説明

誘電体磁器組成物、電子部品および積層セラミックコンデンサ

【課題】X8R特性を満足しつつ、高い誘電率と、良好な高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性を実現する誘電体磁器組成物および電子部品を提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを主成分とする主成分相と、主成分相の周囲に存在する拡散相と、を有する誘電体粒子から構成される誘電体磁器組成物であって、前記拡散相に存在する副成分元素が、前記拡散相の表面から誘電体粒子の中心に向けて拡散した深さの平均値を、平均拡散深さとした場合に、平均拡散深さが、各誘電体粒子ごとにばらついた値を示しており、各誘電体粒子相互間の平均拡散深さのばらつきが、CV値で、5〜30%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物、電子部品および積層セラミックコンデンサに係り、さらに詳しくは、誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の副成分の拡散深さをばらつかせることで、高温加速寿命、IR温度依存性、TCバイアスおよび比誘電率がすべて良好である誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や高性能化が急速に進み、電子機器に実装される電子部品についても、小型化や高性能化が求められている。電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサが求められる特性としては、比誘電率が高い、絶縁抵抗IRの寿命が長い、DCバイアス特性が良好の他に、温度特性が良好であることなどが挙げられる。
【0003】
また、一般的な電子機器だけでなく、自動車のエンジンルーム内に搭載するエンジン電子制御ユニット(ECU)、クランク角センサ、アンチロックブレーキシステム(ABS)モジュールなどの各種電子装置においても積層セラミックコンデンサが使用されるようになってきている。
【0004】
これらの電子装置が使用される環境は、寒冷地の冬季には−20°C程度以下まで温度が下がり、また、エンジン始動後には、夏季では+130°C程度以上まで温度が上がることが予想される。最近では電子装置とその制御対象機器とをつなぐワイヤハーネスを削減する傾向にあり、電子装置が車外に設置されることもあるので、電子装置にとっての環境はますます厳しくなっている。したがって、これらの電子装置に用いられるコンデンサは、広い温度範囲において温度特性が平坦である必要がある。具体的には、容量温度特性が、EIA規格のX7R特性(−55〜125°C、ΔC/C=±15%以内)を満足するだけでは足りず、EIA規格のX8R特性(−55〜150°C、ΔC/C=±15%以内)を満足する誘電体磁器組成物が必要とされる。
【0005】
X8R特性を満足する誘電体磁器組成物としては、さまざまな提案がある。たとえば、特許文献1には、結晶粒子内でのCa濃度の平均値を算出し、そのばらつきをCV値で5%以上とすることにより、X8R特性を満足し、CR積、高温負荷寿命に優れたコンデンサが開示されている。
【0006】
一方、高い誘電率と良好な温度特性を実現するために、BaTiO を主成分とする誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子をコアシェル構造とすることが有効であると考えられている。
【0007】
たとえば、特許文献2には、粒径を不均一にし、粒径に応じてシェル部の厚みが異なることで、比誘電率と容量温度特性を良好としている発明が開示されている。しかしながら、上記の発明は、B特性を満足するだけであり、高温における容量温度変化率の特性が不十分である。また、粒径が同じであれば、シェル部の厚みも同じとなっている。
【0008】
本出願人も特許文献3において、誘電体粒子に拡散相を形成させる誘電体磁器組成物を提案している。この特許文献3に記載の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを含む主成分と、MgO,CaO,BaOおよびSrOから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、V,MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、R1の酸化物(ただし、R1はSc,Er,Tm,YbおよびLuから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分と、CaZrOまたはCaO+ZrOを含む第5副成分と、R2の酸化物(ただし、R2はY、Dy、Ho、Tb、GdおよびEuから選択される少なくとも1種)を含む第6副成分と、MnOを含む第7副成分とを有している。主成分100モルに対する各副成分の比率は、第1副成分:0.1〜3モル、第2副成分:2〜10モル、第3副成分:0.01〜0.5モル、第4副成分:0.5〜7モル(ただし、第4副成分のモル数は、R1単独での比率である)、第5副成分:0<第5副成分≦5モル、第6副成分:9モル以下(ただし、第6副成分のモル数は、R2単独での比率である)、第7副成分:0.5モル以下である。
【0009】
上記の誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子は、主成分相と拡散相とを有している。拡散相の厚み、すなわち、副成分であるCaの拡散深さを誘電体粒子の平均粒径D50の10〜30%の範囲とすることで、この誘電体磁器組成物からなる誘電体層を有する積層セラミックコンデンサは、X8R特性を満足しつつ、良好な比誘電率、絶縁抵抗の寿命およびIR温度依存性を実現している。しかしながら、別の観点からさらなる特性改善への手がかりが求められている。
【特許文献1】特開2004−214539号公報
【特許文献2】特開2004−111951号公報
【特許文献3】特願2004−346846号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状を鑑みてなされ、その目的は、X7RまたはX8R特性を満足しつつ、高い誘電率と、良好な高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性を実現する誘電体磁器組成物を提供することである。本発明の別の目的は、上記誘電体磁器組成物を用いて製造される積層セラミックコンデンサなどの電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の目的を達成するために、拡散相の厚みが、誘電率、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性等の特性に影響を及ぼすことに着目した。拡散相の厚み、すなわち、副成分の拡散深さの値が、各誘電体粒子ごとにばらつきを示すことで、高い誘電率と、良好な高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性を実現できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
チタン酸バリウムを主成分とする主成分相と、
前記主成分相の周囲に存在する拡散相とを有する誘電体粒子から構成される誘電体磁器組成物であって、
前記拡散相に存在する副成分元素が、前記拡散相の表面から前記誘電体粒子の中心に向けて拡散した深さの平均値を、平均拡散深さとした場合に、
各誘電体粒子相互間の平均拡散深さのばらつきが、CV値で、5〜30%であり、好ましくは、6〜25%、より好ましくは、10〜20%である。
【0013】
拡散相の厚み(=拡散相における副成分の拡散深さ)は、誘電率、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性等の特性に影響を与える。誘電率は、拡散相の厚みが薄いほど良好となるが、逆に、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性は、拡散相の厚みが厚いほど良好となり、相反する関係にある。
【0014】
したがって、誘電体粒子ごとに拡散相の厚みをばらつかせることで、上記特性すべてをバランス良く良好にすることができる。すなわち、拡散相に存在する副成分元素の平均拡散深さのばらつきが、上記のCV値の範囲内にあることで、高い誘電率と、良好な高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性を実現することができる。
【0015】
好ましくは、前記副成分元素として、希土類が含有され、より好ましくは、Sc,Er,Tm,Yb,Lu,Y,Dy,Ho,Tb,GdおよびEu、さらに好ましくは、Er,Tm,Yb,Y,Dy,Ho,TbおよびGdから選ばれる少なくとも1つである。希土類は、容量温度特性を平坦化する効果やIRおよびIR寿命を改善する効果が大きい。
【0016】
好ましくは、前記副成分元素として、Mgが含有される。
【0017】
好ましくは、前記副成分元素として、Caが含有される。
【0018】
MgおよびCaは、容量温度特性を平坦化する効果が大きい。
【0019】
好ましくは、前記拡散相は、前記主成分相全体を覆っている。拡散相が、主成分相の周囲全体を覆うことで、IR温度特性とTcバイアスが良好となる。
【0020】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の平均粒径をD50とした場合に、平均粒径D50の値を示す誘電体粒子の平均拡散深さを、前記CV値の算出対象とする。
【0021】
本発明に係る電子部品は、上記の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する。電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【0022】
本発明に係る積層セラミックコンデンサは、上記の誘電体磁器組成物からなる誘電体層と、内部電極層とが、交互に積層されている。また、X8R特性を満足しつつ、高い誘電率と、良好な高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面概略図である。
図2は、図1に示す誘電体層を構成する誘電体粒子の断面図である。
図3は、実施例において、CV値の算出方法を説明する模式図である。
【0024】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、誘電体層10および内部電極12が交互に積層された構成のコンデンサ素体4を有する。交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第1端部4aの外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第2端部4bの外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0025】
コンデンサ素体4の形状は、特に制限されず、目的および用途に応じて適宜選択されるが、形状は通常、直方体とされる。寸法についても、制限はなく、目的および用途に応じて適宜選択され、通常、縦(0.4〜5.6mm)×横(0.2〜5.0mm)×高さ(0.2〜1.9mm)程度である。
誘電体層
【0026】
誘電体層10は、本発明の誘電体磁器組成物を有する。誘電体層10の厚みは、目的や用途に応じ適宜決定すればよいが、好ましくは、10μm以下、より好ましくは、7μm以下である。
【0027】
誘電体層10を構成する誘電体磁器組成物としては、特に限定されないが、たとえば、下記の組成が例示される。
第1の観点(X8R特性)
【0028】
第1の観点に係る誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウム(好ましくは、組成式BaTiO2+m で表され、mが0.995≦m≦1.010であり、BaとTiとの比が0.995≦Ba/Ti≦1.010である)を含む主成分と、
MgO,CaO,BaOおよびSrOから選ばれる少なくとも1種を含む第1副成分と、
酸化シリコンを主成分として含有する第2副成分と、
,MoOおよびWOから選ばれる少なくとも1種を含む第3副成分と、
R1の酸化物(ただし、R1はSc,Er,Tm,YbおよびLuから選ばれる少なくとも1種)を含む第4副成分と、
CaZrOまたはCaO+ZrOを必要に応じて含む第5副成分と、
R2酸化物(ただし、R2はY、Dy、Ho、Tb、GdおよびEuから選択される少なくとも1種)を含む第6副成分と、
MnOを含む第7副成分とを有する。
主成分であるBaTiOに対する上記各副成分の比率は、BaTiO100モルに対し、
第1副成分:0.1〜3モル、
第2副成分:2〜10モル、
第3副成分:0.01〜0.5モル、
第4副成分:0.5〜7モル、
第5副成分:0≦第5副成分≦5モル、
第6副成分:9モル以下、
第7副成分:0.5モル以下であり、
好ましくは、
第1副成分:0.1〜2.5モル、
第2副成分:2.0〜5.0モル、
第3副成分:0.1〜0.4モル、
第4副成分:0.5〜5.0モル、
第5副成分:0.5〜3モル、
第6副成分:0.5〜9モル、
第7副成分:0.01〜0.5モルである。
【0029】
なお、第4副成分の上記比率は、R1酸化物のモル比ではなく、R1単独のモル比である。すなわち、例えば第4副成分としてYbの酸化物を用いた場合、第4副成分の比率が1モルであることは、Ybの比率が1モルなのではなく、Ybの比率が1モルであることを意味する。
【0030】
上記第1〜7副成分を含有させることで、X8R特性を満足させることができる。第1〜7副成分の好ましい含有量及び理由は以下の通りである。
【0031】
第1副成分(MgO,CaO,BaOおよびSrO)は、容量温度特性を平坦化させる効果を示す。第1副成分の含有量が少なすぎると、容量温度変化率が大きくなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する。なお、第1副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0032】
第2副成分(酸化シリコンを主成分として含有する)は、主として焼結助剤として作用するが、薄層化した際の初期絶縁抵抗の不良率を改善する効果を有する。第2副成分の含有量が少なすぎると、容量温度特性が悪くなり、また、IR(絶縁抵抗)が低下する。一方、含有量が多すぎると、IR寿命が不十分となるほか、誘電率の急激な低下が生じてしまう。
【0033】
第3副成分(V,MoOおよびWO)は、キュリー温度以上での容量温度特性を平坦化する効果と、IR寿命を向上させる効果とを示す。第3副成分の含有量が少なすぎると、このような効果が不十分となる。一方、含有量が多すぎると、IRが著しく低下する。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0034】
第4副成分(R1酸化物)は、キュリー温度を高温側へシフトさせる効果と、容量温度特性を平坦化する効果とを示す。第4副成分の含有量が少なすぎると、このような効果が不十分となり、容量温度特性が悪くなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。第4副成分のうちでは、特性改善効果が高く、しかも安価であることから、Yb酸化物が好ましい。
【0035】
第5副成分(CaZrO)は、キュリー温度を高温側へシフトさせる効果と、容量温度特性を平坦化する効果とを示す。ただし、第5副成分の含有量が多すぎると、IR加速寿命が著しく悪化し、容量温度特性(X8R特性)が悪くなってしまう。
【0036】
第4副成分(R1酸化物)および第5副成分(CaZrO)の含有量を調整することで、容量温度特性(X8R特性)を平坦化し、高温加速寿命、を改善することができる。特に、上述した数値範囲内では、異相の析出が抑制され、組織の均一化を図ることができる。第4副成分の含有量が多すぎると、巨大な針状結晶であるパイロクロア相が析出しやすく、積層セラミックコンデンサの誘電体層間の厚みを薄くしたときに著しい特性の劣化が認められる。一方、第4副成分の含有量が少なすぎると、容量温度特性を満足することができなくなる。第5副成分の含有量が多すぎると、容量温度特性が悪化し、IR加速寿命も劣化してくる。
【0037】
第6副成分(R2酸化物)は、IRおよびIR寿命を改善する効果を示し、容量温度特性への悪影響も少ない。ただし、R2酸化物の含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。第6副成分のうちでは、特性改善効果が高く、しかも安価であることから、Y酸化物が好ましい。
【0038】
第7副成分(MnO)は、焼結を促進する効果と、IRを高くする効果と、IR寿命を向上させる効果とを示す。このような効果を十分に得るためには、BaTiO100モルに対する第7副成分の比率を0.01モル以上とする。ただし、第7副成分の含有量が多すぎると容量温度特性に悪影響を与えるので、好ましくは0.5モル以下とする。
【0039】
好ましくは、第2副成分が、SiO、MO(ただし、Mは、Ba、Ca、SrおよびMgから選ばれる少なくとも1種の元素)、LiOおよびBから選ばれる少なくとも1種で表される。
【0040】
より好ましくは、前記第2副成分が、(Ba,Ca)SiO2+x (但し、x=0.7〜1.2)で表される。第2副成分のより好ましい態様としての[(Ba,Ca)SiO2+x ]中のBaOおよびCaOは第1副成分にも含まれるが、複合酸化物である(Ba,Ca)SiO2+x は融点が低いため主成分に対する反応性が良好なので、本発明ではBaOおよび/またはCaOを上記複合酸化物としても添加することが好ましい。第2副成分のより好ましい態様としての(Ba,Ca)SiO2+x におけるxは、好ましくは0.7〜1.2であり、より好ましくは0.8〜1.1である。xが小さすぎると、すなわちSiOが多すぎると、主成分のBaTiOと反応して誘電体特性を悪化させてしまう。一方、xが大きすぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるため、好ましくない。なお、BaとCaとの比率は任意であり、一方だけを含有するものであってもよい。
【0041】
第4副成分および第6副成分の合計の含有量は、主成分であるBaTiO100モルに対し、好ましくは13モル以下、さらに好ましくは10モル以下(但し、第4副成分および第6副成分のモル数は、R1およびR2単独での比率である)である。焼結性を良好に保つためである。
第2の観点(X8R特性)
【0042】
第2の観点に係る誘電体組成物は、チタン酸バリウム(好ましくは、組成式BaTiO2+m で表され、mが0.995≦m≦1.010であり、BaとTiとの比が0.995≦Ba/Ti≦1.010である)を含む主成分と、
AEの酸化物(ただし、AEはMg、Ca、BaおよびSrから選ばれる少なくとも1種)を含む第1副成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tm、HoおよびErから選ばれる少なくとも1種)を含む第2副成分と、
MxSiO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr、Li、Bから選ばれる少なくとも1種であり、M=Baの場合にはx=1、M=Caの場合にはx=1、M=Srの場合にはx=1、M=Liの場合にはx=2、M=Bの場合にはx=2/3である)を含む第3副成分と、
MnOを含む第4副成分と、
、MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第5副成分と、
CaZrOまたはCaO+ZrOを必要に応じて含む第6副成分とを有する。
【0043】
上記第1〜6副成分を含有させることで、高い誘電率を維持しながら、X8R特性を満足させることができる。第1〜6副成分の好ましい含有量及び理由は以下の通りである。
【0044】
前記主成分100モルに対する第1副成分の比率は、0〜0.1モル(ただし、0モルと0.1モルを除く)、好ましくは0.01〜0.1モル(ただし、0.1モルを除く)、より好ましくは0.04〜0.08モルである。
【0045】
前記主成分100モルに対する第2副成分の比率は、1〜7モル(ただし、1モルと7モルを除く)、好ましくは1〜6モル(ただし、1モルを除く)、より好ましくは3〜5モルである。
【0046】
前記主成分100モルに対する前記第3副成分の比率は、2〜10モルが好ましく、より好ましくは2〜6モルである。
【0047】
前記主成分100モルに対する前記第4副成分の比率が、0〜0.5モル(ただし、0モルを除く)が好ましく、より好ましくは0.1〜0.5モルである。
【0048】
前記主成分100モルに対する前記第5副成分の比率が、0.01〜0.5モルが好ましく、より好ましくは0.01〜0.2モルである。
【0049】
前記主成分100モルに対する前記第6副成分の比率は、0〜5モル(ただし、5モルを除く)が好ましく、より好ましくは0〜3モルである。
【0050】
上記各副成分の含有量の限定理由は以下のとおりである。
【0051】
第1副成分の含有量が少なすぎると、この効果が不十分となり、容量温度特性は全般的に悪化する。一方、第1副成分の含有量が本発明の範囲を超えて多くなると、高温側の容量温度特性が再び悪化する傾向がある。
【0052】
第2副成分の含有量が少なすぎると、このような効果が不十分となり、容量温度特性が悪くなってしまう。一方、含有量が多すぎると、焼結性が急激に悪化する傾向にある。特に、第1副成分の含有量を可能な限り少なくしつつ、第2副成分の含有量を多くすることにより、容量温度特性を一層平坦化できるメリットがある。
【0053】
第1副成分のモル数に対する第2副成分のモル数の比(第2副成分/第1副成分)が小さすぎると、容量温度特性が悪くなってしまい、X8R特性を満足できない。一方、これらの比が大きすぎると、焼結性が悪化する傾向にある。
【0054】
なお、第2副成分の上記比率は、R単独のモル比ではなく、Rの酸化物のモル比である。すなわち、たとえば第2副成分としてYの酸化物を用いた場合、第2副成分の比率が1モルであることは、Yの比率が1モルなのではなく、Yの比率が1モルであることを意味する。
【0055】
第3副成分の含有量が少なすぎると、容量温度特性を満足できない傾向があり、また絶縁抵抗が悪化する傾向があり、特に焼結性が著しく悪くなる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、絶縁抵抗の寿命特性が不十分となり、誘電率の急激な低下が起こる傾向がある。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0056】
第4副成分の含有量が多すぎると、容量温度特性に悪影響を与え、IR寿命を悪化させるおそれがある。
【0057】
第5副成分の含有量が少なすぎると、上述した効果が不十分となる傾向がある。一方、含有量が多すぎると、IRが著しく低下する。なお、第5副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0058】
第6副成分の添加量が多すぎると、IR寿命が著しく低下し、容量温度特性が悪化する傾向がある。
【0059】
第1の観点および第2の観点ともに、CaZrOの添加形態は特に限定されず、CaOなどのCaから構成される酸化物、CaCOなどの炭酸塩、有機化合物、CaZrOなどを挙げることができる。CaとZrの比率は特に限定されず、主成分であるBaTiOに固溶させない程度に決定すればよいが、Zrに対するCaのモル比(Ca/Zr)が、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.8〜1.5、さらに好ましくは0.9〜1.1である。
第3の観点(X7R特性)
【0060】
第3の観点に係る誘電体磁器組成物は、
組成式BaTiO2+n で表され、前記組成式中のmが0.995≦m≦1.010であり、nが0.995≦n≦1.010であり、BaとTiとの比が0.995≦Ba/Ti≦1.010である主成分と、
MgO,CaO,BaO,SrOおよびCrから選択される少なくとも1種を含む第1副成分と、
(Ba,Ca)SiO2+x (ただし、x=0.8〜1.2)で表される第2副成分と、
,MoOおよびWOから選択される少なくとも1種を含む第3副成分と、
Rの酸化物(ただし、RはY、Dy、Tb、GdおよびHoから選択される少なくとも1種)を含む第4副成分とを少なくとも有している。
【0061】
前記主成分に対する上記各副成分の比率は、前記主成分100モルに対し、
第1副成分:0.1〜3モル、
第2副成分:2〜12モル、
第3副成分:0.1〜3モル、
第4副成分:0.1〜10.0モルである。
【0062】
なお、第4副成分の上記比率は、R酸化物のモル比ではなく、R単独のモル比である。すなわち、例えば第4副成分としてYの酸化物を用いた場合、第4副成分の比率が1モルであることは、Yの比率が1モルなのではなく、Yの比率が1モルであることを意味する。
【0063】
上記各副成分の含有量の限定理由は以下のとおりである。
【0064】
第1副成分(MgO,CaO,BaO,SrOおよびCr)の含有量が少なすぎると、直流バイアス下の容量低下に対する抑制効果が不十分になる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、誘電率の低下が著しくなる傾向にあり、且つ絶縁抵抗の加速寿命が短くなる傾向にある。なお、第1副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0065】
第2副成分[(Ba,Ca)SiO2+x ]中のBaOおよびCaOは第1副成分にも含まれるが、複合酸化物である(Ba,Ca)SiO2+x は融点が低いため主成分に対する反応性が良好なので、本発明ではBaOおよび/またはCaOを上記複合酸化物としても添加する。第2副成分の含有量が少なすぎると、焼結性が悪く、絶縁抵抗の加速寿命が短く、容量の温度特性がX7R特性の規格を満足しにくくなる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、誘電率が低く、容量が低下すると共に、絶縁抵抗の加速寿命も短くなる。
【0066】
(Ba,Ca)SiO2+x におけるxは、好ましくは0.8〜1.2であり、より好ましくは0.9〜1.1である。xが小さすぎると、すなわちSiOが多すぎると、主成分のBaTiO2+n と反応して誘電体特性を悪化させてしまう。一方、xが大きすぎると、融点が高くなって焼結性を悪化させるため、好ましくない。なお、第2副成分においてBaとCaとの比率は任意であり、一方だけを含有するものであってもよい。
【0067】
第3副成分(V,MoOおよびWO)の含有量が少なすぎると、破壊電圧が低下し、容量の温度特性がX7R特性の規格を満足しにくくなる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、初期の絶縁抵抗が低くなる傾向にある。なお、第3副成分中における各酸化物の構成比率は任意である。
【0068】
第4副成分(R酸化物)の含有量が少なすぎると、絶縁抵抗の加速寿命が短くなる傾向にある。一方、含有量が多すぎると、焼結性が悪化する傾向にある。これらの中でも、X7R特性を満足させる観点からは、第4副成分の中でも、Y酸化物、Dy酸化物、およびHo酸化物が好ましい。特に、特性改善効果が高く、しかも安価であることから、Y酸化物が好ましい。
【0069】
また、必要に応じ、第5副成分として、MnOが含有されていてもよい。この第5副成分は、焼結を促進する効果と、誘電損失(tanδ)を小さくする効果とを示す。このような効果を十分に得るためには、前記主成分100モルに対する第5副成分の比率が0.05モル以上であることが好ましい。ただし、第5副成分の含有量が多すぎると容量温度特性に悪影響を与えるので、好ましくは1.0モル以下とする。
【0070】
さらに、上記各酸化物のほか、Alが含まれていてもよい。Alは容量温度特性にあまり影響を与えず、焼結性、絶縁抵抗および絶縁抵抗の加速寿命(IR寿命)を改善する効果を示す。ただし、Alの含有量が多すぎると焼結性が悪化してIRが低くなるため、Alは、好ましくは、主成分100モルに対して4モル以下、さらに好ましくは、誘電体磁器組成物全体の4モル以下である。
【0071】
なお、Sr,ZrおよびSnの少なくとも1種が、ペロブスカイト構造を構成する主成分中のBaまたはTiを置換している場合、キュリー温度が低温側にシフトするため、125°C以上での容量温度特性が悪くなる。このため、これらの元素を含むBaTiO2+n [例えば(Ba,Sr)TiO]を主成分として用いないことが好ましい。ただし、不純物として含有されるレベル(誘電体磁器組成物全体の0.1モル%程度以下)であれば、特に問題はない。
誘電体粒子の構造
【0072】
上記の誘電体磁器組成物からなる誘電体層10は、図2に示すように、誘電体粒子20と、隣接する誘電体粒子間に形成される粒界相22からなる。
【0073】
誘電体粒子20は、主成分相24と拡散相26とを有している。主成分相24は、実質的にチタン酸バリウムからなり、強誘電特性を示す。また、拡散相26は、誘電体原料に副成分として添加される元素が、チタン酸バリウム中に拡散(固溶)しており、常誘電特性を示す。本実施形態では、誘電体粒子20における副成分の濃度を表面から中心に向けて測定したときに、希土類、Mg、Ca等の特定の副成分元素の濃度が、それぞれ0.5%以下となる領域を主成分相とする。
【0074】
本実施形態では、拡散相26が、主成分相24全体を覆う構造となっている。拡散相26が、主成分相24全体を覆っていない粒子があってもよいが、全体を覆う構造となっている粒子が、粒子全体の60%以上であることが好ましい。拡散相が、主成分相の周囲全体を覆うことで、IR温度特性とTcバイアスが良好となる。
【0075】
本実施形態では、拡散相26には、MgO、CaO、R(Rは希土類元素)が含まれており、これら以外に、誘電体原料の副成分として添加される成分(MnO、V など)も含まれている。したがって、拡散相26の厚み(=拡散深さ)は、複数の元素の拡散相の厚み(=複数の元素の拡散深さ)が重なった状態となっているが、本実施形態では、Mg、Ca、R(Rは希土類元素)の拡散深さ26aは、拡散相26の厚みと一致している場合を例示する。ただし、各元素の拡散深さは、各元素ごとに異なる場合もあり得る。
【0076】
CV値は、以下に説明する方法で算出される。まず、誘電体粒子20の表面から中心に向けての拡散深さ(図2においては、t10およびt11)を測定する。次に、t10とt11の平均値を求め、この値をその粒子の平均拡散深さとする。所定のサンプル数についてこの測定を行い、各粒子ごとの平均拡散深さの標準偏差σおよび平均値xから、CV値=(σ/x)×100(%)を算出する。CV値は、5〜30%であり、好ましくは、6〜25%、より好ましくは、10〜20%である。本発明において、CV値が小さすぎると、誘電率が悪化し、大きすぎると、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性が悪化する。
【0077】
平均拡散深さを測定する誘電体粒子に特に制限はないが、誘電体粒子の平均粒径D50の値を示す誘電体粒子について測定を行うのが、好ましい。
【0078】
誘電体粒子の粒径は、コンデンサ素子本体4を誘電体層10および内部電極層12の積層方向に切断し、図2に示す断面において誘電体粒子20の平均面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値である。200個以上の誘電体粒子20について測定し、得られた粒径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均粒径D50(単位:μm)とした。
【0079】
D50は、本実施形態では特に限定されず、誘電体層10の厚さなどに応じて例えば0.1〜3μmの範囲から適宜決定すればよい。容量温度特性は、誘電体層10が薄いほど悪化し、また、誘電体粒子の平均粒径D50を小さくするほど悪化する傾向にある。このため、本発明の誘電体磁器組成物は、平均粒径を小さくする必要がある場合に、具体的には、平均粒径が0.1〜0.5μmである場合に特に有効である。また、平均粒径を小さくすれば、IR寿命が長くなり、また、直流電界下での容量の経時変化が少なくなるため、この点からも平均粒径は上記のように小さいことが好ましい。
内部電極層
【0080】
内部電極層12に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層10の構成材料が耐還元性を有するため、卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。
【0081】
なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。
【0082】
内部電極層の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.5〜5μm、特に0.5〜1.5μm程度であることが好ましい。
端子電極
【0083】
端子電極6および8に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。また、端子電極6および8の厚みは、用途等に応じて適宜決定されればよいが、通常、10〜50μm程度であることが好ましい。
積層セラミックコンデンサの製造方法
【0084】
本発明の誘電体磁器組成物を用いた積層セラミックコンデンサは、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、端子電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0085】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料粉末を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。誘電体層用ペーストは、誘電体原料粉末と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0086】
誘電体原料粉末としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0087】
本明細書では、主成分および各副成分を構成する各酸化物を化学量論組成で表しているが、各酸化物の酸化状態は、化学量論組成から外れるものであってもよい。ただし、各副成分の上記比率は、各副成分を構成する酸化物に含有される金属量から上記化学量論組成の酸化物に換算して求める。また、誘電体磁器組成物の原料粉末としては、上記した酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、例えば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0088】
所定比に配合された誘電体原料粉末は、CV値を制御するため、仮焼を行う。第1の方法は、誘電体原料を適当な量に分割し、それぞれを異なる条件で仮焼を行い、仮焼後に混合する方法である。第2の方法は、1回目の仮焼では、副成分の一部しか添加せず、2回目の仮焼で残りの副成分を添加する方法である。どちらの方法であっても、各元素の平均拡散深さのばらつきを示すCV値の制御が可能となる。塗料化する前の状態で、誘電体磁器組成物粉末の粒径は、通常、平均粒径0.1〜1.0μm程度である。
【0089】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0090】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0091】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。また、端子電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0092】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、例えば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0093】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0094】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0095】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理は、内部電極層ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよい。
【0096】
また、それ以外の脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300°C/時間、保持温度を好ましくは180〜400°C、温度保持時間を好ましくは10〜100時間とする。また、焼成雰囲気は、空気もしくは還元性雰囲気とすることが好ましく、還元性雰囲気における雰囲気ガスとしては、たとえばNとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0097】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−12〜10−8気圧とすることが好ましい。酸素分圧が低すぎると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、高すぎると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0098】
また、焼成時の保持温度は、好ましくは1100〜1400°Cである。保持温度が低すぎると、緻密化が不十分となり、高すぎると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0099】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500°C/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、冷却速度を好ましくは50〜500°C/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしては、例えば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0100】
還元性雰囲気中で焼成した場合、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0101】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−7〜10−6気圧とすることが好ましい。酸素分圧が低すぎると、誘電体層の再酸化が困難であり、高すぎると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0102】
アニールの際の保持温度は、500〜1100°Cが好ましい。アニール温度が低すぎると、一般に、誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、アニール保持温度が高すぎると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。
【0103】
また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0104】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75°C程度が好ましい。
【0105】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、アニールの保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行なうことが好ましい。
【0106】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、例えばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、端子電極用ペーストを印刷または転写して焼成し、端子電極6,8を形成する。端子電極用ペーストの焼き付けは、例えば、NとHとの混合ガス中で、本実施形態では、600〜800°Cにて、約10分間〜1時間で、焼き付け処理を行うことが好ましい。必要に応じ、端子電極6,8の表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0107】
このようにして製造された本発明の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0108】
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、上述したようにX8R特性またはX7R特性を満足する組成であり、誘電体粒子20が、主成分相24の全体を拡散相26が覆う構造であり、たとえば、仮焼条件を変化させることで、CV値を所定の値とすることができる。図2に示すように、平均拡散深さがばらついていることにより、厚みが薄い拡散相を有する誘電体粒子と厚い拡散相を有する誘電体粒子とが共存することで、特性上相反する関係にある誘電率と、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性とを両立することができる。
【0109】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得る。
【0110】
たとえば、上述した実施形態では、仮焼条件を変化させることで、CV値を所定の範囲内とすることができるが、それ以外の方法としては、有機塩を用いた液相添加などがある。また、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記組成の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0111】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
実施例1
【0112】
主成分原料として、BaTiO と、副成分原料として、MgOおよびMnOの原料には、炭酸塩であるMgCO、MnCO を準備し、残りの副成分原料として、V、Y、Yb、CaZrO および(Ba0.6 Ca0.4)SiOを準備した。なお、CaZrOは、CaCOおよびZrOをボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150°Cで空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより24時間湿式粉砕することにより製造した。また、ガラス成分である(Ba0.6 Ca0.4 )SiOは、BaCO,CaCOおよびSiOをボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1150°Cで空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより100時間湿式粉砕することにより製造した。
【0113】
次に、これらの原料を、焼成後の組成が、BaTiO 100モルに対して、1モルのMgOと、0.37モルのMnOと、0.1モルのVと、2モルのYと、1.75モルのYbと、1.5モルのCaZrOと、3モルの(Ba0.6 Ca0.4 )SiOとなるように秤量した。各副成分原料については、ここで秤量した量が最終的な添加量となる。秤量した原料をボールミルにより16時間湿式混合した。スラリー乾燥後、乾燥粉体を等量ずつ2つに分け、下記に示す2つの条件で、それぞれ仮焼成した。
【0114】
条件1では、
昇温速度:200°C/時間
保持温度:700°C
保持時間:2時間
雰囲気:空気中
で行い、
条件2では、
昇温速度:200°C/時間
保持温度:800°C
保持時間:2時間
雰囲気:空気中
で行った。
【0115】
上記の条件で仮焼成した粉体を粉砕し、混合することで、誘電体原料を得た。得られた誘電体原料100重量部と、アクリル樹脂4.8重量部と、酢酸エチル100重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、トルエン4重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0116】
次いで、平均粒径0.4μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練してペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0117】
得られた誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、ドクターブレード法によりシート成形を行い、乾燥することにより、グリーンシートを形成した。このとき、グリーンシートの厚みは、4.5μmとした。この上に内部電極用ペーストを印刷した後、PETフィルムからシートを剥離した。次いで、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着して、グリーンチップを得た。
【0118】
次いで、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼結体を作製した。
【0119】
脱バインダ処理は、
昇温速度:60°C/時間、
保持温度:260°C、
保持時間:8時間、
雰囲気:空気中、
で行った。
【0120】
焼成は、
昇温速度:200°C/時間、
保持温度:1240°C、
保持時間:6時間、
酸素分圧:10−11気圧、
雰囲気:H−N−HOガス、
で行った。
【0121】
アニールは、
昇温速度:200°C/時間、
保持温度:1000°C、
保持時間:2時間、
酸素分圧:10−7気圧、
雰囲気:加湿したN ガス、
で行った。
【0122】
なお、焼成および再酸化処理の際の雰囲気ガスの加湿には、水温を35°Cとしたウェッターを用いた。
【0123】
このようにして得られた焼結体の両面に、外部電極としてIn−Gaを塗布し、コンデンサの試料とした。
【0124】
得られたコンデンサのサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は4層、1層あたりの誘電体層の厚みは(層間厚み)は、3.5μmであり、内部電極層の厚みは1.0μmであった。
【0125】
次いで、得られた各コンデンサ試料について、CV値を、下記に示す方法により算出した。
CV値
【0126】
まず、得られたコンデンサ試料を積層方向に垂直な面で切断し、その切断面を研磨した。そして、その研磨面にケミカルエッチングを施し、その後、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察を行い、コード法により、各誘電体粒子の形状を球と仮定して、250個の誘電体粒子の粒子径を測定した。測定した各誘電体粒子の粒径の平均値を、平均粒径D50とした。D50は、0.35μmであった。
【0127】
次に、図3に示すように、平均粒径D50と同じ値を示す誘電体粒子の中心を通るように粒子の両端を結んだ直線を引く。透過型電子顕微鏡(TEM)に付属のエネルギー分散型X線分光分析装置により、その直線に沿った線分析を行い、Yb、Mg、Caについて、拡散深さ(t10およびt11)を測定した。さらに、直線を45度ずらして、同様に線分析を行い、拡散深さ(t20およびt21)を測定した。
【0128】
得られた拡散深さについて、平均値を求め、その粒子における平均拡散深さとした。30個の粒子の平均拡散深さについてCV値を求めた。5〜30%が本発明の範囲内である。結果を表1に示す。
特性評価
【0129】
得られたコンデンサ試料に対して、容量温度特性、高温加速寿命、IR温度依存性(桁落ち)、TCバイアスおよび比誘電率εを評価した。
【0130】
容量温度特性(TC)は、得られたサンプルに対し、−55°C〜150°Cの温度範囲で静電容量を測定した。静電容量の測定にはデジタルLCRメータ(YHP製4274A)を用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。そして、これらの温度範囲で最も容量温度特性が悪くなる150°Cの温度環境下での静電容量の変化率(△C/C。単位は%)を算出し、X8R特性(−55〜150°C、ΔC/C=±15%以内)を満足するかどうかを調べ、満足するものを○、満足しないものを×とした。結果を表1に示す。
【0131】
高温加速寿命(HALT)は、得られたサンプルを、200°Cで10V/μmの直流電圧の印加状態に保持し、平均寿命時間を測定することにより評価した。本実施例においては、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温加速寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。評価基準は、10時間以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0132】
IR温度依存性(桁落ち)は、得られたサンプルの150°Cにおける絶縁抵抗IR150 と、25°Cにおける絶縁抵抗IR25とを測定し、下記式1で示される桁落ちを算出して評価した。評価基準は、−2.00以上を良好とした。
log(IR150 /IR25) …式1
なお、各温度での絶縁抵抗の測定には、温度可変IR測定器を用い、測定電圧7.0V/μm、電圧印加時間60sで測定した。結果を表1に示す。
【0133】
TCバイアスは、得られたサンプルを、デジタルLCRメータ(YHP製4274A)にて、1kHz,1Vrms,7.0V/μmのバイアス電圧(直流電圧)で−55°Cから150°Cまで温度を変化させて測定し、25°Cのバイアス電圧無印加中の測定値からの静電容量の変化率を算出して評価した。なお、静電容量の測定にはLCRメーターを用い、周波数1kHz、入力信号レベル1Vrmsの条件下で測定した。評価基準は、−40%以上を良好とした。結果を表1に示す。
【0134】
比誘電率εは、コンデンササンプルに対し、基準温度25°Cにおいて、デジタルLCRメータ(YHP社製4274A)にて、周波数1kHz,入力信号レベル(測定電圧)1.0Vrmsの条件下で測定された静電容量から算出した(単位なし)。評価基準は、1100以上を良好とした。結果を表1に示す。
実施例2〜4
【0135】
仮焼条件を変化させることにより、CV値を変化させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、特性評価を行った。結果を表1に示す。
比較例1および2
【0136】
仮焼条件を変化させることにより、CV値を本発明の範囲外となるように変化させた以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ試料を作製し、特性評価を行った。結果を表1に示す。
比較例3
【0137】
仮焼を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ試料を作製し、特性評価を行った。比較例3に係る誘電体粒子を、TEMで観察すると、観察した粒子200個中180個について、主成分相が、拡散相に覆われずむき出しになっていることが確認された。結果を表1に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
表1に示すように、各元素のCV値が、本発明の範囲内であるときには、X8R特性を満足し、上記の評価項目をすべて満足している。すなわち、CV値を本発明の範囲内とすることで、特性上相反する関係にある誘電率と、高温加速寿命、TcバイアスおよびIR温度依存性とを両立可能であることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面概略図である。
【図2】図2は、図1に示す誘電体層を構成する誘電体粒子の断面図である。
【図3】図3は、実施例において、CV値の算出方法を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0141】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素体
4a… 第1端部
4b… 第2端部
6,8… 端子電極
10… 誘電体層
12… 内部電極層
20… 誘電体粒子
22… 粒界相
24… 主成分相
26… 拡散相
26a… 拡散深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とする主成分相と、
前記主成分相の周囲に存在する拡散相とを有する誘電体粒子から構成される誘電体磁器組成物であって、
前記拡散相に存在する副成分元素が、前記拡散相の表面から前記誘電体粒子の中心に向けて拡散した深さの平均値を、平均拡散深さとした場合に、
各誘電体粒子相互間の平均拡散深さのばらつきが、CV値で、5〜30%であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記副成分元素として、希土類が含有される請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記希土類が、Sc,Y,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つである請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記副成分元素として、Mgが含有される請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記副成分元素として、Caが含有される請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記拡散相は、前記主成分相全体を覆っている請求項1〜5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の平均粒径をD50とした場合に、平均粒径D50の値を示す誘電体粒子の拡散相に存在する前記副成分元素の平均拡散深さを、前記CV値の算出対象とする請求項1〜6のいずれかに記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層を有する電子部品。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の誘電体磁器組成物で構成してある誘電体層と、内部電極層とが、交互に積層されたコンデンサ素体を有する積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−131476(P2007−131476A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325256(P2005−325256)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】