説明

誘導加熱可能な物品の製造方法、誘導炉及び組成物、並びに材料

a)導電性可鍛組成物を形成させて未硬化成形物を形成する工程、及び
b)前記成形物を誘導加熱し、これを硬化及び固化させることにより、物品を形成する工程
を含む、物品の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱可能な物品、誘導炉、誘導炉の構成要素、誘導加熱可能な材料及び該材料から形成される物品に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱は、発熱部分への結線を必要とすることなく熱源を提供する多くの用途に使用され得る。本発明は、誘導加熱により形成される任意の物品又は誘導加熱装置に使用される任意の物品における、特許請求の範囲に記載した材料の使用に及ぶ。また、特許請求の範囲に記載した材料は、望ましい熱特性を有することができ、本発明は、特許請求の範囲に記載した材料(あらゆる方法で形成されたもの)の使用に及ぶ。
【0003】
誘導加熱は、急激に変化する磁場と導電性材料との相互作用により生じる渦電流を使用する。急激に変化する磁場は、導電性材料内に誘導電流を発生させ、次いで、これらの誘導電流が、抵抗加熱を発生させる。本発明は、誘導炉を参照することにより以下の説明において例示されるが、本発明がこれに限定されないことは明白である。
【0004】
誘導炉は、材料を溶融するために金属加工業において頻繁に使用されている。溶融する材料が充分に導電性である場合、その材料は、誘導により直接加熱することができる。かかる用途における金属封じ込め(containment)には、「ラミングされた」非導電性の耐熱性ライニングが典型的に使用される。あるいは、予備形成されたクレイ結合SiC/黒鉛坩堝が頻繁に使用される。しかしながら、一部の材料は、あまり「感受性(suscept)」でなく(電磁場と相互作用しない)、中でもアルミニウムがそうである。かかる材料では、加熱は、間接経路によるものでなければならず、典型的には、導電性坩堝を提供することによるものである。一例として、予備形成炭素/炭化ケイ素をベースとする坩堝が、かかる用途に使用される。
【0005】
このアプローチに伴う問題は、炉の大きさ及び形状の範囲が制限されること、また、大きな坩堝は製造するのが困難且つ高価であるため、大きな炉の製造が妨げられることである。
【0006】
かかる構成(arrangement)における更なる問題は、坩堝に亀裂が入った場合に、坩堝内の溶融金属が流出して炉を損傷し得ることである。従って、坩堝に亀裂が入った場合は、完全に交換する必要があり、結果としてコストがかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、誘導炉の誘導領域と有効に結合し、そうすることによって硬化するのに充分低い抵抗率を有し得る可鍛組成物を提供する。該組成物は、必要であれば耐酸化性を提供する自己施釉添加剤(self-glazing additive)を含み得る。可鍛組成物は、誘導炉にライナーを形成するためにそのままの状態で使用され得る。また、かかるライナーの亀裂を修復するためにも使用され得る。
【0008】
また、該組成物は、従来の形成方法に都合良く使用できるような、改善された熱特性を有する。
【0009】
可鍛とは、材料が、ハンマー打ち又は圧力により成形物(shape)に造形され得るように、充分に変形可能及び接着性であることを意味する。該材料は、圧力下で接着する接着性粉末の形態であってもよい。可鍛材料を成形するために使用される任意の方法が採用され得る(例えば、プレス成形、ラミング及び圧延成形であるが、限定されない)。
【0010】
本発明の範囲は、添付の図面を参照する以下の例示的な説明に鑑みて、特許請求の範囲から明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(誘導炉の理論的考慮事項)
誘導炉では、渦電流が使用される。典型的な誘導炉の配置の模式的回路図を図1に示す。典型的には、中波交流電源1が、加熱される坩堝3を囲む水冷コイル2に電流を供給する。回路は、力率補正コンデンサー4を有する。
【0012】
コイルの急激に変化する磁場は、導電性である坩堝の一部及びその内容物内に誘導電流を発生させるEMF(起電力)を誘導する。
【0013】
コイルが逆emf(逆起電力)を発生させる能力の尺度は、コイルの自己インダクタンスとして知られている。これは、
【0014】
【数1】

【0015】
で定義される。
この誘導は、逆emfによる電流に対する抵抗を提供し、これを発生させる変化を妨げようとする(レンツの法則)。この電気抵抗は、誘導リアクタンス(X)と呼ばれ、
【0016】
【数2】

【0017】
で与えられる。
AC回路内のコンデンサーは、連続的に充電及び放電されている。電源の周波数を増加させると、コンデンサーが充電及び放電される速度が増大し、従って無効電流が増大する。印加された電圧は、電流をπ/2だけ遅らせる。このように、コンデンサーが電流にもたらす電気抵抗は、リアクタンス(X)と呼ばれ、
【0018】
【数3】

【0019】
で与えられる。
図1に示す回路が全体として電流にもたらす実効抵抗は、インピーダンス(Z)と呼ばれ、
【0020】
【数4】

【0021】
で定義される。
及びXはいずれも、周波数に依存し、最大となる電流を引き起こす周波数は、共鳴周波数と呼ばれ、X=Xの場合に生じる。
【0022】
【数5】

【0023】
渦電流の侵入深さ(penetration depth)は、材料の抵抗率及び作動周波数の両方に依存性である。
【0024】
【数6】

【0025】
式中、
ρ=材料の抵抗率、×10
ω=2πf
μ=透磁率〜1
【0026】
典型的な市販の誘導炉は、50Hz〜10,000Hzの範囲の周波数で作動させるが、より高い周波数も成され得る。理想的には、坩堝の壁厚は、坩堝の壁内で効率的に結合するために、侵入深さよりも大きくすべきである。誘導炉用の典型的な坩堝(例えば、Morganite Crucible Limited(ノートン、英国)から入手可能なExcel(登録商標)坩堝)の特性を以下に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
作動周波数を10,000Hzとすると、Excel(登録商標)坩堝の典型的な侵入深さは3.55cmであると算出される。式(6)によると、坩堝の壁内で結合するためには、材料の抵抗率が大きいほど、侵入が大きくなるか、又は必要とされる作動周波数が高くなる。周波数は、式(5)に示すキャパシタンスを減少させることにより、すなわち可変コンデンサーを組み込むことにより増加させることができる。
【0029】
しかしながら、キャパシタンスを減少させると、力率が減少する。力率(pf)は、有効電力(real power:kW)と供給した全電力(kVA)との比として定義される。全電力は、有効電力(実際に行なわれた仕事)及び無効電力(実際に機能は果たさない)と呼ばれる2つの成分で構成される。
【0030】
キャパシタンスを減少させると、電力の無効成分が増加し、従って力率(pf)が減少する。
【0031】
このため、導電性可鍛組成物が、誘導領域との有効な結合を提供することになる場合、唯一の選択肢は、通常の作動周波数で結合するような低抵抗率の導電性可鍛組成物を提供すること、又は高抵抗率の導電性可鍛組成物を許容するために周波数を増加することである。
【0032】
図2は、4cmの壁厚の坩堝を3.72cmの侵入深さ(depth)で結合するのに必要な周波数を、材料の抵抗率に対してプロットしたものを示す。プロットに示されるように、材料の抵抗率が大きいほど、坩堝の壁内で結合するのに必要な周波数は大きい。
【0033】
従って、50Hz〜10,000Hzの通常の作動周波数で有効に結合する4cm厚の導電性可鍛組成物層では、導電性可鍛組成物の抵抗率は、約0.0055Ωcm未満であることが必要であり得る。約3,000Hzの典型的な周波数で結合するためには、導電性可鍛組成物の抵抗率は、約0.002Ωcm未満であることが必要であり得る。これは、可鍛組成物が、坩堝の壁厚と同様の厚さに適用されるはずであることをもちろん仮定している。より薄い厚さを適用する場合には、抵抗率がより小さくなければならないか、又は作動周波数がより高くなければならないかのいずれかである。逆に、より厚い層では、より高い抵抗率が許容され得ること、又はより低い周波数が使用され得ることが示唆される。
【0034】
(導電性可鍛材料要件)
導電性の要件に加えて、導電性可鍛材料は他の要件を有する。
【0035】
使用時、黒鉛及び炭化ケイ素で製造された坩堝は、1400℃もの高温又は場合によっては更に高温で、溶融物質を保持することが予想されることができ、従っていくつかの物理的特性がこれらに必要とされる。このような特性としては、曲げ強度、熱伝導性、耐酸化性及び耐浸食性が挙げられる。
【0036】
炭化ケイ素をベースとする導電性坩堝は、バインダー化合物、例えば、樹脂、ピッチ又はタールの炭化残基(carbonised residue)により互いに結合した炭化ケイ素粉末と黒鉛薄片との混合物から伝統的に形成される。製造工程は、以下の工程のいくつかを典型的に含む。
【0037】
・炭化ケイ素、黒鉛及びバインダーの混合物をプレス成形してグリーン体を形成する工程
・グリーン体を「フェトリング」する工程(例えば、該体を最終グリーン成形物に機械加工し、口(spout)又はハンドルラッグを追加する)
・グリーン体を硬化し、バインダーから揮発性物質を除去する及び/又はバインダーを固化(set)する工程
・バインダーを炭化するのに十分な温度及び時間でグリーン体を焼成する工程
・完成した坩堝に釉薬を塗布し、坩堝本体を酸化に対して防御する工程
【0038】
典型的には、プレス成形工程は、静水圧プレス成形によるもの、又はローラープレスによるもの(この場合、ローラーが、混合物を鋳型の内部に対してプレスする)である。
【0039】
焼成前、バインダーは「グリーン」坩堝をつなぎ合わせており、取扱い及びフェトリングに充分な機械強度を提供する。いったん硬化及び焼成されると、バインダーは炭化され、坩堝の構造に寄与する残留炭素骨格が残る。
【0040】
樹脂、ピッチ及びタールをベースとした炭素前駆物質を坩堝の製造において使用することは、環境上、健康上及び安全上の懸念から、窮地に立たされつつある。過去において、これらの問題に関する法律制定は、ピッチ及びタールをノボラック樹脂などのフェノール系樹脂に置き換える要因となった。今日では、フェノール系バインダーの使用に伴う健康上の懸念が高まりつつあり、法律制定により、これらの使用は最終的に不経済なものとなろう。
【0041】
使用時には、坩堝に塗布された釉薬が機械的酷使により損傷することがあり、かかる損傷は、炭素/炭化ケイ素坩堝のコアを攻撃に曝す(主に酸化により)。
【0042】
そのままの状態で設置され、且つ焼成されなければならない導電性可鍛組成物を考慮すると、坩堝の製造における上記の問題は拡大する。望ましくは、導電性可鍛組成物は、焼成された坩堝に匹敵する性能を提供するため、
・「ホットスポット」を回避するため、硬化したとき高熱伝導性を有する
・硬化したとき耐酸化性を示す
・硬化したとき耐浸食性である
べきである。
【0043】
また、その可鍛性を最大限に利用するため、導電性可鍛組成物は、望ましくは、
・放出される有毒な蒸気の量を最小限にする
・亀裂又は剥落(spalling)の危険が低減されるように、硬化時に最小量の蒸気しかもたらさない
・耐酸化性を提供するための別途の施釉工程を必要としない
・特に注意しなくても釉薬への損傷が修復されるように「自己修復」することができる
べきである。
【0044】
(有毒な蒸気の低減)
既存の樹脂、ピッチ又はタールをベースとするバインダーは、許容され得ない量の有毒な蒸気を発生し得る。本出願人らは、水ベースのバインダーが、硬化及び焼成時の炭化水素類の発生を最小限又は消去するので好ましいであろうことに気づいた。いくつかの水ベースのバインダーが考えられ、糖類が挙げられる。実際、未焼成状態においてある程度の結合を提供するため、及び焼成時のバインダーとして炭素を提供するために、デキストリンの使用が想定される。しかしながら、本出願人らは、水ベースの炭素分散体(例えば、黒鉛分散体)が、焼成時に炭化水素類を発生させることなく、凝集体(coherent body)をもたらすための良好な結合活性を提供することを見出した。
【0045】
炭素は、水ベースの分散形態で提供されるため、これは、微細粒径を必然的に有し、そのため高い表面活性を有する。高い表面活性とは、炭素の粒子が、より粗い粒子の物質(例えば、黒鉛薄片及び炭化ケイ素)に容易に結合し、そのためバインダーとしての機能を果たすことを意味する。静電気引力による良好な結合を得るため、分散体中における典型的な炭素粒径は<5μm、好ましくは<2μmであるが、コロイド状サイズの粒子(<1μm)もより高い表面活性及び静電気引力を提供し得る。
【0046】
試験において、本出願人らは、以下に記載する特性を有する2種類の水ベースの黒鉛分散体(Metaflo 4000(登録商標):Rocol Limited、リーズ、英国から入手可能な水系黒鉛分散体で、通常、高温金属加工用工具の潤滑剤として使用されるもの、及びPilamec Ltd, Unit 40/41, Lydney Industrial Estate, Lydney, Gloustershire, GL15 4EJで特別に調製された黒鉛分散体)を使用した。
【0047】
試験において、本出願人らはまた、ミックスの可鍛性の重要な基準である物理的なグリーン体の結合強度(physical green binding strength)が、バインダーの粘度に影響し、更にバインダーの粘度は黒鉛含量に影響することを見出した。
【0048】
【表2】

【0049】
かかる水ベースのバインダー系は、炭素と炭素/炭化ケイ素材料とを結合するために一般的に使用されることができ、それによって、より有害な成分の使用が回避される。
【0050】
(グリーン体の結合)
ミックスは、いったん任意の加工品にラミング又はプレス成形されたら、歪み又はスランピング(slumping)なく、予備成形された形状を維持すべきであるので、グリーン体の結合は、ミックスの重要な基準である。試験において、高含量黒鉛が分散されたバインダーの使用に加え、本出願人らは、加熱時に有毒なガスを発生することがない、1種類以上のクレイ(例えば、ベントナイトなどの高吸収性/柔軟性(pliable)クレイ)及び/又はホウ砂(例えば、コロイド状ホウ砂溶液)の添加が、該ミックスのグリーン体の強度を改善し、ミックスの接着及び柔軟性を改善することを見出した。しかしながら、本出願人はまた、これらのクレイの添加がミックスの抵抗率を増大するため、量を最小限に維持すべきことも見出した。典型的には、2%未満の添加量を使用した。
【0051】
(亀裂及び剥落の抑制)
水ベースのバインダーは、導電性可鍛組成物の硬化時でも水分を放出し、この水分は、亀裂又は剥落を引き起こし得る。これは、水分が100℃ですべて蒸気を形成するように加熱が急速である場合、特にそうである。
【0052】
本出願人らは、超吸収体(superabsorber)を添加剤として使用することを決断した。超吸収体は、非常に強力な吸湿性高分子材料であり、赤ん坊用おむつ及び他の吸収性生理用ナプキンに一般的に使用されている(例えば、国際公開第94/15651号パンフレット、国際公開第97/01003号パンフレット及び米国特許第2001047060号明細書を参照のこと)。超吸収体は、粒状材料、又は織布若しくは不織布などの用途に伝統的に使用されている。
【0053】
微粉末として、導電性可鍛組成物に、典型的には1%未満のレベルで添加した場合、本出願人らは、超吸収体が組成物から水分を吸収し、100℃以上の高温の範囲でそれを放出することを見出した。本出願人らが試験で使用した材料は、無毒性の白色粉末であるナトリウム/カリウムポリアクリレートであった。この材料は、商品名Supersorp(登録商標)(Huvec Klimaatbeheersing(ポストバス5426、3299 ZG MAASDAM、ベルギー))で大量に購入した。
【0054】
典型的に、超吸収体は、粒状物として提供される。本出願人らが使用した粉末は、75〜150μmの間のものが75%である微粉末であった。好ましい材料は、150μm未満のサイズを75重量%以上有する。
【0055】
ナトリウムポリアクリレートなどの超吸収体は、水と結合し得る多数の親水基を有する高分子材料である。本発明は、大量の水分を吸収することができ、且つある温度範囲を超えると水分を放出することができる超吸収体などの任意の吸湿性高分子材料に及ぶ。
【0056】
典型的に、超吸収体は、材料1グラムあたり5グラムを超える水分を吸収することができ、>10g/g、>15g/g及び>20g/gの吸収性は珍しいことではなく(米国特許第5610220号明細書を参照のこと)、実際、>100g/gの吸収性は、蒸留水では400〜500g/gであり、塩溶液では、それより低い(例えば、0.9%NaCl溶液では30〜70g/g)ことが知られている。本発明に好ましい材料は、蒸留水で100g/gより多い、より好ましくは200g/gより多い吸収性を有する。
【0057】
超吸収体の乾燥耐火材料への更なる適用が、同時係属中の国際特許出願(国際公開第03/106371号パンフレット)に記載されている。
【0058】
(自己施釉及び自己加熱)
本出願人らは、ある程度の自己施釉性がおそらく望ましいと判断した。自己施釉は、いくつかのセラミックスで知られている。典型的には、ガラス又はフラックスが材料中に含まれているため、焼成時に、セラミック上に皮膜が形成され得る。自己施釉は、過去において、炭素/炭化ケイ素材料ではほとんど使用されていない。しかしながら、ガラス又はフラックスの使用は、かかる材料に適合する。とりわけ、本出願人らは、従来の坩堝ミックスにホウ素含有物質を組み込むと、かかる自己施釉性がもたらされることを見出した。
【0059】
本出願人らは、ホウ素含有物質が酸化してBを形成し、これが、存在する他のガラス形成物(glass former)と反応して釉を形成すると考える。ホウ素含有物質の特に有用な形態は炭化ホウ素であり、これは、本出願人らがこれまでにわかった最良の結果をもたらす。自己施釉効果を与える他のホウ素含有物質としては、窒化ホウ素が挙げられる。炭化ホウ素は、窒化ホウ素と同様、耐火材料の抗酸化剤として使用されるが、その釉形成のための使用は報告されていない。
【0060】
釉薬の材料は導電性可鍛組成物の一部であるため、施釉された表面への損傷は、非施釉体の空気との接触により修復される。
【0061】
(抵抗率の減少)
以下に更に詳細に記載するように、導電性可鍛組成物の抵抗率の低下は、いくつかの手段によってなされ得る。これらとしては、大きな表面積を有する剥離黒鉛薄片及び/又は炭素繊維の使用が挙げられる。典型的なグリーンミックスでは、導電性は、ミックス内の粒子から粒子に通過する電流によりもたらされる。ミックスの粒子が、任意の連続相よりも導電性が高い場合(典型的な場合のように)、バルク(bulk)の抵抗率は、粒子から粒子に飛ぶ電流の必要性により説明される。
【0062】
剥離黒鉛は大きな表面積を提供するので、電流は、多数の別の導電性粒子から集まり、多数の別の導電性粒子に伝達される。これにより、電流が横断しなければならない粒子/粒子接合部の数を減少させることができ、従って、抵抗率を減少させることができる。
【0063】
同様に、炭素繊維も、典型的なグリーンミックスの粒径の場合と比べ、より長い距離にわたって電流を伝達することができる。
【実施例1】
【0064】
以下のテーブル2に記載する組成を有し、以下のテーブル1に記載するベースミックスをベースとする一連の組成物を作製した。5kgのミックスをZブレードミキサー内で20分間混合した。次いで、ミックスをラミングしてアルミナ坩堝にした。次いで、アルミナ坩堝を伝統的な誘導炉内に配置し、作動周波数を3,000Hzとした。
【0065】
【表3】

【0066】
ベースミックスの低い導電率(テーブル1に示し、テーブル2にミックスAで示す)のため、ライニングは、硬化するのに充分に感受性ではなかった。その代わり、ライニングを用いて鋳鉄を1500℃で溶融した。金属からの熱は、ミックスを加熱し、従って自己施釉することが提案された。
【0067】
グリーンミックスの導電率を改善するため、種々の方法を用いた。これらとしては、大きな表面積を有する剥離黒鉛薄片及び炭素繊維の使用が挙げられる。2種類の剥離黒鉛、26.02m/gの表面積を有するTimCal Graphite BNB90及び21.68m/gの表面積を有するSuperior Graphite EX21を使用した。およそ5%の黒鉛薄片を、テーブル2に示す標準的なミックスに添加した。
【0068】
【表4】

【0069】
導電率を改善するための別のアプローチは、炭素繊維の添加であった。2種類のサイズの炭素繊維(Graphil(登録商標) 34−700)を使用し、3mm及び6mmの長さ、並びに0.05%及び0.1%の量で添加した。水ベースの炭素バインダーの添加前に、目の粗い篩を用いてミックス中に繊維を分散させた。
【0070】
試験用ミックスを、寸法153mm×26mm×15mm及び密度2.1g/cmの棒状物にプレス成形した。プレス成形した棒状物は脆弱性であるため(これは、電気抵抗率の測定を困難にする)、棒状物を150℃まで硬化し、測定前にある程度の取扱い強度をもたらすようにさせた。抵抗率を測定し、結果をテーブル2の最下部にまとめた。
【0071】
剥離黒鉛薄片の添加は、ベースミックスA配合の導電率に顕著な影響を及ぼした(例えば、ミックスA及びミックスBの抵抗率を比較のこと)。
【0072】
これと炭素繊維との組み合せ(ミックスD〜Gに示す)は、導電率を更に改善する。ミックス中の繊維が多いほど、導電率は良好である。0.01Ωcmの抵抗率の最終値が得られた。図2に示される、抵抗率に対する周波数のプロットによると、これは、4cmの坩堝の壁厚の場合、ミックスが18kHzの周波数で結合し得ることを意味する。周波数は、許容範囲であるが、ピッチ/タールをベースとする、より導電性の炭素繊維を使用することにより導電率に対する更なる改善がなお可能である。
【実施例2】
【0073】
上記のテーブル2に示す500kgのミックスIを、高剪断Morton Mixer内で混合した。混合手順を以下に示す。
【0074】
【表5】

【0075】
図3は、炉の構成を示す。ここで、炉5は、誘導コイル6、冷却コイル7、すべり面8、アルミナ保護ブランケット9、ラミングされた誘導ライニング10及び底面ライニング12を備えている。最初に、エアプレッシャーハンマーを用いて誘導炉の底面上に、ミックスをラミングし、およそ5cmの厚さの底面ライニング12を製造した。次いで、直径30cmのボール紙製支柱(cardboard support cylinder)11を、直径約48cm及び深さ約71cmの誘導炉内部に配置した。冷却コイル7及び誘導コイル6の両方に対する特別な保護を提供するため、約2.5cmの厚さのアルミナ繊維ブランケット9を、冷却コイル7を被う断熱すべり面8に対して配置した。エアプレッシャーハンマーを用い、ボール紙製支柱11とすべり面8を被うアルミナブランケット9との間の約5cmの間隙内でミックスをラミングした。この技術を用い、約5cm厚みのラミングされたライニング10を製造した。1900Hzの作動周波数及び80kW〜100kWの範囲の電力で、ミックスを1500℃まで誘導加熱し、ミックスを硬化するとともに焼成した。次いで、予備焼成したライニングを用い、鉄を1500℃で溶融した。
【実施例3】
【0076】
本出願において、本出願人は、ミックスの可鍛性をうまく利用して、種々の鋳造加工品、例えば、非鉄用途のための熱電対の鞘をアイソスタティックプレス成形した。かかる用途のための誘導ライニングとは異なり、熱電対の鞘は、誘導ではなく単に熱伝導によって加熱されるので、電気伝導についての実際の要求はない。この理由のため、炭素繊維の添加は行なわなかった。熱伝導は、鞘の性質に重要な役割を果たしているので、剥離黒鉛の存在は重要であった。
【0077】
テーブル1に示す12kgのベースミックス(ただし、水ベースのバインダーとしてRocol(登録商標)の代わりにPilamec(登録商標)を用い、表面積が18m/gのSuperior Graphite製の剥離黒鉛粉末(ABG1025)5%を剥離黒鉛添加剤として用いた)を、小さなプラウシェア(plough shear)ミキサー(Morton Mixerの小型版)内で、以下に示す混合手順を用いて混合した。
【0078】
【表6】

【0079】
図4は、鋼形成物(steel former)13、熱電対14及びアイソスタティックプレス成形された鞘15を備えた鞘付き熱電対の模式図を示す。ミックスを、中空鋼形成物13(直径21.5mm及び長さ463mm)の周囲に約13.8MPa[2000PSI]の圧力までアイソスタティックプレス成形し、外径44mmの鞘15を製造した。
【0080】
次いで、鞘を150℃まで2時間硬化し、ある程度のグリーン強度をもたらした。構成物(assembly)全体を1025℃まで最終的に焼成し、ミックスの自己施釉性を活性化させた。
【0081】
次いで、鞘付き熱電対、及びより伝統的な坩堝ミックスで作製した同様の熱電対の溶融アルミニウム中での熱応答試験を行なった。試験は、鞘付き熱電対を約700℃まで予備加熱し、この温度で溶融アルミニウム中に投入することからなるものであった。試験により[図5参照]、ラミング可能なミックス(線A)は、伝統的な坩堝ミックス(線B)よりも速い応答をもたらし、より低い温度までしか予備加熱していないにもかかわらず、先に融解温度に達した。これは、相当高い熱伝導性を示す。
【0082】
(代替硬化法)
グリーン状態で、単独で完全に硬化し得るのに充分な導電性を有する可鍛組成物を提供することは、可能である。しかしながら、特に、可鍛組成物がグリーン状態において有効に結合するのに導電性が不充分である場合、ライニングした炉の内部に導電性形成物(例えば、鋼製殻)を配置し、この殻を誘導により加熱するのが有利であり得る。これは、可鍛組成物を間接的に加熱及び硬化する機能を果たし得る。硬化プロセスでは、導電率が上昇するため、硬化したライニングはグリーンよりも良好に結合する。
【0083】
伝統的な誘導炉における使用に加え、低い抵抗率に関連する可鍛特性はまた、誘導加熱が必要とされる他の広範な用途でのミックスの使用を可能にする。例えば、該材料を、誘導加熱可能な環状炉を形成するために使用することができ、環内を通過する材料を処理することができる。
【0084】
該材料は、従来の材料と比べて改善された感受性を有する物品をもたらす。物品の「Q」値は、有効電力KWに対する全電力KVAの比、または逆に、力率の逆数として定義される。例えば、「Q」が5をもたらす加工品(work piece)では、加工品において100KWを発生させるのに、作動コイルにおいて500KVAの全電力が必要である。
【0085】
従って、「Q」値が低いほど、加工品において同じ電力を生じるためにコイルに必要とされる無効電力は少ない。市販の誘導坩堝は、約10の「Q」値をもたらすが、本発明の材料で製造した坩堝の「Q」値は、約5であることが示された。
【0086】
本発明による坩堝は、このように、従来の坩堝よりも効率的である。同じことが、他の誘導加熱物品にもあてはまる。
【0087】
同様に、ミックスの可鍛特性により、ミックスを種々のプレス成形技術(典型的にはアイソスタティックプレス成形又は一軸プレス成形)によって、坩堝、又は熱電対の鞘などの加工品に予備形成することが可能になる。
【0088】
種々の炭素及び炭化物成分によりもたらされる材料の熱特性はまた、予備形成加工品を、ガス又は電気焼成などの任意の他の手段によって焼成することを可能にする。後者の場合、耐酸化性は、伝統的な施釉経路又は自己施釉のいずれかによってもたらされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、誘導炉の模式的回路図である。
【図2】図2は、上記で特定された坩堝の抵抗率に対する周波数の図(プロット)である。
【図3】図3は、本発明による誘導炉の構成を示す図である。
【図4】図4は、本発明による鞘付き熱電対を示す。
【図5】図5は、図4の鞘付き熱電対及びより伝統的な鞘付き熱電対の熱応答試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)導電性可鍛組成物を成形して未硬化成形物を形成する工程、及び
b)前記成形物を誘導加熱し、これを硬化及び固化させることにより、物品を形成する工程
を含む、物品の形成方法。
【請求項2】
前記物品は、加熱装置の誘導加熱可能な部分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘導加熱可能な部分は、誘導炉のライニングである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記導電性可鍛組成物は、0.04Ω・cm未満の抵抗率を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記導電性可鍛組成物は、0.02Ω・cm未満の抵抗率を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として黒鉛薄片を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記黒鉛薄片の量は、前記導電性可鍛組成物の乾燥重量の20%より多い、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記黒鉛薄片の量は、前記導電性可鍛組成物の乾燥重量の30%より多い、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記薄片黒鉛は、剥離薄片黒鉛であるか、又はこれを含む、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として炭化ケイ素を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記炭化ケイ素の量は、前記導電性可鍛組成物の乾燥重量の20%より多い、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記炭化ケイ素の量は、前記導電性可鍛組成物の乾燥重量の30%より多い、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として水ベースの炭素分散バインダーを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水ベースの炭素分散バインダーは、黒鉛であるか、又はこれを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記黒鉛は、コロイド黒鉛である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水ベースの炭素分散バインダーにより提供される炭素は、前記導電性可鍛組成物の乾燥重量の20%未満の量で存在する、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として炭素繊維を含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として、水の沸点より高い温度範囲で混合物中の水分を保持することができる吸湿性高分子材料を含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記吸湿性高分子材料は、材料1グラムあたり水5グラムを超える吸収性を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記吸湿性高分子材料は、材料1グラムあたり水10グラムを超える吸収性を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記吸湿性高分子材料は、材料1グラムあたり水100グラムを超える吸収性を有する、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記吸湿性高分子材料は、材料1グラムあたり水200グラムを超える吸収性を有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記吸湿性高分子材料は、ポリアクリレートである、請求項18〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記吸湿性高分子材料は、150μm未満の大きさが75重量%以上である微粉末を含有する、請求項18〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記導電性可鍛組成物は、一成分として自己施釉成分を含む、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記自己施釉成分は、ホウ素含有物質であるか、又はこれを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記自己施釉成分は、炭化ホウ素であるか、又はこれを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記導電性可鍛組成物は、ラミング可能な組成物であり、形成物にラミングされて物品を形成する、請求項1〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記工程b)は、誘導加熱した形成物による少なくとも一部の間接加熱を含む、請求項1〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
可鍛組成物であって、前記組成物の乾燥重量に対する割合で、
黒鉛薄片>20%
炭化ケイ素>20%
を含み、水ベースの炭素分散バインダーをさらに含む可鍛組成物。
【請求項31】
前記水ベースの炭素分散バインダーは、黒鉛であるか、又はこれを含む、請求項30に記載の可鍛組成物。
【請求項32】
前記黒鉛は、コロイド黒鉛である、請求項31に記載の可鍛組成物。
【請求項33】
前記水ベースの炭素分散バインダーにより提供される炭素は、前記可鍛組成物の乾燥重量の20%未満の量で存在する、請求項30〜32のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項34】
前記黒鉛薄片の量は、可鍛組成物の乾燥重量の30%より多い、請求項30〜33のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項35】
前記薄片黒鉛は、剥離薄片黒鉛であるか、又はこれを含む、請求項30〜34のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項36】
前記可鍛組成物は、一成分として炭素繊維を含む、請求項30〜35のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項37】
前記可鍛組成物は、一成分として、水の沸点より高い温度範囲で混合物中の水分を保持することができる吸湿性高分子材料を含む、請求項30〜36のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項38】
前記可鍛組成物は、一成分として自己施釉成分を含む、請求項30〜37のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項39】
前記自己施釉成分は、ホウ素含有物質であるか、又はこれを含む、請求項38に記載の可鍛組成物。
【請求項40】
前記自己施釉成分は、炭化ホウ素であるか、又はこれを含む、請求項39に記載の可鍛組成物。
【請求項41】
前記可鍛組成物は、グリーン結合添加剤を含有する、請求項30〜40のいずれか1項に記載の可鍛組成物。
【請求項42】
前記グリーン結合添加剤は、1種類以上のクレイを含む、請求項41に記載の可鍛組成物。
【請求項43】
前記グリーン結合添加剤は、ホウ砂を含む、請求項41又は42に記載の可鍛組成物。
【請求項44】
請求項30〜43のいずれか1項に記載の可鍛組成物から形成された未硬化成形物。
【請求項45】
請求項44に記載の成形物を硬化することにより形成された物品。
【請求項46】
前記物品は、加熱装置の誘導加熱可能な部分である、請求項に45記載の物品。
【請求項47】
請求項1〜29のいずれか1項に記載の方法により形成された、誘導硬化及び固化された導電性可鍛組成物でライニングされた誘導炉。
【請求項48】
水ベースの炭素分散バインダーの使用を含む、炭素又は炭素/炭化ケイ素材料の結合方法。
【請求項49】
前記水ベースの炭素分散バインダーは、黒鉛であるか、又はこれを含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記黒鉛は、コロイド黒鉛である、請求項49に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−519354(P2006−519354A)
【公表日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−502208(P2006−502208)
【出願日】平成16年1月27日(2004.1.27)
【国際出願番号】PCT/GB2004/000345
【国際公開番号】WO2004/068505
【国際公開日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(505287184)ザ・モーガン・クルーシブル・カンパニー・ピーエルシー (6)
【氏名又は名称原語表記】THE MORGAN CRUCIBLE COMPANY PLC
【住所又は居所原語表記】Quadrant, 55−57 High Street, Windsor, Berkshire SL4 1LP, United Kingdom
【Fターム(参考)】