説明

誘電体セラミック組成物、およびそれを用いた積層セラミックコンデンサ

【課題】 積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が更に進行しても、焼成温度に対する誘電特性の変化の小さく、かつ誘電率や信頼性も従来と比較して劣ることのない誘電体セラミック組成物、およびそれを用いた狭偏差の積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3(ただし、0≦x≦0.02、0≦y≦0.15,0.03≦z≦0.32、1≦m≦1.05)を主成分とし、前記主成分100モル部に対して、RA(Eu,Gd,Tb)をaモル部、RB(Y,Dy,Ho,Er)をbモル部、RC(La,Ce,Pr,Nd,Sm)をcモル部、RD(Sc,Tm,Yb,Lu)をdモル部、MA(Mg,Ni,Zn)をeモル部、MB(Mn,Fe,V)をfモル部、Siをgモル部含む誘電体セラミック組成物において、a>3、0.02<b/a<1、0≦c≦a/20、0≦d≦a/20、0.2<e<a+b、0.1<f<a+b、1.5≦g≦25とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに用いられる誘電体セラミック組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、積層セラミックコンデンサは、低周波の交流低電圧下あるいは直流低電圧下で使用されることが多かった。しかし、エレクトロニクスの発展に伴い、近年、電子部品の小型化が急速に進行し、積層セラミックコンデンサも小型化、大容量化が推し進められている。そのため、セラミックコンデンサの1組の対向電極間に印加される電界は相対的に高くなる傾向にあり、このような条件下で、大容量化、低損失化、絶縁性の向上および信頼性の向上が強く求められている。
【0003】
上記の条件を満足する誘電体セラミック組成物として、チタン酸バリウム系化合物が代表的である。中でも、チタン酸バリウムにジルコニウムを相当量含有させた組成系は、高電界を印加したときに生じる電歪、発熱などを効果的に抑制できることがある。
【0004】
たとえば、特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物は、一般式ABO3+aR+bMで表され(ABO3はチタン酸バリウム固溶体を表す一般式、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種の酸化物、MはMn、Ni、Mg、Fe、Al、CrおよびZnから選ばれる少なくとも1種の酸化物)、A/B(モル比)、aおよびbが、1.000<A/B≦1.035、0.005≦a≦0.12、0.005≦b≦0.12の範囲にある主成分100重量部に対して、0.2〜4.0重量部の焼結助剤を含有するものである。
【0005】
さらに、この誘電体セラミック組成物は、望ましくはX(Zr、Hf)O3(XはBa、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1種)をチタン酸バリウム固溶体1モル部に対して0.20モル部以下を含み、および/またはD(DはV、Nb、Ta、Mo、W、Y、Sc、P、AlおよびFeから選ばれる少なくとも1種の酸化物)をチタン酸バリウム固溶体1モルに対して0.20モル部以下を含む。
【0006】
また、この誘電体セラミック組成物は−25℃以上の温度領域においてX線回折により求められる結晶軸比c/aが1.000≦c/a≦1.003であり、かつ周波数1kHzで2Vrms/mm以下の交流電界印加時における比誘電率の温度変化に対する極大値が−25℃未満にあるものであって、高周波および/または高電圧の交流高電圧下にて低損失、低発熱であり、交流または直流電圧負荷で安定した絶縁抵抗を示す。
【特許文献1】特開2002−50536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、昨今では積層セラミックコンデンサの更なる小型化、大容量化の要求に加え、狭偏差の積層セラミックコンデンサの要求が強くなってきている。特許文献1に記載の誘電体セラミック組成物は、焼成温度の変化に対する誘電特性、すなわち誘電率や静電容量温度特性の変化が大きいため、狭偏差化の要求に対応できないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、今後積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が更に進行しても、焼成温度に対する誘電特性の変化が小さく、かつ誘電率や信頼性も従来と比較して劣ることのない誘電体セラミック組成物を提供するものである。
【0009】
また、上記の誘電体セラミック組成物を用いることによって、小型・大容量でかつ狭偏差の積層セラミックコンデンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明の誘電体セラミック組成物は、(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3(ただし、0≦x≦0.02、0≦y≦0.15,0.03≦z≦0.32、1≦m≦1.05)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、前記主成分100モル部に対して、RA(ただしRAは、Eu,GdおよびTbのうち少なくとも1種)をaモル部、RB(ただしRBは、Y,Dy,HoおよびErのうち少なくとも1種)をbモル部、RC(ただしRCは、La,Ce,Pr,NdおよびSmのうち少なくとも1種)をcモル部、RD(ただしRDは、Sc,Tm,YbおよびLuのうち少なくとも1種)をdモル部、MA(ただしMAは、Mg,Ni,Znのうち少なくとも1種)をeモル部、MB(ただしMBは、Mn,Fe,Vのうち少なくとも1種)をfモル部、Siをgモル部含む誘電体セラミック組成物において、a>3、0.02<b/a<1、0≦c≦a/20、0≦d≦a/20、0.2<e<a+b、0.1<f<a+b、1.5≦g≦25を満足することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の誘電体セラミック組成物は、前記aおよびbが、0.0625≦b/a≦0.666の関係であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、本発明の誘電体セラミック組成物を用いた積層セラミックコンデンサにも向けられる。すなわち、積層された複数の誘電体セラミック層と、前記誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備える積層セラミックコンデンサにおいて、前記誘電体セラミック層が、本発明の誘電体セラミック組成物によって形成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、今後積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化が更に進行しても、焼成温度の変化に対する誘電特性の変化が小さく、かつ誘電率や信頼性も従来と比較して劣ることのない誘電体セラミック組成物を得ることができる。
【0014】
また、上記の誘電体セラミック組成物を用いることによって、小型・大容量でかつ狭偏差の積層セラミックコンデンサを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、本発明の誘電体セラミックの主要な用途である、積層セラミックコンデンサについて説明する。図1は一般的な積層セラミックコンデンサ1を示す断面図である。
【0016】
積層セラミックコンデンサ1は、直方体状のセラミック積層体2を備えている。セラミック積層体2は、複数の積層された誘電体セラミック層3と、複数の誘電体セラミック層3間の界面に沿って形成された複数の内部電極4および5とを備えている。内部電極4および5は、セラミック積層体2の外表面にまで到達するように形成されるが、セラミック積層体2の一方の端面6にまで引き出される内部電極4と他方の端面7にまで引き出される内部電極5とが、セラミック積層体2の内部において、誘電体セラミック層3を介して静電容量を取得できるように交互に配置されている。
【0017】
内部電極4および5の導電材料は、低コストである卑金属材料、すなわちニッケルもしくはニッケル合金、銅もしくは銅合金であることが好ましい。
【0018】
前述した静電容量を取り出すため、セラミック積層体2の外表面上であって、端面6および7上には、内部電極4および5のいずれか特定のものに電気的に接続されるように、外部電極8および9がそれぞれ形成されている。外部電極8および9に含まれる導電材料としては、内部電極4および5の場合と同じ導電材料を用いることができ、さらに、銀もしくは銀合金なども用いることができる。外部電極8および9は、このような金属粉末にガラスフリットを添加して得られた導電性ペーストを付与し、焼き付けることによって形成される。
【0019】
また、外部電極8および9上には、必要に応じて、ニッケル、銅などからなる第1のめっき層10および11がそれぞれ形成され、さらにその上には、半田、錫などからなる第2のめっき層12および13がそれぞれ形成される。
【0020】
次に、本発明の誘電体セラミック組成物の組成について説明する。
【0021】
本発明の誘電体セラミック組成物の基本的な組成系は、チタン酸バリウム系化合物(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3を主成分とし、副成分として希土類元素、MA(Mg、Ni、Znのうち少なくとも1種)、MB(Mn、Fe、Vのうち少なくとも1種)、およびSiを含むものである。
【0022】
上述のようにチタン酸バリウム系化合物が相当量のZrを含む場合、電歪や発熱などが抑制される傾向にある。これは、セラミック中の多数の結晶粒子において、強誘電性を示す結晶の含有比が減少するためであると考えられる。したがって、本発明の誘電体セラミック組成物は、印加電界が大きくなるような用途に有利である。
【0023】
Zrを含むチタン酸バリウム系化合物の場合、Zrを含まない場合と比較して、所望の特性を得るために異なった組成設計が必要となる。特に希土類元素の種類と含有量については一定の範囲に絞らなければ所望の特性は得られない。したがって、本発明は、Zrを相当量含むチタン酸バリウム系化合物特有の最適な組成を開示するものであり、従来の誘電体セラミック組成物の組成の単なる最適化でなし得るものではない。以下、本発明の誘電体セラミック組成物について、Zrを含む組成系であることを前提として説明する。
【0024】
Zrの含有量については、zにして0.03〜0.32である。zが0.03未満であると電歪が大きくなり、また、焼成温度に対する誘電率および静電容量温度特性の変化が大きくなる。また、zが0.32より大きいと、高温負荷信頼性が低下する。
【0025】
また、Zrは、チタン酸バリウムのTiサイトに存在するのが主であるが、若干量は別の形態で存在していても構わない。例えば、粒界に酸化物として存在していたり、別の結晶粒子BaZrO3として存在している場合などである。
【0026】
なお、Zrはその一部がHfに置換されていても構わない。HfはZrと殆ど同じ作用効果を示すためである。一般的な窯業で用いられるZr素材には、数モル%以下のHfが含有されていることが普通であり、このHfはZrの作用に影響を及ぼすものではない。また、さらにZrの30モル%程度まではHfで置換されても問題ない。
【0027】
そして、本発明の誘電体セラミックにおいて最も特徴的な部分は、多種の希土類元素を、前述のRA、RB、RC、RDの4種類に分け、それぞれの主成分に対する含有比を詳細に規定したことである。この詳細な規定により、誘電率、静電容量温度特性、信頼性が維持されつつ、焼成温度の変化に対する誘電特性の変化率が小さくなる。以下に詳細について記載する。
【0028】
まず、RAの主成分100モル部に対する含有モル部aは、3より大きい。仮にaが3以下である場合、静電容量温度特性および高温負荷信頼性が悪化する。言い換えれば、本発明の誘電体セラミックは、主成分100モル部に対する希土類元素の含有比が3モル部超と比較的多く、これにより高電界下における信頼性を確保している。
【0029】
さらに、RBのRAに対するモル比b/aは、0.02<b/a<1である。この範囲外では、焼成温度の変化に対する誘電率の変化と静電容量温度特性の変化が大きくなる。
【0030】
望ましくは、RBのRAに対するモル比b/aは、0.0625≦b/a≦0.666である。この範囲であると、焼成温度の変化に対する誘電率の変化がさらに小さくなる。
【0031】
なお、本発明の誘電体セラミック組成物は、RCおよびRDを含んでいてもよい。仮に含む場合は、それぞれの主成分100モル部に対する含有モル部cおよびdが、それぞれa/20以下でなければならない。仮にcまたはdがa/20より大きくなると、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の変化が大きくなり、さらに高温負荷信頼性も低下する。
【0032】
また、本発明の誘電体セラミック組成物においては、MA(ただしMAは、Mg,Ni,Znのうち少なくとも1種)の主成分100モル部に対する含有モル部eが、0.2より大きく、a+bより小さい。MAは結晶粒子の成長制御の役割をなしており、この含有量eが0.2以下となると、高温負荷信頼性が低下する。また、eがa+bより大きい場合、RAおよびRBの作用を阻害するためか、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の変化が大きくなる。
【0033】
さらに、本発明の誘電体セラミック組成物においては、MB(ただしMBは、Mn,Fe,Vのうち少なくとも1種)の主成分100モル部に対する含有モル部fが、0.1より大きく、a+bより小さい。MBは信頼性を確保する役割をなすものであり、fが上記範囲外となると、高温負荷信頼性が悪化する。
【0034】
また、本発明の誘電体セラミック組成物においては、Siの主成分100モル部に対する含有モル部gが、1.5〜25である。Siは焼結助剤としての効果があり、gが1.5未満では焼結不足となる。gが上記の範囲を満足する場合、所望の誘電特性とその焼成温度に対する変化率を満足する。
【0035】
さらに、本発明における誘電体セラミック組成物の主成分であるチタン酸バリウム系化合物においては、そのBaサイトにCaおよび/またはSrが含まれていてもよい。それぞれの含有量xおよびyは、(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3で表したとき、xは0.02以下、yは0.15以下である必要がある。x、yの値のいずれかがこの範囲外となった場合、高温負荷信頼性が悪化する。
【0036】
また、本発明の主成分である(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3においては、Ba、CaおよびSrの合計含有量のTiおよびZrの合計含有量に対するモル比mが、1≦m≦1.05である。mが1未満である場合、絶縁抵抗値が低くなりすぎ、誘電特性が測定不能となる。一方、mが1.05より大きい場合、焼結不足となる。
【0037】
これらの副成分の存在位置は特に限定されない。すなわち、粒界に存在してもよいし、主成分の固溶体に固溶していてもよい。粒界に存在する場合は、主として酸化物の形態にて存在している。
【0038】
上記誘電体セラミック組成物の主成分粉末の製造方法は、前記組成式で表されるセラミック組成物を実現することができる方法であれば、特に制限されない。例えば、出発原料の混合物を仮焼し、固相反応させる乾式合成法を用いることができる。また、水熱合成法、加水分解法あるいはゾルゲル法等の湿式合成法を用いることができる。
【0039】
なお、(Ba1-x-yCaxSrymTiO3粉末と(Ba1-x-yCaxSrymZrO3粉末を別個に用意し、これを混合させたものを主成分原料粉末としてもよいし、Ba、Ca、Sr、Ti、Zrの出発原料を同時に混合し、これを合成したものを主成分原料粉末としてもよい。なお、これらの出発原料は酸化物、炭酸化物などが一般的であるが、本発明に係る誘電体セラミック組成物を構成することができるものであれば、これらに制限されるものではない。
【0040】
また、副成分であるRA、RB、RC、RD、MA、MB、Siの出発原料には、主として酸化物粉末が用いられるが、本発明に係る誘電体セラミック組成物を構成することができるものであれば、特に酸化物粉末に制限されるものではない。例えば、出発原料として炭酸塩の粉末、さらにはアルコキシドや有機金属等の溶液を用いてもよい。
【0041】
上述のような主成分原料粉末に副成分を添加、混合し、これをセラミック原料粉末とすることができる。また、本発明の目的を損なわない限り、副成分の出発原料を主成分原料粉末の出発原料と同時に混合しても構わない。
【0042】
以上のようにして用意したセラミック原料粉末を用いて、通常行われるセラミック積層コンデンサの製造方法と同様の方法にて、前述の図1に示すような積層セラミックコンデンサ1を作製することができる。すなわち、セラミック原料粉末を溶媒中にバインダーと共に混合分散させてこれをスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法等の方法によってシート成形し、セラミックグリーンシートを得る。このセラミックグリーンシートに内部電極の成分を含むペーストを塗布し、これを積み重ね、圧着することによって、生の積層体を得る。この生の積層体を焼成することにより、セラミック積層体2を得る。その後、前述したように、外部電極ペーストを塗布し、焼き付けし、外部電極を形成する。その上に必要に応じてめっき膜を形成する。以上のようにして、積層セラミックコンデンサ1を得る。
【0043】
以上より、本発明の誘電体セラミック組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、誘電率が300以上であり、静電容量温度特性がEIA規格のX7S特性を満足し、高温負荷寿命試験(125℃、16kV/mm、1000時間)における不良率が0/100であり、電歪(正弦波電界E0-P=25kV/mm、1kHz)が0.05%以下である。さらに、1080〜1320℃の焼成温度の範囲において、焼成温度が50℃上昇したときの誘電率の変化が±15%以内であり、静電容量温度特性の変化率が±5%以下である。
【実施例】
【0044】
本実施例において、図1に示すような積層セラミックコンデンサ1を作製した。
【0045】
出発原料としてBaCO3、SrCO3、CaCO3、TiO2を準備して、表1〜表3の組成になるように秤量した後、水系溶媒中にてボールミルにより混合したのち、乾燥させ、主成分原料の配合物を得た。
【0046】
次に、前記主成分原料の配合物を1150℃で熱処理することにより(Ba1-x-y-zCaxSrymTiO3を合成し、その後乾式粉砕することで、平均一次粒径が0.20μmの主成分原料粉末を得た。
【0047】
前記主成分原料粉末に対し、表1〜表3の組成になるよう、BaZrO3、Eu23、Gd23、Tb23、Y23、Dy23、Ho23、Er23、La23、CeO2、Nd23、Sm23、Tm23、Yb23、Sc23、MgCO3、NiO、ZnO、V23、MnCO3、Fe23、SiO2を秤量し、主成分原料粉末とともに水系溶媒中でボールミルにより混合し、乾燥して、セラミック原料粉末を得た。なお、RA、RB、RC、RD、MA、MBの含有量については、各元素の含有量を内訳として記載し、その合計量をそれぞれa、b、c、d、e、fとして表してある。
【0048】
この原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダーおよびエタノール系溶媒を加えて、ボールミルにより湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーをドクターブレード法により、焼成後の誘電体素子厚が2μmになるように、シート成形し、矩形のグリーンシートを得た。次に、前記セラミックグリーンシート上に、Niを導電成分として含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極を構成するための導電ペースト層を形成した。
【0049】
導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートを導電ペーストの引き出されている側が互い違いになるように複数枚積層し、積層体を得た。また、焼結体密度を測定するために、積層体と同サイズの単板を作製した。
【0050】
この積層体および単板を、N2雰囲気中にて350℃に加熱し、バインダーを燃焼させた。
【0051】
次に、まず、単板について、H2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中にて、Ni/NiO平衡酸素分圧よりも1桁低い酸素分圧に制御して、所定の温度にて90分間キープして焼成を行った。このときの焼成温度は、焼成温度を10℃刻みで数点変化させ、十分な焼結体密度(飽和密度の97%以上の焼結体密度)が得られる最低の焼成温度(T0℃)を求めた。焼結体密度はアルキメデス法により測定を行った。
【0052】
次いで、積層体を、H2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中にて、Ni/NiO平衡酸素分圧よりも1桁低い酸素分圧に制御して、T0℃、およびT0+50℃にて、90分間キープして焼成を行い、それぞれの焼成温度におけるセラミック積層体を得た。
【0053】
得られたセラミック積層体の両端面にガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N2雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0054】
上記のようにして得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は幅1.6mm、長さ3.2mm、厚さ1.2mmであり、積層コンデンサの内部電極間に介在する誘電体セラミック層の厚みは2μmであった。また、有効誘電体セラミック層の総数は200であり、一層当たりの対向電極面積は2.5mm2であった。
【0055】
このようにして、T0℃およびT0+50℃焼成にて得られた積層セラミックコンデンサについて、その室温での誘電率(εr)、静電容量温度特性を測定した。εrは、25℃にて、1kHz、1Vrmsの交流電界下における静電容量を測定することにより評価した。静電容量温度特性は、25℃における静電容量を基準とした125℃における静電容量の変化率にて評価した。
【0056】
電歪は、T0+50℃焼成の試料のみ測定した。V0-P=50V、1kHzの正弦波型交流電界により生じた試料厚み方向の変位を有効なセラミック層の合計厚みで除することによって求めた。
【0057】
次に、T0℃焼成の試料について高温負荷寿命試験を行った。100個の試料を用意し、125℃の温度にて、32Vの電圧を印加し、その絶縁抵抗の経時変化を測定した。絶縁抵抗値が100kΩ以下になった試料を故障と判定し、試験開始後1000時間および2000時間経過後の故障個数を求めた。
【0058】
以上の結果を表4に示した。尚、表1〜表4において、*印を付した試料は本発明外のものである。また、T0℃焼成における誘電率の値と静電容量温度特性の値をそれぞれε0、TC0と示し、T0+50℃焼成における誘電率の値と静電容量温度特性の値をそれぞれε50、TC50と示す。εrの焼成温度に対する変化の指標として、(ε50−ε0)/ε0×100の値を示し、また静電容量温度特性の焼成温度に対する変化の指標として、TC50−TC0の値を示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
本発明の範囲内における試料については、静電容量温度特性がEIA規格のX7S特性を満足し、高温負荷寿命試験(125℃、16kV/mm、1000時間)における不良率が0/100であり、電歪(正弦波電界E0-P=25kV/mm、1kHz)が0.05%以下であった。さらに、1080〜1320℃の焼成温度の範囲において、焼成温度が50℃上昇したときの誘電率の変化が±15%以内であり、静電容量温度特性の変化が±5%以下であった。
【0064】
試料番号3の試料は、Ca含有量xが0.02を超えるため、静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪く、電歪も大きかった。
【0065】
試料番号16の試料は、Sr含有量yが0.26を超えるため、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪かった。
【0066】
試料番号17および18の試料は、RBとRAのモル比b/aが0.02より小さいため、焼成温度の変化に対する誘電率、静電容量温度特性の温度変化が大きく、また温度特性がX7S特性を満足しなかった。
【0067】
試料番号24の試料は、RBとRAのモル比b/aが1以上であるため、焼成温度の変化に対する誘電率、静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪かった。
【0068】
試料番号25、26、36、37、46の試料は、RAの含有量aが3以下であるため、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪く、電歪も大きかった。
【0069】
試料番号31〜35の試料は、Zrが含有されていないため、電歪が大きかった。また、希土類元素RAのRBと含有量そのモル比が本発明の範囲を満足していても、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の変化または誘電率の変化が大きかった。
【0070】
試料番号38〜42の試料は、RCの含有量cまたはRDの含有量dがa/20より大きいため、焼成温度の変化に対する誘電率、静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪かった。
【0071】
試料番号43の試料は、MBの含有量fが0.1以下であるため、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪かった。
【0072】
試料番号50、52の試料は、MAの含有量eがa+b以上であるため、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の温度変化が大きく、また温度特性がX7S特性を満足しなかった。
【0073】
試料番号56の試料は、MAの含有量eが0.2以下であるため、焼成温度の変化に対する静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また高温負荷信頼性が悪かった。
【0074】
試料番号58の試料は、Zrの含有量zが0.03未満であるため、焼成温度の変化に対する誘電率、静電容量温度特性の温度変化が大きく、温度特性がX7S特性を満足せず、また電歪が大きかった。
【0075】
試料番号59の試料は、MBの含有量fがa+b以上であるため、高温負荷信頼性が悪かった。
【0076】
試料番号63の試料は、Zrの含有量zが0.32より大きいため、高温負荷信頼性が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の積層セラミックコンデンサの一実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3 積層体
4、5 第1,2の外部電極
6、7 第1めっき層
8、9 第1,2の内部電極
10、11 第2めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Ba1-x-yCaxSrym(Ti1-zZrz)O3(ただし、0≦x≦0.02、0≦y≦0.15,0.03≦z≦0.32、1≦m≦1.05)で表されるペロブスカイト型化合物を主成分とし、前記主成分100モル部に対して、
A(ただしRAは、Eu,GdおよびTbのうち少なくとも1種)をaモル部、
B(ただしRBは、Y,Dy,HoおよびErのうち少なくとも1種)をbモル部、
C(ただしRCは、La,Ce,Pr,NdおよびSmのうち少なくとも1種)をcモル部、
D(ただしRDは、Sc,Tm,YbおよびLuのうち少なくとも1種)をdモル部、
A(ただしMAは、Mg,Ni,Znのうち少なくとも1種)をeモル部、
B(ただしMBは、Mn,Fe,Vのうち少なくとも1種)をfモル部、
Siをgモル部含む誘電体セラミック組成物において、
a>3、
0.02<b/a<1、
0≦c≦a/20、
0≦d≦a/20、
0.2<e<a+b、
0.1<f<a+b、
1.5≦g≦25、
を満足することを特徴とする、誘電体セラミック組成物。
【請求項2】
前記aおよびbが、0.0625≦b/a≦0.666であることを満足する、請求項1に記載の誘電体セラミック組成物。
【請求項3】
積層された複数の誘電体セラミック層と、前記誘電体セラミック層間に配置された内部電極と、前記内部電極に電気的に接続された外部電極とを備える積層セラミックコンデンサにおいて、
前記誘電体セラミック層が、請求項1または2のいずれかに記載の誘電体セラミック組成物によって形成されてなることを特徴とする、積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【公開番号】特開2007−234677(P2007−234677A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51217(P2006−51217)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】