説明

誘電体磁器組成物及び誘電体磁器

【課題】 比誘電率εrが高く、Q×f値が大きな誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物及び誘電体磁器を提供すること。
【解決手段】 下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0≦c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物及び誘電体磁器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器においては、使用周波数帯域が高周波に移行してきており、電子機器に用いられる誘電体フィルタには、高周波帯域で優れた誘電特性を有する誘電体材料を用いることが求められる。このような誘電特性として、主として、Q×f値(Q:品質係数、f:共振周波数)や共振周波数fの温度変化係数τfがある。ここで、品質係数Qは誘電正接tanδの逆数である。Q×f値は、誘電体材料の損失特性を表し、Q×f値が大きいほど損失が低い誘電体材料となる。また、τfは共振周波数fの温度安定性を表し、τfの絶対値が小さいほど温度変化に対する誘電特性の変化が小さい誘電体材料となる。従って、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度変化係数τfの絶対値が小さい誘電体材料を用いると、損失が小さく温度安定性に優れた誘電体フィルタを実現できる。
【0003】
また、近年、携帯電話等の電子機器には小型化が求められており、それに伴って誘電体フィルタにも小型化が求められている。そのためには、一般に、高い比誘電率εrを有する誘電体材料を用いることが有効とされている。これは、誘電体中を伝わる電磁波の波長は、比誘電率εrに応じて1/√εr倍に短縮されるためである。
【0004】
上記の観点から、小型で且つ高誘電特性の誘電体フィルタを実現するためには、Q×f値及び比誘電率εrが高い誘電体材料が好適である。しかしながら、通常、Q×f値と比誘電率εrとの間には、一方が大きくなると他方が小さくなるというトレードオフの関係がある。そのため、上述したQ×f値、温度変化係数τf及び比誘電率εrの全てをバランスよく有する誘電体材料の開発が進められている。
【0005】
例えば、本出願人により、下記組成式:
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、10≦a≦25、10≦b≦20、8≦c≦15、2≦d≦10、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、a+b+c+d+e=100となる関係を満たす。]で表される誘電体磁器組成物を用いることにより、Q×f値が大きく、共振周波数の温度変化係数τfが小さく且つ高い比誘電率εrを有する誘電体磁器を実現することが提案されている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−273703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、融点が高く高価なPdやPtではなく、より導体抵抗の低いAg(融点960℃)などの導体材料が注目されており、これに伴い、この種の導体材料と同時に焼成可能な低温焼成材料(LTCC)が注目されてきている。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の誘電体磁器組成物は、高温焼成材料としては適しているものの、そのままでは焼結が十分に進まないため、低温焼成材料としては適しているとは言えないことが本発明者らの実験によって明らかとなった。
【0008】
ここで、上記誘電体磁器組成物について低温焼成を可能とするためには、その誘電体磁器組成物にガラス系組成物を含めることが考えられる。
【0009】
しかし、そのようにガラス系組成物を上記誘電体磁器組成物に含めても、それだけでは、高温焼成したときのように、Q×f値が大きく且つ高い比誘電率εrを有する誘電体磁器を実現できなかった。
【0010】
そこで、本発明は、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きな誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物及び誘電体磁器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために、上記組成式(1)で表される誘電体磁器組成物を構成する成分の比率について更に検討を行なったところ、特にCaOの比率が大きい組成において、CaO、Bi及びREの比率を適切に設定するとともに、その他の各成分の調整することによって、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0≦c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]
【0013】
なお、上記組成式(1)における各元素の組成は、酸化物誘電体についてそれ単独で誘電結合プラズマ発光分光分析及び蛍光X線分析を行うことにより得られた分析値として表している。
【0014】
このような組成を有する本発明の誘電体磁器組成物によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きな誘電体磁器を形成することが可能となる。また、上記組成の誘電体磁器組成物は、その製造時において、従来よりも低い(例えば1000℃以下の)温度でも十分に焼結させることができるという特性も有している。そのため、かかる誘電体磁器組成物によれば、誘電体フィルタ等の素子を形成する際、低温で効率のよい焼成が可能となるとともに、誘電体磁器組成物と同時に焼成する電極材料として、従来の高価なPdやPtに代えて、融点が低いため従来の高温では焼成できなかったAg−Pd合金や、更に融点が低いAgを用いることが可能となる。その結果、素子等の製造工程を簡便化できるほか、より安価で導体抵抗も低いAg−Pd合金、更にはAgを用いることによる、低コスト化及び高特性化を実現することも可能となる。
【0015】
上記本発明の誘電体磁器組成物において、上記式(1)におけるa〜eは、0.93≦(a+b+c+d)/e<1.0で表される関係を満たす値であるとより好ましい。また、式(1)中、a〜eは、(a+b+d)/e<1.0であり、しかも、d=0でない場合はb≧0.9×dで表される関係を満たす値であると更に好ましい。これらの関係を満たすことで、Q×f値及び比誘電率εrをより高いレベルで両立させることが可能となる。
【0016】
上記本発明の誘電体磁器組成物は、ホウ素酸化物が副成分として含まれており、このホウ素酸化物が、主成分100質量部に対してB換算で0.1質量部〜6.0質量部の割合で含まれていると好ましい。また、ガラス組成物が副成分として含まれている場合は、このガラス組成物が主成分100質量部に対して0.1質量部〜35.0質量部の割合で含まれていると好ましい。これらにより、誘電体磁器組成物の焼結温度を更に良好に低下させることが可能となる。
【0017】
また、酸化物誘電体について、上記式(1)中、REは少なくともNdを含むと好ましく、この場合、Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。REとしてNdを含むと、高い比誘電率εrとともに、特に高いQ×f値が得られ易くなる。さらに、式(1)中、Caの一部がBa、Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。
【0018】
また、本発明は、上記誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器を提供する。この誘電体磁器は、上述した誘電体磁器組成物からなるものであるため、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きく且つ共振周波数の温度安定性が良好なものとなる。また、誘電体フィルタ等に適用する場合、導体抵抗が小さくて融点が低いAg−Pd合金やAgを電極材料として用いることも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きな誘電体磁器を実現でき、低温焼成が可能な誘電体磁器組成物及び誘電体磁器が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0021】
[誘電体磁器組成物]
本実施形態の誘電体磁器組成物は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有するものである。
【0022】
主成分である酸化物誘電体は、主としてペロブスカイト構造を有しており、以下に示す組成を有している。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0≦c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]
【0023】
上記酸化物誘電体中のCaには、比誘電率εrを向上させる効果と、共振周波数の温度変化係数τfをプラス側に大きくする効果がある。酸化物誘電体において、Caの比率がCaO換算で26モル%以下であると、高いQ×f値と高い比誘電率εrとを両立することが困難となる。一方、45モル%を超えると、τfが大きくなりすぎて好ましくない。したがって、CaのCaO換算による含有量aは、26モル%を超え45モル%以下となる。
【0024】
特に、より高いQ×f値及び比誘電率εrを得るとともに、より安定した温度特性を得るためには、CaのCaO換算による含有量aは、26モル%を超え40モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
また、酸化物誘電体においては、CaOのCaの一部がアルカリ土類金属元素(Sr,Ba,Mgから選ばれる1種又は2種以上)により置換されてもよい。Caの一部をSr、Ba等のイオン半径がCaより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高めることができる。また、Caの一部を、Mg等のイオン半径がCaより小さな元素で置換すると、Q×f値を高めることができる。
【0026】
酸化物誘電体中のLiは、比誘電率εrと共振周波数の温度変化係数τfに作用を及ぼす。LiのLiO1/2換算による含有量bは、0モル%よりも大きく12モル%以下とする。Liを含まない場合、共振周波数の温度変化係数τfがプラス側に大きくなりすぎる。一方、12モル%を超えると、比誘電率εrが低くなりすぎる。
【0027】
酸化物誘電体中のBiは、比誘電率εrを高める効果があることから、Biを含むことが好ましい。しかし、Biが多すぎると、むしろ比誘電率εrが低下し、さらにQ×f値も低下する。そこで、εrとQ×f値のバランスから適量範囲を決める必要がある。
【0028】
一方、酸化物誘電体中の希土類元素REは、共振周波数の温度変化係数τfの制御に寄与し、RE量が増加するとτfはマイナス方向での絶対値が大きくなる傾向にある。ただし、後述するようなホウ素酸化物やガラス組成物を副成分として低温焼成を行った場合は、RE量が増加することで、Q×f値が向上する傾向が確認された。
【0029】
そこで、Q×f値を高め、高い比誘電率εrを得るとともに、最低限の共振周波数の温度変化係数τfを得るために、Ca、Bi及びREの量を一定の比率を満たすようにする。すなわち、Ca、Bi及びREの量は、それぞれをCaO、BiO3/2及びREO3/2に換算した量であるa、c及びdの比率が、0≦c≦(a+d)/4を満たすとともに、dのモル比が0≦d≦12.5を満たすことが望ましい。
【0030】
ここで、REO3/2において、REはNdであることが好ましく、さらにはその一部がランタニド族元素(La,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選ばれる1種又は2種以上)によって置換されていてもよい。REをNdとすることで、比誘電率εr、Q×f値と温度特性(温度安定性)の各特性のバランスが良くなる上、特性と材料コストのバランスも良好となる。また、Ndの一部を、La,Ce,Pr等、イオン半径がNdより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高くすることができる。一方、Ndの一部を、Sm,Y,Yb,Dy等、イオン半径がNdよりも小さな元素で置換することで、Q×f値を高くすることができる。
【0031】
また、酸化物誘電体におけるTiが多すぎると、ペロブスカイト結晶相の形成に必要な量以上の過剰なTiによって、TiOなどのTiを多く含む異相が生成しやすい。逆にTiが少なすぎると、ペロブスカイトのAサイトに入るはずの他の金属元素を多く含む異相が発生しやすい。いずれの場合にも、異相の発生により特性が大幅に低下するおそれがある。そのため、TiのTiO換算による含有量eは50モル%以上、60モル%以下とする必要がある。
【0032】
酸化物誘電体においては、1価元素Liと、3価元素であるBi及び希土類元素REの総和とのモル比b/(c+d)も、適正範囲に制御する必要がある。まず、b/(c+d)<1.0とすることで、ほぼ単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体が得られる。なお、b/(c+d)≧1であると、LiO・TiOからなる異相の生成によって比誘電率εrが低下する。逆に、Liが少なくなりすぎる、すなわちb/(c+d)<0.65であると、BiTiやBiTi等の異相が生成し、これにより比誘電率εr及びQ×f値が低下し、さらに温度変化係数τfはプラス方向での絶対値が大きくなる。したがって、0.65≦b/(c+d)<1とすることで、高特性の酸化物誘電体が実現される。
【0033】
また、前述の酸化物誘電体においては、異相の析出量を低減し、特性を高める観点で、ペロブスカイト構造におけるAサイトの原子とBサイトの原子とのモル比A/B、すなわち、(a+b+c+d)/eを適正範囲内にすることが好ましい。酸化物誘電体においては、Aサイトに一部空孔ができると考えられるため、A/Bが1より小さいことが異相の低減や特性の向上に有効である。つまり、(a+b+c+d)/e≧1であると、異相が生成し、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。また、Bサイトの原子のモル量Bに比べAサイトの原子のモル量Aが少なすぎる場合にも異相の発生により、比誘電率εrやQ×f値の低下を招くおそれがある。そこで、本発明者らが各元素の配合を様々に変化させ、得られた誘電体についての特性評価及び構造分析の結果を詳細に解析した結果、(a+b+c+d)/eの望ましい範囲は、0.93≦(a+b+c+d)/e<1である。
【0034】
また、酸化物誘電体においては、上記式(1)中、a、b、d、eが、(a+b+d)/e<1.0を満たし、更に、dが0でない場合にb≧0.9×dを満たすことが好ましい。b及びdがb≧0.9×dを満たす関係である場合、Biと反応できるだけの余剰のLiを酸化物誘電体が含有することによって、主成分となる酸化物誘電体材料の作製時においては、LiとBiの低融点化合物、例えばLiBiO(融点が約700℃)などを生成させることができ、これにより反応性を促進させることができる。その結果、誘電特性に優れ、特に「比誘電率εrが高い」酸化物誘電体粉末を作製することが可能となる。
【0035】
また、ペロブスカイト構造を有する酸化物誘電体では、Aサイト原子とBサイト原子とのモル比A/Bが誘電特性に大きく関係する。本実施形態の誘電体磁器組成物に含まれる酸化物誘電体では、A/Bが1よりも小さいことが異相の発生低減や特性の向上に好適である。そして、Aサイトは主として、Ca、Li及びREからなり、Bサイトは主としてTiからなり、Biは主にAサイトに配位する。したがって、上記の通り、式(1)中のa,b,d,eは、(a(Ca)+b(Li)+d(RE))/e(Ti)<1.0を満たすことが好ましい。
【0036】
なお、本実施形態の誘電体磁器組成物は、主として上述した酸化物誘電体から構成されるが、Q×f値、比誘電率εr、共振周波数の温度変化係数τfや設計上の焼成温度等を大きく変化させない限り、その他の成分を含んでいてもよい。ただし、十分な特性を得る観点からは、誘電体磁器組成物は、その90モル%以上が上記酸化物誘電体からなることが好ましく、不可避の混入成分を除いて全量が上記酸化物誘電体からなることが特に好ましい。
【0037】
[誘電体磁器組成物及び誘電体磁器の製造方法]
上述した誘電体磁器組成物及びこれを用いた誘電体磁器は、例えば、図1に示す製造プロセスにしたがって作製することができる。図1は、酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すものであり、混合工程1、仮焼成工程2、粉砕工程3、副成分の混合工程4、造粒工程5、成形工程6、及び焼成工程7から構成される。酸化物誘電体の粉末は、図1に示す製造プロセスのうち、混合工程1から粉砕工程3までの工程により作製される。
【0038】
酸化物誘電体の製造に際しては、まず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程1)。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、原料粉末としては、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、例えば0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができる。
【0039】
混合工程1の後、混合された原料粉末に対し、適宜乾燥、粉砕、篩いかけを行う。続いて、この原料粉末に対して仮焼成工程2を行う。仮焼成工程2では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1300℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、O、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、仮焼における保持時間は、例えば0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0040】
仮焼後、粉砕工程3において、得られた仮焼体を例えば平均粒径0.1μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。ここまでの工程によって酸化物誘電体が得られる。
【0041】
なお、酸化物誘電体の製造において、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、上述した混合工程1のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合して仮焼し、これを粉砕した後に、他の成分の原料粉末を所定量添加して混合するようにしてもよい。
【0042】
このようにして酸化物誘電体の粉末を得た後、副成分の混合工程4において、酸化物誘電体の粉末に、ホウ素酸化物及び/又はガラス組成物を副成分として少なくとも添加して、誘電体磁器組成物を得る。本発明では、特にこれらの副成分の添加によって低温焼成化が実現される。
【0043】
ここで、副成分として用いられるホウ素酸化物は、主組成成分である酸化物誘電体の粒子の界面においてこの粒子中に拡散し、酸化物誘電体粒子間を結合する機能を果たす。したがって、ホウ素酸化物を加えることで酸化物誘電体の粒子間が低温でも結合され、低温焼成化される。
【0044】
ホウ素酸化物としては、B等を用いることができ、誘電体磁器組成物における含有量は、主組成成分100質量部に対して0.1質量部〜6.0質量部とすることが好ましい。この場合、低温焼成化を達成することがより容易となり、且つ主組成成分とともに焼成しても異相の析出を十分に防止できる。
【0045】
一方、副成分として用いられるガラス組成物も、誘電体磁器組成物の低温焼成化に効果を有する。このガラス組成物の場合、ガラス組成物が酸化物誘電体の粒子間に入り込み、隙間を埋める役割を果たすことで低温焼成化が図られる。
【0046】
ガラス組成物としては、好ましくはSiOを酸化物成分として含むガラス組成物を用いるが、BやZnが構成成分としてさらに含まれることがより好ましく、例えばBやZnOをガラスを構成する酸化物として含むことが好ましい。ガラス組成物がBやZn(すなわちBやZnO)を構成成分として含むことで軟化点が下がり、誘電体磁器組成物を低温焼成化する上で有利となる。
【0047】
ガラス組成物を副成分として用いる場合、誘電体磁器組成物における含有量は、主組成成分100質量部に対して0.1質量部〜35.0質量部とすることが好ましい。ガラス組成物の含有量が主組成成分100質量部に対して0.1質量部以上であると、密度向上効果が十分となり、低温焼成化が容易となる。ガラス組成物は、その含有量が多いほど焼成により得られる誘電体磁器の密度向上に繋がるが、ガラス組成物の含有量が多くなればなるほど主組成成分である酸化物誘電体の比率が低下することになり、誘電特性が相対的に低下するおそれがある。そこで、誘電特性(特に比誘電率εr)を考慮すると、ガラス組成物の含有量は上記の通り主組成成分100質量部に対して35.0質量部以下とすることが好ましい。ガラス組成物の含有量が主組成成分100質量部に対して35.0質量部以下であると、誘電体磁器全体の比誘電率εrが大きくなり、良好な誘電特性が得られる。
【0048】
誘電体磁器組成物においては、前述のホウ素酸化物又はガラス組成物の一方が副成分として含有されていればよいが、ホウ素酸化物とガラス組成物が併用されてもよい。併用されることで、より一層の低温焼成化や高密度化を図ることができる。例えば、副成分としてホウ素酸化物を用いた場合には、酸化物誘電体粒子間を結合させることはできるが、酸化物誘電体の焼結体にある程度の隙間が残ってしまい、誘電体磁器の焼結密度を上げるのに限界がある場合がある。そこにガラス組成物を併用すれば、隙間を埋める形でガラス組成物が入り込み、誘電体磁器の焼結密度をより向上することができる。
【0049】
また、誘電体磁器組成物においては、上記の副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)の他に、Cu、V、Znのうちの少なくとも1種を第2の副成分として含有していてもよい。CuやV、Znを酸化物の形態(CuO、V、ZnO)で添加することで、より一層の密度向上を実現することができる。なお、例えば、ZnOはガラス組成物の成分としても用いられる酸化物であるが、ZnOを第2の副成分として加える場合には、ガラス組成物とは別に単独の酸化物の形態で加えればよい。また、第2の副成分は、単独の添加ではほとんど効果が期待できず、第1の副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)の添加が前提となる。すなわち、第1の副成分の添加に加えて第2の副成分を添加することが、より一層の密度向上の実現に好適である。
【0050】
以上のように、酸化物誘電体を、第1の副成分(ホウ素酸化物やガラス組成物)や必要に応じて第2の副成分と混合することによって、誘電体磁器組成物を得ることができる。その後、誘電体磁器の製造においては、上記のようにして得られた誘電体磁器組成物を、造粒工程5において造粒し、この造粒した顆粒を成形工程6において成形して所望の形状の成形体を得た後、更に焼成工程7において成形体を焼成することで、誘電体磁器を得ることができる。
【0051】
造粒工程5においては、誘電体磁器組成物に、適当なバインダー、例えばポリビニルアルコール(PVA)あるいはアクリル系樹脂を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。成形工程6においては、例えば100MPa〜300MPaの圧力で造粒した顆粒を加圧成形し、所望の形状の成形体を得る。
【0052】
そして、焼成工程7において、得られた成形体を所定の温度及び時間で加熱保持し、成形時に添加したバインダを除去して焼結体を得る。この焼成工程7において、誘電体磁器組成物は、低温焼成可能であることから、焼成温度は1000℃以下とすることができ、特に、例えばAgの融点以下の温度である900℃〜950℃程度の温度条件で焼成を行うことが可能である。焼成工程7における焼成雰囲気は、例えばO、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、加熱保持時間は、例えば0.5〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。これにより、種々の誘電体素子に適用される誘電体磁器を得ることができる。
【0053】
上述した本発明の誘電体磁器組成物は、上記実施形態のような特定の組成を有する酸化物誘電体に、ホウ素酸化物及び/又はガラス組成物を含む組成を有することから、比誘電率εrやQ×f値、共振周波数の温度変化係数τf(−40℃〜85℃)についてバランス良く優れた誘電特性を備える誘電体磁器を実現でき、しかも1000℃以下での低温焼成が可能である。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波、特にマイクロ波用の共振器を構成し、導体としてAgやAg−Pd合金を用いた積層誘電体フィルタ(バンドパスフィルタやローパスフィルタ、ハイパスフィルタ)、さらには、誘電体フィルタとして機能する構成を有する多層回路基板などにおいて、特に高比誘電率εr且つ高Q×f値が要求される場合等の誘電体層の部分に極めて好適である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[酸化物誘電体の調製]
まず、原料粉末として、高純度のCaCO、LiCO、Bi、Nd(OH)、TiO等を用意した。各原料粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmであった。
【0056】
これらの原料粉末を所定量秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中1150℃で4時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。この仮焼体を平均粒径が0.5〜1.5μmの範囲となるようにボールミルを使用してイオン交換水中で湿式粉砕を行った。そして、粉砕後の粉末を乾燥することにより、微粉砕された酸化物誘電体粉末を得た。なお、ここでは、各原料粉末の比率を適宜変えて、下記表1又は2に示す組成を有するA1〜A28及びB1〜B10の各種の酸化物誘電体粉末を得た。
【0057】
なお、平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、MICROTRAC model 9320−X100)を使用して行った。また、作製した酸化物誘電体粉末の組成は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)及び誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)により確認した。
【0058】
得られた酸化物誘電体粉末の一覧を表1及び2に示す。なお、表1及び2において、REO3/2の欄に記載されている元素記号は、REとして配合された元素の種類を示している。また、「(a+d)/5」及び「(a+d)/4」の欄に付されている「<」及び「>」の記号の意味は次の通りである。すなわち、同欄の左側に示しているBiO3/2の量(すなわち、cの値)が、「(a+d)/5」又は「(a+d)/4」よりも小さい場合は「<」で示し、大きい場合は「>」で示してある。
【0059】
さらに、表2において、B1〜B7については、CaOの右側の「置換」の欄が空欄となっているが、これは、Caの一部がBa、Sr、Mg等によって置換されていないことを表す。また、B8〜B10については、REO3/2の右側の欄が空欄となっているが、これは、REの全てがNdであり、REの一部がLa、Ce、Pr、Sm、Dy、Yb、Y等によって置換されていないことを表す。
【表1】


【表2】

【0060】
[ガラス組成物の調製]
各種酸化物原料を配合してガラス組成物G1〜G6を作製した。G1、G2、G4は、Bを含むガラス組成物であり、G3は、Znを含むガラス組成物である。また、G5、G6は、BとZnを共に含むガラス組成物である。得られたガラス組成物を平均粒径が1.0〜5.0μmの範囲となるようにボールミルを使用してエタノール中で湿式粉砕を行い、乾燥して粉砕されたガラス組成物粉末G1〜G6を得た。得られたガラス組成物G1〜G6の軟化点、密度、組成分析値を表3に示す。なお、ガラス組成物の軟化点は、示差熱(DTA)分析に基づき、熱分析装置(リガク社製、Thermo Plus TG8120)を用いて測定した。また、組成分析は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)と誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)を用いて行った。
【表3】

【0061】
[誘電体磁器の製造1(副成分:B)]
(実施例1〜36、比較例1〜2)
上記で得られたA1〜A28及びB1〜B10の酸化物誘電体のそれぞれを主成分とし、Bを副成分として、以下に示すように各種の誘電体磁器の製造を行った。
【0062】
すなわち、主成分である各酸化物誘電体の粉末100質量部に対して、それぞれ副成分であるBを2.0質量部秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。そして、この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料(誘電体磁器)を得た。
【0063】
(特性評価)
得られた円柱状焼結体試料について、誘電特性(比誘電率εr、Q×f値、共振周波数fの温度変化係数τf)を測定した。誘電特性の測定は、Hakki−Coleman法により行った。使用した測定器は、ネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、 8510C)及び恒温槽(デスパッチ社製、900シリーズ)である。なお、測定時の共振周波数は3〜5GHzであり、温度特性の測定は−40〜+85℃の範囲で行い、+20℃の共振周波数f(+20℃)を基準に下記式により算出した。
τf={[f[+85℃]−f[−40℃]]/[f[+20℃]×[85+40]]}×10(ppm/K)
【0064】
また、相対密度については、主成分の誘電体酸化物粉末や副成分のBの密度に基づいて誘電体磁器の理論密度を計算し、これを実際の焼結体の重量と寸法から求めた密度と比較して算出した。得られた結果を表4及び表5に示す。
【表4】


【表5】

【0065】
表4及び表5に示すように、実施例1〜36の誘電体磁器は、比誘電率εr及びQ×f値の両者が良好であり、比較例1〜2の誘電体磁器に比べると特にQ×f値が優れていることが確認された。従って、実施例1〜36の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0066】
[誘電体磁器の製造2(副成分:ガラス組成物)]
(実施例37〜62、比較例3〜4)
上記で得られたA1〜A28の酸化物誘電体のそれぞれを主成分とし、表3に示したガラス組成物のうちBとZnを共に含むG6を副成分として、以下に示すように各種の誘電体磁器の作製を行った。
【0067】
すなわち、主成分である各酸化物誘電体の粉末100質量部に対して、副成分であるガラス組成物G6を3.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分に乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。そして、この成型体を900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。
【0068】
(特性評価)
上記と同様にして誘電特性の測定を行った。また、相対密度については、主成分の誘電体酸化物粉末や副成分のガラス組成物G6の密度に基づいて誘電体磁器の理論密度を計算し、これと実際の焼結体の重量と寸法から求めた密度を比較して算出した。得られた結果を表6に示す。
【表6】

【0069】
表6に示すように、実施例37〜62の誘電体磁器では、比誘電率εr及びQ×f値の両者が良好であり、比較例3〜4に比べると特にQ×f値が高いことが確認された。従って、実施例37〜62の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0070】
[誘電体磁器の製造3(副成分:B+ガラス組成物)]
(実施例63〜98、比較例5〜6)
上記で得られたA1〜A28及びB1〜B10の酸化物誘電体のそれぞれを主成分とし、B及びガラス組成物G6の双方を副成分として、以下に示すように各種の誘電体磁器の作製を行った。
【0071】
すなわち、主成分である各酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるBを2.0質量部、ガラス組成物G6を3.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。そして、この成型体を900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。
【0072】
(特性評価)
上記と同様にして誘電特性の測定を行うとともに、相対密度を算出した。得られた結果を表7及び8に示す。
【表7】


【表8】

【0073】
表7及び表8に示すように、実施例63〜98の誘電体磁器では、比誘電率εr及びQ×f値の両者が良好であり、比較例5〜6に比べると特にQ×f値が高いことが確認された。従って、実施例63〜98の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0074】
[誘電体磁器の製造4(副成分:B+各種のガラス組成物)]
(実施例99〜108、比較例7〜8)
上記で得られたA8の酸化物誘電体を主成分とし、副成分として、Bとともに各種(G1〜G5)のガラス組成物を表9に示す種類及び配合量で組み合わせて、以下に示すように各種の誘電体磁器の作製を行った。
【0075】
すなわち、主成分であるA8の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、表9に示すように副成分であるBと各ガラス組成物を秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。そして、この成型体を950℃あるいは900℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。
【0076】
(特性評価)
上記と同様にして誘電特性の測定を行うとともに、相対密度を算出した。得られた結果を表9に示す。
【表9】

【0077】
表9に示すように、実施例99〜108の誘電体磁器では、比誘電率εr及びQ×f値の両者が良好であったのに対し、比較例7〜8では、副成分を含有していないために焼結が進まず、比誘電率εrが低かった。従って、実施例99〜108の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0078】
[誘電体磁器の製造5(副成分:B量の規定)]
(実施例8及び109〜113、比較例7)
上記で得られたA8の酸化物誘電体を主成分とし、副成分であるB量を変えて各種の誘電体磁器の作製を行った。
【0079】
すなわち、主成分であるA8の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるBを0.1〜6.0質量部秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。
【0080】
(特性評価)
上記と同様にして誘電特性の測定を行うとともに、相対密度を算出した。得られた結果を表10に示す。
【表10】

【0081】
表10に示すように、実施例8及び109〜113の誘電体磁器では、比誘電率εr及びQ×f値の両方が良好であったのに対して、比較例7の誘電体磁器では、副成分を含有していないために焼結が進まず、特に比誘電率εrが低かった。従って、実施例8及び109〜113の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0082】
[誘電体磁器の製造6(副成分:ガラス組成物量の規定)]
(実施例103及び114〜120、比較例7)
上記で得られたA8の酸化物誘電体を主成分とし、副成分であるガラス組成物の量を変えて誘電体磁器の作製を行った。
【0083】
すなわち、主成分であるA8の酸化物誘電体粉末100質量部に対して、副成分であるZnを含むガラス組成物G3を0.1〜35.0質量部秤量し、ボールミルを使用してエタノール中で湿式混合を行った。得られたスラリーを十分乾燥して誘電体磁器組成物を得た。その後、この誘電体磁器組成物にバインダーとしてアクリル系樹脂を加えて造粒し、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。この成型体を950℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状焼結体試料を得た。
【0084】
(特性評価)
上記と同様にして誘電特性の測定を行うとともに、相対密度を算出した。得られた結果を表11に示す。
【表11】

【0085】
表11に示すように、実施例103及び114〜120の誘電体磁器では比誘電率εr及びQ×f値の両方が良好であったのに対して、比較例7の誘電体磁器では、副成分を含有していないために焼結が進まず、比誘電率εrが低くなった。従って、実施例103及び114〜120の誘電体磁器組成物を焼結して得られる誘電体磁器は、誘電体フィルタの誘電体層として有効に機能させることができるものと考えられる。
【0086】
以上より、本発明の誘電体磁器組成物によれば、比誘電率εrが高く、Q×f値が大きな誘電体磁器を実現でき、しかも低温焼成が可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で表される酸化物誘電体を主成分とし、ホウ素酸化物及びガラス組成物から選ばれる少なくとも1種を副成分として含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0≦c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]
【請求項2】
前記式(1)中、a〜eは、下記式:
0.93≦(a+b+c+d)/e<1.0、
で表される関係を満たす値である、ことを特徴とする、請求項1記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記式(1)中、a〜eは、下記式:
(a+b+d)/e<1.0であり、しかも、d=0でない場合はb≧0.9×d、
で表される関係を更に満たす値である、ことを特徴とする、請求項1又は2記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記ホウ素酸化物が前記副成分として含まれており、前記ホウ素酸化物が、前記主成分100質量部に対してB換算で0.1質量部〜6.0質量部の割合で含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記ガラス組成物が前記副成分として含まれており、前記ガラス組成物が前記主成分100質量部に対して0.1質量部〜35.0質量部の割合で含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記式(1)中、REが少なくともNdを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
前記REにおいて、前記Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、ことを特徴とする請求項6記載の誘電体磁器組成物。
【請求項8】
前記式(1)中、Caの一部がBa、Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の誘電体磁器組成物を焼成して得られる誘電体磁器。

【図1】
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【公開番号】特開2009−203109(P2009−203109A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46584(P2008−46584)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】