説明

負圧缶蓋用アルミニウム合金板及びその製造方法

【課題】薄肉化しても、高い成形性と優れた強度を保持しつつ、異方性の均一化が図られ得、且つ缶蓋からのタブ外れが効果的に阻止され得る負圧缶蓋用アルミニウム合金板を提供する。
【解決手段】Mg:0.80〜1.50%、Mn:0.80〜1.20%、Fe:0.40〜0.60%、Si:0.20〜0.40%、及びCu:0.15〜0.25%を含み、且つMn/Fe=1.5〜2.5及びMg/Mn≧1.0を満足するアルミニウム合金からなる、板厚:0.22〜0.25mmの塗装焼付け板材であって、45°耳率が1.5〜3.0%、0−180°耳率が1.0〜2.5%であって、式:−0.5%≦(45°耳率)−(0−180°耳率)≦1.5%を満足し、更に圧延方向に対して0°の方向における、引張強さが270〜300MPa及び耐力が240〜270MPaとなるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧缶蓋用アルミニウム合金板及びその製造方法に係り、特に、薄肉軽量化時にタブが取れにくい特性を有するステイオンタブ式の負圧缶の缶蓋用として好適なアルミニウム合金板と、その有利な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、果汁やコーヒー、紅茶等のように、炭酸を含まない飲料を収容した飲料缶である負圧缶には、それを開缶した際に、タブがゴミとならない利点等があるところから、かかる負圧缶の蓋(エンド)として、ステイオンタブ式の缶蓋が、広く用いられてきている。そして、そのようなステイオンタブ式の缶蓋は、例えば、特開2005−226120号公報の図1にも示されるように、その中央部で上方に突出して設けられたリベット部に対して、タブ(つかみ部)がリベット加工により固定されて取り付けられており、その開缶に際しては、リベット加工により取り付けられたタブの取っ手部を引き上げることにより、タブの取付部(リベット部)を支点として、梃子の作用によって、タブの先端部を下方に移動せしめ、これによって飲み口部分を押し下げて、その飲み口部分の一部を残して、スコアから引き裂くようにすることによって、飲み口部分が開口せしめられるようになっている。
【0003】
そして、このようなステイオンタブ式の缶蓋は、一般に、次のような各工程を経て製造されているのである:所定のアルミニウム合金塗装板から缶蓋素材を打ち抜き、それを絞り加工する工程(シェル工程)、このシェル工程で得られた缶蓋素材の縁をカールさせるカーリング工程、缶蓋素材中央のタブ取付部分に多段張り出し成形を行なって、突起状のリベット部を形成するバブル加工工程、点字やタブの回転防止のための凹凸を付与するディンプル加工工程、缶蓋素材のパネル剛性を高めるデボス工程、開口(開缶)に重要なスコアを形成するためのスコア加工工程、及び別途作製されたタブを缶蓋素材のリベット部に取着するリベット加工工程。しかしながら、かかる缶蓋の製造工程において、用いられるアルミニウム合金塗装板の成形性能が劣る場合にあっては、上記したリベット加工工程において、形成されるリベット部に微小な割れが発生し、内容物の漏洩を惹起する等の重大な問題を招くこととなる。
【0004】
このため、先に指摘の特開2005−226120号公報においては、Mg:1.60〜3.00質量%、Mn:0.10〜0.50質量%、Fe:0.15〜0.35質量%、Si:0.05〜0.15質量%、Ti:0.05質量%以下、含有すると共に、FeとSiの含有量が所定の関係にあるアルミニウム合金の板材であって、Al−Fe−Mn系晶出物やMg−Si系晶出物の最大サイズや面積率の総和を最適化することにより、エンドがリベット成形加工を受けても、リベット部に割れが発生しない、エンド用アルミニウム合金板が、提案されている。また、特開2001−214248号公報においては、Mg:0.8〜3.0%、Mn:0.01〜1.2%、Fe:0.10〜0.50%、Si:0.05〜0.40%、を含むアルミニウム合金の熱間圧延板において、そのCube方位の方位密度を規制することにより、リベット成形性や引き裂き性(開缶性)等に優れた缶蓋用アルミニウム合金硬質板を製造し得ることが、明らかにされている。更に、特開2001−73106号公報においては、上記の特開2001−214248号公報と同様な合金組成のアルミニウム合金を用い、管理された熱間圧延操作の後に、連続焼鈍又は中間焼鈍を行なった後、所定の冷間圧延を行なうことにより、落下衝撃時にスコア部分から割れが生じないように、強度の異方性の少ない缶蓋用アルミニウム合金硬質板を得る手法が、明らかにされている。
【0005】
ところで、従来から、果汁やコーヒー等の炭酸を含まない飲料用の負圧缶の蓋(エンド)には、主要元素として、Mg及びCrを添加したA5052アルミニウム合金板、或いは、Mg及びMnを添加したA5021アルミニウム合金板が使用されている。一方、ビールや炭酸飲料等の炭酸を含む飲料用の陽圧缶の缶蓋には、主要成分としてMgとMnを添加した、負圧缶用のものより更に高強度なA5182アルミニウム合金板が用いられている。
【0006】
そこにおいて、ステイオンタブ式の缶蓋における開口力は、缶蓋がへこんだ形状である負圧缶の方が、開缶時の力点位置が後方にずれるために、陽圧缶に比べて高くなる傾向があり、このために、ステイオンタブ式缶蓋を負圧缶に使用した場合において、開缶性が悪くなるという問題があった。また、そのような開口工程においては、ステイオンタブが缶蓋から外れないようにすることが重要であり、かかるタブが外れてしまうと、開口が充分でなかったり、また、ステイオンタブ式の缶蓋の本来の機能が充分に奏され得なくなるのである。
【0007】
しかしながら、缶蓋にタブを固定するリベット部は、張り出し加工にて形成されることとなるが、その張り出される量が元板厚には依存しないために、用いられるアルミニウム合金板の板厚が薄い程、その成形が困難となるのであり、また板厚が薄い程、剛性も低下するようになる。更に、アルミニウム合金板材の異方性が大きくなると、タブを取り付けた後のリベット径に、圧延方向とその直角方向で径差が生じて、タブが外れ易くなる問題が惹起されるようになるのである。
【0008】
このように、ステイオンタブ式の缶蓋において、その薄肉化を図るには、上記した問題を解決し得るアルミニウム合金素材(板材)が求められているのであるが、先に指摘した3件の公開公報に提案の缶蓋用アルミニウム合金板においては、リベット成形割れを改善することを意図しているに止まり、缶蓋からのタブの外れ易さの問題の解決については、何等考慮されておらず、この点において、負圧缶の缶蓋用アルミニウム合金板について、更なる改善が求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−226120号公報
【特許文献2】特開2001−214248号公報
【特許文献3】特開2001−73106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、板厚を0.22〜0.25mmと薄肉化しても、高い成形性と優れた強度を保持しつつ、異方性の均一化が図られ得、且つ缶蓋からのタブ外れが効果的に阻止され得る負圧缶蓋用アルミニウム合金板を提供することにあり、また、そのような優れた特徴を有する負圧缶蓋用アルミニウム合金板を、有利に製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明にあっては、上記せる如き負圧缶蓋用アルミニウム合金板に係る課題を解決するために、質量基準で、Mg:0.80〜1.50%、Mn:0.80〜1.20%、Fe:0.40〜0.60%、Si:0.20〜0.40%、及びCu:0.15〜0.25%を含み、且つMn/Fe=1.5〜2.5及びMg/Mn≧1.0の含有量関係式を満足し、残部がアルミニウムと不可避的不純物であるアルミニウム合金からなる、板厚:0.22〜0.25mmの冷間圧延板材にて構成され、その片面又は両面が、塗装焼付けによって形成された有機樹脂皮膜で被覆されていると共に、かかる塗装焼付け後の、45°耳率が1.5〜3.0%、0−180°耳率が1.0〜2.5%であって、式:−0.5%≦(45°耳率)−(0−180°耳率)≦1.5%を満足し、更に圧延方向に対して0°の方向における、引張強さが270〜300MPa及び耐力が240〜270MPaであることを特徴とする負圧缶蓋用アルミニウム合金板を、その要旨とするものである。
【0012】
また、本発明にあっては、かかる本発明に従う負圧缶蓋用アルミニウム合金板を有利に製造すべく、(a)前記アルミニウム合金からなる鋳塊を面削した後、加熱し、580〜620℃の温度で2〜24時間の間、保持することにより、均質化処理を施す工程と、(b)パス毎の圧下率が5〜35%であって、温度:450〜530℃において15分以内に終了するように、前記均質化処理鋳塊を熱間粗圧延して、熱間粗圧延終了板厚が25〜35mmである熱間粗圧延板を得る工程と、(c)3スタンド以上のタンデム圧延機を用いて、各パスの圧下率が45〜55%となるように、熱間仕上げ圧延を行なうと共に、終了温度が320〜350℃となるように、且つ前記熱間粗圧延終了温度と該熱間仕上げ圧延の終了温度との差が120〜180℃となるように、かかる熱間仕上げ圧延を終了せしめる工程と、(d)該熱間仕上げ圧延により得られる熱間仕上げ圧延板を、20℃/時間以下の速度で冷却するか、或いは300℃以上の温度で1時間以上保持した後に冷却し、次いで中間焼鈍することなく、圧下率:86〜92%で冷間圧延する工程と、(e)かかる冷間圧延にて得られた冷間圧延板に、缶蓋用の塗料を塗装して、220〜280℃の温度において焼付けを行なう塗装焼付け工程とを、含むことを特徴とする負圧缶蓋用アルミニウム合金板の製造方法をも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
このように、本発明に従う負圧缶蓋用アルミニウム合金板にあっては、合金成分たるMg、Mn、Fe、Si及びCuが限られた範囲内の含有量に規制され、且つMnとFe及びMgとMnが特定の含有量の関係を満足するようにしたアルミニウム合金を用いると共に、45°耳率と0−180°耳率が所定の範囲内に規制され、また、それら二つの耳率が所定の関係を有するように規定され、更に、圧延方向に対して0°の方向における引張強さや耐力が所定の範囲内とされていることによって、負圧缶の缶蓋用アルミニウム合金板として、その板厚を薄肉軽量化して0.22〜0.25mmとしても、高い成形性と優れた強度を発揮しつつ、異方性の低減を有利に実現して、缶蓋からのタブ外れの問題の発生が効果的に解消され得ることとなったのである。
【0014】
また、本発明に従う負圧缶蓋用アルミニウム合金板の製造方法によれば、本発明に従う合金組成のアルミニウム合金鋳塊から、板厚が0.22mm〜0.25mmの板材を製造するに際して、均質化処理、熱間粗圧延・仕上げ圧延工程、冷却/保持工程、冷間圧延工程及び塗装焼付け工程における各条件を有機的に組み合わせたことにより、上記した本発明に従う優れた特性を有する負圧缶蓋用アルミニウム合金板を、有利に且つ容易に得ることが出来るのである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここにおいて、本発明は、ステイオンタブ式の缶蓋の薄肉軽量化に際して惹起される成形性や強度の問題に加えて、タブの外れ易さの問題の解消を図るべく、先ず、そのようなステイオンタブ式缶蓋の板状素材となるアルミニウム(Al)合金板を与えるAl合金について、それが、所定量のMg、Mn、Fe、Si及びCuを含む合金組成において、構成されるようにしたのである。
【0016】
そして、そのような本発明に従うAl合金板を与えるAl合金において、その合金成分の一つであるMg(マグネシウム)は、所望されるリベット部の強度及び缶蓋材としての材料強度を確保するために必要な耐力及び引張強さを付与するよう機能する重要な添加元素であり、また、耳率にも影響を及ぼす添加元素であって、その必要とされる含有量は、0.80〜1.50%(質量基準、以下同じ)の範囲である。なお、このMgの含有量が0.80%未満では、本発明において、リベット部の強度を確保するのに必要な耐力や引張強さを得ることが出来ず、また1.50%を超えるようになると、所望の耳率を得ることが出来なくなる。また、そのような所望の耳率を得るために、Mnも添加されることとなるところから、それによって、強度が高くなり過ぎて、リベット割れが発生する問題が惹起されるようになる。かかるMgの好ましい含有量としては、1.0〜1.3%の範囲である。
【0017】
また、Mn(マンガン)は、強度を高め、更に耳率の制御に重要な成分である。このMnの必要とされる含有量は、0.80〜1.20%の範囲であり、この範囲において、Mnの含有量が多い程、FeやSiと共に、数μm程度までの大きさの金属間化合物、即ちAl−Fe−Mn−Si系晶出物を形成し、これが熱間圧延時の再結晶核となって、種々の方位の結晶粒を形成するようになるために、熱間圧延終了時点において、Cube方位への集中を抑制することが出来ることとなる。なお、このMn含有量が0.80%未満では、上記の効果が充分でなく、また1.20%を超えるようになると、前記した金属間化合物が増え過ぎて、缶蓋が不意に開口する等、開口性が不安定になり易い問題がある。このMnのより好ましい含有量範囲は、0.80〜1.00%である。
【0018】
さらに、Fe(鉄)は、MnやSiと共に、数μm程度までの大きさの金属間化合物、即ちAl−Fe−Mn−Si系晶出物を形成し、これが熱間圧延時の再結晶核となって、種々の方位の結晶核を形成するようになるために、熱間圧延終了時点で、結晶粒の方位がCube方位へ集中するのを抑制することが出来る。本発明に従う所望の耳形状を得るためには、熱間圧延終了時の再結晶組織の形成が重要であるため、このFe量の制御が重要となる。本発明において、かかるFeの含有量は、0.40%以上、0.60%以下の範囲内とされ、このFe含有量が0.40%未満では、上記の効果が充分でなく、また0.60%を超えるようになると、前記の金属間化合物が増え過ぎて、缶蓋の開口性が低下し易くなる問題を惹起する。なお、かかるFeのより好ましい含有量範囲は、0.50%を超え、0.60%以下である。
【0019】
加えて、Si(ケイ素)は、上記したMn及びFeと共に、Al−Fe−Mn−Si系晶出物を形成し、またMg−Si系晶出物やMg2 Si相の析出にも影響する元素である。Al−Fe−Mn−Si系晶出物は、熱間圧延時の再結晶核となって、種々の方位の結晶粒を形成し、このため、熱間圧延終了時点で結晶粒の方位がCube方位へ集中するのを抑制する。この観点から、Siは、0.20%以上の割合で含有せしめられることとなるのである。なお、このSi含有量が0.20%未満では、上記の効果が充分でないことに加えて、アルミニウム缶の再生塊を使用することが困難となるために、工業生産上において望ましくないのである。また、Siを過剰に添加すると、Mg2 Si相を形成してMg固溶量を低下させるために、強度が低下するようになる。また、固溶Mgによる結晶粒のCube方位への集中の抑制効果を低下させるため、Si含有量の上限は、0.40%とされることとなる。なお、このSiのより好ましい含有量範囲は、0.25〜0.35%である。
【0020】
さらに、本発明にあっては、Cu(銅)が、強度を増大させるために、添加されることとなる。このCuの必要とされる含有量は、0.15〜0.25%の範囲である。かかるCu含有量が0.15%未満では、その効果が小さく、また0.25%を超えるようになると、強度が増大し過ぎて、リベット成形時の割れが生じ易くなる問題がある。
【0021】
しかも、本発明にあっては、上記した必須の合金成分のうち、MnとFeの含有量の比(Mn/Fe)は、Al−Mn−Fe−Si系晶出物の生成による熱間圧延後の再結晶組織に影響し、圧延方向に対して45°の方向の耳と0−180°の方向の耳とのバランスや、材料強度に影響を与えるところから、1.5〜2.5の範囲内となるように設定される。そして、このMn/Feの値が1.5未満の場合には、材料強度が低下する問題を生じる。また、塗装焼付け操作にて形成される有機樹脂皮膜で被覆した後のAl合金板において、その圧延方向に対して0°の方向における引張強さが270MPaを下回ったり、また耐力が240MPaを下回ったりする傾向が生じる。一方、Mn/Feの値が2.5を超えるようになると、上記の引張強さが300MPaを超えたり、耐力が270MPaを超えるようになり、更に、45°耳率が1.5%を下回る傾向となる他、0−180°耳率が2.5%を超え、加えて、45°耳率と0−180°耳率との差[45°耳率−(0−180°耳率)]の値が、−0.5%以下となったり、或いは、1.5%以上となったりする問題が惹起されるようになる。なお、かかるMn/Feの含有量比の好ましい範囲は、1.5〜2.5である。
【0022】
また、Mg含有量とMn含有量との比(Mg/Mn)にあっても、それらMg及びMnは、共に、強度に影響するものであるが、更に、その比率(Mg/Mn)によって、耳率に影響を及ぼすようになるものである。そして、そのようなMg/Mnの値が1.0未満となると、Al−Mn−Fe−Si系晶出物の生成が増加し、45°耳率が3.0%を超えたり、また0−180°耳率が1.0%を下回るようになり、そして45°耳率と0−180°耳率との差が−0.5%〜1.5%の範囲外となって、本発明の目的を充分に達成し難くなる。
【0023】
なお、本発明に従うAl合金は、上記した各合金成分を、特定の限られた範囲内において含有すると共に、残部がAlと不可避的不純物からなるものである。そこにおいて、不可避的不純物は、目的とするAl合金の調製に際して、必然的に混入するものであって、公知の不純物割合において存在するように、その含有量が制御されることとなる。また、そのような不可避的不純物としては、ZnやCr、Ti等の含有が考えられ、それらは、それぞれ、0.15質量%程度以下の含有量であれば、本発明の目的を充分に達成することが可能である。
【0024】
また、かくの如き本発明に従う合金組成のAl合金からなる、板厚が0.22〜0.25mmと薄肉軽量化された冷間圧延板材には、その片面又は両面が、塗装焼付け操作によって形成された所定の有機樹脂皮膜で被覆されることによって、負圧缶蓋用Al合金板とされるのであるが、そのようなAl合金板の塗装焼付け後の、45°耳率が1.5〜3.0%であり、0−180°耳率が1.0〜2.5%であると共に、式:−0.5%≦(45°耳率)−(0−180°耳率)≦1.5%を満足するものとなっている。なお、それらの耳率が上記の範囲外となると、張り出し加工で形成される、タブを固定するためのリベット部の異形度が大きくなって、リベット径差が著しくなり、取り付けられるタブが外れ易くなる問題が惹起されるようになる。また、缶蓋成形品を積み重ねて搬送する際のスタッキング性が悪く、作業性が著しく阻害されると共に、缶胴に巻き締める際に、巻き締めが不均一となって、内容物が漏洩する恐れも生じるのである。
【0025】
ここで、本発明において用いられるところの「耳率」とは、被試験材であるAl合金板から切り出した、直径:55mmの真円形状の試験用ブランクを用い、このブランクを、パンチ径:33mmφ、パンチ肩:1.5mmRの金型を用いて、絞り比:1.67にて、カップ状に絞り成形し、その得られた成形カップの開口部に発生する耳の耳率として求められるものであって、「45°耳率(%)」及び「0−180°耳率(%)」は、それぞれ、以下の計算式にて定義されるものである。なお、以下の計算式において、角度は、前記ブランクの中心を通る圧延方向の直線が、ブランクの周縁と交わる一方の交点を0°として、かかるブランクの周縁における部位の角度を示すものであり、また、そこにおいて、各角度における山高さとは、それぞれの角度の部位において生じた山部の、成形カップの底部の底面からの高さを意味し、更に、各角度の谷高さとは、ブランクの各角度位置において生じた谷部の、成形カップの底部の底面からの高さを意味している。
45°耳率(%)=100×{(45°対応部位の山高さの平均)−(90°及び2 70°での谷高さの平均)}/[{(45°対応部位の山高さの 平均)+(90°及び270°での谷高さの平均)}/2]
0−180°耳率(%)=100×{(0°及び180°での山高さの平均)−(9 0°及び270°での谷高さの平均)}/[{(0°及び 180°での山高さの平均)+(90°及び270°での 谷高さの平均)}/2]
(但し、45°対応部位の山高さの平均とは、45°、135°、225°及び31 5°での各位置における山高さの総和の平均値である)。
【0026】
また、そのような、所定の有機樹脂塗膜が塗装焼付け操作にて形成されてなるAl合金板にあっては、かかる塗装焼付け操作の後において、圧延方向に対して0°の方向(平行な方向)の引張強さ及び耐力が、それぞれ、270〜300MPa及び240〜270MPaの範囲内となるように制御される必要がある。けだし、それら引張強さ及び耐力が、上記の範囲未満の場合には、蓋としての強度が不足するだけでなく、開口力が低下し、不意に開口し易くなる問題を惹起し、一方、上記の範囲よりも高くなると、開口力が大きくなり過ぎて、開缶し難くなると共に、リベット部の割れが発生し易くなる問題が惹起されるようになるからである。
【0027】
ところで、上述の如き本発明に従う負圧缶蓋用アルミニウム合金板を製造するに際しては、先ず、常法に従って鋳造を行ない、前述せる如き合金組成のAl合金からなる鋳塊を得た後、その得られたAl合金鋳塊に対して、面削を実施し、そして、所定の均質化処理、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延、冷却/保持、冷間圧延、及び塗装焼付けの各工程が実施されて、目的とする板厚が0.22mm〜0.25mmの薄肉の板材として、製造されることとなる。
【0028】
そのような製造工程において、先ず、均質化熱処理は、上述した本発明に従う成分範囲のAl合金を常法に従って溶解し、半連続鋳造(DC鋳造)等の公知の鋳造方法によって、所定大きさの鋳塊と為し、更にそれを、従来と同様に面削した後、加熱して、580〜620℃の温度で2〜24時間の間保持することにより、実施されることとなる。この均質化処理においては、Al6 (Mn、Fe)から、熱間圧延終了時に結晶粒の方位がCube方位へ集中するのを抑制するためのα相化合物(Al−Mn−Fe−Si系)への変態を充分に行なうためにも、かかる均質化処理は、出来るだけ高温で長時間行なうのが好ましい。しかし、620℃を超えるような高温に加熱すると、鋳塊の一部が共晶融解を惹起して、板表面の面質が悪化するようになるところから、余りにも高温の均質化処理温度の採用は避けなければならない。本発明においては、保持温度として580℃以上、620℃以下の範囲で、2時間以上、24時間以下の保持時間が採用されるのである。なお、24時間よりも長い間保持しても、上記の特性は変わらず、経済性において不利となるため、好ましくない。
【0029】
次いで、かかる均質化処理された鋳塊には、パス毎の圧下率が5〜35%で、圧延温度が450〜530℃の範囲内において、熱間粗圧延が実施され、15分以内に、板厚が25〜35mmの熱間粗圧延板材が形成される。この熱間粗圧延では、よく知られているように、厚い鋳塊が、複数回、圧延機に通されて、目的とする所定板厚の板材とされるものであって、有利には、リバース式の粗圧延機を用いて実施されることとなる。なお、かかる熱間粗圧延における圧延温度が530℃を超えるようになると、圧延素材が圧延ロールに凝着して、かかる圧延素材の面質の低下を招く問題があり、また450℃よりも低い圧延温度となると、金属間化合物が微細に析出し、熱間粗圧延の終了後に完全な再結晶組織が得られず、所望とする耳率と強度が得られなくなる問題を惹起する。また、圧下率が5%未満では、加工発熱量が少ないために、圧延温度が450℃を下回るようになる恐れがあり、一方、35%を超えるようになると、加工発熱量が大きくなって、圧延温度が530℃を超える恐れが生じるようになる。そして、この熱間粗圧延中では、金属間化合物の析出サイトが逐次導入されるようになるために、短時間でも金属間化合物が密に析出させられるところから、総熱間粗圧延時間は15分以内とされ、15分を超えるようになると、金属間化合物が析出し過ぎる問題を惹起する。更に、熱間粗圧延終了板厚が25mm未満となるようにすると、続いて実施される熱間仕上げ圧延において加工度が低くなるために、再結晶に必要な仕上げ圧延上がり温度が得られなくなる問題があり、また35mmを超えるようになると、後の熱間仕上げ圧延での圧下率を増大させる必要が生じ、これによって、板面品質の悪化に加えて、導入される加工歪みが増大する問題を惹起されるようになるところから、Cube方位への集積が高まり、所望の耳率が得られなくなる問題がある。
【0030】
また、上記の熱間粗圧延に続く熱間仕上げ圧延は、3スタンド以上のタンデム圧延機を用いて、各パスの圧下率が45〜55%となるようにして圧延し、そして終了温度が320〜350℃となるように、且つ熱間粗圧延終了温度と熱間仕上げ圧延終了温度との差が120〜180℃となるように、熱間仕上げ圧延が終了せしめられるようにして、実施されることとなる。なお、各パスの圧下率が55%を超えるようになると、圧延素材の一部が圧延ロールに凝着することによる、板面品質の低下や歪みを招く等の問題を惹起し、また45%未満の圧下率では、圧延終了温度を320℃以上とすることが出来なくなる恐れがあり、再結晶不良となる問題を惹起する。更に、圧延終了温度が320℃未満となると、充分な再結晶組織が得られず、製品板材の45°耳が大きくなり過ぎる問題があるのであり、一方、350℃を超えるような圧延終了温度となると、圧延素材の一部が圧延ロールに凝着し、熱間圧延板の面質の低下を招く恐れがあるのである。加えて、前記した熱間粗圧延終了温度と、かかる熱間仕上げ圧延終了温度との差が120℃未満となると、熱間仕上げ圧延における加工歪みの蓄積が大きくなり過ぎ、その後の冷却過程において、Cube方位への集積が高まり、45°耳の低下、0−180°耳の増大を招き、所望とする耳率が得られなくなる問題があり、一方、180℃を超えるようになると、熱間仕上げ圧延での加工歪みの蓄積が低下して、熱間仕上げ圧延後の再結晶不良を招き、所望とする強度と耳率を得ることが困難となるのである。
【0031】
さらに、かくの如き熱間仕上げ圧延が施されて得られた、圧延直後の熱間仕上げ圧延板材、従って終了温度にほぼ等しい温度の熱間仕上げ圧延板材は、20℃/時間以下の冷却速度において常法に従って冷却されるか、或いは、300℃以上の温度で1時間以上保持した後に冷却することが、行なわれる。これに反して、冷却温度が20℃/時間を超える場合や、300℃以上に1時間以上保持されない場合にあっては、熱間仕上げ圧延板材の再結晶が不充分となり、所望とする耳率特性や強度を得ることが出来なくなる恐れが生じる。なお、かかる冷却/保持の工程において、熱間仕上げ圧延後に直ちに冷却される場合の冷却速度の下限は、経済的見地から適宜に設定されることとなるが、板温度が200℃以下に低下するまでは、一般に5℃/時間、好ましくは10℃/時間程度とされ、一方、熱間仕上げ圧延後に保持工程が採用される場合には、保持温度及び時間の上限は、それぞれ、一般に、350℃程度及び5時間程度とされることとなる。また、300℃以上の温度で1時間以上保持した後の冷却操作には、特に冷却速度の制限はなく、公知の各種の冷却手法が採用されて、常温まで冷却される。
【0032】
そして、このように冷却された熱間仕上げ圧延板材に対して実施される冷間圧延は、目的とする最終板厚の実現と共に、蓋材としての材料強度の向上を図り、更には、所望の耳率に制御するために、採用されるものであって、そのため、冷却された熱間仕上げ圧延板材は、中間焼鈍されることなく、冷間圧延工程に投入されることとなる。なお、かかる冷間圧延工程においては、総圧下率が86〜92%になるように、規制される。けだし、この総圧下率が86%未満となると、充分な強度が得られず、また45°耳率の低下と0−180°耳率の増大を招く問題があるからであり、一方、92%よりも高くなると、圧延集合組織が発達し過ぎることにより、45°耳率が増大して、0−180°耳率が低下するようになることによって、リベット径差の増大を招き、それによって、タブが外れ易くなる問題を惹起する他、更に材料強度の増大も招き、リベット成形時の割れの可能性が増大する恐れも生じるからである。また、かかる冷間圧延においては、材料の最終板厚が、0.22mm〜0.25mmとなるように制御されて、薄肉軽量化の缶蓋が実現され得るようになっている。
【0033】
その後、上述の如く冷間圧延操作が施されて得られた、板厚が0.22mm〜0.25mmの冷間圧延板材には、その片面又は両面に対して、缶蓋用の通常の塗料を用いた塗装が施され、次いで、板材の到達温度が220〜280℃となるようにして焼付けが行なわれることによって、所定の有機樹脂皮膜(焼付け塗膜)にて片面若しくは両面が被覆されてなる負圧缶蓋用Al合金板とされることとなる。この塗装焼付け工程は、缶蓋材の板面に有機樹脂を塗装して焼き付けるだけでなく、調質焼鈍をも兼ねるものであって、そのために、材料を上記した温度まで到達させる必要がある。これに反し、塗装焼付け工程の到達温度が220℃未満では、冷間圧延工程で導入された転位組織が充分に回復せず、缶蓋の成形性やリベット成形性に劣る問題を惹起する。一方、280℃を超えるような到達温度となると、回復が進み過ぎて、缶蓋材に必要な強度が得られなくなる問題を惹起する。そして、そのような到達温度に達した塗装板材は、直ちに、或いは適当な保持時間の後に、常法に従って常温まで冷却されることとなるのである。
【0034】
なお、かかる塗装焼付け工程において用いられる塗料には、従来から缶蓋用塗料として知られている各種のものを、適宜に選択して用いることが出来、例えば、エポキシフェノール系樹脂塗料、塩ビオルガノゾル系樹脂塗料、エポキシユリア系樹脂塗料、熱硬化ビニル系樹脂塗料、ポリエステル系樹脂塗料等の溶剤系塗料や、エポキシアクリル系樹脂塗料等の水系塗料等の有機樹脂塗料を用いることが可能である。
【0035】
かくの如くして得られた、所定の有機樹脂皮膜(焼付け塗膜)で被覆されてなるAl合金板は、その塗装焼付け後の45°耳率が1.5〜3.0%、0−180°耳率が1.0〜2.5%の範囲内にあり、且つ45°耳率と0−180°耳率との差が、−0.5%〜1.5%の範囲内となる板材として、更には、塗装焼付け後の圧延方向に対して0°の方向の引張強さが270〜300MPaであり、また、そのような方向の耐力が240〜270MPaの範囲内の特性を有するものとして、構成されていることにより、薄肉軽量化された負圧缶の缶蓋用Al合金板として、高い成形性と優れた強度を保持しつつ、缶蓋からのタブの外れを効果的に阻止し得る特性が有利に付与せしめられたのであり、またタブによる開缶に際しても、適度な開口力によって、飲み口部分の開口が効果的に行なわれ得て、その開口が困難となったり、或いは開口力が低下して、不意に開口され易くなったりする問題も、有利に解消され得ることとなったのである。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0037】
−実施例1−
先ず、下記表1に示される各種合金組成のAl合金(合金A〜R)を、それぞれ溶製した後、通常の半連続鋳造法(DC鋳造法)に従って、厚みが約500mmの各種の角型鋳塊(スラブ)を造塊した。そして、この得られた各種鋳塊を、それぞれ、その圧延面となる面とその幅方向の両面とにおいて、15mmずつ表面切削(面削)した後、加熱し、590℃の温度で、8時間保持する均質化処理を実施した。
【0038】
次いで、かかる均質化処理された各種鋳塊に対する熱間粗圧延を、リバース式圧延機を用いて行ない、パス毎の圧下率が10〜32%となるようにして、圧延開始から13分以内で完了するように実施し、板厚が32mmの各種の熱間粗圧延板材を得た。なお、この熱間粗圧延中の材料温度は、464〜488℃であった。更に引き続き、熱間仕上げ圧延を、4スタンドのタンデム式圧延機を用いて、各パスの圧下率が50%となるようにして実施し、その圧延終了温度が332〜340℃となるようにして、板厚が2.0mmの各種の熱間仕上げ圧延板材を得た。なお、前記した熱間粗圧延終了温度と、この熱間仕上げ圧延終了温度との差は、それぞれの板材において、132〜148℃の範囲内であった。そして、この得られた熱間仕上げ圧延板材を、熱間仕上げ圧延直後の熱い状態から、それぞれ、冷却速度が15〜18℃/時間となるようにして、200℃以下の温度になるまで冷却した。
【0039】
その後、かくして得られた各熱間仕上げ圧延板材に対して、それぞれ、中間焼鈍を施すことなく、圧下率:88%で、冷間圧延を実施して、板厚が0.24mmの各種冷間圧延板を、それぞれ得た。更に、この得られた各種冷間圧延板に対して、通常の缶蓋用塗料である水系エポキシアクリル系樹脂塗料を、常法に従って塗装した後、材料の温度が250℃となるようにして、塗装焼付けを実施することにより、Al合金A〜Rにそれぞれ対応した、試料No.1〜18の各種の缶蓋用Al合金板を製造した。
【0040】
【表1】

【0041】
そして、かくして得られた18種のAl合金板からなる各種の試料について、耳率の測定、引張強さ及び耐力の測定、リベット割れの評価、更にはリベット径差の測定、開口力の測定を、以下の如くして行ない、その得られた結果を、下記表2に併せ示した。
【0042】
−耳率の測定−
各試料から、前述せるように、直径:55mmの真円形状の試験用ブランクを切り出した後、このブランクを、パンチ径:33mmφ、パンチ肩:1.5mmRの金型を用いて、絞り比:1.67にて、カップ状に絞り成形して得られるカップ成形品について、その開口部に発生する耳の高さ分布を測定して、前記した計算式にて、45°耳率(%)及び0−180°耳率(%)を、それぞれ算出した。
【0043】
−引張強さ及び耐力の測定−
塗装焼付けして得られた各試料から、その表面の塗膜を濃硫酸で除去して、脱膜処理を実施した後、圧延方向に対して0°の角度をなす方向に延びるJIS−Z−2201の5号試験片を、切出し加工して、それら試験片について、JIS−Z−2241に準拠して引張試験を行ない、引張強さ及び耐力を測定した。
【0044】
−リベット割れの評価−
直径が204径[(2+4/16)インチ]の缶蓋を、各試料から、常法に従って製作し、そのリベット部(直径:3.2mm、張り出し量:1.6mm)の張り出し成形に際して、割れが発生するか、どうかを観察した。そして、そのようなリベット成形加工中において、割れの発生が認められないものを○、割れが発生したものを×とした。また、かかるリベット成形加工によって、リベット部は直径が約4mmのリベットに形成されることとなる。
【0045】
−リベット径差の評価−
直径が204径[(2+4/16)インチ]の缶蓋を各試料から製作し、その際、タブを取り付けた後のリベット径を、圧延方向に対して0°方向と90°方向において測定し、その差をリベット径差として求めた。なお、このリベット径差が0.10mmを超えるようになると、タブが外れ易くなるため、不合格となるものである。
【0046】
−開口力の測定−
直径が204径[(2+4/16)インチ]の缶蓋を各種試料から製作し、その際、スコアレシジュアルを90μmとした。そして、それら得られた各缶蓋について、開缶試験を行ない、飲み口部分の開口初期の荷重(スコアブレイク値)を測定して、それぞれの缶蓋の開口力とした。なお、この開口力の値が8Nを下回る場合には、不意開口が発生し易くなり、また13Nを超えるようになると開口し難くなる問題を生じる。
【0047】
【表2】

【0048】
かかる表2の結果から明らかなように、本発明に従う試料No.1〜4は、何れも、45°耳率、0−180°耳率、及びその差において優れたものであり、また引張強さや耐力も適切であって、適度な開口力を備えたものであると共に、リベット割れもなく、且つリベット径差も少ないものであるところから、タブ外れの問題も有利に回避され得るものであることが認められる。
【0049】
これに対して、比較例となる試料No.5〜18にあっては、それぞれの板材を与えるAl合金の合金組成において、合金成分の含有量が、本発明にて規定する範囲外となっていることにより、金属間化合物の生成が不適切となり、それによる熱間圧延後の再結晶組織の形成不良が耳形状に影響して、リベット径差や開口力に悪影響を与え、何れも、負圧缶の缶蓋用板材としては不合格となっている。また、試料No.6、8、14、15、17においては、強度が高くなり過ぎて、リベット部の張り出し成形が不良となって、リベット割れが生じ、缶蓋材料としては不合格とされた。
【0050】
−実施例2−
実施例1におけるAl合金Aに係る合金組成を有するAl合金鋳塊を用いて、下記表3及び表4に示される各種の製造工程条件下において、実施例1と同様にして、面削、均質化処理、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延、冷却/保持、冷間圧延、及び塗装焼付けを、それぞれ実施し、それぞれの製造工程に対応する、試料No.21〜34のAl合金板材を得た。なお、試料No.24に係るAl合金板材においては、熱間仕上げ圧延の後、所定の冷却速度での冷却に先立ち、その熱間仕上げ圧延材を保持炉において、310℃×2時間の保持を行ない、その後、所定の冷却速度(28℃/h)において室温まで冷却せしめた。
【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
次いで、このようにして得られた各種の試料(No.21〜34)に対して、それぞれ、耳率の測定、引張強さ及び耐力の測定、リベット割れの評価、リベット径差及び開口力の測定、板面性状の評価を行なって、その結果を、下記表5に併せて示した。
【0054】
【表5】

【0055】
かかる表5の結果から明らかなように、本発明に従う製造条件を採用して得られた試料No.21〜24の各試料にあっては、45°耳率、0−180°耳率、及びそれらの差は、何れも、適切なものであり、また望ましい引張強さ及び耐力を有していることによって、適切な開口力を有していると共に、リベット割れもなく、且つリベット径差が小さいために、タブ外れの問題も顧慮する必要のない、板面性状が良好な板材として、得ることが出来た。
【0056】
これに対して、比較例である試料No.25〜34のAl合金板材にあっては、本発明にて規定される製造条件の範囲外の値が使用されていることによって、熱間圧延後の再結晶組織の形成不良が耳形状に影響し、リベット径差や開口力に問題を生じ、また強度が不適合となって、リベット割れが発生する他、板面荒れが生じて、板面不良となる問題を惹起することが認められる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量基準で、Mg:0.80〜1.50%、Mn:0.80〜1.20%、Fe:0.40〜0.60%、Si:0.20〜0.40%、及びCu:0.15〜0.25%を含み、且つMn/Fe=1.5〜2.5及びMg/Mn≧1.0の含有量関係式を満足し、残部がアルミニウムと不可避的不純物であるアルミニウム合金からなる、板厚:0.22〜0.25mmの冷間圧延板材にて構成され、その片面又は両面が、塗装焼付けによって形成された有機樹脂皮膜で被覆されていると共に、かかる塗装焼付け後の、45°耳率が1.5〜3.0%、0−180°耳率が1.0〜2.5%であって、式:−0.5%≦(45°耳率)−(0−180°耳率)≦1.5%を満足し、更に圧延方向に対して0°の方向における、引張強さが270〜300MPa及び耐力が240〜270MPaであることを特徴とする負圧缶蓋用アルミニウム合金板。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧缶蓋用アルミニウム合金板を製造する方法であって、
前記アルミニウム合金からなる鋳塊を面削した後、加熱し、580〜620℃の温度で2〜24時間の間、保持することにより、均質化処理を施す工程と、
パス毎の圧下率が5〜35%であって、温度:450〜530℃において15分以内に終了するように、前記均質化処理鋳塊を熱間粗圧延して、熱間粗圧延終了板厚が25〜35mmである熱間粗圧延板を得る工程と、
3スタンド以上のタンデム圧延機を用いて、各パスの圧下率が45〜55%となるように、熱間仕上げ圧延を行なうと共に、終了温度が320〜350℃となるように、且つ前記熱間粗圧延終了温度と該熱間仕上げ圧延の終了温度との差が120〜180℃となるように、かかる熱間仕上げ圧延を終了せしめる工程と、
該熱間仕上げ圧延により得られる熱間仕上げ圧延板を、20℃/時間以下の速度で冷却するか、或いは300℃以上の温度で1時間以上保持した後に冷却し、次いで中間焼鈍することなく、圧下率:86〜92%で冷間圧延する工程と、
かかる冷間圧延にて得られた冷間圧延板に、缶蓋用の塗料を塗装して、220〜280℃の温度において焼付けを行なう塗装焼付け工程とを、
含むことを特徴とする負圧缶蓋用アルミニウム合金板の製造方法。


【公開番号】特開2013−23757(P2013−23757A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162299(P2011−162299)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】