説明

誘電体セラミック及び積層型電子部品

【課題】特許文献1の高周波用誘電体磁器組成物は、焼成温度が1350〜1400℃と高温であり、積層コンデンサ用材料としての焼成温度が高すぎる。特許文献2の積層コンデンサは、その製造工程が複雑で製造に手間がかかり、しかも、接着層とセラミック層との熱収縮率の差により構造欠陥を生じる虞があって積層コンデンサの小型化、多層化が難しい。特許文献3の高周波用誘電磁器組成物は、焼成温度が1300℃〜1500℃と非常に高温であり、負の傾きが小さいCaTiOの添加量を多くなり、比誘電率が0ppm/℃で16と高い。
【解決手段】本発明の誘電体セラミック組成物は、第1主成分であるフォルステライト系結晶相と、第2主成分であるTiを含む酸化物からなる結晶相と、を主成分とする混晶からなる誘電体セラミックにおいて、上記誘電体セラミックの断面における上記混晶の第2主成分の結晶粒子及びその凝集物のD90が4μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体セラミック及び積層型電子部品に関し、更に詳しくは、高周波モジュールに使用する温度補償用として好適に用いることができる誘電体セラミック及び積層型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の誘電体セラミックとしては、例えば本出願人が提案した特許文献1に記載の高周波用誘電体磁器組成物が知られている。この誘電体磁器組成物は、一般式xMgO−ySiO(但し、式中のx、yは、各成分の重量百分率を表し、40≦x≦85、15≦y≦60、x+y=100である)で表される組成を有する磁器組成物に、焼結することによりバリウム酸化物となる物質(Ba源)及び焼結することによりストロンチウム酸化物(Sr源)の一方または両方を、それぞれBaCOまたはSrCOに換算して、その合計が0.3〜3.0重量%になるような割合で添加してなるものである。
【0003】
また、特許文献2には2種類以上の誘電特性の異なるセラミック誘電体層を多層に構成した積層セラミックコンデンサが提案されている。この積層セラミックコンデンサは、誘電体層と導体層を互いに積層してなるセラミックコンデンサの個々の誘電体層の少なくとも一方の面に導体層を設け、その導体層上を含めた全面に、ガラス材料ペースト層を形成し、このガラス材料ペースト層及び導体層よりなるものを接着剤層とする。この接着剤層は、導体層で一定のパターンを構成するもので、その時、ガラス材料ペースト層と導体層の一方、または両方がそれを挟んでいるセラミック薄板を接着して形成されていて、更に、この導体層は導体ペースト或いは導電性接着剤よりなり、この誘電体層は、個別に形成された、誘電特性の異なる2種類以上の誘電体セラミック薄板を各々少なくとも1枚ずつ用い、積層されたものよりなるものである。
【0004】
また、特許文献3には、フォルステライト、チタン酸亜鉛、チタン酸カルシウムからなる高周波用誘電体磁器組成物が提案されている。この誘電体磁器組成物は、一般式xMgSiO−yZnTiO−zCaTiO(但し、式中のx、y、zは、それぞれmol%を表し、21<x<88、4<y<71、4≦z≦14、x+y+z=100である)で表される組成を有するものである。
【0005】
【特許文献1】特許第3446249号公報
【特許文献2】特公平6‐48666号公報
【特許文献3】特開2004‐131320号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の高周波用誘電体磁器組成物は、従来のフォルステライト(MgSiO)よりは低温で焼結することができ、高いQ値と高い比誘電率を有するため、例えばマイクロ波集積回路等のマイクロ波帯で用いられる回路素子用基板あるいは誘電体共振器用支持台用の材料としては好適に用いることができるが、焼成温度が1350〜1400℃と高温であり、積層コンデンサ用材料として使用するには依然として焼成温度が高く、温度特性であるJIS規格のCG特性を満足させることができないという課題があった。
【0007】
また、特許文献2の積層コンデンサは、誘電特性の異なる2種類以上の誘電体セラミック薄板、例えば正、負それぞれの温度係数を有する誘電体セラミック薄板を互いに接着剤層を介して貼り合わせて構成されているため、誘電性の異なる誘電体セラミック薄板をそれぞれ個別に製造し、これらの誘電体セラミック薄板をガラス材料ペースト及び導体ペーストからなる接着剤によって接合して積層体を得た後、この積層体を焼成処理するため、積層コンデンサの製造工程が複雑で製造に手間がかかり、しかも、ガラス材料ペースト及び導電ペーストからなる接着層とセラミック層との熱収縮率の差により構造欠陥を生じる虞があって積層セラミックとしての小型化、多層化を実現することが難しいという課題があった。
【0008】
また、特許文献3に記載の高周波用誘電磁器組成物は、比誘電率を8〜20の範囲で調整することができ、共振周波数fとQ値の積であるQ×fも大きく、更に共振周波数fの温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下で調整が容易な高周波用誘電体磁器組成物であるが、焼成温度が1300℃〜1500℃と非常に高温であり、また、負の温度特性を持つ材料として用いているCaTiOは負の傾きが−1500ppm/℃と小さいため、温度特性0ppm/℃を達成するためにはCaTiOの添加量を多くする必要があり、その結果、比誘電率が0ppm/℃で16と高くなってしまうという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、従来のフォルステライトよりも低温で焼成することができ、温度補償用コンデンサとして要求される、JIS規格のCG〜CK、LG〜LK、PG〜PK、RG〜RK、SH〜SK、TH〜TK、UH〜UK及びSL特性(以下、「CG特性からSL特性」と略記する。)を満足し、これらの温度特性が高温下でも安定し信頼性の高い誘電体セラミック及び積層型電子部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載の誘電体セラミックは、第1主成分であるフォルステライト系結晶相と、第2主成分であるTiを含む酸化物からなる結晶相と、を主成分とする誘電体セラミックにおいて、上記誘電体セラミックの断面における上記第2主成分の結晶粒子及びその凝集物のD90が4μm以下であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項2に記載の誘電体セラミックは、請求項1に記載の発明において、上記第1主成分がMgSiO2+xであり、上記第2主成分がSrTiO2+yであって、上記主成分が、第1主成分を(1−a)、第2主成分をa、のモル比で含み、(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yで表されるとき、上記x、y及びaは、それぞれ1.70≦x≦1.99、0.98≦y≦1.02及び0.05≦a≦0.29の関係を満足することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載の積層型電子部品は、積層された複数の誘電体セラミック層と、これらの誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、これらの内部電極に電気的に接続された外部電極とを備え、上記誘電体セラミック層は、請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックによって形成されてなることを特徴とするものである。
【0013】
即ち、本発明の誘電体セラミックは、第1の主成分であるフォルステライト系結晶相と、第2主成分であるTiを含む酸化物(以下、「チタン系酸化物」と称す。)からなる結晶相と、を主成分とする混晶から形成されている。この誘電体セラミックは、基本的には、正の温度特性を有し且つ比誘電率が低く、高周波特性に優れたフォルステライト系化合物に、負の温度特性を有するチタン系酸化物を所定量添加して構成されることにより、フォルステライト系結晶相とチタン系酸化物の結晶相の混晶を生じさせて、比誘電率が低く、その温度特性を容易に調整することができ、所望の温度係数値を得ることができる。その結果、温度補償用途で要求されるJIS規格のCG特性からSL特性までの広い範囲の温度特性を有する誘電体セラミックを得ることができる。従って、本発明の誘電体セラミックは、温度補償用の低容量セラミックコンデンサ等の積層型電子部品を製造する際に好適に用いることができる。
【0014】
また、本発明の誘電体セラミックは、その断面に現れる混晶の第2主成分、即ちチタン系酸化物からなる結晶粒子及びその凝集物の粒径が粒度分布におけるD90値で4μm以下である。ここで、結晶粒子の凝集物とは、焼結後の混晶内で粒界を介して集まった複数個の結晶粒子の固まりのことを意味する。また、本発明における粒径は、各結晶粒子、その凝集物それぞれの最大径である。
【0015】
チタン系酸化物の結晶粒子及びその凝集物の粒径がD90で4μm以下であると、以下で説明するように誘電体セラミックの絶縁抵抗の劣化を抑制、あるいは防止して、高温負荷寿命が長く、高温下でも温度特性が安定した信頼性の高い誘電体セラミックを得ることができる。即ち、チタン系酸化物結晶相は、フォルステライト系結晶相より高温負荷寿命が短いため、フォルステライト系結晶相と、チタン系酸化物の結晶相と、を主成分とする混晶からなる誘電体セラミックの場合には、高温負荷試験を行うとチタン系酸化物結晶相が先に劣化する。この時、チタン系酸化物の結晶粒子及びその凝集物の粒径がD90で4μmを超えると、これらの結晶相の近傍領域にかかる電界が大きくなって、フォルステライト系結晶相の絶縁抵抗の劣化を促進することになる。このような誘電体セラミックによってコンデンサを作製すると、コンデンサの高温負荷寿命が短くなる。
【0016】
而して、本発明における第1主成分のフォルステライト系結晶相は、一般式MgSiO2+xで表され、第2主成分のチタン系酸化物の結晶相は、一般式ATiO2+yで表される。混晶の主成分が、第1主成分を(1−a)、第2主成分をa、のモル比で含むときは、主成分は、一般式(1−a)MgSiO2+x+aATiO2+yで表される。この一般式におけるAは、アルカリ土類金属が好ましく、更にSr、Caがより好ましく、特にSrが好ましい。従って、本発明の誘電体セラミックの結晶相は、一般式(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yで表される主成分とする混晶であることが好ましい。
【0017】
上記一般式MgSiO2+xにおけるxは、1.70≦x≦1.99の関係を満足することが好ましい。従来のフォルステライトは前述したように1350〜1400℃と高温であるが、本発明の誘電体セラミックは、MgとSiとの比(Mg/Si=x)が上記範囲を満足し、更にチタン酸ストロンチウム(SrTiO2+y)が添加されるため、焼結性が大幅に改善され、1200℃程度の焼成温度で十分焼結させることができる。xが1.70未満ではフォルステライト系結晶相とチタン酸ストロンチウムの結晶相との混晶が生成し難く、静電容量の温度係数TCCが正に大きくなり温度特性規格を満足しなくなる。また、xが1.99を超えるとチタン酸ストロンチウムを添加しても誘電体セラミックの焼結温度を下げることができず、内部電極に悪影響を及ぼさない温度範囲で焼結しない。
【0018】
上記一般式SrTiO2+yにおけるyが0.98≦y≦1.02の関係を満足することが好ましい。SrとTiとの比(Sr/Ti=y)が調整されることによって、温度特性が安定し、目標とする温度特性に調整される。本発明の誘電体セラミックは、yが上記範囲を満足することによって、温度特性がJIS規格のCG特性(静電容量温度係数TCC=0±30ppm/℃以内)からSL特性(静電容量温度係数TCC=+350〜−1000ppm/℃以内)までの広い範囲で所望の温度特性規格に調整され、それぞれの温度特性が高温下でも安定している。yが0.98未満になったり、yが1.02を超えると、静電容量の温度係数TCCが正に大きくなり温度特性規格を満足しなくなる。
【0019】
上記一般式(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yにおけるSrTiO2+yの添加量aが0.05≦a≦0.29の関係を満足することが好ましい。SrTiO2+yの添加量aの増加に伴い、静電容量の温度係数TCCがマイナス側に連続的に変化するため、aの値を調整することで温度係数を所望の値に設定することができる。即ち、aを本発明の範囲内で調整することによって、温度特性がJIS規格のCG特性からSL特性までの広い範囲の温度特性規格を満足する誘電体セラミックを得ることができる。aが0.05未満ではフォルステライトの温度特性が支配的となり、静電容量の温度係数TCCが大きくなり所望の温度特性規格を満足しなくなる。また、aが0.29を超えると、温度に対する静電容量の変化率が必要以上に負に大きくなり、また、比誘電率が大きくなる。但し、温度特性がSL特性以上に負である必要がある用途の場合には、aを0.29以上に調整することでこれを実現することができる。
【0020】
また、本発明の積層型電子部品は、その誘電体セラミック層が本発明の誘電体セラミックを用いて形成されるものである。本発明の誘電体セラミックを用いて積層型電子部品の誘電体セラミック層を形成することにより、焼結助剤を添加することなく、例えば従来のフォルステライトの焼成温度よりも低温の、1100〜1300℃程度の低い温度で焼成することができ、積層型電子部品として比誘電率が低く、温度特性が安定した積層型電子部品を得ることができる。また、本発明の積層型電子部品として本発明の誘電体セラミックを用いる場合には、本発明の誘電体セラミックの比誘電率が小さいために誘電体セラミック層としての積層枚数を多くすることができるため、等価直列抵抗が低く、静電容量のバラツキが小さい積層型電子部品を得ることができる。
【0021】
また、本発明の積層型電子部品を構成する内部電極は、本発明の誘電体セラミックの焼成温度で形成できる導電性材料によって形成されている。内部電極は、このような導電性材料であれば特に制限されないが、例えばパラジウム(Pd)、パラジウム−銀(Pd−Ag)合金が好ましく用いられる。また、本発明の積層型電子部品を構成する外部電極は、従来公知の導電性材料によって形成されている。外部電極の導電性材料は、内部電極のような焼成上の制約はないが、内部電極に準じた導電性材料が好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1〜請求項3に記載の発明によれば、従来のフォルステライトよりも低温で焼成することができ、温度補償用コンデンサとして要求されるJIS規格のCG特性からSL特性を満足し、これらの温度特性が高温下でも安定し信頼性の高い誘電体セラミック及び積層型電子部品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図1に示す実施形態に基づいて本発明を説明する。
【0024】
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、例えば図1に示すように、積層された複数層の誘電体セラミック層2と、これらの誘電体セラミック層2間にそれぞれ配置された複数の第1、第2内部電極3A、3Bとを有する積層体4を備えている。積層体4の両端面にはそれぞれ外部電極5A、5Bが形成され、これらの外部電極5A、5Bはそれぞれ内部電極3A、3Bに電気的に接続されている。
【0025】
第1内部電極3Aは、図1に示すように、誘電体セラミック層2の一端(同図の左端)から他端(右端)の近傍まで延び、第2内部電極3Bは誘電体セラミック層2の右端から左端の近傍まで延びている。第1、第2内部電極3A、3Bは例えばPdとAgの合金によって形成されている。
【0026】
また、第1外部電極5Aは、図1に示すように、積層体4内の第1内部電極3Aに電気的に接続され、第2外部電極5Bは積層体4内の第2内部電極3Bに電気的に接続されている。第1、第2外部電極5A、5Bは、例えばAgとPdの合金によって形成されている。更に、第1、第2外部電極5A、5Bの表面には従来公知の第1めっき層6A、6B及び第2めっき層7A、7Bが順次施されている。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。本実施例では、誘電体セラミックにおける第2主成分の結晶粒径の温度特性への影響を観るために、下記の手順で表1に示す組成を有する複数の誘電体セラミック原料を調製した後、これらの誘電体セラミック原料を用いて試料No.1〜36の積層セラミックコンデンサを作製した。次いで、これらの積層セラミックコンデンサの評価をそれぞれ行い、その結果を表1に示した。尚、表1において、*印を付した試料は本発明の範囲外のものである。
【0028】
(1)誘電体セラミック原料の調製
まず、第1主成分の出発原料として高純度のMgO及びSiOを準備し、これらの出発原料を表1に示す組成となるように秤量した後、これらの試料を、ボールミルを用いて混合、粉砕した後、仮焼することによってフォルステライト系化合物(MgSiO2+x)を合成した。
【0029】
また、第2主成分の出発原料として高純度のSrCO、CaCO及びTiOを準備し、これらの出発原料を表1に示す組成となるように組み合わせて秤量し、ボールミルを用いて混合、粉砕した後、仮焼することによってチタン酸ストロンチウム(SrTiO2+y)及びチタン酸カルシウム(CaTiO2+y)をそれぞれ合成した。
【0030】
(2)セラミックスラリーの作製
(1)で得られたフォルステライト系化合物にエタノール等の有機溶媒を加えてボールミルで湿式混合、粉砕してフォルステライトスラリーを得た。また、(1)で得られたSrTiO2+y、CaTiO2+y及びTiOにエタノール等の有機溶媒をそれぞれ加えてボールミルで湿式混合、粉砕してそれぞれのスラリーを得た。この際、フォルステライトスラリー中のMgSiO2+xの平均粒径をr、チタン酸ストロンチウムスラリー中のSrTiO2+y、チタン酸カルシウムスラリー中のCaTiO2+y、酸化チタンスラリー中のTiOそれぞれの平均粒径をrとした場合、r/r≧3の関係を満足するように各スラリーの結晶粒径を制御した。
【0031】
このようにして得られた第1主成分のフォルステライトスラリーと、第2主成分の、チタン酸ストロンチウムスラリー、チタン酸カルシウムスラリー、酸化チタンスラリーのいずれか一つと、を組み合わせ、それぞれが表1に示す組成となるように各スラリーを秤量し、ボールミルを用いて混合した後、更にポリビニル系バインダを加えて混合してシート成形用のセラミックスラリーを調製した。また、これらの第1、第2主成分からなる主成分に、添加物として表2に示すガラス等の複合酸化物を添加したシート成形用のセラミックスラリーを調製した。
【0032】
尚、原料中には、不純物としてCaO、BaO、ZrO、Al、Fe、MnO、CuO、ZnO、希土類酸化物を含んでいても電気的特性に大きな影響はない。
【0033】
(3)積層セラミックコンデンサの作製
ドクターブレード法を用いて、(2)で得られたセラミックスラリーからセラミックグリーンシートを形成した後、表1に示すようにセラミックグリーンシート上にPd、Ag、あるいはCuを主成分とする導電性ペーストを内部電極層として印刷し、有効層が10層の積層セラミックコンデンサとなるようにセラミックグリーンシートを積層した後、熱圧着し、所定のチップ寸法に切断して生のセラミック積層体を得た。
【0034】
次いで、Pdの内部電極層を有する生のセラミック積層体の場合には、そのセラミック積層体を大気中、350℃で脱バインダ処理を行った後、大気中で50℃/分の昇温速度で昇温し、1200℃で焼成を行った。Agの内部電極層を有する生のセラミック積層体の場合には、そのセラミック積層体を大気中、350℃で脱バインダ処理を行った後、大気中で50℃/分の昇温速度で昇温し、900℃で焼成を行った。また、Cuの内部電極層を有する生のセラミック積層体の場合には、その生のセラミック積層体を窒素ガス中、350℃で脱バインダ処理を行った後、N−H−HO雰囲気中で50℃/分の昇温速度で昇温し、900℃で焼成を行った。昇温速度は一般的に積層セラミックコンデンサの焼成条件に見られるような5℃/分であっても良いが、昇温速度を50℃/分で高速昇温することによって積層セラミックコンデンサとしての絶縁抵抗が向上させることができる。
【0035】
上述のようにして得られた各焼結体をバレル研磨して各焼結体の端面からそれぞれの内部電極を露出させ、そこに外部電極を施した。Pd、Agを内部電極とする焼結体の端面にはAgペーストを塗布し、Cuを内部電極とする焼結体の端面にはCuペーストを塗布した。これらの外部電極を乾燥させた後、適切な温度、雰囲気中でそれぞれの焼結体に焼き付けた。更に、バレルメッキ法によって各焼結体の外部電極上にNiメッキ層を形成し、引き続き同様にSnメッキ層を形成して、各焼結体から表1に示す試料No.1〜36の積層セラミックコンデンサを得た。各積層セラミックコンデンサの外径寸法は、長さ2.0mm、幅1.2mm、厚さ1.2mmであった。また、各積層セラミックコンデンサの誘電体セラミック層の層間距離は約5μmであり、有効誘電体セラミック層の総数は10層であった。
【0036】
(3)積層セラミックコンデンサの特性評価
LCRメータ(HP社製4284A)を用いて、表1に示す試料No.1〜No.36について25℃、1MHz、1Vにおける静電容量をそれぞれ測定し、これらの測定値と電極面積、素子厚に基づいて各試料の比誘電率εをそれぞれ算出し、その結果を表1に示した。また、静電容量温度特性測定装置を用いて、各試料について20℃及び85℃における静電容量を測定し、それぞれの測定結果に基づいて温度変化率TCCを下記の式から算出し、その結果に該当する温度特性規格を表1に示した。
TCC[ppm/℃]
={(C85−C20)/C}×{1/85℃−20℃}×10
20:20℃における静電容量
85:85℃における静電容量
【0037】
また、各試料について信頼性試験である高温負荷試験を行った。高温負荷試験は、温度150℃、印加電圧100V、試料数72個の条件で行い、これらの試料についてlogIR値が9.0未満になるまで時間を測定し、その測定結果に基づいて平均時間を求め、この平均時間を高温負荷寿命として表1に示した。
【0038】
また、試料No.1〜36の積層セラミックコンデンサを、内部電極が現れるように研磨し、その研磨面を走査型電子顕微鏡(SEM)によって反射電子像(加速電圧:15kV、倍率:5000倍)を撮像した。この画像から第2主成分であるSrTiO、CaTiO、TiO系結晶粒子及びその凝集物の大きさをそれぞれ100個ずつ測定し、それぞれの研磨面においてD90値になる結晶粒径及び凝集物の粒径を調べ、その結果を表1に示した。結晶粒子径としては、各結晶粒子及びその凝集物の最大径を用いた。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1に示す結果によれば、誘電体セラミックの研磨面における第2主成分(ATiO2+y:但し、AはSr、Ca)の結晶粒子及びその凝集物の粒径がD90で4μm以下である本発明の範囲内の試料である、奇数番号の試料はいずれも、高温負荷試験における高温負荷寿命が250時間以上と長く、高温下でも温度特性が安定し、信頼性の高いことが判った。また、第2主成分の添加量aを調整することによって静電容量の変化率TCCが温度特性のCH特性からSL特性までの各温度特性を満足する積層セラミックコンデンサを得られることが判った。また、D90が4μm以下で、粒径が小さいほど高温負荷寿命が長くなり、熱安定性を更に向上させ、信頼性を更に高めることが判った。
【0042】
これに対して、表1に示すように、D90が4μmを超える偶数番号の試料は、D90が4μm以下の試料と比較して高温負荷寿命が劣るものの、100時間以上の高温負荷寿命を示し、高温下での信頼性のあることが判った。このことから、(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yで表される主成分からなる混晶において、x、y及びaが、それぞれ1.70≦x≦1.99、0.98≦y≦1.02及び0.05≦a≦0.29の関係を満足する範囲内の組成であれば、表1に示すように組成が同じでもD90を4μm以下に調整することによって、高温負荷寿命を更に向上させられることが判った。
【0043】
また、表1に示す結果によれば、誘電体セラミック原料を調製する際に、第1主成分であるフォルステライトスラリー中のMgSiO2+xの平均粒径rとし、第2主成分であるチタン酸ストロンチウムスラリー中のSrTiO2+yの平均粒径rとしたとき、粒径比(r/r)を3以上に設定することによって、第2主成分のD90を4μm以下に設定できることが判った。また、rが小さく粒径比r/rが大きくなるほどD90の粒径が小さくなることも判った。他の第2主成分であるCaTiO2+y、TiOについても同様の結果が得られた。
【0044】
逆に粒径比がr/r<3になると、第2主成分であるSrTiO2+y、CaTiO2+y、TiOそれぞれの結晶粒子及びその凝集物の粒径が大きくなり、D90が4μmを超え、第2主成分の結晶粒子が凝集し、成長し易くなることが判った。更に、表1に示す結果によれば、この結果、粒径比がr/r<3になると高温負荷寿命が250時間未満になった。
【0045】
また、表1に示す試料No.1、3、5、7、17、23によれば、第2主成分としてSrTiO2+yを用い、その添加量aを0.05から0.29の範囲で変えることによって、低誘電率化と温度特性を同時に達成することができた。また、試料No.17〜22によれば、第2主成分としてはSrTiO2+yは、SrTiO2+y、TiOより高温負荷寿命が長く、より好ましいことが判った。SrTiO2+yは、温度変化率TCCを−3000ppm/℃と大きくしても、比誘電率を250〜300程度に抑えることができる。更に、SrTiO2+yの添加量aを少なくすることにより比誘電率を更に低く抑えることができる。そのため、所望の静電容量を得る際に、高誘電率材料よりも積層枚数を多くすることができ、その結果等価直列抵抗を低く、静電容量のバラツキを小さくすることができる。
【0046】
また、表1に示す結果によれば、第2主成分として好ましいSrTiO2+yを用いた場合、第1、第2主成分の混晶である(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yは、x、y及びaがそれぞれ1.70≦x≦1.99、0.98≦y≦1.02及び0.05≦a≦0.29の組成範囲内であれば、添加量aを調整することにより比誘電率が8で温度特性がCG特性(試料No.1)から、比誘電率が22で温度特性がSL特性(試料No.23)まで満足する積層セラミックコンデンサを得ることができ、しかも、これらの積層セラミックコンデンサは約1300℃以下で焼成することができることが判った。
【0047】
以上説明したように本実施例によれば、第1主成分であるMgSiO2+x結晶相と、第2主成分である、SrTiO2+y、CaTiO2+y、TiOのいずれかの酸化物からなる結晶相と、を主成分とする混晶からなる誘電体セラミックで、誘電体セラミックの断面における混晶の第2主成分の結晶粒子及びはその凝集物のD90が4μm以下であるため、高温負荷寿命が長く、高温下でも温度特性が安定し、信頼性の高い誘電体セラミック及び積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0048】
また、本実施例によれば、第1主成分がMgSiO2+xであり、第2主成分がSrTiO2+yであって、主成分が、第1主成分を(1−a)、第2主成分をa、のモル比で含み、(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yで表されるとき、x、y及びaは、それぞれ1.70≦x≦1.99、0.98≦y≦1.02及び0.05≦a≦0.29の関係を満足する場合には、従来のフォルステライトよりも低温で焼成することができ、しかも小型低容量で、構造欠陥を生じさせることなく多層化でき、等価直列抵抗の低減、及び静電容量のバラツキの抑制が可能となり、更に、温度補償用コンデンサとして要求されるCG特性からSL特性を満足する積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【0049】
尚、上記実施例では第2主成分の結晶粒子及びその凝集物は、粒径が小さいほど高温負荷寿命が長くなるため、その下限を特に制限するものではない。また、添加物についても表2に示すものに制限されるものではない。また、上記実施例では積層セラミックコンデンサを作製した場合について説明したが、本発明は積層セラミックコンデンサに限らずLCフィルタや多層基板等、他の積層型電子部品も同様にして作製することができる。また、積層セラミックコンデンサとして2.0mm×1.2mmサイズのものについて説明したが、更に小型化した1005(1.0mm×0.5mm)サイズ以下の積層セラミックコンデンサを設計する際にも、比誘電率が15以下と小さいため、構造欠陥を生じさせることなく多層化でき、等価直列抵抗の低減及び静電容量のバラツキの抑制が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、高周波モジュールに使用する温度補償用の低容量積層セラミックコンデンサ等の積層型電子部品に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の積層型電子部品の一実施形態である積層セラミックコンデンサを模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3A、3B 第1、第2内部電極
5A、5B 第1、第2外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主成分であるフォルステライト系結晶相と、第2主成分であるTiを含む酸化物からなる結晶相と、を主成分とする誘電体セラミックにおいて、上記誘電体セラミックの断面における上記第2主成分の結晶粒子及びその凝集物のD90が4μm以下であることを特徴とする誘電体セラミック。
【請求項2】
上記第1主成分がMgSiO2+xであり、上記第2主成分がSrTiO2+yであって、上記主成分が、第1主成分を(1−a)、第2主成分をa、のモル比で含み、(1−a)MgSiO2+x+aSrTiO2+yで表されるとき、上記x、y及びaは、それぞれ1.70≦x≦1.99、0.98≦y≦1.02及び0.05≦a≦0.29の関係を満足することを特徴とする請求項1に記載の誘電体セラミック。
【請求項3】
積層された複数の誘電体セラミック層と、これらの誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、これらの内部電極に電気的に接続された外部電極とを備え、上記誘電体セラミック層は、請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミックによって形成されてなることを特徴とする積層型電子部品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−335633(P2006−335633A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166283(P2005−166283)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】