説明

調理物セット

【課題】従来の調理方法では、減塩調理を行うとき、調味液を減らして調理すると薄味でおいしくないという傾向がある。
【解決手段】食品と、食品に対応した味付けをする調味液と、食品と調味液に関する情報を記録する記録手段とを備え、情報には食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程31と、加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程32と、沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程33と、冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する低温加熱維持工程34の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている調理物セットを提供することによって、美味しくかつ減塩の調理物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を調理するための調理物セットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の食文化の多様化や質の向上にともなって、食品をより美味しく調理する為に様々は方法が提案されている。
【0003】
一般に言われている調理とは、鍋等の容器に、食品等の調理物を収納して、加熱操作を行うことにより、組織の温度を急速に上げ、組織破壊や成分変化を生じさせることである。このように食品を組織破壊により軟らかくするためには、所定の温度以上で所定の時間維持する必要があり、調理操作の過程では、成分変化が生じた調理物内部の破壊された組織から一般に旨味と言われる成分が溶出される。
【0004】
さらに、調味液とともに所定の時間加熱操作を行った調理物を冷却すると、その冷却過程において調味液が食品内部に染み込むことも一般によく知られている。
【0005】
よってこの原理を応用して、加熱操作を行った調理物を、さらに断熱容器内に収納して、冷却過程を経て保温状態で調理を行うようにした保温調理機器もある。
【0006】
上記構成の保温調理機器では、調味液とともに所定の時間、加熱操作により沸騰状態に維持した調理物を、断熱容器内に収納することにより所定の温度まで冷却され、その冷却過程において、調味液を食品内部に染み込ませ、食べるときに再加熱を行うことができるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、近年は生活習慣病の増加(予備軍を含めた)及び社会保障に対する不安より、年々「予防」を含めた健康志向が高まり、関連商品及びサービスマーケットが拡大している。
【0008】
特に、生活習慣病の代表例である糖尿病は、予備軍を含め、成人の6.3人に1人に当たる約1620万人の人が患っており(厚生労働省2002年糖尿病実態調査報道値より)、その予防(健康)に対するニーズは高い。
【0009】
また女性の社会進出の増加により、自分自身を磨く美容に対する関心は高まり、関連の商品も多く発売されている。
【0010】
それに伴い、様々な糖尿病患者用の食品やダイエット食品、その他健康関連の食品が市場に出回っている。
【0011】
さらに、糖尿病の治療や予防に有効な、高血糖を効果的に改善する特殊食品の開発も行われている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−146834号公報
【特許文献2】特開2003−000196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記従来の調理機器では、調味液の食品への染み込み状態をよくすることができたが、特に調味液の染み込みやすい食品を調理する場合には調味液が食材に染み込みすぎて、出来上がった調理物は塩分や糖分が過多となってしまう傾向があった。
【0013】
このように調理物の塩分や糖分が過多となると、特に現代社会においては、その調理物を摂取する人間が健康を害し、糖尿病をはじめとする生活習慣病になりやすいという問題を抱えていた。
【0014】
このような生活習慣病の増加に伴い、レトルトの糖尿病食品があるが、この場合は食品をレトルトにするために加熱殺菌を行わなければならないことから食感が悪く、またカロリー制限があることから、糖分、脂肪分が少なく、あまりおいしいものではない。よって、糖尿病食として、毎日続けるのはかなり困難である。
【0015】
また、宅配の糖尿病等の食事療法用メニューは、日常の調理で、糖尿病等の生活習慣病予防のために、塩分量や糖分量をカットした食事を調理するので、調理するときの味つけに使用する調味料を減らすことにより、減塩、減糖調理が行われている。この場合、調味料が少なくなった分どうしても味が薄くおいしい食品を得ることができない。また、レトルトに比べて食品素材を自分で調理するので全体的に味が良い傾向ではあるが、一食分だけ別に作るのは、かなりの手間がかかる。
【0016】
本発明は、上記従来の課題を考慮して、出来上がった調理物の塩分や糖分が過多とならないように、食品の種類によって最適な調理を人の手間をかけずに行うことで、出来上がった調理物に含有されている塩分や糖分を低減し、かつ食品内部まで調味液を染み込ませることで官能的に美味しい調理物を得ることができる調理物セットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の調理物セットは、食品と、前記食品に対応した味付けをする調味液と、前記食品と前記調味液に関する情報を記録する記録手段とを備え、前記情報には食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する低温加熱維持工程の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれているものである。
【0018】
これによって、記録手段に記録された調理条件に関する情報に基づいて最適な調理を行うことができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、減塩、減糖になっているにも関わらず、官能的においしいと感じられる最適な状態で調味液を食品に染み込ませることができ、さらに、脂質の流出や栄養成分の溶出を促進させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の調理物セットは、調理する食品と調理条件に関する情報に基づいて最適な調理工程時間を制御することができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、減塩、減糖になっているにも関わらず、官能的においしいと感じられる最適な状態で調味液を食品に染み込ませる調理を実現することができる調理物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
請求項1に記載の発明は、食品と、前記食品に対応した味付けをする調味液と、前記食品と前記調味液に関する情報を記録する記録手段とを備え、前記情報には食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する低温加熱維持工程の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれていることにより、記録手段に記録された調理条件に関する情報に基づいて最適な調理を行うことができるので、調味液の食品への過剰な染み込みを防止した上で、減塩、減糖になっているにも関わらず、官能的においしいと感じられる最適な状態で調味液を食品に染み込ませることができ、さらに、脂質の流出や栄養成分の溶出を促進させることができおいしい、減塩、減糖した調理物を得る調理物を提供することができる。
【0021】
請求項2に記載の発明は、前記加熱工程の前に、食品を−5℃〜−20℃まで冷凍する冷凍工程と、前記冷凍工程に続いて食品を−5℃〜−20℃で一定時間維持する凍結維持工程とを有し、前記冷凍工程および前記凍結維持工程の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれていることにより、調理物の脂質の流出による脱脂が可能となり、さらに栄養成分の溶出が促進される調理物を提供することができる。
【0022】
請求項3に記載の発明は、前記凍結維持工程に続いて食品を0℃〜25℃の温度まで解凍する解凍工程を有し、前記解凍工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれていることにより、食品の脂質の流出による脱脂が可能となる調理物を提供することができる。
【0023】
請求項4に記載の発明は、前記加熱工程の前に、0℃〜10℃の温度で所定の時間維持する保存工程を有し、前記保存工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれているものであり、調理前に保存しておいても食品の鮮度が低下することを防ぐ調理物を提供することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明は、前記低温加熱維持工程の後に、80℃〜200℃の温度まで加熱を行う再加熱工程を有し、前記再加熱工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれているものであり、調理後の食品を温かい状態にすることができる調理物を提供することができる。
【0025】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における調理機器の構成および作用について、図1を参照にしながら説明する。尚、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態1における調理機器を示す断面図である。
【0027】
調理機器は、調理する調理物10が収容されている鍋11と、調理室12内の温度を検知する室温センサー13と、調理する調理物10を収容する鍋11を加熱する電気ヒーター14と電気ヒーター14の温度を検知するヒーターセンサー15と食品と調味液がセットになった調理物セット16と調理物セット16の情報が記録されている記録手段であるバーコード17と調理物セットの情報を読みとる読み取り部18と読みとった情報により、調理室12内の室温センサー13やヒーターセンサー15を制御する制御装置19を備えており、図には示していないが、圧縮機、凝縮器、キャピラリーチューブを有し、強制対流式蒸発器20により、調理室12内を冷却できる構造になっている。
【0028】
強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風される。ダンパーサーモ22は調理室12入口に設けて電気的入力で冷気流入量を調整するものであり、モータ23の駆動力によってダンパーサーモ22を開閉するように構成されている。吐出ダクト24は送風機21からの冷気を調理室12内に導くものであり、また吹き出し口25は調理室12内に冷気を吹き込むものであり、吸い込みダクト26は調理室12内の冷却した冷気を強制対流式蒸発器20に戻すために備えられている。
【0029】
また、調理室12はウレタン発砲あるいは、真空断熱材で形成された断熱構造を有している。
【0030】
調理物セット16は、調理する食品と調味液が、ポリエチレン等の容器に収納されたものであり、この調理物セット16のメニューや食品の大きさや重量、さらに各減塩、減糖を実現するための配合表に基づいて作成された調味液の種類や量は、バーコード17に情報として記録されている。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態1における調理機器本体外殻の一部に設けたコントロールパネルを示す図である。コントロールパネル27は、調理を開始する開始ボタン28、調理が終了したことを知らせる終了ランプ29を備えている。
【0032】
調理物セット16のバーコード17に記録された情報を読み取り部18により読みとった後、調理物セット内の食品と調味液を調理室15内の鍋11に収容し、コントロールパネル27の、開始ボタン28を押すことにより、読みとった調理物セットの情報に基づいて、室温センサー13とヒーターセンサー15の温度が制御され、調理物に最適な加熱と冷却を組み合わせた調理が行われ、調理が終了すると終了ランプ29が点灯する。
【0033】
以下、本実施の形態1における調理機器の調理室12にて調理して得られた食品を従来のレトルト食品及び従来の調理機器で調理した食品と比較しながら説明する。
【0034】
(表1)は、従来のレトルト食品及び従来の調理機器で調理した食品に関するデータである。
【0035】
【表1】

【0036】
(表1)において、従来の塩分調整済みの根菜の煮物のレトルト食品の鶏肉及び従来の調理機器で減塩調理した根菜の煮物の鶏肉の官能評価による鶏肉への染み込み状態、軟らかさ、おいしさ、鶏肉に含まれる塩分量を示している。
【0037】
(表1)における官能評価、味の染み込みは、味があまり染み込んでいないは0ポイントとし、やや染み込んでいるときは1ポイント、かなり染み込んでいるときは2ポイントとし、1ポイント違うと染み込み状態の差は明確に認識される。同様に、軟らかさは、やや硬いときは0ポイントとし、やや軟らかいときは1ポイント、かなり軟らかいときは2ポイントとし、1ポイント違うと軟らかさの差は明確に認識される。さらに、おいしさの官能評価は、ややおいしくないときは0ポイントとし、ややおいしいときは1ポイント、かなりおいしいときは2ポイントとし、1ポイント違うとおいしさの差は明確に認識される。
【0038】
総合評価は、調理した食品として官能評価での染み込み状態と軟らかさとおいしさから総合的に判断して評価を行い、官能評価の染み込み及び軟らかさ、さらにおいしさが1ポイント以上のときに○、いずれか一項目でも満足しないときには×とした。
【0039】
鶏肉に含まれる塩分量の値は、従来の調理機器として、鍋等を使い、ガス火や電気ヒーター等の直火で、従来の根菜の煮物をレシピ通りの食品と調味液の量でレシピ通りの通常調理を行ったときに、鶏肉に含まれていた塩分量を100%とし、その値と比較して%で表示した。
【0040】
従来の塩分調整済みレトルトの塩分量は、約70%であり、官能の染み込みは1ポイント良かったものの、軟らかさは0ポイントと硬く、おいしさは、普段食べている根菜の煮物と比較して異なる味がしたことから、0ポイントと総合評価は×であった。
【0041】
レトルト食品の根菜の煮物の鶏肉は、製造過程にある加熱殺菌により、筋線維部分の蛋白質の熱変性が促進され、より多くの水分が流出したため、筋線維自体が硬くぱさぱさした状態になり硬くなり、また、味つけとして、塩分量が少ない分、補う味として旨味等のだしが多く使用されていたため異なる味がしたと考えられる。
【0042】
次に従来の調理機器として、調理鍋等を使い、ガス火や電気ヒーター等の直火で、減塩調理として根菜の煮物をレシピ通りの食品量と調味液はレシピの量から70%に減らして調理したものを従来の調理方法1とした。このとき沸騰維持時間は、1時間であった。このときの根菜の煮物の鶏肉の官能の軟らかさは1ポイントであったものの、染み込みとおいしさは、共に0ポイントであり、総合的には×となった。またこのときの塩分量70%であった。
【0043】
(表1)に示したように、従来の調理方法1では、調味液の量を70%と減らしていることから、官能の染み込みが悪くなり、味が薄くおいしくなかった。
【0044】
次に従来の調理方法2では、従来の調理機器として、保温調理機器を使い、レシピ通りの食品量で調味液が70%の量に減らして調理したものである。このときの鶏肉の官能の染み込みは2ポイント、軟らかさは1ポイントとなったもののおいしさは0ポイントとなし、総合的には×となった。このときの塩分量は、減塩調理しているにもかかわらず、110%と通常調理より濃くなった。
【0045】
(表1)に示したように、従来の調理方法2では、調味液の量を70%と減らしていたものの、冷却過程を経て保温状態で放置しているときに調味液が染み込み、結果、味が濃すぎて塩からく、おいしくなかった。
【0046】
ここで従来の調理方法3では、従来の調理方法2と同様、保温調理機器を使い、染み込みすぎるのを防ぐため、レシピ通りの食品量で調味液を70%から50%に減らして調理したものである。このときの鶏肉の官能の軟らかさは1ポイントであったが、染み込みは0ポイントと悪くなり、おいしさは0ポイントとなり、総合的には×となった。またこのときの塩分量は70%であった。
【0047】
(表1)に示したように、従来の調理方法3では、調味液の量を50%と減らしていることから、今度は官能の染み込みが悪くなり、味が薄くおいしくなかった。
【0048】
次に、従来の調理方法と同様の根菜の煮物を例にとって、本実施の形態1における調理機器の調理室12にて調理する工程を説明する。
【0049】
まず、根菜の煮物で調理される食品と調味液のセットになった調理物セット16の情報が記録されているバーコード部17の情報を、調理機器の読み取り部18で読み取り、調理室12内にセットされた鍋11内に調理物である調理物セット16の食品と調味液をセットし、調理開始ボタン28を押すことにより調理を開始する。このときの調理物セット16は、減塩70%の調理が行なえるように食品の大きさや重さと調味液の量や配合が調整されている。根菜の煮物の場合は、調理室12内の電気ヒーター14が作動し、鍋11の加熱が行われることにより鍋11に収容された調理物10の温度が上昇し、根菜の煮物の温度は、ヒーターセンサー15により、電気ヒーター14の入力を制御することによって、一定の値で一定時間維持される。その後、強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風され、根菜の煮物は冷却され、読み取った調理物セット16の情報に基づいて、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間低温加熱維持される。低温加熱維持時間が、終了すると終了ランプ29が点灯する。
【0050】
図3は、本発明の実施の形態1における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0051】
加熱工程31では、加熱手段である電気ヒーター14が作動し、加熱手段によって、調理物は95℃〜200℃の温度まで加熱される、その後、沸騰維持手段である電気ヒーター1によって一定時間沸騰維持工程32として維持される。次に、冷却手段である強制対流式蒸発器14が作動し冷却された冷気が調理室に強制通風され冷却工程33へ至る。その後一定時間が経過したときにときは低温加熱維持手段である電気ヒーター13および強制対流式蒸発器14を組み合わせて運転させながら、調理物の温度が60℃〜80℃となり低温加熱維持工程34が維持される。
【0052】
なお、調理物10を加熱する手段は、電気ヒーター14に限定されるものでなく、調理室の温度を検知するセンサーは、室温センサー13に限定されるものではない。さらに、冷却する手段は強制対流式蒸発器19に限定されるものでない。
【0053】
また、調理物セットの情報を記録する手段は、バーコード17に限定されるものでない。
【0054】
(表2)は、実施の形態1の調理物に関するデータである。
【0055】
【表2】

【0056】
(表2)により実施の形態1では、調理後の官能の染み込みは1ポイントで、軟らかさは2ポイントと十分軟らかくなっており、おいしさも1ポイントで総合評価も良かった。また、このときの塩分量は、70%であった。
【0057】
(表2)に示したように、実施の形態1では、塩分量が70%と減らしているにもかかわらず、官能の染み込みも良く、かなり軟らかくなっていたことからおいしくなった。
【0058】
これは、冷却工程において、鶏肉内部に調味液が染み込み、さらに低温加熱維持工程においても、調味液が染み込み、ここではさらに鶏肉内部に調味液が均一に分散し、鶏肉の塩分量が70%と減塩されていたものの、食べたときの染み込みが悪くならなかった。また、低温加熱維持工程においては、沸騰状態と比較して低温の蛋白質の変性が抑制される温度での加熱を行うことにより、蛋白質の熱変性による水分流出が抑制された状態での組織破壊が行われ、沸騰維持時間は従来の調理方法1と同等の1時間であるが、十分軟らかい状態が実現できた。
【0059】
また、図2に示すように、保存ボタンを備えたコントロールパネル27においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室12の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル27においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0060】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態1の調理機器は、調理物セットとして根菜の煮物を調理するとき、調理物セットの情報を読み取ることにより、最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、減塩調理しているにもかかわらず、調味液の染み込みも良く、十分軟らかい、おいしい調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【0061】
なお、本実施の形態では外部記録手段としては予め調理条件が記録されているバーコードとしたが、例えばインターネット等を介して、入手した調理情報を使用者がメモリーカード等の記録媒体に記録しても良い。この場合はあらゆる調理条件を使用者によって入手することが可能となるので、調理機器のメニューのバリエーションが大きく広がり、より多彩なメニューを美味しく調理することができる。
【0062】
(実施の形態2)
本実施の形態2における調理機器は、本実施の形態1の調理機器と同様の図1に示すような構成になっている。
【0063】
以下、本実施の形態2における調理機器の調理室12にて調理する工程を従来の調理方法と比較しながら説明する。
【0064】
(表3)は、従来の調理方法で調理した食品に関するデータである。
【0065】
【表3】

【0066】
(表3)において、従来の調理機器で豚の角煮を作ったときの調味液の染み込み状態、官能評価による豚バラ肉の赤身、脂身の軟らかさ、調理後豚バラ肉から調味液に流出した脂質流出量を示している。
【0067】
(表3)における調味液の染み込み状態の評価は、調理した食品の組織全体に調味液が染み込んでいるときには○、組織全体の1/2以上のときには△、1/2未満のときには×とした。また、軟らかさの官能評価は、やや硬いときは0ポイントとし、やや軟らかいときは1ポイント、かなり軟らかいときは2ポイントとし、1ポイント違うと軟らかさの差は明確に認識される。
【0068】
総合評価は、調理物として染み込み状態、軟らかさから総合的に判断して評価を行い、染み込み状態が○、軟らかさが1ポイント以上のときに○、いずれか一項目でも満足しないときには×とした。
【0069】
(表3)により従来の調理方法4では、鍋等に調理物として豚バラ肉と調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態を1時間維持したもので、染み込みは悪く、軟らかさも0ポイントと食べることは可能であるが十分軟らかい状態にはなっておらず、総合評価も×であった。
【0070】
(表3)に示したように、従来の調理方法4では、沸騰状態を1時間維持しているが、その時間が不充分であったため、染み込みが悪く、豚バラ肉の脂身部分、赤身部分ともに、十分軟らかい状態にならなかった。また、このときの脂質流出量は20gであった。
【0071】
次に従来の調理方法5では、従来の調理方法4と同様に鍋等に調理物として豚バラ肉と調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態を3時間維持したもので、染み込み状態は調理方法1と比較して良くなり、調味液に流出した脂質流出量も従来の調理方法1と比較すると40gと2倍になったことから、出来上がった調理物に含有される脂肪量は調理方法4と比較して少なくなり、従来の調理方法4よりカロリーが少ない調理物が実現できた。しかし、豚バラ肉の脂身部分は軟らかくなったものの、赤身部分の軟らかさは従来の調理方法4と同等で良くならなかった。
【0072】
これは、(表3)により沸騰維持時間を3時間と従来の調理方法4より長くすることにより、食品の組織の破壊が促進され、その結果破壊された組織からの染み込みが促進されたが、沸騰状態を3時間維持したため、赤身の筋線維部分の蛋白質の熱変性が促進され、より多くの水分が流出したため、組織は破壊されたものの、赤身の筋線維自体が硬くぱさぱさした状態になり、調理物の総合的な評価としては悪くなった。
【0073】
次に、従来の調理方法2と同様の豚の角煮を例にとって、本実施の形態2における調理機器の調理室12にて調理する工程を説明する。
【0074】
まず、豚の角煮で調理される食品と調味液のセットになった調理物セット16の情報が記録されているバーコード部17の情報を、調理機器の読み取り部18で読み取り、調理室12内にセットされた鍋11内に調理物である調理物セット16の食品と調味液をセットし、調理開始ボタン28を押すことにより調理を開始する。豚の角煮の場合は、まず調理室12内の強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風され、豚バラ肉は冷凍され、読みとられた調理物セット16の情報に基づいて、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間凍結維持される。次に、調理室12内の電気ヒーター14が作動し、鍋11の加熱が行われることにより鍋11に収容された調理物10の温度が上昇し、豚バラ肉の温度は、温度センサー13により、電気ヒーター14の入力を制御することによって、一定の値で一定時間維持される。その後、強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風され、豚バラ肉は冷却され、読みとられた調理物セット16の情報に基づいて、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間低温加熱維持される。低温加熱維持時間が、終了すると終了ランプ29が点灯する。
【0075】
図4は本発明の実施の形態2における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0076】
凍結工程41では冷凍手段である強制対流式蒸発器14によって食品が−5℃〜−20℃の温度まで冷凍された後、この冷凍された食品を−5℃〜−20℃の温度で一定時間維持する凍結維持工程を含む。この凍結維持工程では凍結維持手段である強制対流式蒸発器14によって食品が凍結維持される。その後、加熱工程31に至り、加熱手段である電気ヒーター14が作動し、加熱手段によって、調理物は95℃〜200℃の温度まで加熱される、その後、沸騰維持手段である電気ヒーター14によって一定時間沸騰維持工程32として維持される。次に、冷却手段である強制対流式蒸発器14が作動し冷却された冷気が調理室に強制通風され冷却工程33へ至る。その後一定時間が経過したときにときは低温加熱維持手段である電気ヒーター14および強制対流式蒸発器14を組み合わせて運転させながら、調理物の温度が60℃〜80℃となり低温加熱維持工程34g維持される。
【0077】
なお、調理物10を加熱する手段は、電気ヒーター14に限定されるものでなく、調理室の温度を検知するセンサーは、室温センサー13に限定されるものではない。さらに、冷却する手段は強制対流式蒸発器19に限定されるものでない。また、調理物セットの情報を記録する手段は、バーコード17に限定されるものでない。
【0078】
(表4)は、実施の形態2の調理物に関するデータである。
【0079】
【表4】

【0080】
(表4)により実施の形態2では、調理後の染み込み状態は良く、豚バラ肉の赤身部分、脂身部分ともに十分軟らかくなっており、総合評価も良かった。また、脂質の流出量も、従来の調理方法1、2と比較して多くなり、カロリーの少ない調理物を実現できた。
【0081】
実施の形態2の豚バラ肉の赤身部分が、十分軟らかくなったのは、赤身部分には、約60%の水分が含まれており、図5の顕微鏡写真に示すように、冷凍し凍結させることにより氷結晶が生成され、それにより組織が破壊され、さらに、低温加熱維持工程においては、沸騰状態と比較して低温の蛋白質の変性が抑制される温度での加熱を行うことにより、赤身の蛋白質の熱変性による水分流出が抑制された状態での組織破壊が行われ、沸騰維持時間は従来の調理方法4と同等の1時間であるが、十分軟らかい状態が実現できた。
【0082】
また、実施の形態2の豚バラ肉の脂身部分が、十分軟らかくなったのは、図5に示すように、豚バラ肉の赤身部分は、約60%の水分を含んでおり氷結晶が生成されるが、脂身部分は約16%の水分しか含んでおらず、そのまま冷凍し凍結させると、図6の顕微鏡写真に示すように、氷結晶はほとんど生成されず、氷結晶による組織破壊は、ほとんど生じない。
【0083】
しかし、実施の形態2の豚のバラ肉の脂身部分は、調味液とともに冷凍し、凍結させているため、凍結する過程で、調味液が脂身に浸透し、その分含水量が増加し、図7の顕微鏡写真に示すように、氷結晶の生成が促進されることにより、組織が破壊され、軟らかくなった。さらに、加熱したときに破壊された組織から脂質が多く溶出された。また調味液にはアルコールが含まれていることから、図7に示すように、そのアルコールにより脂質が組織より抽出され、加熱したときにさらに脂質が多く流出された。
【0084】
また、図2に示すように、保存ボタンを備えたコントロールパネル27においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室12の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル27においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0085】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態2の調理機器は、調理物セットとして豚の角煮を調理するとき、調理物セットの情報を読み取ることにより、最適な冷凍凍結を行い、その後さらに、最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、調味液の染み込みも良く、十分軟らかい総合評価が良い調理物を得ることができ、さらに調理物の脱脂を行うことにより、カロリーカットされた調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【0086】
(実施の形態3)
本実施の形態3における調理機器は、本実施の形態1の調理機器と同様の図1に示すような構成になっている。
【0087】
以下、本実施の形態3における調理機器の調理室12にて調理する工程を従来の調理方法と比較しながら説明する。
【0088】
(表5)は、従来の調理方法で調理した食品に関するデータである。
【0089】
【表5】

【0090】
(表5)において、従来の調理方法6で、イワシの煮つけを作ったとき、調味液の染み込み状態、官能評価による軟らかさ、調味液とともに調理したイワシの身に含まれる調理後のカルシウム量を示している。
【0091】
(表5)における調味液の染み込み状態の評価、軟らかさの官能評価、総合評価の評価基準は、(表3)と同様の基準となっている。
【0092】
(表5)により従来の調理方法6では、鍋等に調理物としてイワシと調味液を収容し、加熱操作により沸騰状態を1時間維持したもので、染み込みは悪く、軟らかさも1ポイントと食べることは可能であるが十分軟らかい状態にはなっておらず、総合評価も×であった。(表5)に示したように、従来の調理方法7では、沸騰状態を1時間維持しているが、その時間が不充分であったため、染み込みが悪く、十分軟らかい状態にならなかった。また、このときのイワシの身に含まれるカルシウム量は108mgであった。
【0093】
次に、従来の調理方法6と同様のイワシの煮つけを例にとって、本実施の形態3における調理機器の調理室12にて調理する工程を説明する。
【0094】
まず、イワシの煮つけで調理される食品と調味液のセットになった調理物セット16の情報が記録されているバーコード部17の情報を、調理機器の読み取り部18で読み取り、調理室12内にセットされた鍋11内に調理物である調理物セット16の食品と調味液をセットし、調理開始ボタン28を押すことにより調理を開始する。イワシの煮つけの場合は、まず調理室12内の強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風され、イワシは冷凍され、読みとった調理物セット16の情報に基づいて、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間凍結維持される。次に、調理室12内の電気ヒーター14が作動し、鍋11の加熱が行われることにより鍋11に収容された調理物10の温度が上昇し、イワシの温度は、室温センサー13により、電気ヒーター14の入力を制御することによって、一定の値で一定時間維持される。その後、強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機16により調理室12内に強制通風され、イワシは冷却され、読みとった調理物セット16の情報に基づいて、温度センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間低温加熱維持される。低温加熱維持時間が、終了すると終了ランプ29が点灯する。
【0095】
図4は本発明の実施の形態3における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0096】
調理物を加熱する加熱手段は、電気ヒーター14に限定されるものでなく、食品の温度を検知するセンサーは、室温センサー13に限定されるものではない。さらに、冷却手段は強制対流式蒸発器20に限定されるものでない。また、調理物セット16の情報を記録する手段は、バーコード17に限定されるものでない。
【0097】
(表6)は、実施の形態3の調理物に関するデータである。
【0098】
【表6】

【0099】
(表6)により実施の形態2では、調理後の染み込み状態は良く、十分軟らかくなっており、総合評価も良かった。また、カルシウムの含有量も従来の調理方法6と比較して多くなり、栄養成分の多い調理物を実現できた。
【0100】
実施の形態3のイワシの身部分が、十分軟らかくなったのは、身部分には、約70%の水分が含まれており、冷凍し凍結させることにより氷結晶が生成され、それにより組織が破壊され、さらに、低温加熱維持工程においては、沸騰状態と比較して低温の蛋白質の変性が抑制される温度での加熱を行うことにより、イワシの身の蛋白質の熱変性による水分流出が抑制された状態での組織破壊が行われ、沸騰維持時間は従来の調理方法6と同等の1時間であるが、十分軟らかい状態が実現できた。
【0101】
実施の形態3のイワシの身に含有されるカルシウム量が多くなったのは、調理液とともに冷凍する冷凍工程において、調味液中に含まれる酢の効果によりイワシの骨部分に損傷が生じ、その損傷部分から調味液が骨部分に浸透し、調味液に含まれる水分により骨部分に氷結晶が生成され、さらに損傷が促進され、加熱したときに損傷した骨部分からカルシウムが流出されやすくなったためである。
【0102】
また、図2に示すように、保存ボタンを備えたコントロールパネル27においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室12の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。また、再加熱ボタンを備えたコントロールパネル27においては、調理が終了した調理物10を、食べる直前に、再加熱ボタンを押すことにより、食べごろ温度にまで加熱維持することができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間、再加熱時間を設定することができることにより、保存、調理、再加熱を自動で行うことができる。
【0103】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態3の調理機器は、調理物セットとしてイワシを調理するとき、調理物セット16の情報を読み取ることにより、最適な冷凍凍結を行い、その後読みとった調理物セット16の情報に基づいて、最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現することにより、調味液の染み込みも良く、十分軟らかいおいしい調理物を得ることができ、さらに調理後のイワシの身に含まれるカルシウム量は多くなり、栄養成分の多い調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【0104】
(実施の形態4)
本実施の形態4における調理機器は、本実施の形態1の調理機器と同様の図1に示すような構成になっている。
【0105】
以下、本実施の形態4における調理機器の調理室12にて調理する工程を従来の調理方法と比較しながら説明する。
【0106】
(表7)は、従来の調理方法で調理した食品に関するデータである。
【0107】
【表7】

【0108】
(表7)において、従来の調理機器で、豚カツを作ったときの官能評価による豚肉の赤身、脂身の軟らかさを示している。
【0109】
(表7)における軟らかさの官能評価の評価基準は、(表3)と同様の基準となっている。
【0110】
(表7)により従来の調理方法7では、調理物として豚バラ肉に小麦粉と卵とパン粉の衣をつけ、サラダ油で揚げたもので、軟らかさは1ポイントと食べることは可能であるが十分軟らかい状態にはなっていなかった。
【0111】
次に従来の調理方法8では、従来の調理方法7と同様に豚肉に小麦粉と卵とパン粉の衣をつけ、サラダ油で揚げたもので、このとき調理に使用する豚肉は、脂身の部分を包丁で切り取ったものであり、従来の調理方法7より脂質が少ない分、カロリーは少なくなっている。しかし、軟らかさは1ポイントと食べることは可能であるが十分軟らかい状態にはなっていなかった。
【0112】
次に、従来の調理方法と同様の豚カツを例にとって、本実施の形態4における調理機器の調理室12にて調理する工程を説明する。
【0113】
まず、豚カツで調理される食品と調味液のセットになった調理物セット16の情報が記録されているバーコード部17の情報を、調理機器の読み取り部18で読み取り、調理室12内にセットされた鍋11内に調理物である調理物セット16の食品と調味液をセットし、調理開始ボタン28を押すことにより調理を開始する。豚カツの場合は、まず調理室12内の強制対流式蒸発器20が作動し、強制対流式蒸発器20で冷却された冷気は送風機21により調理室12内に強制通風され、豚肉は冷凍され、読みとられた調理物セット16の情報に基づいて、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、一定の温度で一定時間凍結維持される。次に、調理室12内の電気ヒーター14が作動し、鍋11の加熱が行われることにより鍋11に収容された調理物10の温度が上昇し、室温センサー13によりダンパーサーモ22を制御することによって、解凍のため一定時間加熱維持され、終了すると終了ランプ29が点灯する。
【0114】
図8は本発明の実施の形態4における調理工程の温度変化を示す調理工程図である。
【0115】
調理物10は、凍結工程41において凍結処理され、引き続いて解凍工程81において加熱解凍される。
【0116】
調理物10を加熱する加熱手段は、電気ヒーター14に限定されるものでなく、調理室12の温度を検知するセンサーは、室温センサー13に限定されるものではない。さらに、冷却手段は強制対流式蒸発器20に限定されるものでない。また、調理物セット16の情報を記録する手段は、バーコード17に限定されるものでない。
【0117】
(表8)は、実施の形態4の調理物に関するデータである。
【0118】
【表8】

【0119】
(表8)により実施の形態4では、調理終了した豚肉を調理機器から取り出して、衣を付けて、油で揚げた。このとき、豚肉の赤身部分、脂身部分ともに、十分軟らかくなっていた。また、従来の調理方法7と比較して、カロリーの少ない調理物を実現できた。
【0120】
実施の形態4の豚肉の赤身部分が、十分軟らかくなったのは、赤身部分には、約60%の水分が含まれており、図5の顕微鏡写真に示すように、冷凍し凍結させることにより氷結晶が生成され、それにより組織が破壊され、衣を付けて油で揚げたとき軟らかくなった。
【0121】
また、実施の形態4の豚肉の脂身部分が、十分軟らかくなったのは、図5に示すように、豚バラ肉の赤身部分は、約60%の水分を含んでおり氷結晶が生成されるが、脂身部分は約16%の水分しか含んでおらず、そのまま冷凍し凍結させると、図6の顕微鏡写真に示すように、氷結晶はほとんど生成されず、氷結晶による組織破壊は、ほとんど生じない。
【0122】
しかし、実施の形態4の豚肉の脂身部分は、調味液とともに冷凍し、凍結させているため、凍結する過程で、調味液が脂身に浸透し、その分含水量が増加し、図7の顕微鏡写真に示すように、氷結晶の生成が促進されることにより、組織が破壊され、軟らかくなった。また調味液にはアルコールが含まれていることから、図7に示すように、そのアルコールにより脂質が組織より抽出され、調理機器において加熱することにより解凍され、調味液中に脂質が流出し、結果豚肉に含まれる脂質量は減少し、調理後、調味液から取り出し、衣を付けて、油で揚げたときに、従来の調理方法6と比較してカロリーが少ない豚カツを実現することができた。また、従来の調理方法と比較して軟らかい豚カツを実現することができた。
【0123】
また、図2に示すように、保存ボタンを備えたコントロールパネル27においては、保存ボタンを調理前に押すことにより、調理室12の鍋11内に収容された調理物10は冷却保存され、予め調理物10をセットしておくことができる。さらに、タイマー等の所定の時間を自由に制御できる制御基板を備えた調理機器においては、保存時間、調理開始時間を設定することができることにより、保存、調理を自動で行うことができる。
【0124】
以上述べたところから明らかなように、実施の形態4の調理機器は、調理物セット16として豚カツを調理するとき、調理物セット16の情報を読み取ることにより、最適な冷凍凍結を行い、その後さらに、最適な加熱による解凍を実現することにより、十分軟らかいおいしい調理物を得ることができ、さらに調理物の脱脂を行うことにより、カロリーカットされた調理物を得ることができることを特徴とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0125】
以上のように、本発明にかかる調理機器は、食品を調理するとき、適な冷凍凍結や、最適な加熱と冷却を組み合わせた調理を実現し、食品内部への染み込みを十分に図り、また食品の成分溶出も促進することができるので、食品以外の有機物や無機物の加熱や冷却の制御を実現する用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の実施の形態1および2および3および4における調理機器を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態1および2および3および4におけるコントロールパネルを示す図
【図3】本発明の実施の形態1における調理工程図
【図4】本発明の実施の形態2および3における調理工程図
【図5】本発明の実施の形態2および4における豚バラ肉の赤身部分の凍結したときの顕微鏡写真
【図6】本発明の実施の形態2および4における豚バラ肉の脂身部分の凍結したときの顕微鏡写真
【図7】本発明の実施の形態2および4における豚バラ肉の脂身部分の顕微鏡写真
【図8】本発明の実施の形態4における調理工程図
【符号の説明】
【0127】
10 調理物
11 鍋
12 調理室
13 室温センサー
14 電気ヒーター(加熱手段)
15 ヒーターセンサー
16 調理物セット
17 バーコード
18 読み取り部
19 制御装置
20 強制対流式蒸発器
21 送風機
22 ダンパーサーモ
23 モータ
24 吐出ダクト
25 吹き出し口
26 吸い込みダクト
27 コントロールパネル
28 開始ボタン
29 終了ランプ
81 解凍工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品と、前記食品に対応した味付けをする調味液と、前記食品と前記調味液に関する情報を記録する記録手段とを備え、前記情報には食品を95℃〜200℃の温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程に続いて食品を95℃〜200℃の温度で一定時間維持する沸騰維持工程と、前記沸騰維持工程に続いて食品を60℃〜80℃の温度まで冷却する冷却工程と、前記冷却工程に続いて60℃〜80℃の温度で一定時間維持する低温加熱維持工程の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている調理物セット。
【請求項2】
前記加熱工程の前に、食品を−5℃〜−20℃まで冷凍する冷凍工程と、前記冷凍工程に続いて食品を−5℃〜−20℃で一定時間維持する凍結維持工程とを有し、前記冷凍工程および前記凍結維持工程の各工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている請求項1に記載の調理物セット。
【請求項3】
前記凍結維持工程に続いて食品を0℃〜25℃の温度まで解凍する解凍工程を有し、前記解凍工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている請求項2に記載の調理物セット。
【請求項4】
前記加熱工程の前に、0℃〜10℃の温度で所定の時間維持する保存工程を有し、前記保存工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている請求項1から3のいずれか一項に記載の調理物セット。
【請求項5】
前記低温加熱維持工程の後に、80℃〜200℃の温度まで加熱を行う再加熱工程を有し、前記再加熱工程の工程時間を食品の種類によって制御する情報が含まれている請求項1から4のいずれか一項に記載の調理物セット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−333814(P2006−333814A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163916(P2005−163916)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】