試料寸法測定方法及び走査型電子顕微鏡
【課題】半導体試料等の表面に形成されたパターン等の体積減少を抑制、或いは減少に関わらず正確な測長を行う。
【解決手段】荷電粒子線を試料上で走査し、試料より放出された二次電子に基づいて、試料上に形成されたパターン等の線幅等を測長する荷電粒子線装置において、試料の物性に基づいて決定される照射密度を上回らないように前記荷電粒子線の走査線間隔を設定する。或いは予め記憶された近似関数に基づいて測長値を演算する。
【解決手段】荷電粒子線を試料上で走査し、試料より放出された二次電子に基づいて、試料上に形成されたパターン等の線幅等を測長する荷電粒子線装置において、試料の物性に基づいて決定される照射密度を上回らないように前記荷電粒子線の走査線間隔を設定する。或いは予め記憶された近似関数に基づいて測長値を演算する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡を用いて微細パターンの寸法を計測する方法、及び走査型電子顕微鏡に関り、特に電子線を照射することによって形状が変化する試料を測定の対象とする試料寸法の測定方法及び走査型電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や薄膜磁気ヘッドなど、表面の微細加工により製作される機能素子製品の製造・検査工程では、加工されたパターン幅の測定(以下「測長」と呼ぶ)および外観検査に、走査型電子顕微鏡が広く用いられている。
【0003】
走査電子顕微鏡は、電子源から放出され、磁場あるいは電場と電子線の相互作用を利用した収束レンズおよび対物レンズにより細く絞られた電子線を、偏向器を用いて試料上で一次元あるいは二次元的に走査し、電子線照射によって試料から発生する二次信号(二次電子や反射電子,電磁波)を光電効果等を利用した検出器により検出し、その検出信号を電子線の走査と同期した輝度信号等の可視化可能な信号(以下「像信号」と呼ぶ)に変換・処理することで試料像を形成する装置である。
【0004】
走査型電子顕微鏡では、観察・測長する試料表面の形状と高い精度で対応した試料像を得られるように努力が払われている。すなわち、試料表面を観察する際、像信号の可視化は該走査領域と正確に相似な平面領域(以下「像領域」という)で行われ、該走査領域内各点からの像信号の像領域内での配列も、対応する該走査領域内各点の位置と正確に相似の位置に配列される。この配列を実現するためには、
1)走査領域と像領域共に矩形とし、それぞれ矩形の一辺を長さとする同一本数の走査線で構成する。
2)走査領域と像領域では走査線長と走査線間距離の比を一致させることが一般に行われている。
【0005】
こうすることにより、試料表面の任意の2点間の距離は、対応する試料像の2点間の距離と常に一定の比を持つ。この比が走査電子顕微鏡の倍率となる。このような技術は走査電子顕微鏡を構成する基本技術として広く実現されており、例えばライマー著『スキャニング・エレクトロン・マイクロスコピー』(L.Reimer,『SCANNING ELECTRON MICROSCOPY』)(独)2頁〜などにその記述をみることができる。
【0006】
さらに、こうして得た試料像からは、試料表面の任意の2点間の距離を容易に演算することができる。この演算は一般に「測長」と呼ばれ、かかる演算機能を持つ走査電子顕微鏡は「測長電子顕微鏡」と呼ばれている。
【0007】
一方、試料表面上の走査領域と試料像とが相似でない例として特許文献1があり、この例では、微小な素子であるにも関わらず離間しているために倍率を低くして寸法測定を行わざるを得ないパターンをもつ試料を測定するために試料上の2点を結ぶ直線に対して垂直な方向に前記試料像を伸ばして二次電子像を形成し、寸法の測定精度を向上するものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001−147112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
走査電子顕微鏡では、当然のことながら観察する試料表面に数百エレクトロンボルト以上の到達エネルギーをもつ電子線を照射することになる。
【0010】
一方、近年、半導体の表面の微細加工は一層の微細化がすすみ、フォトリソグラフィーの感光材料として、例えばフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光に反応するフォトレジスト(以下「ArFレジスト」と呼ぶ)が使われ始めている。
【0011】
ArFレーザ光は波長が160nmと短いため、ArFレジストはより微細な回路パターンの露光に適しているとされている。しかし、最近の検討の結果、電子線照射に対して大変脆弱で、形成されたパターンを走査電子顕微鏡で観察あるいは測長すると、収束電子線の走査により基材のアクリル樹脂等が縮合反応をおこし体積が減少(以下「シュリンク」と呼ぶ)して、回路パターンの形状が変化してしまうことが知られるようになってきた。
【0012】
半導体素子ではその設計性能を実現するために、回路パターンの形状・寸法を厳しく管理することが必要であり、そのために検査工程では微細な寸法を測長できる測長電子顕微鏡が使われている。しかるに、観察・測定工程において測長のための電子線照射でパターン形状が変化してしまう場合、回路パターン寸法として所望の設計値を得られず、素子の特性劣化や破壊を引き起こすという問題がある。
【0013】
さらに、線幅が変化することから同一寸法を測定しても、測定都度測定値がばらついてしまい、測定精度が上がらないといった問題がある。現時点では、測長電子顕微鏡に代わって微細な寸法を所望の精度で測長できる装置はなく、パターンのシュリンクはArFレジストを使用した半導体素子製造の大きな障害となっている。従って、従来の走査型電子顕微鏡では電子線照射時の試料のシュリンクについては配慮されておらず、パターン寸法の測定値の精度に問題があった。また、前出の特開2001−147112号公報の例でも、試料上で離れた2点間の寸法測定の測定精度については考慮されているが、電子線の照射時の試料のシュリンクについては考慮されていなかった。
【0014】
本発明の第1の目的は、電子線の照射によってシュリンクを起こすパターンを測定する際に、そのシュリンクの発生を抑制することで、正確なパターンの寸法測定を可能とすることにある。
【0015】
また、本発明の第2の目的は、シュリンクの発生に関わらず、正確なパターンの寸法測定を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では上記第1の目的を達成するために、電子源と、該電子源より放出された電子線を試料台上に配置された試料表面に二次元的に走査する走査手段と、前記電子線の照射により試料から放出される荷電粒子あるいは電磁波を検出する検出手段と、当該検出手段によって検出された荷電粒子あるいは電磁波から試料表面形状の寸法を演算により測定する演算装置とを具備した走査型電子顕微鏡を用いて、電子線の照射密度が前記試料の物性により定まる所定値より大きくならないように、前記電子線の走査領域内の走査線間間隔を制御する。
【0017】
また、上記第2の目的を達成するために、本発明では、試料上に電子線を走査し当該走査個所から放出された電子の検出に基づいて、前記試料上に形成されたパターンの寸法を測定する方法において、前記試料上に電子線を照射したときの前記パターン寸法の減少の推移を示す関数を予め求めておき、当該関数と前記電子線を試料上に走査して得られる測長値に基づいて、前記パターンの減少前の寸法を演算する。
【0018】
本発明のより具体的な構成及び効果は発明を実施するための最良の形態の欄で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施例である走査電子顕微鏡の構成を示す図である。陰極1と第一陽極2の間には、制御演算装置30(制御プロセッサ)で制御される高電圧制御電源21により電圧が印加され、所定のエミッション電流が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には制御演算装置30で制御される高電圧制御電源21により加速電圧が印加されるため、陰極1から放出された一次電子線4は加速されて後段のレンズ系に進行する。一次電子線4は、集束レンズ制御電源22で制御された収束レンズ5で収束され、絞り板8で一次電子線4の不要な領域が除去される。
【0020】
その後、対物レンズ制御電源23で制御された対物レンズ7により試料9に微小スポットとして収束され、偏向コイル11で試料上を二次元的に走査される。偏向コイル11の走査信号は、観察倍率に応じて偏向コイル制御電源24により制御される。また、試料9は二次元的に移動可能な試料ステージ41上に固定されている。試料ステージ41はステージ制御部25により移動が制御される。
【0021】
一次電子線4の照射によって試料9から発生した二次電子10は二次電子検出器12により検出され、描画装置28は検出された二次信号を可視信号に変換して別の平面上に適宜配列するように制御を行うことで、試料像表示装置26に試料の表面形状に対応した画像を試料像として表示する。
【0022】
入力装置27はオペレータと制御演算装置30のインターフェースを行うもので、オペレータはこの入力装置27を介して上述の各ユニットの制御を行う他に、測定点の指定や寸法測定の指令を行う。なお、制御演算装置30には図示しない記憶装置が設けられており、得られた測長値等を記憶できるようになっている。
【0023】
二次電子検出器12で検出された信号は、信号アンプ13で増幅された後、描画装置
28内の画像メモリに蓄積されるようになっている。なお、本実施例装置は二次電子検出器12を備えているが、これに限られることはなく、反射電子を検出する反射電子検出器や光,電磁波,X線を検出する検出器を二次電子検出器に替えて、或いは一緒に備えることも可能である。
【0024】
画像メモリのメモリ位置に対応したアドレス信号は、制御演算装置30内、或いは別に設置されたコンピュータ内で生成され、アナログ変換された後に、偏向コイル11に供給される。X方向のアドレス信号は、例えば画像メモリが512×512画素(pixel) の場合、0から512を繰り返すデジタル信号であり、Y方向のアドレス信号は、X方向のアドレス信号が0から512に到達したときにプラス1される0から512の繰り返しのデジタル信号である。これがアナログ信号に変換される。
【0025】
画像メモリのアドレスと電子線を走査するための偏向信号のアドレスが対応しているので、画像メモリには走査コイルによる電子線の偏向領域の二次元像が記録される。なお、画像メモリ内の信号は、読み出しクロックで同期された読み出しアドレス生成回路で時系列に順次読み出すことができる。アドレスに対応して読み出された信号はアナログ変換され、試料像表示装置28の輝度変調信号となる。
【0026】
画像メモリには、S/N比改善のため画像(画像データ)を重ねて(合成して)記憶する機能が備えられている。例えば8回の二次元走査で得られた画像を重ねて記憶することで、1枚の完成した像を形成する。即ち、1回もしくはそれ以上のX−Y走査単位で形成された画像を合成して最終的な画像を形成する。1枚の完成した像を形成するための画像数(フレーム積算数)は任意に設定可能であり、二次電子発生効率等の条件を鑑みて適正な値が設定される。また複数枚数積算して形成した画像を更に複数枚重ねることで、最終的に取得したい画像を形成することもできる。所望の画像数が記憶された時点、或いはその後に一次電子線のブランキングを実行し、画像メモリへの情報入力を中断するようにしても良い。
【0027】
またフレーム積算数を8に設定した場合に、9枚目の画像が入力される場合には、1枚目の画像は消去され、結果として8枚の画像が残るようなシーケンスを設けても良いし、9枚目の画像が入力されるときに画像メモリに記憶された積算画像に7/8を掛け、これに9枚目の画像を加算するような重み加算平均を行うことも可能である。
【0028】
また本発明実施例装置は、検出された二次電子或いは反射電子等に基づいて、ラインプロファイルを形成する機能を備えている。ラインプロファイルは一次電子線を一次元、或いは二次元走査したときの電子検出量、或いは試料像の輝度情報等に基づいて形成されるものであり、得られたラインプロファイルは、例えば半導体ウェハ上に形成されたパターンの寸法測定等に用いられる。
【0029】
パターンの寸法測定は、試料像表示装置26に試料像とともに2本の垂直または水平カーソル線を表示させ、入力装置27を介してその2本のカーソルをパターンの2箇所のエッジへ設置し、試料像の像倍率と2本のカーソルの距離の情報をもとに制御演算装置30でパターンの寸法値として測定値を算出する。
【0030】
なお、図1の説明は制御プロセッサ部が走査電子顕微鏡と一体、或いはそれに準ずるものとして説明したが、無論それに限られることはなく、走査電子顕微鏡鏡体とは別に設けられた制御プロセッサで以下に説明するような処理を行っても良い。その際には二次電子検出器12で検出される検出信号を制御プロセッサに伝達したり、制御プロセッサから走査電子顕微鏡のレンズや偏向器等に信号を伝達する伝達媒体と、当該伝達媒体経由で伝達される信号を入出力する入出力端子が必要となる。また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0031】
更に、本実施例装置は、例えば半導体ウェハ上の複数点を観察する際の条件(測定個所,走査電子顕微鏡の光学条件等)を予めレシピとして記憶しておき、そのレシピの内容に従って、測定や観察を行う機能を備えている。
【0032】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。即ち、以下に説明する本発明実施例は画像プロセッサを備えた走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に採用可能なプログラムの発明としても成立するものである。
【0033】
〔実施例1〕
ArFレジストパターンのシュリンクはレジストに入射する収束電子線のエネルギーによる化学反応が原因であると考えられる。そこで収束電子線のパターンへの加速電圧
Vacc ,電子線電流密度Ipd,とシュリンク量の関係を実験的に求めると、ライン形状のパターンにおけるシュリンク量2S(片側のエッジでのシュリンク量をSとして、両エッジでのシュリンク量)は、発明者の実験では(1)の実験式に従った。
2S=K1・VaccK2・{1−exp(−(Ipd0.5・n/K3))} (1) ここで、2S:シュリンク量(両側)、Vacc:加速電圧(V)、K1,K2,K3:レジストによって決まるパラメータ、n:測定回数である。従って、電子線の照射によるArFレジストのシュリンク量を抑えるためには、電子線の照射密度を下げることが有効であることがわかる。
【0034】
本実施例では、ArFレジストに見られるような電子線照射による試料の形状変化を引き起こす試料のシュリンクの発生を抑制し、精度の高い測長を行うために、試料表面の走査領域を平行する複数の走査直線の集合として形成し、測定寸法の始点と終点を結ぶ直線ないしその近傍の走査線上の収束電子線の走査距離を用いて試料表面形状の寸法を測定する際、該走査線の間隔は、試料表面物質の物性から定まる集束電子線の試料表面における照射密度のある値より大きくならないように設定できるようにしたものである。
【0035】
また、測定点の観察時や視野探索時は、観察に最適となるように試料像の縦横比が1となる走査線距離と間隔を設定し、測定時は走査線の間隔を前記の試料表面における照射密度のある値より大きくならない値に設定することで、結果的に測定時の走査線の間隔が観察時の走査線の間隔よりも大きくなるようにしたものである。即ち、観察時や視野探索時に比べて、測定時には走査線の長さに対する走査線間隔の大きさの比率を大きくした。
【0036】
更に、電子線によるArFレジストのシュリンク量が最低となる条件に走査線の走査幅と走査線の間隔を設定できるようにし、加えて、これらの組み合わせを固定値として予め登録しておき、測定時にはそれらの組み合わせを選択できるようにしたものである。以下に図面を用いて説明する。
【0037】
図2に、本発明におけるパターン寸法測定時の電子線の走査方法について示す。図2
(a)はパターンが直線形状のラインパターンの場合である。従来の技術では、試料像の観察や測定の場合、試料像の縦方向と横方向の倍率が高い精度で同じ倍率になるように走査線の長さと間隔が制御されるため、図中にaで示す正方領域で走査されていた。しかし、この電子線の走査方法ではパターンが微細になると、測定精度を維持するために像倍率を上げざるを得ず、結果として電子線を走査する正方領域が小さくなって、単位面積あたりの電子線の照射密度が高くなる。このため、電子線の照射によって物理的・化学的な変化を引き起こすような試料、例えばArFレジストのように収縮をする試料の場合、前述の(1)式に従い、電子線の照射によってパターンに寸法変化が生じ、寸法値を精度よく安定して測定できない問題がある。
【0038】
ここで、ArFレジストのシュリンクについて述べる。ArFレジストのシュリンクは、レジストに入射した電子線がレジスト分子と衝突・散乱するときに発生するため、一般的に電子線のエネルギーが大きいほど大きくなる。このため、試料から出てくる二次電子を測定する走査型電子顕微鏡では、ほとんどの場合一次電子線が試料(この場合はArFレジスト)内部に停止するため、一次電子線の加速電圧が大きいほど、また、ArFレジストに進入する電子線の量(電流密度)が大きいほどシュリンクは大きくなることが判っている。すなわち、同一電子線量でも測定倍率が大きくなるほど電子線の照射領域が小さくなり、その分同一領域に入射する電子線量が大きくなり、シュリンクが進行する。
【0039】
図4を用いて、レジストが電子線との相互作用によりシュリンクする概要を説明する。
図中(1)にて、一次電子線がArFレジストに進入し、飛程Rの距離の間レジスト分子と衝突・散乱を繰り返して停止する。図中(2)で電子線が次々と進入すると、電子線の影響を受けたレジスト領域にシュリンクが発生する。ただし、電子線の影響を受けた部分全てがシュリンクするのではなく、レジストによって定まるパラメータK1の割合だけシュリンクする。新たに進入した電子は、シュリンクしたレジスト、前の電子の影響を受けたがシュリンクしなかったレジスト、前の電子の影響を受けなかった新しいレジストに影響して新たにレジストのシュリンクを引き起こす。図中の破線はシュリンク前のレジストの位置を表している。図中(3)でシュリンクを引き起こした領域と電子線の飛程が一致してシュリンクが終了する。
【0040】
電子線の照射によるレジストのシュリンクを小さくするためには、電子線量を小さくしたり測定倍率を下げるしかなかったが、二次電子信号のS/Nが悪くなったり、倍率を下げたことによる測定精度や再現精度の劣化の問題があった。
【0041】
そこで、偏向コイル制御電源24により偏向コイル11の走査信号を制御して、測定するラインパターンと直行する方向(図2(a)の場合は横軸方向)は走査線の距離をその距離のままとして横方向の像倍率は保ち、ラインパターンの方向(図2の場合は縦軸方向)は走査線の間隔を広く設定することでこの方向の像倍率を下げるように制御演算装置30で制御し、結果的に図中bの長方形の走査領域で電子線の走査を行う。これにより、単位面積あたりの電子線の照射密度を下げられるために電子線の照射によるArFレジストの寸法変化が抑えられて寸法精度の高い測定が可能になり、かつ、試料像の横方向の倍率は下がっていないために測定の精度を劣化させないで測定が可能である。
【0042】
ここでパターン寸法の算出方法について、像表示装置上に表示された二次電子像に2本のカーソルを配置して像倍率とカーソルの距離の情報から制御演算装置30で算出しても良いし、2本の水平カーソル線19に挟まれた区間の水平方向の信号強度のプロファイルを垂直方向に加算を行ったプロファイル20を表示させ、そのプロファイル20からパターンのエッジを検出することで測定値を算出しても良い。
【0043】
図3は穴形状のホールパターンを測定する場合の電子線の走査を示したものである。従来の技術では、電子線をホールを囲む正方の走査領域で走査しており、ホールパターンの場合も、穴径が小さくなるにつれて像倍率を上げる必要があり、このため電子線の照射密度は高くなって、レジストのシュリンクが問題となる。
【0044】
この場合も、偏向コイル制御電源24により偏向コイル11の走査信号を制御して、試料像上で寸法測定を行う横方向の走査線の距離はそのまま維持して像倍率を保ち、寸法測定を行う方向とは直行する縦方向は走査線の間隔を広くするように制御演算装置30で制御する。これにより電子線の照射密度を下げることができ、測定の精度に影響を与えることなく寸法変化の少ない、精度の高い測定が可能になる。
【0045】
ここで、上述の走査領域で電子線の走査を行った場合、図3(b)中に示す像になるが、ホールの径測定は像表示装置上に表示された楕円形状の像で楕円の頂点に2本のカーソルを配置して測定しても良いし、図3(c)に示すように、左右のエッジを多点で検出して曲線で近似し、その左右の曲線間の距離が最大となる位置で穴径の測定値としても良い。
【0046】
また、他の実施例として、構成は図1と同一であるが、試料像観察時や測定点の探索時は走査線の距離と間隔を試料像の縦方向と横方向が同じ倍率となるように設定し、オペレータが入力装置27から測定を指示した時だけ、制御演算装置30によって走査線長さと走査線の間隔を試料に適した、観察時の間隔よりも広い値に設定しても良い。このようにすることで、オペレータに自然で違和感のない操作環境を提供でき、操作性が向上する利点がある。
【0047】
他の実施例として、同じく図1と同じ構成であるが、測定の対象となる試料をArFレジストとした場合、測定に用いる走査線距離と走査線の間隔を、ArFレジストのシュリンクが最低となる照射電流量の値から予め設定することができる。
【0048】
ArFレジストを用いて、測定回数とシュリンク量の関係を発明者らが実験した結果を図5に示す。ArFレジストを用いる半導体製造工程のプロセスはパターンの線幅が0.1μmか、もしくはそれ以下の線幅であり、この線幅のパターンを測定するためには少なくとも像倍率は100k倍以上が必要である。ここで、加速電圧は300V、プローブ電流値は4pA、フレーム枚数は4枚加算を使用した。図5において、従来の技術での走査では、測定精度を劣化しないで測定ができる、試料像の横縦方向の倍率は100k×100k倍であり、この条件では10回の測定で生じたシュリンク量は約4nmであった。
【0049】
本発明により、走査線の間隔を広げて走査領域を拡大することにより電子線の照射密度を低下させる条件として、試料像の横縦方向の倍率を100k×49k、および100k×30kとすると、結果は各々約2.5nmと1.6nmのシュリンク量であった。
【0050】
これより、0.1μm 線幅のArFレジストの測定を行う場合、走査の設定として横方向の像倍率は100k倍とし、照射電流密度はできるだけ下げた条件で使用することが良いと判断される。実際には、実測するパターンの縦方向の長さにも制約を受ける。
【0051】
図6は別の実施例の一例であり、制御演算装置30に記憶装置29を備えることで、被測定試料の最適条件の組み合わせを固定値として記憶する。測定時にオペレータがこの組み合わせの中から条件を選択することで、短時間に試料に適した測定を容易に行える利点がある。図7はその選択画面の例を示したものであり、オペレータは画面に表示された固定の像倍率の組み合わせのなかから、被測定対象の試料に適した条件を選択した後測定を開始することで、容易に走査領域を変更した測定ができる。
【0052】
本発明実施例によれば、試料の観察時に照射する電子線によって形状が変化してしまうようなフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザを光源とするフォトレジスト等の測定において、形状の変化量を最低限に抑えることができ、測定精度の高い、安定した寸法測定が可能になる。
【0053】
また、観察時には走査線の領域を通常の正方の走査領域とすることで、試料の観察や測定部の視野の探索を容易にして操作性を向上できる。
【0054】
更に、試料の特性に合わせた走査線の長さと間隔の組み合わせが登録されているため、その組み合わせを選択することによって容易に最適な測定条件を設定できる利点がある。
【0055】
図24は、走査電子顕微鏡の光学パラメータの設定画面の一例を説明するための図である。この画面上では少なくとも電子線の加速電圧(Accel.Volt),プローブ電流(Probe current),倍率(Magnification),1枚の像を形成するのに必要な積算枚数(走査回数:Frame# )が設定できるようになっている。制御演算装置30はこの設定画面上で設定された値に基づいて、各光学素子の制御を行う。図24の例では加速電圧,プローブ電流,倍率,積算枚数のそれぞれの設定許容値と、許容値を超える設定値がそれぞれ認識できるように、識別表示されている。
【0056】
例えば積算枚数の設定は、4,8,12,16,24,32,…の中から、オペレータが適当な積算枚数を選択できるように、上記の選択欄が設けられている。図24の例の場合、上記選択肢の中で4,8については選択可能となっているが、12,16,24,
32,…については設定を受け付けないようになっている。本実施例装置の場合、予め所定の許容シュリンク量が設定されており、(1)式に従って少なくとも1つの光学パラメータが設定されると、他のパラメータの許容値が算出され、その許容値を超える設定を禁止するようなシーケンスが組み込まれている。以上のような構成によればシュリンクを極力少なくした状態で、適正な観察条件を設定することが可能となる。
【0057】
また、上記実施例では、許容値を超える設定を禁止する例について説明したが、これに限られることはなく、例えば許容値を超える設定を行ったときに、その旨を表示装置に表示したり警告音を発するようにして、オペレータに残りのパラメータの設定が所定値を超えるものである旨を通知するようにしても良い。
【0058】
〔実施例2〕
半導体素子ではその設計性能を実現するために、回路パターンの形状・寸法を厳しく管理することが必要であり、そのため、検査工程では微細な寸法を測長できる測長電子顕微鏡が使われている。しかし、観察・測定過程において、測長のための電子線照射で図4
(1)〜(3)に示すようにパターン形状が変化してしまう。ラインパターンであれば図8(a)に示すように測長値が測定前の寸法より小さく現れ、ホールパターンであれば逆に図8(b)に示すように測長値が測定前の寸法より大きく現れてしまい、シュリンクが生じる前の寸法が判らないという問題がある。
【0059】
さらに、連続して同一個所を測定するとき、電子線照射を繰り返すことで線幅が変化することから、測定の都度測定値がばらついてしまい、測定精度が上がらないといった問題がある。測長によりパターンがシュリンクすることで正確な寸法値が判らず、ArFレジストを使用した半導体素子製造の大きな障害となっている。特開平9−166428号公報に開示の技術では、複数回の測定から近似曲線を演算し、電子線照射前の寸法を推定し、コンタミネーションによる測定への影響を低減することを行っているが、測定回数の増加に伴ってシュリンクが進むことについては何等考慮されていなかった。
【0060】
更に、半導体工場において、測定装置の安定性を評価するために同一個所を10回連続で測定し、そのばらつき量を小さくするということが行われていたが、電子線照射の度合によってシュリンクが進行することで、同一点で繰り返し測長を行うとパターンがシュリンクしてしまい、測定のばらつき(3σ;σは測定値の標準偏差)値も大きくなってしまうため、工程管理上問題があった。
【0061】
本実施例では、シュリンクが避けられないパターンの測長を行うのに好適な測長方法、及び測長を行うための装置について説明する。
【0062】
先に説明したように、ArFレジストパターンのシュリンクはレジストに入射する収束電子線のエネルギーによる化学反応であると考えられる。そして(1)式から、測定回数nが大きくなってくるとシュリンク量2Sが徐々に小さくなっていき、やがて停止することがわかる。
【0063】
また、測定値そのものは測定を重ねるごとに小さくなっていき、やがてそれ以上シュリンクが進行しない一定値に収束することになる。このような測長値の推移を測定回数に対してプロットすると図9(a)のようになり、下に凸の関数で近似できることがわかる
(図9(b))。この近似関数はパターン寸法の変化(減少)の推移を示す関数である。
【0064】
従って、同一のパターンを複数回測長することで得られた測長値から近似関数を算出し、近似関数をゼロ点に外挿することで測長によりパターンがシュリンクする前の寸法が得られる(図9(c))。このとき、近似関数は次数が高くても構わないし、測定点数が小さい場合は直線近似となっても構わない。なお、以下の説明ではシュリンクする前の測長推定値を、電子線によるゼロ回目の測長値の意味で「ゼロ回値」と表現する。
【0065】
本実施例では、先ずArFレジストに見られるような電子線照射により試料に形状変化を引き起こす試料の測定精度を確保し、前述の目的を達成するために、図1や図6で説明したような走査電子顕微鏡を用いて、同一測定点で測長した複数の測長値を記憶し、これらの測長値から近似関数を算出、近似関数を外挿して電子線を照射する前のArFレジストの寸法を求めるようにした。
【0066】
さらに、従来同一個所を10回測長時の測長値のばらつき(3σ)をもって、測長装置の安定性、特に再現性の評価を行っていた。しかしながら、ArFレジストのように電子線照射で変形する試料に対しては、測長装置に関係なく測長値が変化してしまうため、求めた3σが必ずしも測長装置の変動を示さなかった。
【0067】
本実施例では、以下の(2)式に示すように、m回の測長値から1つ(1番目)のゼロ回時の測定値(以降ゼロ回値と呼ぶ)を算出するとき、続けて(m+1)回目の測定を行い(m+1)個の測長値から2つ目(2番目)のゼロ回値、さらに(m+2),(m+3),・・・,(m+n−1)個の測定値からそれぞれ3つ目,4つ目,・・・,n個目のゼロ回値が得られる。さらに、mを適切な値に設定することで、各ゼロ回値の精度を上げることができ、測定値も後のデータになればなるほど、推測に用いられるデータが大きくなるため、ゼロ回値の精度,信頼性が向上する。また、このようにして得られた10個のゼロ回値のばらつきを評価できるようにすることで、測定毎に変化する測長値そのもののばらつきを評価するよりも測定精度の向上を可能にし、ばらつきも小さくしたものである。
ここで、ばらつきの評価に用いるゼロ回値の数は、任意の回数とし、選択できるようにしても良い。
【0068】
M0,1=Fit(M1,M2,・・・,Mm)
M0,2=Fit(M1,M2,・・・,Mm,Mm+1)
・ ・ ・ (2) ・ ・ ・
・ ・ ・
M0,n=Fit(M1,M2,・・・,Mm,・・・,Mm+n-1)
ここで、M0,nはn個目のゼロ回値、Mmはm回目の測長値を示し、Fit( ) は選択された測長値にフィットした近似関数を示している。
【0069】
以上のように求めた近似関数を前もって取得・記憶しておき、測長を行う際にこの近似関数を用いることで、少なくとも1回以上の測定でゼロ回値を算出することを可能とした。電子線照射によって減少するパターンの推移を示す関数を予め求めておけば、近似関数を求めるために電子線を照射し続ける必要がなくなるため、シュリンクするパターンへのダメージを最小限に抑えることができる。
【0070】
なお、近似関数は、測定を行おうとする試料に対して、前もって算出し、登録した複数の近似関数から、選択しても構わないし、加速電圧,プローブ電流,観察倍率,電子線走査の回数など、試料に与え得る電子線の最大/最小エネルギーに対して前もって算出した近似関数から、現在の条件で測定時に試料に与えるエネルギー量に対して内部補間し、それらの近似関数を合成してゼロ回値の推測に用いても良い。測長値が得られたならば、このようにして得られた近似関数を、図21(a)〜(c)に示す様な過程で近似関数を1回測定の結果に合致するように平行移動させ、取得した測長値に対応するゼロ回値を推測する。
【0071】
試料に入射する電子線のエネルギーと、試料の変化量に関して、加速電圧(Vacc )の変更は電子線のエネルギーそのものを変えるため、大きくすると試料に与えられるエネルギーも大きくなり、試料の変化量は大きくなる。電流密度(Ip )を上げると、照射電流密度が上昇するし、観察倍率(MAG)を上げると、試料内の電子線照射面積が小さくなるため、単位面積あたりの電流照射量が上がり、それぞれ照射されるエネルギーが大きくなる。また、試料表面からの信号量を増やし、像のS/N比を上げるために電子線走査回数(Frame )を増加すると、走査回数に比例して試料に与えられるエネルギーが増加する。
【0072】
従って、それぞれのパラメータが最大/最小のときの近似関数を前もって算出しておき、測長時の各条件に合わせて内部補間することで、それぞれのパラメータに対するゼロ回値を算出することができるようにした。このとき、図13(a)〜(c)に示すように、試料に与え得る加速電圧,電流密度,観察倍率,走査回数などの各パラメータそれぞれの最大値:PMAXおよび最小値:PMINにおける近似関数を前もって算出・記憶しておき、1回測定時の加速電圧,電流密度,観察倍率,走査回数などの各パラメータに対してそれぞれ内部補間して得られる近似関数を合成し、現在の照射エネルギーに対応する近似関数を得る。こうして得た近似関数を図13中の測長値軸方向に平行移動させ、1回測長結果と合致させることで、照射エネルギーに対するゼロ回値を推測する。なお、上記光学パラメータは例えば入力装置27からの任意の設定が可能であり、制御演算装置30は入力装置27からの指示に基づいて、走査電子顕微鏡鏡体の各光学素子を制御する。電子線の走査は一次元的なものであっても二次元的なものであっても良い。
【0073】
ところで、近似関数によりゼロ回値を算出すれば、最終的な試料の変化量Δtotal をゼロ回値と最終測定値との差として(3)式のように算出・出力できる。
【0074】
Δtotal=M0,T−Mm+T-1 (3) ここで、M0,T,Mm+T-1は最終的なゼロ回値と測長値を表す。さらに、n番目のゼロ回値M0,nと(m+n−1)番目の測長値Mm+n-1の差Δn を(4)式のように測長する毎に算出できる。
【0075】
Δn=M0,n−Mm+n-1 (4) また、前記のように変化量を算出するだけでなく、入力装置より入力した任意の試料の変化量Xに対し、同一測定点にて連続して測長を実行し、(4)式で示すΔがXの範囲から外れるまで測長を行うようにすることもできる。すなわち、測長の条件として(5)式を追加すればよい。
【0076】
|Δn|<X (5) 算出した|Δn |がXを超えた時点で測長処理を終了して算出したゼロ回値,測長値のばらつき3σ,試料の変化量Δ、およびこれらのパラメータの変化を示すグラフ等を表示する。(5)式のパラメータとしてはΔだけでなく測長値のばらつき3σなどを選べるようにしても良い。
【0077】
また、電子顕微鏡は真空容器内で電子線を試料に照射する装置であるが、真空容器内部にカーボンの重合体などの分子が存在すると試料への電子線照射時に、試料と反応して試料上に不純物(以後コンタミネーションと呼ぶ)として堆積することがわかっている。本発明では同一測定点にて連続して測長を実行するため、前記ArFレジストにてシュリンクが停止した後も電子線照射を続ければ、その後は電子線照射量に比例したコンタミネーション分だけ測長値は増加する。
【0078】
同一測定点を連続で測定するとき、測長値が増加する傾向を確認したら、直線成分の傾き(Ks )を(6)式のように算出する。それまでの測長において試料に付着したコンタミネーション量は(7)式で算出できる。
【0079】
Ks=(Mr−Mn)/(r−n) (6) C=Ks・r (7) ここで、rは測長回数、nはシュリンクが停止した測長回数、Cは試料へのコンタミネーション付着量、Mr,Mnはそれぞれr回,n回目の測長値を示す。測長値の傾向が増加に転じたかどうかの判断は次のように行える。すなわち、r番目の測長値とその5つ前までの測長値の平均Mave,rをとり記憶する。一つ前の平均Mave,r-1と比較し、大小を確認する。比較結果が複数回連続して大となったら、図11(a)に示すようにシュリンクが停止したと判断する。増加部分は電子ビーム照射によって試料に直線的に付着するカーボン系のコンタミネーションと推定される。そのため、増加部分のグラフの傾きKs を算出し、図11(b)に示すように測長値Mmから直線成分を差し引いた値(Mm′)を算出・記憶,コンタミネーション分を考慮した近似曲線を算出し、これからゼロ回値(M0,n″),測定値のばらつき,試料の変化量(Δ″)などが算出でき、一層精度を上げた測定が可能となる。
【0080】
Mm′=Mm−Ks・m (8) M0,n″=Fit(M1′,M2′,・・・,Mm+n-1′) (9) Δ″=M0,n″−Mm+n-1′ (10) 以下に上記本実施例をフローチャートを交えてより詳細に説明する。
【0081】
図8(a)(b)に示すように、パターンの寸法測定は、試料像表示装置26に試料像と共に2本の垂直カーソル線18、または水平カーソル線19を表示させ、入力装置27を介してその2本のカーソルをパターンの2箇所のエッジに設置し、試料像の像倍率と2本のカーソルの距離の情報をもとに制御演算装置30でパターンの寸法値として測定値を算出し、記憶装置に記憶する。連続して測長を行い、順次算出した測長値を記憶装置に記憶し、制御演算装置30にて近似関数を算出する。この近似関数から、制御演算装置30で、(2)式に基づいてゼロ回値を算出し、記憶装置に記憶する。また算出したゼロ回値を試料像表示装置26に表示することもできる。
【0082】
図8に、本発明で問題とするArFレジストのラインパターン測長時の測定値とゼロ回値について示す。本来電子線を照射する前は、ラインパターンの水平カーソル線19で指定する範囲のラインプロファイルから図8(1)で「ゼロ回値」と示した幅を持つパターンが、電子線を照射することによりArFレジストのシュリンクが発生してラインプロファイルが変化してしまい、図8(2)の測定後の幅として測定される。
【0083】
図14のフロー図に沿って図9の概念図を用い、本実施例を説明する。フロー1411にて試料の目的のパターンを測長し、フロー1412にて記憶装置に測長値を記憶する。
このときの値は、図9(a)中の1回目の測定点(M1 )として記憶される。引続き同じ測定点で測定を行い、それぞれ測長値M2,M3,・・・,Mm として記憶し、測長回m回でm個の測長点から図9(b)に示すように、制御演算装置30で測定回数に対する測長値の近似関数を算出し(図9(b)は4次式で近似した場合の例を示す。また、図14ではm=3としている。)、次いで図9(c)のごとく測定回数ゼロ回に外挿してゼロ回値M0,1を算出・記憶する。引続き測長を行ったとき、順次フロー1413にて、(m+1)個,(m+2)個,・・・,(m+n−1)個の測長点からそれぞれ近似関数を算出し、ゼロ回値の算出・記憶を行う。フロー1414にて測長が終了したら、フロー1415にて、ゼロ回値の標準偏差σを算出し、フロー1416にて表示装置26上にn個のゼロ回値および近似関数,データのばらつき(3σ)などを表示する。
【0084】
また、上記と同様に10個のゼロ回値を演算装置にて算出する。次いで、求めた10個のゼロ回値M0,1,M0,2,M0,3,・・・,M0,10 の標準偏差σを求め、3倍した値、3σを測長装置の安定度を示す指標として算出・表示する。これによって電子線照射による試料の変化に影響されない、測長装置の安定性を算出・表示することを可能にする。このように求めた複数のゼロ回値をもとに標準偏差を求めることで、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザー光に反応するフォトレジストにより形成されたパターンのような、100nm以下の微小なパターンを測長対象としたときの装置精度の確認が容易になる。
【0085】
次に、近似関数を予め記憶しておき、少なくとも1回の測長結果からゼロ回値を算出する例を図15のフロー図を用いて説明する。
【0086】
測長電子顕微鏡にて、複数ある試料を同一のレシピを用いて自動測長する場合などに、フロー1509にて、先の実施例と同様にして求めた近似関数をあらかじめ記憶装置に記憶しておき、フロー1502で得られた1個の測長結果から、前記の近似関数を用いて図21(a)〜(c)のごとく補正してゼロ回値M0,1 を算出し、フロー1505にて記憶装置に記憶する。複数ある試料の測長が終了したら、フロー1507にて測長結果であるゼロ回値データのばらつき3σを算出・記憶し、表示装置26に各試料のゼロ回値およびデータのばらつきを表示する。このときデータの表示は、ゼロ回値の算出のたびに行っても構わない。また、近似関数はフロー1509のごとく同一試料を用いて事前に取得したものを選択して用いてもいいし、フロー1501のように自動測長のレシピ内で求めたものを用いても構わない。以上のような構成によれば、少なくとも1回以上の少ない測定回数でゼロ回値を算出することができるので、測長対象のシュリンクを最小限に抑えることができる。
【0087】
次に予め算出した近似関数と電子顕微鏡の光学条件に基づいて、ゼロ回値の推定を行う例について図16のフロー図を用いて説明する。複数ある試料をレシピを用いて自動測長する場合に、フロー1609にて、試料に与える電子線のエネルギー量を変化させるパラメータ(加速電圧:Vacc,電流密度:Ip,測定倍率:MAG,電子線の走査回数:Frame)に対してそれぞれ最大の場合と最小の場合の近似関数PmaxとPminを制御演算装置30にて算出し、記憶装置に記憶する。このデータは、レジスト材料やパターン形状など、試料ごとに異なるため、試料の種類に応じたデータを取得・記憶する必要があり、それらの中から目的の試料に対するデータを選択する。
【0088】
フロー1601にて測長値M1 が取得・記憶され、フロー1603にて現在のパラメータ状態から図13(b)に示すように測長回数1回時にPmax−Pmin間を内部補間したときの各近似関数が制御演算装置30で算出・記憶され、図13(c)のように、ゼロ回値推測用の近似関数として合成・記憶される。
【0089】
現在の照射条件が測長中に保たれる場合、毎回、測長時のエネルギー条件に照らし合わせて補正係数を求めても構わないし、以後の測定ではここで求められた係数を用いてゼロ回値M0,1 の計算に使っても構わない。その後フロー1604にて、記憶装置に記憶した測長値から近似関数を算出し、合成後の近似関数を図20(a)〜(c)のごとく測長値に対して平行移動することで、試料に照射するエネルギーに対して補正したゼロ回値
M0,1を算出・記憶する。
【0090】
全ての試料の測長が終了したら、フロー1607にて複数のゼロ回値M0,1 のばらつき3σを算出し、フロー1608にて複数のゼロ回値M0,1 およびゼロ回値のばらつき3σを表示装置26に表示する。表示は、ゼロ回値取得ごとに行っても構わない。尚、フロー1609は、前もって取得してあっても良いし、フロー1601の直前に取得しても構わない。
【0091】
以上のような構成によれば光学パラメータに応じた近似関数を求めることができるので、装置条件を変化させた場合であっても適正な近似関数を選択することができる。
【0092】
本発明実施例では、図21〜図23に示すような入力装置により、測長時に用いる近似関数を、オペレータが任意に取得・設定、または編集を可能とした。
【0093】
図21に示す入力画面では、オペレータは、事前に取得した近似曲線をゼロ回値の推測に使うか、試料への入射エネルギーに対して自動的に算出した近似関数を使うかの選択ができる。さらに図22の入力装置にて、事前に取得した近似曲線のみならず、新たに近似関数を取得できるようにし、さらに、別途、装置供給メーカなどが提供する近似曲線を導入することが可能とし、編集などしてゼロ回値の推測に選択可能とした。
【0094】
さらに図23では、ゼロ回値の推測に用いる近似関数だけでなく、入射エネルギーで自動的にゼロ回値を推測する場合に必要な、加速電圧,電子線密度,観察倍率,電子線の走査回数などの各パラメータの最大・最小時の近似曲線も装置供給メーカなどが提供することを可能とした。
【0095】
図17はゼロ回値とm+n−1番目の測長値間の差を算出する過程を示すフローチャートである。図17(a)中、フロー1701〜1704にて、同一測定点を(m+T−1)回行い、近似関数を算出し、ゼロ回値を算出する。次いでフロー1705にて、(3)式を用いて(m+T−1)個の測長値から算出したゼロ回値M0,T と(m+T−1)回目の測定値Mm+T-1から(m+T−1)回測定時の総合的な試料の変化量Δtotalを算出・記憶する。
【0096】
フロー1706にて変化量Δtotal を表示装置26に出力する。ここで、図17(b)に示すように、(4)式を用いて(m+n−1)番目のゼロ回値M0,n と(m+n−1)番目の測長値Mm+n-1の差Δmを測長毎などの途中段階で算出・表示することで、どの程度シュリンクが進行しているのか把握することが容易になる。
【0097】
図18は所定のシュリンク量が認められたとき、或いはゼロ回値のばらつきが所定値以下になった場合に、測長を停止する過程を示すフローチャートである。フロー1801にて、図12(a)に示すような入力装置27により任意の測長値のばらつき3σまたは試料の変化量Δを選択し、数値Xを入力する。以後、フロー1802〜1804により、同一測定点にて連続して算出・記憶した測長値から現在のゼロ回値M0,n を算出し、フロー1805にてゼロ回値のばらつき3σ、あるいは試料の変化量Δn を算出する。フロー
1806にて、算出した3σが所定値以下になるか、もしくはΔn の値がフロー1501にて入力したXを超えないか(5)式または(11)式を用いて判断する。
【0098】
3σ<X (11) 図12(b)で示す様に、算出した3σまたはΔの絶対値が入力値Xを超えた時点で測長処理を終了してフロー1808にて、算出したゼロ回値M0,n,3σまたはΔn、およびこれらの値の変化を示すグラフ等を表示装置26に表示する。Xを超えない場合はフロー1807に従って、測長処理を終了させ、最終的に得られたN個のゼロ回値M0,N 、およびばらつき3σまたは変化量ΔN 、およびこれらのパラメータの変化を示すグラフ等を表示する。
【0099】
以上のように、所定の変化量を検出したとき、或いはゼロ回値のばらつきが所定値以下になった場合に測長停止処理を行うようにすれば、所定の測長精度を確保するに十分な走査回数の設定が可能になる。レジストの種類によってはシュリンク量が大きく異なるため、所定の測定精度を確保する測定回数を見出すことは難しいが、本実施例によればレジストの種類に因らず、所定のゼロ回値検出精度を確保する設定を行うことが容易になる。また、適正な測長回数を設定することができるようになるので、スループット向上にも効果がある。
【0100】
なお、図18に示す実施例では測定回数(走査回数)による管理を行っているが、これに限られることはなくシュリンク量を単位時間毎に時系列に管理し、所定時間電子線を走査した後に、走査を中断するように制御しても良い。
【0101】
図19は、パターンに対するコンタミネーションの付着に因らず、シュリンクを示す近似関数を正確に測定するのに好適なステップを示したフローチャートである。フロー1901にて同一測定点にて連続して測長を行い、測長値を算出・記憶する。フロー1902にて、(r−5)回目の測長値からr回目の測長値までの平均を算出・記憶する。(r−6)回目の測長値から(r−1)回目の測長値までの平均との差Mdiff,rを算出する。フロー1903にてMdiff,rを記憶装置29に記憶する。フロー1904にて、差Mdiff,rが複数回連続して正になったら、図11(a)に示すようにシュリンクが停止し、測長値が直線状の増加をはじめたと判断し、測長を終了する。次いで、フロー1905にて(6)式により直線成分の傾きKs を算出する。直線成分は、試料表面にコンタミネーションが付着したものであるから、(8)式にて付着量が算出できる。
【0102】
コンタミネーションの付着は試料のシュリンク中にも測定回数に応じて付着しているため、フロー1906にて記憶装置に記憶している全ての測長値に対して(8)式を用いてコンタミネーションの付着分を考慮した(測長値Mm から直線成分を差し引いた値)測長値Mm′ を算出する。フロー1907にて、M1′からMm′までの近似関数を新たに算出し、(9)式を用いて直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ を算出・記憶する。その他、
(10)式を用いて直線成分補正後の試料の変化量Δ″の算出、および直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ のばらつき3σ″を算出し、フロー1908にて、直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ ,ばらつき3σ″,試料の変化量Δ″、および近似関数などを表示装置
26に表示する。以上のような構成によれば、コンタミネーションの付着があっても正確な近似関数を求めることが可能になる。
【0103】
以上、本発明実施例によれば、試料の観察時に照射する電子線によって形状が変化してしまうようなフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザを光源とするフォトレジスト等の測定において、連続した自動測定時に、少なくとも1回の測定で形状が変化する以前の測長値を得ることができ、測定精度の高い寸法測定が可能になり、また、自動での測長処理が可能となる。また、測定値のばらつきを小さくすることができ、半導体製造の工程管理する上で利点がある。
【0104】
また、電子線の照射量に対する試料の変化量を自動的に測定することが可能となり、画面上に変化の推移を示すグラフを表示できるため、ArFレジスト測定時の電子線の最適条件を調べることが容易となり、測長電子顕微鏡など電子線装置を用いる場合のパターン幅の管理に利点がある。
【0105】
さらに、試料表面に不純物の付着がある場合にも形状が変化する以前の測長値を得ることが可能となり、測定精度の高い寸法測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明実施例の走査型電子顕微鏡のブロック図である。
【図2】本発明におけるラインパターン寸法測定時の電子線の走査方法を説明する図である。
【図3】本発明実施例におけるホールパターン寸法測定時の電子線の走査方法を説明する図である。
【図4】レジストと電子線との相互作用によるシュリンクの概要を説明する図である。
【図5】測定回数とシュリンク量の関係の実験結果を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例の走査型電子顕微鏡のブロック図である。
【図7】倍率選択画面の例を示す図である。
【図8】ゼロ回値と測長値の関係を示す図である。
【図9】ゼロ回値算出のプロセスを示す図である。
【図10】測定回数とシュリンク量の関係を示す図である。
【図11】不純物がある場合のゼロ回値算出のプロセスを示す図である。
【図12】入力画面および測定の概要を示す図である。
【図13(a)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図13(b)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図13(c)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図14】ゼロ回値測定のプロセスを示すフローチャートである。
【図15】近似関数を予め記憶しておき、少なくとも1回の測長結果からゼロ回値を算出するプロセスを示すフローチャートである。
【図16】予め算出した近似関数と電子顕微鏡の光学条件に基づいて、ゼロ回値の推定を行うプロセスを説明するフローチャートである。
【図17】ゼロ回値とm+n−1番目の測長値間の差を算出する過程を示すフローチャートである。
【図18】所定のシュリンク量が認められたときに測長を停止する過程を示すフローチャートである。
【図19】パターンに対するコンタミネーションの付着に因らず、シュリンクを示す近似関数を正確に測定するのに好適なステップを示したフローチャートである。
【図20】近似方式の選択画面を説明する図である。
【図21】近似関数の選択・提供画面の第1の例を説明する図である。
【図22】近似関数の選択・提供画面の第2の例を説明する図である。
【図23】近似関数の選択・提供画面の第3の例を説明する図である。
【図24】走査電子顕微鏡の光学パラメータの設定画面の一例を説明するための図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡を用いて微細パターンの寸法を計測する方法、及び走査型電子顕微鏡に関り、特に電子線を照射することによって形状が変化する試料を測定の対象とする試料寸法の測定方法及び走査型電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や薄膜磁気ヘッドなど、表面の微細加工により製作される機能素子製品の製造・検査工程では、加工されたパターン幅の測定(以下「測長」と呼ぶ)および外観検査に、走査型電子顕微鏡が広く用いられている。
【0003】
走査電子顕微鏡は、電子源から放出され、磁場あるいは電場と電子線の相互作用を利用した収束レンズおよび対物レンズにより細く絞られた電子線を、偏向器を用いて試料上で一次元あるいは二次元的に走査し、電子線照射によって試料から発生する二次信号(二次電子や反射電子,電磁波)を光電効果等を利用した検出器により検出し、その検出信号を電子線の走査と同期した輝度信号等の可視化可能な信号(以下「像信号」と呼ぶ)に変換・処理することで試料像を形成する装置である。
【0004】
走査型電子顕微鏡では、観察・測長する試料表面の形状と高い精度で対応した試料像を得られるように努力が払われている。すなわち、試料表面を観察する際、像信号の可視化は該走査領域と正確に相似な平面領域(以下「像領域」という)で行われ、該走査領域内各点からの像信号の像領域内での配列も、対応する該走査領域内各点の位置と正確に相似の位置に配列される。この配列を実現するためには、
1)走査領域と像領域共に矩形とし、それぞれ矩形の一辺を長さとする同一本数の走査線で構成する。
2)走査領域と像領域では走査線長と走査線間距離の比を一致させることが一般に行われている。
【0005】
こうすることにより、試料表面の任意の2点間の距離は、対応する試料像の2点間の距離と常に一定の比を持つ。この比が走査電子顕微鏡の倍率となる。このような技術は走査電子顕微鏡を構成する基本技術として広く実現されており、例えばライマー著『スキャニング・エレクトロン・マイクロスコピー』(L.Reimer,『SCANNING ELECTRON MICROSCOPY』)(独)2頁〜などにその記述をみることができる。
【0006】
さらに、こうして得た試料像からは、試料表面の任意の2点間の距離を容易に演算することができる。この演算は一般に「測長」と呼ばれ、かかる演算機能を持つ走査電子顕微鏡は「測長電子顕微鏡」と呼ばれている。
【0007】
一方、試料表面上の走査領域と試料像とが相似でない例として特許文献1があり、この例では、微小な素子であるにも関わらず離間しているために倍率を低くして寸法測定を行わざるを得ないパターンをもつ試料を測定するために試料上の2点を結ぶ直線に対して垂直な方向に前記試料像を伸ばして二次電子像を形成し、寸法の測定精度を向上するものである。
【0008】
【特許文献1】特開2001−147112号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
走査電子顕微鏡では、当然のことながら観察する試料表面に数百エレクトロンボルト以上の到達エネルギーをもつ電子線を照射することになる。
【0010】
一方、近年、半導体の表面の微細加工は一層の微細化がすすみ、フォトリソグラフィーの感光材料として、例えばフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光に反応するフォトレジスト(以下「ArFレジスト」と呼ぶ)が使われ始めている。
【0011】
ArFレーザ光は波長が160nmと短いため、ArFレジストはより微細な回路パターンの露光に適しているとされている。しかし、最近の検討の結果、電子線照射に対して大変脆弱で、形成されたパターンを走査電子顕微鏡で観察あるいは測長すると、収束電子線の走査により基材のアクリル樹脂等が縮合反応をおこし体積が減少(以下「シュリンク」と呼ぶ)して、回路パターンの形状が変化してしまうことが知られるようになってきた。
【0012】
半導体素子ではその設計性能を実現するために、回路パターンの形状・寸法を厳しく管理することが必要であり、そのために検査工程では微細な寸法を測長できる測長電子顕微鏡が使われている。しかるに、観察・測定工程において測長のための電子線照射でパターン形状が変化してしまう場合、回路パターン寸法として所望の設計値を得られず、素子の特性劣化や破壊を引き起こすという問題がある。
【0013】
さらに、線幅が変化することから同一寸法を測定しても、測定都度測定値がばらついてしまい、測定精度が上がらないといった問題がある。現時点では、測長電子顕微鏡に代わって微細な寸法を所望の精度で測長できる装置はなく、パターンのシュリンクはArFレジストを使用した半導体素子製造の大きな障害となっている。従って、従来の走査型電子顕微鏡では電子線照射時の試料のシュリンクについては配慮されておらず、パターン寸法の測定値の精度に問題があった。また、前出の特開2001−147112号公報の例でも、試料上で離れた2点間の寸法測定の測定精度については考慮されているが、電子線の照射時の試料のシュリンクについては考慮されていなかった。
【0014】
本発明の第1の目的は、電子線の照射によってシュリンクを起こすパターンを測定する際に、そのシュリンクの発生を抑制することで、正確なパターンの寸法測定を可能とすることにある。
【0015】
また、本発明の第2の目的は、シュリンクの発生に関わらず、正確なパターンの寸法測定を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では上記第1の目的を達成するために、電子源と、該電子源より放出された電子線を試料台上に配置された試料表面に二次元的に走査する走査手段と、前記電子線の照射により試料から放出される荷電粒子あるいは電磁波を検出する検出手段と、当該検出手段によって検出された荷電粒子あるいは電磁波から試料表面形状の寸法を演算により測定する演算装置とを具備した走査型電子顕微鏡を用いて、電子線の照射密度が前記試料の物性により定まる所定値より大きくならないように、前記電子線の走査領域内の走査線間間隔を制御する。
【0017】
また、上記第2の目的を達成するために、本発明では、試料上に電子線を走査し当該走査個所から放出された電子の検出に基づいて、前記試料上に形成されたパターンの寸法を測定する方法において、前記試料上に電子線を照射したときの前記パターン寸法の減少の推移を示す関数を予め求めておき、当該関数と前記電子線を試料上に走査して得られる測長値に基づいて、前記パターンの減少前の寸法を演算する。
【0018】
本発明のより具体的な構成及び効果は発明を実施するための最良の形態の欄で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は本発明の一実施例である走査電子顕微鏡の構成を示す図である。陰極1と第一陽極2の間には、制御演算装置30(制御プロセッサ)で制御される高電圧制御電源21により電圧が印加され、所定のエミッション電流が陰極1から引き出される。陰極1と第二陽極3の間には制御演算装置30で制御される高電圧制御電源21により加速電圧が印加されるため、陰極1から放出された一次電子線4は加速されて後段のレンズ系に進行する。一次電子線4は、集束レンズ制御電源22で制御された収束レンズ5で収束され、絞り板8で一次電子線4の不要な領域が除去される。
【0020】
その後、対物レンズ制御電源23で制御された対物レンズ7により試料9に微小スポットとして収束され、偏向コイル11で試料上を二次元的に走査される。偏向コイル11の走査信号は、観察倍率に応じて偏向コイル制御電源24により制御される。また、試料9は二次元的に移動可能な試料ステージ41上に固定されている。試料ステージ41はステージ制御部25により移動が制御される。
【0021】
一次電子線4の照射によって試料9から発生した二次電子10は二次電子検出器12により検出され、描画装置28は検出された二次信号を可視信号に変換して別の平面上に適宜配列するように制御を行うことで、試料像表示装置26に試料の表面形状に対応した画像を試料像として表示する。
【0022】
入力装置27はオペレータと制御演算装置30のインターフェースを行うもので、オペレータはこの入力装置27を介して上述の各ユニットの制御を行う他に、測定点の指定や寸法測定の指令を行う。なお、制御演算装置30には図示しない記憶装置が設けられており、得られた測長値等を記憶できるようになっている。
【0023】
二次電子検出器12で検出された信号は、信号アンプ13で増幅された後、描画装置
28内の画像メモリに蓄積されるようになっている。なお、本実施例装置は二次電子検出器12を備えているが、これに限られることはなく、反射電子を検出する反射電子検出器や光,電磁波,X線を検出する検出器を二次電子検出器に替えて、或いは一緒に備えることも可能である。
【0024】
画像メモリのメモリ位置に対応したアドレス信号は、制御演算装置30内、或いは別に設置されたコンピュータ内で生成され、アナログ変換された後に、偏向コイル11に供給される。X方向のアドレス信号は、例えば画像メモリが512×512画素(pixel) の場合、0から512を繰り返すデジタル信号であり、Y方向のアドレス信号は、X方向のアドレス信号が0から512に到達したときにプラス1される0から512の繰り返しのデジタル信号である。これがアナログ信号に変換される。
【0025】
画像メモリのアドレスと電子線を走査するための偏向信号のアドレスが対応しているので、画像メモリには走査コイルによる電子線の偏向領域の二次元像が記録される。なお、画像メモリ内の信号は、読み出しクロックで同期された読み出しアドレス生成回路で時系列に順次読み出すことができる。アドレスに対応して読み出された信号はアナログ変換され、試料像表示装置28の輝度変調信号となる。
【0026】
画像メモリには、S/N比改善のため画像(画像データ)を重ねて(合成して)記憶する機能が備えられている。例えば8回の二次元走査で得られた画像を重ねて記憶することで、1枚の完成した像を形成する。即ち、1回もしくはそれ以上のX−Y走査単位で形成された画像を合成して最終的な画像を形成する。1枚の完成した像を形成するための画像数(フレーム積算数)は任意に設定可能であり、二次電子発生効率等の条件を鑑みて適正な値が設定される。また複数枚数積算して形成した画像を更に複数枚重ねることで、最終的に取得したい画像を形成することもできる。所望の画像数が記憶された時点、或いはその後に一次電子線のブランキングを実行し、画像メモリへの情報入力を中断するようにしても良い。
【0027】
またフレーム積算数を8に設定した場合に、9枚目の画像が入力される場合には、1枚目の画像は消去され、結果として8枚の画像が残るようなシーケンスを設けても良いし、9枚目の画像が入力されるときに画像メモリに記憶された積算画像に7/8を掛け、これに9枚目の画像を加算するような重み加算平均を行うことも可能である。
【0028】
また本発明実施例装置は、検出された二次電子或いは反射電子等に基づいて、ラインプロファイルを形成する機能を備えている。ラインプロファイルは一次電子線を一次元、或いは二次元走査したときの電子検出量、或いは試料像の輝度情報等に基づいて形成されるものであり、得られたラインプロファイルは、例えば半導体ウェハ上に形成されたパターンの寸法測定等に用いられる。
【0029】
パターンの寸法測定は、試料像表示装置26に試料像とともに2本の垂直または水平カーソル線を表示させ、入力装置27を介してその2本のカーソルをパターンの2箇所のエッジへ設置し、試料像の像倍率と2本のカーソルの距離の情報をもとに制御演算装置30でパターンの寸法値として測定値を算出する。
【0030】
なお、図1の説明は制御プロセッサ部が走査電子顕微鏡と一体、或いはそれに準ずるものとして説明したが、無論それに限られることはなく、走査電子顕微鏡鏡体とは別に設けられた制御プロセッサで以下に説明するような処理を行っても良い。その際には二次電子検出器12で検出される検出信号を制御プロセッサに伝達したり、制御プロセッサから走査電子顕微鏡のレンズや偏向器等に信号を伝達する伝達媒体と、当該伝達媒体経由で伝達される信号を入出力する入出力端子が必要となる。また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0031】
更に、本実施例装置は、例えば半導体ウェハ上の複数点を観察する際の条件(測定個所,走査電子顕微鏡の光学条件等)を予めレシピとして記憶しておき、そのレシピの内容に従って、測定や観察を行う機能を備えている。
【0032】
また、以下に説明する処理を行うプログラムを記憶媒体に登録しておき、画像メモリを有し走査電子顕微鏡に必要な信号を供給する制御プロセッサで、当該プログラムを実行するようにしても良い。即ち、以下に説明する本発明実施例は画像プロセッサを備えた走査電子顕微鏡等の荷電粒子線装置に採用可能なプログラムの発明としても成立するものである。
【0033】
〔実施例1〕
ArFレジストパターンのシュリンクはレジストに入射する収束電子線のエネルギーによる化学反応が原因であると考えられる。そこで収束電子線のパターンへの加速電圧
Vacc ,電子線電流密度Ipd,とシュリンク量の関係を実験的に求めると、ライン形状のパターンにおけるシュリンク量2S(片側のエッジでのシュリンク量をSとして、両エッジでのシュリンク量)は、発明者の実験では(1)の実験式に従った。
2S=K1・VaccK2・{1−exp(−(Ipd0.5・n/K3))} (1) ここで、2S:シュリンク量(両側)、Vacc:加速電圧(V)、K1,K2,K3:レジストによって決まるパラメータ、n:測定回数である。従って、電子線の照射によるArFレジストのシュリンク量を抑えるためには、電子線の照射密度を下げることが有効であることがわかる。
【0034】
本実施例では、ArFレジストに見られるような電子線照射による試料の形状変化を引き起こす試料のシュリンクの発生を抑制し、精度の高い測長を行うために、試料表面の走査領域を平行する複数の走査直線の集合として形成し、測定寸法の始点と終点を結ぶ直線ないしその近傍の走査線上の収束電子線の走査距離を用いて試料表面形状の寸法を測定する際、該走査線の間隔は、試料表面物質の物性から定まる集束電子線の試料表面における照射密度のある値より大きくならないように設定できるようにしたものである。
【0035】
また、測定点の観察時や視野探索時は、観察に最適となるように試料像の縦横比が1となる走査線距離と間隔を設定し、測定時は走査線の間隔を前記の試料表面における照射密度のある値より大きくならない値に設定することで、結果的に測定時の走査線の間隔が観察時の走査線の間隔よりも大きくなるようにしたものである。即ち、観察時や視野探索時に比べて、測定時には走査線の長さに対する走査線間隔の大きさの比率を大きくした。
【0036】
更に、電子線によるArFレジストのシュリンク量が最低となる条件に走査線の走査幅と走査線の間隔を設定できるようにし、加えて、これらの組み合わせを固定値として予め登録しておき、測定時にはそれらの組み合わせを選択できるようにしたものである。以下に図面を用いて説明する。
【0037】
図2に、本発明におけるパターン寸法測定時の電子線の走査方法について示す。図2
(a)はパターンが直線形状のラインパターンの場合である。従来の技術では、試料像の観察や測定の場合、試料像の縦方向と横方向の倍率が高い精度で同じ倍率になるように走査線の長さと間隔が制御されるため、図中にaで示す正方領域で走査されていた。しかし、この電子線の走査方法ではパターンが微細になると、測定精度を維持するために像倍率を上げざるを得ず、結果として電子線を走査する正方領域が小さくなって、単位面積あたりの電子線の照射密度が高くなる。このため、電子線の照射によって物理的・化学的な変化を引き起こすような試料、例えばArFレジストのように収縮をする試料の場合、前述の(1)式に従い、電子線の照射によってパターンに寸法変化が生じ、寸法値を精度よく安定して測定できない問題がある。
【0038】
ここで、ArFレジストのシュリンクについて述べる。ArFレジストのシュリンクは、レジストに入射した電子線がレジスト分子と衝突・散乱するときに発生するため、一般的に電子線のエネルギーが大きいほど大きくなる。このため、試料から出てくる二次電子を測定する走査型電子顕微鏡では、ほとんどの場合一次電子線が試料(この場合はArFレジスト)内部に停止するため、一次電子線の加速電圧が大きいほど、また、ArFレジストに進入する電子線の量(電流密度)が大きいほどシュリンクは大きくなることが判っている。すなわち、同一電子線量でも測定倍率が大きくなるほど電子線の照射領域が小さくなり、その分同一領域に入射する電子線量が大きくなり、シュリンクが進行する。
【0039】
図4を用いて、レジストが電子線との相互作用によりシュリンクする概要を説明する。
図中(1)にて、一次電子線がArFレジストに進入し、飛程Rの距離の間レジスト分子と衝突・散乱を繰り返して停止する。図中(2)で電子線が次々と進入すると、電子線の影響を受けたレジスト領域にシュリンクが発生する。ただし、電子線の影響を受けた部分全てがシュリンクするのではなく、レジストによって定まるパラメータK1の割合だけシュリンクする。新たに進入した電子は、シュリンクしたレジスト、前の電子の影響を受けたがシュリンクしなかったレジスト、前の電子の影響を受けなかった新しいレジストに影響して新たにレジストのシュリンクを引き起こす。図中の破線はシュリンク前のレジストの位置を表している。図中(3)でシュリンクを引き起こした領域と電子線の飛程が一致してシュリンクが終了する。
【0040】
電子線の照射によるレジストのシュリンクを小さくするためには、電子線量を小さくしたり測定倍率を下げるしかなかったが、二次電子信号のS/Nが悪くなったり、倍率を下げたことによる測定精度や再現精度の劣化の問題があった。
【0041】
そこで、偏向コイル制御電源24により偏向コイル11の走査信号を制御して、測定するラインパターンと直行する方向(図2(a)の場合は横軸方向)は走査線の距離をその距離のままとして横方向の像倍率は保ち、ラインパターンの方向(図2の場合は縦軸方向)は走査線の間隔を広く設定することでこの方向の像倍率を下げるように制御演算装置30で制御し、結果的に図中bの長方形の走査領域で電子線の走査を行う。これにより、単位面積あたりの電子線の照射密度を下げられるために電子線の照射によるArFレジストの寸法変化が抑えられて寸法精度の高い測定が可能になり、かつ、試料像の横方向の倍率は下がっていないために測定の精度を劣化させないで測定が可能である。
【0042】
ここでパターン寸法の算出方法について、像表示装置上に表示された二次電子像に2本のカーソルを配置して像倍率とカーソルの距離の情報から制御演算装置30で算出しても良いし、2本の水平カーソル線19に挟まれた区間の水平方向の信号強度のプロファイルを垂直方向に加算を行ったプロファイル20を表示させ、そのプロファイル20からパターンのエッジを検出することで測定値を算出しても良い。
【0043】
図3は穴形状のホールパターンを測定する場合の電子線の走査を示したものである。従来の技術では、電子線をホールを囲む正方の走査領域で走査しており、ホールパターンの場合も、穴径が小さくなるにつれて像倍率を上げる必要があり、このため電子線の照射密度は高くなって、レジストのシュリンクが問題となる。
【0044】
この場合も、偏向コイル制御電源24により偏向コイル11の走査信号を制御して、試料像上で寸法測定を行う横方向の走査線の距離はそのまま維持して像倍率を保ち、寸法測定を行う方向とは直行する縦方向は走査線の間隔を広くするように制御演算装置30で制御する。これにより電子線の照射密度を下げることができ、測定の精度に影響を与えることなく寸法変化の少ない、精度の高い測定が可能になる。
【0045】
ここで、上述の走査領域で電子線の走査を行った場合、図3(b)中に示す像になるが、ホールの径測定は像表示装置上に表示された楕円形状の像で楕円の頂点に2本のカーソルを配置して測定しても良いし、図3(c)に示すように、左右のエッジを多点で検出して曲線で近似し、その左右の曲線間の距離が最大となる位置で穴径の測定値としても良い。
【0046】
また、他の実施例として、構成は図1と同一であるが、試料像観察時や測定点の探索時は走査線の距離と間隔を試料像の縦方向と横方向が同じ倍率となるように設定し、オペレータが入力装置27から測定を指示した時だけ、制御演算装置30によって走査線長さと走査線の間隔を試料に適した、観察時の間隔よりも広い値に設定しても良い。このようにすることで、オペレータに自然で違和感のない操作環境を提供でき、操作性が向上する利点がある。
【0047】
他の実施例として、同じく図1と同じ構成であるが、測定の対象となる試料をArFレジストとした場合、測定に用いる走査線距離と走査線の間隔を、ArFレジストのシュリンクが最低となる照射電流量の値から予め設定することができる。
【0048】
ArFレジストを用いて、測定回数とシュリンク量の関係を発明者らが実験した結果を図5に示す。ArFレジストを用いる半導体製造工程のプロセスはパターンの線幅が0.1μmか、もしくはそれ以下の線幅であり、この線幅のパターンを測定するためには少なくとも像倍率は100k倍以上が必要である。ここで、加速電圧は300V、プローブ電流値は4pA、フレーム枚数は4枚加算を使用した。図5において、従来の技術での走査では、測定精度を劣化しないで測定ができる、試料像の横縦方向の倍率は100k×100k倍であり、この条件では10回の測定で生じたシュリンク量は約4nmであった。
【0049】
本発明により、走査線の間隔を広げて走査領域を拡大することにより電子線の照射密度を低下させる条件として、試料像の横縦方向の倍率を100k×49k、および100k×30kとすると、結果は各々約2.5nmと1.6nmのシュリンク量であった。
【0050】
これより、0.1μm 線幅のArFレジストの測定を行う場合、走査の設定として横方向の像倍率は100k倍とし、照射電流密度はできるだけ下げた条件で使用することが良いと判断される。実際には、実測するパターンの縦方向の長さにも制約を受ける。
【0051】
図6は別の実施例の一例であり、制御演算装置30に記憶装置29を備えることで、被測定試料の最適条件の組み合わせを固定値として記憶する。測定時にオペレータがこの組み合わせの中から条件を選択することで、短時間に試料に適した測定を容易に行える利点がある。図7はその選択画面の例を示したものであり、オペレータは画面に表示された固定の像倍率の組み合わせのなかから、被測定対象の試料に適した条件を選択した後測定を開始することで、容易に走査領域を変更した測定ができる。
【0052】
本発明実施例によれば、試料の観察時に照射する電子線によって形状が変化してしまうようなフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザを光源とするフォトレジスト等の測定において、形状の変化量を最低限に抑えることができ、測定精度の高い、安定した寸法測定が可能になる。
【0053】
また、観察時には走査線の領域を通常の正方の走査領域とすることで、試料の観察や測定部の視野の探索を容易にして操作性を向上できる。
【0054】
更に、試料の特性に合わせた走査線の長さと間隔の組み合わせが登録されているため、その組み合わせを選択することによって容易に最適な測定条件を設定できる利点がある。
【0055】
図24は、走査電子顕微鏡の光学パラメータの設定画面の一例を説明するための図である。この画面上では少なくとも電子線の加速電圧(Accel.Volt),プローブ電流(Probe current),倍率(Magnification),1枚の像を形成するのに必要な積算枚数(走査回数:Frame# )が設定できるようになっている。制御演算装置30はこの設定画面上で設定された値に基づいて、各光学素子の制御を行う。図24の例では加速電圧,プローブ電流,倍率,積算枚数のそれぞれの設定許容値と、許容値を超える設定値がそれぞれ認識できるように、識別表示されている。
【0056】
例えば積算枚数の設定は、4,8,12,16,24,32,…の中から、オペレータが適当な積算枚数を選択できるように、上記の選択欄が設けられている。図24の例の場合、上記選択肢の中で4,8については選択可能となっているが、12,16,24,
32,…については設定を受け付けないようになっている。本実施例装置の場合、予め所定の許容シュリンク量が設定されており、(1)式に従って少なくとも1つの光学パラメータが設定されると、他のパラメータの許容値が算出され、その許容値を超える設定を禁止するようなシーケンスが組み込まれている。以上のような構成によればシュリンクを極力少なくした状態で、適正な観察条件を設定することが可能となる。
【0057】
また、上記実施例では、許容値を超える設定を禁止する例について説明したが、これに限られることはなく、例えば許容値を超える設定を行ったときに、その旨を表示装置に表示したり警告音を発するようにして、オペレータに残りのパラメータの設定が所定値を超えるものである旨を通知するようにしても良い。
【0058】
〔実施例2〕
半導体素子ではその設計性能を実現するために、回路パターンの形状・寸法を厳しく管理することが必要であり、そのため、検査工程では微細な寸法を測長できる測長電子顕微鏡が使われている。しかし、観察・測定過程において、測長のための電子線照射で図4
(1)〜(3)に示すようにパターン形状が変化してしまう。ラインパターンであれば図8(a)に示すように測長値が測定前の寸法より小さく現れ、ホールパターンであれば逆に図8(b)に示すように測長値が測定前の寸法より大きく現れてしまい、シュリンクが生じる前の寸法が判らないという問題がある。
【0059】
さらに、連続して同一個所を測定するとき、電子線照射を繰り返すことで線幅が変化することから、測定の都度測定値がばらついてしまい、測定精度が上がらないといった問題がある。測長によりパターンがシュリンクすることで正確な寸法値が判らず、ArFレジストを使用した半導体素子製造の大きな障害となっている。特開平9−166428号公報に開示の技術では、複数回の測定から近似曲線を演算し、電子線照射前の寸法を推定し、コンタミネーションによる測定への影響を低減することを行っているが、測定回数の増加に伴ってシュリンクが進むことについては何等考慮されていなかった。
【0060】
更に、半導体工場において、測定装置の安定性を評価するために同一個所を10回連続で測定し、そのばらつき量を小さくするということが行われていたが、電子線照射の度合によってシュリンクが進行することで、同一点で繰り返し測長を行うとパターンがシュリンクしてしまい、測定のばらつき(3σ;σは測定値の標準偏差)値も大きくなってしまうため、工程管理上問題があった。
【0061】
本実施例では、シュリンクが避けられないパターンの測長を行うのに好適な測長方法、及び測長を行うための装置について説明する。
【0062】
先に説明したように、ArFレジストパターンのシュリンクはレジストに入射する収束電子線のエネルギーによる化学反応であると考えられる。そして(1)式から、測定回数nが大きくなってくるとシュリンク量2Sが徐々に小さくなっていき、やがて停止することがわかる。
【0063】
また、測定値そのものは測定を重ねるごとに小さくなっていき、やがてそれ以上シュリンクが進行しない一定値に収束することになる。このような測長値の推移を測定回数に対してプロットすると図9(a)のようになり、下に凸の関数で近似できることがわかる
(図9(b))。この近似関数はパターン寸法の変化(減少)の推移を示す関数である。
【0064】
従って、同一のパターンを複数回測長することで得られた測長値から近似関数を算出し、近似関数をゼロ点に外挿することで測長によりパターンがシュリンクする前の寸法が得られる(図9(c))。このとき、近似関数は次数が高くても構わないし、測定点数が小さい場合は直線近似となっても構わない。なお、以下の説明ではシュリンクする前の測長推定値を、電子線によるゼロ回目の測長値の意味で「ゼロ回値」と表現する。
【0065】
本実施例では、先ずArFレジストに見られるような電子線照射により試料に形状変化を引き起こす試料の測定精度を確保し、前述の目的を達成するために、図1や図6で説明したような走査電子顕微鏡を用いて、同一測定点で測長した複数の測長値を記憶し、これらの測長値から近似関数を算出、近似関数を外挿して電子線を照射する前のArFレジストの寸法を求めるようにした。
【0066】
さらに、従来同一個所を10回測長時の測長値のばらつき(3σ)をもって、測長装置の安定性、特に再現性の評価を行っていた。しかしながら、ArFレジストのように電子線照射で変形する試料に対しては、測長装置に関係なく測長値が変化してしまうため、求めた3σが必ずしも測長装置の変動を示さなかった。
【0067】
本実施例では、以下の(2)式に示すように、m回の測長値から1つ(1番目)のゼロ回時の測定値(以降ゼロ回値と呼ぶ)を算出するとき、続けて(m+1)回目の測定を行い(m+1)個の測長値から2つ目(2番目)のゼロ回値、さらに(m+2),(m+3),・・・,(m+n−1)個の測定値からそれぞれ3つ目,4つ目,・・・,n個目のゼロ回値が得られる。さらに、mを適切な値に設定することで、各ゼロ回値の精度を上げることができ、測定値も後のデータになればなるほど、推測に用いられるデータが大きくなるため、ゼロ回値の精度,信頼性が向上する。また、このようにして得られた10個のゼロ回値のばらつきを評価できるようにすることで、測定毎に変化する測長値そのもののばらつきを評価するよりも測定精度の向上を可能にし、ばらつきも小さくしたものである。
ここで、ばらつきの評価に用いるゼロ回値の数は、任意の回数とし、選択できるようにしても良い。
【0068】
M0,1=Fit(M1,M2,・・・,Mm)
M0,2=Fit(M1,M2,・・・,Mm,Mm+1)
・ ・ ・ (2) ・ ・ ・
・ ・ ・
M0,n=Fit(M1,M2,・・・,Mm,・・・,Mm+n-1)
ここで、M0,nはn個目のゼロ回値、Mmはm回目の測長値を示し、Fit( ) は選択された測長値にフィットした近似関数を示している。
【0069】
以上のように求めた近似関数を前もって取得・記憶しておき、測長を行う際にこの近似関数を用いることで、少なくとも1回以上の測定でゼロ回値を算出することを可能とした。電子線照射によって減少するパターンの推移を示す関数を予め求めておけば、近似関数を求めるために電子線を照射し続ける必要がなくなるため、シュリンクするパターンへのダメージを最小限に抑えることができる。
【0070】
なお、近似関数は、測定を行おうとする試料に対して、前もって算出し、登録した複数の近似関数から、選択しても構わないし、加速電圧,プローブ電流,観察倍率,電子線走査の回数など、試料に与え得る電子線の最大/最小エネルギーに対して前もって算出した近似関数から、現在の条件で測定時に試料に与えるエネルギー量に対して内部補間し、それらの近似関数を合成してゼロ回値の推測に用いても良い。測長値が得られたならば、このようにして得られた近似関数を、図21(a)〜(c)に示す様な過程で近似関数を1回測定の結果に合致するように平行移動させ、取得した測長値に対応するゼロ回値を推測する。
【0071】
試料に入射する電子線のエネルギーと、試料の変化量に関して、加速電圧(Vacc )の変更は電子線のエネルギーそのものを変えるため、大きくすると試料に与えられるエネルギーも大きくなり、試料の変化量は大きくなる。電流密度(Ip )を上げると、照射電流密度が上昇するし、観察倍率(MAG)を上げると、試料内の電子線照射面積が小さくなるため、単位面積あたりの電流照射量が上がり、それぞれ照射されるエネルギーが大きくなる。また、試料表面からの信号量を増やし、像のS/N比を上げるために電子線走査回数(Frame )を増加すると、走査回数に比例して試料に与えられるエネルギーが増加する。
【0072】
従って、それぞれのパラメータが最大/最小のときの近似関数を前もって算出しておき、測長時の各条件に合わせて内部補間することで、それぞれのパラメータに対するゼロ回値を算出することができるようにした。このとき、図13(a)〜(c)に示すように、試料に与え得る加速電圧,電流密度,観察倍率,走査回数などの各パラメータそれぞれの最大値:PMAXおよび最小値:PMINにおける近似関数を前もって算出・記憶しておき、1回測定時の加速電圧,電流密度,観察倍率,走査回数などの各パラメータに対してそれぞれ内部補間して得られる近似関数を合成し、現在の照射エネルギーに対応する近似関数を得る。こうして得た近似関数を図13中の測長値軸方向に平行移動させ、1回測長結果と合致させることで、照射エネルギーに対するゼロ回値を推測する。なお、上記光学パラメータは例えば入力装置27からの任意の設定が可能であり、制御演算装置30は入力装置27からの指示に基づいて、走査電子顕微鏡鏡体の各光学素子を制御する。電子線の走査は一次元的なものであっても二次元的なものであっても良い。
【0073】
ところで、近似関数によりゼロ回値を算出すれば、最終的な試料の変化量Δtotal をゼロ回値と最終測定値との差として(3)式のように算出・出力できる。
【0074】
Δtotal=M0,T−Mm+T-1 (3) ここで、M0,T,Mm+T-1は最終的なゼロ回値と測長値を表す。さらに、n番目のゼロ回値M0,nと(m+n−1)番目の測長値Mm+n-1の差Δn を(4)式のように測長する毎に算出できる。
【0075】
Δn=M0,n−Mm+n-1 (4) また、前記のように変化量を算出するだけでなく、入力装置より入力した任意の試料の変化量Xに対し、同一測定点にて連続して測長を実行し、(4)式で示すΔがXの範囲から外れるまで測長を行うようにすることもできる。すなわち、測長の条件として(5)式を追加すればよい。
【0076】
|Δn|<X (5) 算出した|Δn |がXを超えた時点で測長処理を終了して算出したゼロ回値,測長値のばらつき3σ,試料の変化量Δ、およびこれらのパラメータの変化を示すグラフ等を表示する。(5)式のパラメータとしてはΔだけでなく測長値のばらつき3σなどを選べるようにしても良い。
【0077】
また、電子顕微鏡は真空容器内で電子線を試料に照射する装置であるが、真空容器内部にカーボンの重合体などの分子が存在すると試料への電子線照射時に、試料と反応して試料上に不純物(以後コンタミネーションと呼ぶ)として堆積することがわかっている。本発明では同一測定点にて連続して測長を実行するため、前記ArFレジストにてシュリンクが停止した後も電子線照射を続ければ、その後は電子線照射量に比例したコンタミネーション分だけ測長値は増加する。
【0078】
同一測定点を連続で測定するとき、測長値が増加する傾向を確認したら、直線成分の傾き(Ks )を(6)式のように算出する。それまでの測長において試料に付着したコンタミネーション量は(7)式で算出できる。
【0079】
Ks=(Mr−Mn)/(r−n) (6) C=Ks・r (7) ここで、rは測長回数、nはシュリンクが停止した測長回数、Cは試料へのコンタミネーション付着量、Mr,Mnはそれぞれr回,n回目の測長値を示す。測長値の傾向が増加に転じたかどうかの判断は次のように行える。すなわち、r番目の測長値とその5つ前までの測長値の平均Mave,rをとり記憶する。一つ前の平均Mave,r-1と比較し、大小を確認する。比較結果が複数回連続して大となったら、図11(a)に示すようにシュリンクが停止したと判断する。増加部分は電子ビーム照射によって試料に直線的に付着するカーボン系のコンタミネーションと推定される。そのため、増加部分のグラフの傾きKs を算出し、図11(b)に示すように測長値Mmから直線成分を差し引いた値(Mm′)を算出・記憶,コンタミネーション分を考慮した近似曲線を算出し、これからゼロ回値(M0,n″),測定値のばらつき,試料の変化量(Δ″)などが算出でき、一層精度を上げた測定が可能となる。
【0080】
Mm′=Mm−Ks・m (8) M0,n″=Fit(M1′,M2′,・・・,Mm+n-1′) (9) Δ″=M0,n″−Mm+n-1′ (10) 以下に上記本実施例をフローチャートを交えてより詳細に説明する。
【0081】
図8(a)(b)に示すように、パターンの寸法測定は、試料像表示装置26に試料像と共に2本の垂直カーソル線18、または水平カーソル線19を表示させ、入力装置27を介してその2本のカーソルをパターンの2箇所のエッジに設置し、試料像の像倍率と2本のカーソルの距離の情報をもとに制御演算装置30でパターンの寸法値として測定値を算出し、記憶装置に記憶する。連続して測長を行い、順次算出した測長値を記憶装置に記憶し、制御演算装置30にて近似関数を算出する。この近似関数から、制御演算装置30で、(2)式に基づいてゼロ回値を算出し、記憶装置に記憶する。また算出したゼロ回値を試料像表示装置26に表示することもできる。
【0082】
図8に、本発明で問題とするArFレジストのラインパターン測長時の測定値とゼロ回値について示す。本来電子線を照射する前は、ラインパターンの水平カーソル線19で指定する範囲のラインプロファイルから図8(1)で「ゼロ回値」と示した幅を持つパターンが、電子線を照射することによりArFレジストのシュリンクが発生してラインプロファイルが変化してしまい、図8(2)の測定後の幅として測定される。
【0083】
図14のフロー図に沿って図9の概念図を用い、本実施例を説明する。フロー1411にて試料の目的のパターンを測長し、フロー1412にて記憶装置に測長値を記憶する。
このときの値は、図9(a)中の1回目の測定点(M1 )として記憶される。引続き同じ測定点で測定を行い、それぞれ測長値M2,M3,・・・,Mm として記憶し、測長回m回でm個の測長点から図9(b)に示すように、制御演算装置30で測定回数に対する測長値の近似関数を算出し(図9(b)は4次式で近似した場合の例を示す。また、図14ではm=3としている。)、次いで図9(c)のごとく測定回数ゼロ回に外挿してゼロ回値M0,1を算出・記憶する。引続き測長を行ったとき、順次フロー1413にて、(m+1)個,(m+2)個,・・・,(m+n−1)個の測長点からそれぞれ近似関数を算出し、ゼロ回値の算出・記憶を行う。フロー1414にて測長が終了したら、フロー1415にて、ゼロ回値の標準偏差σを算出し、フロー1416にて表示装置26上にn個のゼロ回値および近似関数,データのばらつき(3σ)などを表示する。
【0084】
また、上記と同様に10個のゼロ回値を演算装置にて算出する。次いで、求めた10個のゼロ回値M0,1,M0,2,M0,3,・・・,M0,10 の標準偏差σを求め、3倍した値、3σを測長装置の安定度を示す指標として算出・表示する。これによって電子線照射による試料の変化に影響されない、測長装置の安定性を算出・表示することを可能にする。このように求めた複数のゼロ回値をもとに標準偏差を求めることで、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザー光に反応するフォトレジストにより形成されたパターンのような、100nm以下の微小なパターンを測長対象としたときの装置精度の確認が容易になる。
【0085】
次に、近似関数を予め記憶しておき、少なくとも1回の測長結果からゼロ回値を算出する例を図15のフロー図を用いて説明する。
【0086】
測長電子顕微鏡にて、複数ある試料を同一のレシピを用いて自動測長する場合などに、フロー1509にて、先の実施例と同様にして求めた近似関数をあらかじめ記憶装置に記憶しておき、フロー1502で得られた1個の測長結果から、前記の近似関数を用いて図21(a)〜(c)のごとく補正してゼロ回値M0,1 を算出し、フロー1505にて記憶装置に記憶する。複数ある試料の測長が終了したら、フロー1507にて測長結果であるゼロ回値データのばらつき3σを算出・記憶し、表示装置26に各試料のゼロ回値およびデータのばらつきを表示する。このときデータの表示は、ゼロ回値の算出のたびに行っても構わない。また、近似関数はフロー1509のごとく同一試料を用いて事前に取得したものを選択して用いてもいいし、フロー1501のように自動測長のレシピ内で求めたものを用いても構わない。以上のような構成によれば、少なくとも1回以上の少ない測定回数でゼロ回値を算出することができるので、測長対象のシュリンクを最小限に抑えることができる。
【0087】
次に予め算出した近似関数と電子顕微鏡の光学条件に基づいて、ゼロ回値の推定を行う例について図16のフロー図を用いて説明する。複数ある試料をレシピを用いて自動測長する場合に、フロー1609にて、試料に与える電子線のエネルギー量を変化させるパラメータ(加速電圧:Vacc,電流密度:Ip,測定倍率:MAG,電子線の走査回数:Frame)に対してそれぞれ最大の場合と最小の場合の近似関数PmaxとPminを制御演算装置30にて算出し、記憶装置に記憶する。このデータは、レジスト材料やパターン形状など、試料ごとに異なるため、試料の種類に応じたデータを取得・記憶する必要があり、それらの中から目的の試料に対するデータを選択する。
【0088】
フロー1601にて測長値M1 が取得・記憶され、フロー1603にて現在のパラメータ状態から図13(b)に示すように測長回数1回時にPmax−Pmin間を内部補間したときの各近似関数が制御演算装置30で算出・記憶され、図13(c)のように、ゼロ回値推測用の近似関数として合成・記憶される。
【0089】
現在の照射条件が測長中に保たれる場合、毎回、測長時のエネルギー条件に照らし合わせて補正係数を求めても構わないし、以後の測定ではここで求められた係数を用いてゼロ回値M0,1 の計算に使っても構わない。その後フロー1604にて、記憶装置に記憶した測長値から近似関数を算出し、合成後の近似関数を図20(a)〜(c)のごとく測長値に対して平行移動することで、試料に照射するエネルギーに対して補正したゼロ回値
M0,1を算出・記憶する。
【0090】
全ての試料の測長が終了したら、フロー1607にて複数のゼロ回値M0,1 のばらつき3σを算出し、フロー1608にて複数のゼロ回値M0,1 およびゼロ回値のばらつき3σを表示装置26に表示する。表示は、ゼロ回値取得ごとに行っても構わない。尚、フロー1609は、前もって取得してあっても良いし、フロー1601の直前に取得しても構わない。
【0091】
以上のような構成によれば光学パラメータに応じた近似関数を求めることができるので、装置条件を変化させた場合であっても適正な近似関数を選択することができる。
【0092】
本発明実施例では、図21〜図23に示すような入力装置により、測長時に用いる近似関数を、オペレータが任意に取得・設定、または編集を可能とした。
【0093】
図21に示す入力画面では、オペレータは、事前に取得した近似曲線をゼロ回値の推測に使うか、試料への入射エネルギーに対して自動的に算出した近似関数を使うかの選択ができる。さらに図22の入力装置にて、事前に取得した近似曲線のみならず、新たに近似関数を取得できるようにし、さらに、別途、装置供給メーカなどが提供する近似曲線を導入することが可能とし、編集などしてゼロ回値の推測に選択可能とした。
【0094】
さらに図23では、ゼロ回値の推測に用いる近似関数だけでなく、入射エネルギーで自動的にゼロ回値を推測する場合に必要な、加速電圧,電子線密度,観察倍率,電子線の走査回数などの各パラメータの最大・最小時の近似曲線も装置供給メーカなどが提供することを可能とした。
【0095】
図17はゼロ回値とm+n−1番目の測長値間の差を算出する過程を示すフローチャートである。図17(a)中、フロー1701〜1704にて、同一測定点を(m+T−1)回行い、近似関数を算出し、ゼロ回値を算出する。次いでフロー1705にて、(3)式を用いて(m+T−1)個の測長値から算出したゼロ回値M0,T と(m+T−1)回目の測定値Mm+T-1から(m+T−1)回測定時の総合的な試料の変化量Δtotalを算出・記憶する。
【0096】
フロー1706にて変化量Δtotal を表示装置26に出力する。ここで、図17(b)に示すように、(4)式を用いて(m+n−1)番目のゼロ回値M0,n と(m+n−1)番目の測長値Mm+n-1の差Δmを測長毎などの途中段階で算出・表示することで、どの程度シュリンクが進行しているのか把握することが容易になる。
【0097】
図18は所定のシュリンク量が認められたとき、或いはゼロ回値のばらつきが所定値以下になった場合に、測長を停止する過程を示すフローチャートである。フロー1801にて、図12(a)に示すような入力装置27により任意の測長値のばらつき3σまたは試料の変化量Δを選択し、数値Xを入力する。以後、フロー1802〜1804により、同一測定点にて連続して算出・記憶した測長値から現在のゼロ回値M0,n を算出し、フロー1805にてゼロ回値のばらつき3σ、あるいは試料の変化量Δn を算出する。フロー
1806にて、算出した3σが所定値以下になるか、もしくはΔn の値がフロー1501にて入力したXを超えないか(5)式または(11)式を用いて判断する。
【0098】
3σ<X (11) 図12(b)で示す様に、算出した3σまたはΔの絶対値が入力値Xを超えた時点で測長処理を終了してフロー1808にて、算出したゼロ回値M0,n,3σまたはΔn、およびこれらの値の変化を示すグラフ等を表示装置26に表示する。Xを超えない場合はフロー1807に従って、測長処理を終了させ、最終的に得られたN個のゼロ回値M0,N 、およびばらつき3σまたは変化量ΔN 、およびこれらのパラメータの変化を示すグラフ等を表示する。
【0099】
以上のように、所定の変化量を検出したとき、或いはゼロ回値のばらつきが所定値以下になった場合に測長停止処理を行うようにすれば、所定の測長精度を確保するに十分な走査回数の設定が可能になる。レジストの種類によってはシュリンク量が大きく異なるため、所定の測定精度を確保する測定回数を見出すことは難しいが、本実施例によればレジストの種類に因らず、所定のゼロ回値検出精度を確保する設定を行うことが容易になる。また、適正な測長回数を設定することができるようになるので、スループット向上にも効果がある。
【0100】
なお、図18に示す実施例では測定回数(走査回数)による管理を行っているが、これに限られることはなくシュリンク量を単位時間毎に時系列に管理し、所定時間電子線を走査した後に、走査を中断するように制御しても良い。
【0101】
図19は、パターンに対するコンタミネーションの付着に因らず、シュリンクを示す近似関数を正確に測定するのに好適なステップを示したフローチャートである。フロー1901にて同一測定点にて連続して測長を行い、測長値を算出・記憶する。フロー1902にて、(r−5)回目の測長値からr回目の測長値までの平均を算出・記憶する。(r−6)回目の測長値から(r−1)回目の測長値までの平均との差Mdiff,rを算出する。フロー1903にてMdiff,rを記憶装置29に記憶する。フロー1904にて、差Mdiff,rが複数回連続して正になったら、図11(a)に示すようにシュリンクが停止し、測長値が直線状の増加をはじめたと判断し、測長を終了する。次いで、フロー1905にて(6)式により直線成分の傾きKs を算出する。直線成分は、試料表面にコンタミネーションが付着したものであるから、(8)式にて付着量が算出できる。
【0102】
コンタミネーションの付着は試料のシュリンク中にも測定回数に応じて付着しているため、フロー1906にて記憶装置に記憶している全ての測長値に対して(8)式を用いてコンタミネーションの付着分を考慮した(測長値Mm から直線成分を差し引いた値)測長値Mm′ を算出する。フロー1907にて、M1′からMm′までの近似関数を新たに算出し、(9)式を用いて直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ を算出・記憶する。その他、
(10)式を用いて直線成分補正後の試料の変化量Δ″の算出、および直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ のばらつき3σ″を算出し、フロー1908にて、直線成分補正後のゼロ回値M0,n″ ,ばらつき3σ″,試料の変化量Δ″、および近似関数などを表示装置
26に表示する。以上のような構成によれば、コンタミネーションの付着があっても正確な近似関数を求めることが可能になる。
【0103】
以上、本発明実施例によれば、試料の観察時に照射する電子線によって形状が変化してしまうようなフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザを光源とするフォトレジスト等の測定において、連続した自動測定時に、少なくとも1回の測定で形状が変化する以前の測長値を得ることができ、測定精度の高い寸法測定が可能になり、また、自動での測長処理が可能となる。また、測定値のばらつきを小さくすることができ、半導体製造の工程管理する上で利点がある。
【0104】
また、電子線の照射量に対する試料の変化量を自動的に測定することが可能となり、画面上に変化の推移を示すグラフを表示できるため、ArFレジスト測定時の電子線の最適条件を調べることが容易となり、測長電子顕微鏡など電子線装置を用いる場合のパターン幅の管理に利点がある。
【0105】
さらに、試料表面に不純物の付着がある場合にも形状が変化する以前の測長値を得ることが可能となり、測定精度の高い寸法測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明実施例の走査型電子顕微鏡のブロック図である。
【図2】本発明におけるラインパターン寸法測定時の電子線の走査方法を説明する図である。
【図3】本発明実施例におけるホールパターン寸法測定時の電子線の走査方法を説明する図である。
【図4】レジストと電子線との相互作用によるシュリンクの概要を説明する図である。
【図5】測定回数とシュリンク量の関係の実験結果を示す図である。
【図6】本発明の他の実施例の走査型電子顕微鏡のブロック図である。
【図7】倍率選択画面の例を示す図である。
【図8】ゼロ回値と測長値の関係を示す図である。
【図9】ゼロ回値算出のプロセスを示す図である。
【図10】測定回数とシュリンク量の関係を示す図である。
【図11】不純物がある場合のゼロ回値算出のプロセスを示す図である。
【図12】入力画面および測定の概要を示す図である。
【図13(a)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図13(b)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図13(c)】内部補間のプロセスを示す図である。
【図14】ゼロ回値測定のプロセスを示すフローチャートである。
【図15】近似関数を予め記憶しておき、少なくとも1回の測長結果からゼロ回値を算出するプロセスを示すフローチャートである。
【図16】予め算出した近似関数と電子顕微鏡の光学条件に基づいて、ゼロ回値の推定を行うプロセスを説明するフローチャートである。
【図17】ゼロ回値とm+n−1番目の測長値間の差を算出する過程を示すフローチャートである。
【図18】所定のシュリンク量が認められたときに測長を停止する過程を示すフローチャートである。
【図19】パターンに対するコンタミネーションの付着に因らず、シュリンクを示す近似関数を正確に測定するのに好適なステップを示したフローチャートである。
【図20】近似方式の選択画面を説明する図である。
【図21】近似関数の選択・提供画面の第1の例を説明する図である。
【図22】近似関数の選択・提供画面の第2の例を説明する図である。
【図23】近似関数の選択・提供画面の第3の例を説明する図である。
【図24】走査電子顕微鏡の光学パラメータの設定画面の一例を説明するための図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子源と、当該電子源から放出される電子線を、X方向が前記電子線の走査線方向として、且つY方向が前記走査線方向とは直交する方向として走査する偏向器と、前記電子線の走査によって試料から放出される電子を検出する検出器と、当該検出器の出力に基づいて前記試料上のパターン寸法を測定する制御プロセッサを備えた走査電子顕微鏡において、
前記制御プロセッサは、前記X方向に10万倍以上の倍率を設定する設定手段を備え、当該設定されたX方向の倍率に基づいて、当該X方向が短辺であり、前記Y方向が長辺となるように、前記設定されたX方向の倍率に基づく走査幅を維持しつつ、前記走査線間の間隔を拡張することによって長方形状に前記電子線を走査するよう前記偏向器を制御し、
前記検出器によって検出された電子に基づいて、前記Y方向の倍率を前記X方向の倍率より低倍率となるように、前記X方向に対し、相対的にY方向に狭めて画像を形成すると共に、当該形成された画像に基づいて、前記試料上のパターンのX方向の寸法を測定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記設定手段は、前記X方向の倍率とY方向の倍率の組み合わせを複数備え、前記制御プロセッサは、当該複数のY方向の倍率の設定に応じて、前記走査線間の間隔を変化させるように、前記偏向器を制御することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
試料に電子線をX−Y方向に、前記X方向が前記電子線の走査線方向として、且つ前記Y方向が前記走査線方向とは直交する方向として、走査させ、当該走査領域から放出される電子を検出して当該領域の画像を形成し、当該形成された画像に基づいて、前記試料上のパターンの寸法を測定する試料寸法測定方法において、
線幅が0.1μm 以下であって、前記Y方向に長手方向を持つラインパターンに対し、前記X方向が短辺であり、Y方向が長辺となるように、前記走査線間間隔を拡張して長方形状に、前記電子線を走査し、当該走査領域から放出された電子に基づいて、前記X方向の倍率が10万倍以下であり、前記Y方向の倍率が、前記X方向の倍率より低倍率となるように、前記Y方向に狭めて画像を形成し、当該形成された画像に基づいて、前記ラインパターンの線幅を測定することを特徴とする試料寸法測定方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記試料は、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光に反応するフォトレジストであることを特徴とする試料寸法測定方法。
【請求項5】
電子源と、当該電子源から放出される電子線を、X方向が前記電子線の走査線方向として、且つY方向が前記走査線方向とは直交する方向として走査する偏向器と、前記電子線の走査によって試料から放出される電子を検出する検出器と、当該検出器の出力に基づいて前記試料上のパターン寸法を測定する制御プロセッサを備えた走査電子顕微鏡において、
前記制御プロセッサは、前記電子線の加速電圧,電流,倍率、及び走査回数の少なくとも1つを設定する設定手段を備え、当該設定手段によって設定された電子線の加速電圧,電流,倍率及び走査回数の少なくとも1つと、前記パターンに電子線を照射したときの減少量との関係に基づいて、前記電子線の加速電圧,電流,倍率及び走査回数の少なくとも他の1つの許容値を決定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項1】
電子源と、当該電子源から放出される電子線を、X方向が前記電子線の走査線方向として、且つY方向が前記走査線方向とは直交する方向として走査する偏向器と、前記電子線の走査によって試料から放出される電子を検出する検出器と、当該検出器の出力に基づいて前記試料上のパターン寸法を測定する制御プロセッサを備えた走査電子顕微鏡において、
前記制御プロセッサは、前記X方向に10万倍以上の倍率を設定する設定手段を備え、当該設定されたX方向の倍率に基づいて、当該X方向が短辺であり、前記Y方向が長辺となるように、前記設定されたX方向の倍率に基づく走査幅を維持しつつ、前記走査線間の間隔を拡張することによって長方形状に前記電子線を走査するよう前記偏向器を制御し、
前記検出器によって検出された電子に基づいて、前記Y方向の倍率を前記X方向の倍率より低倍率となるように、前記X方向に対し、相対的にY方向に狭めて画像を形成すると共に、当該形成された画像に基づいて、前記試料上のパターンのX方向の寸法を測定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項2】
請求項1において、
前記設定手段は、前記X方向の倍率とY方向の倍率の組み合わせを複数備え、前記制御プロセッサは、当該複数のY方向の倍率の設定に応じて、前記走査線間の間隔を変化させるように、前記偏向器を制御することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【請求項3】
試料に電子線をX−Y方向に、前記X方向が前記電子線の走査線方向として、且つ前記Y方向が前記走査線方向とは直交する方向として、走査させ、当該走査領域から放出される電子を検出して当該領域の画像を形成し、当該形成された画像に基づいて、前記試料上のパターンの寸法を測定する試料寸法測定方法において、
線幅が0.1μm 以下であって、前記Y方向に長手方向を持つラインパターンに対し、前記X方向が短辺であり、Y方向が長辺となるように、前記走査線間間隔を拡張して長方形状に、前記電子線を走査し、当該走査領域から放出された電子に基づいて、前記X方向の倍率が10万倍以下であり、前記Y方向の倍率が、前記X方向の倍率より低倍率となるように、前記Y方向に狭めて画像を形成し、当該形成された画像に基づいて、前記ラインパターンの線幅を測定することを特徴とする試料寸法測定方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記試料は、フッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光に反応するフォトレジストであることを特徴とする試料寸法測定方法。
【請求項5】
電子源と、当該電子源から放出される電子線を、X方向が前記電子線の走査線方向として、且つY方向が前記走査線方向とは直交する方向として走査する偏向器と、前記電子線の走査によって試料から放出される電子を検出する検出器と、当該検出器の出力に基づいて前記試料上のパターン寸法を測定する制御プロセッサを備えた走査電子顕微鏡において、
前記制御プロセッサは、前記電子線の加速電圧,電流,倍率、及び走査回数の少なくとも1つを設定する設定手段を備え、当該設定手段によって設定された電子線の加速電圧,電流,倍率及び走査回数の少なくとも1つと、前記パターンに電子線を照射したときの減少量との関係に基づいて、前記電子線の加速電圧,電流,倍率及び走査回数の少なくとも他の1つの許容値を決定することを特徴とする走査電子顕微鏡。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13(a)】
【図13(b)】
【図13(c)】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2006−138864(P2006−138864A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364195(P2005−364195)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【分割の表示】特願2003−525221(P2003−525221)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【分割の表示】特願2003−525221(P2003−525221)の分割
【原出願日】平成14年3月27日(2002.3.27)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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