説明

誘電体磁器組成物および電子部品

【課題】誘電体層を薄層化した場合であっても、高い電界強度下における比誘電率が高く、しかも良好な温度特性および信頼性を有する誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】チタン酸バリウムを主成分として含有し、チタン酸バリウム100モルに対して、(1−x)BaZrO+xSrZrOで表される成分を、BaZrOおよびSrZrO換算で5〜15モル、Mgの酸化物をMgO換算で3〜5モル、希土類元素の酸化物をR換算で4〜6モル、Mn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を、MnO、Cr、CoおよびFe換算で0.5〜1.5モル、Siを含む化合物をSi換算で2.5〜4モル、含有し、xが0.4〜0.9であることを特徴とする誘電体磁器組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層に有する電子部品に係り、さらに詳しくは、定格電圧の高い(たとえば100V以上)中高圧用途に好適に用いられる誘電体磁器組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子回路の高密度化に伴う電子部品の小型化に対する要求は高く、積層セラミックコンデンサの小型・大容量化が急速に進むとともに、用途も拡大し、要求される特性は様々である。
【0003】
たとえば、高い定格電圧(たとえば、100V以上)で使用される中高圧用コンデンサは、ECM(エンジンエレクトリックコンピュータモジュール)、燃料噴射装置、電子制御スロットル、インバータ、コンバータ、HIDヘッドランプユニット、ハイブリッドエンジンのバッテリコントロールユニット、デジタルスチールカメラ等の機器に好適に用いられる。
【0004】
このような用途に用いられるコンデンサにおいては、誘電体層の薄層化および多層化が進められている。しかしながら、誘電体層の薄層化を進めるために、誘電体粒子の粒子径を小さくすると、比誘電率が低下してしまい、所望の特性が得られないという問題があった。
【0005】
さらに、上記のような高い定格電圧で使用される場合、高い電界強度下において使用されることとなるが、電界強度が高くなるにつれ、比誘電率が低下してしまい、その結果、使用環境における実効容量が低下してしまうという問題があった。
【0006】
たとえば、特許文献1には、一般式:ABO+aR+bM(Rは、La等の元素を含む化合物であり、Mは、Mn等の元素を含む化合物である)で表わされるチタン酸バリウムを主成分とする固溶体と焼結助剤とから構成される耐還元性誘電体セラミックが開示されている。この耐還元性誘電体セラミックはさらに、X(Zr,Hf)O(Xは、Ba、SrおよびCaから選ばれる少なくとも1種である)を含有することが記載されている。この特許文献1では、高周波かつ高電圧あるいは大電流下での使用時の損失および発熱が小さく、また、交流高温負荷または直流高温負荷において、安定した絶縁抵抗を示す耐還元性誘電体セラミックを提供することを目的としている。
【0007】
また、特許文献2には、(1−a−b−c−d−t)BaTiO+aCaTiO+b{(1−x)BaZrO+xSrZrO}+cMgO+dMnO+tReで表される主成分に焼結助剤を添加してなる非還元性誘電体磁器組成物が開示されている。特許文献2には、この誘電体磁器組成物によれば、高い比誘電率および小さい誘電正接を維持しつつ、比誘電率のエージング特性に優れ、CR積が大きく、静電容量の温度変化が小さくできる旨が記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されているコンデンサの誘電体層の厚みは厚く、薄層化に対応できるものではなかった。また、電界強度が高い環境下での比誘電率については何ら記載されておらず、実効容量については不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−50536号公報
【特許文献2】特開平4−264306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、誘電体層を薄層化した場合であっても、高い電界強度下における比誘電率が高く、しかも良好な温度特性および信頼性を有する誘電体磁器組成物、およびこの誘電体磁器組成物を誘電体層として有する電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る誘電体磁器組成物は、
チタン酸バリウムを主成分として含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対して、
ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分を、BaZrOおよびSrZrO換算で、5〜15モル、
Mgの酸化物を、MgO換算で、3〜5モル、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)を、R換算で、4〜6モル、
Mn、Cr、CoおよびFeからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を、MnO、Cr、CoおよびFe換算で、0.5〜1.5モル、
Siを含む化合物を、Si換算で、2.5〜4モル、含有し、
前記成分を、(1−x)BaZrO+xSrZrOと表した場合に、前記xが、0.4〜0.9であることを特徴とする。
【0012】
本発明では、上記の特定の組成および含有量とし、特に、ジルコン酸バリウムおよびジルコン酸ストロンチウムのモル比率を特定の範囲とすることで、高い電界強度下における比誘電率が高く、しかも良好な温度特性および信頼性を有する誘電体磁器組成物が得られる。
【0013】
好ましくは、前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の平均粒子径が0.10〜0.30μmである。このようにすることで、上述した効果をさらに高めることができる。
【0014】
本発明に係る電子部品は、上記のいずれかに記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と電極層とを有する電子部品である。
【0015】
本発明に係る電子部品としては、特に限定されないが、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、チップインダクタ、チップバリスタ、チップサーミスタ、チップ抵抗、その他の表面実装(SMD)チップ型電子部品が例示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施例および比較例に係る試料の容量温度特性を示すグラフである。
【図3】図3は、BaZrOとSrZrOまたはCaZrOとの比率を変化させた場合における直流電圧印加時の比誘電率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0018】
積層セラミックコンデンサ1
図1に示すように、積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と、内部電極層3と、が交互に積層された構成のコンデンサ素子本体10を有する。内部電極層3は、各端面がコンデンサ素子本体10の対向する2端部の表面に交互に露出するように積層してある。一対の外部電極4は、コンデンサ素子本体10の両端部に形成され、交互に配置された内部電極層3の露出端面に接続されて、コンデンサ回路を構成する。
【0019】
コンデンサ素子本体10の形状に特に制限はないが、図1に示すように、通常、直方体状とされる。また、その寸法にも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0020】
誘電体層2
誘電体層2は、本実施形態に係る誘電体磁器組成物から構成されている。該誘電体磁器組成物は、主成分としてのチタン酸バリウムと、副成分として、ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分と、Mgの酸化物と、Rの酸化物と、Mn、Cr、CoおよびFeから選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物と、Siを含む化合物と、を有するものである。
【0021】
主成分として含有されるチタン酸バリウムとしては、たとえば、組成式BaTiO2+m で表され、組成式中のmが、0.990<m<1.010であり、BaとTiとの比が0.990<Ba/Ti<1.010であるものなどを用いることができる。
【0022】
ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分(BaZrO+SrZrO)の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、BaZrOおよびSrZrO換算で、5〜15モルであり、好ましくは8〜12モルである。該成分の含有量が少なすぎると、温度特性が悪化する傾向にあり、一方、多すぎると温度特性が悪化するとともに高温負荷寿命が低下する傾向にある。
【0023】
また、該成分を(1−x)BaZrO+xSrZrOと表した場合、SrZrOのモル比率を示すxは、0.4〜0.9、好ましくは0.45〜0.8である。xを上記の範囲とする、すなわち、BaZrOとSrZrOとの割合を特定の範囲とすることで、高い電界強度下においても高い比誘電率を示し、しかも良好な温度特性および信頼性(高温負荷寿命)を実現することができる。
【0024】
xが小さすぎる、すなわち、SrZrOのモル比率が小さすぎると、高い電界強度下における比誘電率が低下する傾向にある。一方、xが大きすぎる、すなわち、SrZrOのモル比率が大きすぎると、高い電界強度下における比誘電率は良好なものの、温度特性が悪化する傾向にある。
【0025】
なお、該成分には、CaZrOが含まれないことが好ましい。CaZrOが含まれると、高い電界強度下における比誘電率が若干悪化することに加え、温度特性が悪化する傾向にある。さらには、CaZrOが含まれると、誘電体磁器組成物の誘電体粒子が粒成長しやすいため、薄層化に対応できず、信頼性が低下する傾向にある。
【0026】
Mgの酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、MgO換算で、3〜5モル、好ましくは3.5〜4.5モルである。Mgの酸化物の含有量が少なすぎても多すぎても、高い電界強度下における比誘電率が低下する傾向にある。
【0027】
Rの酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、R換算で、4〜6モルであり、好ましくは4.5〜5.5モルである。Rの酸化物の含有量が少なすぎると、温度特性が悪化するとともに、高温負荷寿命が低下する傾向にある。一方、多すぎると高温負荷寿命が低下する傾向にある。なお、Rの酸化物を構成するR元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuから選ばれる少なくとも1つであり、これらの中では、Gd、Tb、Eu、Y、La、Ceから選ばれる少なくとも1つが好ましく、Gdが特に好ましい。
【0028】
Mn、Cr、CoおよびFeの酸化物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、MnO、Cr、CoまたはFe換算で、0.5〜1.5モルであり、好ましくは0.8〜1.2モルである。これらの酸化物の含有量が少なすぎると、高温負荷寿命が低下する傾向にある。一方、多すぎると、比誘電率および高い電界強度下における比誘電率が低下し、温度特性が悪化するとともに、高温負荷寿命が急激に低下する傾向にある。なお、上記の各酸化物のなかでも特性の改善効果が大きいという点から、Mnの酸化物を用いることが好ましい。
【0029】
Siを含む化合物の含有量は、チタン酸バリウム100モルに対して、Si換算で、2.5〜4モル、好ましくは3〜3.5モルである。Siを含む化合物の含有量が少なすぎると、焼結性が悪化し、所望の特性が得られない傾向にある。一方、多すぎると、過剰焼成となり、所望の特性が得られない傾向にある。なお、Siを含む化合物としては特に制限されないが、特性の改善効果が大きいという点から、SiOを用いることが好ましい。
【0030】
本実施形態では、上記の誘電体層2を構成する誘電体磁器組成物は誘電体粒子を有している。これらの粒子の少なくとも一部の粒子は、いわゆるコアシェル構造を有している。コア部は、実質的にチタン酸バリウムからなっており、シェル部は、チタン酸バリウムに副成分の元素が固溶した構成を有している。
【0031】
コア部のチタン酸バリウムは、強誘電性を維持しているため、高い比誘電率を示すが、外部から印加される電界強度が高くなると、強誘電体であるコア部の分極が電界の向きに束縛され、容易に分極が反転しにくくなるため、この影響により比誘電率が低下すると考えられる。
【0032】
そのため、本実施形態では、シェル部における副成分の存在状態、特に、ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分の存在状態を制御し、シェル部の結晶構造を変化させ、分極の反転を容易にすることにより、高い電界強度下においても、比誘電率を高いままで維持することができる。
【0033】
なお、電界強度が高くなるにつれ(たとえば、15V/μm以上)、誘電体磁器組成物が示す比誘電率はほぼ一定の値に収束していくことが本発明者等により明らかにされている。しかしながら、電界が印加されていない状態(たとえば、直流電圧が印加されていない状態)において、高い比誘電率を示す誘電体磁器組成物が、高い電界強度下においても高い比誘電率を示すとは限らない。
【0034】
したがって、電界が印加されていない状態での比誘電率の大小に関わらず、高い電界強度下での比誘電率が高い誘電体磁器組成物から構成された誘電体層を有する電子部品は、高い電界強度下においても実効容量を十分に確保できる。
【0035】
誘電体層2に含有される誘電体粒子の平均粒子径は、以下のようにして測定される。すなわち、コンデンサ素子本体10を誘電体層2および内部電極層3の積層方向に切断し、その断面において誘電体粒子の面積を測定し、円相当径として直径を算出し1.5倍した値を粒子径とする。本実施形態では、150個以上の誘電体粒子について測定し、得られた粒子径の累積度数分布から累積が50%となる値を平均粒子径(単位:μm)とした。
【0036】
本実施形態では、誘電体粒子の平均粒子径は、誘電体層2の厚さなどに応じて決定すればよいが、好ましくは0.10〜0.30μm、より好ましくは0.20〜0.30μmである。平均粒子径を上記の範囲とすることで、誘電体層が薄層化された場合であっても、信頼性を十分に確保することができる。
【0037】
誘電体層2の厚みは、特に限定されないが、薄層化の要求に応えるため、一層あたり1〜5μm程度であることが好ましい。
【0038】
内部電極層3
内部電極層3に含有される導電材は特に限定されないが、誘電体層2の構成材料が耐還元性を有するため、比較的安価な卑金属を用いることができる。導電材として用いる卑金属としては、NiまたはNi合金が好ましい。Ni合金としては、Mn,Cr,CoおよびAlから選択される1種以上の元素とNiとの合金が好ましく、合金中のNi含有量は95重量%以上であることが好ましい。なお、NiまたはNi合金中には、P等の各種微量成分が0.1重量%程度以下含まれていてもよい。また、内部電極層3は、市販の電極用ペーストを使用して形成してもよい。内部電極層3の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0039】
外部電極4
外部電極4に含有される導電材は特に限定されないが、本発明では安価なNi,Cuや、これらの合金を用いることができる。外部電極4の厚さは用途等に応じて適宜決定すればよい。
【0040】
積層セラミックコンデンサ1の製造方法
本実施形態の積層セラミックコンデンサ1は、従来の積層セラミックコンデンサと同様に、ペーストを用いた通常の印刷法やシート法によりグリーンチップを作製し、これを焼成した後、外部電極を印刷または転写して焼成することにより製造される。以下、製造方法について具体的に説明する。
【0041】
まず、誘電体層用ペーストに含まれる誘電体原料(誘電体磁器組成物粉末)を準備し、これを塗料化して、誘電体層用ペーストを調製する。
【0042】
誘電体層用ペーストは、誘電体原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0043】
誘電体原料としては、上記した主成分および副成分の酸化物やその混合物、複合酸化物を用いることができるが、その他、焼成により上記した酸化物や複合酸化物となる各種化合物、たとえば、炭酸塩、シュウ酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物等から適宜選択し、混合して用いることもできる。
【0044】
たとえば、チタン酸バリウムの原料としては、BaTiO粉末を用いてもよいし、BaCO粉末およびTiO粉末を用いてもよい。また、ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分の原料としては、Ba1−xSrZrO粉末を用いてもよいし、BaZrO粉末およびSrZrO粉末を用いてもよい。
【0045】
主成分の原料としてのチタン酸バリウム粉末は、いわゆる固相法の他、各種液相法(たとえば、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法、ゾルゲル法など)により製造されたものなど、種々の方法で製造されたものを用いることができる。
【0046】
また、チタン酸バリウム粉末の粒子径は、好ましくは150〜250nmである。このような微細な粒子径を有する原料を用いて誘電体層を薄層化した場合であっても、本発明の効果を得ることができる。
【0047】
なお、副成分の原料を仮焼せずに主成分の原料に添加して誘電体原料としてもよいが、好ましくは、副成分の原料のみを仮焼きし、仮焼き後の原料を主成分の原料に添加して誘電体原料とする。また、ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分は仮焼きせず、該成分以外の副成分の原料を仮焼きすることがさらに好ましい。
【0048】
誘電体原料中の各化合物の含有量は、焼成後に上記した誘電体磁器組成物の組成となるように決定すればよい。
【0049】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0050】
また、誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水溶性バインダは特に限定されず、たとえば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0051】
内部電極層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。
【0052】
外部電極用ペーストは、上記した内部電極層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0053】
上記した各ペースト中の有機ビヒクルの含有量に特に制限はなく、通常の含有量、たとえば、バインダは1〜5重量%程度、溶剤は10〜50重量%程度とすればよい。また、各ペースト中には、必要に応じて各種分散剤、可塑剤、誘電体、絶縁体等から選択される添加物が含有されていてもよい。これらの総含有量は、10重量%以下とすることが好ましい。
【0054】
印刷法を用いる場合、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストを、PET等の基板上に印刷、積層し、所定形状に切断した後、基板から剥離してグリーンチップとする。
【0055】
また、シート法を用いる場合、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷した後、これらを積層してグリーンチップとする。
【0056】
焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ条件としては、昇温速度を好ましくは5〜300℃/時間、保持温度を好ましくは180〜400℃、温度保持時間を好ましくは0.5〜24時間とする。
【0057】
グリーンチップの焼成は、以下の条件とするのが好ましい。
【0058】
昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしてはたとえば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることができる。
【0059】
焼成時の保持温度は、好ましくは1000〜1400℃、より好ましくは1100〜1300℃であり、その保持時間は、好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間である。保持温度が上記の範囲未満であると緻密化が不十分となり、上記の範囲を超えると、内部電極層の異常焼結による電極の途切れや、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、誘電体磁器組成物の還元が生じやすくなる。
【0060】
焼成時の酸素分圧は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−14〜10−10MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記の範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が上記の範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0061】
還元性雰囲気中で焼成した後、コンデンサ素子本体にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0062】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、10−9〜10−5MPaとすることが好ましい。酸素分圧が上記の範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、上記の範囲を超えると内部電極層の酸化が進行する傾向にある。
【0063】
アニールの際の保持温度は、1100℃以下、特に500〜1100℃とすることが好ましい。保持温度が上記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、絶縁抵抗が低く、また、絶縁抵抗の寿命(高温負荷寿命)が短くなりやすい。一方、保持温度が上記の範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、絶縁抵抗の低下、絶縁抵抗の寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0064】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、降温速度を好ましくは50〜500℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、たとえば、NもしくはN+HOガス等を用いることが好ましい。
【0065】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、たとえばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0066】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。
【0067】
上記のようにして得られたコンデンサ素子本体に、たとえばバレル研磨やサンドブラストなどにより端面研磨を施し、外部電極用ペーストを塗布して焼成し、外部電極4を形成する。そして、必要に応じ、外部電極4表面に、めっき等により被覆層を形成する。
【0068】
このようにして製造された本実施形態の積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々に改変することができる。
【0070】
たとえば、上述した実施形態では、本発明に係る電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、本発明に係る電子部品としては、積層セラミックコンデンサに限定されず、上記構成の誘電体層を有するものであれば何でも良い。
【実施例】
【0071】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0072】
実施例1〜15、比較例1〜14
まず、主成分の原料として、BaTiO粉末を、副成分の原料として、BaZrO(以下、BZともいう)、SrZrO(以下、SZともいう)、MgCO、Gd、MnOおよびSiOを、それぞれ準備した。副成分の原料のうち、BZおよびSZについては仮焼きせず、MgCO、Gd、MnOおよびSiOを仮焼きした。次に、上記で準備した主成分の原料と、BZおよびSZと、仮焼きした原料とをボールミルで15時間、湿式粉砕し、乾燥して、誘電体原料を得た。なお、各副成分の添加量は、主成分であるBaTiO100モルに対して、表1に示す量とした。表1に示す量は、複合酸化物または各酸化物換算の量である。また、MgCOは、焼成後には、MgOとして誘電体磁器組成物中に含有されることとなる。
【0073】
なお、比較例2および3の試料では、SrZrOの代わりに、CaZrO(以下、CZともいう)を用いた。
【0074】
【表1】

【0075】
次いで、得られた誘電体原料:100重量部と、ポリビニルブチラール樹脂:10重量部と、可塑剤としてのジブチルフタレート(DOP):5重量部と、溶媒としてのアルコール:100重量部とをボールミルで混合してペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。
【0076】
また、上記とは別に、Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極層用ペーストを作製した。
【0077】
そして、上記にて作製した誘電体層用ペーストを用いて、PETフィルム上に、グリーンシートを形成した。次いで、この上に内部電極層用ペーストを用いて、電極層を所定パターンで印刷した後、PETフィルムからシートを剥離し、電極層を有するグリーンシートを作製した。次いで、電極層を有するグリーンシートを複数枚積層し、加圧接着することによりグリーン積層体とし、このグリーン積層体を所定サイズに切断することにより、グリーンチップを得た。
【0078】
次いで、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成およびアニールを下記条件にて行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0079】
脱バインダ処理条件は、昇温速度:25℃/時間、保持温度:260℃、温度保持時間:8時間、雰囲気:空気中とした。
【0080】
焼成条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N+H+HO混合ガス(酸素分圧:10−12MPa)とした。
【0081】
アニール条件は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1050℃、温度保持時間:2時間、冷却速度:200℃/時間、雰囲気ガス:N+HO混合ガス(酸素分圧:10−7MPa)とした。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0082】
次いで、得られた積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨した後、外部電極としてIn−Gaを塗布し、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。得られたコンデンサ試料のサイズは、2.0mm×1.2mm×0.6mmであり、誘電体層の厚み3.0μm、内部電極層の厚み1.5μm、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は10とした。なお、本実施例では、表1に示すように、各副成分の含有量を変化させた複数の試料を作製した。
【0083】
得られた各コンデンサ試料について直流電圧印加時の比誘電率(εr)、容量温度変化率、高温負荷寿命および誘電体粒子の平均粒子径を下記に示す方法により測定した。
【0084】
直流電圧(DC−bias)印加時の比誘電率εr
コンデンサ試料に対し、両電極端に電界強度が20V/μmとなるように直流電圧を印加した状態で、デジタルLCRメータ(YHP社製4284A)を用いて、周波数1kHz、入力信号レベル(測定電圧)1Vrmsの信号を入力し、25℃における静電容量Cを測定した。そして、直流電圧印加時の比誘電率εr(単位なし)を、誘電体層の厚みと、有効電極面積と、測定の結果得られた静電容量Cとに基づき算出した。本実施例では、10個のコンデンサ試料を用いて算出した値の平均値を直流電圧印加時の比誘電率とした。本実施例では、300以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0085】
また、参考のため、直流電圧を印加していない状態で、上記と同様にして、比誘電率を測定した。この比誘電率も表2に示す。
【0086】
容量温度特性(TC)
コンデンサ試料に対し、−55℃〜125℃における静電容量を測定し、基準温度(25℃)における静電容量に対する変化率を算出した。変化率は小さいほうが好ましく、+22%〜−33%の範囲にあるものを良好とした(X7T特性)。結果を表2に示す。また、実施例3、比較例1〜4についての容量温度特性のグラフを図2に示す。
【0087】
高温負荷寿命
コンデンサ試料に対し、200℃にて、70V/μmの電界下で直流電圧の印加状態に保持し、破壊時間を測定することにより、高温負荷寿命を評価した。本実施例においては、破壊時間についてワイブル解析を行い、印加開始から絶縁抵抗が一桁落ちるまでの時間を寿命と定義した。また、この高温負荷寿命は、10個のコンデンサ試料について行った。評価基準は、1.0時間以上を良好とした。結果を表2に示す。
【0088】
誘電体粒子の平均粒子径
コンデンサ試料を切断し、その切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、SEM写真を撮影した。このSEM写真をソフトウェアにより画像処理を行い、誘電体粒子の境界を判別し、各誘電体粒子の面積を算出した。そして、算出された誘電体粒子の面積を円相当径に換算して粒子径を算出した。得られた粒子径の平均値を平均粒子径とした。なお、粒子径の算出は、150個の誘電体粒子について行った。平均粒子径は0.10〜0.30μmを良好とした。結果を表2に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表1および2より、(1−x)BaZrO+xSrZrOと表される成分において、x=0、すなわち、該成分がBaZrOのみからなる場合には(比較例1)、直流電圧印加時の比誘電率が低いことが確認できた。また、x=1、すなわち、該成分がSrZrOのみからなる場合には(比較例4)、直流電圧印加時の比誘電率は高いものの、温度特性が悪化していることが確認できた。
【0091】
また、SrZrOの代わりに、CaZrOを用いた場合には(比較例2および3)、直流電圧印加時の比誘電率が低いことに加え、誘電体粒子が粒成長してしまい、その結果、温度特性および高温負荷寿命が悪化していることが確認できた。
【0092】
また、図2より、x=1の場合(比較例4)およびCaZrOが含まれる場合(比較例2および3)には、温度特性が悪化し、X7T特性を満足しないことが視覚的に確認できた。
【0093】
さらに、副成分の含有量が本発明の範囲外である場合には(比較例5〜14)、直流電圧印加時の比誘電率、温度特性および高温負荷寿命の少なくとも1つが悪化していることが確認できた。
【0094】
これに対し、xの値および副成分の含有量が本発明の範囲内である場合には(実施例1〜15)、直流電圧印加時の比誘電率、温度特性および高温負荷寿命の全てが良好であることが確認できた。
【0095】
また、図3より、BaZrOとSrZrOとの割合を特定の割合とすることで(SZ(0≦x≦1))、直流電圧印加時の比誘電率が大幅に向上することが確認できた。これに対し、BaZrOとCaZrOとの割合を変化させても(CZ(0≦x≦1))、直流電圧印加時の比誘電率はあまり向上しないことが確認できた。
【0096】
この直流電圧印加時の比誘電率は、印加される直流電圧が大きくなるにつれ、小さくなる傾向にある。しかしながら、各試料の比誘電率は、本実施例における20V/μmのような電界強度下、あるいはより高い電界強度下ではほぼ一定値に収束する。そのため、本実施例よりも高い電界強度下においても、本発明の実施例に係る試料は、比較例に係る試料よりも、直流電圧印加時の比誘電率が優れている。
【0097】
なお、表2に参考のために示した直流電圧無印加時の比誘電率からも明らかなように、直流電圧が印加されていない状態の比誘電率と、印加された状態の比誘電率とは何ら関連性はない。
【符号の説明】
【0098】
1… 積層セラミックコンデンサ
10… コンデンサ素子本体
2… 誘電体層
3… 内部電極層
4… 外部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分として含有し、
前記チタン酸バリウム100モルに対して、
ジルコン酸バリウムとジルコン酸ストロンチウムとからなる成分を、BaZrOおよびSrZrO換算で、5〜15モル、
Mgの酸化物を、MgO換算で、3〜5モル、
Rの酸化物(ただし、Rは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選ばれる少なくとも1つ)を、R換算で、4〜6モル、
Mn、Cr、CoおよびFeからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を、MnO、Cr、CoおよびFe換算で、0.5〜1.5モル、
Siを含む化合物を、Si換算で、2.5〜4モル、含有し、
前記成分を、(1−x)BaZrO+xSrZrOと表した場合に、前記xが、0.4〜0.9であることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記誘電体磁器組成物を構成する誘電体粒子の平均粒子径が0.10〜0.30μmである請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物から構成される誘電体層と電極層とを有する電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207696(P2011−207696A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78571(P2010−78571)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】