説明

調理皿、及びその製造方法

【課題】 Na−Caガラス表面に直接緻密で均質な結晶性チタニア薄膜を付与することにより、汚れ負荷量の大きく、絶えず多量な水蒸気や水のかかる環境下、例えば、キッチン・洗い場等において好適に使用される調理皿を製造することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、プラズマ処理する工程を備えた調理皿製造方法、あるいはNa−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、プラズマ処理する工程、加熱を行う工程を備えた調理皿製造方法を用い、Na−Caガラス表面に直接緻密で均質な結晶性チタニア薄膜を付与した調理皿を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ負荷量の大きく、絶えず多量な水蒸気や水のかかる環境下で使用される皿、及びその製造方法にかかわり、特にキッチン・洗い場等において好適に使用できる皿に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の調理皿はガラス表面が直に、浴室内の汚れ負荷の高い環境に晒されている。ガラスはその透明性と堅牢性から、皿、窓材として広く利用されている材料であり、中でも純度の高いシリカガラスは耐酸性、耐水性に優れた材料だが、高いガラス転移点に由来し、加工コストが高い。上記の加工コストが高いという問題点を克服し、高い生産性を維持するため、一般的なガラス材料はアルカリ金属元素等不純物の添加による特性調整が行なわれている。現在、建材、一般用途向けに生産される板ガラスはそのほとんどが、ガラス転移点低減のためのNa2O、耐薬品性向上のためのCaOが10〜20Wt%添加された、いわゆるNa−Caガラスである。Na−Caガラスは実用ガラスの約90%を占める。
【0003】
Na−Caガラスは工業的に優れたガラス材料ではあるが、製造、加工の容易性を向上するための添加物が、結果として耐水性、耐薬品性を低下させ、汚れ負荷量の大きく、絶えず多量な水蒸気や水のかかる環境下、例えば、キッチン・洗い場等において使用される場合、長期間の使用が、Na−Caガラス表面の曇り、白焼けを生じる問題が存在している。従って、汚れ負荷量の大きく、絶えず多量な水蒸気や水のかかる環境下で使用されるNa−Caガラスについて、良好な皿面を保持する為には、表面への保護層付与が行なわれることが好ましい。チタニアは、良好な化学安定性と、紫外光照射に伴う親水性、表面汚染物質の分解特性など、好適な機能性を有することから、堅牢かつ高機能な保護膜材料として使用されている。特にアナターゼ型の結晶型を有するチタニアは、光触媒活性も高く、また無定形チタニアに比較して高い化学安定性と物理的耐久性を有している。特に耐アルカリ性については、Na−Caガラスと比較して非常に良好であり、表面保護層として好適な材料である。
【0004】
このような耐久性・耐食性・耐摺動性・防汚性・意匠性などの機能性を有した酸化物薄膜を基材表面にコーティングする技術は、ゾルゲル法などの湿式法と、スパッタリングなどのドライプロセスに大別できる。
【0005】
湿式法による製膜では緻密化、結晶化を何らかの手段で行なわない場合、化学的安定性、物理的耐久性において強固な膜を得ることは出来ない。そこで一般には、湿式製膜による結晶性チタニア製膜では、無定形チタニア膜に対し、加熱処理を行なうことで結晶化を行なわせしめる工程が必須とされる。ゾルゲル法をはじめとする湿式製膜による結晶性チタニア薄膜の形成においては、300℃〜500℃の高温な焼成処理が一般的に行なわれている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、Na−Caガラス基材上では、このような温度においては、無定形チタニア膜の結晶化が生じる前に、Na−Caガラスに含まれるナトリウムを代表とする結晶化を妨害する元素の拡散が生じる問題が存在する。
【0006】
また高温での加熱処理はチタニア膜の結晶化と同時に、結晶粒の粗大化に伴う空隙の発生や、基材と薄膜の熱膨張率差に基づく界面応力の残留を生じさせるため、膜の物理的、化学的な耐性、及び基材保護性能が低下する問題が存在している。
【0007】
結晶化阻害を行なう元素拡散を低減せしめる目的では、チタニア膜とNa−Caガラスの間に物理的なバリア層、例えばシリカ層などの付与が一般に行なわれている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら工程の複雑化に伴うコストの上昇、膜構造への制約が発生するという問題点があった。
【0008】
一方でこのような加熱に伴う問題点を回避する手段として、加熱処理の温度を低減する試みも行なわれている。例えば、過酸化チタン溶液のコーティングによる非晶質薄膜形成手段がとられることもあり、この方法によれば200℃程度の低い温度での焼成によって、アナターゼ型の結晶性酸化チタン薄膜をNa−Caガラス上に直接形成可能であるとされている(例えば、特許文献3参照。)。またこの温度であれば結晶粒の過度の粗大化が起こることも無い。しかしながらこれらの手法は、過酸化チタン溶液の製膜製の悪さから、緻密で均質な非晶質酸化チタン薄膜を得ることが出来ないという問題点があった。さらにそのために、加熱後に得られるアナターゼ型の酸化チタン薄膜も、十分に基材を被覆した緻密で均質なものとはならない問題点があった。
【0009】
またNa−Caガラスからの結晶化阻害要素の拡散による結晶化阻害を回避するために、例えば赤外レーザー照射等の手段を用いた、表面の急速加熱も行われている(例えば、非特許文献1参照。)。この方法によれば、チタニア膜の表面を急激に加熱することにより、急峻な温度勾配が生じるため、基材から妨害要素の拡散が行なわれる前に、チタニアの結晶化が、表面からチタニアとNa−Caガラス界面に向かって生じるとされている。しかしながらこの方法においては、基材由来の汚染要素拡散と、表面結晶化の競合の結果、基材との界面付近は無定形のチタニアが残り、表面付近は粗大化した結晶粒が生じるため、膜厚方向に結晶性の不均一を有し、膜表面の平滑性も大幅に低下してしまう問題点が生じている。
【0010】
またそもそも加熱処理を行なうことなく結晶性のチタニアを含む膜を形成する手段として、結晶質のチタニア粒子をバインダに分散させて塗布する方法も用いられる。しかしながら、この方法では無定形のバインダが膜全体の強度を決定するため、物理的に弱い。また同様に、無定形のバインダ部分が化学耐性に乏しいために、膜全体としては、化学耐性にかける問題点も存在する。
【0011】
一方、一般的観点から見てドライプロセスによる膜は湿式法によるものに比べ耐久性が優れており、フロートガラスへの反射防止膜のコーティングなどにはドライプロセスが利用されている。また、ドライプロセスは、バリア層の存在無しで比較的緻密かつ結晶性の薄膜を得ることが可能である。しかしながらドライプロセスによる結晶性チタニアの製膜は、柱状結晶構造、あるいは針状結晶の成長が支配的であるために、表面の平滑性において劣り、かつ結晶粒界が膜を貫通する形で形成される。このような結晶粒界の存在は、基材部の保護能を損なう。またこのような結晶成長の特性はドライプロセスに本質的に付随するものであるため、回避は困難である。更に、ドライプロセスは湿式法に比較して工程コストが高いという問題点が存在している。
【特許文献1】特公平3−60353号公報(第6−9項)
【特許文献2】特開平9−071437号公報(第15項)
【特許文献3】特開2000−135442号公報(第9項)
【非特許文献1】Adam Heller著,Chemistry and Applications of Photocatalytic Oxidation of Thin Organic Films,ACS Publications,Accounts of Chemical Research,28号,503項
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、緻密かつ化学的安定性、物理的耐久性に優れたアナターゼ型チタニアによる、緻密で均質な表面保護薄膜を、調理皿を構成するNa−Caガラス上に得るために、結晶成長由来の欠点の無い無定形薄膜を、過度な結晶粒成長、及び基材からの妨害要素拡散を伴う高温での加熱処理を行なうことなく緻密化、結晶化することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、1時間以上100時間以内プラズマ処理することにより無定形チタニア膜をアナターゼ型の結晶性チタニア膜に転じせしめる工程を備えた調理皿製造方法を用いることにより、結晶成長由来の欠点の無い無定形薄膜を、過度な結晶粒成長、及び基材からの妨害要素拡散を伴う高温での加熱処理を行なうことなく緻密化、結晶化せしめ、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0014】
また、請求項2記載の発明によれば、Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、10分以上6時間以内プラズマ処理する工程、加熱を2時間以上行うことにより無定形チタニア膜をアナターゼ型の結晶性チタニア膜に転じせしめる工程を備えた調理皿製造方法を用いることにより、結晶成長由来の欠点の無い無定形薄膜を、過度な結晶粒成長、及び基材からの妨害要素拡散を伴う高温での加熱処理を行なうことなく緻密化、結晶化せしめ、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0015】
また請求項3記載の発明によれば、Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程を、Tiアルコキシドを塗布する工程、及びTiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程とした請求項1、2に記載の製造方法を用いることにより、より緻密で均質な無定形チタニア薄膜を元に、過度な結晶粒成長、及び基材からの妨害要素拡散を伴う高温での加熱処理を行なうことなく緻密化、結晶化せしめ、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0016】
また請求項4記載の発明によれば、Tiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程を、少なくとも水蒸気を含んだ酸素ガス雰囲気中で、波長300nm以内の紫外光を照射する工程とした請求項1〜3のいずれかに記載された製造方法を用いることにより、より緻密で均質な無定形チタニア薄膜を元に、過度な結晶粒成長、及び基材からの妨害要素拡散を伴う高温での加熱処理を行なうことなく緻密化、結晶化せしめ、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0017】
また請求項5記載の発明によれば、アナターゼ型の結晶性チタニア膜の膜厚を130nm以内とすることにより、より好適に、割れ、剥がれの生じ難い強固なアナターゼ型結晶性チタニア膜を形成し、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0018】
また請求項6記載の発明によれば、プラズマ処理を少なくとも酸素ガスを含む雰囲気中において発生された高周波低温プラズマで行うことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の製造方法を用いることにより、調理皿を構成するNa−Caガラス上に直接、緻密で均質なアナターゼ型の結晶性チタニアを製膜することを可能とした。
【0019】
また請求項7記載の発明によれば、請求項1〜6の何れかに記載の製造方法を用いることにより、汚れ負荷量の大きく、絶えず多量な水蒸気や水のかかる環境下、特にキッチン・洗い場等において好適に使用できる皿を提供することを可能とした。

【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、結晶成長由来の欠点の無い無定形薄膜を、高温への加熱処理を行なうことなく、緻密化、結晶化せしめることにより、過度な結晶粒成長、空隙の形成、及び基材からの妨害要素拡散、基材との熱膨張率差に基づく界面応力の残留を伴うことなく、緻密かつ化学的安定性、物理的耐久性に優れたアナターゼ型チタニアによる、平滑、緻密で均質な表面保護薄膜を、調理皿を構成するNa−Caガラス上に得ることが可能となり、好適に環境負荷に耐えうる調理皿、及びその製造方法を提供可能となるという効果がある。
【0021】
本発明によれば、一般的な建材ガラスであるNa−Caガラス表面に、均質に結晶化したチタニア薄膜を形成する際に必要とされるバリア層付与工程が不要となるため、大幅なコスト削減が生じるという効果がある。
【0022】
本発明によれば、一般的な建材ガラスであるNa−Caガラス表面に、湿式製膜法によって、均質に結晶化したチタニア薄膜を形成することが可能となるために、乾式製膜法を用いた場合に比較して大幅なコスト削減が生じるという効果がある。

【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明で適用可能な基材となるNa−Caガラスは、プラズマ処理によるダメージに耐えうる範囲であれば、大きさ、厚みなどは特に限定されない。また、プラズマ処理に耐えうる範囲であれば、表面に他の薄膜が付与されていてもかまわない。
【0024】
Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程に関しても、本発明では特にその種類を問われない。代表的なものとしてはスパッタリング製膜、CVD法、真空蒸着法、等の乾式プロセス、及びコーティング剤のスピンコート、バーコート、ディップコート、スプレーコート等湿式プロセスが用いられうる。パターニングを行う場合には印刷法による前駆体塗布等も用いられうる。
【0025】
特に好適にNa−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する方法としては、Tiアルコキシドを塗布する工程、及びTiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程からなる製膜工程が挙げられる。好適にTiアルコキシドを塗布する手段としては例えば、チタニア含有量5wt%、粘度10〜20cP程度のTiアルコキシド溶液を塗布する場合、スピンコートで回転数1200〜6000rpm、10秒以上の塗布時間、の条件で行なうことが挙げられる。
【0026】
Na−Caガラス上に製膜した無定形チタニア膜は、プラズマプロセスによって、アナターゼ型の結晶性チタニア膜、あるいは結晶化した状態、あるいは加熱を2時間以上行うことによりアナターゼ型の結晶性チタニア膜となることが可能な状態となるが、プラズマ処理を行う前後に、よりプラズマ処理の効果を高めるために、あるいはチタニア膜の機能性向上等の為に何らかの補助的処理を行っても構わない。例えばプラズマ処理前に真空紫外光や紫外光の照射や、仮焼成工程などは、その後の処理を補助する意味合いから行うことが望ましい。
【0027】
本発明における好適な無定形チタニア薄膜形成のための、Tiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程としては、低圧水銀ランプ、あるいは300nm以下の波長の紫外線を照射可能なランプによる紫外線照射を行なう、または水蒸気を含んだ酸素ガス流通下において低圧水銀ランプ、あるいは300nm以下の波長の紫外線を照射可能なランプによる紫外線照射を行なうことが望ましい。また好適な照射時間は照射される紫外線の光量によって変化するが、例えば湿潤酸素を300CCM程度の流量で流した雰囲気中で、1mW/cm2程度の光量の紫外光を低圧水銀ランプで照射した場合30分以上の紫外線照射時間が望ましい。
【0028】
無定形チタニア薄膜の製膜工程では、一度に製膜する膜厚は特に問われない。しかしながら特に湿式法による膜形成においては過度な物質量を一度に製膜し結晶化、あるいは緻密化せしめると、膜体積が収縮する際に、膜中、界面に過度の応力が発生し膜にクラックが生じたり、界面での剥離が生じる。そのため、無定形チタニア膜を形成するための塗布手段の中でも、特に湿式製膜法においては、一度に塗布する前駆体は適切な範囲の膜厚であることが望ましい。
【0029】
例えば特にTiアルコキシドの塗布においては、一度に塗布する無定形チタニア薄膜の厚みは、チタニア含有量5wt%、粘度10〜20cP程度のTiアルコキシド溶液を塗布する場合、120℃程度の温度で2分間程度乾燥させた後の厚みは最大で700nm程度であることが好ましい。また最終的に緻密化結晶化した状態では、一度の工程で製膜されるアナターゼ型のチタニアは130nm以内であることが好ましい。さらに厚い膜を形成する場合には本発明による方法を繰り返し行なうことが可能である。
【0030】
本方法で用いるプラズマ処理は、主には酸素ガスを含む雰囲気中で行われる。望ましくは純酸素雰囲気中で行われるが、例えば窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、空気雰囲気中等で行われても構わない。
【0031】
本方法で用いるプラズマ処理で用いられる酸素ガスを含む雰囲気は、処理効率調整の為に、窒素ガスや水素ガス、空気、水蒸気を混入してもかまわない。特に標準状態での体積比率で10%以内の窒素ガス、水素ガス、空気、水蒸気の混入はプラズマ処理の効率を増加させる効果があるため好ましい。
【0032】
本方法で用いるプラズマは主に高周波印加によるガス放電で生じる低温プラズマであることが好ましい。プラズマ処理は例えば前記プラズマ処理時間が0時間を超えることが望ましい。またプラズマの発生条件としては印加周波数1kHz〜300MHz、圧力5Pa以上、投入電力50W以上であることが好ましい。
【0033】
本発明において使用される、プラズマ処理後に行う加熱処理においては、特に雰囲気は特定されるものではない、減圧環境下、雰囲気制御された環境、あるいは無制御な大気中で加熱を行っても構わない。
【0034】
本発明において使用される、プラズマ処理後に行う加熱処理においては、基材となるNa−Caガラス基材の耐熱性と、プラズマ処理後の無定形チタニア膜の結晶化速度のバランスから、加熱温度は200℃以上500℃未満であることが望ましい。
【実施例1】
【0035】
本方法をNa−Caガラス基材上に製膜した酸化チタン薄膜へ適用した実施例を述べる。基材として、長さ50mm、幅50mm、厚さ0.5mmのNa−Caガラス基板を、湿式洗浄した後、大気中で乾燥させたものを用意した。酸化チタン塗布剤としてチタンアルコキシドをベースとした酸化チタンコート剤(日本曹達製NDH510−C)を使用した。上記酸化チタン塗布剤を、上記基材にスピンコート法(3000rpm 20秒)により塗布し、大気中で乾燥(120℃ 120秒)の後、60℃の純水中にバブリングさせた純酸素流通下で、低圧水銀灯による紫外線照射環境下に1時間保持し、サンプルとした。サンプルをプラズマ装置(March Instruments製 PM−600)のチャンバー中央に設置しプラズマを発生させることで、プラズマ照射を行った。プラズマの発生は、107Paの純酸素雰囲気に周波数13.56MHz 500WのRF電力を加えることで行った。サンプルへのプラズマ照射は24時間行った。プラズマへの浸漬後、サンプルはXRDパターンを測定することでサンプル表面に付与した酸化チタン薄膜の結晶性を評価した。XRDパターン取得に際してはX線回折測定装置(株式会社ブルカー・エイエックスエス製 MXP−18)を用い薄膜法(θ/2θ法、入射角0.5度、X線源管球電圧40kV(200mA))で測定を行った。図1はプラズマ処理後のサンプル表面のXRDパターンについて、アナターゼ形の結晶形に特有のピークが生じる回折角(2θ)25度付近を示したものである。図1中においてXRDパターンにはピークが生じており、アナターゼ型の結晶性薄膜が得られている。また、プラズマ処理中、サンプルに対して加熱は一切行っておらず、薄膜が過度な高温に晒されていることも無い。
(比較例1)
【0036】
実施例1と同様の方法で準備されたサンプルを、500℃で1時間加熱した。図2はサンプルの表面に関するXRDパターンである。XRDパターンにピークは生じていないことから、酸化チタン部分は非晶質のままである。
【実施例2】
【0037】
実施例1と同様の方法で準備されたサンプルを、実施例1と同様の条件で2時間プラズマ処理した。図3はプラズマ処理後のサンプル表面のXRDパターンについて、アナターゼ形の結晶形に特有のピークが生じる回折角(2θ)25度付近を示したものである。XRDパターンにピークは生じておらず、チタニア薄膜は無定形のままである。さらにその後、サンプルを200℃で100時間加熱した。図4は加熱後のサンプルの表面に関するXRDパターンである。比較例2からも分かるように、200℃は通常無定形チタニアを結晶化させるには不十分な温度であるが、図4中においてXRDパターンにはピークが生じており、アナターゼ型の結晶性薄膜が得られていることが明らかである。
(比較例2)
【0038】
実施例2と同様の方法で準備されたサンプルを、プラズマ処理に供することなく200℃で100時間加熱した。図5はサンプルの表面に関するXRDパターンである。XRDパターンにピークは生じていないことから、酸化チタン部分は非晶質のままである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1に示す、プラズマ処理を24時間行なった、Na−Caガラス上に製膜したチタニア薄膜のXRDパターンの図である。
【図2】本発明の比較例1に示す、500℃で加熱処理を行なった後の、Na−Caガラス上に製膜したチタニア薄膜のXRDパターンの図である。
【図3】本発明の実施例2に示す、プラズマ処理を2時間行なった後の、Na−Caガラス上に製膜したチタニア薄膜のXRDパターンの図である。
【図4】本発明の実施例2に示す、プラズマ処理を2時間行なった後、200℃への加熱を100時間行った後の、Na−Caガラス上に製膜したチタニア薄膜のXRDパターンの図である。
【図5】本発明の比較例2に示す、200℃で加熱を行った後のNa−Caガラス上のチタニア薄膜に関するXRDパターンの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、1時間以上100時間以内プラズマ処理することにより無定形チタニア膜をアナターゼ型の結晶性チタニア膜に転じせしめる工程を備えた調理皿製造方法
【請求項2】
Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程、10分以上6時間以内プラズマ処理する工程、加熱を2時間以上行うことによりすることにより無定形チタニア膜をアナターゼ型の結晶性チタニア膜に転じせしめる工程を備えた調理皿製造方法
【請求項3】
前記Na−Caガラス上に無定形チタニア膜を形成する工程が、Tiアルコキシドを塗布する工程、及びTiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程からなることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載された調理皿製造方法
【請求項4】
前記Tiアルコキシドを加水分解させて無定型チタニアを形成する工程が、少なくとも水蒸気を含んだ酸素ガス雰囲気中で、波長300nm以内の紫外光を照射する工程であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載された調理皿製造方法
【請求項5】
前記アナターゼ型の結晶性チタニア膜の膜厚が130nm以内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された調理皿製造方法
【請求項6】
前記プラズマ処理が少なくとも酸素ガスを含む雰囲気中において発生された高周波低温プラズマで行なわれることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載された調理皿製造方法
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された方法を用いて形成されたことを特徴とする調理皿。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−346171(P2006−346171A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−176391(P2005−176391)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】