説明

誘導型近接センサ

【課題】コアの外径Dに対する検出距離Lの比L/Dが大きな誘導型近接センサを提供する。
【解決手段】本発明の誘導型近接センサは、U形コア1と、前記U形コア1に巻かれた、発振要素としてのコイル2と、前記コイル2を含む発振回路43と、前記コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路45と、前記比較回路の出力を増幅する出力回路46と、を有する。U形コア1は、近接効果に起因するコイル抵抗増加を抑制して、またより多くの磁束が、より遠くまで検出対象3に作用して検出距離が拡大する。またU形コア1に巻かれた、独立した複数個のコイル21,22をもつことにより、高感度/高精度動作が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は誘導型近接センサの検出距離および検出感度の向上に関するものである。この近接センサには、誘導型近接スイッチを含む。
【背景技術】
【0002】
誘導型近接センサは、工作機械、搬送機械、食品機械などのあらゆる産業分野で利用されている。近接センサ実装時には検出対象(検出物)との距離、平行度などが検出感度および精度に大きく影響すること、自動車、搬送業界などで、誘導型近接センサを適用ないし応用する分野では、検出対象が近接センサの検出面に接触すると、破損や故障の原因となりやすいことから、検出距離の長距離化が要求されてきている。
【0003】
従来の誘導型近接センサの構造例を図5に示す。この誘導型近接センサは、円筒状ポットコア41を備える。この円筒状ポットコア41は、中央円柱状の中央脚41aと、この中央脚41aの外周を円筒状に取り囲む有底円筒状の外周脚41bと、から構成されている。この中央脚41aに巻回される形態でその外周と外周脚41bの内周との間にコイル42が内蔵されている。そして、このコイル42に対して、発振回路43から周波数(f)の励振電流(Ic(f))を供給することで、磁束(Φ)が発生する。この磁束(Φ)が検出対象44に作用すると電磁誘導の法則により検出対象44に渦電流(Ie)が流れて磁束(Φe)が生ずる。検出対象44とコイル42との間の変位に応じて磁束量が変化するために、検出対象44に流れる渦電流(Ie)が変わり、その結果としてコイル42の抵抗(R)とインダクタンス(L)および(Q値)が変化する。この変化を比較回路45において基準と比較することにより、(Q値)に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させて、出力回路46をとおしてその信号に対応した出力電圧(Vo)として出力させる。この出力電圧(Vo)のレベルがONまたはOFFに切り替わる変位が検出距離(L)である(特許文献1、2参照)。
【0004】
上記の円筒状ポットコア41に内蔵のコイル42が発振要素の場合も検出対象44に流れる渦電流が変わり、その結果としてコイル42の抵抗(R)とインダクタンス(L)および(Q値)が変化し、同様に出力回路46の出力電圧(Vo)がONまたはOFFに切り替わる変位が検出距離Lである。
【特許文献1】米国特許6822440
【特許文献2】米国特許7262595
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5の誘導型近接センサでは、図6に示すように円筒状ポットコア41の外径(D)に対する検出距離(L)の比(L/D)が一定の値(K1)を有しており、長い検出距離(L)のためには外径(D)の大きな近接センサを使用する必要があった。そのため、従来の誘導型近接センサでは、検出距離(L)を長くしようとするとそのコア外径サイズが大形化してくるものとなっていた。そのため、大きな上記比(L/D)、すなわち、コア外径サイズに対して従来よりも検出距離(L)が長い誘導型近接センサが望まれていた。
【0006】
また、上記用途において誘導型近接センサにおける検出動作の精密化、高速化、高信頼性への要求は増大しているが、この要求を実現するうえでは、近接センサの大形化や2重化が必要で、機械/装置の小形化/高精度化への対応が困難になっており、誘導型近接センサの小型化、高感度化、高信頼性化が望まれていた。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みて案出されたものであり、上記比(L/D)が大きい誘導型近接センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0009】
請求項1にかかる本発明は、U形のコアと、前記コアに巻かれた、発振要素としてのコイルと、前記コイルを含む発振回路と、前記コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、を有する誘導型近接センサである。
【0010】
請求項2にかかる本発明は、U形のコアと、前記コアに巻かれて励振電流が流されるコイルと、前記コイルに励振電流を供給する励磁電流供給回路と、前記コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、を有する誘導型近接センサである。
【0011】
請求項3にかかる本発明は、請求項1または2に記載の誘導型近接センサにおいて、上記U形コアは、複数に分割できるコアからなる誘導型近接センサである。
【0012】
請求項4にかかる本発明は、U形のコアと、前記コアに巻かれた、磁界検出コイルとしての第1コイルと、前記コアに巻かれて検出対象を励磁する励振電流が流される第2コイルと、前記第1コイルを含む検出/補正発振回路と、前記第2コイルに励振電流を供給する励磁電流供給回路と、前記第1、第2コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、を有する誘導型近接センサである。
【0013】
以上の本発明では、U形コアの磁極間距離が長いために、近接効果に起因するコイルの抵抗増加を抑制して、より多くの磁束が、より遠くまで検出対象に作用させることができるようになる結果、検出距離(L)を拡大させることができる。
【0014】
上記U形コアに装着されたコイルが発振要素の場合も同様である。
【0015】
上記U形コアが、複数に分割できるコアからなっている場合、複数に分割されたコアにコイルを装着した後にU形状にコアを形成するために、組み立てが容易で、かつ安価な誘導型近接センサを提供できる。
【0016】
本発明では、U形コアに巻かれた独立した複数個のコイルをもち、センサヘッドの2重化による信頼性向上、または独立した励磁コイルおよび検出コイルによる高感度検出の誘導型近接センサを提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小形で長い検出距離を可能にし、高感度/高信頼性、かつ安価な誘導型近接センサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照して本発明の実施の形態にかかる誘導型近接センサを詳細に説明すると、図1(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態にかかる誘導型近接センサの構造を示す。図1(a)(b)(c)では誘導型近接センサの電子回路である発振回路43、比較回路45、および出力回路46の図示は略しているが、図5のそれと同様に、実施の形態の誘導型近接センサは上記電子回路を備えている。図1(a)は検出対象を含め誘導型近接センサの、側面から見た断面構成、図1(b)は図1(a)の誘導型近接センサを検出対象とは反対方向から見た構成、図1(c)はU形コアにおいてその分割状態から組立状態までを示す。実施の形態の誘導型近接センサは、U形コア1を備える。このU形コア1は、互いに平行に対向し脚端面が検出対象3の方向に向け延びる同一脚長を有する一対のコア脚1a,1bと、これらコア脚1a,1bを、それらの上記平行対向を維持した状態にして、連結するヨーク部1cと、を一体化して構成されている。このヨーク部1cにはコイル2が装着されている。
【0019】
コイル2はヨーク部1cに直接巻回してもよいが、ボビンに取り付けた形態とか、耐熱樹脂モールドで一体化した形態の場合では、U形コア1を複数のコアで構成し分割可能とすることでU形コア1に装着可能としてもよい。例えば、U形コア1を図1(c)のc1で示すように、例えばL形コア11と、I形コア12との組み合わせで構成する。L形コア11は上記コア脚1aとヨーク部1cを構成するコア部分11a,11bを備え、I形コア12は上記コア脚1bを構成する。そして、図1(c)のc2で示すように、L形コア11のコア部分11bにコイル2を装着した後、図1(c)のc3で示すように、L形コア11と、I形コア12とを組み付けることで、U形コア1を製作することができる。コイル2はコア部分11bに巻回して組み付けるのではなく、成型されていて中央の挿通穴にコア部分11bを通すことでコア部分11bに装着組み付けすることができるようになっている。
【0020】
また、U形コア1のコア脚1a,1bのコア端面と対面する位置に金属製の検出対象3が配置されている。周波数(f)の励振電流がコイル2に流れると、図示するごとく3つの形態の磁束(Φa),(Φb),(Φc)が発生する。これら磁束(Φa),(Φb),(Φc)は、(1)コイル2内を貫通する磁束(Φa)、(2)コア脚1aから出て、検出対象3まで届かずにコア脚1bに戻ってくる磁束(Φb)、(3)コア脚1aから出て、検出対象3まで届きその後にコア脚1bに戻る磁束(Φc)、に分類される。上記図5の円筒状ポットコア41に内蔵したコイル42が発振要素の場合も同様な構造(電子回路は省略)であり、同様な磁束分布をする。
【0021】
図2は、コイル2のQ値−変位x(m)、およびdQ/dx−変位x(m)の特性を示す。コイル2のQ値は変位x(m)に対して単調増加しており、また、dQ/dxはある変位x(m)で最大となり、その後は、単調減少する。dQ/dx=…となる変位x(m)が検出距離(L)であり、このときのQ値に基づいて比較回路においてONとOFF信号を発生させている。コイルのQ値は、検出対象3の変位x(m)に依存しており、数1で与えられる。
【0022】
【数1】

【0023】
ここに、f:励振電流の周波数(Hz)、L:コイル2のインダクタンス(H)、R:コイル2の交流抵抗(Ω)、Rdc:コイル2の直流抵抗(Ω)、Rs:コイル導線の表皮効果に起因する抵抗(Ω)、Rp:コイル2の近接効果に起因する抵抗(Ω)、Rc:コア1の鉄損に起因する抵抗(Ω)、Rm(x):検出対象3の鉄損に起因する抵抗(Ω)である。
【0024】
上記数1において、コイル1のインダクタンス(L)は変位x(m)によらず一定である。抵抗(Rp)は前述した項目(1)のコイル2内を貫通する磁束(Φa)に起因しており、また、抵抗(Rc)はコア1内を磁束が通ることによって生じている。さらに、抵抗Rm(x)は、前述した項目(3)のコア1から出て検出対象まで届きその後にコア2に戻る磁束(Φc)、に起因している。
【0025】
誘導型近接センサではコイル2のQ(x)に基づいてONとOFF動作を行っており、安定した動作を行うためには、数2に示したQ(x)の変位x(m)に対する微分dQ(x)/dxが大きいことが必要である。
【0026】
【数2】

【0027】
数2において、dQ(x)/dxを大きく、すなわち検出距離Lを拡大するためには、周波数(f)を高くする、インダクタンス(L)を大きくする必要がある。さらに、コイル2の直流抵抗(Rdc)、表皮効果に起因する抵抗(Rs)、コイルの近接効果に起因する抵抗(Rp)およびコアの鉄損に起因する抵抗(Rc)を小さく、dRm(x)/dxを大きくすれば良いことを示唆している。上記インダクタンス(L),抵抗(Rdc),(Rs)は励振周波数(f)とコイル導線の導体径およびコイル2の巻数を適切に選定することで最適化でき、また、低鉄損特性を有するコア2を採用することで抵抗(Rc)を低減できる。これらのことは、本発明および従来技術においても共通の事項であり、以下では、本発明の特長である抵抗(Rp)の低減とdRm(x)/dx特性の向上に着目して説明する。
【0028】
図5に示した従来技術の誘導型近接センサの磁束も前述したように以下の3種類、すなわち (1)コイル42内を貫通する磁束(Φa)、(2)中央脚41aから出て検出対象44まで届かずに外周脚41bに戻ってくる磁束(Φb)、(3)中央脚41aから出て検出対象44まで届きその後に外周脚41bに戻る磁束(Φc)、に分類される。
【0029】
図1に示した本発明の誘導型近接センサは、図5に示した従来技術の誘導型近接センサと比較して以下の利点がある。本発明では、コア脚1a,1b間の距離が従来技術より長いために、コイル2内を貫通する磁束が少なくなり、近接効果に起因する抵抗(Rp)が小さくなる。また、同様の理由によって、より多くの磁束が検出対象3に、より遠くまで作用して、dRm(x)/dx特性が向上する。したがって、数2に示したdQ(x)/dxが従来技術よりも大きくなって検出距離Lが拡大する。
【0030】
図3は、本発明と従来技術の検出距離(L)−コア外径(D)特性を比較する図である。上述した理由によって、上記特性において本発明は従来技術よりも向上する。
【0031】
本発明において、U形のコア1はコア脚1aとコア脚1bとに2分割された実施例を示したが、こうした2分割コアに限定されるものではない。
【0032】
図4は、U形コア1に巻かれ独立した2個のコイル21,22をもつ構成例である。コイル21は検出専用として、検出/補正回路4に接続され、コイル22は検出対象3への励磁専用として、発振/励磁回路5に接続されている。検出/補正回路4と発振/励磁回路5それぞれの後段側に、制御・演算回路6が接続され、この制御・演算回路6には表示部7、出力回路8が接続されている。上記構成例においては、励磁電流に重畳された検出対象3の渦電流による電流変化検出に比べて信号対ノイズ比のよい高感度な検出ができる。また、制御・演算回路6内のCPUにより、上記発振、検出、補正、表示、外部出力をきめ細かく制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明における誘導型近接センサの構造を示す図である。
【図2】コイルのQ(x)値およびdQ(x)/dx−変位特性を示す図である。
【図3】本発明と従来技術の検出距離−コアの外径特性の比較を示す図である。
【図4】独立した2個のコイルを有する高感度渦電流近接センサ構成例を示す図である。
【図5】従来技術の誘導型近接センサの構造を示す図である。
【図6】従来技術の検出距離−コアの外径特性を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 U形コア
2 コイル
3 検出対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
U形のコアと、
前記コアに巻かれた、発振要素としてのコイルと、
前記コイルを含む発振回路と、
前記コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、
前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、
を有する誘導型近接センサ。
【請求項2】
U形のコアと、
前記コアに巻かれて励振電流が流されるコイルと、
前記コイルに励振電流を供給する励磁電流供給回路と、
前記コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、
前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、
を有する誘導型近接センサ。
【請求項3】
上記U形コアは、複数に分割できるコアからなる請求項1または2に記載の誘導型近接センサ。
【請求項4】
U形のコアと、
前記コアに巻かれた、磁界検出コイルとしての第1コイルと、
前記コアに巻かれて検出対象を励磁する励振電流が流される第2コイルと、
前記第1コイルを含む検出/補正発振回路と、
前記第2コイルに励振電流を供給する励磁電流供給回路と、
前記第1、第2コイルのQ値に基づいて二値のONまたはOFF信号を発生させる比較回路と、
前記比較回路の出力を増幅する出力回路と、
を有する誘導型近接センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−264992(P2009−264992A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116617(P2008−116617)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000167288)光洋電子工業株式会社 (354)
【Fターム(参考)】