説明

貼付シートのツノ消し治具及びそれを用いた貼付シートのツノ消し方法

【課題】基材が塩化ビニル系樹脂シート及び非塩化ビニル系樹脂シートのいずれの貼付シートにおける折り込み部のツノも、効果的になくすことができる貼付シートのツノ消し治具、及びそれを用いた貼付シートのツノ消し方法を提供する。
【解決手段】先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有する貼付シートのツノ消し治具、及びこの治具を用い、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、貼付シートのツノ部に押し当てることにより、該貼付シートのツノ部をなくす貼付シートのツノ消し方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貼付シートのツノ消し治具及びそれを用いた貼付シートのツノ消し方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、貼付シートの角部、特に自動車のドアフレームに塗装の代替として貼付される貼付シートの折り込み部のツノ(突起)をなくすための治具及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、粘着シート(粘着テープも含む。以下同様)は、多くの分野において幅広く用いられるようになってきた。例えば、包装・結束用、事務・家庭用、接合用、塗装マスキング用、表面保護用、シーリング用、防食・防水用、電気絶縁用、電子機器用、医療・衛生材料用、表示・標識用、装飾用、ラベル用などとして使用されている。
一方、最近、前記用途の中で表示・標識用粘着シートや装飾用粘着シートなどのマーキング用粘着シートの分野においては、塗装製品の生産性の向上や製造コストの低減を図るために、塗装代替用としての粘着シートの需要が増加してきている。例えば表示・標識用として、危険表示用テープ、ラインテープ、マーキングテープなどが用いられ、また装飾用として、看板、ショーウインドや建造物の内外装、マーキングシート・ステッカーによる車やオートバイの装飾、自動車ドアサッシュ部の装飾などに粘着シートが用いられている。
このような塗装代替用粘着シートが適用される被着体としては様々なものがあり、例えば金属板、塗装金属板、ガラス、セラミックス、石材、木質材料、プラスチック、紙類などが挙げられる。
塗装代替用粘着シートにおいては、その貼付製品は屋外で使用されることが多く、基材及び粘着剤共に、耐候性に優れることが必要であり、粘着剤としては、通常耐候性が良好なアクリル系粘着剤が用いられる。一方、基材は、耐候性に優れると共に、収縮率が小さく、かつ貼付作業性の面からは、あまり硬質でないものが好ましく、したがって、例えば塩化ビニル系樹脂、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリ四フッ化エチレン、熱可塑性ポリウレタンなどからなるフィルム基材が用いられるが、経済性などの点で、これまで塩化ビニル系樹脂からなるフィルム基材が多用されてきた。
しかしながら、現在、環境対応の面より、マーキング用粘着シートにおいては、塩化ビニル系樹脂基材から、非塩化ビニル系樹脂基材への移行傾向が多く見られる。
ところで、このようなマーキング用粘着シートを、被着体に貼付する場合、被着体の種類や形状などによっては、角部の折り込みが必要となり、その結果折り込み部にツノ(突起)が形成し、貼付されたシートが剥れやすくなるなどの問題が生じる。
すなわち、マーキング用粘着シートを被着体に貼付する際には、被着体よりも一回り大きな粘着シートを貼付するが、粘着シートの端部を処理するために、通常、被着体の裏側に粘着シートを折り込むことが行われる。被着体が角部を有する場合には、角部をはさんだ2つの直線部分を折り込むことになるため、粘着シートの角部には2つの直線が交わることによって形成されるツノが発生する。
例えば、自動車のドアフレーム部においては、塗装代替として粘着シートが貼付されている。この場合、フレーム部の端部から内側に該シートを折り込んでいるが、コーナー部でツノと呼ばれる突起が形成されてしまう。
このような突起をなくすために、従来、粘土を布に包み、暖めたもの、いわゆるホットパックを、該ツノ(突起)に押しつけることが行われていた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、ホットパックを用いる従来の方法では、貼付シートの基材の種類によっては、温度が不足し、ツノをなくす効果が十分でない場合があった。すなわち、ホットパックの温度は60〜70℃程度であり、この温度では塩化ビニル系樹脂シートに対しては有効であるものの、非塩化ビニル系樹脂シートの場合には温度が足りないという問題があった。また、折り曲げた積層材の端末処理方法として、特許文献1に記載するような加熱治具により、溶着する方法もあるが、ツノをなくす効果は不十分であった。
ツノ対策としては、他にラッカー塗料の塗布やいわゆるチビテープ(別個の小片テープ)の貼付により、バックリングを防止することも考えられるが、これらは本質的なツノ対策ではない。また、粘着シート形状の変更も考えられるが、この場合も折り込み後にツノは発生する。
【特許文献1】特開平10−166438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような事情のもとで、基材が塩化ビニル系樹脂シート及び非塩化ビニル系樹脂シートのいずれの貼付シートにおける折り込み部のツノも、効果的になくすことができる貼付シートのツノ消し治具、及びそれを用いた貼付シートのツノ消し方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する治具により、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有することを特徴とする貼付シートのツノ消し治具、
(2)棒状シャフトに連結し、該棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けてなる上記(1)項に記載の貼付シートのツノ消し治具、
(3)圧着部の先端が、すり鉢状の凹部形状を有する上記(1)又は(2)項に記載の貼付シートのツノ消し治具、
(4)レバーを引くことにより、前進した圧着部が、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具の位置を固定するための位置決め部材を治具先端部に設けてなる上記(2)項に記載の貼付シートのツノ消し治具、
(5)位置決め部材が、治具先端部の上面に、上下の段差を有する板状体を幅方向に配設した構造を有する上記(4)項に記載の貼付シートのツノ消し治具、
(6)位置決め部材が、治具先端部におけるほぼ中央のシャフト方向鉛直面上に、上下に分割された2つの板状体を、前方に突出するように配設した構造を有する上記(4)項に記載の貼付シートのツノ消し治具、
(7)位置決め部材の被加工体との接触部に、当該被加工体の貼付シートよりもソフトな材料を装着させてなる上記(4)〜(6)項のいずれかに記載の貼付シートのツノ消し治具、
(8)上記(1)〜(7)項のいずれかに記載の貼付シートのツノ消し治具を用い、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、貼付シートのツノ部に押し当てることにより、該貼付シートのツノ部をなくすことを特徴とする貼付シートのツノ消し方法、及び
(9)貼付シートが、自動車のドアフレームに貼付されたものである上記(8)項に記載の貼付シートのツノ消し方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、基材が塩化ビニル系樹脂シート及び非塩化ビニル系樹脂シートのいずれの貼付シートにおける折り込み部のツノも、短時間に効果的になくすことができる貼付シートのツノ消し治具、及びそれを用いた貼付シートのツノ消し方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明における貼付シートに用いられる粘着シートに特に制限はなく、従来マーキング用粘着シートとして知られているものの中から任意のものを適宜選択して用いることができるが、基材として非塩化ビニル系樹脂基材を用いてなる環境対応型の粘着シートであって、耐候性、耐擦過性、耐薬品性(耐ガソリン性など)、外観などが良好なマーキング用粘着シートが好適である。
この環境対応型粘着シートの基材としては、該粘着シートが塗装代替用として使用されるため、収縮率が小さく、かつ貼付作業性の面から、あまり硬質でないものが好ましい。したがって、ポリエチレンテレフタレートや非晶質ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体などのポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、熱可塑性ウレタン系樹脂、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー及びこれらの混合物などを用いて得られたシート基材を用いることができる。
この基材の厚さは、粘着シートの用途にもよるが、通常10〜300μmの範囲、好ましくは30〜200μmの範囲で選定される。
一方、粘着剤層を形成する粘着剤としては特に制限はなく、従来マーキング用粘着シートの粘着剤層に慣用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。例えばアクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤及びポリエステル系粘着剤などを用いることができる。これらの粘着剤は、エマルション型、溶剤型、無溶剤型のいずれであってもよい。粘着剤層の厚さは、通常1〜300μm、好ましくは5〜100μm程度である。
前記各種の粘着剤の中では、耐候性などの面から、アクリル系粘着剤が好ましい。
このアクリル系粘着剤を用いて形成された粘着剤層は、重量平均分子量50万〜200万程度、好ましくは70万〜170万のアクリル系樹脂を含み、かつ架橋処理されたアクリル系粘着剤からなる層であることが好適である。重量平均分子量が上記範囲にあれば、粘着力及び保持力のバランスがとれたマーキング用粘着シートが得られる。
なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0007】
次に、本発明の貼付シートのツノ消し治具(以下、単にツノ消し治具と称することがある。)について説明する。
なお、本発明のツノ消し治具においては、レバー取付け側を下側、その反対側を上側と定義し、棒状シャフトは水平方向に位置するものとし、該棒状シャフトに対する上下方向垂直面を鉛直面と定義する。また、シャフト方向鉛直面に対し、直角方向を幅方向、レバーを引くことにより圧着部が前進する方向側の端部を先端部と定義する。
本発明のツノ消し治具は、先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有することを特徴とする治具である。このような本発明のツノ消し治具には、4つの態様、すなわちツノ消し治具A、ツノ消し治具B、ツノ消し治具C及びツノ消し治具Dの態様がある。
[ツノ消し治具A]
4つのツノ消し治具の中で、最もシンプルな構造を有する治具であって、レバーは取付けられておらず、したがって棒状シャフトは前後進することができない。該棒状シャフトの先端に取付けられたツノ消し用圧着部は固定されているが、該圧着部の温度は、それに連結するシャフトの熱伝導性金属部を、温度コントローラーを介してヒーターで加熱することにより、制御することができる。
図1は、本発明の貼付シートのツノ消し治具Aの1例の概要図であって、(a)は側面図、(b)は圧着部の先端形状を示す正面図である。
ツノ消し治具A1は、先端に圧着部2aを有する棒状シャフト2と、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーター(図示せず)と、その温度を制御する温度コントローラー4を有している。図1において、符号3は、本体部カバー、5aは温度コントローラー4を電源に接続するためのコード、5bはヒーターと温度コントローラー4を接続するためのコードである。
圧着部2aの構造は、図1における側面図(a)及び正面図(b)で示されるように、すり鉢状の凹部形状を有している。また、図2は、該圧着部2aの別のすり鉢状構造を示す側面図(a)及び正面図(b)であって、傾斜面がなだらかなふくらみを有しており、前者の構造よりも、この構造の方が好ましい。
圧着部2aは、ヒーター及び温度コントローラーにより、貼付シートの基材が塩化ビニル系樹脂シートの場合は、通常60〜90℃程度に加熱され、非塩化ビニル系樹脂シートの場合は、通常100〜110℃程度に加熱される。したがって、該圧着部を構成する材料としては熱伝導性金属が好ましく、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、シンチュウ、錫、銅などを挙げることができる。
また、先端に前記圧着部2aを有する棒状シャフト2としては、圧着部2aに連結し、ヒーターにより加熱される部分は、通常熱伝導性金属が用いられる。この熱伝導性金属としては、圧着部と同じ金属であってもよい。また、棒状シャフトのその他の部分は、熱非伝導性材料からなるもの、例えばプラスチックからなるものであってもよい。
本体部カバー3は、通常プラスチック材料から形成されている。このプラスチック材料としては、耐熱性・加工性に優れたものであれば、いずれのものでも使用でき、例えばABS樹脂、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール、含フッ素樹脂、アクリル樹脂などが挙げられるが、これらの中でABS樹脂が好適である。
本発明のツノ消し治具Aは、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、貼付シートの角部に生じたツノに当接させ、前後左右に押圧摺動させることにより、該ツノを容易になくすことができる。具体的には、以下のようにして、ツノをなくすことができる。
図3は、前記図2に示すすり鉢状圧着部2aを用いたツノ消し作業の1例を示す説明図であって、まず、圧着部2aの先端下部でツノを内側(意匠面の反対側)に倒し[(a)]、次いで圧着部2aの先端上部で倒れたツノをつぶす[(b)]ことにより、意匠性を損なうことなく該ツノをなくす。
【0008】
[ツノ消し治具B]
本発明のツノ消し治具Bは、先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有し、さらに、前記棒状シャフトに連結し、該棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けてなる治具である。すなわち、前述のツノ消し治具Aに、棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けた構造を有する。
図4は、本発明の貼付シートのツノ消し治具Bの1例の概要図であって、(a)は側面図、(b)は圧着部の先端形状を示す正面図である。
ツノ消し治具B10は、先端に圧着部11aを有する棒状シャフト11と、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーター(図示せず)と、その温度を制御する温度コントローラー17を有する。
このツノ消し治具B10においては、前記棒状シャフト11は前後進自在のものとし、この棒状シャフト11に連結し、該棒状シャフト11を前後進させる機構を有するレバー12が取付けられている。また、前記圧着部11aには保護カバー13を取付けることが好ましい。
図4において、符号14は窓部、15aは温度コントローラー17を電源に接続するためのコード、15bはヒーターと温度コントローラー17を接続するためのコード、16は本体部カバーである。
圧着部11aの形状、材質、加熱、使用方法などについては、前述のツノ消し治具Aの説明において示したとおりである。また、シャフト11は、レバー12を引くことで前進し、加熱された圧着部11aが、保護カバー13の先端部分にまで出てくる。シャフト11の材質、保護カバー13及び本体カバー16の材質などについては、前述のツノ消し治具Aの本体部カバーの説明において示したとおりである。
本発明のツノ消し治具Bは、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、レバーを引いて前進させ、貼付シートの角部に生じたツノに当接させて前後左右に押圧摺動することにより、該ツノを容易になくすことができる。
【0009】
[ツノ消し治具C]
本発明のツノ消し治具Cは、先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有し、さらに、前記棒状シャフトに連結し、該棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けると共に、該レバーを引くことにより、前進した圧着部が、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具の位置を固定するための位置決め部材を先端部に設けてなる治具である。
そして、この治具においては、位置決め部材が、治具先端部の上面に、上下の段差を有する板状体を幅方向に配設した構造を有し、かつ位置決めされた治具の圧着部が、レバーを引くことにより前進した場合、被加工体の角部におけるサイドの所定位置に当接する。
このツノ消し治具Cにおいては、前記位置決め部材の被加工体との接触部には、当該被加工体の貼付シートよりもソフトな材料を装着することが好ましい。これは、位置決め部材によって、被加工体の貼付シートが損傷を受けないようにするためである。貼付シートよりもソフトな材料としては、布製材料、例えばフェルトなどを挙げることができる。
前述のツノ消し治具A及びBは、被加工体の角部におけるツノをなくすのに習熟した技術を必要とするが、当該ツノ消し治具は、位置決め部材を設けることにより、位置決めされた治具の圧着部が、レバーを引くことにより、被加工体の角部の所定の位置、すなわちツノに容易に当接するので、習熟した技術を必要としない。
ただし、当該ツノ消し治具においては、被加工体の角部におけるサイドのツノに対して、均一な角度で加熱された圧着部を押し当てることが可能であり、該ツノを確実に仕上げることができるが、角部の上端に存在するツノに対しては、仕上げることができにくい。
また、当該ツノ消し治具においては、サイドのツノが内側(表側)に折れ曲がらないように、予め、粘土を布に包み暖めたもの、いわゆるホットパックを用いて、該ツノを外側(裏側)に折り曲げたのち、当該ツノ消し治具を使用するのが有利である。なお、前述のツノ消し治具A及びBにおいては、このようなホットパックの併用は必要でない。
【0010】
図5は、本発明の貼付シートのツノ消し治具Cの1例の概要図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。図6は、図5で示される圧着部の1例の側面側(a)及び正面図(b)である。
ツノ消し治具C20は、圧着部21aを有する棒状シャフト21と、前記圧着部21aを高温に加熱するためのヒーター(図示せず)と、その温度を制御する温度コントローラー25を有し、さらに前記棒状シャフト21に連結し、該棒状シャフト21を前後進させる機構を有するレバー22を取付けると共に、該レバー22を引くことにより前進した圧着部21aが、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具20の位置を固定するための位置決めの部材を先端部に設けてなる治具である。
前記位置決め部材は、治具先端部の上面に、上下の段差を有する板状体24a、24bを幅方向に配設した構造を有し、かつ位置決めされた治具20の圧着部21aが、レバー22を引くことにより前進した場合、被加工体の角部におけるサイドの所定位置に当接する。なお、図5において、圧着部21aの位置は、レバーを引いて前進させた状態を示す。
図5において、符号23は保護カバー、23aは圧着部21aが被加工体のツノに当接した状態を見るための透明保護カバー、26aは温度コントローラー25を電源に接続するためのコード、26bはヒーターと温度コントローラー25を接続するためのコードである。圧着部21aの形状は、図6の側面図(a)及び正面図(b)で示す。圧着部21aは、図6の側面図(a)及び正面図(b)で示されるように、z面をツノ部に押圧することにより、ツノをなくす。x及びyは、圧着部21aの上壁及び側壁を示す。
圧着部21aの材質や加熱、シャフト21の材質、保護カバー23の材質については、前述のツノ消し治具Aの説明において示したとおりである。透明保護カバー23aは、通常透明プラスチック材料、例えばポリプロピレン、アクリル樹脂などが用いられる。(なお、図5において、位置決め部材の被加工体との接触部に装着されたソフト材料は図示せず。)
本発明のツノ消し治具Cは、位置決めされた治具の所定温度に加熱された圧着部をレバーを引いて前進させることにより、貼付シート(被加工体)の角部におけるサイドのツノに当接するので、前述のツノ消し治具A、Bのように前後左右に押圧摺動することなく、容易に該ツノをなくすことができる。なお、当該ツノ消し治具Cにおいては、前述したようにホットパックとの併用が好ましい。
【0011】
[ツノ消し治具D]
本発明のツノ消し治具Dは、先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有し、さらに、前記棒状シャフトに連結し、該棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けると共に、該レバーを引くことにより前進した圧着部が、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具の位置を固定するための位置決め部材を先端部に設けてなる治具である。
そして、この治具においては、位置決め部材が、治具先端部におけるほぼ中央のシャフト方向鉛直面上に、上下に分割された2つの板状体を、前方に突出するように配設した構造を有し、かつ位置決めされた治具の圧着部が、レバーを引くことにより前進した場合、被加工体の角部における上端及びサイドの所定位置の両方に当接する。
すなわち、位置決め部材に設けられた溝の直線部分の延長線がなす角度を、被加工体の角部の角度と一致するように設定しておくことによって、被加工体の角部をはさんだ二辺を位置決め部材に当接させることで最適位置にセットすることが可能となる。
このツノ消し治具Dにおいては、前記位置決め部材の被加工体との接触部には、前述のツノ消し治具Cと同様に、当該被加工体の貼付シートよりもソフトな材料を装着することが好ましい。
当該ツノ消し治具Dは、前述のツノ消し治具Cと同様に位置決め部材を設けることにより、位置決めされた治具の圧着部が、レバーを引くことにより、被加工体の角部の所定位置、すなわちツノに容易に当接するので、前述のツノ治具A、Bのような習熟した技術を必要としない。
当該ツノ消し治具Dにおいては、前述のツノ消し治具Cと異なり、被加工体の角部におけるサイド及び上端の両方のツノに対して、加熱された圧着部を押し当てることが可能であり、角部に発生する両方のツノを同時に仕上げるタイプである。また、前述のツノ消し治具Cと同様の理由から、ホットパックとの併用が好ましい。
【0012】
図7は、本発明の貼付シートのツノ消し治具Dの1例の概要図であって、(a)は側面図、(b)は正面図である。図8は、図7で示される圧着部の1例の側面図(a)及び正面図(b)である。
ツノ消し治具D30は、圧着部31aを有する棒状シャフト31と、前記圧着部31aを高温に加熱するためのヒーター(図示せず)と、その温度を制御する温度コントローラー35を有し、さらに前記棒状シャフト31に連結し、該棒状シャフト31を前後進させる機構を有するレバー32を取付けると共に、該レバー32を引くことにより、前進した圧着部31aが、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具30の位置を固定するための位置決め部材を先端部に設けてなる治具である。
前記位置決め部材は、治具先端部におけるほぼ中央のシャフト方向鉛直面上に、上下に分割された2つの板状体34aと34bとを、前方に突出するように配設した構造を有し、かつ位置決めされた治具30の圧着部31aが、レバー32を引くことにより前進した場合、被加工体の角部における上端及びサイドの所定位置の両方に当接する。なお図7において、圧着部31aの位置は、レバーを引いて前進させた状態を示す。
図7において、符号33は保護カバー、36aは温度コントローラー35を電源に接続するためのコード、36bはヒーターと温度コントローラー35を接続するためのコードである。圧着部31aの形状は、図8の側面図(a)及び正面図(b)で示す。
圧着部の後方部を構成する曲面形状の壁面部は、粘着シートを裏側に折り込んだ際に発生するツノ部を潰すことができる形状となっている。
一方、圧着部の側方部を構成する略半円形平面部は、ツノ部が粘着シートの裏側に倒れた場合にこれを潰すことができる形状となっている。
圧着部31aの材質や加熱、シャフト31の材質、保護カバー33の材質については、前述のツノ消し治具Aの説明において示したとおりである。(なお、図7において、位置決め部材の被加工体との接触部に装着されたソフト材料は図示せず。)
本発明のツノ消し治具Dは、位置決めされた治具の所定温度に加熱された圧着部をレバーを引いて前進させることにより、貼付シート(被加工体)の角部におけるサイド及び上端のツノの両方に当接するので、前述のツノ消し治具A、Bのように前後左右に押圧摺動することなく、容易に前記両方のツノを同時になくすことができる。なお、当該ツノ消し治具Dにおいても、前述したようにホットパックとの併用が好ましい。
【0013】
次に、本発明の貼付シートのツノ消し方法について説明する。
本発明の貼付シートのツノ消し方法は、前述した本発明の貼付シートのツノ消し治具A、B、C、Dを用い、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、貼付シートのツノ部に押し当てることにより、該貼付シートのツノ部をなくすことを特徴とする。
本発明の方法が適用できる貼付シートとしては、コーナー部を有する被着体に貼付され、折り込むことにより、ツノ(突起)が生じた貼付シートを挙げることができるが、特に自動車のドアフレームに塗装の代替として貼付された貼付シートの折り込み部のツノ(突起)をなくすために、本発明の方法を適用することが好ましい。
また、本発明の方法は、貼付シートの基材が、塩化ビニル系樹脂シート及び非塩化ビニル系樹脂シートのいずれにも適用することができるが、特に環境対応型(非塩化ビニル系樹脂シート)粘着シートを用いた貼付シートに適用するのが効果的である。
本発明の方法においては、前述した本発明の貼付シートのツノ消し治具を用い、ヒーター及び温度コントローラーにより、処理対象の貼付シートの基材の種類に応じて、圧着部を所定の温度に加熱し、ツノに当接させ、2〜10秒間程度保持することにより、該ツノをなくすことができる。
本発明の貼付シートのツノ消し治具は、従来のホットパックと比較して、下記の効果を奏する。
(1)寿命が長い(交換回数が少ない)。
(2)ホットプレートなどを使用せず、安全性が高い。
(3)より高温にし得るため、作業時間が短い。
【実施例】
【0014】
次に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
下記の性状を有する図4に示す貼付シートのツノ消し治具を作製した。
圧着部:すり鉢状の開口部径12mm、圧着部長さ10mm、材質シンチュウ
シャフト:径8mm、圧着部を含む全長103mm、材質シンチュウ
圧着部保護カバー:開口径33mm、長さ50mm、材質ABS樹脂
本体カバー:材質ABS樹脂
環境対応型粘着シート[リンテック社製、商品名「BK10202W」、基材シート;オレフィン系、厚さ100μm、粘着剤層;アクリル系粘着剤、厚さ30μm]の剥離シートを剥がし、コーナー部を有する被着体(材質塗装鋼板)に貼付し、コーナー部にて折り込み、生じたツノに、前記のツノ消し治具を使用し、圧着部の温度を約100℃に調節し押し当て、ツノ消し処理を2秒間、5秒間及び10秒間行った。
なお、ツノの状態確認は、外観及び下記に示す圧力測定紙(プレスケール)による試験によって行った、圧力測定紙による試験では、ツノがあれば着色が濃くなり、ツノがなくなれば着色が薄くなる。
<圧力測定紙による試験方法>
上記コーナー部を有する被着体のコーナー部を、水平面上に置かれた圧力測定紙[富士写真フィルム(株)製、「プレスケール」]に接触するように置き、その状態でコーナー部を圧力測定紙に接触させたまま被着体を水平方向に平行移動させ、圧力測定紙上に描かれた痕跡を目視で観察した。
この痕跡の着色が薄くなった場合にツノがなくなったものと判定した。
その結果、2〜5秒間の処理で、ツノがほとんどなくなった。
図9に、処理前及び処理後の貼付シートを有する被着体の裏側の写真に基づく模式図を示す。
比較例1
実施例1と同様にして、環境対応型粘着シートをコーナー部を有する被着体に貼付し、コーナー部にて折り込み、生じたツノに、温度約70℃のホットパックを圧着し、角消し処理を5秒間、10秒間及び25秒間行った。
その結果ツノ消しには、25秒間が必要であった。
図10に、処理前及び処理後の貼付シートを有する被着体の裏側の写真に基づく模式図を示す。
実施例2
塩化ビニル系樹脂粘着シート[リンテック社製、商品名「BK5202」、基材シート;塩化ビニル系樹脂、厚さ100μm、粘着剤層;アクリル系粘着剤、厚さ30μm]の剥離シートを剥がし、コーナー部を有する被着体(材質塗装鋼板)に貼付し、コーナー部にて折り込み、生じたツノに、実施例1で作製したツノ消し治具を使用し、圧着部の温度を約100℃に調節し治具を押し当て、ツノ消し処理を行った。その結果、接触直後にツノがなくなった。
比較例2
実施例2と同様にして塩化ビニル系樹脂粘着シートをコーナー部を有する被着体に貼付し、コーナー部にて折り込み、生じたツノに、温度約70℃のホットパックを圧着してツノ消し処理を行った。
その結果、約5秒間でツノがなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の貼付シートのツノ消し治具は、基材が塩化ビニル系樹脂シート及び非塩化ビニル系樹脂シートのいずれの貼付シートにおける折り込み部のツノも、短時間に効果的になくすことができる。特に、自動車のドアフレームに塗装の代替として貼付される貼付シートの折り込み部のツノ(突起)をなくすのに有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の貼付シートのツノ消し治具Aの1例の概要図である。
【図2】図1に示す圧着部におけるすり鉢構造の他の例を示す側面図(a)及び正面図(b)である。
【図3】図2に示すすり鉢状圧着部を用いたツノ消し作業の1例を示す説明図である。
【図4】本発明の貼付シートのツノ消し治具Bの1例の概要図である。
【図5】本発明の貼付シートのツノ消し治具Cの1例の概要図である。
【図6】本発明の貼付シートのツノ消し治具Cにおける圧着部の1例の側面図(a)及び正面図(b)である。
【図7】本発明の貼付シートのツノ消し治具Dの1例の概要図である。
【図8】本発明の貼付シートのツノ消し治具Dにおける圧着部の1例の側面図(a)及び正面図(b)である。
【図9】実施例1における処理前及び処理後の貼付シートを有する被着体の裏側の写真に基づく模式図である。
【図10】比較例1における処理前及び処理後の貼付シートを有する被着体の裏側の写真に基づく模式図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ツノ消し治具A
2、11、21、31 棒状シャフト
2a、11a、21a、31a 圧着部
3、16 本体部カバー
4、17、25、35 温度コントローラー
5a、5b、15a、15b、26a、26b、36a、36b コード
10 ツノ消し治具B
12、22、32 レバー
13、23、33 保護カバー
14 窓部
20 ツノ消し治具C
23a 透明保護カバー
24a、24b 段差を有する板状体
30 ツノ消し治具D
34a、34b 板状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端にツノ消し用圧着部を有する棒状シャフトと、前記圧着部を高温に加熱するためのヒーターと、その温度を制御する温度コントローラーを有することを特徴とする貼付シートのツノ消し治具。
【請求項2】
棒状シャフトに連結し、該棒状シャフトを前後進させる機構を有するレバーを取付けてなる請求項1に記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項3】
圧着部の先端が、すり鉢状の凹部形状を有する請求項1又は2に記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項4】
レバーを引くことにより、前進した圧着部が、被加工体の角部の所定位置に当接すべく、治具の位置を固定するための位置決め部材を治具先端部に設けてなる請求項2に記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項5】
位置決め部材が、治具先端部の上面に、上下の段差を有する板状体を幅方向に配設した構造を有する請求項4に記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項6】
位置決め部材が、治具先端部におけるほぼ中央のシャフト方向鉛直面上に、上下に分割された2つの板状体を、前方に突出するように配設した構造を有する請求項4に記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項7】
位置決め部材の被加工体との接触部に、当該被加工体の貼付シートよりもソフトな材料を装着させてなる請求項4〜6のいずれかに記載の貼付シートのツノ消し治具。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の貼付シートのツノ消し治具を用い、該治具の所定温度に加熱された圧着部を、貼付シートのツノ部に押し当てることにより、該貼付シートのツノ部をなくすことを特徴とする貼付シートのツノ消し方法。
【請求項9】
貼付シートが、自動車のドアフレームに貼付されたものである請求項8に記載の貼付シートのツノ消し方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−820(P2009−820A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161278(P2007−161278)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】