説明

貝殻から得られるカルシウム塩結晶化抑制蛋白とその製造方法、ならびにその利用

【課題】体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、腸管内での吸収を促進する作用を有する蛋白及び該蛋白の製造方法の提供を目的とする。さらに、該蛋白を有効成分とするカルシウム塩結晶化抑制・吸収促進剤、並びに該蛋白を含有してなる飲食物、飼料の提供を目的とするものである。
【解決手段】貝殻、特にホタテ貝殻をクエン酸等のオキシカルボン酸およびそれらの塩又はその水和物存在下で抽出することにより、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等に対するカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白を高収率で取得することができた。また、本発明の蛋白は、飲料、食品、または試料に混合して使用することが可能であり、さらには、カルシウム吸収促進剤、結石症の治療および/または予防剤、骨粗鬆症の治療および/または予防剤として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝殻、特にホタテ貝殻から得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白、およびその製造方法、ならびにそれを含有する飲料、食品、薬剤、特にカルシウム吸収促進剤、結石症治療および/または予防剤、骨粗鬆症治療および/または予防剤、ならびに飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
人体を構成する無機質の中で最も多く存在するのはカルシウムである。その99%が骨や歯の構成に利用され、残りの1%は各種酵素の活性の発現や筋肉の収縮、細胞の興奮の沈静あるいは血液凝固作用等の生命活動にとって重要な役割を演じている。
【0003】
日本人に必要とされるカルシウム摂取量は成人1日当たり600mgといわれているが、厚生省保健医療局による平成12年国民栄養調査結果報告によると、実際の摂取量は547mgと必要量を下回っているのが実状である。カルシウムの摂取不足は、骨粗鬆症、高血圧等の重大な疾病を引き起こすことが知られており、社会的問題となっている。
【0004】
さらに、食物として胃腸管内に摂取されたカルシウムは、複雑な機構で腸管から血液内に吸収される。カルシウムの吸収経路には、小腸上部でのビタミンDや各種ホルモンの調節により制御されているカルシウムが濃度勾配に逆らって吸収される能動輸送の経路と、小腸下部でのカルシウムが濃度勾配に従って吸収される受動輸送の経路の2通りがある。食物摂取時のように腸管内にカルシウム が多量に存在する場合には、圧倒的に小腸下部からの受動輸送の割合が高く、能動輸送がカルシウム濃度が増加しても、ある量以上は増加しないのに比べ、受動輸送は腸管内の可溶性カルシウム濃度が増加すれば、それだけ輸送能も高まる(非特許文献1:Am. J. Physiol., 第240巻, 32〜37頁, [1981年])。一般に、腸管におけるカルシウム塩やカルシウム剤の吸収率は10〜50%と言われており、半分以上が吸収されずに体外に排出されるという報告もある。
【0005】
また、体液中においていくつかの蛋白が関与してカルシウム塩が過飽和状態で存在しているといわれている。これらの蛋白としては、例えば、以前は膵管内結石蛋白(PSP)と呼ばれていたリソスタシン(Lithostathine)、唾液安定化蛋白スタセリン(Statherin)、尿中のシュウ酸カルシウム結晶化阻害蛋白ネフロカルシン(Nephrocalcin)などがある。これらの蛋白が何らかの原因で働かなくなるとカルシウム塩の結晶化が起こり、このことは骨や歯の形成には有用ではあるが、結石症などへの進行やカルシウム吸収低下といった有害な結果を生じさせ、骨粗鬆症、骨軟化症、動脈硬化などのさらなる疾病の発生を招くといわれている。そのため、腸管内でのカルシウムの吸収性を高める物質の開発もさかんに行われている。
【0006】
また、人間の膵臓で作られ消化作用を助ける膵液の中には、高濃度のカルシウム成分が含まれているが、何らかの理由で生体のバランスが崩れると、炭酸カルシウムの結晶化が起きて結石ができる。また、膵臓以外にも体内では種々の臓器にカルシウム結石が生じ、それが人体に悪影響を及ぼすことから、結石の予防及び治療に利用し得るカルシウムの結晶化を抑制する物質の開発が待たれている。
【0007】
上記のような理由から、腸管内でのカルシウムの吸収性を高める物質や、カルシウムの結晶化を抑制する物質の開発がさかんに行われているが、その1つとして、カゼインホスホペプチド(CPP)が知られている。CPPは、カゼインにトリプシンを作用させ、加水分解した分解物中に得られるホスホペプチドであり、カルシウムと結合して可溶性複合体を形成する。この為、水溶液中でカルシウムが沈殿するのを抑制することでカルシウムを可溶化し、カルシウムの吸収率を高めると考えられている(非特許文献2:ジャパンフードサイエンス、第1巻、21〜32頁[1990年]、特許文献1:特開昭58−170440号公報、特許文献2:特開平7−241172号公報等参照)。しかし、CPPは炭酸に対するカルシウム沈殿阻止作用は強いものの、シュウ酸に対するカルシウム沈殿阻止作用は弱く、カルシウムに対して約75%のCPPを添加しても、沈殿阻止率は約14%程度である。また、CPPはカゼインの酵素分解物であるため、原料であるカゼインを酵素反応させる必要があり、生産に大量のコストが必要となる。更には酵素分解の副産物であるペプチドが苦味を呈するため、飲食品へ混合する場合にはこの苦味ペプチドを十分に分離する必要がある等幾つかの問題点を有している。
【0008】
ポリ−L−グルタミン酸も腸管内でカルシウムの吸収率を高める作用を有することが知られているが(非特許文献3:Biosci. Biotech. Biochem.、第58巻、1662〜1665頁[1994年]等参照)、これは合成品であるため食品添加物として許可されておらず、安全性等のため利用されていない。また、微生物により生産されるポリーγ−グルタミン酸もカルシウム吸収促進作用があることが知られているが(特許文献3:特開平9―28309号公報等参照)、カルシウム塩結晶化抑制活性が低く、かつ溶液の粘性率が極めて高く取り扱いが不便であり、平均分子量が10000〜300000と幅広く、ある程度の分画が必要となる。しかも微生物由来のため、安全性にも多くの問題がある。
【0009】
また、カルシウムの吸収を促進する物質としては、骨由来のペプチド(特許文献4:特開平4−16165号公報)、酪酸を基本成分とするもの(特許文献5:特開平4−108360号公報)があるが、これらは 製造上並びに利用上の問題があり実用化には至っていない。
【0010】
さらに、南極のヴァンダ湖に生息している細菌の菌体から得られるタンパク質がカルシウム結晶化を抑制し、これによりカルシウムの吸収を促進する効果を有することが知られているが実用化には至っていない(特許文献6:特開2000−239180号公報)。
【0011】
特許文献7には、ラクトバチルス及び/又はストレプトコッカスに属する乳酸菌を用いた発酵物がミネラル吸収促進剤としての作用を有することが開示されている。
【特許文献1】特開昭58−170440号公報
【特許文献2】特開平7−241172号公報
【特許文献3】特開平9―28309号公報
【特許文献4】特開平4−16165号公報
【特許文献5】特開平4−108360号公報
【特許文献6】特開2000−239180号公報
【特許文献7】特開平10−158178号公報
【非特許文献1】Am. J. Physiol., 第240巻, 32〜37頁, [1981年]
【非特許文献2】ジャパンフードサイエンス、第1巻、21〜32頁[1990年]
【非特許文献3】Biosci. Biotech. Biochem.、第58巻、1662〜1665頁[1994年]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、体内でのカルシウムの結晶化を抑制し、カルシウムの腸管内での吸収を促進する作用を有する蛋白及び該蛋白の製造方法の提供を目的とする。さらに、該蛋白を有効成分とするカルシウム塩結晶化抑制・吸収促進剤、並びに該蛋白を含有してなる飲食物、飼料の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ね、貝殻、特にホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体、なかでもクエン酸等のオキシカルボン酸およびそれらの塩又はその水和物存在下で抽出すると、カルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白が高収率で得られ、そのカルシウム塩結晶化抑制効果が従来知られている物質よりも優れていることを見出した。さらにカルシウムと本発明蛋白の配合比率についても検討し、カルシウム塩結晶化抑制効果が最も高く表れる条件を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0014】
貝殻、特にホタテ貝殻を、キレート化剤、なかでもクエン酸等のオキシカルボン酸およびそれらの塩又はその水和物存在下で抽出すると、カルシウム塩結晶化抑制能の高い蛋白を高収率で得ることができる。また、本蛋白を有効成分として含有するカルシウム吸収促進剤、飲食物(特に機能性食品)、医薬組成物、および飼料を製造することができる。これらは、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症、動脈硬化などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を有する。特に、本発明蛋白は、シュウ酸カルシウムの結晶化抑制能が既存物質と比較して格段に高いため、尿路結石症の治療および予防に極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、
(1)貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白;
(2)ホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白であって、分子量が26000〜28000である蛋白;
(3)貝殻粉末にキレート剤含有水性媒体を添加し、抽出する工程を含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の蛋白の製造方法;
(4)貝殻粉末にクエン酸又はその水和物を添加し、抽出する工程を含むことを特徴とする、(1)または(2)に記載の蛋白の製造方法;
(5)(1)または(2)に記載の蛋白を含有する飲料または食品;
(6)(1)または(2)に記載の蛋白、および薬剤として許容される担体とを含む医薬組成物;
(7)(1)または(2)に記載の蛋白を有効成分として含む、(6)に記載のカルシウム塩結晶化抑制・吸収促進剤;
(8)(1)または(2)に記載の蛋白を有効成分として含む、(6)に記載の結石の治療および/または予防剤;
(9)(1)または(2)に記載の蛋白を有効成分として含む(6)に記載の骨粗鬆症の治療および/または予防剤;
(10)(1)または(2)に記載の蛋白を含有する飼料;。
(11)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする(5)に記載の飲料または食品。
(12)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする(5)に記載の飲料または食品;
(13)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする(6)乃至(9)のいずれかに記載の医薬組成物;
(14)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする(6)乃至(9)のいずれかに記載の医薬組成物;
(15)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする(10)に記載の飼料;
(16)(1)または(2)に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする(10)に記載の飼料;
を提供するものである。
【0016】
これまで、貝殻は利用価値があまり見出されておらず、大部分が廃棄物として扱われているのが現状なので、未利用資源から付加価値の高い物質を得ることのできる本発明は、未利用資源の有効利用という面からも注目すべきものがある。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、貝殻、例えば、ホタテ、カキ、アコヤガイなどの貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得ることができる。なかでもホタテ貝殻はすでに食品添加物として使用されており、安全性の問題がないので、特に好ましいカルシウム塩結晶化抑制蛋白のソースである。
【0017】
本発明は、上述のごとく、貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白を提供するものである。カルシウム塩の結晶化を抑制するということは、体液中でのカルシウムイオン濃度を高めることになり、体内のカルシウム吸収を促進することにつながる。そのため、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を発揮する。
【0018】
貝殻の水性媒体での抽出はいずれの公知方法で行ってもよい。抽出前に貝殻を粉砕しておくことが好ましい。粉砕方法も公知方法を用いることができ、例えば、ミルやハンマーその他の粉砕・破砕装置による粉砕、超音波破砕などを用いることができる。粉砕は常温・常圧で行うことができるが、粉砕時の摩擦熱などで貝殻が50℃以上になるのは好ましくない。粉砕は、貝殻が粉末状になるまで行うことが好ましい。粉砕した貝殻を水性媒体に浸清または混合し、撹拌または振盪しながら、あるいは静置しつつ抽出を行うことができる。抽出に用いる手段、装置等も公知である。粉砕と抽出を一緒に行ってもよい。例えば、超音波を用いて貝殻を破砕しつつ抽出を行ってもよい。破砕および抽出温度は0ないし50℃の範囲が適当であり、好ましい破砕および抽出温度範囲は0ないし20℃である。
【0019】
貝殻の抽出工程において、キレート化剤により脱ミネラル処理を行うことが必須である。キレート化剤は種々のものがあり、例えば、EDTAなどのポリアミノカルボン酸類およびそれらの塩、クエン酸等のオキシカルボン酸類およびそれらの塩、ならびに縮合リン酸塩等が使用でき、とりわけホタテ貝殻からのカルシウム塩結晶化抑制蛋白の抽出におけるキレート化剤としてはクエン酸等のオキシカルボン酸類およびそれらの塩又はその水和物が好ましく、これらを用いることにより、高い収率でカルシウム塩結晶化抑制蛋白を得ることができる。水性媒体中のキレート化剤の濃度は、キレート化剤の種類や貝殻の種類に応じて適宜変更可能である。
【0020】
貝殻からのカルシウム塩結晶化抑制蛋白の抽出に用いる水性媒体は特に限定されるものではないが、毒性の低いものあるいは毒性のないものが好ましく、水、例えば、蒸留水、脱イオン水が特に好ましい。水道水を使用してもかまわない。水とメタノール、エタノール等のアルコールとの混合物を水性媒体として用いてもよい。水性媒体のpHは中性付近であることが望ましく、pH6.0ないし8.5の範囲が好ましい。水性媒体をこのようなpHに維持するために、適当濃度、例えば5ないし100mMのTris−HClなどの緩衝液を水性媒体に添加してもよい。
【0021】
上記のごとく粉砕・抽出を行った後、公知方法、例えば、遠心分離または静置などにより固形分を分離し、上清を得る。この場合の温度範囲は抽出時の温度範囲と同様であり、好ましくは0ないし20℃である。
【0022】
上記のようにして得られた上清にはカルシウム塩結晶化抑制蛋白が含まれており、この上清を直接使用してもよいが、さらに透析処理あるいは濃縮処理に付して粗抽出物として用いてもよい。透析および濃縮方法はいずれの公知方法であってもよい。例えば、セロハンその他の材料でできたチューブや膜を用いてもよい。濃縮法も種々の方法があるが、例えば、吸水性樹脂を用いる方法、限外濾過膜を用いる方法などが適用できる。透析および濃縮工程における温度は抽出時の温度範囲と同様であり、好ましくは0ないし20℃である。
【0023】
上記のごとく得られた上清または粗抽出物からカルシウム塩結晶化抑制蛋白をさらに精製することもできる。種々の蛋白精製方法、使用担体・樹脂、精製条件等が公知であり、当業者は適宜それらを組み合わせて本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を精製することができる。精製の初期段階に硫安分画、エタノール沈殿などにより粗分画しておくことが好ましい。その後、得られた活性画分を各種クロマトグラフィーによりさらに精製することができる。バッチ法、カラム法などを用いることができる。クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフイーなどがある。HPLCを用いてこれらのクロマトグラフィーを行ってもよい。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィーにはDEAE−セファロース、DEAE−セファデックス、DEAE−TOYOPEARLなどの樹脂を用いることができる。吸着クロマトグラフィーにはハイドロキシアパタイトなどを用いることができる。ゲル濾過クロマトグラフィーにはセファデックスゲルやTOYOPEARLなどを用いることができる。さらなる精製には、ゲル電気泳動やクロマトフォーカシングなどの方法を用いることができる。
【0024】
上記のようにして得られた上清または粗抽出物、あるいはいずれかの精製段階で得られた精製物をカルシウム塩結晶化抑制蛋白として用いることができる。上述のごとく、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療に優れた効果を発揮する。したがって、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を、飲料や食品に添加して、例えば上記効果を有する健康食品や機能性食品を製造することができる。カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療のための薬剤を得ることもできる。また、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を飼料に添加して動物の脚弱、奇形、あるいは卵の硬度不足などを抑制することもできる。
【0025】
上記のように、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を、飲料や食品、飼料に添加する際や、各種疾病の予防、抑制および/または治療のための薬剤を製造する際には、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白と共にカルシウムを配合することもできる。その配合比率は、一定の比率に限定されるものではないが、重量比率に換算して、カルシウムに対して、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白が50%乃至500%であることが好ましく、更に好ましくは50%乃至300%である。最も好ましくは、75%乃至200%である。この範囲であると、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白が効率よく機能するからである。
【0026】
そのため、1の態様において、本発明は、貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白を含有する飲料または食品を提供するものある。上述のごとく、ホタテ貝殻由来のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は安全性が高く、かつ、無味無臭であるため、これを飲料および食品に添加することが特に好ましい。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有させるべき飲料および食品の種類や形状は特に限定されるものではなく、あらゆる飲料および食品に添加することができる。また例えば、調味料やふりかけ等に本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有させてもよい。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飲料および食品は、健康食晶や機能性食品としても有用でありうる。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を食品サプリメントとして用いてもよい。
【0027】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として用いて、カルシウム塩の結晶化に起因する結石症などの疾病、ならびにカルシウム吸収低下に起因する疾病状態、例えば骨軟化症、骨粗鬆症などの予防、抑制および/または治療のための薬剤を得ることができる。したがって、本発明は、さらなる態様において、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含むカルシウム吸収促進剤、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含む結石の治療および/または予防剤、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を有効成分として含む骨粗鬆症の治療および/または予防剤を提供するものである。
【0028】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を上記薬剤として用いる場合、通常全身的、あるいは局所的に、経口または非経口で投与される。
【0029】
投与量は年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人ひとり当たり0.01mgないし100mgの範囲で、1日1回から数回、経口あるいは非経口投与される。
【0030】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を経口投与のために固体組成物にする場合、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の剤形に製剤化することができる。このような固体組成物においては、一つ又はそれ以上の活性物質が、少なくとも一つの不活性な希釈剤、分散剤又は吸着剤等、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水ケイ酸末等と混合される。又、組成物は常法に従って、希釈剤以外の添加剤を混合させてもよい。
【0031】
錠剤又は丸剤に調製する場合は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシメチルセルロースフタレート等の胃溶性あるいは腸溶性物質のフィルムで皮膜してもよいし、又2以上の層で皮膜してもよい。さらに、ゼラチン又はエチルセルロースのような物質のカプセルにしてもよい。
【0032】
経口投与のための液体組成物にする場合は、製薬上許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等の剤形に製剤化することができる。用いる希釈剤としては、例えば精製水、エタノール、植物油又は乳化剤等がある。又、この組成物は希釈剤以外に湿潤剤、懸濁化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤又は防腐剤等のような補助剤を混合させてもよい。
【0033】
非経口のための注射剤に調製する場合は、無菌の水性若しくは非水性の溶媒、可溶化剤、懸濁化剤又は乳化剤を用いる。水性の溶媒、可溶化剤、懸濁化剤としては例えば、注射用蒸留水、生理食塩水シクロデキストリン及びその誘導体、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類あるいは無機アルカリ溶液等がある。非水性の溶媒としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールあるいはオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類等を用いてもよい。又、可溶化剤として、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、庶糖脂肪酸エステル等の界面活性剤(混合ミセル形成)、又はレシチンあるいは水添レシチン(リポソーム形成)等も用いられる。又、植物油等の非水性の溶媒と、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等から成るエマルジョン製剤にすることもできる。
【0034】
非経口投与のためのその他の組成物としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、それ自体公知の方法により処方される外用液剤、軟膏のような塗布剤、座剤又はペッサリー等にしてもよい。
【0035】
もう1つの態様において、本発明は、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飼料を提供する。上記のようにして得られた上清または粗抽出物、あるいはいずれかの精製段階で得られた標品を、カルシウム塩結晶化抑制蛋白として飼料に添加してもよい。飼料の種類や形状は特に限定されるものではなく、液状、粉末、ペレットなどの形態に成形することができる。
【0036】
本発明の飼料は、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を成分として含有するもので、通常の飼料製造工程中のいずれかにおいて、飼料原料中にシラップ状、粉末状、あるいは顆粒状等の本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を添加、混合して、液状、粉末状、マツシュ状、あるいはペレット状等、適宜の形態の製品に加工するか、あるいは飼料製品に直接添加、混合することによって製造される。その添加量は、添加対象の飼料もしくは飼料原料100重量部中、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白固形分として0.05重量部以上含有せしめることが必要である。添加量の上限については特に限定はないが、実用上は5重量%(固形分として)までの間で用いられることが多い。
【0037】
本発明の飼料が対象とする動物としてはウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ニワトリ、アイガモ等の家畜、家禽や、イヌ、ネコ、サル、マウス、ラット等の動物があげられるこれらに限られるわけではなく、魚介類、動物園等で飼育されるライオン、トラ、チンパンジーその他の禽獣類も含まれる。本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白を含有する飼料を動物に与えることにより、動物の脚弱、奇形、あるいは卵の硬度不足などの問題を解決することができる。
【0038】
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0039】
カルシウム塩結晶化抑制活性の測定方法1:
(1)炭酸カルシウムの結晶化抑制;
50ml容のトールビーカーに0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した20mM 炭酸水素ナトリウム水溶液(pH8.5)25mlを入れた。次に25℃の恒温槽中で試料溶液500μlを加え、水中スターラーを用いて十分に撹絆した。0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した20mM 塩化カルシウム水溶液(pH8.5)25mlを素早く添加し、反応を開始させた。この反応系におけるpHの経時的変化を、pHメーター(D−51:HORIBA製)を用いて測定した。対照(コントロール)は蒸留水500μlを添加したものとした。
(2)リン酸カルシウムの結晶化抑制;
50ml容のトールビーカーに0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した6mM リン酸二水素ナトリウム水溶液(pH7.4)25mlを入れた。次に25℃の恒温槽中で試料溶液500μlを加え、水中スターラーを用いて十分に撹絆した。0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した8.8mM 塩化カルシウム水溶液(pH7.4)25mlを素早く添加し、反応を開始させた。この反応系におけるpHの経時的変化を、pHメーター(D−51:HORIBA製)を用いて測定した。対照(コントロール)は蒸留水500μlを添加したものとした。
(3)シュウ酸カルシウムの結晶化抑制;
50ml容のトールビーカーに0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した20mM 塩化カルシウム水溶液(pH7.0)10mlと試料溶液10mlを加えて2分間混合撹拌した。その後、0.2μmのメンブランフィルター(Cellulose Acetate:東洋濾紙製)を用いて濾過した10mM シュウ酸ナトリウム水溶液(pH7.0)20mlを添加し、2時間十分に撹拌した。反応液を濾過し、その濾過液中のカルシウム濃度を原子吸光光度計(AA-6200:島津製)で測定した。対照(コントロール)は蒸留水10mlを添加したものとした。
【0040】
上記反応系において、pHの経時的変化における結晶化抑制率を数値化するために、完全にpHの変化を抑えた場合を100%、対照として用いた蒸留水におけるpHを0%とし、50%結晶化抑制を示す時の反応系中の蛋白濃度をIC50とした。
【0041】
蛋白の定量はLowry法によったが、カラムクロマトグラフィーにおける溶出蛋白の定量は280nmにおける吸光度によった。
【実施例2】
【0042】
カルシウム塩結晶化抑制活性の測定方法2:
(1)リン酸カルシウムの結晶化抑制;
20mM塩化カルシウム液25ml(実験開始カルシウム濃度5mM)にホタテ貝殻粗抽出物をたんぱく質濃度(最終濃度)として、0.00mg/ml(ホタテ貝殻粗抽出物無添加)、0.05mg/ml、0.10mg/ml、0.15mg/ml、0.20mg/mlになるようにそれぞれ添加し、液量が約40mlになるように蒸留水を加え2分間撹拌した。これに、pH7.5の20mMリン酸緩衝液を50ml加えた。その後、全量が100mlになるように蒸留水で調整した。混合後の試料のpHは、ほぼ7.0となる。調整した試料を、恒温槽(37℃)で2時間放置した液の上澄みをとり、遠心分離(1000Xg、10分)した分離液を回収し再結晶を防ぐために1M塩酸を数滴加えた液のカルシウム濃度を測定した。
(2)シュウ酸カルシウムの結晶化抑制;
40mM塩化カルシウム液12.5ml(実験開始カルシウム濃度5mM)にホタテ貝殻粗抽出物をタンパク濃度(最終濃度)として、0.00mg/ml(ホタテ貝殻粗抽出物無添加)、0.05mg/ml、0.10mg/ml、0.15mg/ml、0.20mg/mlになるようにそれぞれ添加し、液量が約40mlになるように蒸留水を加えpHを7.0に調節した。これにpH7.0に調節した10mMシュウ酸液を50ml加えた。その後全量が100mlになるように蒸留水で調節した。調節した試料を、恒温槽(37℃)で2時間放置した液の上澄をとり、2.0μmのメンブランフィルターで濾過後、濾液を回収し再結晶を防ぐために1M塩酸を数滴加えた液のカルシウム濃度を測定した。カルシウム濃度測定は、プラズマ発光分析装置(ジャーレル・アッシュIRIS Intrepid II XDL)で行った。
【0043】
カルシウム沈殿阻止率の計算は次のように行った。得られた沈殿物除去後の測定結果に基づき、5mMカルシウム濃度からホタテ貝殻粗抽出物添加における結晶物除去後のカルシウム濃度を引いた値に対する、ホタテ貝殻粗抽出物添加における結晶物除去後のカルシウム濃度からホタテ貝殻粗抽出物無添加による結晶物除去後のカルシウム濃度を引いた値の比率を百分率で表したものを「カルシウム沈殿阻止率」(下記式)とした。
カルシウム沈殿阻止率(%)=(Z−Y)/(X−Y)×100
(X:5mM塩化カルシウムのカルシウム濃度(実測値)、Y:ホタテ貝殻粗抽出物を添加しない場合の沈殿物除去後のカルシウム濃度、Z:ホタテ貝殻粗抽出物を添加した場合の沈殿物除去後のカルシウム濃度)
【実施例3】
【0044】
カルシウム塩結晶化抑制蛋白の精製:
ホタテ貝殻をハンマークラッシャー、続いてローラーミルで処理して粉末とし、貝殻粉末1gに対して2mlの0.5M EDTA水溶液(10mM Tris−HClにてpH8.0とした)に懸濁し、超音波(SONICFIER250,ULTRASONICS:BRANSON)を用いてさらなる粉砕よび抽出を行った(4℃,Duty cycle40%,Out put control 3,8分)。その後、破砕液を遠心分離(4℃,27700Xg,10分)し、得られた上澄みを10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)に対して4℃で一晩透析した。透析にはダイアライシスメンブラン36(Wako Chemicals USA, Inc)を用いた。透析された試料をダイアライシスメンブラン36(Wako Chemicals USA, Inc)に入れ、ポリエチレングリコール20000に吸水させることにより、4℃で8時間濃縮を行うことにより粗抽出物を得た。
【0045】
上記粗抽出物の濃縮物を常法に従いエタノール沈殿処理に付し、50〜70%フラクションを得た。
【0046】
上で得られたエタノール50〜70%フラクションを、DEAE−TOYOPEARL 650Mを用いる陰イオン交換クロマトグラフィーにかけた。溶出液として10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を用い、溶出液中のNaCl濃度を直線的に増加させるリニアグラジェント法にてカルシウム塩結晶化抑制蛋白を溶出させた(図1A)。ピークフラクションを集め、同じ樹脂および同じ緩衝液を用い、緩衝液中のNaCl濃度を段階的に増加させるステップワイズ法にて溶出を行った(図1B)。0.2M NaClのフラクションに大きな蛋白ピークが見られ、このフラクションに高いカルシウム塩結晶化抑制活性が見られた。この0.2M NaClフラクションを、TOYOPEAL HW−55Fによるゲル濾過クロマトグラフィーにかけた。溶出液には0.15M NaClを含む10mM Tris−HCl緩衝液(pH8.5)を用いた。ピークはほぼ単一で左右対称であった(図2A)。これまでの精製段階の活性を比較した表を以下に示す。
【表1】

精製段階を経るにつれてIC50値が低下し、比活性が上昇したことがわかる。
【0047】
実施例1に示した活性測定法により、粗抽出物の炭酸カルシウム塩結晶化抑制活性を測定した結果を図3に示す。蒸留水の場合にpHが急激に低下している、矢印で示す反応開始から5分後に、粗抽出物500μlを添加したところ、pHの低下が停止し、結晶化抑制作用が示された。この反応系における炭酸カルシウムの結晶観察を走査型電子顕微鏡にて行った。図4は、反応開始5分後に粗抽出物を添加し、15分後まで反応させた結晶の写真を示した。対照系における15分後の結晶に比べて租抽出物添加系では結晶が小さく、対照系の5分後の結晶粒径とほぼ同じであった。このことからも、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の活性が示されている。
【実施例4】
【0048】
カルシウム塩結晶化抑制蛋白の諸性質:
実施例3と同じゲル濾過カラムにて、既知分子量の蛋白の溶出状態と比較することによりカルシウム塩結晶化抑制蛋白の分子量を測定したところ、26000〜28000であることがわかった(図2B)。この分子量は、SDS−PAGEと銀染色とを組み合わせた系で測定した分子量と一致した(図示せず)。
【0049】
実施例3で得られたゲル濾過後のフラクションに含まれるカルシウム塩結晶化抑制蛋白の温度安定性およびpH安定性を調べたところ、約60℃まで安定で、pH6〜9の範囲で安定であることがわかった(図5)。
【実施例5】
【0050】
ホタテ貝殻からのカルシウム塩結晶化抑制蛋白の抽出におけるキレート剤の検討:
1Mのクエン酸―水和物、クエン酸ナトリウム、酢酸の水溶液をそれぞれ1リットル調製し、貝殻粉末を50gを懸濁した。一昼夜、4℃で保存することにより、抽出を行った。その後遠心分離(4℃、27700Xg、10分)し、上澄みを透析膜(ダイアライシスメンブラン36、Wako Chemicals USA, Inc)に入れ、10mM Tris-HCl緩衝液(pH8.5)に対して透析する。その後ポリエチレングリコール20000を用いて濃縮した。収率と相対活性を比較した結果を表2に示した。
【表2】

クエン酸―水和物を用いて抽出すると収率が最も高くなった。
【実施例6】
【0051】
リン酸カルシウム結晶化抑制活性の測定:
実施例2に記載した方法により、ホタテ貝殻粗抽出物のリン酸カルシウム結晶化抑制活性の測定を行った。その結果を図6および表3に示す。ホタテ貝殻粗抽出物の添加濃度に依存して、上澄のカルシウム濃度が上昇していた。
【表3】

粗抽出物をカルシウムに対して蛋白濃度で75%添加した場合の沈殿阻止率は約50%であった。
【実施例7】
【0052】
シュウ酸カルシウム結晶化抑制活性の測定:
実施例2に記載した方法により、ホタテ貝殻粗抽出物のシュウ酸カルシウム結晶化抑制活性の測定を行った。その結果を図7および表4に示した。ホタテ貝殻粗抽出物の添加濃度に依存して、ろ液のカルシウム濃度が上昇していた。
【表4】

粗抽出物をカルシウムに対して蛋白濃度で75%添加した場合の沈殿阻止率は約50%であった。
【実施例8】
【0053】
本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白とCPPの活性比較:
実施例3で得た粗抽出物をカルシウム塩結晶化抑制蛋白標品として用いて、そのカルシウム塩結晶化抑制活性をCPPの活性と比較した。活性測定は実施例1で説明した方法によった。試料は反応開始から1分後に添加した。粗抽出物濃度(蛋白として)およびCPP濃度はいずれも0.2μg/mlとした。結果を図8に示す。粗抽出物はpHの低下を強く抑制し、10分までpHはほぼ一定値であり、その後わずかに低下しただけであった。一方、CPPは6分まではpHの低下を抑制したが、それ以後pHは急激に低下した。したがって、本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白は従来から用いられているCPPよりも優れたカルシウム塩結晶化抑制効果を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、食品産業、飼料産業(畜産業)や医薬品産業などにおいて利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】DEAE−TOYOPEARL 650Mを用いた陰イオンクロマトグラフィーによる本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の溶出パターンを示す。図1Aは、リニアグラジェントによる溶出パターン,図1Bはステップワイズ法による溶出パターンを示す。
【図2】図2Aは、TOYOPEARL HW−55Fカラムによるゲル濾過溶出パターンを示す。図2Bは、TOYOPEARL HW−55Fカラムを用いた本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白の分子量測定結果を示す。(1)はウサギ筋肉ホスホリラーゼB(分子量97400)、(2)はウシ血清アルブミン(分子量66200)、(3)はニワトリ卵白オバルブミン(分子量45000)、(4)はダイズトリプシンインヒビター(分子量21500)の場合を示す。
【図3】粗抽出物の炭酸カルシウム塩結晶化抑制作用を示すグラフである。黒四角は粗抽出物、黒丸は対照を示す。
【図4】粗抽出物のカルシウム塩結晶化抑制作用を示す走査型電子顕微鏡写真である。図4Aは、対照系(蒸留水添加系)の5分後、図4Bは、対照系の15分後のカルシウム塩の走査型電子顕微鏡写真である。図4Cは、粗抽出物添加系の15分後のカルシウム塩の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】粗抽出物の温度安定性、pH安定性を示すグラフである。0〜60℃、pH6〜9の範囲で安定な蛋白であることを示している。
【図6】(報告書その2の図1)粗抽出物のリン酸カルシウム塩結晶化抑制作用を示すグラフである。粗抽出物の添加量に依存して、上澄中のカルシウム濃度が上昇している。
【図7】粗抽出物のシュウ酸カルシウム塩結晶化抑制作用を示すグラフである。粗抽出物の添加量に依存して、ろ液中のカルシウム濃度が上昇している。
【図8】本発明のカルシウム塩結晶化抑制蛋白とCPPの活性比較の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白。
【請求項2】
ホタテ貝殻をキレート化剤含有水性媒体で抽出して得られるカルシウム塩結晶化抑制能を有する蛋白であって、分子量が26000〜28000である蛋白。
【請求項3】
貝殻粉末にキレート剤含有水性媒体を添加し、抽出する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の蛋白の製造方法。
【請求項4】
貝殻粉末にクエン酸又はその水和物を添加し、抽出する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の蛋白の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の蛋白を含有する飲料または食品。
【請求項6】
請求項1または2に記載の蛋白、および薬剤として許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の蛋白を有効成分として含む、請求項6に記載のカルシウム塩結晶化抑制・吸収促進剤。
【請求項8】
請求項1または2記載の蛋白を有効成分として含む、請求項6に記載の結石の治療および/または予防剤。
【請求項9】
請求項1または2記載の蛋白を有効成分として含む請求項6に記載の骨粗鬆症の治療および/または予防剤。
【請求項10】
請求項1または2記載の蛋白を含有する飼料。
【請求項11】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする請求項5に記載の飲料または食品。
【請求項12】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする請求項5に記載の飲料または食品。
【請求項13】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする請求項6から9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有することを特徴とする請求項10に記載の飼料。
【請求項16】
請求項1または2に記載の蛋白とカルシウムとを含有し、その配合重量比率が3:4であることを特徴とする請求項10に記載の飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−256985(P2006−256985A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−74545(P2005−74545)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人日本農芸化学会 刊行物名 2005年度(平成17年度)大会講演要旨集 発行年月日 2005年3月5日
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(595127344)カワイ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】