説明

貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法

【課題】貴金属ナノ粒子が高密度で分散しており、貴金属ナノ粒子間の距離が短く、及び/又は、貴金属ナノ粒子の径が小さい貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】貴金属を含む貴金属ナノ粒子と、前記貴金属ナノ粒子より電気比抵抗が高い無機材料とを備え、前記貴金属ナノ粒子の面内数密度は、4.0×104個/μm2以上3.0×106個/μm2以下である貴金属ナノ粒子分散薄膜、及び、パルスレーザーアブレーションを用いて基板上に貴金属ナノ粒子と無機材料からなる薄膜を形成するアブレーション工程を備えた貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、無機材料からなるマトリックス中に貴金属ナノ粒子が分散している貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属は、極めて安定な物質であり、かつ、触媒作用、電気伝導性、光学的機能などの優れた機能的特性を有している。さらに、貴金属をナノサイズ化すると、バルクに比べて特性が向上したり、新規な特性が発現する可能性がある。しかしながら、貴金属ナノ粒子は、熱的に不安定であり、温度上昇により容易に凝集しやすいという問題がある。
一方、貴金属ナノ粒子を無機材料からなるマトリックス中に分散させると、貴金属ナノ粒子の耐熱性が向上する。そのため、貴金属ナノ粒子と無機材料からなる緻密な薄膜を基板上に形成することにより、バルク貴金属を上回る特性、あるいは新規特性を発現することが期待される。これらの特性は、サーミスタ、力学量センサ、非線形光学材料、光電極等の各種デバイス、センサ、あるいは、電極、触媒などに利用できる可能性がある。
【0003】
貴金属ナノ粒子を高い面内数密度で無機材料中に分散させた複合薄膜を基板上に形成する方法については、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、SiO2ターゲット上に48本のAu線を対称に配置し、RFマグネトロンスパッタ装置を用いて、SiO2とAuを同時にアルゴンプラズマ中で基板上にスパッタ蒸着する超高密度貴金属ナノ粒子分散コンポジット薄膜の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1) スパッタ時間が短くなるほど、Auナノ粒子の数密度が大きくなる点、及び、
(2) スパッタ時間を2分間とすると、Auナノ粒子の数密度が14000個/μm2、Auナノ粒子の平均サイズが2.6nm、Auナノ粒子の平均距離が8.5nmであるAu/SiO2ナノコンポジット薄膜が得られる点、
が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1には、マトリックスとなるSiO2と、マトリックス中に埋め込まれるナノ粒子となるAuとを、室温において交互にスパッタリングする複合薄膜の製造方法が開示されている。
同文献には、
(1) 複合薄膜中の粒子サイズ及び体積割合は、金属粒子層の見かけの厚さ及びシリカ層に対する金属粒子層の相対比率を調節することによって制御することができる点、
(2) 同時スパッタは、粒子径が小さく、粒子間隔が狭く、粒子の一部が接触している薄膜が得られるのに対し、交互スパッタは、粒子径が相対的に大きく、粒子間隔も広い薄膜が得られる点、及び、
(3) 同時スパッタにより、面密度が3.36/(10×10nm2)、平均粒子径が2.12nmである薄膜が得られるのに対し、交互スパッタにより、面密度が1.56/(10×10nm2)、平均粒子径が3.38nmである薄膜が得られる点、
が記載されている。
【0005】
また、非特許文献2には、ホスト材料(通常は、絶縁性のセラミックス)に数十〜数千kVに加速された高エネルギーイオンを注入するナノ複合体の製造方法が開示されている。
同文献には、ホスト材料に多量の高エネルギーイオンが注入されると、表面から数十〜数百nmの表面領域に過飽和固溶体が形成され、この過飽和固溶体に対して熱処理又はさらなるイオン注入を行うことによって、注入された材料が大きさの異なる不連続なナノ粒子として析出する点が記載されている。
【0006】
さらに、非特許文献3には、Au塩溶液をテトラエトキシシラン/エタノール溶液に滴下して数分間激しく攪拌し、溶液を40℃で2時間熟成した後、この溶液をソーダライムガラス基板上にディップコートし、100〜500℃で熱処理するAu-SiO2薄膜の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、Au粒子の体積含有率が0.73%であり、粒子直径が約10nmであるAu-SiO2薄膜が得られる点が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−93589号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films 447-448(2004)68-73
【非特許文献2】Adv.Mater. 13(2001)1431
【非特許文献3】Journal of Non-Crystalline Solids 211(1997)143-149
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のナノ粒子分散薄膜の製造方法は、いずれも、
(1) 貴金属ナノ粒子を高密度で分散できない、
(2) 貴金属ナノ粒子間の距離を短くできない、
(3) 貴金属ナノ粒子の径を小さくできない、
などの問題があった。
従来法の中で、同時スパッタ法は最も問題の少ない方法である。しかしながら、この方法によって形成したAuナノ粒子−SiO2複合体においても、Auナノ粒子の面内数密度は14000個/μm2、Auナノ粒子の平均径は2.6nm、Auナノ粒子の平均距離は8.5nmに止まっている。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、貴金属ナノ粒子が高密度で分散しており、貴金属ナノ粒子間の距離が短く、及び/又は、貴金属ナノ粒子の径が小さい貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜は、
貴金属を含む貴金属ナノ粒子と、
前記貴金属ナノ粒子より電気比抵抗が高い無機材料とを備え、
前記貴金属ナノ粒子の面内数密度は、4.0×104個/μm2以上3.0×106個/μm2以下であることを要旨とする。
また、本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法は、パルスレーザーアブレーションを用いて基板上に貴金属ナノ粒子と無機材料からなる薄膜を形成するアブレーション工程を備えていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
無機材料を構成する金属と貴金属とを含む合金ターゲット若しくは複合ターゲットを用いて、所定の雰囲気下でパルスレーザーアブレーションを行うと、無機材料を構成する金属が雰囲気中の酸素、窒素、炭素等と反応し、酸化物、窒化物、炭化物等となって基板上に析出し、貴金属は、雰囲気中の酸素等と反応することなくそのまま貴金属ナノ粒子として基板上に析出する。また、無機材料と貴金属とを含む複合ターゲットを用いたときには、無機材料と貴金属がそのまま基板上に析出する。
この時、ターゲット組成、ターゲットの回転数、パルスレーザーアブレーション時の真空度等を制御すると、ナノ粒子の粒子間隔、平均粒径、及び面内数密度を制御することができる。さらに、レーザーアブレーション法は、スパッタ法に比べて粒子のエネルギーが高く、微細な粒子が生成されやすい。そのため、従来より高い面内数密度を持つ貴金属ナノ粒子分散薄膜が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 貴金属ナノ粒子分散薄膜]
初めに、本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜について説明する。本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜は、貴金属ナノ粒子と、無機材料とを備えている。
【0013】
[1.1. 貴金属ナノ粒子]
貴金属ナノ粒子は、無機材料からなるマトリックス中に分散している。貴金属としては、具体的には、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osなどがある。貴金属ナノ粒子は、これらの貴金属元素のいずれか1種が含まれていても良く、あるいは、これらの2種以上を含む合金であっても良い。
また、貴金属ナノ粒子は、1種又は2種以上の貴金属元素のみを含むものでも良く、あるいは、貴金属元素に加えて卑金属元素が含まれていても良い。貴金属元素が持つ触媒作用、電気伝導性、光学的機能などの優れた機能特性を発現させるためには、貴金属ナノ粒子に含まれる貴金属元素の含有量は、40at%以上が好ましい。
さらに、薄膜に含まれる貴金属ナノ粒子は、同一組成を有する単一の材料からなるものでも良く、あるいは、2以上の異なる組成を有する複数の材料の混合物であっても良い。
【0014】
本発明において、貴金属ナノ粒子の面内数密度は、4.0×104個/μm2以上3.0×106個/μm2以下であることを特徴とする。ここで、「面内数密度」とは、薄膜の表面に対して垂直方向から観察したときの単位面積当たりの貴金属ナノ粒子の個数をいう。
一般に、貴金属粒子をナノサイズ化すると同時に、貴金属粒子間の距離をナノオーダーにすると、近接場効果、あるいはトンネル障壁効果(いわゆる、量子サイズ効果)が強く発現する。これらの効果を発現させるためには、貴金属ナノ粒子の面内数密度は高いほどよい。面内数密度は、具体的には、4.0×104個/μm2以上が好ましい。
一方、面内数密度が高くなりすぎると、貴金属ナノ粒子の間隔が狭くなりすぎ、貴金属ナノ粒子が熱的に不安定となりやすい。従って、面内数密度は、3.0×106個/μm2以下が好ましい。
【0015】
一般に、貴金属ナノ粒子の平均直径が小さくなるほど、量子サイズ効果が強く発現する。そのためには、貴金属ナノ粒子の平均直径は、10nm以下が好ましい。
一方、貴金属ナノ粒子の平均直径が小さくなりすぎると、貴金属ナノ粒子が熱的に不安定となりやすい。従って、貴金属ナノ粒子の平均直径は、0.5nm以上が好ましい。
【0016】
一般に、貴金属粒子間の平均距離が短くなるほど、量子サイズ効果が強く発現する。そのためには、貴金属ナノ粒子間の平均距離は、2nm以下が好ましい。
一方、貴金属ナノ粒子間の平均距離が短くなりすぎると、貴金属ナノ粒子が熱的に不安定となりやすい。従って、貴金属ナノ粒子間の平均距離は、0.2nm以上が好ましい。
【0017】
[1.2. 無機材料]
本発明において、マトリックスを構成する無機材料は、貴金属ナノ粒子より電気比抵抗が高い材料が用いられる。
貴金属又はこれを含む合金は、一般に、電気比抵抗が相対的に小さい。そのため、貴金属ナノ粒子と、これより電気比抵抗が高い無機材料とを組み合わせて用いると、薄膜全体の電気抵抗を任意に制御することができる。薄膜全体の電気抵抗を広範囲にわたって制御するためには、無機材料の電気比抵抗は、10-4Ωcm以上が好ましく、さらに好ましくは、10-2Ωcm以上、さらに好ましくは、1Ωcm以上である。
【0018】
無機材料としては、具体的には、
(1)Al23、TiO2、ZnO、MgO、SiO2、ZrO2、CeO2、Fe23、La23、SnO2、Y23などの単純酸化物、及び、3Al23・2SiO2、MgO・SiO2、2MgO・SiO2、BaTiO3などの複合酸化物、
(2)SiC、TiC、ZrC、NbC、TaC、WCなどの炭化物、
(3)Si34、BN、AlN、GaN、TiNなどの窒化物、
(4)酸化物、炭化物、及び窒化物から選ばれるいずれか2種以上からなる複合体(2種以上の無機材料の混合物、固溶体など)、
などがある。
【0019】
一般に、無機材料の電気比抵抗が高くなるほど、薄膜全体の電気抵抗を高くすることができる。また、貴金属ナノ粒子及び無機材料の組成に加えて、貴金属ナノ粒子の面内数密度、平均粒径、粒子間の平均距離等を最適化すると、薄膜全体の電気抵抗を広範囲にわたって制御することができる。具体的には、これらの条件を最適化することによって、薄膜全体の電気抵抗が10Ω以上100GΩ以下である貴金属ナノ粒子分散薄膜が得られる。なお、本発明において「薄膜の電気抵抗」とは、2端子法により5mmの端子間距離にて測定された値をいう。
薄膜の厚さは、特に限定されるものではなく、後述する製造条件を最適化することにより、任意に制御することができる。但し、薄膜の厚さが薄くなりすぎると、熱的に不安定となりやすい。従って、薄膜の厚さは、2nm以上が好ましい。
【0020】
[2. 貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法]
次に、本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法について説明する。本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法は、アブレーション工程を備えている。
アブレーション工程は、パルスレーザーアブレーションを用いて基板上に貴金属ナノ粒子と無機材料からなる薄膜を形成する工程である。
「パルスレーザーアブレーション」とは、所定の真空度に保持された容器内にターゲット及び基板を配置し、ターゲットを所定の回転速度で回転させながらターゲットの表面にパルスレーザーを照射し、レーザー光によりターゲット表面から飛び出した粒子を基板表面に堆積させる方法をいう。
【0021】
[2.1. 基板]
基板の材質は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。基板としては、具体的には、シリカガラス、ソーダライムガラス、Siウェハ、サファイア、アルミナ焼結体、Si34焼結体、SiC焼結体などを用いることができる。
【0022】
[2.2. ターゲット]
ターゲットの組成及び構造は、目的に応じて最適なものを選択する。
ターゲットとしては、具体的には、
(1) 貴金属ナノ粒子を構成する第1の金属と無機材料を構成する第2の金属との合金又は複合体、
(2) 貴金属ナノ粒子を構成する第1の金属と無機材料との複合体、
などがある。
【0023】
「複合体」とは、第1の金属と第2の金属又は無機材料とが独立にターゲット表面に配置されているものをいう。
複合体としては、具体的には、
(1) 第1の金属からなり、かつ、所定の形状を有する小板(例えば、半円板)と、第2の金属又は無機材料からなり、かつ、所定の形状を有する小板(例えば、半円板)とを、端面において接合し、板状(例えば、円板)にしたもの、
(2) 第2の金属又は無機材料からなる板の表面に、第1の金属からなる小片(小板、細線など)を対称又は非対称に配置したもの、
(3) 第1の金属からなる板の表面に、第2の金属又は無機材料からなる小片(小板、細線など)を対称又は非対称に配置したもの、
などがある。
この場合、複合体に照射されるレーザ光の軌跡の面積に占める第1の金属の面積の割合を制御すると、薄膜中に含まれる貴金属ナノ粒子の割合を制御することができる。
【0024】
[2.3. アブレーション条件]
アブレーション条件は、薄膜に含まれる貴金属ナノ粒子の面内数密度、平均直径、粒子間の平均距離に影響を与える。
一般に、ターゲットの回転数が高くなるほど、貴金属ナノ粒子の平均直径は小さくなる傾向がある。
また、一般に、パルスレーザーアブレーション時の容器内の真空度が低くなるほど、貴金属ナノ粒子の平均直径は小さくなる傾向がある。但し、真空度が低くなりすぎると、基板表面に粒子が堆積し、緻密な薄膜は得られない。
また、一般に、ターゲットに含まれる第1の金属/(第2の金属又は無機材料)の比率が大きくなるほど、粒子間の平均距離が小さくなる傾向がある。
【0025】
ターゲットとして、第1の金属と第2の金属の合金又は複合体を用いた場合には、第2の金属から酸化物、窒化物、炭化物等を生成させるために、容器内に、酸素源、窒素源、炭素源等となる微量のガスを導入する。容器内に一定量のガスが含まれていると、ターゲット表面にある第2の金属、及び/又は、ターゲットから放出された第2の金属からなる微粒子が容器内のガスと反応し、酸化物等となって基板上に析出する。
容器内に微量に導入するガス種は、第2の金属の組成や、合成される薄膜に要求される組成・特性等に応じて最適なものを選択する。酸素源としては、具体的には、空気、酸素ガスなどがある。窒素源としては、窒素ガス、アンモニアガスなどがある。炭素源としては、メタン、エタン、プロパンなどがある。
第2の金属から酸化物を生成させる場合、単に容器内を所定の真空度となるまで真空排気すれば良い。一方、空気以外のガスを用いて第2の金属から無機材料を生成させる場合には、容器内を真空排気した後、容器内に所定量のガスを導入すれば良い。
【0026】
ターゲットとして、第1の金属と第2の金属の合金又は複合体を用いた場合において、パルスレーザーアブレーション時の容器内の真空度は、無機材料の組成や薄膜の性状に影響を与える。
一般に、容器内の真空度が高すぎると、第2の金属が酸化物等になることなく、そのまま基板上に析出する。第2の金属から無機材料を生成させるためには、容器内の真空度は、2×10-6Torr(2.66×10-4Pa)以上が好ましい。
一方、容器内の真空度が低すぎると、基板表面に粒子が堆積し、緻密な薄膜が得られない。従って、容器内の真空度は、0.1Torr(13.3Pa)以下が好ましい。
真空度は、第2の金属の組成、使用するガス種、薄膜に要求される特性等に応じて、最適な真空度を選択するのが好ましい。
【0027】
一方、ターゲットとして、第1の金属と無機材料からなる複合体を用いた場合、容器内の真空度によらず、貴金属ナノ粒子と無機材料からなる薄膜が得られる。但し、真空度が低くなりすぎると、緻密な薄膜が得られない。従って、レーザーアブレーション時の容器内の真空度は、0.1Torr(13.3Pa)以下が好ましい。
【0028】
[2.4. 追加の処理]
上述のようにして得られた薄膜は、そのまま各種の用途に使用することもできるが、追加の処理を行っても良い。
追加の処理としては、具体的には、
(1) 構造を安定化させたり、あるいは結晶化を促進させるための熱処理、
(2) 無機材料が酸化物からなる場合において、不足している酸素を補うための酸化処理、
などがある。
【0029】
次に、本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法の作用について説明する。
無機材料を構成する金属と貴金属とを含む合金ターゲット若しくは複合ターゲットを用いて、所定の雰囲気下でパルスレーザーアブレーションを行うと、無機材料を構成する金属が雰囲気中の酸素、窒素、炭素等と反応し、酸化物、窒化物、炭化物等となって基板上に析出し、貴金属は、雰囲気中の酸素等とあまり反応することなくそのまま貴金属ナノ粒子として基板上に析出する。また、無機材料と貴金属とを含む複合ターゲットを用いたときには、無機材料と貴金属がそのまま基板上に析出する。
この時、ターゲット組成、ターゲットの回転数、パルスレーザーアブレーション時の真空度等を制御すると、ナノ粒子の粒子間隔、平均粒径、及び面内数密度を制御することができる。さらに、レーザーアブレーション法は、スパッタ法に比べて粒子のエネルギーが高く、微細な粒子が生成されやすい。そのため、従来より高い面内数密度を持つ貴金属ナノ粒子分散薄膜が得られる。
得られた薄膜は、貴金属粒子がナノサイズ化しており、しかも貴金属粒子間の距離がナノオーダーであるので、近接場効果、あるいはトンネル障壁効果などの各種の量子サイズ効果が強く発現する。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
Pt板(□20×1mm)と、金属Zr板(□10×1mm)を準備し、金属Zr板をPt板の上に接着し、複合体ターゲットとした。このターゲットを、真空槽内の回転機構を有するターゲット保持具に設置した。レーザーをレンズにより絞り、ターゲット表面にて、φ3.5mmの照射径になるように調整した。また、ターゲット表面でのレーザー照射位置は、ターゲットの中心から約8mmの位置とした。Pt板上に貼り付ける金属Zr板の面積を変えて、PtとZrの比率(照射時間比)を60:40に調整した。ターゲットの回転数は12rpmとした。
基板には石英ガラス板(15×40×0.5mm)又はSiウェハを用い、ターゲットから約110mmの位置に配置した。
【0031】
ターゲット及び基板を設置後、所定の真空度又は所定の酸素雰囲気下でレーザーをターゲットに照射して、基板上に薄膜を成膜した。成膜時間は、10分間とした。成膜時の真空度は、10-3Torr(0.133Pa)とした。低真空度で成膜した理由は、Zrターゲットの照射面の選択酸化と、Zrアブレータの飛散中の酸化と、Zrアブレータの基板上での酸化により、基板上にZr酸化物を堆積させるためである。
【0032】
[2. 試験方法]
得られた薄膜をTEM観察し、貴金属ナノ粒子の平均直径、粒子間の平均距離、及び面内数密度を算出した
また、2端子法により、薄膜の電気抵抗を測定した。
【0033】
[3. 結果]
得られた薄膜は緻密であり、薄膜の厚みは70nmであった。また、2端子法による薄膜の電気抵抗値は、7.1MΩであった。
図1に、薄膜のTEM写真を示す。黒い粒子がPt粒子であり、その周りをZr酸化物が配する構造であった。Pt粒子の平均径は1.6nm、平均粒子間距離は0.6nm、面内数密度は2.2×105個/μm2であった。
【0034】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
成膜時の真空度を0.01Torr(1.33Pa)とした以外は、実施例1と同一条件下で薄膜を作製した。
[2. 結果]
得られた薄膜は緻密であり、Pt粒子の平均径は1.2nmであった。また、得られた膜の2端子法による電気抵抗は、14MΩであった。
【0035】
(実施例3、比較例1)
[1. 試料の作製]
PtとZrの比率(照射時間比)が75:25及び50:50となるように、金属Zr板の面積を調整し、レーザー照射時の真空度を0.01Torr(1.33Pa)とした以外は、実施例1と同一条件下で薄膜を作製した。
[2. 試験方法]
石英ガラス基板上に形成した薄膜にφ0.2mmの白金線をAgペーストにて5mmの間隔で接着後、550℃で焼き付けた。これを環状炉に設置して、2端子法により500℃までの電気抵抗を約6℃毎に測定した。比較のため、パルスレーザーアブレーション法により石英ガラス基板上に形成したPt薄膜(比較例1)についても同様の方法により、電気抵抗を測定した。
[3. 結果]
図2に、実施例3、及び比較例1で得られた薄膜の電気抵抗の温度依存性を示す。Pt薄膜の電気抵抗は、バルクPtと同様な正温度係数を示した。一方、Ptナノ粒子−ZrO2薄膜は、いずれも負温度係数を示した。この負温度係数は、高面内数密度のPtナノ粒子がサブnmの絶縁体を介して配置していることによると考えられる。
【0036】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
ターゲット回転数を36rpmとした以外は、実施例2と同一条件下で薄膜を作製した。
[2. 結果]
得られた膜は緻密であった。また、Pt粒子の平均径は0.8nmであり、実施例2で得られたPt粒子よりさらに小さい粒子が得られた。
【0037】
(比較例2)
[1. 試料の作製]
成膜時の真空度を0.5Torr(66.5Pa)とした以外は、実施例1〜4と同一条件下で薄膜を作製した。
[2. 結果]
いずれの条件下でも、緻密な膜は得られなかった。微細な粒子が堆積しているだけであり、これらの粒子は簡単に掻き取れた。
【0038】
(実施例5)
[1. 試料の作製]
金属Zr板に代えて、Al、Ti、Si、Y、Ce、又はLaからなる金属板を用いた以外は、実施例3と同一条件下で薄膜を作製した。Ptと金属板の比率(照射時間比)は、75:25とした。
[2. 試験方法]
石英ガラス基板上に形成した薄膜に対し、大気中、400℃×1hrの熱処理を施した後、室温にて2端子法により電気抵抗変化を評価した。
【0039】
[3. 結果]
TEM観察の結果、いずれの薄膜も緻密であることを確認した。Pt−Yターゲットを用いた場合、Ptナノ粒子の平均径は、2.4nm、平均粒子間距離は、0.5nm、面内数密度は、2.5×105個/μm2であった。
表1に、Pt−金属ターゲットを用いて作製した各種薄膜の400℃大気中熱処理前後の2端子電気抵抗を示す。また、表1には、Pt−Zrターゲットを用いた場合(実施例3)、及びPtターゲットを用いた場合(比較例1)の結果も併せて示した。表1より、本実施例で得られた各種薄膜及び実施例3で得られた薄膜は、400℃熱処理後においても電気抵抗に大きな変化はなく、Ptナノ粒子及び構造がこの温度まで安定であることを示している。
【0040】
【表1】

【0041】
(比較例3)
[1. 試料の作製]
成膜時の真空度を0.5Torrとした以外は、実施例5と同一条件下で成膜を行った。
[2. 結果]
いずれの条件下でも、緻密な膜は得られなかった。微細な粒子が堆積しているだけであり、これらの粒子は簡単に掻き取れた。
【0042】
(実施例6)
[1. 試料の作製]
Pt板に代えてAu板(□20×1mm)を用い、Zr板に代えてTi板(□10×1mm)を用いた点、及びAu:Tiの比率が50:50又は75:25となるようにTi板の面積を調整した以外は、実施例1と同一条件下で成膜を行った。
[2. 結果]
いずれの条件下でも、緻密な膜が得られた。また、石英ガラス基板上に形成した薄膜の2端子法による電気抵抗は、15.2kΩ(50:50)、又は770Ω(75:25)であった。
図3に、Au:Ti比が50:50のターゲットを用いて作製した薄膜のTEM像を示す。図3の場合、Au粒子の平均径は2.1nm、平均粒子間距離は1.1nm、面内数密度は、1.1×105個/μm2であった。
【0043】
(実施例7)
[1. 試料の作製]
Pt板に代えてAg板(□20×1mm)を用い、Zr板に代えてTi板(□10×1mm)を用いた点、及びAg:Ti比が50:50となるようにTi板の面積を調整した以外は、実施例1と同一条件下で成膜を行った。
[2. 結果]
得られた膜は緻密であった。また、石英ガラス基板上に形成した薄膜の2端子法による電気抵抗は300kΩであった。
図4に、得られた薄膜のTEM像を示す。図4の場合、Ag粒子の平均径は1.8nm、平均粒子間距離は1.0nm、面内数密度は1.4×105個/μm2であった。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る貴金属ナノ粒子分散薄膜及びその製造方法は、サーミスタ、力学量センサ、非線形光学材料、光電極などの各種デバイス、センサ、及びその製造方法として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】Pt−40%Zrターゲットを用いて真空度0.001Torr(0.133Pa)で形成したPtナノ粒子−ZrO2薄膜のTEM像である。
【図2】Ptナノ粒子−ZrO2薄膜及びPt薄膜の電気抵抗の温度依存性を示す図である。
【図3】Au−50%Tiターゲットを用いて形成した薄膜のTEM像である。
【図4】Ag−50%Tiターゲットを用いて形成した薄膜のTEM像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を含む貴金属ナノ粒子と、
前記貴金属ナノ粒子より電気比抵抗が高い無機材料とを備え、
前記貴金属ナノ粒子の面内数密度は、4.0×104個/μm2以上3.0×106個/μm2以下である
貴金属ナノ粒子分散薄膜。
【請求項2】
前記貴金属ナノ粒子の平均直径は、0.5nm以上10nm以下である請求項1に記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜。
【請求項3】
前記貴金属ナノ粒子間の平均距離は、0.2nm以上2nm以下である請求項1又は2に記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜。
【請求項4】
前記無機材料は、酸化物、炭化物若しくは窒化物、又は、これらのいずれか2種以上の複合体である請求項1から3までのいずれかに記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜。
【請求項5】
薄膜の電気抵抗が10Ω以上100GΩ以下である請求項1から4までのいずれかに記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜。
【請求項6】
パルスレーザーアブレーションを用いて基板上に貴金属ナノ粒子と無機材料からなる薄膜を形成するアブレーション工程を備えた貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記アブレーション工程は、ターゲットとして、前記貴金属ナノ粒子を構成する第1の金属と前記無機材料を構成する第2の金属との合金又は複合体を用い、
前記ターゲットと前記基板を収容する容器内には、前記第2の金属を前記無機材料にするためのガスを導入し、
真空度が2×10-6Torr(2.66×10-4Pa)以上0.1Torr(13.3Pa)以下の条件下で前記パルスレーザーアブレーションを行う請求項6に記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法。
【請求項8】
前記アブレーション工程は、ターゲットとして、前記貴金属ナノ粒子を構成する第1の金属と前記無機材料との複合体を用い、
真空度が0.1Torr(13.3Pa)以下の条件下で前記パルスレーザーアブレーションを行う請求項6に記載の貴金属ナノ粒子分散薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−18403(P2009−18403A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−185061(P2007−185061)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】