説明

赤色蛍光ガラス

【課題】紫外発光ダイオード(LED)による波長365nm以上の紫外線で励起した場合にも高輝度な赤色蛍光を呈し、しかも耐久性に優れた新規な蛍光ガラスを提供する。
【解決手段】下記(1)〜(3)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)SiO2を85mol%以上、Euを0.02〜0.8mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ば
れた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(2)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(3)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラスに関するものであり、特に、波長350nm以上の紫外線によっても高輝度に赤色発光する蛍光ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光波長365nm〜400nmの紫外発光ダイオード(LED)が低価格で量産されるよう
になり、光源の水銀フリー化の要請もあって、この光源と蛍光体を組み合わせて照明・ディスプレイ用の光源としての利用が期待されている。しかしながら、LEDは点光源であり
、長寿命な平面光源を得るためには、紫外線を可視の面に変換する蛍光板が必要である。ガラスは紫外線透過率が高く、しかも耐久性が良好で安定性に優れた材料であるが、一般的には輝度が低く、光源としての利用には適さないと考えられている。
【0003】
一方、ガラス組成を改良し、発光中心である希土類元素の中心の構造を変えることで、高輝度な蛍光ガラスを得られることが報告されている。通常は、赤色の蛍光を得る場合には、Eu3+が発光中心として利用されており、赤色近傍の発光帯としては、5D0-7F2遷移に
よる610nm付近の遷移と、5D0-7F1遷移による590nm付近の遷移がある。この比率はEu3+
周囲の配位の対象性などによって決まるが、通常前者の発光が強くなるような結晶構造を作製して赤色蛍光体が得られている。
【0004】
下記特許文献1には、Eu3+を5〜20mol%含むフッ化物ガラスが開示されている。しかし
ながら、フッ化物ガラスは化学的耐久性が低く、また、590nm付近の蛍光強度が強くなる
ために、黄色味を帯びた発光となる。
【0005】
下記特許文献2には、SiO2 を20〜99mol%を含み、希土類を含む結晶化ガラスが開示さ
れている。しかしながら、このガラスでは、Eu3+の配位構造がコントロールしにくく、590nmの蛍光強度が強く観察され、輝度が低いという欠点がある。
【0006】
下記特許文献3には多孔質ガラスに希土類酸化物結晶を担持させたガラスが開示されている。この場合、粒子導入時にガラスが不透明になるなどの欠点や、緻密化していないために、外気で汚れやすく、もろいという欠点がある。
【0007】
下記非特許文献1には、EuとYを多孔質ガラスに導入して焼成することで蛍光ガラスを
得る方法が開示されている。しかしながら、この方法で得られるガラスは、波長365nm以
上で励起する場合に輝度が低いという欠点がある。
【0008】
下記特許文献4及び非特許文献2にも、多孔質ガラスに特定の元素を導入して焼成することで蛍光ガラスを得る方法が記載されている。しかしながら、これらの文献では、各導入元素の濃度が不明確であり、また、得られたガラスは、350nm以上の励起波長の紫外線
では、低い蛍光強度を示すだけである。
【特許文献1】特開2007−153626
【特許文献2】特開2004−224604
【特許文献3】特開2005−320186
【特許文献4】CN1752042A
【非特許文献1】N. Taghavinia, G. Leronedel, H. Makino and T. Yao, Nanotechnology 15 (2004) 1549-1553
【非特許文献2】D. Chen, L. Yang, M. Peng, C. Wang, N. Da, Y. Qiao, Q. Zhou, C. Zhu and T. Akai, J. Rare Earth, 24 (2006) 191-195
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、紫外発光ダイオード(LED)による波長365nm以上の紫外線で励起した場合にも高輝度な赤色蛍光を呈し、しかも耐久性に優れた新規な蛍光ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、シリカを主成分とする多孔質ガラスに、赤色発光の発光中心としてのEuと、その他の特定の添加元素を特定の割合でドープさせた後、酸素含有雰囲気中で焼成して得られるガラスは、波長350nm程度以上の紫外線で励起した場合にも、高輝度な赤色蛍光を呈し、しかも透明性にも
優れた蛍光ガラスとなること見出した。本発明は、この様な知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記の赤色発光する蛍光ガラス及びその製造方法を提供するものである。
1. 下記(1)〜(3)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)SiO2を85mol%以上、Euを0.02〜0.8mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ば
れた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(2)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(3)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
2. 下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長390〜400nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を0.85mol%以上、Euを0.2〜0.8mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
3. 下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長330〜365nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を85mol%以上、Euを0.1〜0.8mol%、Vを0.2〜2.5mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
4. 下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長330〜365nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を85mol%以上、Euを0.02〜0.8mol%、Biを0.03〜1mol%、Vを0.2〜2.5mol%
、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有す
ること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
5. 更に、Li,Na,K,Rb及びCsからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.02〜1m
ol%含有する上記項1〜4のいずれかに記載の赤色発光する蛍光ガラス。
6. SiO2を主成分とする多孔質ガラスに、Eu及びその他の添加元素をドープさせた後、酸素含有雰囲気中で焼成することを特徴とする上記項1〜5のいずれかに記載の赤色発光する蛍光ガラスの製造方法。
7. 多孔質ガラスが、SiOを90mol%以上含有し、平均細孔径1〜20nmの連続細孔を有する多孔質体である上記項6に記載の蛍光ガラスの製造方法。
8. 950℃以上の温度で焼成する上記項6又は7に記載の方法。
【0012】
以下、本発明の赤色発光する蛍光ガラス及びその製造方法について詳細に説明する。
【0013】
蛍光ガラス
本発明の蛍光ガラスは、SiO2を主成分とする多孔質ガラスに、発光元素としてのEuと、Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素をドープさせた後、酸素含有雰囲気中で焼成することによって製造することができる。
【0014】
該蛍光ガラスは、多孔質ガラスを焼成して得られるSiO2を主成分とする母ガラス中に、Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とEuが均一に分散し、固定化されたものである。
【0015】
該蛍光ガラスでは、Euは赤色発光のために必須の成分である。また、Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素は、主として、Euの希釈剤として作用して、Euの濃度消光による輝度の低下を抑制する働きをするものである。
【0016】
該蛍光ガラスは、SiO2を85mol%程度以上、Euを0.02〜0.8mol%程度、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%程度含有することによって、高輝度の赤色発光を生じるものとなる。Euの含有量が少なすぎる場合には、赤色の発光強度が低くなり、Euの含有量が多すぎる場合には、ガラスが不透明になるので好ましくない。また、Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素については、含有量が少なすぎる場合には、Euの濃度消光による輝度の低下を抑制する効果を十分に発揮することができない。またこれらの元素の含有量が多すぎる場合にはガラスが不透明になり易いので好ましくない。
【0017】
Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量は、Euの含有量より多いことが必要である。これらの元素の含有量がEuの含有量より少ない場合には、Eu3+の濃度消光が起こって輝度が低下し、わずかに含まれるEu2+の発光のために色度が白色寄りになるので好ましくない。
【0018】
本発明の蛍光ガラスは、特に、波長330〜365nm程度の範囲の紫外線と、波長390〜400nm程度の範囲の紫外線によって励起されて、高輝度の赤色発光を生じる。
【0019】
この内、波長390〜400nm程度、特に、395nm程度の紫外発光ダイオード(LED)による紫外線で励起する場合には、蛍光ガラスの組成は、SiO2を85mol%程度以上、Euを0.2〜0.8mol程度%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol
%程度含有し、且つY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いことが好ましい。この場合には、Euの含有量が0.2mol%を下回ると、
赤色の発光強度が低くなるので好ましくない。
【0020】
また、波長330〜365nm程度の範囲の紫外線で励起する場合には、増感剤としてVを含有
することによって、高輝度の赤色発光が可能となる。Vの含有量としては、0.2〜2.5mol%程度が好ましい。Vの含有量が少なすぎると増感剤としての効果が十分には発揮されず、
一方、含有量が多すぎると、ガラスが不透明になるので好ましくない。
【0021】
波長330〜365nm程度の範囲の紫外線で励起する場合のガラス組成としては、特に、SiO2を85mol%程度以上、Euを0.1〜0.8mol%程度、Vを0.2〜2.5mol%程度、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%程度含有し、Y,Gd及びLaか
らなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いことが好ましい。
【0022】
また、波長330〜365nm程度の範囲の紫外線で励起する場合に、Biを含有することによって、Euの含有量を低減することができる。この場合の好ましいガラス組成としては、SiO2を85mol%程度以上、Euを0.02〜0.8mol%程度、Biを0.03〜1mol%程度、Vを0.2〜2.5mol
%程度、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%
程度含有し、Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いことが好ましい。
【0023】
本発明の蛍光ガラスは、更に、必要に応じて、Li,Na,K,Rb及びCsからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含有することができる。これらの元素を含有することによって、紫外線の励起波長を長波長化し、輝度を向上することができる。Li,Na,K,Rb及びCsからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量は、0.02mol%〜1mol%程度であること
が好ましい。これらの元素の含有量が0.02mol%よりも少ない場合には、添加による効果
が十分には発揮されない。また、これらの元素が多すぎるとガラスが著しく不透明になり、輝度が低下するので好ましくない。尚、微量のNa,Kは多孔質ガラス中に初めから存在しているが、輝度向上に効果があるのは、多孔質ガラスの細孔中にドープしたNa又はKであ
る。
【0024】
本発明の蛍光ガラスは、更に、必要に応じて、希釈剤として、B, Mg, Al, P, Ca, Zn, Ga, Ge, Sr, Zr, Sn, Ba, Tl等の元素を一種単独又は二種以上含んでもよい。これらの元素は、Euの希釈剤として作用してEuの濃度消光による輝度の低下を抑制する働きをするものであるが、含有量が0.5mol%よりも多くなるとガラスが不透明になるので好ましくない。
【0025】
蛍光ガラスの製造方法
本発明の赤色発光する蛍光ガラスは、SiO2を主成分とする多孔質ガラスに、Eu及びその他の添加元素をドープさせた後、酸素含有雰囲気中で焼成することによって製造することができる。以下、この製造方法について説明する。
【0026】
(1)多孔質ガラス
本発明の蛍光ガラスの製造方法で用いる多孔質ガラスは、SiOを主成分とする多孔質
ガラスであればよく、特に、SiOを90mol%程度以上含有するものであることが好ましく、95 mol%程度以上含有するものであることがより好ましい。該多孔質ガラスでは、SiO
以外の成分としては、その製法に応じて、Al、B等の元素が含まれることがある。
【0027】
多孔質ガラスにおける細孔の形状は、外部から内部にイオンが導入できるように、連続細孔であることが好ましい。細孔径は、1nm〜20nm程度であることが好ましく、2nm〜6nm
程度であることがより好ましい。この範囲内の細孔径を有する多孔質ガラスを用いることによって、後述する元素をガラス内部まで均一にドープすることができ、高輝度を有する蛍光体を得ることができる。細孔径が小さすぎると元素のドープ量が減るために輝度が低下し、一方、大きすぎると焼成時に割れが生じやすくなるので好ましくない。尚、この場合の細孔径は、窒素吸着法を用いてBET法によって求めた値である。
【0028】
また、平面状の蛍光体を製造する場合には、均一に発光をする蛍光体を得るために、多孔質ガラスの厚さは、0.3mm〜2.5mm程度が好ましく、0.5〜2mm程度であることがより好ましい。多孔質ガラスが厚すぎると、ドープした元素の分布が不均一になりやすく、一方薄すぎると焼成時に割れが生じやすくなるので好ましくない。
【0029】
多孔質ガラスを製造する方法については特に限定されず、上記した条件を満足する多孔質ガラスを製造できる方法であればよい。例えば、ホウケイ酸ガラスをホウ酸相とシリカ相にスピノーダル分相させ、酸でホウ酸相をリーチングして多孔質シリカを得る方法によって得ることができる。この方法は、孔径や表面積を自由に変更できる点で特に有利であり、例えば、この方法で得られるガラスは、バイコールガラス(商標名)として市販されている。これらの市販品には、通常、SiOが95重量%程度以上含まれ、その他に、Al、Bなどの不純物が少量存在することが一般的である。
【0030】
(2)添加元素のドープ工程
本発明の蛍光ガラスでは、まず、多孔質ガラスに、前述した発光元素としてのEuとその他の添加元素をドープさせる。
【0031】
各元素をドープする方法については、特に限定はなく、例えば、CVD法などの気相法に
よってドープする方法、上記した元素を含む溶液中に多孔質ガラスを浸漬する方法などを適用できる。特に、溶液中に浸漬する方法によれば、均一に元素がドープされやすい点で有利である。
【0032】
溶液中に多孔質ガラスを浸漬する方法では、前記した蛍光ガラス中の各元素の濃度範囲となるように各元素をドープすればよい。
【0033】
ドープする元素を含む溶液の溶媒としては、通常、水を用いればよいが、エタノール、アセトンなどの有機溶媒も適宜使用できる。水を溶媒とする場合には、各元素は、硝酸塩、塩化物などの水溶性化合物として水に溶解すればよい。また、Vを含む水溶性の化合物
としてはVOSO4を例示できるが、沈殿を生じ易いために、例えば、1N程度の塩酸中に溶
解して用いればよい。
【0034】
また、Euは、VOSO4と沈殿をつくりやすいため、Vをドープする場合には、V以外の元素
を含む溶液中に多孔質ガラスを浸漬してこれらの元素をドープした後、600℃付近までゆ
っくり加熱して乾燥し、その後、再度、Vを含む溶液に浸漬して、Vをドープした後、後述する条件で焼成することが好ましい。
【0035】
溶液中における各元素の濃度については特に限定的ではないが、例えば、Euの濃度は、通常、0.01mol/L〜2mol/L程度とすることが好ましく、0.1mol/L〜1mol/L程度とすることがより好ましい。また、前述したように、390〜400nm程度の波長の励起光を用いる場合には、蛍光ガラス中のEuの含有量を0.2mol%程度以上とすることが必要となるので、溶
液中のEu濃度を高くすることが好ましく、通常、0.2mol/L〜1.2mol/L程度とすればよい。
【0036】
Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の濃度は、0.2〜2.5mol/L程
度とすることが好ましく、0.6〜2mol/L程度とすることがより好ましい。
【0037】
Li,Na,K,Rb及びCsからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素をドープする場合には、これらの元素の濃度は0.05〜0.5mol/L程度が好ましく、0.1〜0.4mol/L程度がより好ま
しい。また、B, Mg, Al, P, Ca, Zn, Ga, Ge, Sr, Zr, Sn, Ba及びTlからなる群から選ばれた少なくも一種の元素をドープする場合には、これらの元素の濃度は0.1〜1.0mol/L程
度とすればよい。
【0038】
また、Vをドープする場合には、その濃度は0.1〜2.5mol/L程度とすることが好ましく、0.4〜1.5mol/L程度とすることがより好ましい。
【0039】
Biをドープする場合には、その濃度は0.1〜1.5mol/L程度とすることが好ましく、0.2〜0.9mol/L程度とすることがより好ましい。
【0040】
具体的な浸漬方法としては、上記した各元素を含む溶液中に多孔質ガラスを浸漬して、放置すればよい。該溶液の温度は、室温程度でよく、浸漬時間は2分〜40分程度とすればよい。
【0041】
(3)焼成工程
上記した各元素を含む溶液中に多孔質ガラスを浸漬した後、該溶液から多孔質ガラスを取り出し、950℃以上で焼成する。
【0042】
通常は、溶液から多孔質ガラスを取り出した後、600℃程度まで数時間かけてゆっくり
と昇温して乾燥する。昇温時間が早すぎるとガラスが割れることがあるので注意が必要である。原料に硝酸塩を用いた場合には硝酸塩の分解を行う。乾燥後は、通常、いったん室温まで冷却する。
【0043】
次いで、このガラスを950℃以上で焼成することにより緻密化する。焼成温度は、950℃〜1200℃程度とすることが好ましく1000〜1150℃程度とすることがより好ましい。焼成温度が低すぎたり、高すぎたりすると十分な蛍光強度が得られないので好ましくない。
【0044】
焼成時間は、通常、0.5〜2時間程度とすればよい。
【0045】
尚、焼成工程において、焼成温度より50〜200℃程度低い温度、好ましくは100〜150℃
程度低い温度であって、900〜1050℃程度、好ましくは930〜1000℃程度の温度範囲に0.5〜2時間程度保持した後、上記した焼成温度に温度を上昇させて焼成することが好ましい。これにより、輝度をより向上させることができる。
【0046】
乾燥後のガラスを、上記した保持温度まで加熱するのに要する時間は、通常、3〜20時間程度とすることが好ましく、4〜10時間程度とすることがより好ましい。
【0047】
焼成時の雰囲気は、Eu3+の還元を防止するため、酸素雰囲気とすることが好ましい。酸素含有雰囲気としては、例えば、大気中や酸素気流中などを例示できる。
【0048】
焼成時には、多孔質ガラスをセラミックス平板の上に置き、さらにその上にセラミックス平板を置くことによって、加熱によるガラスの反りを防ぐことができる。セラミックス平板の材質は特に限定はなく、アルミナなどを用いることができる。焼成の際のガラスの収縮による割れを防ぐため、セラミックス平板の表面には凹凸のないことが望ましい。
【発明の効果】
【0049】
上記した通り、本発明の蛍光ガラスは、紫外LEDによる波長365nm〜400nm程度の紫外線
によっても高輝度に赤色発光するものであり、しかも紫外線による劣化の少ない耐久性に優れた蛍光ガラスである。よって、本発明の蛍光ガラスを固体発光素子である紫外LEDと
組み合わせることによって、長寿命な照明、ディスプレイデバイスを作製することができる。
【0050】
また、本発明の蛍光ガラスは紫外線の非照射時には透明であるため、その特徴を生かして、例えば、夜間時のみ発光する透明な看板、フィールドシーケンシャルLCDのR,G、B切り替えバックライトなどに利用できる。更に、耐水性が高いため、照明光源として用いた場合は、屋外でも使用できるという利点がある。
【0051】
更に、本発明の蛍光ガラスはEuの含有量が少ないために、従来の同輝度の蛍光ガラスと比較した場合に低価格になる。
【0052】
また、本発明の蛍光ガラスは、191nm〜351nmの紫外線で蛍光を発生することから、エキシマレーザー位置調整用としても使用可能であり、特に、シリカを主成分とするガラスであるために、ArFエキシマレーザー照射による劣化が少ないという利点を有するものであ
る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0054】
実施例1
SiO2含有量99mol%、平均細孔径2〜5nmの多孔質ガラス(10×10×1.5〜2mm)を原料
として用い、これを下記表1〜3の本発明品1〜10及び比較品1〜3の各項に記載されている、V以外の元素を含む水溶液中に25℃で5〜20分間浸漬し、その後、該水溶液
から取り出して、6時間かけて600℃に昇温し、この温度で乾燥した。尚、表1に記載の
各元素は、硝酸塩として添加した。
【0055】
次いで、乾燥後の多孔質ガラスを、表1〜3に示すVOSO4を含む水溶液に、25℃で5
〜20分間浸漬した。
【0056】
その後、上記した方法で各元素をドープさせた多孔質ガラスを、酸素気流中で10時間かけて950℃に昇温し、この温度で1時間保持した後、更に、1時間かけて1100℃まで昇
温して1時間焼結してガラスを作製した。得られたガラス中の各元素の含有量を下記表1〜3に示す。
【0057】
得られた各ガラスを波長365nmの蛍光ランプ(4W)の上におき、発光色、輝度及び透明
性を目視で観察した。この際、紫外線強度をUVメーターで測定すると、3.6mW/cm2であっ
た。
【0058】
各ガラスについて、発光色、輝度及び透明性を下記表1〜3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
以上の結果から明らかなように、本発明品1〜10のガラスは、透明又は半透明で輝度の高い赤色発色するガラスであった。これらの内で、本発明品1のガラスの色度は、(X
)=0.601,(y)=0.326,本発明品2のガラスの色度は、(X)=0.614,(y)=0.333であり、いずれも純度の高い赤色を示すものであった。
【0063】
図1に本発明品4のガラスについて、発光波長615nmの蛍光の励起スペクトルを示す。
励起スペクトルのピークが波長330〜365nm程度の範囲と、波長390〜400nm程度の範囲に存在し、365nm以上の波長による励起でも十分な蛍光強度を示すことが判る。
【0064】
また、Biを含有する本発明品8のガラスは、Euの含有量が0.05mol%と非常に少なかったが、高輝度に赤色発色するものであった。
【0065】
また、本発明品9のガラスと本発明品10のガラスの比較により、本発明品9のガラスは、Csを含有することによって、高い輝度を示すことが判る。
【0066】
これに対して、比較品1〜3のガラスは、いずれもGd又はYの含有量が少ないガラスで
あり、輝度が低くかつ赤色の純度がやや低い発光を示すものであった。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1における本発明品4のガラスにおける発光波長615nmの励起スペクトルを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)SiO2を85mol%以上、Euを0.02〜0.8mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ば
れた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(2)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(3)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
【請求項2】
下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長390〜400nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を0.85mol%以上、Euを0.2〜0.8mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
【請求項3】
下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長330〜365nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を85mol%以上、Euを0.1〜0.8mol%、Vを0.2〜2.5mol%、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有すること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
【請求項4】
下記(1)〜(4)の条件を満足する、紫外線による励起によって赤色発光する蛍光ガラス:
(1)波長330〜365nmの紫外線による励起によって赤色発光すること、
(2)SiO2を85mol%以上、Euを0.02〜0.8mol%、Biを0.03〜1mol%、Vを0.2〜2.5mol%
、並びにY,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.4〜2mol%含有す
ること、
(3)Y,Gd及びLaからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素の含有量がEuの含有量より多いこと、
(4)多孔質ガラスを焼成して得られるガラスであること。
【請求項5】
更に、Li,Na,K,Rb及びCsからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を0.02〜1mol%含
有する請求項1〜4のいずれかに記載の赤色発光する蛍光ガラス。
【請求項6】
SiO2を主成分とする多孔質ガラスに、Eu及びその他の添加元素をドープさせた後、酸素含有雰囲気中で焼成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の赤色発光する蛍光ガラスの製造方法。
【請求項7】
多孔質ガラスが、SiOを90mol%以上含有し、平均細孔径1〜20nmの連続細孔を有する多孔質体である請求項6に記載の蛍光ガラスの製造方法。
【請求項8】
950℃以上の温度で焼成する請求項6又は7に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−18460(P2010−18460A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−178718(P2008−178718)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 経済産業省地域新生コンソーシアム研究開発事業「超高精細LCDを実現する発光ガラスパネルシステムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】