説明

負荷駆動装置

【課題】2つのインバータ駆動の負荷を近接して設ける場合に、キャリア音を低減又は抑制する技術を提供する。
【解決手段】出力が略等しい第1及び第2インバータ10,20と、2つのインバータそれぞれが駆動し、互いに近接して設けられる第1及び第2三相負荷12,22とを備え、第1インバータのキャリア信号の周波数たる第1キャリア周波数C1と、第2インバータのキャリア信号の周波数たる第2キャリア周波数C2とは互いに略等しく、第1インバータのデューティ値と、第2インバータのデューティ値とは互いに略等しく、第1インバータと第2インバータとは同じスイッチングパターンで動作し、第1キャリア周波数と第2キャリア周波数との位相差が117.5度〜242.5度の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷駆動装置に関し、特に2つのインバータ駆動の負荷が近接して設けられる負荷駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、空気調和機等のインバータを搭載した機器の場合、インバータのキャリア周波数によって特有の音(キャリア音)が発生する。このため、インバータ駆動の負荷を搭載した機器を防音材で覆うほか、騒音対策のための様々な技術が提案されており、下掲の特許文献1や特許文献2等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−184182号公報
【特許文献2】特開平9−047026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術では、キャリア周波数を高くすることで静音化を図り、効率の低下を回避するために低負荷時にキャリア周波数を下げる技術が開示されている。しかしながら、駆動対象が冷凍機のような場合には低負荷で運転する時間が非常に長い。そのため、低周波数で運転されることが多くなりキャリア音の低減を図ることは困難である。
【0005】
上記特許文献2に開示の技術では、インバータ搭載機器のキャリア音をホワイトノイズに近づけている。しかしながら、例えば、冷凍機を備えるコンテナを運搬するトレーラに適用する場合には以下のような問題点がある。すなわち、冷凍トレーラでは、当該トレーラに設けられて仮眠等に使用される居住スペースと当該冷凍機とが近接している。そのため、居住スペースに滞在する人にとってはキャリア音のみならず、ホワイトノイズであっても不快に感じることがある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、2つのインバータ駆動の負荷を近接して設ける場合に、キャリア音を低減又は抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明に係る負荷駆動装置の第1の態様は、出力が略等しい第1及び第2インバータ(10,20)と、前記2つのインバータそれぞれが駆動し、互いに近接して設けられる第1及び第2三相負荷(12,22)とを備え、前記第1インバータのキャリア信号の周波数たる第1キャリア周波数(C1)と、前記第2インバータのキャリア信号の周波数たる第2キャリア周波数(C2)とは互いに略等しく、前記第1インバータのデューティ値と、前記第2インバータのデューティ値とは互いに略等しく、前記第1インバータと前記第2インバータとは同じスイッチングパターンで動作し、前記第1キャリア周波数と前記第2キャリア周波数との位相差が117.5度〜242.5度の範囲にある、負荷駆動装置(100)である。
【0008】
本発明に係る負荷駆動装置の第2の態様は、その第1の態様であって、前記位相差が117.5度〜175度又は185度〜242.5度の範囲にある。
【0009】
本発明に係る負荷駆動装置の第3の態様は、その第1又は第2の態様であって、前記位相差を制御する制御部(30)を更に備える。
【0010】
本発明に係る負荷駆動装置の第4の態様は、その第3の態様であって、前記制御部(30)は、前記位相差を任意の値に変更することを操作者から受付ける操作部(32)を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る負荷駆動装置の第1の態様によれば、インバータ駆動の負荷のキャリア音を低減できる。
【0012】
本発明に係る負荷駆動装置の第2の態様によれば、2つのインバータ駆動の負荷を設けたとしても、1つのインバータ駆動の負荷を設けた場合よりも、キャリア音を低減できる。
【0013】
本発明に係る負荷駆動装置の第3の態様によれば、位相差の制御が容易である。
【0014】
2つのインバータ駆動の負荷を互いに近接して設けた場合には、キャリア音はこれらのインバータ駆動の負荷に対する相対的な位置によって変化する。本発明に係る負荷駆動装置の第4の態様によれば、操作者が位相差を所定範囲内で変更することができ、操作者が不快に感じるキャリア音の低減に資する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例に係る負荷駆動装置を例示する図である。
【図2】キャリアの波形を例示する図である。
【図3】2つのキャリア周波数の位相差に対する騒音をシミュレートした図である。
【図4】図3の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図1を初めとする以下の図には、本発明に関係する要素のみを示す。
【0017】
〈装置構成の概要〉
図1に示すように、負荷駆動装置100は例えば、第1のインバータ10と、第2のインバータ20と、第1の三相負荷たる第1のモータ12を有する第1の圧縮機11と、第2の三相負荷たる第2のモータ22を有する第2の圧縮機21と、原動機40と、コンバータ51と、平滑用コンデンサ52〜54とを備えている。
【0018】
原動機40は例えば、1つのディーゼルエンジン41によって動作する回転子(ロータ)42及び固定子43を含んで交流電流を生成する。原動機40で生成された交流電流はコンバータ51に入力されて整流され、直流電流に変換される。当該直流電流はその脈動(リプル)が平滑用コンデンサ52で低減されて第1のインバータ10及び第2のインバータ20のそれぞれへと向けて出力される。
【0019】
第1のインバータ10側に出力された直流電流は平滑用コンデンサ53で再びリプルを低減されて第1のインバータ10に印加される。また、第2のインバータ20側に出力された直流電流もまた平滑用コンデンサ54で再びリプルを低減されて第2のインバータ20に印加される。
【0020】
第1のインバータ10及び第2のインバータ20のそれぞれは例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等の半導体スイッチング素子によって所望の三相交流を生成する。第1のインバータ10は第1のモータ12を駆動し、第2のインバータ20は第2のモータ22を駆動する。なお、第1のインバータ10及び第2のインバータ20のそれぞれは必ずしもIGBTである必要はなく、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、サイリスタ、IGCT(Integrated Gate Commutated Thyristor)素子等が採用されても良い。また、第1のインバータ10及び第2のインバータ20のそれぞれは必ずしもSi(シリコン)素子である必要はなく、SiC(炭化ケイ素)素子、GaN(窒化ガリウム)素子等が採用されても良い。
【0021】
これら第1のインバータ10及び第2のインバータ20によって駆動される第1のモータ12及び第2のモータ22は、出力が略等しくてかつ、互いに近接して設けられる。ここで「近接」とは、第1のモータ12又は第2のモータ22が単独でインバータ駆動された場合のキャリア音のそれぞれを、負荷駆動装置100の操作者が識別できない程度に近接していることを指す。
【0022】
図2に示すように、第1のインバータ10のキャリア信号たる第1のキャリア信号C1の周波数と、第2のインバータ20のキャリア信号たる第2のキャリア信号C2の周波数とは互いに略等しい。よって、第1のインバータ10のデューティ値と、第2のインバータ20のデューティ値とは互いに略等しい。さらに、第1のインバータ10と第2のインバータ20とは同じスイッチングパターンで動作する。図2では第1のキャリア周波数C1に対して、位相差の異なる3つの第2のキャリア周波数C21,C22,C23を例示している。
【0023】
第1のモータ12と第2のモータ22とが互いに近接し、第1のインバータ10と第2のインバータ20とが上述の動作をするとき、キャリア周波数の基本波Fと第2高調波SHを考慮すると、キャリア音Nの大きさ(キャリア騒音率)は図3に示すように、第1のキャリア信号C1の周波数と第2のキャリア信号C2の周波数との位相差dによって変動する。ここで、図3の縦軸は、第1のキャリア信号C1と第2のキャリア信号C2との位相差dがゼロのときを基準(100)にしたときの割合で示している。
【0024】
図4に示すように、第1のキャリア信号C1と第2のキャリア信号C2との位相差dは、117.5度以上かつ242.5度以下であることが望ましい。位相差dがこの範囲にあるとき、第1のインバータ10及び第2のインバータ20によるキャリア音は、それぞれが単独で発するキャリア音の和の半分以下になる。つまり、2つのインバータ10,20を搭載しているにもかかわらず、1つのインバータが発するキャリア音と同じかそれよりも低減できる。
【0025】
特に、位相差dが、117.5度より大きくてかつ175度より小さいか又は、185度より大きくてかつ242.5度より小さい場合には、2つのインバータ10,20を搭載しているにもかかわらず、1つのインバータが発するキャリア音よりも低減できる点でより望ましい。
【0026】
2つのインバータ駆動の負荷(第1のモータ12及び第2のモータ22)を設けた場合には、キャリア音はこれら第1のモータ12及び第2のモータ22に対する相対的な位置によって変化する。そこで、負荷駆動装置100は、位相差dを制御する制御部(Main Controller)30を備えている。具体的には、第1のインバータ10及び第2のインバータ20のキャリア信号の位相差を制御することによって、第1のモータ12及び第2のモータ22のキャリア信号C1,C2の位相差dを制御する。
【0027】
制御部30は、原動機40及びコンバータ51に第1副制御部(Sub Controller 1)33を介して始動指令をしつつ、第1のインバータ10及び第2のインバータ20に第2副制御部(Sub Controller 2)34及び第3副制御部(Sub Controller 3)35を介して位相差dを制御する命令を行う。また、制御部30は、位相差dを任意に変更することを操作者から受付ける操作部32を有している。なお、操作部32が受付ける位相差は、上述の範囲内であることが望ましい。
【0028】
負荷駆動装置100は例えば、冷凍コンテナを運搬するトレーラに適用される。すなわち、当該冷凍コンテナが備えるディーゼルエンジン(原動機40)の動力で第1の圧縮機11及び第2の圧縮機21のそれぞれを駆動し、第1の圧縮機11及び第2の圧縮機21のそれぞれが当該冷凍コンテナの内部を冷凍する。第1のモータ12及び第2のモータ22と当該トレーラの居住スペースとが近接している場合、仮眠等に使用される当該居住スペースに操作部32を設ける。
【0029】
2つのインバータ駆動の負荷に対する相対的な位置によって変化するキャリア音を、操作者は当該居住スペースで実際に聞きながら位相差dを変更することができる。もって、当該居住スペースでのキャリア音の低減を図ることができる。
【0030】
〈変形例〉
以上、本発明の好適な態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記実施例においては負荷駆動装置100が冷凍トレーラに適用され、三相負荷が圧縮機である場合を例に説明したが、第1のインバータ10及び第2のインバータ20が近接して設けられる態様であれば冷凍トレーラでなくても良く、三相負荷もモータである必要はない。
【符号の説明】
【0031】
100 負荷駆動装置
10,20 インバータ
12,22 圧縮機(三相負荷)
30 制御部
32 操作部
C1,C2 キャリア周波数
d 位相差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力が略等しい第1及び第2インバータ(10,20)と、
前記2つのインバータそれぞれが駆動し、互いに近接して設けられる第1及び第2三相負荷(12,22)とを備え、
前記第1インバータのキャリア信号の周波数たる第1キャリア周波数(C1)と、前記第2インバータのキャリア信号の周波数たる第2キャリア周波数(C2)とは互いに略等しく、
前記第1インバータのデューティ値と、前記第2インバータのデューティ値とは互いに略等しく、
前記第1インバータと前記第2インバータとは同じスイッチングパターンで動作し、
前記第1キャリア周波数と前記第2キャリア周波数との位相差(d)が117.5度〜242.5度の範囲にある、負荷駆動装置(100)。
【請求項2】
前記位相差(d)が117.5度〜175度又は185度〜242.5度の範囲にある、請求項1記載の負荷駆動装置(100)。
【請求項3】
前記位相差(d)を制御する制御部(30)を更に備える、請求項1又は請求項2記載の負荷駆動装置(100)。
【請求項4】
前記制御部(30)は、前記位相差(d)を任意の値に変更することを操作者から受付ける操作部(32)を有する、請求項3記載の負荷駆動装置(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−288321(P2010−288321A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138146(P2009−138146)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】