説明

誘導路形成用ブロック

【課題】多数個のブロックを用いて段積みにより壁体を形成した場合に、小動物の脱出その他の移動を可能にする誘導路を略連続させた状態に形成できる誘導路形成用ブロックの提供を目的とする。
【解決手段】複数個のブロックの段積みにより連続した誘導路を形成する壁体形成用ブロックにおいて、前面六角形ブロックとして六角形の上辺を水平方向にした段積みにより壁体を形成して、上辺とその左右辺とにより上下方向の誘導路を連続させた状態に設ける形状であり、特に、前面六角形ブロックが、ブロック前面R1が水平方向に長く扁平な六角形状で、上辺を平坦なステージ部R12として中央に配し、その左右辺の下降緩斜面が、左右にそれぞれ連設された形状が好ましい誘導路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、擁壁や護岸等の壁体において緩斜面をなす通路を形成することにより、小動物の移動や生物の生息環境の再生を可能にする誘導路形成用ブロックと、完成した既設の壁体の前面に貼着固定して誘導路を形成するパネル材、及び壁体構築時に用いて壁体前面に誘導路を形成する型枠に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の壁面が小動物の移動の妨げになったり、生息環境を破壊している状況を解消するべく、従来から様々な構造のブロックが提案されている。例えば、狭水路に転落した小動物の脱出誘導を図るために、U字形側溝の外側任意位置に対して部分的に連設することにより地表面までの誘導路として機能する傾斜壁を備えたブロック(日本特開平9−32097号公報)、一般的な水路ブロックの一内壁面又は両内壁面に沿うように設置すると階段状又は粗面状の斜路が形成されるブロック(日本特開平9−250121号公報)、水路桝ブロック本体に脱出用スロープを形成したもの(日本実公平6−26569号公報)、U字形側溝において一体的に形成された外方膨出部の踊り場から脱出用斜面を形成したもの(日本実公平7−54383号公報)等が例示される。
【0003】
側溝や狭水路のように、幅が狭く地表面からさほど深くない通水路の場合には、前記ブロック側壁の一部に開口を設けて脱出誘導路を形成するブロックを連設したり、連続的に設置するブロックの一部に誘導路を備えたブロックを組み入れることで対応することができる。しかしながら、こうした従来のブロックを小川や河川、海岸、道路等における側壁や擁壁等の壁体に対して設置することは殆どの場合不可能である。
【0004】
すなわち、これら壁体は、多数個のブロックを布積みや谷積みする段積み施工によって高く形成されるのが一般的であるし、のみならず、ほぼ垂直に切り立った壁面として形成されることも多かった。また、壁体の前面部分が全体的に平滑な状態に仕上げられていたり、下段ブロックと上段ブロックとの間が完全に分断されていたりしたために、小動物が下から這い上がったり、逆に陸上から水辺へと移動することが極めて困難であった。
【0005】
さらに、側溝や狭水路であれば、小動物が水と共に流される間に誘導路が連設された開口部分や誘導路の踊り場部分に辿り着くことも可能であるが、広範囲に施工されるのが通例である壁体の場合、壁体と未施工のまま残された切り通しや岸辺との境界部分のような、誘導路となりうる場所にまで小動物が辿り着くことは殆ど奇跡に近い。
【0006】
さらにまた、新たに構築される壁体であればともかく、完成した既設の壁体において小動物の移動を可能にする手段はなかったし、施工現場において型枠を用いて直接コンクリートを打設する壁体構築方法に対応させる必要もある。
【0007】
【特許文献1】特開平9−32097号公報
【特許文献2】特開平9−250121号公報
【特許文献3】実公平6−26569号公報
【特許文献4】実公平7−54383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、多数個のブロックを用いて段積みにより壁体を形成した場合に、小動物の脱出その他の移動を可能にする誘導路(以下、単に「斜路」ともいう)を略連続させた状態に形成できる誘導路形成用ブロックの提供を第1の目的とする。
【0009】
また、本発明では、完成した既設の壁体前面に対して貼着固定することにより小動物の脱出誘導路(斜路)を略連続させた状態に形成できるパネル材の提供を第2の目的とし、さらに、壁体を新たに設置する際に用いれば簡易に誘導路を形成できる型枠の提供を第3の目的とする。
【0010】
そして、誘導路の創出と同時に植生にも配慮して、多自然型の壁体面を形成することによって、生物の生息できる環境の再生を総合的に図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る誘導路形成用ブロックでは、壁体の前面(化粧面)に複数個のブロックの段積みにより連続した誘導路を形成するべく、凸条、凹条、又は段差をその端部が隣接するブロック間で連続する位置に設けたことを特徴とする構造とした。ここにいう誘導路とは、壁体を下方から上方へ、又はその逆方向に生物が移動できるように設けられた路をいい、必ずしも斜めに設けられた状態のみをいうのではなく、ブロック前面端部又は中ほどに誘導路に連なる略水平方向の平坦部(ステージ)を有するように途中が平坦になっていたり、湾曲しているものも含まれる。また、誘導路はブロック前面に垂直面として形成するのが好ましいが、傾斜面として形成してもよい。さらに、上段ブロックと下段ブロックで凸条が異なる方向に設けられたブロックを用い、誘導路を略連続させて形成するように谷積みしてもよい。そして、本発明にいう壁体は、垂直積み擁壁であっても、斜積み擁壁、もたれ式擁壁等の擁壁であってもよく、いわゆる擁壁面のみならず小さな川の側壁面等も含むものである。
【0012】
また、ここにいう隣接するとは、縦横又は斜めに隣り合うことである。詳しくは、凸条、凹条、又は段差が上段ブロックと下段ブロックで異なる方向に設けられ、谷積みにより誘導路を形成するようにした誘導路形成用ブロックとか、誘導路がブロック前面の端部又は中ほどに平坦部を有する誘導路形成用ブロック、すなわち、誘導路が平坦部両側に斜め下方から上昇、又は、平坦部両側から斜め上方に上昇するよう設けられた誘導路形成用ブロックが好ましい。平坦部は生物に休息の場を提供するし、上昇又は下降する方向の変更や選択の機会を与える。水際部に生息する生物においては、誘導路が上下に連通することにより、水位の変動に関わりなく壁面上を自由に移動可能な斜路状の水際部が確保され、常に生態に適した生息環境が維持される。
【0013】
このような誘導路形成用ブロックには、誘導路を形成した前面板の背部控側に空洞部を設けると共に、前記前面板に連通孔を設けると、壁体は石や土砂を充填することにより透水性を持ち、生物を乾燥から守ることもできる。また、植生の基盤としても有効に機能するため生物に生息空間を与える好ましい態様となる。
【0014】
上段ブロックと下段ブロックで凸条が異なる方向に設られたブロックを用い、誘導路を形成するように谷積みするのに用いるためには、誘導路形成用ブロックが前面板と控部とからなる間知ブロック形が好ましい。
【0015】
上記誘導路には滑止めの凹凸を形成したり、誘導路又は誘導路近傍に植生機能を付与する溝又は穴を設けるとより好ましい多自然型の態様となる。更に、ブロックの化粧面に植生機能を付与する層を吹付けるとか一体成形することも好ましい。植生機能を付与する層としては多孔質コンクリートや木粉等の有機質、炭素質、その植生に好適な物資の固化体層である。
【0016】
また、本発明に係る誘導路形成用ブロックでは、壁体を構成するブロックを、ブロック前面上部の天面部分が下降緩斜面として形成されており、複数個のブロックを多段積みした際には、前記下降緩斜面が複数個のブロックに亘って上下方向に連続する斜路となるように形成した。ここにいう斜路は、前記の誘導路と同意である。
【0017】
ブロック前面上部の天面部分を下降緩斜面として形成可能であるならば個々のブロックの形状は問わないが、より具体的な形状としては、ブロック前面が水平方向に長く扁平な略六角形状をしており、下降緩斜面が、平坦なステージ部を中央に配して左右にそれぞれ連設されたものを採用しうる。また、ブロック前面が二等辺三角形状をしており、下降緩斜面が二つの等辺の天面部分に設けられたものや、ブロック前面より後方側に控えた位置において上方に立設された突起部の天面部分が下降緩斜面として形成されており、複数個のブロックを多段積みした際には、前記下降緩斜面が、ブロック前面上部の天面部分を介しながら複数個のブロックに亘って上下方向に連続する斜路となるものも採用しうる。なお、ブロック前面が二等辺三角形状をしたものの場合、ブロックの上下方向を順に逆向きにしながら横方向に並べていくことになる。
【0018】
下降緩斜面、つまり斜路の表面は、小動物の移動に配慮して、凹凸状又は粗面状に形成するとよい。具体的には、表面に小突起や小さな窪みを規則的又は不規則的に配置してみたり、表面を小階段状に形成したりと、様々な滑り止め加工を採用しうる点は、先の誘導路形成用ブロックと同じである。
【0019】
ブロック前面が略垂直面をなしている場合には、ブロックを多段積みする際に、下段に位置するブロックより上段に位置するブロックを背面方向にずらして階段状に配置することで、個々のブロックに形成された下降緩斜面を連続させることができる。一方、ブロックを垂直方向に多段積みする必要がある場合には、下降緩斜面を備えたブロック前面上部を、下降緩斜面のないブロック前面下部より前面方向に突出形成することで対応できる。
【0020】
ブロックの積み上げ方法にかかわらず、ブロックの天面と底面において、多段積みされるブロック同士の連結部を対応形成しておくと、施工の迅速化や脱落防止が図られる。とくにブロックを階段状に施工する場合には、上段に位置するブロックを背面方向にずらす際の位置決めが容易となる。連結部としては、突起とそれに対応する凹陥部や嵌合穴の組み合わせのほか、ピンを用いた連結方法、別途連結部材を用いる方法等が例示される。
【0021】
また、本発明に係る誘導路形成用ブロックでは、ブロック前面と背面控部との間に空洞部を設けて、該空洞部と連通する開口をブロック前面又は上面に穿設することにより、植生が可能な多自然型の壁体を実現することができる。とくに、ブロックを階段状に設置する場合、下段に位置するブロックの上部天面が露出することになるので、天面に穿設した開口(透孔)から露出した胴込土砂等より植生が図られるし、ブロック前面をパネル板状に形成して空洞部まで連通する開口が露出するようにしておくと、やはり胴込めされた土砂等から自然な植生が図られる。
【0022】
以上のような本発明に係る誘導路形成用ブロックは、背面控部を含めた全体をコンクリート製の一体成型品として製造されるのが一般的であるが、背面控部の全部又は一部に金属製や繊維製のネットを用いたもの、例えばコンクリート製で略板状をしたブロック前面より背面側に略コ字形の金網が延設され、全体としてボックス形状をしたものなども含まれる。
【0023】
さらに本発明では、完成した壁体前面に貼着固定されるコンクリート製パネル材として、前面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体前面に貼着固定した際には前記凸条等の端部が隣接するパネル間で連続し、略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が形成されるパネル材とした。ここにいう誘導路の意義や、誘導路の表面に様々な滑り止め加工を採用しうる点は、先の誘導路形成用ブロックと同様である。
【0024】
一方、現場打設によりコンクリート製壁体を構築する場合の型枠としては、コンクリート打設面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体が完成した際には壁体前面において前記凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が転写形成されるものを用いる。この場合においても、型枠を取り外した後の完成したコンクリート製壁体の前面に形成された脱出用誘導路によって小動物の移動が確保されることになる。型枠は、誘導路の転写形成用の凸条等を含めた専用型枠としてもよいし、従来の合板製又は金属製の型枠のコンクリート打設面に対して装着使用する発泡スチロール製等の軽量転写型枠としてもよい。
【0025】
また、いわゆる捨て型枠と呼ばれる型枠として、コンクリート打設面側に背筋を備える一方、前面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体が完成した際には壁体前面において前記凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路として形成されるものも用いられる。こうした捨て型枠では、足場を必要とせず、複数個を積み上げながら据え付けした後にコンクリートを打設すると、型枠を化粧面としつつ背筋により打設コンクリートと一体化した構造物が得られる利点があり、完成した擁壁等の前面に形成される脱出用誘導路によって小動物の移動が確保されることになる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係る誘導路形成用ブロックは、複数個を用いて布積みや谷積みの段積みをして壁体を形成する際に有用であり、壁体を高く形成した場合にも、誘導路(斜路)を略連続させた状態に形成できる。こうした斜路は、カエル、イモリ等の両生類やホタルの幼虫等の昆虫類であっても、斜路を伝って水中から陸上へ、あるいはその逆方向に移動することを可能とする。また、高い壁面の存在にもかかわらず、小動物は斜路を伝って移動することが可能になる結果、擁壁等の設置工事により従来の獣道など小動物の移動路が分断されてしまった場合においても、新たな移動路の確保が図られるので、生息環境への悪影響を防止することができる。
【0027】
また、誘導路が平坦部両側に斜め下方から上昇又は、平坦部両側から斜め上方に上昇するよう設けた誘導路形成用ブロックを用いると、壁体の斜面に複雑な誘導路を形成することができる。
【0028】
さらに、ブロック前面上部の天面部分を下降緩斜面とした誘導路形成用ブロックでは、複数個を多段積みに、とくに下段に位置するブロックより上段に位置するブロックを背面方向にずらして階段状に配置すると、壁面として高く形成した場合においても、壁面を上下方向に連続し、小動物の移動を容易にする斜路を形成することができる。
【0029】
こうした誘導路形成用ブロックは、植生にも配慮がなされており、空洞部に胴込めされた砕石や土砂部分からブロックの開口を経て植物が繁茂し、生物のすみかが確保される多自然型の壁面の形成が容易であるし、水際部に生息する生物においては、河川等の水位変動にかかわらず常に水際部が確保されるので、安定した生態系の保全が図られる。
【0030】
そして、本発明に係る誘導路を備えた壁体構築用パネル材を用いれば、既設擁壁や護岸のような壁体の前面部分に貼着固定することにより、当該現場における小動物の生息状況に適合するような形状や経路にて、壁体前面を上下方向に連続し、小動物の移動を可能にする誘導路を新設することができる。壁体設置によって獣道など小動物の移動路が分断されてしまった場合においても、壁体前面に貼着固定するだけで構造に大きな改造を加えることなく新たな移動路を確保でき、生息環境の再生を図ることができる。
【0031】
また、また、本発明に係る誘導路を備えた壁体構築用型枠を用いれば、現場打設により新設されるコンクリート壁体構築時において型枠(場合によっては捨て型枠)の一部又は全部に対して使用するだけで、当該現場における小動物の生息状況に適合するような形状や経路にて、壁体前面を上下方向に連続し、小動物の移動を可能にする誘導路を併設することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
第1図は本発明に係る誘導路形成用ブロックにより構築された擁壁の一例を示した斜視図であり、第2図は同ブロックの平面図、第3図は同ブロックの正面図、第4図は同ブロックの側面図である。第5図は本発明に係る誘導路形成用ブロックにより構築された擁壁の他の例を示した斜視図であり、第6図は同ブロックの斜視図である。第7図は本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示した斜視図である。第8図は別なブロックを用いて構築された擁壁の例を示した斜視図であり、第9図は同擁壁を構成するブロックの一つを示した斜視図、第10図は同擁壁を構成する他のブロックを示した斜視図である。第11図は2種類の間知ブロックで誘導路を形成した例を示す擁壁の正面図であり、第12図は同擁壁に用いたブロックの一つの正面図、第13図は同ブロックの側面図、第14図は同ブロックの底面図である。第15図は第11図の擁壁に用いたブロックの他の一つの正面図、第16図は同ブロックの側面図である。第17図はカエル等の両生類が誘導路を移動している様子を示す同擁壁の要部斜視図である。第18図は本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示した側面図である。第19図は凸条を端部がブロックの両端縁に達しない程度に形成して誘導路を形成するようにした例の擁壁の正面図であり、第20図は同擁壁に用いた誘導路形成用ブロックの平面図、第21図は同ブロックの側面図、第22図は同擁壁においてカエルが誘導路を移動している様子を示す要部斜視図である。第23図はブロックの前面に誘導路を形成した他の例の斜視図である。第24図はブロックの前面に誘導路を形成したさらに他の例の斜視図である。第25図は本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の一例を示す正面図、第26図は同ブロックの平面図、第27図は同ブロックの右側面図、第28図は同ブロックのX−X断面図、第29図は同ブロックの施工図である。第30図は本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示す平面側斜視図、第31図は同ブロックの底面側斜視図、第32図は同ブロックの施工図である。第33図は本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の例を示す斜視図であり、第34図は同ブロックを多段に積み重ねた施工状態の一例を示す斜視図、第35図は同ブロックを多段に積み重ねた他の施工状態を示す斜視図である。第36図は本発明に係る誘導路形成用ブロックの更に他の例を示した正面図(a)及び右側面図(b)であり、第37図は同ブロックを多段に積み重ねた施工例を示す斜視図である。第38図は先の第36図に示したブロックにおける連結部として他の態様を採用した例の正面図(a)、右側面図(b)及びX−X断面図であり、第39図は同ブロックの施工状態を示す斜視図である。第40図はさらに他の例のブロックを用いて施工した状態を示す斜視図である。第41図は本発明に係るパネル材の一例を示した斜視図であり、第42図は同パネル材を既設壁体前面に貼着固定した例の斜視図である。第43図は本発明に係るパネル材の他の例を示した斜視図であり、第44図は同パネル材を既設壁体前面に貼着固定した例の斜視図である。第45図は多数個の空洞部を設けたパネル本体の例を示した斜視図である。本発明をより詳細に説述するために、添付の図面にしたがって説明する。
【0033】
第1図ないし第4図に示された誘導路形成用ブロックでは、ボックス型をした本体のブロック前面(化粧面)において略X字状をなすように連続する誘導路1a,1bが配設されている。ブロック前面中ほどには第1平坦部2が設けられており、この第1平坦部2を中心として下方に形成された凸部3と上方に形成された凹部4によって、誘導路1a,1bが立体的に形成されることになる。すなわち、ブロックの最下縁両側から第1平坦部2に向けて合流するように斜め上方に上昇した誘導路1a,1aは、第1平坦部2を経て、ブロックの最上縁両側へと分岐して斜め上方に上昇する誘導路1b,1bとなり、連続した誘導路1a,1bを形成する。
【0034】
ブロック前面における凸部3は、ブロック前面の最下縁よりもその横幅を短く、小幅に設けられており、第1図にみられるように、この誘導路形成用ブロックを多段に積んで壁体を構成したときには、上段ブロックと下段ブロックとの間に生物の通路となる第2平坦部5を形成するようになっている。この第2平坦部5も、誘導路(斜路)の一部を構成することになる。
【0035】
第5図及び第6図に示された例の誘導路形成用ブロックでは、ブロック前面最上縁の中央部分に第1平坦部2が設けられている。誘導路1b,1bは、この第1平坦部2より左右に分岐して斜めに降下するよう延設された後、ブロック両縁に設けられた第2平坦部5,5に達している。この第2平坦部5,5からさらにブロック最下縁の中央付近に向けて斜めに降下する誘導路1a,1aが延設されている。そして、この誘導路形成用ブロックを多段に積んだときには、上段ブロックの誘導路1a,1aが下段ブロックの第1平坦部2と連続するようになっている。
【0036】
この例の誘導路形成用ブロックでは、ボックス型をした本体の控側空間との間において、上下のブロックを積んだときにブロック内外で連通孔ができるように、前壁に凹部7,7が配設されると共に、生物にすみかを提供する横孔8が穿設されている。横孔8は、窪みとして形成することもできるし、ボックス型本体の内部空間に連通する透孔として形成することもできる。
【0037】
第7図は他の例の誘導路形成用ブロックを示す斜視図であるが、このブロックの基本形状は先の第1図ないし第4図に示されたものに近い。誘導路1a,1aは、ブロック最下縁両端から斜めに上昇してブロック中央に位置する第1平坦部2で合流し、次いで第1平坦部2から分岐した誘導路1b,1bがブロック最上縁両端にまで斜めに上昇するよう延設されている。すなわち、誘導路1a,1bは、第1平坦部2を介して正面視略X字状に連続形成されているのである。
【0038】
誘導路1a,1b及び第1平坦部2には滑止めの凹凸9が形成されており、また、当該誘導路1a,1bに沿って、土砂の堆積又は充填によって植物の繁茂を可能にする植生機能を奏する溝10が形成されている。さらに、上下のブロックを積んだときにブロック内外で連通孔ができるように、前壁には凹部7が設けられている。そして、ボックス型ブロックの背面板11には、背部からの通水を可能にする通水孔12が穿設されており、また、側板13と梁14には、隣接するブロックとの連通孔15が穿設されている。更にブロックの上下方向には配筋孔16が設けられている。
【0039】
完成した擁壁面に形成される誘導路が隣接するブロック間で連続するように、個々のブロック表面に単路として設け、複数個のブロックの段積みにより連続した状態を形成するように構成してもよい。そのように形成した誘導路形成用ブロックの例を第8図以下に示す。第8図ないし第10図はその一例であって、第9図に示される誘導路形成用ブロックでは、ブロック前面において左下方から右上方へ斜めに設けられた単誘導路1と、その上部に設けられた平坦部17が見られる。また、第10図に示される誘導路形成用ブロックでは、第9図の例のブロックと対称をなすように、単誘導路1が右下方から左上方へと斜めに設けられている。各ブロックにおける平坦部17は、上段ブロックを段積みすることにより、単誘導路1と連続した状態になる。
【0040】
第11図以下には、谷積みされる間知ブロックで誘導路を形成した例が示されている。この間知ブロック本体は、第13図や第14図に示されるように、前面板18と控部19とからなる構造である。前面板18も控部19も、貫通孔を設けたり、空洞にすることができる。こうした間知ブロック本体の前面へ凸条を形成することによって、谷積みにより誘導路を形成するようにしている。図示された例では、上段ブロックと下段ブロックに各々凸条が異なる方向に設けられた2種類のブロックを用い、これらを適宜用いて谷積みにより連続した誘導路を形成するようにしている。第12図ないし第14図はそのうちの一方のブロックを示したもので、このブロックでは、前面板18の長手方向と直角に凸条20aを形成している。また、第15図及び第16図は、もう一方の間知ブロックを示しており、前面板18の長手方向の中央に凸条20bを形成している。いずれのブロックにおいても、凸条20a,20bの両端部は傾斜リブによって補強されている。カエル等の両生類が誘導路を移動している様子を第17図に示す。凸条20a,20bの補強リブは、小動物の移動を容易にするために、第18図のように小断面積に形成してもよい。
【0041】
誘導路はまた、多少間欠的に設けてもよい。第19図ないし第22図にその一例を示す。これらの例では、凸条21をブロックの長手方向中央に、その端部がブロックの両端縁に達しない程度に形成している。カエルが誘導路を移動している様子を第22図に示す。図示されるように、凸条21を形成する斜面は凹凸の滑止め面23として形成されている。また、植物の繁茂を可能にするために、凸条21や前記斜面の適所に植栽孔22が形成されている。
【0042】
ブロックの前面に略連続した誘導路を形成した他の実施例を第23図及び第24図に示す。斜路と平坦部とからなる略連続した誘導路1の形成は、下部が上部よりも控側となっている複数の凸部の規則的な繰返しによる。これらを第24図のように擬石状態で形成すると、より景観上好ましいものとなる。
【0043】
第25図は本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の一例を示す正面図であり、第26図は同ブロックの平面図、第27図は同ブロックの右側面図、第28図は同ブロックのX−X断面図、第29図は同ブロックの施工図である。これらに図示された例の誘導路形成用ブロックは、ブロック前面R1(化粧面)が左右方向に長く扁平な略六角形状をしたものであり、ブロック前面R1上部の天面部分が下降緩斜面R11として形成されている。すなわち、パネル状をしたブロック前面R1の厚みを利用して下降緩斜面R11を確保したものであり、より具体的には、ブロックの最上面部分を平坦なステージ部R12とし、当該ステージ部R12を中央にして左右方向にそれぞれ下降緩斜面R11,R11が連設された形態をしている。これら左右の緩斜面R11,R11の表面や、ステージ部R12の表面は、凹凸状又は粗面状に形成しておくのが望ましい。
【0044】
ブロック前面R1の表面側(化粧面側)は、護岸設置の際の景観に配慮して、自然石を模した擬石模様の凹凸が形成されており、中央部分と、左右に各1個ずつ、擬石模様を損なわないように不定形状をした開口R13a,R13b,R13cが穿設されている。これら開口R13a,R13b,R13cは、いずれもブロック背面控部R2との間における各空洞部R3a,R3b,R3cと連通している。第28図に示されるように、3つの空洞部のうち、左右の空洞部R3b,R3cには底板がなく上部から底部までが貫通して透水性が確保されているが、中央の空洞部R3aには底板R5があって、その中央に穿設された断面すり鉢状をした水抜き用の小透孔R31によって透水性が確保されている。中央の空洞部R3aに底板R5を設けたのは、後述するように複数個のブロックを多段積みする際の安定性確保を図りつつ、ブロック自体の強度も確保するためである。
【0045】
本例の誘導路形成用ブロックでは、ブロック前面R1が略垂直面をなすよう構成されているので、多段に積む際には、第29図に示されるように、下段に位置するブロックよりも上段に位置するブロックを背面方向にずらしながら、階段状に設置される。各ブロックの左右端にあってブロック前面R1とブロック背面控部R2とを連結するリブR4,R4の上面には連結部となる凹部R41,R41が設けられており、段積みにした各ブロックに隣接している上段側のブロック前面R1の底面部分が嵌合することによって、両ブロックのズレ止めが図られることになる。こうして順次ブロックを積み上げることにより形成された擁壁や護岸の前壁面には、複数個のブロックに亘って上下方向斜めに、あるいはつづら折りに、下降緩斜面R11とステージ部R12が交互に連続した斜路が形成される。
【0046】
ブロックの空洞部R3a,R3b,R3cには砕石や土砂が胴込めされるが、形成される擁壁等の傾斜角度によっては、上段側のブロックが下段側のブロックより一層背面側に控えるように配置されることになり、露出したブロック空洞部R3a,R3b,R3cの上面部分からより効果的な植生が図られることになる。ブロック前面R1の開口R13a,R13b,R13cは、斜路を移動する小動物のすみかとなったり、水中に没した部分では魚巣ともなり得る。
【0047】
第30図は本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の例を示す斜視図であり、第31図は同ブロックを上下反転して見た状態の斜視図である。この例のブロックは、ブロック前面S1が二等辺三角形状をしており、傾斜した二つの等辺においてブロック前面側に位置した天面部分が下降緩斜面S11,S11をなすものである。同一形状からなるブロック前面S1とブロック背面控部S2とは3本のリブS4,S4,S4によって連結されており、これらブロック前面S1とブロック背面控部S2との間が空洞部S3とされ、各リブS4,S4,S4間の開口が空洞部S3と連通している。図示されてはいないが、先の例のブロックと同様に、ブロック前面S1には自然石を模した凹凸模様を施してもよいし、空洞部S3に連通する開口を設けてもよい。
【0048】
第32図は、第30図及び第31図の例のブロックを多段に積み重ねた状態を示した施工図である。本例のブロックでは、交互に上下方向を逆にしながら横に並べられて1段目が形成され、その上段にも同様にして交互に上下方向を逆にしながら横に並べられて2段目が形成され、これが繰り返されることにより多段に積み上げられた擁壁等が完成する。1段目より2段目を背面側に控えるようにずらして階段状に積み上げる点は先の第29図の施工例と同様であるが、本例では、図示されるように、さらに同じ段にあって二つの等辺が下向きになるよう配置されたブロックを背面側に控えるようにずらすことによって、二つの等辺が上向きになるよう配置されたブロックの下降緩斜面S11,S11が露出するようにしている。
【0049】
その結果、二つの等辺が下向きになるよう配置されたブロックでは、ブロック前面S1の底辺部分が平坦なステージ部S12となり、このステージ部S12を介しながら、下降緩斜面S11が上下方向斜めに、あるいはつづら折りに連続した斜路が形成されることになる。図中、格子状模様を表示した部分は砕石や土砂等が胴込めされた空洞部S3であるから、ステージ部S12より背面側に位置するこれら空洞部S3の土砂等が露出するようにブロックをずらして積み上げることにより、露出した土砂等から植生が図られる。
【0050】
第33図は、本発明に係る誘導路形成用ブロックの更に他の例を示す斜視図である。本例のブロックでは、正面視横長方形をしたブロック前面T1と、同形状をしたブロック背面控部T2とのほぼ中間位置において、正面視略山形をした突起部T5が設けられている。突起部T5には相当程度の厚みが確保されており、この厚みを利用して、突起部T5の頂部天面部分をステージ部T12としつつ、このステージ部T12からブロック左右端へと続く斜面を下降緩斜面T11,T11としている。このようにブロック前面T1から背面側に控えた位置において上方に立設された突起部T5とブロック前面T1との間、そして当該突起部T5とブロック背面控部T2との間は、それぞれ中央のリブT4で2つに分割され、上下に連通した空洞部T3a,T3bとされている。
【0051】
第34図は、先の第33図に示した例のブロックを多段に積み重ねた施工状態の一例を示す斜視図である。この施工例では、下段に位置するブロックにおける突起部T5の背面側、つまり背面控部T2の上に次のブロックを載置することによって、階段状の擁壁面を形成している。図示されるように、突起部T5の頂部に設けられたステージ部T12の高さは、ブロック前面T1の高さの丁度2倍に設定されているので、多段に布積みされた施工状態においては下段側ブロックのステージ部T12と上段側ブロックにおけるブロック前面T1の天面部分が連続し、その結果、下段に位置したブロックにおけるブロック前面T1の天面部分から下降緩斜面T11を経てステージ部T12を通り、上段のブロックにおけるブロック前面T1の天面部分へと連続する斜路が形成されるのである。なお、本例のブロックでも図中格子状模様で示された空洞部T3a,T3bには砕石や土砂が胴込されて植生が図られることになる。
【0052】
第35図は、先の第33図に示した例のブロックを多段に積み重ねた他の施工状態を示す斜視図である。先の施工例では、多段に積み上げるブロックは上下段で同じ位置にあるようにしていたが、本施工例では、1段毎にブロックの位置を左右方向にずらして積み上げつつ、下段に位置するブロックより上段に位置するブロックを背面方向にずらしながら階段状に配置している。その結果、下段に位置するブロックの下降緩斜面T11を経てステージ部T12に至り、上段に位置するブロックにおけるブロック前面T1の天面部分を経て下降緩斜面T11へと至る距離が先の施工例の場合に比して短くなるので、完成した擁壁面においては1段目のブロックにおける下降緩斜面T11から次の段のブロックにおける下降緩斜面T11に辿り着きやすく、上下方向に移動する小動物の動きがよりスムーズになると考えられる。
【0053】
第36図は、本発明に係る誘導路形成用ブロックの更に他の例を示した正面図(a)及び右側面図(b)である。本例のブロックでも、正面視略横長六角形状をしたブロック前面U1の上部天面部分において平坦なステージ部U12を中央にして左右方向にそれぞれ下降緩斜面U11,U11が設けられているが、これら下降緩斜面U11,U11を備えたブロック前面U1の上部が、下降緩斜面を有しないブロック前面U1下部よりも前面方向に突出形成されている点において、先の例のブロックと相違している。また、ブロック前面U1とブロック背面控部U2との間に空洞部はみられず、その代わりに、ブロックの天面側に凸となり、ブロックの底面側に凹となる連結部U41が設けられている点においても、先の例のブロックと相違が見られる。
【0054】
そして、従前説明してきた例のブロックと異なり、本例のブロックは、階段状に積み上げるのではなくて、垂直又は急勾配斜面に積むことにより擁壁面を形成する場合に用いられる。すなわち、第37図は本例のブロックの施工状態を示す斜視図であり、図示されるように、ブロックの連結部U41が上下方向に嵌合するよう連続して多段積みされる。各ブロック背面控部U2には設置斜面との間にアンカーU5が張設されており、このアンカーU5によってブロックを固定しつつ、各ブロックが多段に積み上げ施工された後に裏込め材が投入されることになる。積み上げられたブロックが擁壁として完成した状態においては、壁面から突出したブロック前面U1の上部における下降緩斜面U11とステージ部U12が連続し、完成した擁壁面において上下方向斜めに、あるいはつづら折り状の斜路が形成されるのである。
【0055】
なお、本例のブロックを垂直方向に積む場合、下降緩斜面U11とステージ部U12が、いずれもやや斜め下方に傾斜してしまうので、それらの表面には凹凸状又は粗面状の滑り止めを施すのが望ましい。より効果的に小動物の滑落を防止するためには、下降緩斜面U11とステージ部U12部分を溝状にした凹面部として形成するとよい。
【0056】
第38図は、第36図のブロックにおける連結部として他の態様を採用した例の正面図(a)、右側面図(b)及びX−X断面図(c)である。本例のブロックでは、連結部として嵌合溝U42が採用されており、ブロックの背面側における上側部分と下側部分、そして左右部分において嵌合溝U42が刻設されている。第39図は同ブロックの施工状態を示す斜視図である。図示されるように、ブロックを多段に積む際には隣接するブロックの嵌合溝U42に対して跨るように連結板U6を嵌入することによって、ブロック同士の連結固定が図られる。連結板U6の背面側からは設置斜面との間にアンカーU5が張設されており、このアンカーU5によって固定されながら各ブロックが積み上げ施工された後に裏込め材が投入されることになる。ブロック上側部分の嵌合溝U42に見られる切り欠きU43は、アンカーU5嵌入用として設けられたものである。
【0057】
こうして多数個のブロックを段積み施工することにより形成された擁壁は、裏込め材が投入されて完成した際には、先の例と同様に、壁面から前方に突出したブロック前面U1の上部における下降緩斜面U11とステージ部U12が連続し、擁壁面全体において上下方向斜めに、あるいはつづら折り状に連続する斜路が形成されるのである。
【0058】
第40図は、さらに他の例のブロックを用いて施工した状態を示す斜視図である。本例のブロックも、正面視略横長六角形状をしたブロック前面V1の上部天面部分において平坦なステージ部V12を中央にして左右方向にそれぞれ下降緩斜面V11,V11が設けられており、これら下降緩斜面V11,V11を備えたブロック前面V1の上部が、下降緩斜面を有しないブロック前面V1下部よりも前面方向に突出形成されている点は先の第36図のブロック等と同じであるが、ブロック全体が背面控部方向に長く形成されており、かつ、上面と背面が開放した空洞部V3が設けられている点が相違している。図中に格子状模様で示されるように、空洞部V3の内部に砕石や土砂等が胴込めされながら複数個のブロックが多段に積み上げられると、空洞部V3の前端部分とともにステージ部V12や下降緩斜面V11,V11が壁面から前方に突出し、これらステージ部V12や下降緩斜面V11,V11が連続することにより、擁壁面全体において上下方向斜めに、あるいはつづら折り状に連続する斜路が形成されるのである。
【0059】
第41図は本発明に係るパネル材の一例を示した斜視図である。図示された例のパネル材は、横長長方形をしたパネル本体P1Aの前面において、長辺方向中央に一本の凸条P2が立設されたものである。また、凸条P2の左右端には、当該凸条P2を保持するように傾斜リブP3,P3が延設されており、これら凸条P2と両端の傾斜リブP3,P3の間部分が凹陥部P4となっている。一方、パネル本体P1Aの背面は、通常は突起のない平坦面として形成されるが、パネル材の重量を軽減するべく周辺部を残して陥没した形状としてもよい。
【0060】
こうしたパネル材を既設の壁体前面に貼着固定した例を第42図に示す。既設の壁体前面Wは平滑面であるか粗面であるかを問わないし、傾斜角度についてもさほど問題にならない。要は、パネル材を貼着固定することが可能な壁体であればよいのであって、接着剤やアンカーなど各種固定手段を適宜選択使用することにより貼着固定される。図示された例では、先の第40図のパネル材と、同パネル材よりやや短いパネル材とを組み合わせながら、複数個のパネル材を既設壁体前面Wの下端付近から上端まで三段にグループ分けしながら連続固定している。当然ながら、グループ分けすることなく、完全な直線として連続固定してもよい。また、本例では既設壁体として河川の擁壁面を想定しており、水面位置を考慮して既設壁体前面Wの下端より若干控えた位置からパネル材を貼着しているが、既設壁体前面Wの最下端を起点としてもよいことは言うまでもない。
【0061】
図示されるように、斜めに連続して貼着されたパネル材によって、隣接するパネル材との間に傾斜リブP3,P3を介しながら、各パネル材における凸条P2の端部同士が連続して、既設壁体前面Wにおいて上下方向に連続する傾斜面をなす誘導路が形成されている。傾斜リブP3,P3に挟まれて凸条P2の上側に位置する凹陥部P4は、誘導路を移動する小動物の休息場所となるし、土砂等が吹きだまると雑草等の植生も図られる。
【0062】
第43図は、本発明に係るパネル材の他の例を示した斜視図である。先の第41図の例のパネル材に比してより複雑な形状をしているが、やはり略横長方形状をしたパネル本体P1Bの前面側において、上端中央に設けられた平坦なステージ部P8を介して左右方向下方に傾斜した第1の段差P5,P5と、両端から各々折り返して下端中央に至る下方傾斜した第2の段差P6,P6とが設けられている。そして、第1の段差P5,P5と第2の段差P6,P6との間には横長三角形状をした透孔P7,P7が穿設されている。これら透孔P7,P7は、ときに小動物のすみかともなるものである。
【0063】
こうしたパネル材を既設壁体前面に貼着固定した例を第44図に示す。図示されるように、パネル本体P1Bは上下方向に積み重ねるように貼着固定されており、さらに2個程度を上段側に貼着固定することによって、既設壁体前面Wの下端から上端に至るまで連続する緩斜面をなす誘導路が形成される。
【0064】
すなわち、最下段に位置するパネル本体P1Bにおける第2の段差P6,P6を始点とする誘導路は第1の段差P5,P5へと続いて、各パネル本体P1Bのステージ部P8を介しつつ、上段に位置するパネル本体P1Bにおける第2の段差P6,P6へと続き、つづら折れ(ジグザグ)になって最上段に位置するパネル本体P1Bへと連続するのである。
【0065】
なお、第44図において右側に貼着固定されているパネル本体P1Cは、左側に貼着固定された先のパネル本体P1Bの前面側全体に擬石のような凹凸模様を施したものである。このように前面側全体に凹凸模様が施された結果、完成した誘導路の表面も凹凸状又は粗面状に形成されるので、誘導路を移動する小動物の滑落防止が図られるのである。
【0066】
こうしたパネル材には、1ないし複数個の空洞部を設けることにより、既設壁体前面に貼着固定した際には豊かな植生を実現することができる。第45図は多数個の空洞部を設けたパネル本体の例を示した斜視図であり、先のパネル本体P1BやP1Cを基本形状としつつ第1の段差P5,P5や第2の段差P6,P6、そしてステージ部P8と背面板P10との間に複数個の空洞部P9を設けた例を示している。本例のパネル本体P1Dにおいても、先の例のパネル本体P1B,P1Cと同様に第1の段差P5,P5や第2の段差P6,P6及びステージ部P8はそれぞれ小動物の誘導路となるものであるが、空洞部P9に土砂や砕石が胴込めされることにより、根付いた植物が小動物の隠れ場所としても機能するし、パネル本体P1Dが水没部分に貼着固定された場合においては砕石等の隙間が魚類のすみかにもなる。
【0067】
以上説明したパネル材は既設の壁体前面に対して貼着固定することにより使用されるものであるが、現場にてコンクリート打設によって新たに壁体の構築施工を図る場合には、コンクリート打設面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられている型枠を用いる。例えば、第41図のパネル材に対応する個別転写型枠を形成し、これを新設しようとする壁体前面構築用に設置される型枠に対して適宜位置に配設固定すると、コンクリートを打設して壁体が完成した際には、第42図に示されるような、壁体前面において凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が転写形成されることになる。
【0068】
また、第43図のパネル材に対応する個別転写型枠を形成し、やはり新設する壁体前面構築用として設置される型枠に対して適宜配設固定しておくと、コンクリートを打設して壁体が完成した際には、第44図に示されるような、壁体前面において凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が転写形成されることになるわけである。とくに、転写面における誘導路形成部分を凹凸状又は粗面状に形成しておくと、完成した壁体前面も第44図の右側に示されるようになり、移動する小動物の滑落防止が図られる。
【0069】
なお、型枠としては、コンクリート打設面側となる転写面側に凸条、凹陥部又は段差を立体的に彫刻したものであれば、発泡ポリスチレンなどの合成樹脂発泡体を鋼製又は木製のパネルに貼着固定したような、従来用いられている一般的なものが利用しうる。
【0070】
一方、現場におけるコンクリート打設によって新たに壁体の構築施工を図る場合であって、型枠をそのまま構造物の化粧面とする捨て型枠として用いる場合には、第43図に例示されるようなパネル材の背面側、つまりコンクリート打設面側に背筋を突設させたものを型枠とする。背筋としては、従来の捨て型枠に使用されている鋼製のL型脚やアンカーのほか、金属製や繊維製のネット等も好適に用いられる。あるいは、積み上げた型枠の裏面側をアングル材等で連結施工してもよい。いずれにしても、背面側に打設されたコンクリートによって一体化した擁壁等が構築され、完成した擁壁等の前面側には、第44図に示されるような、壁体前面において凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が形成されることになるわけである。前述のパネル材の場合と同様に、誘導路形成部分を凹凸状又は粗面状に形成しておくと、完成した壁体前面も第44図の右側に示されるようになり、移動する小動物の滑落防止が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る誘導路形成用ブロックにより構築された擁壁の一例を示した斜視図である。
【図2】同ブロックの平面図である。
【図3】同ブロックの正面図である。
【図4】同ブロックの側面図である。
【図5】本発明に係る誘導路形成用ブロックにより構築された擁壁の他の例を示した斜視図である。
【図6】同ブロックの斜視図である。
【図7】本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示した斜視図である。
【図8】別なブロックを用いて構築された擁壁の例を示した斜視図である。
【図9】同擁壁を構成するブロックの一つを示した斜視図である。
【図10】同擁壁を構成する他のブロックを示した斜視図である。
【図11】2種類の間知ブロックで誘導路を形成した例を示す擁壁の正面図である。
【図12】同擁壁に用いたブロックの一つの正面図である。
【図13】同ブロックの側面図である。
【図14】同ブロックの底面図である。
【図15】第11図の擁壁に用いたブロックの他の一つの正面図である。
【図16】同ブロックの側面図である。
【図17】カエル等の両生類が誘導路を移動している様子を示す同擁壁の要部斜視図である。
【図18】本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示した側面図である。
【図19】凸条を端部がブロックの両端縁に達しない程度に形成して誘導路を形成するようにした例の擁壁の正面図である。
【図20】同擁壁に用いた誘導路形成用ブロックの平面図である。
【図21】同ブロックの側面図である。
【図22】同擁壁においてカエルが誘導路を移動している様子を示す要部斜視図である。
【図23】ブロックの前面に誘導路を形成した他の例の斜視図である。
【図24】ブロックの前面に誘導路を形成したさらに他の例の斜視図である。
【図25】本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の一例を示す正面図である。
【図26】同ブロックの平面図である。
【図27】同ブロックの右側面図である。
【図28】同ブロックのX−X断面図である。
【図29】同ブロックの施工図である。
【図30】本発明に係る誘導路形成用ブロックのさらに他の例を示す平面側斜視図である。
【図31】同ブロックの底面側斜視図である。
【図32】同ブロックの施工図である。
【図33】本発明に係る誘導路形成用ブロックの他の例を示す斜視図である。
【図34】同ブロックを多段に積み重ねた施工状態の一例を示す斜視図である。
【図35】同ブロックを多段に積み重ねた他の施工状態を示す斜視図である。
【図36】本発明に係る誘導路形成用ブロックの更に他の例を示した正面図(a)及び右側面図(b)である。
【図37】同ブロックを多段に積み重ねた施工例を示す斜視図である。
【図38】先の第36図に示したブロックにおける連結部として他の態様を採用した例の正面図(a)、右側面図(b)及びX−X断面図である。
【図39】同ブロックの施工状態を示す斜視図である。
【図40】さらに他の例のブロックを用いて施工した状態を示す斜視図である。
【図41】本発明に係るパネル材の一例を示した斜視図である。
【図42】同パネル材を既設壁体前面に貼着固定した例の斜視図である。
【図43】本発明に係るパネル材の他の例を示した斜視図である。
【図44】同パネル材を既設壁体前面に貼着固定した例の斜視図である。
【図45】多数個の空洞部を設けたパネル本体の例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
1 単誘導路
1a,1b 誘導路
2 第1平坦部
3 凸部
4 凹部
5 第2平坦部

7 凹部
8 横孔
9 凹凸
10 溝
11 背面板
12 通水孔
13 側板
14 梁
15 連通孔
16 配筋孔
17 平坦部
18 前面板
19 控部
20a,20b 凸条
21 凸条
22 植栽孔
23 滑止め面
R1 ブロック前面
R2 背面控部
R3a,R3b,R3c 各空洞部
R4 リブ
R5 底板
R11 下降緩斜面
R12 ステージ部
R13a,R13b,R13c 開口
R11 下降緩斜面
R12 ステージ部
R31 小透孔
R41 凹部
S1 ブロック前面
S2 ブロック背面控部
S3 空洞部
S4 リブ
S11 下降緩斜面
S12 ステージ部
T1 ブロック前面
T2 ブロック背面控部
T3a,T3b 空洞部
T4 リブ
T5 突起部
T11 下降緩斜面
T12 ステージ部
U1 ブロック前面
U2 ブロック背面控部
U5 アンカー
U6 連結板
U11 下降緩斜面
U12 ステージ部
U41 連結部
U42 嵌合溝
V1 ブロック前面
V3 空洞部
V11 下降緩斜面
V12 ステージ部
P1A,P1B,P1C,P1D パネル本体
P2 凸条
P3 傾斜リブ
P4 凹陥部
P5 第1の段差
P6 第2の段差
P7 透孔
P8 ステージ部
P9 空洞部
W 既設壁体前面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のブロックの段積みにより連続した誘導路を形成するべく、ブロック前面において凸条、凹条、又は段差をその端部が隣接するブロック間で連続する位置に設けたことを特徴とする誘導路形成用ブロック。
【請求項2】
凸条、凹条、又は段差が上段ブロックと下段ブロックで異なる方向に設けられ、谷積みにより誘導路を形成するようにした請求の範囲第1項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項3】
誘導路が、ブロック前面端部又は中ほどに平坦部を有する請求の範囲第1項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項4】
誘導路が、平坦部両側に斜め下方から上昇、又は平坦部両側から斜め上方に上昇するよう設けられた請求の範囲第1項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項5】
誘導路を形成した前面板の背部控側に空洞部を有すると共に、前記前面板に連通孔を設けた請求の範囲第1項ないし第4項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項6】
誘導路を形成したブロックが前面板と控部とからなる間知ブロック形である請求の範囲第2項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項7】
誘導路に滑止めの凹凸を形成した請求の範囲第1項ないし第6項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項8】
誘導路又は誘導路近傍に植生機能を付与する溝又は穴を設けた請求の範囲第1項ないし第7項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項9】
ブロック前面上部の天面部分が下降緩斜面として形成されており、複数個のブロックを多段積みした際には、前記下降緩斜面が複数個のブロックに亘って上下方向に連続する斜路となるものである誘導路形成用ブロック。
【請求項10】
ブロック前面が水平方向に長く扁平な略六角形状をしており、下降緩斜面が、平坦なステージ部を中央に配して左右にそれぞれ連設されたものである請求の範囲第9項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項11】
ブロック前面が二等辺三角形状をしており、下降緩斜面が二つの等辺の天面部分に設けられてなる請求の範囲第9項記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項12】
ブロック前面より背面側に控えた位置において上方に立設された突起部の天面部分が下降緩斜面として形成されており、複数個のブロックを多段積みした際には、前記下降緩斜面が、ブロック前面上部の天面部分を介しながら複数個のブロックに亘って上下方向に連続する斜路となるものである誘導路形成用ブロック。
【請求項13】
少なくとも下降緩斜面の表面が、凹凸状又は粗面状に形成されているものである請求の範囲第9項ないし第12項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項14】
ブロック前面が略垂直面をなしており、多段積みする際には下段に位置するブロックより上段に位置するブロックを背面方向にずらして階段状に配置されるものである請求の範囲第9項ないし第13項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項15】
下降緩斜面を備えたブロック前面上部が、下降緩斜面のないブロック前面下部より前面方向に突出形成されてなる請求の範囲第9項、第10項、第13項又は第14項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項16】
ブロックの天面と底面において、多段積みされるブロック同士の連結部が対応形成されていることを特徴とする請求の範囲第9項、第10項、第13項又は第14項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項17】
ブロック前面と背面控部との間に空洞部が設けられており、該空洞部と連通する開口がブロック前面又は上面に穿設されていることを特徴とする請求の範囲第9項ないし第16項のいずれかに記載の誘導路形成用ブロック。
【請求項18】
完成した壁体前面に貼着固定されるコンクリート製パネル材であって、前面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体前面に貼着固定した際には前記凸条等の端部同士が隣接するパネル間で連続し、略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路として形成されるものである、誘導路を備えた壁体構築用パネル材。
【請求項19】
誘導路の表面が、凹凸状又は粗面状に形成されているものである請求の範囲第18項記載の誘導路を備えた壁体構築用パネル材。
【請求項20】
コンクリート製壁体の構築に用いられる型枠であって、コンクリート打設面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体が完成した際には壁体前面において前記凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路が転写形成されるものである、誘導路を備えた壁体構築用型枠。
【請求項21】
完成した壁体における誘導路の表面に相当するコンクリート打設面が、凹凸状又は粗面状に形成されているものである請求の範囲第20項記載の誘導路を備えた壁体構築用型枠。
【請求項22】
コンクリート製壁体の構築に用いられる型枠であって、コンクリート打設面側に背筋を備える一方、前面側に凸条、凹陥部又は段差が設けられており、壁体が完成した際には壁体前面において前記凸条等が略上下方向に連続する緩斜面をなす誘導路として形成されるものである、誘導路を備えた壁体構築用型枠。
【請求項23】
誘導路の表面が、凹凸状又は粗面状に形成されているものである請求の範囲第22項記載の誘導路を備えた壁体構築用型枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【公開番号】特開2008−101460(P2008−101460A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311225(P2007−311225)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【分割の表示】特願2005−501577(P2005−501577)の分割
【原出願日】平成15年10月23日(2003.10.23)
【出願人】(000211237)ランデス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】