説明

試料保持容器、およびテラヘルツ測定装置

【課題】測定データの再現性および精度の向上を図ることができる試料保持容器の提供。
【解決手段】基板205,206は液体試料Sを挟持する一対の収容部材として機能し、それらはベース201およびカバー202により一体に保持される。そして、液体試料Sが保持される凹部205aと大気とを連通する連通路206aを設けたので、毛細管現象により液体試料Sが凹部205aから漏れ出ても、連通路から空気が凹部205aに侵入し基板205が歪むのを防止することができる。その結果、セル内の液体試料Sの厚さを均一に保つことができ、高精度で再現性の良い測定を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ光を用いて液体試料の測定を行う際に使用される試料保持容器、および、その試料保持容器が装着されるテラヘルツ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、テラヘルツパルス光を用いた測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。テラヘルツパルス分光装置では、テラヘルツパルス光を試料に入射させ、その透過光または反射光の電場強度の時間変化を測定してフーリエ変換することにより、各波長に対する電場の振幅強度だけでなく位相情報も得ることができる。すなわち、他の多くの分光法では光の強度を測定していたのに対し、テラヘルツパルス分光では、光の振幅と位相とを直接測定することができる。
【0003】
テラヘルツパルス光により液体試料の測定を行う場合、スペーサを介して配置された一対の窓板の間に液体試料を挟み込んで液体試料セルとし、その液体試料セルをホルダに保持してテラヘルツパルス光を照射するようにしている。Si(シリコン)基板や石英ガラス基板等から成る窓板は、テラヘルツ光の吸収を抑えるためになるべく薄く形成するようにしている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−215495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、テラヘルツパルス光を使用した測定では、正確な位相情報を得るために試料の厚さを均一にする必要がある。しかしながら、従来のセルでは、毛細管現象により窓板とスペーサとの合わせ面から液体試料が漏れ出て、窓板の中央部が凹形状に歪むという問題があった。また、セルをホルダに保持した際に、窓板が歪むという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明による試料保持容器は、テラヘルツパルス光が照射可能な状態で試料を挟持する一対の収容部材と、試料を保持した一対の収容部材を一体に保持する保持部材と、試料が保持される領域と大気とを連通する連通路とを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の試料保持容器において、一対の収容部材が、試料を収容する凹部が形成された第1の部材と、連通路が形成され、第1の部材の凹部およびその周囲領域を覆うように第1の部材に密着して配置される第2の部材とを備えるものである。
請求項3の発明は、請求項1に記載の試料保持容器において、一対の収容部材はそれぞれ平面基板から成り、環状のスペーサプレートを一対の平面基板間に挟持して、試料が挟持される領域を形成するようにしたものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の試料保持容器において、連通路を、収容部材のテラヘルツ光非照射領域に形成したものである。
請求項5の発明による試料保持容器は、テラヘルツパルス光が照射可能な状態で試料を収容する凹部が形成された収容部材と、収容部材の凹部およびその周囲領域を覆うように配置される覆い部材と、覆い部材を収容部材方向に向けて付勢して、覆い部材と収容部材とを一体に保持する保持部材と、保持部材の付勢力を調整する調整部とを備えたことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項5に記載の試料保持容器において、保持部は、収容部材が載置されるベースと、ベースとの係合部が弾性変形することにより覆い部材を収容部材方向へと付勢するカバーとを備え、調整手段は、付勢力に対して反対方向に作用する調整力をカバーに付勢することを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項6に記載の試料保持容器において、カバーは凹凸面が形成された把持部を備え、カバーは、把持部を把持してベースの方向へ付勢することで、係合部が弾性変形してベースに係合することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載の試料保持容器において、一対の収容部材と保持部材との間、または収容部材および覆い部材と保持部材との間のテラヘルツ光非照射領域に、樹脂スペーサを介在させたものである。
請求項9の発明によるテラヘルツ測定装置は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の試料保持容器が装着される装着部と、試料のテラヘルツ光照射領域にテラヘルツパルス光を照射する照射部と、試料を透過または反射したテラヘルツパルス光を検出する検出部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、収容部材や覆い部材の変形が抑えられ、測定データの再現性および精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態について説明する。本発明によるテラヘルツ測定装置の一実施の形態を示す模式図である。図1に示すテラヘルツ測定装置では、試料にテラヘルツパルス光を照射し、試料を透過したテラへルツパルス光の電場強度の時間変化を検出する。そして、検出信号をフーリエ変換することにより、各周波数における振幅情報と位相情報とを得る。
【0009】
なお、ここでは、試料を透過したテラヘルツパルス光を検出する構成となっているが、反射光を検出する構成であっても良い。また、試料としては固体や液体などの種々の物質が供されるが、本実施の形態では、液体試料のように試料保持容器21に収納して観察が行われる場合について説明する。試料保持容器21はテラヘルツ測定装置の装着部22に装着される。
【0010】
テラヘルツ光発生器5は試料に照射するテラヘルツパルス光を発生し、テラヘルツ光検出器8は試料を透過したテラへルツパルス光を検出する。テラヘルツ光発生器5は光スイッチ素子5aとバイアス回路5bとを備えており、レーザ光源1からのレーザパルス光L2がポンプパルス光として入力される。一方、テラヘルツ光検出器8は光スイッチ素子8aとIV変換回路8bとを備えており、レーザ光源1からのレーザパルス光L3がプローブパルス光として入力される。
【0011】
レーザ光源1は、数10フェムト秒のパルス幅を有する近赤外波長領域のレーザパルス光L1を発生するものであり、その繰り返し周波数は数10MHzにおよぶ。レーザ光源1から出射されたレーザパルス光L1は、ビームスプリッタ2により上述したポンプパルス光L2とプローブパルス光L3の二つに分岐される。ビームスプリッタ2を透過したポンプパルス光L2は、ミラー3およびミラー4で反射されてテラへルツ光発生器5に入射する。
【0012】
ポンプパルス光L2がテラへルツ光発生器5の光スイッチ素子5aに入射すると、テラへルツ光発生器5からテラヘルツパルス光L4が出射される。出射したテラヘルツパルス光L4は楕円面鏡6に入射し、楕円面鏡6で集光されて試料Sに照射される。試料Sを透過したテラヘルツパルス光L5は、楕円面鏡7で集光されてテラヘルツ光検出器8に入射する。
【0013】
一方、ビームスプリッタ2で反射されたプローブパルス光L3は、光遅延ユニット10のディレイステージ12に搭載された折り返しミラー11に入射する。プローブパルス光L3は、折り返しミラー11により反射されて折り返された後、ミラー14に反射されてテラへルツ光検出器8の光スイッチ素子8aに照射される。
【0014】
ディレイステージ12は、モーターによりプローブパルス光L3の光軸に沿って精密移動する。ディレイステージ12の位置は、リニアエンコーダ13等の直線移動検出器により精密に計測される。なお、ディレイステージ12は、ステージコントローラ18によって制御される。
【0015】
プローブパルス光L3の光路長は、折り返しミラー11がディレイステージ12で移動されることにより変化する。その結果、テラへルツ光検出器8に照射されるプローブパルス光L3に時間遅延を生じさせることができ、その時間遅延は、光スイッチ素子8aにおけるテラへルツパルス光L5の受信波形の再現に利用される。
【0016】
折り返しミラー11を徐々に移動させることで時間遅延が徐々に変化し、テラへルツ光検出器8からは、繰り返し到来するテラへルツパルス光L5の各遅延時間の時点における電場強度が、電気信号として順次出力される。その結果、テラへルツパルス光L5の電場強度の時系列波形E(t)が計測されることになる。光スイッチ素子8aから出力される電流信号は、IV変換回路8bにより電圧信号に変換され、その電圧信号はAD変換部16でデジタル量に変換され制御演算装置20に入力される。
【0017】
エンコーダカウンタ17は、リニアエンコーダ13からの信号をカウントし、あらかじめ設定した一定移動距離毎にAD変換のトリガーをAD変換部16に対し出力する。また、エンコーダカウンタ17により取得された位置情報も制御演算装置20に入力される。制御演算装置20では、例えば、入力された情報から検出電圧と遅延時間との関係を表すテラへルツ時間波形が算出される。このテラへルツ時間波形は表示装置23に表示される。
【0018】
図2は、試料保持容器21の詳細な構成を示す断面図である。液体試料Sは基板205と基板206との間に形成される隙間に封入される。このような試料封入空間を有する一対の基板205,206は、セルと呼ばれる。基板205,206にはSi(シリコン)基板や石英ガラス等が用いられる。試料保持容器21はこのセルが載置されるベース201と、ベース201に装着されてセルをベースに固定するカバー202と、セルとベース201およびカバー202間に配設される樹脂プレート207とを備えている。
【0019】
樹脂プレート207には、ポリテトラフルオロエチレンなどの樹脂が用いられる。樹脂プレート207は、基板205,206への傷を防ぐために設けられているものであり、測定に影響がないように内径はテラヘルツパルス光照射領域の径よりも大きく設定される。
【0020】
図3はセルを示す図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。基板205には凹部205aが形成されており、この凹部205aに液体試料が注入される。そして、凹部205aに液体試料を注入した後に、基板206を基板205の上面に密着配置する。基板206には、液体試料が封入される領域と外部大気とを連通する連通路206aが形成されている。
【0021】
図3(a),(b)に示す例では、連通路206aとして円形の貫通孔が形成されているが、連通路206aの形状はこれに限らず、例えば、図3(c)に示すように切り欠き206cであっても構わない。ただし、連通路206a,206cは、測定に影響しないように図3(a)のハッチングが施されたテラヘルツパルス光照射領域の外側に形成される。
【0022】
図2に戻って、一対の基板205,206間に液体試料Sが封入されたセルは、ベース201に形成された凹部201a内に載置される。この際、基板205とベース201との間には上述した樹脂プレート207が配置される。図4はベース201を詳細に示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面から見た図、(c)はA−A断面図である。
【0023】
ベース201に形成された凹部201aには、その中央にテラヘルツパルス光が通過する穴201bが形成されている。ベース201の両側面には、耐摩耗性の金属等で形成された係止部203がボルト207により固定されている。カバー202は、この係止部203に係止されてベース201に取り付けられる。
【0024】
その際、係止部203に係合する側面部202bは、図2の破線の状態から実線で示す状態まで弾性変形され、その弾性力によりカバー202がベース201に固定される。係止部203には、カバー202の取付を容易にするための斜面203aが形成されている。カバー202をベース201方向に押すと、側面部202bの下端が斜面203aに当接し、側面部202bが左右に拡げられる。
【0025】
凹部201aの周囲には、取り付けられたカバー202を上方に付勢する調整治具204が複数設けられている。図4に示す例では、3つの調整治具204が凹部201aの中心の回りに120°間隔で設けられている。図4(c)に示すように、調整治具204は、ネジ部204a,バネ204bおよびピン204cを備えている。ネジ部204aには軸方向に沿った凹部が形成されており、バネ204bおよびピン204cはその凹部内に収められている。
【0026】
調整治具204は、ベース201を上下に貫通するネジ穴201cに螺合しており、ネジ部204aを回転することで調整治具204全体を上下方向にスライド移動させることができる。ピン204cはネジ部204aの凹部内を進退自在設けられており、バネ204bの圧縮量に応じた付勢力をカバー202(図2参照)に与える。ネジ部204aを回転して調整治具204をスライドさせることで、バネ204bの圧縮量、すなわちピン204cの上方への付勢力を調整することができる。
【0027】
図5はカバー202の詳細図であり、(a)は平面図、(b)は側面から見た図、(c)はB−B断面図である。カバー202には、テラヘルツパルス光の照射領域を規定する開口202aが形成されている。カバー202は、バネ性を有する金属で形成されている。カバー202の側面部202bは、カバー202をベース201に取り付ける際に把持される部分であり、その表面には凹凸202cが形成されている。側面部202bの下部は内側に折れ曲がっており、先端の幅Wはベース201に設けられた係止部203の幅よりも小さくなっている。そのため、カバー202をベース201に取り付けた際に側面部202bが図2に示すように弾性変形し、ベース201の係止部203に係止される。
【0028】
図6は、液体試料Sを試料保持容器にセッティングする手順を示したものである。図6(a)に示す工程(イ)では、基板205の凹部205aに液体試料Sを注入する。注入後、工程(ロ)において基板206を基板205の上面に載せることでセルが組み上がる。図6(b)の工程(ハ)では、ベース201の凹部201a内に、樹脂プレート207、セル、樹脂プレート207の順にそれぞれ収納する。
【0029】
その後、図6(c)の工程(ニ)では、カバー202をベース201に取り付ける。その際、カバー202の側面部202bを把持してカバー202を押し下げると、側面部202bが弾性変形して押し広げられ、図2に示すようにカバー202がベース201に固定される。側面部202bの把持される部分には、上述したように凹凸202cが形成されているので把持しやすく、カバー202が装着しやすいという効果がある。図2の組み上がった状態では、側面部202bが弾性変形しているため、元の形状に戻ろうとする復元力により、ベース201がカバー202の上面方向に付勢される。すなわち、カバー202の上面が下向き(セル方向)に付勢されることになる。
【0030】
一方、上述したように、調整治具204のピン204cはバネ204bの力により上方に押し上げられている。そのため、調整治具204の調整力(上向きの力)により、樹脂プレート207を介してセルに加わるカバー202の付勢力が減少される。その結果、セルに加わる力が和らげられ、基板206や205が歪むのを防止することができる。なお、カバー202からセルに加わる付勢力の大きさは、調整治具204の位置を上下することにより(図4(c)参照)適切な値に調節することができる。そのため、複数設けられた調整治具204の調整力を各々調整することで、カバー202からの付勢力を均一にすることができる。
【0031】
図8は、従来から知られている試料保持容器の一例を示したものである。ベース100上に樹脂プレート207、基板205,206、樹脂プレート207の順に載置し、開口101aが形成された袋ナット101をベース100に装着する。テラヘルツパルス光は開口101aを介して試料Sに照射される。ベース100の外周には雄ネジが形成されており、袋ナット101の内周面にはベース100の雄ネジに螺合する雌ネジが形成されている。袋ナット101を回転して締め付けることにより、樹脂プレート207を介して基板205,206がベース100と袋ナット101との間に保持される。このような構造の場合、袋ナット101をどの程度締め付けるかが基板205,206の歪み発生に影響するので、測定に慣れていないオペレータにとっては、歪みが生じないように袋ナット101を締め付けるのが難しかった。
【0032】
一方、本実施の形態では、調整治具204の調整力でカバー202の付勢力をほとんどキャンセルすることができるので、セルは小さな力でベース201に固定され、上述したような歪みの発生を防止できる。また、調整治具204の調整力を予め調整しておくことで、液体試料Sを試料保持容器にセッティングする際に、従来のように付勢力により歪みが生じることがない。
【0033】
ところで、本実施の形態では、基板205上に載置される基板206に連通穴206aを形成したが、従来のセルでは、図7(a)に示す基板216のように連通穴が形成されていなかった。セルに注入された液体試料Sは、毛細管現象により基板205,206間の隙間を介して外部に僅かずつ漏れ出る。そのため、従来のセルでは、液体試料Sの漏出により生じる圧力差によって基板216が変形し、液体試料Sの厚さ分布が不均一になるという問題があった。
【0034】
しかしながら、本実施の形態では、図7(b)に示すように、基板206の連通穴206aから空気が凹部205aに侵入できる。そのため、上述したような圧力差が生じず、毛細管現象よる液体試料Sの漏出があっても基板205の変形をほぼ防止することができる。一例を示すと、従来のセルでは光路長の毛細管現象に伴う経時変化が10分間で5μmであったが、連通路206aを設けることにより10分間で1μmの変化量に抑えることができた。なお、連通路206a,206cはテラヘルツパルス光照射領域よりも外側に形成されているので、図7(b)のように液体試料収容領域に気泡が形成されても測定に影響を与えることはない。
【0035】
図9は、試料保持容器の他の例を示したものであり、図8に示す構造の試料保持容器に適用した場合を示す。基板205,206および試料Sから成るセルは、ベース300に形成された凹部300a内に載置される。開口301aが形成された袋ナット301には、調整治具204が設けられている。この例の場合、調整治具204のピン204cが樹脂プレート207に当接することにより、セルが凹部300a内に固定される。なお、袋ナット301は、ベース300と当接するまで締め付けられる。
【0036】
すなわち、袋ナット301の締め付け力には全く関係なく、バネ204bの弾性力だけでセルは固定されることになる。袋ナット301に取り付けられた調整治具204は、ネジ部204aを回転してその位置を上下にスライドすることにより、樹脂プレート207に対するピン204cの付勢力を調整することができる。
【0037】
図3に示したセルでは、一方の基板205に凹部205aを形成してそこに液体試料Sを収容するような構成としたが、図10に示すような構成としても構わない。図10に示すセルでは、基板310にステンレス製のリングプレート311を接着する。そして、リングプレート311の内側の領域に液体試料Sを収容し、基板312をリングプレート311上に載置する。この場合も、基板312には連通路312aが形成されている。図3に示したセルのように薄い基板205に凹部205aを形成する必要がないので、製造コストの低減を図ることができる。
【0038】
なお、リングプレート311は必ずしも接着する必要はないが、使い勝手の良さの点で接着した方が好ましい。また、リングプレート311を接着する場合、接着剤を接触面に塗布するのではなく、図10に示すように外周に塗布して接着するのが好ましい。これは、接着剤の厚みによる光路長の変化を極力抑えるとともに、テラヘルツパルス光による測定を阻害しないようにするためである。
【0039】
以上説明した実施の形態における作用効果をまとめると、以下のようになる。
(1)基板205,206は液体試料Sを挟持する一対の収容部材として機能し、それらはベース201およびカバー202により一体に保持される。そして、液体試料Sが保持される領域と大気とを連通する連通路206aを設けたので、毛細管現象により液体試料Sが凹部205aから漏れ出ても、連通路から空気が凹部205aに侵入し基板205が歪むのを防止することができる。また、連通路206aを、基板206のテラヘルツ光非照射領域に形成することで、測定への影響を排除することができる。
(2)一対の平面状基板310の間にリングプレート311を挟持し、リングプレート311の内側の空間に液体試料Sを保持するようにしても良い。セルをこのような構成とすることで、試料保持容器のコスト低減を図ることができる。
(3)ベース201に調整治具204を設けて、カバー202に上方への力を与えるようにしたので、カバー202による基板206への付勢力が弱まり、基板206の歪みを防止しつつセルを保持することができる。さらに、カバー202に設けられた調整治具204の上下位置が調整できるので、上記付勢力を適切な値に設定することができる。
(4)カバー202の側面部202bの把持される部分に凹凸202cを形成したので、カバー201を弾性変形させてベース201に取り付ける際に、取付がし易くなる。
(5)基板205,206とベース201およびカバー202との間に樹脂プレート207を設けたので、基板205,206に傷が付いたりするのを防止することができる。また、リング形状の樹脂プレート207の内径をテラヘルツ光照射領の径よりも大きくして、樹脂プレート207がテラヘルツ光非照射領域に配置されるようにしたので、測定に影響しない。
【0040】
なお、以上の説明はあくまでも一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明によるテラヘルツ測定装置の一実施の形態を示す模式図である。
【図2】試料保持容器21の詳細な構成を示す断面図である。
【図3】セルを説明する図であり、(a),(c)は平面図、(b)は断面図である。
【図4】ベース201を詳細に示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面から見た図、(c)はA−A断面図である。
【図5】カバー202を詳細に示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面から見た図、(c)はB−B断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、液体試料Sを試料保持容器にセッティングする手順を示す図である。
【図7】毛細管現象による基板の歪みを説明する図であり、(a)は連通路が無い場合、(b)連通路がある場合を示す。
【図8】従来の試料保持容器の一例を示す図である。
【図9】試料保持容器の他の例を示す断面図である。
【図10】セル構造の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1:レーザ光源、5:テラヘルツ光発生器、6,7:楕円面鏡、8:テラヘルツ光検出器、21:試料保持容器、22:装着部、201:ベース、202:カバー、202b:側面部、202c:凹凸、203:係止部、204:調整治具、205,206:基板、205a:凹部、206a,206c:連通路、S:液体試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツパルス光が照射可能な状態で試料を挟持する一対の収容部材と、
前記試料を保持した前記一対の収容部材を一体に保持する保持部材と、
前記試料が保持される領域と大気とを連通する連通路とを備えたことを特徴とする試料保持容器。
【請求項2】
請求項1に記載の試料保持容器において、
前記一対の収容部材は、前記試料を収容する凹部が形成された第1の部材と、前記連通路が形成され、前記第1の部材の凹部およびその周囲領域を覆うように前記第1の部材に密着して配置される第2の部材とを備えることを特徴とする試料保持容器。
【請求項3】
請求項1に記載の試料保持容器において、
前記一対の収容部材はそれぞれ平面基板から成り、
環状のスペーサプレートを前記一対の平面基板間に挟持して、前記試料が挟持される領域を形成することを特徴とする試料保持容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の試料保持容器において、
前記連通路を、前記収容部材のテラヘルツ光非照射領域に形成したことを特徴とする試料保持容器。
【請求項5】
テラヘルツパルス光が照射可能な状態で試料を収容する凹部が形成された収容部材と、
前記収容部材の凹部およびその周囲領域を覆うように配置される覆い部材と、
前記覆い部材を前記収容部材方向に向けて付勢して、前記覆い部材と前記収容部材とを一体に保持する保持部材と、
前記保持部材の付勢力を調整する調整部とを備えたことを特徴とする試料保持容器。
【請求項6】
請求項5に記載の試料保持容器において、
前記保持部は、前記収容部材が載置されるベースと、前記ベースとの係合部が弾性変形することにより前記覆い部材を前記収容部材方向へと付勢するカバーとを備え、
前記調整手段は、前記付勢力に対して反対方向に作用する調整力を前記カバーに付勢することを特徴とする試料保持容器。
【請求項7】
請求項6に記載の試料保持容器において、
前記カバーは凹凸面が形成された把持部を備え、
前記カバーは、前記把持部を把持して前記ベースの方向へ付勢することで、前記係合部が弾性変形して前記ベースに係合することを特徴とする試料保持容器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の試料保持容器において、
前記一対の収容部材と前記保持部材との間、または前記収容部材および前記覆い部材と前記保持部材との間のテラヘルツ光非照射領域に、樹脂スペーサを介在させたことを特徴とする試料保持容器。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の試料保持容器が装着される装着部と、
前記試料のテラヘルツ光照射領域にテラヘルツパルス光を照射する照射部と、
前記試料を透過または反射したテラヘルツパルス光を検出する検出部とを備えることを特徴とするテラヘルツ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−51533(P2008−51533A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225381(P2006−225381)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(592171153)株式会社栃木ニコン (34)
【Fターム(参考)】