説明

誘電体磁器組成物の製造方法

【課題】一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型構造を有する誘電体磁器組成物であって、A/B比(モル比)が1以下で、結晶性に優れ、高い誘電率を有する誘電体磁器組成物を確実に、しかも効率よく製造することが可能な誘電体磁器組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の工程で、Aサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物を、モル比:A/Bが1を超える割合で配合し、焼成することにより、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を合成した後、第2の工程で、このペロブスカイト型複合酸化物に、Zr化合物を、ZrがBサイト成分の一部と考えた場合に、全体としての前記、モル比:A/Bが1以下となるような割合で混合してセラミック原料とする。
好ましくは、第2の工程において、モル比:A/Bが1未満になるような割合で前記Zr化合物を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誘電体磁器組成物の製造方法に関し、詳しくは、積層セラミックコンデンサなどに好適に用いることが可能な誘電体磁器組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックコンデンサ用の誘電体磁器組成物としては、高い誘電率を得るため、BaTiO3系化合物を主成分とするものが広く用いられている。
【0003】
そして、BaTiO3系の誘電体磁器組成物としては、焼成工程を経て得られるセラミック焼結体におけるBaとTiのモル比(Ba/Ti)(以下、単に「Ba/Ti比」ともいう)が1を超えるものが一般的に用いられていた。その理由は、主として、Ba/Ti比が1を超えるように設定することにより、異常粒成長が抑制されることによる。
【0004】
しかし、粒成長を抑制する技術が発達した近年では、Ba/Ti比(モル比)を1未満にした場合に誘電率が向上することに着目して、Ba/Ti比を1未満に設定する場合も生じてきている。
【0005】
そして、セラミック焼結体のBa/Ti比を1未満にする方法としては、例えば、BaTiO3を、BaCO3(BaOでもよい)とTiO2を原料として合成する場合、予めBa化合物原料とTi化合物原料の調合比(モル比)をBa≦Tiとしておくことが考えられる。
しかしながら、予め調合比(モル比)をBa≦Tiとして焼成し、BaTiO3を合成するようにした場合、合成したBaTiO3の結晶性が低くなり、意図するような特性を十分に発現させることが困難になるという問題点がある。
【0006】
ところで、セラミック中のBa/Ti比を制御して、意図するようなBa/Ti比を有する誘電体磁器組成物を製造する方法として、副成分のうちの少なくとも一部を混合して仮焼することにより得た仮焼済粉体に、バリウムとチタンとの主成分モル比(Ba/Ti)を1以上としたチタン酸バリウムを含む主成分およびチタン化合物を混合して本焼成することにより、BaとTiの最終モル比(Ba/Ti)が、1.004〜1.021の誘電体磁器組成物を得る方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、この方法では、上記チタン化合物として、TiO2を添加することが提案されている(特許文献1の請求項6)。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1には、最終的に、Ba/Ti比が1未満で、BaTiO3の結晶性が高い誘電体磁器組成物を製造する方法は示されておらず、現在も、Ba/Ti比が1未満で、BaTiO3の結晶性が高い誘電体磁器組成物を効率よく製造する方法が開発されていないのが実情である。
【0008】
また、特許文献1のように、仮焼済粉体に対して、TiO2を添加するようにした場合、絶縁抵抗(logIR)がばらつき、得られる誘電体磁器組成物をセラミックコンデンサの原料として使用した場合、絶縁不良を引き起こしやすくなり、信頼性が低いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−162557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するものであり、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型構造を有する誘電体磁器組成物であって、A/B比(モル比)が1以下で、結晶性に優れ、高い誘電率を有する誘電体磁器組成物を確実に、しかも効率よく製造することが可能な誘電体磁器組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の誘電体磁器組成物の製造方法は、
Baを主たる成分とするAサイト元素と、Tiを主たる成分とするBサイト元素を含み、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型構造を有する誘電体磁器組成物の製造方法であって、
Aサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物を、モル比:A/Bが1を超える割合で配合し、焼成することにより、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を合成する第1の工程と、
前記ペロブスカイト型複合酸化物に、Zr化合物を、ZrがBサイト成分の一部と考えた場合に、全体としての前記モル比:A/Bが1以下となるような割合で混合してセラミック原料とする第2の工程と
を具備することを特徴としている。
【0012】
本発明においては、前記第2の工程において、全体としての前記モル比:A/Bが1未満になるような割合で前記Zr化合物を混合することが望ましい。
【0013】
また、前記第1の工程で合成されるペロブスカイト型複合酸化物は、BaTiO3であることが望ましい。
【0014】
また、前記第2の工程で混合される前記Zr化合物がZrO2であり、得られる前記セラミック原料が、Ba(Ti,Zr)O3を主成分とするものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の誘電体磁器組成物の製造方法においては、まず第1の工程で、Aサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物を、モル比:A/Bが1を超える割合で配合し、焼成することにより、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を合成した後、第2の工程で、このペロブスカイト型複合酸化物に、Zr化合物を、ZrがBサイト成分の一部と考えた場合に、全体としての前記モル比:A/Bが1以下となるような割合で混合してセラミック原料とするようにしているので、その後に本焼成されることにより、A/B比(モル比)が1あるいは1未満であるにもかかわらず結晶性に優れ、高い誘電率を有するセラミック焼結体を得ることが可能になる。
【0016】
すなわち、本発明によれば、まず第1の工程でAサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物を、モル比:A/Bが1を超える割合で配合し、焼成することにより、結晶性に優れた、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物が得られる。そして、第2の工程で、このペロブスカイト型複合酸化物に、Zr化合物を、モル比:A/Bが1以下となるような割合で混合してセラミック原料とすることにより、例えば、このセラミック原料を用いてセラミックグリーンシートを形成し、積層、圧着の後、本焼成した場合に、結晶性の大幅な劣化を招くことがなく、Ba/Ti比が1あるいは1未満であっても、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが少なく、結晶性の高い、良好な特性を備えたセラミック焼結体を得ることができるようになる。
【0017】
また、第1の工程で合成されるペロブスカイト型複合酸化物が、BaTiO3である場合、Ba/Ti比が1あるいは1未満であっても、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが少なく、結晶性の高い、良好な特性を備えたセラミック焼結体を得ることができるようになり、本発明をより実効あらしめることができる。
【0018】
特に、第2の工程で、Zr化合物としてZrO2を混合し、Ba(Ti,Zr)O3を主成分とするセラミック原料とすることにより、さらに確実に、Ba/Ti比が1あるいは1未満であっても、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが少なく、結晶性の高い、良好な特性を備えたセラミック焼結体を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の誘電体磁器組成物を用いて作製した積層セラミックコンデンサの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0021】
A)誘電体原料の作製
まず、出発原料として、高純度TiO2、BaCO3を、BaとTiのモル比:Ba/Tiが、1.002になるよう秤量した後、ボールミルにて湿式混合粉砕し、スラリー化した。
【0022】
それから、このスラリーを乾燥した後、900℃以上の温度に加熱(仮焼)して、比表面積が約6m2/gのBaTiO3を合成した(第1の工程)。
【0023】
次に、上述のようにして得たBaTiO3の粉末100モル部に対し、表1に示すような割合(モル部)でTiO2粉末またはZrO2粉末を秤量して、添加し、セラミック原料を得た(第2の工程)。
【0024】
それから各セラミック原料に、BaTiO3100モル部に対して、1.0モル部のSiO2、0.1モル部のMnCO3、1.0モル部のMgO、0.2モル部のGd23、0.4モル部のY23、および0.03モル部のV25を、粉末にて添加して、積層セラミックコンデンサの誘電体層形成用の誘電体磁器組成物を得た。
【0025】
B)積層セラミックコンデンサの作製
上述のようにして作製した誘電体磁器組成物に、バインダ(この実施例では、ポリビニルブチラール系バインダ)および有機溶媒(この実施例ではエタノール)を加えて、ボールミルにより所定の時間湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。そして、このセラミックスラリーをLip方式によりシート成形し、厚み1.5μmの矩形のセラミックグリーンシートを得た。
【0026】
次に、このセラミックグリーンシート上に、Niを主体とする導電ペーストをスクリーン印刷し、内部電極を構成するための導電ペースト層(内部電極パターン)を形成した。
【0027】
それから、導電ペースト層が形成されていない外層用セラミックグリーンシートと、導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートとを所定の順序で積層することにより、上下両面側に上記外層用セラミックグリーンシートが配設された未焼成の積層体を得た。
なお、導電ペースト層が形成されたセラミックグリーンシートは、その導電ペーストの引き出されている側が、交互に逆側となるように複数枚積層した。
【0028】
次に、この積層体をN2雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた。その後、酸素分圧10-9〜10-12MPaのH2−N2−H2Oガスからなる還元性雰囲気中にて、1200℃、2時間の条件で焼成し、セラミック積層体(セラミックコンデンサ素子)を得た。
【0029】
そして、得られたセラミック積層体の両端面にB23−Li2O−SiO2−BaO系のガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N2雰囲気中において800℃で焼き付けることにより、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
これにより、図1に示すような構造を有する積層セラミックコンデンサが得られる。
【0030】
この積層セラミックコンデンサ10は、セラミック焼結体である積層セラミック素子1中に、セラミック誘電体層2を介して、複数の内部電極3a,3bが積層され、かつ、セラミック誘電体層2を介して互いに対向する内部電極3a,3bが交互に積層セラミック素子1の異なる側の端面4a,4bに引き出され、該端面4a,4bに形成された外部電極5a,5bに電気的に接続された構造を有している。
【0031】
また、この積層セラミックコンデンサ10の外形寸法は、長さ:2.0mm、幅:1.2mm、厚さ:1.0mmであり、内部電極3a,3b間に介在するセラミック誘電体層2の厚みは1.0μmである。また、有効セラミック誘電体層の総数は100であり、1層当たりの内部電極3a,3bの対向面積は1.8mm2である。
【0032】
C)特性評価
上述のようにして作製した積層セラミックコンデンサについて、誘電率、および抵抗値を測定して、特性を評価した。
【0033】
なお、誘電率は、温度25℃,1kHz,AC電圧0.5Vrmsの条件下で測定した。
【0034】
また、抵抗値は、温度25℃で、DC電圧4.0Vを印加し、60秒後の電流値を求めて算出した。
【0035】
なお、抵抗値については、n=10で測定した絶縁抵抗(logIR)のばらつきを、表1に不偏標準偏差(σ)で示した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1に示すように、第1の工程で、ZrO2およびTiO2のいずれも添加せず、セラミック焼結体における、BaとTiの最終のモル比:Ba/Tiが1.0002と、1を超える試料番号1の試料の場合、焼結性に問題はなかったが、十分に高い誘電率を得ることができなかった。
【0038】
一方、第1の工程でTiO2を添加し、セラミック焼結体における、BaとTiの最終のモル比:Ba/Tiが1以下になるようにした試料番号2〜4の試料の場合、高い誘電率を示すが、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが大きくなり、好ましくないことが確認された。
【0039】
これに対し、第1の工程でZrO2を添加した試料番号5〜7の試料の場合、第1の工程でTiO2を添加した試料番号2〜4の試料と比較して、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが小さくなることが確認された。
【0040】
また、第1の工程でZrO2を添加した試料番号5〜7の試料の場合は、積層セラミック素子を構成するセラミック焼結体における、BaとTiのモル比:Ba/Tiが1以下であり、モル比:Ba/Tiが1を超える試料番号1の試料や、第1の工程で、TiO2を添加した試料番号2の試料(Ba/Ti=1)と比較して、誘電率が高くなることが確認された。
【0041】
さらに、セラミック焼結体における、BaとTiのモル比:Ba/Tiが1未満である試料番号6、7の試料の場合、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが、BaとTiのモル比:Ba/Tiが1.000である試料番号5の試料よりもさらに小さくなることが確認された。
【0042】
以上の結果より、第1の工程でZrO2を添加し、BaとTiの最終のモル比:Ba/Tiが1以下、さらには、1未満になるようにすることにより、誘電率が高く、絶縁抵抗(logIR)のばらつきが小さいセラミック焼結体が得られることが確認された。
【0043】
なお、本発明の方法により製造される誘電体磁器組成物は、積層セラミックコンデンサに限らず、誘電体セラミックが用いられる種々の電子部品(例えば、強誘電体メモリ、圧電アクチュエータ、PTCサーミスタ)などに広く用いることが可能である。
【0044】
本発明はさらにその他の点においても上記実施例に限定されるものではなく、Aサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物の具体的な組成や配合割合、第2の工程で混合されるZr化合物の種類などに関し、発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 積層セラミック素子
2 セラミック誘電体層
3a,3b 内部電極
4a,4b 積層セラミック素子の端面
5a,5b 外部電極
10 積層セラミックコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Baを主たる成分とするAサイト元素と、Tiを主たる成分とするBサイト元素を含み、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型構造を有する誘電体磁器組成物の製造方法であって、
Aサイト元素化合物と、Bサイト元素化合物を、モル比:A/Bが1を超える割合で配合し、焼成することにより、一般式:ABO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を合成する第1の工程と、
前記ペロブスカイト型複合酸化物に、Zr化合物を、ZrがBサイト成分の一部と考えた場合に、全体としての前記モル比:A/Bが1以下となるような割合で混合してセラミック原料とする第2の工程と
を具備することを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項2】
前記第2の工程において、全体としての前記モル比:A/Bが1未満になるような割合で前記Zr化合物を混合することを特徴とする請求項1記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程で合成されるペロブスカイト型複合酸化物がBaTiO3であることを特徴とする請求項1または2記載の誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程で混合される前記Zr化合物がZrO2であり、前記第2の工程で得られる前記セラミック原料が、Ba(Ti,Zr)O3を主成分とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−42529(P2011−42529A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191713(P2009−191713)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】