説明

貯槽の屋根散水設備の構造

【課題】 貯槽の屋根天頂部近傍に設けた散水設備からの散水が飛散することなく側壁に沿って効率良く流下するように、従来構造よりも簡単な構造部材で形成し、取付け施工が容易でかつ供用中の貯槽への取付施工を可能とする貯槽の屋根散水設備の構造を提供する。
【解決手段】 屋根散水設備からの散水を側壁面にも流下するように流路を変更させる散水構造であって、この散水構造は、ガイド板状のバッフル板と取付け部材とで一体化し、強力な永久磁石を用いて屋根周縁部へ固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧縮ガス、液化ガス、石油等の可燃物を貯蔵する貯槽について、貯槽の屋根天頂部近傍に設けた散水設備からの屋根散水設備を側壁にも効果的に流下が可能とし、構築性を良くした貯槽の屋根散水設備の構造に関するものである。

【背景技術】
【0002】
図6に基づいて、貯槽に設ける屋根散水設備と側散水設備について説明する。
貯槽1は、ドーム形状や円錐形状からなる屋根2と直立円筒形状の側壁3とで形成されている。
火災時の消火、隣接火災時の輻射熱の冷却、着雪や積雪防止などのため、貯槽の散水設備は屋根及び側壁の全面に流下させることが求められている。
従来一般には、屋根2の天頂部近傍に屋根散水設備4が設けられ、側壁3の上端近傍に側散水設備14が設けられている。
屋根散水設備4からは矢印aに示すように散水し、側散水設備14からは矢印bに示すように散水している。

【0003】
図7は、屋根散水設備4を利用して側壁3にも散水することができるように、屋根2外周縁部に、例えば断面コの字状、つまり溝状の樋17を設けた事例であり、屋根散水設備4から矢印aに示す散水が樋17によって方向転換されて、側壁3に沿って降下するように形成されている。この溝状の樋17は、側トップリング15の上面にその先端を囲むように、固定部材16にて枢支され回動構造に形成されている。
【0004】
原油等揮発性の液体を貯蔵する貯槽の周壁を冷却するための散水設備に関する従来技術には、本出願人による特許文献1の実公昭57−5357号「貯蔵タンクの冷却装置」がある。この考案は、側面に一定の間隔でブラケットを突設固着した複数のバンドブロックを、断熱材でスプリングを組込んだ伸縮自在の接続具を介して、タンク周壁外面に一連の環状バンドとして締着固定し、さらにそのバンド各部のブラケットに散水管ないし集水板を取付けたものである。
【0005】
屋根散水設備を側板に案内させて流下させるようにした上記図7に示す従来技術には、例えば特許文献2の実公昭59−43280号「タンクの屋根構造」がある。この考案は、起立した側板上にその周縁部が支持されタンクの上部を覆う屋根において、該屋根の周縁部に、これに沿って囲繞し上記側板の上方に臨んで開口された溝を有する樋を枢支させて取付け、この樋で屋根に沿って流下する散水を側板に案内させて流下させるように構成した屋根構造である。
【0006】
また、屋根散水設備を積雪防止と側壁への散水に利用して散水設備の効率化を図る従来技術としては、本出願人による特許文献3の特許第4423578号「屋根歩廊」がある。この発明は、屋根歩廊の床体を回動自在に取付けるとともに、その隙間から屋根散水設備を流下させ、さらに側散水設備を屋根の接線方向に向けて噴出するように設置したものである。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実公昭57−5357号公報
【特許文献2】実公昭59−43280号公報
【特許文献3】特許第4423578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6に示す従来例の貯槽1は、屋根散水設備4から散水を行う場合、水の流速により貯槽の外周に放散され側壁面を流下しないため、別途、側散水設備14が必要となり、散水設備が複数必要でかつ構造も大掛かりとなった。
【0009】
従来例、特許文献1の実公昭57−5357号「貯蔵タンクの冷却装置」の考案は、散水管ないし集水板を、スプリングを組込んだ伸縮自在の接続具を介してタンク側壁外面に一連の環状バンドとして締着固定するため、供用中の貯槽にも溶接等の火気を使用することなく取付けることができるが、集水板の接続具の部材が複雑化し、かつ屋根周縁に近い肩部となる側板上端縁に締着状態に取付ける構造としては適していなかった。
【0010】
従来改善例、特許文献2の実公昭59−43280号「タンクの屋根構造」の考案は、図7に示すように屋根散水設備4を側壁3に効率良く散水することができるように屋根2外周縁部に溝状の樋17を設けた構造であるが、流水を方向転換する樋の構造及びその枢支させる取付け構造が複雑となり、供用中の貯槽については溶接施工するため適用できなかった。また、取付け施工及び使用時のメンテナンスが大変であった。
【0011】
また、従来例の特許文献3、屋根散水設備を側壁への散水に利用して散水設備の効率化と軽減化を図るようにした本出願人による特許第4423578号「屋根歩廊」の発明は、屋根歩廊の床体を回動自在に取付けるとともに、その隙間から屋根散水設備を流下させ、さらに側散水設備を屋根の接線方向に向けて噴出するように設置したものであるが、屋根歩廊がある場合に適用するものであって、側散水設備も必要でありその構造が複雑になった。
【0012】
この発明は上述のような従来技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、貯槽の屋根天頂部近傍に設けた散水設備からの散水が飛散することなく側壁に沿って効率良く流下するように、従来構造よりも簡単な構造部材で形成し、取付け施工が容易でかつ供用中の貯槽への取付施工を可能とする貯槽の屋根散水設備の構造を提供することにある。

【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造は、屋根散水設備からの散水を側壁面にも流下するように流路を変更させる散水構造であって、この散水構造は、ガイド板状のバッフル板と取付け部材とで一体化し、強力な永久磁石を用いて屋根周縁部へ固定することを特徴とする。
【0014】
請求項2の発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造は、請求項1の散水構造のバッフル板は傾斜させて設ける平板構造に形成し、このバッフル板の取付部材は屋根サポートと側サポートのそれぞれに永久磁石を設けて屋根周縁部の屋根と側壁の隔離した交互の位置に固着することを特徴とする。

【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造は、屋根散水設備からの散水を側壁面にも流下するように流路を変更させる散水構造であって、この散水構造は、ガイド板状のバッフル板と取付け部材とで一体化し、強力な永久磁石を用いて屋根周縁部へ固定するので、流れを方向転換させるガイド板となるバッフル板によって屋根から側壁に向けて、屋根散水設備が飛散することなく側板面に沿って流れるため、側板用散水設備が不要となり、またバッフル板を一体パネル化して強力な永久磁石で固定するので、取付け施工が簡単となり、溶接の火を使わないため、貯槽供用時でも施工できる。
【0016】
請求項2の発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造は、請求項1の散水構造のバッフル板は傾斜させて設ける平板構造に形成し、このバッフル板の取付部材は屋根サポートと側サポートのそれぞれに永久磁石を設けて屋根周縁部の屋根と側壁の隔離した交互の位置に固着するので、平板構造のバッフル板に屋根サポート及び側サポートを予め工場で取付け、現場にて永久磁石で固定する構造によって、大掛かりな工事とならず安全性を向上することができ、また簡単な取付け改造構造にて設置し、消火、冷却、融雪、除雪に使用することができる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造を示す全体設置状況の斜視説明図である。
【図2】図1の部分拡大斜視説明図である。
【図3】散水構造の実施形態の側断面説明図である。
【図4】構成部材の斜視説明図である。
【図5】図4の部分拡大説明図、A−A線の断面説明図、B−B線の断面説明図である。
【図6】従来一般の散水設備の設置状況説明図である。
【図7】従来改善例の屋根散水設備の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造について、図1乃至図5を参照しながら説明する。
図1乃至図5にわたって同一の用語には同一の符号を使用し、各符号の説明は一部を省略している。この実施形態は、既設又は新規建設の貯槽の屋根散水設備の構造に適用する。
また、本発明は下記の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で下記の実施形態に変更(例えば構成要素の省略又は付加、構成要素の形状の変更等)を加えることが出来るのはもちろんである。
【0019】
図1は、この発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造を示す全体設置の実施形態の斜視説明図である。
直立円筒形状の貯槽1は、ドーム形状や円錐形状からなる屋根2と、直立円筒形状の側壁3とからなり、その屋根2の天頂部近傍には散水設備として屋根散水設備4が設けられている。この屋根散水設備4はリング状に形成され、散水ノズルから屋根外周に向かって平均に散水するように形成されている。
この屋根散水設備4からの散水を側壁3にも流下するように、流路を変更し側壁面に沿って流下させる散水構造6を側壁3の肩上部となる屋根周縁部5に固定する。この散水構造6は、屋根に沿って流れてきた散水を側壁へと案内するガイド板状のバッフル板7とその取付け部材8とで一体化して形成する。このバッフル板7は平板で形成し、取付け部材8には強力な永久磁石を用いる。
このように、バッフル板7を設けることにより、屋根散水設備5が貯槽周囲に飛散することなく側壁の表面に沿って流れるため、側板専用の散水設備が不要となる。
【0020】
図2は、図1の部分拡大斜視説明図を示す。
散水構造6のバッフル板7を固定する取付け部材8は、屋根サポート8aと側サポート8bの各位置に、強力な永久磁石9を設けて、この永久磁石9を設けた屋根サポート8aと側サポート8bは屋根周縁部5の屋根2と側壁3に跨るように、それぞれ隔離して千鳥状の交互位置に固着する。
【0021】
図3は、散水構造6の実施形態を示す側断面説明図である。
バッフル板7は、屋根2から斜め下方に向かって流下する散水をはね返して方向転換させ、垂直下方に向け側壁3に沿って流下するように設けるガイド板、つまり反射させ収束させる傾斜させた平板構造に形成する。図示例はバッフル板7を薄い厚さの平板で形成し、垂直から斜め内側、つまり下方が狭くなる方向に適度に傾斜角度を持たせた長いリングのロート状に設けた場合を示す。このロート状のバッフル板7は、屋根2からの所定水量の散水がバッフル板7を乗り越え、オーバーフローすることがないように、屋根周縁部5から上方の所定高さに立ち上げて設ける。
上記バッフル板7の傾斜角度と立上げ高さは、散水量に対応して適性に流路の方向転換ができるように設定しておく。
なお、上記バッフル板7は断面平板形状に形成した場合を示したが、散水量と流水方向に対応して、断面略L字形状、上下何れかの端縁を折り曲げた形状、或いは湾曲させた形状の簡単な板形状に形成しても良い。
【0022】
このバッフル板7を固定する取付け部材8は、図のように断面変形くの字状に上方へ向けて折り曲げた構造の屋根サポート8aと、断面台形この字状に折り曲げた構造の側サポート8bとで形成する。この屋根サポート8aと側サポート8bの各先端位置に強力な永久磁石9a,9bを取付具10a,10bによって取付け、この各永久磁石9a,9bを屋根周縁部5の屋根2と側壁3に跨った所定の適正位置に合わせて固着する。
【0023】
このように、屋根及び側壁を構成する磁性体部へは、強力な永久磁石9で固定するため、現地での固定が簡単となる。
永久磁石9としては、例えばネオジムなどの強力磁石でその材質は、ネオジム、鉄、ホウ素などの化合物で、吸着力は約22kg(直径30ミリメートルで厚さ10ミリメートルの円板で、使用温度は最大摂氏80度の場合)を使用できる。
なお、永久磁石9の表面はメッキやコーティングによって保護し、さらに周辺部位は必要に応じて塗装やコーティング等によって保護する。
【0024】
図4は、散水構造6の構成部材であるバッフル板7単体の全体斜視説明図である。
このバッフル板7単体は、工場にて断面変形くの字状に上方へ向けて折り曲げた屋根サポート8aと、断面台形この字状に折り曲げた構造の側サポート8bとをそれぞれ隔離し、交互の千鳥状位置に溶接によって取付け一体化パネル化する。この取付けの際に、薄いバッフル板7は溶接の熱によって図の上側に向けて自然に変形し湾曲するため、屋根周縁及び側壁の円筒形に沿った形状に敢えて湾曲させるプレス加工やロール加工の必要がなく製作加工がしやすい。さらに、取付け固定時に使用する強力な永久磁石の配置に従って、その磁力で薄いバッフル板7を適正になじませ湾曲させることができる。
このバッフル板7単体を現地へ搬送し、現地にて接続板11を用いてボルトとナットで順次複数連結しリング状に形成する。このバッフル板7の接続板11は、現地での組立て時に長さ調整が可能となるように長孔を設けておく。
このように、一体パネル化した簡単で軽量な構成部材、つまりバッフル板7単体を使用するため、大掛かりな現地工事とはならない。
【0025】
図5は、図4の部分拡大説明図、A−A線の屋根サポート8aの断面説明図、B−B線の側サポート8bの断面説明図である。
A−A線の断面図に示すように、屋根サポート8aは、断面くの字状の幅板材を固着して使用し、永久磁石9aの中心部にねじ穴を設けておき、十字穴付き皿ねじと締付けナット及び緩み防止のイダリングとからなる取付具10aで取付け装着する。
B−B線の断面図に示すように、側サポート8bは、断面コの字状の幅板材を固着して使用し、永久磁石9bの中心部にねじ穴を設けておき、十字穴付き皿ねじとナット及びイダリングとからなる取付具10bで取付け装着する。
なお、永久磁石9a及び永久磁石9bは、工場で装着する場合は鉄粉や他の部材が付着などしないように覆い等で防御して運搬し、或いは現地に搬送した後の構築時に装着を行う。
【0026】
強力な永久磁石9を採用し位置決めして磁力で付着させるだけで定位置に動かないように固定できるため、現地での取付け固定の施工が簡単で、部材同士を溶接で固着する場合のような火気を使わずグラインダ処理のような仕上げ加工も必要がないため、貯槽ヤード周囲の設備に影響されることなく、貯槽供用時でも施工が可能となる。
【0027】
また、永久磁石9による固定は、上述のようにバッフル板7の固定用の構造部材として設備に残存させる他に、組立て途中の一時的な仮留め用の固定部材として落下防止や安全対策に使用することも可能である。この場合には、永久磁石9を用いて単体のバッフル板7を順次取付け固定して行き、円周のリング状にバッフル板7を確りと締付け固定した後には永久磁石9を除去しても移動や落下することがなく、屋根周縁部5の上下位置に跨って掛け渡した載置状態となって安定し固定される。

【産業上の利用可能性】
【0028】
この発明に係る貯槽の屋根散水設備の構造は、既設の散水設備の改造工事のみならず、新規の散水設備の構築に使用し、火災発生時の消火、隣接火災発生時の輻射熱の冷却、積雪防止、融雪、除雪など広範囲に適用することができる。

【符号の説明】
【0029】
1 貯槽
2 屋根
3 側壁
4 屋根散水設備
5 屋根周縁部
6 散水構造
7 バッフル板
8 取付け部材
8a屋根サポート、8b側サポート
9、9a、9b 永久磁石、
10、10a、10b 取付具、
11 連結材
14 側散水設備
15 側トップリング
16 固定部材
17 樋




【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根散水設備からの散水を側壁面にも流下するように流路を変更させる散水構造であって、この散水構造は、ガイド板状のバッフル板と取付け部材とで一体化し、強力な永久磁石を用いて屋根周縁部へ固定することを特徴とする貯槽の屋根散水設備の構造。
【請求項2】
請求項1の散水構造のバッフル板は傾斜させて設ける平板構造に形成し、このバッフル板の取付部材は屋根サポートと側サポートのそれぞれに永久磁石を設けて屋根周縁部の屋根と側壁の隔離した交互の位置に固着することを特徴とする貯槽の屋根散水設備の構造。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−231914(P2011−231914A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105418(P2010−105418)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000147729)株式会社石井鐵工所 (67)
【Fターム(参考)】