と、
前記試料から放出されたガンマ線を収集するために、前記試料に近接して設置された少なくとも1つのガンマ線検出器と、
前記ガンマ線検出器によって収集された前記ガンマ線から前記試料に含まれる前記化合物を同定する信号プロセッサと、
を備え、
検出すべき前記化合物が、過酸化物および超酸化物からなる群から選択されることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記中性子源の少なくとも一部分を囲むシールドをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記試料の下流に設置されたビームダンプをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
複数のガンマ線検出器をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記中性子ビームが、少なくとも6MeVのエネルギーで前記試料の方向に向けられることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記ガンマ線検出器が、高純度ゲルマニウム結晶検出器であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記ガンマ線検出器が、タリウムでドープしたヨウ化ナトリウム検出器であることを特徴とする請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
試料に含まれる化合物を検出するシステムであって、
少なくとも6MeVのエネルギーで前記試料の方向へ中性子ビームを向ける中性子源と、
前記試料によって生成されたガンマ線を検出するために、前記試料に近接して設置された少なくとも1つのガンマ線検出器と、
前記ガンマ線検出器によって検出された前記ガンマ線を解析する信号プロセッサと、
を備えるシステム。
【請求項9】
前記中性子源から1つの方向に前記中性子ビームを向けるシールドをさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記試料の下流で前記中性子ビームを遮断するように配置されたビームダンプをさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
複数のガンマ線検出器をさらに備えることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記化合物が過酸化物であることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項13】
前記化合物が超酸化物であることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
前記ガンマ線検出器が、高純度ゲルマニウム結晶検出器であることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項15】
前記ガンマ線検出器が、タリウムでドープされたヨウ化ナトリウム検出器であることを特徴とする請求項8に記載のシステム。
【請求項16】
試料に含まれる化合物を検出する方法であって、
前記試料に高速中性子を通過させるステップと、
前記試料から放出されたガンマ線を検出するステップと、
前記試料から放出された前記ガンマ線を解析するステップと、
を含み、
前記高速中性子が、少なくとも6MeVのエネルギーで通過するように線源から放出されることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記ガンマ線を検出するステップが、前記試料から放出されたガンマ線の数を検出することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ガンマ線を検出するステップが、前記試料から放出されたガンマ線の強度を検出することを含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記試料に含まれる検出すべき前記化合物が過酸化物であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記試料に含まれる検出すべき前記化合物が超酸化物であることを特徴とする請求項16に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−150820(P2009−150820A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−330216(P2007−330216)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(507180364)プラット アンド ホイットニー ロケットダイン,インコーポレイテッド (20)
【Fターム(参考)】