説明

誘電体磁器組成物の製造方法

【課題】 誘電特性を損なうことなく、焼成温度を低下しうる誘電体磁器組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明に係る誘電体磁器組成物の製造方法は、
組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)で示される誘電体酸化物を調製する工程、
該誘電体酸化物100重量部に対し、
焼結助剤を1〜10重量部および
必要に応じナトリウム化合物を、NaO換算で0.1〜0.5重量部の混合する工程、および
得られた混合物を焼成する工程を含む誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記焼結助剤が、焼結助剤の全量100重量%中に、
マンガン化合物を、MnO換算で30〜69重量%、
酸化アルミニウムを、Al換算で1〜20重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で30〜50重量%含んでなることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば積層セラミックコンデンサの誘電体層などとして用いられる誘電体磁器組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成する誘電体磁器組成物は、強誘電体であるBaTiOや、常誘電体であるSrTiO、CaTiO、CaSrZrO、CaZrO、SrZrO、TiO、NdTiOなどの各種誘電体酸化物を含んで構成される。
【0003】
誘電体磁器組成物は、通常は、主成分としての上記誘電体酸化物の他に、焼結性を促進するための焼結助剤を加えた上で、例えば1300℃以上の高温で焼成されていた。
【0004】
しかしながら、焼成温度が高いと、以下の不都合を生じる。
第1に、内部電極の材料であるNiなどの卑金属の融点以上、あるいはそれに近い温度域となり、その結果、誘電体磁器組成物とともに同時焼成される卑金属粒子の溶融、球状化が進み、内部電極層のライン性が劣化する、すなわち内部電極層に途切れを発生するといった不都合を生じる要因ともなる。内部電極層のライン性が悪化すると、得られるコンデンサの比誘電率が低下し、結果的に静電容量の低下を招き、最終的には高容量化・薄層化に対応できない。
【0005】
第2に、焼成炉そのものの価格も高価な上に、用いる焼成炉の損傷も激しくなり、焼成炉の保守や管理コストなどが使用時間の経過につれて増加するとともに、焼成に要するエネルギーコストも膨大になってしまう。
【0006】
また、高温での焼成のため、粒径制御が困難になり、誘電体酸化物粒子の粒成長が起こりやすくなる。この結果、誘電体層の厚み方向に対する誘電体粒子数が少なくなり、電子部品としての信頼性が低下する。さらに、誘電体層と電極層との熱膨張係数の相違から、焼成時あるいは降温時に、誘電体層にクラックが生じることもあった。
【0007】
このような理由から、焼成温度をできる限り低くすることが望ましい。
【0008】
その一方で、焼成温度をあまりに低くしすぎると、誘電体層を緻密化できず、十分な特性を持つ誘電体磁器組成物が得られない。したがって、誘電体磁器組成物の緻密化を損なうことなく、より一層低温で焼成することが求められる。
【0009】
特許文献1には、低温焼成による誘電体磁器組成物の製造を目的として、
組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)である誘電体酸化物と、酸化マンガンと、酸化アルミニウムと、焼結助剤と、を有する誘電体磁器組成物を製造する方法であって、
SiOを主成分とし、さらにMO(ただし、Mは、Ba、Ca、Sr及びMgの少なくとも1種)を含む第1ガラス組成物と、
、Al、ZnO及びSiOを含んで構成され、1.5μm以下の平均粒径を持つ第2ガラス組成物と、
を有する焼結助剤を用いて、誘電体磁器組成物を製造する方法が開示されている。
【特許文献1】特開2005−179105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載のように、ガラス成分を焼結助剤として使用すると、ガラス由来の成分の一部が誘電体磁器組成物に混入し、誘電特性を損なう場合があることが判明した。したがって、本発明は、誘電特性を損なうことなく、焼成温度を低下しうる誘電体磁器組成物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
【0012】
(1)組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)で示される誘電体酸化物を調製する工程、
該誘電体酸化物100重量部に対し、焼結助剤を1〜10重量部混合する工程、および得られた混合物を焼成する工程を含む、誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記焼結助剤が、焼結助剤の全量100重量%中に、
酸化マンガン、炭酸マンガンまたはこれらの混合物を、MnO換算で30〜69重量%、
酸化アルミニウムを、Al換算で1〜20重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で30〜50重量%含んでなる、誘電体磁器組成物の製造方法。
【0013】
(2)組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)で示される誘電体酸化物を調製する工程、
該誘電体酸化物100重量部に対し、
焼結助剤を1〜10重量部および
酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはこれらの混合物を、NaO換算で0.1〜0.5重量部の混合する工程、および
得られた混合物を焼成する工程を含む誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記焼結助剤が、焼結助剤の全量100重量%中に、
酸化マンガン、炭酸マンガンまたはこれらの混合物を、MnO換算で30〜69重量%、
酸化アルミニウムを、Al換算で1〜20重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で30〜50重量%含んでなる、誘電体磁器組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、誘電特性を損なうことなく、焼成温度を低下しうる誘電体磁器組成物の製造方法が提供される。焼成温度を低下することで、誘電体酸化物粒子の粒成長が抑制される。この結果、誘電体層の厚み方向に対する誘電体粒子数が増加し、誘電体層が緻密化され電子部品としての信頼性が向上する。また、本発明の製法によれば、誘電体層にクラックが生じることも防止される。このような本発明の製法は、JIS規格CHに規定されるC0G特性を満足するコンデンサを形成する誘電体層の製造に特に好ましく採用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を、その最良の形態を含めて、さらに具体的に説明する。
【0016】
本発明の誘電体磁器組成物の製法は、特定の組成を有する誘電体酸化物を準備し、該誘電体酸化物100重量部に対し、特定組成の焼結助剤を1〜10重量部混合し、得られた混合物を焼成することを特徴としている。
【0017】
本発明で使用する誘電体酸化物は、
組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕にて示される。
【0018】
式中のxは、0.5≦x≦1.0、好ましくは0.6≦x≦0.9であり、
yは、0.01≦y≦0.10、好ましくは0.02≦y≦0.07であり、
zは、0<z≦0.20、好ましくは0<z≦0.10であり、
mは、0.90≦m≦1.04、好ましくは1.005≦m≦1.035である。
【0019】
誘電体酸化物の組成が上記範囲を外れると、得られる誘電体磁器組成物の電気特性が低下する。あるいは所定の電気特性を達成するための焼成温度が高くなり、クラックの発生が多発するなどの不都合を招くおそれがある。
【0020】
誘電体酸化物の製法は特に限定はされず、固相法や液相法などの公知の方法により製造される。たとえば、固相法により誘電体酸化物を製造する際には、誘電体酸化物の出発原料(例えばSrCO、CaCO、TiO、ZrO、HfO等)を、上記組成式を満たすように所定量秤量し、これらを混合、乾燥することにより、混合粉末を準備する。
【0021】
次に、準備された混合粉末を焼成(「仮焼き」ともいう)する。仮焼き条件は、特に限定されないが、例えば焼成温度は、好ましくは1300℃以下、さらに好ましくは900〜1200℃であり、また保持時間は、好ましくは0.5〜6時間、より好ましくは1〜3時間である。焼成の際の昇温速度は、好ましくは50〜400℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間である。焼成雰囲気は、空気中、窒素中および還元雰囲気中の何れでも構わない。また、仮焼きは、複数回行ってもよい。
【0022】
次に、仮焼きされた仮焼済粉末を、必要に応じ、アルミナロールなどにより粗粉砕した後、乾燥することで、誘電体酸化物(粉末)を得る。誘電体酸化物としては、平均粒子径0.0005〜5μm程度のものが好ましく用いられる。
【0023】
次いで、誘電体酸化物100重量部に対し、特定組成の焼結助剤を1〜10重量部、好ましくは1〜6重量部、さらに好ましくは2〜5重量部混合し、焼成原料となる混合物を調製する。
【0024】
焼結助剤の配合割合が少な過ぎると、所定の電気特性を有する誘電体磁器組成物を得るための焼成温度が高くなり、クラックが多発する。また、焼結助剤の配合割合が多すぎると、誘電体内部に焼結助剤の偏析が発生し、そこからクラックが発生するという不都合を招くおそれがある。
【0025】
本発明で使用する焼結助剤は、マンガン化合物、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素の混合物である。
【0026】
マンガン化合物は、酸化マンガン(MnO、MnO、Mn)または炭酸マンガン(MnCO)であり、またこれらの混合物であってもよい。マンガン化合物は、該焼結助剤の全量(100重量%)に対して、MnO換算で30〜69重量%、好ましくは45〜63重量%の割合で用いられる。
【0027】
また、酸化アルミニウムは、焼結助剤の全量(100重量%)に対して、Al換算で1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%、酸化ケイ素は、SiO換算で30〜50重量%、好ましくは35〜40重量%の割合で用いられる。
【0028】
焼結助剤の組成が上記範囲を外れても、得られる誘電体磁器組成物の電気特性においては大きな低下は見られないものの、所定の電気特性を達成するための焼成温度が高くなり、またクラックの発生が多発するなどの不都合を招くおそれがある。
【0029】
本発明におけるマンガン化合物、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素の配合割合のさらに好ましい範囲および実施例における配合を、三角組成図(図1)に示す。
【0030】
図1に示すように、本発明で使用する焼結助剤は、マンガン化合物、酸化アルミニウムおよび酸化ケイ素をそれぞれMnO、Al、SiOに換算した際の組成(MnO,Al,SiO)が、(30,22,48)、(30,40,30)、(40,2,58)、(70,5,25)の4点で囲まれる領域にあることが好ましく、さらに(55,2,43)、(55,10,35)、(62,3,35)、(65,5,30)の4点で囲まれる領域にあることが特に好ましい。
【0031】
さらに、上記焼結助剤に加えて、ナトリウム化合物を配合してもよい。ナトリウム化合物は、酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムであり、またこれらの混合物であってもよい。ナトリウム化合物を配合する場合には、前記誘電体酸化物100重量部に対して、NaO換算で0.5重量部以下、好ましくは0.1〜0.5重量部の割合で用いられる。上記焼結助剤に加えてナトリウム化合物を用いることで、焼結助剤の液化温度が低下するため、焼成温度をさらに低下させることができる。
【0032】
焼結助剤および必要に応じ用いられるナトリウム化合物は、焼成時に液相を形成する。したがって、これら原料粉末の粒径は特に限定はされないが、誘電体酸化物との混合を均一に行うため、0.01〜1.0μm程度の平均粒径を有するものが好ましく用いられる。
【0033】
誘電体酸化物、焼結助剤および必要に応じ用いられるナトリウム化合物からなる原料粉末を混合する方法は特に限定はされず、湿式法であっても乾式法であってもよい。また、混合時に有機ビヒクルや水などを加え、誘電体磁器組成物原料を塗料化して、誘電体層用ペーストを調整してもよい。誘電体層用ペーストは、誘電体磁器組成物原料と有機ビヒクルとを混練した有機系の塗料であってもよく、水系の塗料であってもよい。
【0034】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよい。また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、テルピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0035】
誘電体層用ペーストを水系の塗料とする場合には、水溶性のバインダや分散剤などを水に溶解させた水系ビヒクルと、誘電体原料とを混練すればよい。水系ビヒクルに用いる水溶性バインダは特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性アクリル樹脂などを用いればよい。
【0036】
誘電体磁器組成物は、上記の誘電体酸化物、焼結助剤および必要に応じ用いられるナトリウム化合物からなる混合物、好ましくは誘電体層用ペーストを適宜な手段でシート化してグリーンチップを製造後、脱バインダ、焼成、アニールなどの工程を経て得られる。
【0037】
印刷法を用いる場合は、誘電体層用ペーストおよび内部電極層用ペーストをポリエチレンテレフタレート等の基板上に積層印刷し、所定形状に切断したのち基板から剥離することでグリーンチップとする。これに対して、シート法を用いる場合は、誘電体層用ペーストを用いてグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷したのちこれらを積層してグリーンチップとする。内部電極層用ペーストとしては、各種公知のペーストが特に制限されることなく使用され、たとえばNiやNi合金を導電材として含有するペーストが好ましく用いられる。
【0038】
次に、焼成前に、グリーンチップに脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理は、通常の条件で行えばよいが、内部電極層の導電材にNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、昇温速度:5〜300℃/時間、特に10〜100℃/時間、保持温度:180〜400℃、特に200〜300℃、温度保持時間:0.5〜24時間、特に5〜20時間、雰囲気:空気中、の条件で行うことが好ましい。
【0039】
グリーンチップ焼成時の雰囲気は、内部電極層用ペースト中の導電材の種類に応じて適宜決定されればよいが、導電材としてNiやNi合金等の卑金属を用いる場合、焼成雰囲気中の酸素分圧は、10−7〜10−3Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると、内部電極層の導電材が異常焼結を起こし、途切れてしまうことがある。また、酸素分圧が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化する傾向にある。
【0040】
焼成時の保持温度は、グリーンチップの緻密化を十分に行え、しかも内部電極層の異常焼結による電極の途切れ、内部電極層構成材料の拡散による容量温度特性の悪化、あるいは誘電体磁器組成物の還元が生じない範囲で適宜決定される。焼成温度があまりに低いとグリーンチップが緻密せず、焼成温度があまりに高いと内部電極が途切れたり(ライン性の悪化)、導電材の拡散により容量温度特性が悪化したり、誘電体の還元が生じてしまうからである。
【0041】
したがって、焼成温度は限定されないが、本発明の製法は、特に低温焼成が可能であるという利点を有する。したがって、本発明における焼成温度は、好ましくは1250℃以下、より好ましくは1230℃以下である。これにより、焼成炉の損傷を防止でき、保守や管理コスト、ひいてはエネルギーコストをも効果的に抑制でき、しかもクラックの発生や比誘電率の低下などの不都合も防止しうる。なお、焼成温度の下限は、好ましくは950℃程度、より好ましくは1000℃程度である。
【0042】
これ以外の焼成条件としては、昇温速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間、温度保持時間を好ましくは0.5〜8時間、より好ましくは1〜3時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは200〜300℃/時間とする。また、焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしては例えば、NとHとの混合ガスを加湿して用いることが好ましい。
【0043】
還元性雰囲気中で焼成した場合、焼成後の焼結体(コンデンサ素子本体)にはアニールを施すことが好ましい。アニールは、誘電体層を再酸化するための処理であり、これによりIR寿命を著しく長くすることができるので、信頼性が向上する。
【0044】
アニール雰囲気中の酸素分圧は、1×10−4Pa以上、特に1×10−4〜10Paとすることが好ましい。酸素分圧が前記範囲未満であると誘電体層の再酸化が困難であり、前記範囲を超えると内部電極層が酸化する傾向にある。
【0045】
アニールの際の保持温度は、1200℃以下、特に500〜1200℃とすることが好ましい。保持温度が前記範囲未満であると誘電体層の酸化が不十分となるので、IRが低く、また、IR寿命が短くなりやすい。一方、保持温度が前記範囲を超えると、内部電極層が酸化して容量が低下するだけでなく、内部電極層が誘電体素地と反応してしまい、容量温度特性の悪化、IRの低下、IR寿命の低下が生じやすくなる。なお、アニールは昇温過程および降温過程だけから構成してもよい。すなわち、温度保持時間を零としてもよい。この場合、保持温度は最高温度と同義である。
【0046】
これ以外のアニール条件としては、温度保持時間を好ましくは0〜20時間、より好ましくは2〜10時間、冷却速度を好ましくは50〜500℃/時間、より好ましくは100〜300℃/時間とする。また、アニールの雰囲気ガスとしては、例えば、加湿したNガス等を用いることが好ましい。
【0047】
上記した脱バインダ処理、焼成およびアニールにおいて、Nガスや混合ガス等を加湿するには、例えばウェッター等を使用すればよい。この場合、水温は5〜75℃程度が好ましい。
【0048】
脱バインダ処理、焼成およびアニールは、連続して行なっても、独立に行なってもよい。これらを連続して行なう場合、脱バインダ処理後、冷却せずに雰囲気を変更し、続いて焼成の際の保持温度まで昇温して焼成を行ない、次いで冷却し、アニールの保持温度に達したときに雰囲気を変更してアニールを行なうことが好ましい。一方、これらを独立して行なう場合、焼成に際しては、脱バインダ処理時の保持温度までNガスあるいは加湿したNガス雰囲気下で昇温した後、雰囲気を変更してさらに昇温を続けることが好ましく、アニール時の保持温度まで冷却した後は、再びNガスあるいは加湿したNガス雰囲気に変更して冷却を続けることが好ましい。また、アニールに際しては、Nガス雰囲気下で保持温度まで昇温した後、雰囲気を変更してもよく、アニールの全過程を加湿したNガス雰囲気としてもよい。
【0049】
以上のようにして得られたコンデンサ焼成体に、例えば、バレル研磨やサンドブラストにより端面研磨を施し、外部電極を形成してセラミックコンデンサが得られる。また、必要に応じて外部電極の表面にメッキ等により被覆層(パッド層)を形成してもよい。このようにして製造されたセラミックコンデンサは、はんだ付け等によってプリント基板上に実装され、各種電子機器に用いられる。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0051】
例えば、本発明に係る方法により得られる誘電体磁器組成物は、積層セラミックコンデンサのみに使用されるものではなく、誘電体層が形成されるその他の電子部品に使用されても良い。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
円盤状サンプルの作製
まず、誘電体酸化物を製造するための出発原料として、平均粒径0.4μmのSrCO、CaCO、TiO、ZrO及びHfOを準備した。
【0054】
次に、準備された各出発原料を、最終組成が、〔(Ca0.7 Sr0.3 )O〕〔((Ti0.03Zr0.92 Hf0.05)O〕となる重量比で秤量、混合し、仮焼前混合物を調製した。
【0055】
次に、得られた仮焼前混合物を仮焼し、上記組成で示される誘電体酸化物を得た。仮焼き条件は、以下の通りであった。昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200℃、温度保持時間:2時間、雰囲気:空気中。次に、得られた誘電体酸化物をアルミナロールで粉砕した。
【0056】
次いで、焼結助剤として、表1に示す配合で、MnO、AlおよびSiOの混合物を準備し、上記誘電体酸化物100重量部に対し、表1に示す割合で添加し、またバインダとしてのポリビニルアルコールを0.6重量%となるように添加して、顆粒状になるようにバインダと誘電体原料とを混合した。
【0057】
なお、試料16〜20では、表1に示す配合で、MnO、AlおよびSiOの混合物を準備し、混合物を昇温速度200℃/時間、保持温度1100℃、温度保持時間4時間、空気中にて熱処理し、ガラス化した後に、上記誘電体酸化物に配合した。
【0058】
また試料21〜23では、さらに表2に示す組成のガラス成分((BaCa1−sSiO)(以下、「BCG」ともいう)を、上記誘電体酸化物100重量部に対し、3重量部の割合で添加した。BCGは、所定組成のBaCO,CaCOおよびSiOをボールミルにより16時間湿式混合し、乾燥後、1000〜1300℃で空気中で焼成し、さらに、ボールミルにより100時間湿式粉砕することにより製造した。
【0059】
また、試料24〜27では、誘電体酸化物として、表3に示す組成のものを用いた。試料24〜27で使用した誘電体酸化物は、出発原料の配合比を変更した以外は、上記と同様にして作成した。
【0060】
さらに、試料28〜30では、表3に示す組成の誘電体酸化物を用い、酸化ナトリウムをさらに配合した。酸化ナトリウムの配合量は、NaO換算で、誘電体酸化物100重量部に対し、0.10重量部(試料28)、0.25重量部(試料29)、0.50重量部(試料30)とした。
【0061】
得られた顆粒状の誘電体原料を約0.3g秤量して、1.3トン/cmの圧力で加圧して、直径12mm、厚さ0.7mmの円盤状成形体を得た。
【0062】
次に、得られた円盤状成形体に、脱バインダ処理、焼成およびアニールを施して、直径約10mm、厚さ約0.5mmの円盤状焼成体を得た。脱バインダ処理は、昇温時間200℃/時間、保持温度400℃、保持時間2時間、空気雰囲気の条件で行った。また、焼成は、昇温速度200℃/時間、保持温度:表1参照、保持時間2時間、冷却速度200℃/時間、加湿したN+H混合ガス雰囲気(酸素分圧は10−12Pa)の条件で行った。アニールは、保持温度1100℃、温度保持時間2時間、冷却速度200℃/時間、加湿したNガス雰囲気(酸素分圧は10−2Pa)の条件で行った。なお、焼成およびアニールの際の雰囲気ガスの加湿には、ウェッターを用いた。
【0063】
次に、得られた円盤状焼成体の両面に、In−Ga合金を塗布することで、φ6mmの電極を形成し、円盤状サンプルを作製した。
【0064】
コンデンササンプルの作製
また、上記で得られた誘電体酸化物100重量部と、表1に示す配合の焼結助剤と、アクリル樹脂4.8重量部と、塩化メチレン40重量部と、酢酸エチル20重量部と、ミネラルスピリット6重量部と、アセトン4重量部とをボールミルで混合し、ペースト化し、誘電体層用ペーストを得た。なお、試料16〜30では、前記と同様の変更を行った。
【0065】
平均粒径0.1〜0.8μmのNi粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)40重量部と、ブチルカルビトール10重量部とを3本ロールにより混練し、ペースト化し、内部電極層用ペーストを得た。
【0066】
平均粒径0.5μmのCu粒子100重量部と、有機ビヒクル(エチルセルロース樹脂8重量部をブチルカルビトール92重量部に溶解したもの)35重量部およびブチルカルビトール7重量部とを混練し、ペースト化し、外部電極用ペーストを得た。
【0067】
次に、上記誘電体層用ペーストを用いてPETフィルム上に、厚さ7μmのグリーンシートを形成し、この上に内部電極層用ペーストを印刷したのち、PETフィルムからグリーンシートを剥離した。
【0068】
次に、これらのグリーンシートと保護用グリーンシート(内部電極層用ペーストを印刷しないもの)とを積層、圧着してグリーンチップを得た。内部電極を有するシートの積層数は101層とした。
【0069】
次に、グリーンチップを所定サイズに切断し、脱バインダ処理、焼成およびアニール(いずれも、上記円盤状サンプルを作製する際の条件と同じ条件)を行って、積層セラミック焼成体を得た。
【0070】
次に、積層セラミック焼成体の端面をサンドブラストにて研磨したのち、外部電極用ペーストを端面に転写し、加湿したN+H雰囲気中において、800℃にて10分間焼成して外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサのサンプルを得た。このようにして得られた各サンプルのサイズは、3.2mm×1.6mm×0.6mmであり、内部電極層に挟まれた誘電体層の数は100、その厚さは4.9μmであり、内部電極層の厚さは0.2μmであった。
【0071】
円盤状サンプルとコンデンササンプルの評価
得られた円盤状サンプルとコンデンササンプルを用いて、磁器特性(焼結密度、結晶粒径)、電気特性(絶縁抵抗IR、比誘電率ε)およびクラック発生率を下記の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0072】
(焼結密度)
焼結密度は、円盤状サンプルの寸法と質量とから算出した。焼結密度は、好ましくは4.5g/cm以上を良好とした。なお、焼結密度の値は、円盤状サンプル数n=10個を用いて測定した値の平均値から求めた。
【0073】
(平均粒子径)
誘電体層を構成する誘電体粒子(グレイン)の平均結晶粒径は、コンデンサのサンプルのSEM写真を用いるコード法により算出した。本実施例では、誘電体粒子の形状を便宜的に球と仮定して粒径を算出する。具体的には、まず、誘電体層の微細構造を示すSEM写真を用い、このSEM写真上に任意の直線を引き、この線が隣接する誘電体粒子同士の間に存在する粒界と交錯する点(交点)の数を求める。次に、求められた交点数から単位長さ当たりの粒界との交点の数PLを計算する。次に、得られたPLの値を用いて、コード長さL3を算出する。コード長さL3は1/PLで求められる。次に、得られたL3の値に1.5を乗じたL3×1.5により、誘電体粒子の平均結晶粒径を算出した。なお、用いたSEM写真の視野は23μm×30μmとし、1サンプルにつき5〜6枚の写真を用いて、それぞれの粒径を算出し、これらの平均値を平均結晶粒径とした。
【0074】
(絶縁抵抗IR)
絶縁抵抗IRは、次のようにして評価した。コンデンササンプルに対し、絶縁抵抗計(アドバンテスト社製R8340A)を用いて、25℃においてDC50Vをコンデンササンプルに60秒間印加した後の絶縁抵抗IR(単位はΩ)を測定した。絶縁抵抗IRは、1×1011Ω以上を良好とする。なお、絶縁抵抗IRの値は、コンデンササンプル数n=10個を用いて測定した値の平均値から求めた。
【0075】
(比誘電率ε)
コンデンサの試料に対し、基準温度20℃において、デジタルLCRメータ(横河電機(株)製 YHP4274A)にて、周波数120Hz,入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrms/μmの条件下で、静電容量Cを測定した。そして、得られた静電容量、積層セラミックコンデンサの誘電体厚みおよび内部電極同士の重なり面積から、比誘電率(単位なし)を算出した。比誘電率は、高いほど好ましい。
【0076】
(クラック発生率)
クラック発生率は次のように評価した。
【0077】
コンデンササンプルの全数外観検査を行った。なお、測定数は100個とした。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0078】
表1から以下のことが理解できる。試料1〜5あるいは13〜15のように、焼結助剤の組成が本願規定の外れると、所望の電気特性を達成するための焼成温度が上昇してしまう。またクラック発生率が増大し、信頼性が低下することがわかる。また、試料16〜23のように、ガラス化した焼結助剤を用いたり、他のガラス成分を添加した場合でも同様である。
【0079】
一方、本発明で規定する組成の焼結助剤を使用することで、比較的低い焼成温度でも、誘電特性を損なうことなく、信頼性の高いコンデンサが得られる(試料6〜12、24〜27)。また、酸化ナトリウムを添加することで、さらに焼成温度を低下することができた(試料28〜30)。したがって、本発明の製法は、JIS規格CHに規定されるC0G特性を満足するコンデンサを形成する誘電体層の製造に特に好ましく採用される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例における焼結助剤の配合を示す三角組成図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)で示される誘電体酸化物を調製する工程、
該誘電体酸化物100重量部に対し、焼結助剤を1〜10重量部混合する工程、および得られた混合物を焼成する工程を含む、誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記焼結助剤が、焼結助剤の全量100重量%中に、
酸化マンガン、炭酸マンガンまたはこれらの混合物を、MnO換算で30〜69重量%、
酸化アルミニウムを、Al換算で1〜20重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で30〜50重量%含んでなる、誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
組成式〔(CaSr1−x)O〕m〔(TiZr1−y−zHf)O〕(式中、x、y、z、mは、それぞれ0.5≦x≦1.0、0.01≦y≦0.10、0<z≦0.20、0.90≦m≦1.04である)で示される誘電体酸化物を調製する工程、
該誘電体酸化物100重量部に対し、
焼結助剤を1〜10重量部および
酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはこれらの混合物を、NaO換算で0.1〜0.5重量部の混合する工程、および
得られた混合物を焼成する工程を含む誘電体磁器組成物の製造方法であって、
前記焼結助剤が、焼結助剤の全量100重量%中に、
酸化マンガン、炭酸マンガンまたはこれらの混合物を、MnO換算で30〜69重量%、
酸化アルミニウムを、Al換算で1〜20重量%、
酸化ケイ素を、SiO換算で30〜50重量%含んでなる、誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−126754(P2009−126754A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304577(P2007−304577)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】