説明

試料像形成方法及び荷電粒子線装置

【課題】本発明の目的は、荷電粒子線照射による帯電の影響を回避しつつ、視野ずれの抑制を実現するのに好適な試料像形成方法,荷電粒子線装置の提供にある。
【解決手段】上記目的を達成するために本発明では、試料上に荷電粒子線を走査し、試料から放出された二次信号に基づいて画像を形成する試料像形成方法において、複数回の走査で得られる複数の画像を合成して合成画像を複数形成し、当該複数の合成画像間の位置ずれを補正して画像を合成し、更なる合成画像を形成することを特徴とする試料像形成方法、及びこの方法を実現するための荷電粒子線装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は試料像の形成方法及び荷電粒子線装置に係り、特に、高倍率において像ドリフトの影響を受けない高分解能像、或いは測定対象の正確な寸法値を得るのに好適な試料像の形成方法及び荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡に代表される荷電粒子線装置では、細く収束された荷電粒子線を試料上で走査して試料から所望の情報(例えば試料像)を得る。このような荷電粒子線装置では、年々高分解能化が進んでおり、高分解能化とともに必要とされる観察倍率が高くなっている。また、試料像を得るためのビーム走査方法には、高速走査で得られた複数の画像を積算して最終の目的画像を得る方法と、1回の低速走査(1フレームの画像取り込み時間:40秒から80秒程度)で目的の画像を取得する方法がある。観察倍率が高くなるにつれて、視野のドリフトが取得画像に与える影響が深刻になる。例えば、高速走査で得られた画像信号を画素ごとに積算(フレーム積算)して目的画像を取得する方法においては、画像積算中に試料のチャージアップ等に基づくドリフトがあると、視野のずれた画素を積算することになるため、積算後の目的画像がドリフト方向にぼけてしまう。ドリフトの影響を低減するには、積算フレーム数を減らして積算時間を短くすればよいが、これでは、十分なS/N比が得られなくなってしまう。
【0003】
また、低速走査で画像を取得する方法においては、画像取り込み中にドリフトがあるとドリフト方向に視野が流れるために、画像が変形してしまう。
【0004】
特開昭62−43050号公報(特許文献1)には、ドリフト検出用のパターンを記憶しておき、定期的にこのパターンの画像を取得して記憶したパターンとのずれを検出してビーム照射位置を修正する技術が開示されている。
【0005】
特開平5−290787号公報(特許文献2)には、特定の観察領域への電子線走査に基づいて2枚の画像を取得し、両者のずれ量とずれの方向を特定するためのパターンマッチングを行い、特定されたずれ分だけ画素を移動させて画像の積算を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−43050号公報
【特許文献2】特開平5−290787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開昭62−43050号公報に開示の技術では、観察倍率が数十万倍にもなると、ビーム照射位置の制御精度が不十分になる。例えば20万倍の観察倍率で、1280×960画素の画像を取得しようとすると、1画素の観察視野上(試料上)での大きさが約0.5nmになる。測定対象物の微細化が進むにつれて、さらに高い倍率での測定や評価が必要になっているが、このような状況では、画像を複数積算して最終画像を形成する装置に適用したときに、数nm以下の画像シフト(ドリフト)がフレーム積算時の画像の「ぼけ」として効いてくる。
【0008】
特開昭62−43050号公報に開示の技術は、電子線の走査位置の制御(例えばイメージシフト偏向)によってドリフトを補正し、画像シフトを抑えるものであるが、このような制御による位置補正精度は数nmから数10nmが実用上の限界であり、倍率が数十万倍以上の画像を画素レベルで位置補正(ドリフト補正)することはほとんど不可能に近い。また、ドリフトが安定するまで時間がかかるため、スループットが低下するという問題もある。
【0009】
一方、特開平5−290787号公報に開示の技術は、画像間の画素レベルでの位置補正を可能とした点について一定の評価ができるが、以下のような問題がある。
【0010】
一般的に、画像積算をしていない画像データはS/N比が悪いため、画像間のずれを検出することが難しく、精度の高いずれ補正を行うことが困難である。また、プローブ電流(電子ビーム電流)を大きくすることで二次電子放出量を増加し、S/N比を改善することも考えられるが、帯電しやすい試料の場合、帯電による電子ビームの視野移動によって、異なるタイミングで取得された画像間のずれが更に顕著になり、結果として精度の高いずれ補正を行うことが困難であった。また電子ビームダメージに弱い試料を、大きなビーム電流で照射する場合、試料の破壊や蒸発等の問題もある。
【0011】
本発明の目的は、荷電粒子線照射による帯電の影響を抑制しつつ、高精度に視野ずれの抑制を実現するのに好適な試料像形成方法,荷電粒子線装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明では、試料上に荷電粒子線を走査し、試料から放出された二次信号に基づいて画像を形成する試料像形成方法において、複数回の走査で得られる複数の画像を合成して合成画像を複数形成し、当該複数の合成画像間の位置ずれを補正して画像を合成し、更なる合成画像を形成することを特徴とする試料像形成方法、及びこの方法を実現するための荷電粒子線装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、合成画像を形成し、その上で位置ずれを補正することで、ビーム電流を大きくしなくても、十分なS/N比を有する画像間での位置ずれ検出ができ、精度の高い位置ずれ補正による、フレーム積算時の画像の「ぼけ」の抑制が可能となる。また、本発明の他の目的、及び他の具体的な構成については、発明を実施するための最良の形態の欄で説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を説明するための走査電子顕微鏡の概略構成図である。
【図2】取得した複数の画像の位置ずれを補正して、目的画像を再構築する処理フローを示す図である。
【図3】単純積算で得られた画像と、複数画像取得後に位置ずれを補正して積算した画像を示す図である。
【図4】ビームの照射位置、もしくは試料位置の制御によるドリフト補正と、取得した複数の画像の位置ずれを補正して積算する処理を組み合わせた処理フローを示す図である。
【図5】複数の画像間の位置ずれを補正しながら積算処理を行う概念図である。
【図6】スロー走査で取り込んだ画像のドリフトによる変形を修復するための処理フローを示す図である。
【図7】ドリフトによるスロー走査像の変形を修復する処理の概念図である。
【図8】ライン走査で得られた複数のプロファイルに対して、各プロファイル間の位置ずれを修正して積算する概念図である。
【図9】複数枚取得した画像の測長値からビームダメージを予測することで、ダメージの影響を受けない測長値を算出した例を示す図である。
【図10】目的視野よりも広い領域で複数の画像を取得し、画像間の視野ずれを修正した画像積算後に中央部を目的視野の領域で切り出した例を示す図である。
【図11】取得した複数の画像の中から、異常が検出された画像を除いて、視野ずれを修正して積算した例を示す図である。
【図12】複数の像信号を同時に検出して取得した複数画像の視野ずれを修正して積算した例を示す図である。
【図13】複数の画像に対して、特定の一方向のみの位置ずれを修正して積算した例を示す図である。
【図14】位置ずれ量の検出と補正画像の加算方法を説明するための図である。
【図15】他の補正画像加算方法を説明するための図である。
【図16】像表示装置に表示されるGUI画面の一例を示す図である。
【図17】本発明実施例の電子検出系の一例を示す図である。
【図18】本発明実施例の電子検出系の他の一例を示す図である。
【図19】像表示装置に表示されるGUI画面の他の例を説明するための図である。
【図20】実施例9の原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1は、本発明の一例である走査電子顕微鏡の概略構成図である。陰極1と第一陽極2の間には、コンピュータ40で制御される高圧制御電源20により電圧が印加され、所定のエミッション電流で一次電子線4が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には、コンピュータ40で制御される高圧制御電源20により加速電圧が印加され、陰極1から放出された一次電子線4が加速されて後段のレンズ系に進行する。
【0017】
一次電子線4は、レンズ制御電源21で制御された収束レンズ5で収束され、絞り板8で一次電子線の不要な領域が除去された後に、レンズ制御電源22で制御された収束レンズ6、および対物レンズ制御電源23で制御された対物レンズ7により試料10に微小スポットとして収束される。対物レンズ7は、インレンズ方式,アウトレンズ方式、およびシュノーケル方式(セミインレンズ方式)など、種々の形態をとることができる。また、試料に負の電圧を印加して一次電子線を減速させるリターディング方式も可能である。さらに、各々のレンズは、複数の電極で構成される静電型レンズで構成してもよい。
【0018】
一次電子線4は、走査コイル9により試料10上を二次元的(X−Y方向)に走査される。走査コイル9は、走査コイル制御電源24によって電流が供給される一次電子線の照射により試料10から発生した二次電子等の二次信号12は、対物レンズ7の上部に進行した後、二次信号分離用の直交電磁界発生装置11により、一次電子と分離されて二次信号検出器13に検出される。二次信号検出器13で検出された信号は、信号増幅器14で増幅された後、画像メモリ25に転送されて像表示装置26に試料像として表示される。二次信号検出器は二次電子や反射電子を検出するものであっても、光やX線を検出するものであっても良い。
【0019】
なお、画像メモリ25のメモリ位置に対応したアドレス信号が、コンピュータ40内で生成され、アナログ変換された後に走査コイル制御電源24を経由して、走査コイル9に供給される。X方向のアドレス信号は、例えば画像メモリ25が512×512画素の場合、0から512を繰り返すデジタル信号であり、Y方向のアドレス信号は、X方向のアドレス信号が0から512に到達したときにプラス1される0から512の繰り返しのデジタル信号である。これがアナログ信号に変換される。
【0020】
画像メモリ25のアドレスと一次電子線を走査するための偏向信号のアドレスが対応しているので、画像メモリ25には走査コイル9による一次電子線の偏向領域の二次元像が記録される。なお、画像メモリ25内の信号は、読み出しクロックで同期された読み出しアドレス生成回路(図示せず)で時系列に順次読み出すことができる。アドレスに対応して読み出された信号はアナログ変換され、像表示装置26の輝度変調信号となる。
【0021】
画像メモリ25には、S/N比改善のため画像(画像データ)を重ねて(合成して)記憶する機能が備えられている。例えば8回の二次元走査で得られた画像を重ねて記憶することで、1枚の完成した像を形成する。即ち、1回もしくはそれ以上のX―Y走査単位で形成された画像を合成して最終的な画像を形成する。1枚の完成した像を形成するための画像数(フレーム積算数)は任意に設定可能であり、二次電子発生効率等の条件を鑑みて適正な値が設定される。また複数枚数積算して形成した画像を更に複数枚重ねることで、最終的に取得したい画像を形成することもできる。所望の画像数が記憶された時点、或いはその後に一次電子線のブランキングを実行し、画像メモリへの情報入力を中断するようにしても良い。
【0022】
またフレーム積算数を8に設定した場合に、9枚目の画像が入力される場合には、1枚目の画像は消去され、結果として8枚の画像が残るようなシーケンスを設けても良いし、9枚目の画像が入力されるときに画像メモリに記憶された積算画像に7/8を掛け、これに9枚目の画像を加算するような重み加算平均を行うことも可能である。
【0023】
走査コイル9と同じ位置に2段の偏向コイル51(イメージシフト偏向器)が配置されており、試料10上における一次電子線4の位置(観察視野)を二次元的に制御できる。偏向コイル51は、偏向コイル制御電源31によって制御される。
【0024】
ステージ15は、試料を少なくとも一次電子線と垂直な面内の2方向(X方向,Y方向)に試料10を移動することができる。
【0025】
入力装置42からは、画像の取り込み条件(走査速度,画像積算枚数)や視野補正方式などの指定、および画像の出力や保存などを指定することができる。
【0026】
また本発明実施例装置は、検出された二次電子或いは反射電子等に基づいて、ラインプロファイルを形成する機能を備えている。ラインプロファイルは一次電子線を一次元、或いは二次元走査したときの電子検出量、或いは試料像の輝度情報等に基づいて形成されるものであり、得られたラインプロファイルは、例えば半導体ウェハ上に形成されたパターンの寸法測定等に用いられる。本実施例装置は更に外部装置等に画像データを転送するためのインターフェース41や所定の記憶媒体に画像データを記憶させるための記録装置27を備えることも可能である。
【0027】
なお、図1の説明は制御装置が走査電子顕微鏡と一体、或いはそれに準ずるものとして説明したが、無論それに限られることはなく、走査電子顕微鏡鏡体とは別に設けられた制御プロセッサで以下に説明するような処理を行っても良い。その際には二次信号検出器13で検出される検出信号を制御プロセッサに伝達したり、制御プロセッサから走査電子顕微鏡のレンズや偏向器等に信号を伝達する伝達媒体と、当該伝達媒体経由で伝達される信号を入出力する入出力端子が必要となる。
【0028】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。即ち、以下に説明する本発明実施例は画像プロセッサを備えた走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に採用可能なプログラムの発明としても成立するものである。
【0029】
(実施例1)
TV走査像を積算してS/N比を改善する方法への実施例において、図2の処理フローを以下に詳細に説明する。図5は、図2の処理を模式的に示した図である。
【0030】
第1ステップ(S2001):
入力装置42から、各取り込み画像のフレーム積算数N0と取込み画像の枚数N1を指定する。このとき、最終画像の合計のフレーム積算数はN0×N1枚となる。通常、N0は2枚から8枚程度、N1は10枚から50枚程度とすれば、目的に応じて必要なS/Nを確保することができる。なお、TV走査よりも少し遅い程度のスロー走査で各々の画像を取得する場合には、N0を1枚とすることも可能であり、インターレス方式のTV走査では、2回の走査で1フレームが形成されるため、このような場合、N0を2とすることも可能である。なお、この条件設定は、後の位置ずれ検出を容易にするために、光学条件(電子線の収束条件や走査条件)を固定した状態で、上記複数の試料像を形成することが望ましい。
【0031】
第2ステップ(S2002):
入力装置42から画像取り込み開始が指示されると、同一視野においてフレーム積算数N0の画像をN1枚(F1,F2,...,FN1)を連続して取得する。
【0032】
第3ステップ(S2003):
目的画像F0のメモリ領域にF1を設定する。
【0033】
第4ステップ(S2004):
目的画像F0から先鋭化画像F0aを作る。先鋭化処理としては、画像内のエッジを強調する画像フィルタを用いるなどの手法をとることができる。
【0034】
第5ステップ(S2005):
F2から先鋭化画像F2aを作る。
【0035】
第6ステップ(S2006):
F2の先鋭化画像F2aとF0aとの間の位置ずれを検出する。位置ずれの検出には、画像相関などの演算処理が適用できるが、無論、これに限らず、位置ずれ検出が可能な画像演算法ならば全て適用可能である。
【0036】
第7ステップ(S2007):
第6ステップで検出した視野ずれ量だけ元画像F2の画素をずらして、F0の画像に加算して、これを再び目的画像F0として戻す。
【0037】
第8ステップ(S2008):
F2をF3に置き換えて、第4ステップから第6ステップを繰り返してN1枚の画像全てに対して位置ずれを補正した加算処理を行う。
【0038】
本実施例では、最終的に得られた画像は、N0×N1枚のフレーム積算された画像となるが、ドリフトの影響で画像がぼけるのはN0フレームの積算時だけであるので、直接N0×N1フレームで積算した場合に比較すると、ドリフトによる画像のぼけは1/N1に低減する。このようなシーケンスを設けることによって、試料上のチャージアップ等に基づいて生ずる、異なるタイミングで取得された画像間の二次元像面方向への位置ずれを解消でき、画像の像ぼけを抑制、或いはなくすことができる。
【0039】
この実施例で得られる結果の一例を図3に示す。図3(a)は、通常のフレーム積算で取得した画像(1280×960画素,倍率20万倍)であり、画像積算中のドリフトが累積して、画像の「ぼけ」となって顕著に現れている。図3(b)は、図3(a)の1/10のフレーム積算数の画像を10枚取得し、これら10枚の画像に対して位置ずれを補正しながら積算した像である。図3(b)では、画像のトータルなフレーム積算数は同じだが、各々の積算画像で累積したドリフトだけ最終画像の「ぼけ」となるため、各画像の取り込み時間が1/10と短い分、ドリフトによる像の「ぼけ」も図3(a)の1/10に低減されている。
【0040】
試料の種類や光学条件等に応じてずれ量が変化するので、S/N比に応じてN0とN1を設定することが望ましい。また必要なS/N比を確保するのに必要な走査数(画像数)は、求める画像のクオリティや試料の二次電子発生効率等に基づいて決定されるので、あとはドリフトの程度を考慮してN0とN1を決定しても良い。また、試料の条件(チャージアップのし易さ等)を示すパラメータと、トータルの積算数,フレーム積算数(N0)、或いは取り込み画像枚数(N1)の内、少なくとも1つを入力することによって、他の2つのパラメータを決定するようなシーケンスを組むことも可能である。このような構成によれば、観察に必要なスペックを入力するだけで簡単に装置条件を設定することが可能になる。
【0041】
本実施例では、フレーム積算された画像間の位置ずれを補正しているが、これに限られることはなく任意複数枚のフレーム単位で、或いは任意の取り込み枚数毎に位置ずれ補正を実行するようにしても良い。この際、位置ずれ検出の比較対象となる画像が、ある一定以上のS/N比を持っていないと、ずれ検出精度が低下することが考えられるため、所定のS/N比を確保するに必要な画像数をフレーム積算数(N0)として設定し、その上で最終的な試料像に必要なS/N比を得るための取り込み画像枚数(N1)を設定することが望ましい。
【0042】
本発明においては、位置ずれを補正した後に画像メモリ25に記憶しても良いし、フレーム積算数×取込み画像分のフレームメモリを用意しておき、試料像表示のとき、外部の画像記憶素子への転送のとき、外部記憶素子への転送以前、或いは外部記憶素子において試料像間の位置ずれを補正するようにしても良い。
【0043】
少なくとも、合成像を記憶する画像メモリ,合成処理を施される前の画像を記憶する画像メモリ、及び取り込もうとする画像のための画像メモリを用意しておけば、電子線走査によって次々と取り込まれる画像を順次合成していくことが可能となる。
【0044】
本実施例において、N0,N1の設定を更に容易にするために、特定の試料について、N0とN1の組み合わせ毎に、基準画像を記憶しておき、N0,N1の設定時にこの画像を読み出せるように構成すれば、操作者は適正なN0,N1の設定を、基準画像を参照しつつ行うことが可能になる。
【0045】
ドリフトが速い場合はN0の枚数を減らすことにより、ずれ補正回数を増加し、ドリフトがそれほど早くない場合は、ずれ比較の対象となる画像の画質を向上させるためにN0の枚数を増やすことが望ましい。例えばN0とN1の枚数を適正に設定するための手段として、N0とN1を段階的に調節する手段を設けておくと良い。トータルの積算枚数を50枚と設定した場合に、N0とN1の組み合わせは、1×50,2×25,5×10,10×5,25×2,50×1が考えられるが、これらを調節する手段と、実際に積算された画像を表示する手段を設けておくことにより、操作者は本発明に関する技術を特に意識することなく、合成された画像から適正なN0とN1の設定が可能となる。
【0046】
上記のような調節手段を設けることによって、単にずれ補正を行うだけではなく、N0とN1の組み合わせを変化させると、像質等が変化する場合などに、適正な組み合わせを容易に選択することが可能になる。
【0047】
更にずれ補正の程度を調節する手段を設けておき、“ずれ補正程度大”にしたときは、N1が大きくなるように設定し、“ずれ補正程度小”に設定したときは、N0を小さくするように設定するように構成しても同様の効果を達成することができる。
【0048】
(実施例2)
図4の処理フローについて、以下に詳細に説明する。
【0049】
第1ステップ(S4001):
第2ステップ(S4002):
フレーム積算数N0の画像を2枚連続取得する。
【0050】
第3ステップ(S4003):
取得した2枚の画像から先鋭化画像を作り、画像間の位置ずれを求める。
【0051】
なお、このずれ量が予め定められた許容値を超えた場合には、位置補正積算前の各画像がドリフトによる「ぼけ」を顕著に含んでいるため、ここで処理を中断して、ドリフトが大きすぎることを表示機能により操作者に知らせることが可能である。
【0052】
第4ステップ(S4004):
2枚の画像のずれを補正して加算し、この画像をF0として登録する。
【0053】
第5ステップ(S4005):
S4003の処理で求めた位置ずれをキャンセルする方向に視野を移動する。この場合の移動手段としては、その移動量に応じて、電気的視野移動手段(イメージシフト偏向器)を用いる場合と、ステージを用いる場合の両方が可能である。通常、移動量が小さい場合には、イメージシフトを併用する。移動量が大きい場合にはステージ、或いは必要に応じてイメージシフトを用いる。イメージシフトやステージによって視野ずれをキャンセルすることにより、比較的大きなドリフトがあっても画像間のずれを圧縮できるので、画像処理による位置ずれ補正後の有効視野(画像間で視野が重なる領域)が狭くなる問題点が改善される。
【0054】
第6ステップ(S4006):
次の画像を取得する。
【0055】
第7ステップ(S4007):
取得した画像の先鋭化画像とF0の先鋭化画像を作り、画像間の位置ずれを求める。
【0056】
第8ステップ(S4008):
F0とS4006で取得した画像の位置ずれを補正して加算し、これを新たにF0とす
第9ステップ(S4009):
S4008の処理で求めた位置ずれをキャンセルする方向に視野を移動する。
【0057】
第10ステップ(S4010):
処理S4006からS4009を繰り返して、N1枚の画像の取得と積算を行う。
【0058】
以上のような構成によれば、大きなドリフト成分がステージやビーム偏向により補正され、さらに、画素レベルの微細なドリフトが画像の積算時に補正されるため、比較的大きなドリフトまで有効に補正して高解像度な画像の取得が可能になる。
【0059】
一方で、ドリフトの影響を最小限にするには、位置ずれを補正して積算する各々の画像の取得時間を極限まで短くする必要があるが、その限界は、位置ずれの検出に必要な画像のS/N比で決まる。したがって、ドリフト量がある所定の値を超えると、位置ずれを補正するための各々の画像自体がドリフトでぼけた状態になる。このような結果に至るドリフト量を検出した場合には、高解像度な画像取得が困難な状況であることを表示、或いは測定を中断する手段を設けても良い。これによって明らかに試料像を取得することが困難な状態で、装置を無駄に稼動するという弊害を解消することが可能になる。
【0060】
(実施例3)
図6の処理フローについて、以下に詳細に説明する。
【0061】
第1ステップ(S6001):
ドリフト検出用の第1の画像F1を取得する。
【0062】
第2ステップ(S6001):
所定のスロー走査条件で、目的画像F0を取得する。このようにスロースキャンを行うことによって、速い走査を行う場合と比較して二次電子をより多く発生することができるので、高コントラスト像を得ることができる。
【0063】
第3ステップ(S6001):
ドリフト検出用の第2の画像F2を取得する。
【0064】
第4ステップ(S6001):
F1とF2の画像間のずれ量ΔF(ΔFx,ΔFy)を検出する。
【0065】
第5ステップ(S6001):
画像ずれ量ΔFから目的画像の水平方向と垂直方向の変形量を求める。
【0066】
第6ステップ(S6001):
目的画像F0を変形して新たな画像F0′を構築する。
【0067】
ここで、第5ステップの処理について、図7を用いて以下に詳細に説明する。
【0068】
画像メモリに取り込まれたドリフト検出用の画像F1とF2のずれ量をΔF(ΔFx,ΔFy)とし、画像F1とF2の取り込み時間の差をΔTとすると、X方向とY方向のドリフト速度(Vx,Vy)はそれぞれ、
Vx=ΔFx/ΔT、 Vy=ΔFy/ΔT
で計算される。一方、目的画像F0の取り込み時間をT0とすると、画像F0の走査開始時と走査終了時では、
X方向に ΔF0x=Vx×T0
Y方向に ΔF0y=Vy×T0
だけの視野ずれが発生したことになる。したがって、図7に示すように、ドリフトを補正する方向に、画像メモリ内の目的画像F0をF0x(Y方向)およびΔF0y(X方向)変形させることによりドリフトが発生しないときに得られると予測される画像F0′が復元される。
【0069】
本実施例では、ドリフト検出用の画像F1,F2を目的画像F0の取得をはさんで、その前後に取り込んでいるが、無論、これに限るわけではなく、F0を取り込む前、あるいはF0を取り込んだ後に、F1,F2を連続して取り込むことも可能である。このような場合は、F1とF2の変位から、F0を取得した時点での変形を推測し、その上で予想される画像F0′が復元される。
【0070】
F1,F2,F0の各画像は、それぞれ画像メモリに記憶され、像復元の要否判断に基づいてF1,F2が読み出され、復元処理が行われる。
【0071】
以上のような構成によれば、ドリフトによって変形する観察対象の形状を正確に把握することが可能になる。
【0072】
特に、スロー走査を行う場合には、長時間電子線を試料に照射し続けることになり、試料の帯電にとる試料像変形が顕著になるため、本実施例技術の適用は極めて有効である。なお、本実施例では、ドリフト補正用の画像が2枚、補正を受ける画像が1枚の例について説明したが、これに限られることはなく、任意の枚数を設定することが可能である。
【0073】
また、本実施例装置では、像復元の要否判断を操作者に行わせるべく、図16に示すようにグラフィカルユーザーインターフェース(Graphical User Interface:GUI)上に、像復元の要否を選択する選択肢を設けている。図16は像表示装置上でポインティングデバイス等によって選択を行う例を示したものであるが、これに限られることはなく、公知の他の入力設定手段によって設定できるようにしても良い。
【0074】
電子顕微鏡等の電子線装置を用いる観察には、試料像を高精度に形成するというニーズがある一方で、極力電子線の照射を抑制し試料ダメージを低減するというニーズがある。本発明実施例装置の場合、ドリフトによる試料変形が抑制できれば、試料像を高精度に形成できるが、単にF0の像を形成する場合と異なり、少なくともF1,F2の像を取得するための電子線走査が更に必要となる。即ち電子線走査時間が増えるため、電子線照射に基づく試料ダメージの危険性が増大する。
【0075】
上記選択肢を設けることで、F1,F2を取得する走査を行うモードと行わないモードの切り替えが可能となり、操作者は観察対象の状況、或いは適正な試料像を形成するための条件を鑑みて復元の要否を選択でき、真に操作者が望む条件で試料像を形成することが可能となる。
【0076】
また、変形をどの程度補正したかをグラフ化して登録しておくことで、走査スピードの設定やドリフト補正の要否判断に活用することができる。更に電子線の走査回数や電子線の照射時間に対する補正量や変形量を記憶し表示させるように構成することで、どの程度電子線を走査すれば、試料像が変形するかを把握することが可能になる。
【0077】
(実施例4)
図8を用いて、ドリフト補正技術をラインプロファイルの積算に適用した実施例を説明する。ウェハ上のパターン寸法の測定には、通常、被測定対象となるパターンを電子線でライン走査したときの信号分布(ラインプロファイルを用いる)。試料が絶縁物の場合には、帯電による信号の乱れを防ぐために、高速走査を行うため、一度のライン走査で得られる信号ではプロファイルのS/Nが悪く、再現性の高い測定が困難である。そのため、通常は、複数回の走査で得られる信号分布を積算して、測定対象のプロファイルを形成する。このとき、ライン走査の方向にドリフトが発生していると、積算したラインプロファイルが鈍ってしまうため、測定の精度が低下する。
【0078】
そこで、複数回のライン走査で得られる各々のプロファイルを記憶して、各々のプロファイル間の相関が最も高くなるようにプロファイルの位置補正を行って、プロファイルの積算を行う。この場合、各々の積算前のプロファイルは、1回の走査で取り込んだ信号でも可能だが、走査速度が速い場合には、1回の走査で取り込んだ信号ではS/Nが悪すぎるため、プロファイル間の相関が可能な範囲で最小の回数だけライン走査を単純積算し、これを各々の積算前プロファイルとすることができる。この方法により、ドリフトがあってもプロファイルの鈍りが改善され、かつS/Nの高いプロファイルが生成できるため、再現性の高い測定が可能になる。
【0079】
また図16で説明した設定画面で位置補正の要否を選択できるようにしても良い。更に半導体検査装置等では、位置補正量があるしきい値を超えて、明らかに大きくなるような場合に警報を発したり、またその測定にフラグを立てたりすることにより、測定の信頼性を後に確認することができるようにしても良い。この場合、補正量,積算プロファイル,積算前のプロファイルを記憶したり、二次元走査像に基づいてラインプロファイルを形成した場合は、積算画像や積算前の画像を記憶したりして、後に像表示装置に表示させるようにしても良い。
【0080】
以上のような構成によれば、繰り返しパターンのように同じ素子が隣接しているパターン等で、測定対象を誤って計測してしまったような場合にその確認を容易に行うことができる。
【0081】
特に一次元走査を行ってラインプロファイルを形成する場合には、二次元走査を行う場合と比較して、測定の高速化を測ることができる。その反面、試料画像を参照することによる測定精度の確認を行うことができない。本実施例では、測定の高速化を実現できる一次元走査を行った場合であっても、高精度にラインプロファイルを形成することが可能であり、例えばラインプロファイルに基づいてパターンの測長を行うような装置であっても、高い精度で形成されたラインプロファイルに基づいて、高精度な測長を行うことが可能になる。
【0082】
ラフネスを持つラインパターンのパターン幅を測長する場合に、測長方向とは垂直な方向に、測長範囲を拡大し、その間の異なる複数箇所でラインプロファイルに基づく測長を行う。その上で複数の測長値を平均化したり、拡大された測長範囲内で得られる複数の測長値に基づいて、ラフネスの分散値を計測することが考えられる。この際にも本実施例の適用が可能である。
【0083】
例えば複数の測長個所単位で上記位置補正を伴うラインプロファイル積算を行い、その上で平均値や分散値を計測するようにすれば、高い精度でこれらの結果を得ることが可能になる。
【0084】
測長個所単位で位置補正を行うのではなく、ある基準ラインプロファイルに対し、他の個所のラインプロファイルを位置補正するようにすれば、チャージアップ等で測長個所毎にラインプロファイルがずれるような場合であっても、積算ラインプロファイルを適正に形成でき、正確な測長を行うことができる。このような構成によれば、ラフネスの有無に因らない、半導体素子パターン等の電気的特性の信頼性評価を容易に実現できる。
【0085】
また、複数箇所の測長を行う場合、ある個所の測長値が他の個所と比較して極端に異なるような場合には、ラインパターンの一部が極端に細くなっていたり、測長失敗の可能性もある。この場合、エラーメッセージを出したり、試料画像やラインプロファイルのような測定結果と、その際の測定条件を併せて登録しておき、あとでそのデータを読み出して確認できるようにしても良い。
【0086】
(実施例5)
図9は、同一パターンを複数回測定して、パターン寸法の時間変化から正しい寸法を予測した例を説明するための図である。電子ビームによる測定対象には、電子ビームの照射によってダメージを受けて、収縮したり、蒸発するものがある。この場合、ビーム照射量の増大とともに、パターン寸法が小さくなるため、測定自体が誤差要因になる。
【0087】
測定自体で作られる誤差を予測して正しい寸法を評価するために、同一パターンを複数回測定する。ビーム照射量は測定回数に比例して増大するため、パターンの変形もこれに伴って増大していく。したがって、複数の測定結果から、測定回数(ビーム照射量に比例)と寸法測定値の関係を求めることにより、ビーム照射前或いはビーム照射開始時の収縮前のパターン寸法を予測することが可能になる。本発明実施例装置では、上記の寸法予測を自動的に行うシーケンスが組み込まれている。
【0088】
寸法予測が正確に行われたか否かを後に判定するために、測定回数に対する測定値をグラフ化した表を記憶しておき、後に表示装置や外部出力装置に出力できるようにしても良い。例えば観察対象の収縮と同時にドリフトも発生するような場合は、寸法予測がドリフトの影響によって適正に行われない場合も考えられるので、操作者は先のグラフを参照することで寸法予測が適正なものであったか否かを確認することができる。記憶されるグラフに関連付けてその際に得られた試料像を記憶しておけば、試料像をも参照しつつ寸法予測の適正さを確認することができる。
【0089】
上記グラフが異常な推移を記録したとき、選択的にそのグラフを記憶するか所定のフラグを立てておくようにしても良い。例えば寸法変位の推移を示すグラフに異常な変位が認められた場合は、その際に電子線装置内で何かが発生している可能性があり、寸法予測が適正に行われていない場合がある。その際のグラフや試料像を選択的に確認できるようにすれば、操作者は無駄な確認を行うことなく、効率良く寸法予測の適正さを確認すること
が可能になる。
【0090】
上記本実施例の説明では、グラフの横軸を「測定回数」としたが、これに限られることはなく、例えば「走査回数」や「時間」といったパラメータにしても良い。縦軸も「測定値」に限られることはなく、正常値(設計値)に対する比率を示すものであっても良い。
【0091】
本実施例を半導体パターンの測長等を行う装置に採用するに当たり、測定対象パターンと同等の条件を持つダミーパターンを測定対象パターンの近傍に作成しておくことにより、半導体素子の動作に寄与するパターンを収縮させることなく正確な測長を行うことができる。
【0092】
(実施例6)
図10に、目的画像の画素数よりも多い画素数で画像を取得し、取得画像間の位置ずれを修正する実施例を示す。本実施例では、例えば、目的画像の画素数が512×512画素で構成される場合を示す。この例では、取得画像の画素数1024×1024画素で取得している。位置ずれを修正して目的画像を積算したときに、画像間のずれによって目的画像として使用できない領域が発生する。本実施例では、予め目的画像の画素数よりも広い領域で画像を取得し、積算後に中央部の512×512画素の領域を切り出して、最終的な目的画像とする。
【0093】
このように若干大きな画像を取得することによって、ドリフトが発生しても画像の端部が切れて見えなくなるようなことがなくなる。
【0094】
(実施例7)
図11に、異常画像を除去して画像の積算を行った実施例を示す。複数の画像を取得中に突発的な外乱により画像が異常にずれたり、あるいは、異常にボケた画像、または、ビーム照射中のチャージにより、ある特定画像以降の画像が異常コントラストを示すなどの場合、これらの画像を画像処理により異常の検出を行って、積算する原画から除くことができる。ずれに対しては、予め、異常と見なす視野ずれ量を規定しておけば異常検出が可能である。ボケについては、画像微分などの演算を行い、予め異常と判定するしきい値を規定することにより、異常画像の除去が可能である。異常コントラストについては、ヒストグラムの判定や視野修正後の他の画像との相関値が異常に低下するなどの判定により、除去が可能である。このように異常情報を除去することにより、不慮の原因があっても、安定に高分解能画像の取得が可能になる。
【0095】
異常と判定された画像は除去されるが、その異常の原因を後に究明するために、異常と判定された画像を他の画像メモリに記憶し、併せて異常が認められたとき、或いは異常と判定されたときの前後の時間の光学条件(電子源の加速電圧やエミッション電流等)を記憶しておく。このような構成によれば、如何なる理由で異常画像が発生したか、確認することが容易になる。例えば電子源の陰極に過電流が流れたタイミングと異常画像が発生したタイミングが一致していたならば、原因は電子源にあり、電子源交換の指標とすることができる。
【0096】
電子顕微鏡内の引出電極,加速電極、或いは走査コイル等の光学素子に印加されている電流や電圧の推移をタイムチャートで表示しておき、その上に異常画像が発生したタイミングを重畳して表示するようにすれば、操作者は目視で原因を特定することが可能になる。
【0097】
本実施例で説明した異常フレーム除去技術は実施例4で説明したラインプロファイル積算にも適用が可能である。
【0098】
本実施例では主に自動で異常画像を除去する例について説明したが、それに限られることはなく、例えば像表示装置に積算前の画像を表示し、操作者が異常と認めた画像を選択的に除去できるような機能を設けても良い。この際、像表示装置に並べて表示された複数の積算前画像をポインティングデバイス等で選択できるような構成とすれば、操作者は積算前の複数の画像から目視で除去すべき画像を選択することができる。積算前画像だけではなく、或る程度のS/Nを持った画像で異常画像を見極めるために、複数の積算画像を表示するようにしても良い。
【0099】
(実施例8)
図12に複数の像信号で取得した画像の視野ずれ補正の画像積算の実施例を説明する。例えば、反射電子信号による積算像を取得しようとすると、一般に反射電子の信号量が少ないため、各々の原画像のフレーム数を多く取る必要がある。信号量の少ない画像を少ないフレーム数で取得してこれを原画とすると、原画のS/Nが極端に低下して、画像間の視野ずれの検出ができないからである。一方で、原画のフレーム数を多くすると原画の取り込み時間が長くなるため、原画自体がドリフトによってボケてしまう。本実施例では、反射電子信号と同時に取得したS/Nの良い二次電子像を用いて、各々の原画における画像間の視野ずれを検出し、この視野ずれ量を反射電子信号で得た複数の画像間の視野ずれに適用している。
【0100】
二次電子像と反射電子像とは同時に取得し、対応する二次電子像と反射電子像との視野は完全に一致しているので、本実施例の方法でS/Nの悪い反射電子の原画に対して正確な視野ずれの補正が可能になる。視野ずれ量の検出画像として、S/Nの高い二次電子信号像を用いることにより、原画を構成するフレーム数を最小にすることができるため、原画自体がドリフトでボケることがなくなる。なお、S/Nの悪い信号の例としては、本実施例で示した反射電子信号のほか、例えば、X線の信号や試料吸収電流などがあり本発明実施例は、さまざまな信号に適用することができる。特に、薄膜試料の元素分布(X線像)を高解像度に取得する場合には、本実施例における二次電子信号を透過電子信号とすることができる。一般に、試料を数10nmに薄片化することにより、X線の試料内散乱が起こらなくなり、解像度の高い元素分布像の取得が可能になる。
【0101】
二次電子と反射電子を同時に検出するための検出系として、図17に示すような構成が考えられる。この構成によれば一次電子線1701を収束する対物レンズ1702の上下にそれぞれ配置された反射電子検出器1703と二次電子検出器1704を用いて、試料1705から放出される2種類の電子(反射電子1706,二次電子1707)を同時に検出することが可能になる。
【0102】
また図18に示すような検出系を用いて、二次電子と反射電子を併せて検出することができる。図18の構成の場合、試料1801に印加されたリターディング電圧1802によって、試料1801から放出される二次電子と反射電子1803は加速され、対物レンズ1804上に配置された二次電子変換電極1805に衝突する。この衝突の際に加速された二次電子と反射電子1803は、二次電子1806を発生させ、この二次電子1806は二次電子検出器1807に吸引され検出される。
【0103】
そして、エネルギフィルタ1808には、試料に印加したリターディング電圧1802と同等、或いはそれより若干高いエネルギフィルタ電圧1809の印加が可能であり、このような電圧の印加によって、反射電子のみが選択的にエネルギフィルタ1808を通過するようになっている。
【0104】
以上のような構成において、所定数の二次元像を取得する毎にエネルギフィルタ電圧1809の電圧をオン・オフ、或いは強弱に切り替え、二次電子像と反射電子像を交互に取得するようにする。そして二次電子像を用いて位置ずれを検出するとともに、検出された位置ずれ情報を用いて、反射電子像の位置ずれを補正して、画像メモリに記憶することで、リターディング技術を採用した走査電子顕微鏡において、像ぼけのない反射電子像を得ることができる。本実施例では反射電子と二次電子を明確に分けているが、これに限られることはなくリターディング電圧1802より低いエネルギフィルタ電圧1809をエネルギフィルタ1808に印加して、二次電子検出器1807で検出される電子の量を増やしても良い。試料から放出される電子は50eV以下のものが多いため、少なくとも50eV以下の電子を、視野ずれ量の検出画像として用いることによって、原画を構成するフレーム数を最小にすることができる。エネルギフィルタ1808への印加電圧は、分析目的等に応じて変化させることができる。
【0105】
反射電子検出器や二次電子検出器は、本実施例で説明したものに限られず、種々の形態のものを採用することが可能である。X線検出器については特に図示していないが、既存のX線検出器全般の適用が可能である。
【0106】
(実施例9)
図13に取得した複数の画像に対して、試料面上の特定の方向にのみ視野ずれを修正して画像を積算した実施例を示す。画像内の特定の方向にのみパターンがある画像の場合には、パターンと直交した方向の位置ずれ検出に対しては、高い精度でこれを検出可能であるが、パターンと平行な方向に対しては、位置ずれ検出精度が極端に低下する。このような画像に対しては、パターンと直交する方向に対してのみ視野を合わせて画像を積算することにより、視野合わせ時の誤差を防止できる。パターンの方向を特定するには、画像の周波数成分の解析や画像を二値化して線画化することで可能になる。
【0107】
なお、このようにある特定方向にしか視野ずれを補正しない場合であっても、半導体ウェハ上のパターンの線幅を測定する装置では、測長結果の精度を維持することができる。半導体ウェハ上のパターンは直線状に形成されていることが多く、同じラインパターン上であればどこを測っても線幅は殆ど同じであるため、パターンと直交する方向にさえずれが生じなければ、正確な測長が可能になる。
【0108】
対象画像がラインパターンであって、積算する2枚の画像に図20(a)のような視野ずれがある場合、画像のずらし量と一致度の関係は図20(b)のようになる。図20(b)において、一致度が最大になる条件で画像を重ねることにより積算時のぼけが補正されるが、ライン状のパターンでは、一致度が最大になる条件が一箇所ではなく線状に存在する。そのため、画像を重ねる条件(一致度最大条件)を一義的に決めることができない。そこで、画像をずらす方向をパターンに対して直交する方向にすると、画像間のずらし量が最小でパターンのぼけが補正できるため、積算画像の有効視野を最大にする効果が得られる。
【0109】
(実施例10)
図14に、具体的な位置ずれ量の検出とその補正画像の加算方法を示す。入力画像1401と入力画像1402において、入力画像1401の例えば中央部の適当な大きさの領域1403をとり、これをテンプレートとして、入力画像1402に対してテンプレートマッチングを行う。その結果、領域1404がマッチングしたとすると、領域1403と領域1404を重ね合わせ、入力画像1401と入力画像1402の重なり合う矩形領域(AND領域)1405を考え、入力画像1401と入力画像1402の、AND領域1405に重なり合わない部分をそれぞれ切り落として、位置合わせ後入力画像1406,1407とする。この位置合わせ後入力画像1406,1407を入力として加算処理を行う。
【0110】
この例では、入力画像が2つの例を示したが、3つ以上に拡張することは容易である。テンプレートマッチングの一例としては、入力画像の大きさが512×512画素とすると、テンプレートの中央部の256×256画素とし、2つの画素間で下記式に基づく正規化相関処理を行う方法がある。この場合、算出された相関値が最も高い位置をマッチングした位置とする。
【0111】
【数1】

【0112】
r(x,y)は(x,y)における相関値であり、Mijはテンプレート内の点(i,j)における濃度値、Pijは入力画像の対応する点(x+i,y+j)における濃度値であり、Nはテンプレートの画素数である。
【0113】
図15に、補正画像の加算方法の別の実施例を示す。図14と同様、入力画像1401と入力画像1402において、入力画像1401の例えば中央部の適当な大きさの領域1403をとり、これをテンプレートとして、入力画像1402に対してテンプレートマッチングを行う。その結果、領域1401がマッチングしたとすると、領域1403と領域1404を重ね合わせ、入力画像1401と入力画像1402の両方を含む矩形領域(OR領域)1501を考え、入力画像1401と入力画像1402の、OR領域1501と重なり合わない部分をそれぞれ付加して、画素数を0またはそれぞれの入力画像の平均値などで埋め、位置合わせ後入力画像1502,1503とする。この位置合わせ後入力画像1502,1503を入力として加算処理を行う。この例では、入力画像が2つの例を示したが、3つ以上に拡張することは容易である。
【0114】
(実施例11)
本発明のドリフト補正技術を、半導体検査用走査電子顕微鏡で自動運転する場合に適用した例を説明する。通常自動運転するためにはあらかじめ測定位置や観察条件などの情報を登録したレシピファイルを作成し、このファイルにしたがって測定位置決めや観察,測定を実行する。本方式はレシピファイル実行前に設定する環境登録しておく。レシピ実行環境画面を図19に示す。
【0115】
レシピ実行時の主なシーケンスは、まずステージ上におけるウェハの位置を検出するためのアライメントを行う。このときレシピ作成時に登録しておいた画像によって画像認識を行う。次にステージによって測定位置に移動し、比較的低倍率で画像を取得する。画像認識によって高精度に測定パターンの位置決め(アドレッシングという)をし、電気的に偏向して測定倍率にズームしパターン寸法測定を行う。パターンの位置決め前または測定前に自動焦点合わせが実行される。
【0116】
レシピのテスト実行をする際または複数枚の測定ウェハがある場合は1枚目でパターンの位置決め用の画像取得から測定用画像取得までの時間におけるドリフト量を測定点ごとに計測しておく。アライメントの場合は数秒後におけるドリフト量を計測し記憶しておく。レシピ実行時、各測定点またはアライメント点のドリフト量を位置決め後のオフセットとして加算する。アドレッシングの場合はオフセットを加算した位置に偏向し測定倍率にズームする。このようにすれば位置決め後のドリフトを軽減することが可能となり、レシピを用いた実際の計測時、或いは2枚目以降の測定ウェハのドリフト量検出が不要となるため、高スループットで複数の試料測定が可能となる。アライメント,アドレッシング,測定においてドリフト補正を実行するか、しないかはアライメント用ドリフト補正スイッチ1901,アドレッシング用ドリフト補正スイッチ1902,測定用ドリフト補正スイッチ1903がそれぞれONかOFFで判定する。
【0117】
本実施例で説明するような環境設定画面を設けることにより、測定条件や試料状態によって変化する、ドリフト補正の具体的な手法を任意に設定することが可能となる。
【0118】
昨今の半導体製造・検査では複数枚の半導体ウェハをカセットに収め、カセット単位で扱うことが一般的である。このような複数の測定対象を連続的に測定する装置に、レシピ作成時に登録した補正量に基づいてドリフト補正を行うか、実際にウェハ毎に計測されたドリフト量に基づいて補正を行うか、を選択する手段を設けておく。このように構成することで、カセット内の半導体ウェハの個体差がある場合の測定精度を優先するか、スループットを優先するかを操作者が判断し、測定に反映させることができる。
【0119】
オフセット補正を行う場合に、レシピ設定時に登録した登録値に基づいて補正を行うのか、カセット内の1枚目のカセットでドリフト量を検出した値を登録して補正に用いるのか、を選択する手段を設けておく。このように構成することによって、テストパターンや設計値と実際のウェハパターンとの間に製造誤差がある場合の測定精度を優先するか、スループットを優先するかを操作者が判断し、測定に反映させることができる。
【0120】
以上の説明は操作者が具体的な補正法を選択する例について説明したが、これに限られることはなく、例えば製造誤差の大小や有無等を入力することで、上記具体的な補正法を自動的に設定するシーケンスを設けても良い。
【0121】
これまでの実施例は走査電子顕微鏡について説明したが、これに限られることはなく、何等かのドリフト発生要因によって試料像がずれる他の荷電粒子線装置にも適用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に荷電粒子線を照射し、試料から放出された二次信号に基づいて試料上に形成され
た測定対象の寸法を測定する試料寸法測定方法において、
前記荷電粒子線の照射に従って減少する前記測定対象の寸法減少の推移を計測し、当該
減少の推移から前記測長対象の前記荷電粒子線照射前、或いは照射開始の際の前記測定対
象寸法を求めることを特徴とする試料寸法測定方法。
【請求項2】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を走査する偏向器と、前記電
子線の走査領域から放出される二次電子を検出する二次電子検出器とを備えた電子線装置
において、
前記試料から放出される反射電子を検出する反射電子検出器、及び/又は前記試料から
放出されるX線を検出するX線検出器と、
前記反射電子検出器、或いはX線検出器で検出された反射電子、或いはX線に基づく試
料像を表示する像表示装置とを備え、
前記二次電子検出器で検出された二次電子像の移動量を検出すると共に、二次電子像の
移動量に基づいて、前記像表示装置に表示される反射電子像、或いはX線像の位置を補正
することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
試料上に荷電粒子線を走査し、試料から放出された荷電粒子に基づいて画像を形成する
試料像形成方法において、
前記荷電粒子線を前記試料に複数回走査し、前記試料から放出された二次信号を検出に
基づいて前記複数回の走査に基づいて得られる複数の画像の内、異常があるものを除去し
て前記画像を合成し、合成画像を形成することを特徴とする試料像形成方法。
【請求項4】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を走査する偏向器と、前記荷
電粒子線の走査領域から放出される二次信号を検出する検出器とを備え、当該検出器で検
出された二次信号に基づいて試料像を形成する荷電粒子線装置において、
前記検出された二次信号に基づいて複数の画像データを形成し、当該複数の画像データ
の内、異常があるものを除去して前記複数の画像を合成する制御装置を備えたことを特徴
とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
荷電粒子源と、当該荷電粒子源から放出される荷電粒子線を走査する偏向器と、前記荷
電粒子線の走査領域から放出される二次信号を検出する検出器とを備え、当該検出器で検
出された二次信号に基づいて試料像を形成する荷電粒子線装置において、
前記検出された二次信号に基づいて画像データをN0枚形成し、当該N0枚の画像デー
タを合成して合成画像データをN1枚形成する手段と、前記N0とN1を設定する設定手
段とを備えた荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−101907(P2010−101907A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5421(P2010−5421)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【分割の表示】特願2007−190305(P2007−190305)の分割
【原出願日】平成13年11月21日(2001.11.21)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】