説明

走行軌跡演算装置、走行軌跡演算方法及び走行軌跡演算プログラム

【課題】地図上における車両の走行軌跡の精度を向上することができる走行軌跡演算装置、走行軌跡演算方法及び走行軌跡演算プログラムを提供する。
【解決手段】ナビゲーション装置2は、処理対象区間の自車両の走行軌跡を車載センサ5に基づき算出し、処理対象区間の道路建設時期を判定し、道路建設時期に応じて規定された道路構造規定に基づき道路の勾配を定めた各テーブル21,22を記憶した道路法令記憶部20から、処理対象区間の道路建設時期に対応した勾配規定情報を取得し、取得した勾配規定情報に基づき、算出した走行軌跡情報を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行軌跡演算装置、走行軌跡演算方法及び走行軌跡演算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載されたナビゲーション装置は、車速センサや2次元ジャイロセンサに基づき自車位置を算出している(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−349734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1では、算出された複数の自車位置を走行軌跡として、平面地図の道路形状と比較することにより、平面地図の道路上での自車位置を特定するマップマッチング処理を行う。しかし、上記のようなセンサのみを用いた方法では、道路の勾配を予測することができない。従って、自車両が勾配を有する道路を走行した場合、走行軌跡は平面地図上の道路形状とは大きく異なることがある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、地図上における車両の走行軌跡の精度を向上することができる走行軌跡演算装置、走行軌跡演算方法及び走行軌跡演算プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、前記道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段と、処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する走行軌跡算出手段と、前記処理対象区間の前記道路建設時期を判定する建設時期判定手段と、前記処理対象区間の前記道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得する勾配取得手段と、前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する軌跡補正手段とを備えた。
【0007】
請求項1に記載の構成によれば、処理対象区間の自車両の走行軌跡が、処理対象区間の道路建設時期に対応する勾配規定情報に基づき補正される。このため、道路の実勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、勾配規定情報を満たすように補正することができる。しかも、勾配規定情報は、道路建設時期に応じた情報を用いるため、適切な規定に基づき補正を行うことができる。従って、走行軌跡の精度を向上することができるので、例えば、道路形状データを補正したり、マップマッチングを精度良く行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の走行軌跡演算装置において、前記勾配規定情報は、道路属性とカーブにおける片勾配との関係を規定し、前記勾配取得手段は、前記処理対象区間の道路属性を取得するとともに、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報の中から、当該道路属性に対応する片勾配の規定値を取得し、前記軌跡補正手段は、前記取得した片勾配の規定値に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する。
【0009】
請求項2に記載の構成によれば、道路属性と片勾配との関係を規定した勾配規定情報に
基づき、算出した走行軌跡情報を補正する。このため、実際の片勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、道路建設時期に応じた勾配規定情報を満たすように補正することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の走行軌跡演算装置において、前記勾配規定情報は、道路属性と縦断勾配との関係を規定し、前記勾配取得手段は、前記処理対象区間の道路属性を取得するとともに、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した勾配規定情報の中から、当該道路属性に対応する縦断勾配の規定値を取得し、前記軌跡補正手段は、前記縦断勾配の規定値に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する。
【0011】
請求項3に記載の構成によれば、道路属性と縦断勾配との関係を規定した勾配規定情報に基づき、算出した走行軌跡を補正する。このため、実際の縦断勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、道路建設時期に応じた勾配規定情報を満たすように補正することができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行軌跡演算装置において、前記補正した走行軌跡情報と、道路情報とに基づいて、前記処理対象区間の道路形状を推定する形状推定手段をさらに備えた。
【0013】
請求項4に記載の構成によれば、補正した走行軌跡情報と、道路情報とに基づいて、処理対象区間の道路形状が推定される。このため、勾配がつけられた道路でも、走行軌跡に基づき道路形状を推定し、道路情報の精度を高めることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する制御手段を用いた走行軌跡演算方法において、前記制御手段が、前記処理対象区間の道路建設時期を判定し、前記道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段から、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得し、前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する。
【0015】
請求項5に記載の方法によれば、処理対象区間の自車両の走行軌跡が、処理対象区間の道路建設時期に対応する勾配規定情報に基づき補正される。このため、道路の実勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、勾配規定情報を満たすように補正することができる。しかも、勾配規定情報は、道路建設時期に応じた情報を用いるため、適切な規定に基づき補正を行うことができる。従って、走行軌跡の精度を向上することができるので、例えば、道路形状データを補正したり、マップマッチングを精度良く行うことができる。
【0016】
請求項6に記載の発明は、処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する制御手段を用いた走行軌跡演算プログラムにおいて、前記制御手段を、前記処理対象区間の道路建設時期を判定する建設時期判定手段と、前記道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段から、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得する勾配取得手段と、前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する軌跡補正手段として機能させる。
【0017】
請求項6に記載のプログラムによれば、処理対象区間の自車両の走行軌跡が、処理対象区間の道路建設時期に対応する勾配規定情報に基づき補正される。このため、道路の実勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、勾配規定情報を満たすように補正することができる。しかも、勾配規定情報は、道路建設時期に応じた情報を用いるため、適切な規定に基づき補正を行うことができる。従って、走行軌跡の精度を向上することができるので、例えば、道路形状データを補正したり、マップマッチングを精度良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ナビゲーションシステムのブロック図。
【図2】道路構造令の改正前に対応する縦断勾配テーブル。
【図3】道路構造令の改正後に対応する縦断勾配テーブル。
【図4】(a)は改正前に対応する片勾配テーブル、(b)は改正後に対応する片勾配テーブルの模式図。
【図5】特別片勾配テーブルの模式図。
【図6】走行軌跡演算機能を説明する機能ブロック図。
【図7】縦断勾配がある場合の走行軌跡の模式図。
【図8】片勾配がある場合の走行軌跡の模式図。
【図9】本実施形態の走行軌跡演算方法のフローチャート。
【図10】同フローチャート。
【図11】縦断勾配の上限値を用いた補正方法を説明する模式図。
【図12】片勾配の基準値を用いた補正方法を説明する模式図。
【図13】片勾配の基準値を用いた補正方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、ナビゲーションシステムに具体化した一実施形態を図1〜図13に従って説明する。
図1は、本実施形態のナビゲーションシステム1のブロック図である。ナビゲーションシステム1は、走行軌跡演算装置としてのナビゲーション装置2と車載センサ5を有し、ナビゲーション装置2は、CPU11、RAM12、ROM13、及びI/F(インターフェース)14を有するナビゲーションユニット10を備えている。このナビゲーションユニット10は、走行軌跡演算プログラムを格納し、走行軌跡算出手段、建設時期判定手段、勾配取得手段、軌跡補正手段、形状推定手段及び制御手段に対応している。
【0020】
ナビゲーションユニット10は、車載センサ5から検出信号を取得して、電波航法及び自律航法により自車位置を算出する。本実施形態では、車載センサ5は、GPS受信部6、車速センサ7、相対方位を検出する2次元ジャイロセンサ8及び舵角センサ9から構成されている。GPS受信部6は、GPS衛星から、軌道位置情報及び送信時刻を含む電波を受信する。ナビゲーションユニット10は、GPS受信部6が受信した電波に基づき、三角測量法等を用いて、緯度・経度等の2次元の絶対位置(X,Y)を検出する。電波航法による測位精度は、数メートル程度の誤差が生じることがある。
【0021】
車速センサ7は、車輪回転数に応じて車輪速パルスを出力し、ジャイロセンサ8は、車体重心を中心とした回転角速度を検出する。ナビゲーションユニット10は、車速センサ7から入力した車輪速パルスのパルス数に基づき、基準位置からの相対移動距離を算出し、ジャイロセンサ8から入力した角速度を積分して、基準位置からの相対移動方向を算出して、自律航法によって基準位置からの相対位置を算出する。尚、ジャイロセンサ8の換わりに、舵角センサ9を用いてもよい。舵角センサ9は、運転者によってステアリングホイールの操舵角を検出し、舵角中点に対する正負に基づいて、旋回方向を判断する。
【0022】
ナビゲーションユニット10は、電波航法を用いて算出した自車位置と、自律航法を用いて算出した自車位置とを組み合わせて、自車位置を特定する。
次に、ナビゲーションシステム1が備える各記憶部と当該記憶部に格納されたデータについて説明する。地理情報記憶部15には、道路ネットワークデータ16、道路属性データ17、地図背景データ18及び道路形状データ19が格納されている。
【0023】
道路ネットワークデータ16は、ノードデータ及びリンクデータを有している。ノードは、道路の端点や、交差点を示すデータ要素であり、リンクは、ノードの間を接続するデ
ータ要素である。ノードデータは、ノードの識別子、座標及び接続リンクの識別子等を有している。リンクデータは、リンクの識別子、座標及び接続ノードの識別子や、各リンクに対応付けられたリンクコストを有している。リンクコストは、リンク長やリンクを走行する際の平均走行時間等に応じて設定され、経路探索に用いられる。
【0024】
道路属性データ17は、各リンクに対応する道路の道路区分、建設時期、設計速度、地形、地域属性、車線数等を有している。道路区分には、「第3種第2級」等の区分が格納されている。この区分は、例えば、道路を大きく第1種〜第4種に分類し、さらに各種において各級に分類するものである。高速自動車国道及び自動車専用道路であって地方部にある道路は、第1種とされ、高速自動車国道及び自動車専用道路であって都市部にある道路は第2種とされる。その他の道路であって地方部にある道路は第3種とされ、その他の道路であって都市部にある道路は第4種とされる。
【0025】
また、各種別は、地方部又は都市部に応じて設定された条件に基づき、1級、2級・・・といった各級に分類される。例えば、第1種は、計画交通量と道路の種類、道路が存する地形に応じて、第1級から第4級までに分類される。ここでは、計画交通量が多い場合には、「1級」等、レベルの高い級数が設定され、計画交通量が減少するにつれて、「2級」、「3級」・・といったように低いレベルとなる。また、道路の種類が「高速自動車国道」といった重要度が高い場合には、1級等、レベルの高い級数が設定される。また、平地部は、山地部よりも、レベルの高い級数が設定される。また、第1種の級数の設定方法は、第2種〜第4種における級数の設定方法と異なる。
【0026】
また、道路属性データ17に含まれる建設時期は、少なくとも、その道路が道路構造令の法令の改正前に建設された道路であるか、又は改正後に建設された道路であるかを示すデータである。建設時期には、例えば改正前か改正後かを示すフラグが格納されていてもよいし、具体的な建設年が格納されていてもよい。道路構造令は、昭和45年に改正されており、道路計画・設計の仕方は、その改正前と改正後で異なる。従って、勾配の規定等は、道路構造令の改正前と改正後とで異なる。
【0027】
道路属性データ17に含まれる設計速度は、道路建設時に設定された速度であり、天候が良好且つ交通密度が低く、車両の走行条件が道路の構造的条件のみ依る場合に、平均的な技量をもつ運転者が、安全にしかも快適性を失わずに走行できる速度を示す。
【0028】
道路属性データ17に含まれる地形は、「平地部」、「山地部」等を示す。また、その道路が建設された所が、地形の状況又はその他の特別な理由により、特異な勾配値が適用される場所であるか否かをフラグ等によって示している。地域属性は、その道路が属する地域の特異性を示し、少なくとも積雪寒冷地域であるか否かを示している。
【0029】
地図背景データ18及び道路形状データ19は、ナビゲーションシステム1のディスプレイ(図示略)に、地図画面を表示するためのデータである。地図背景データ18は、道路以外の領域を描画するためのデータであって、道路形状データ19は、道路の曲線部を描画するためのデータであって、道路の曲線形状を表すためにノード間に設定される形状補間点の座標を有している。この形状補間点は、道路の概略的な形状を示しており、各補間点の中には、道路上から外れた位置に設定された補完点も存在する。
【0030】
ナビゲーションユニット10は、車速センサ7に基づき算出した基準位置からの相対距離と、ジャイロセンサ8に基づき算出した相対方向とを用いて、自車両の走行軌跡を算出し、走行軌跡を道路形状データ19にマッチングさせるマップマッチングを行う。即ち、電波航法及び自律航法では、GPS測位の誤差及び各センサの測定誤差等が累積するため、地図上の道路に自車位置をマッピングすることにより、累積誤差を適宜補正する。マッ
プマッチングでは、走行軌跡と、道路形状が示す道路平面形状との類似度を判断し、類似度が高いと推定される道路上に自車位置をマッピングする。
【0031】
規定情報記憶手段としての道路法令情報記憶部20には、勾配規定情報としての縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22が格納されている。これらの縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22は、道路構造令や道路構造令から導き出された規定(道路構造規定)に基づき、予め作成されたデータである。縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22は、道路構造令に従った道路の縦断勾配及び片勾配を、法令の改正前と改正後とに分けてそれぞれ示すものである。
【0032】
図2及び図3に示すように、縦断勾配テーブル21は、改正前の道路構造令に従って縦断勾配を定めた第1縦断勾配テーブル21Aと、改正後の縦断勾配を定めた第2縦断勾配テーブル21Bとを有している。尚、縦断勾配は、道路の進行方向に沿った勾配であって、百分率で示されている。例えば、基準点から100メートル走行した到達点において、垂直方向(鉛直方向)に5m上がった場合には、縦断勾配は5%となる。この縦断勾配は、道路構造令の改正前と改正後とでそれぞれ異なる条件に応じて、勾配規定としての縦断勾配の上限値Jmaxがそれぞれ定められている。
【0033】
図2に示す第1縦断勾配テーブル21Aは、道路区分及び地形毎に、許容される縦断勾配の上限値Jmaxを設定している。縦断勾配の上限値Jmaxとしては、縦断勾配の通常値と特別値とが設定されている。縦断勾配の特別値は、地形の状況又はその他の特別の理由によりやむを得ない箇所で適用される。この第1縦断勾配テーブル21Aでは、山地部の縦断勾配の上限値Jmaxは、平地部の上限値Jmaxよりも大きく設定されている。さらに、特別な場合に適用される縦断勾配の上限値Jmaxは、一般縦断勾配の上限値Jmaxよりも大きく設定されている。
【0034】
図3に示す第2縦断勾配テーブル21Bは、第1縦断勾配テーブル21Aに対し、縦断勾配の上限値Jmaxの規定方法が異なっている。具体的には、第2縦断勾配テーブル21Bでは、道路区分及び設計速度毎に、許容される縦断勾配の上限値Jmaxが設定されている。このテーブル21Bも、縦断勾配の通常値と特別値とを有している。道路区分は、第1種、第2種・・といった種別と、普通道路及び小型道路といった種別とに分類されている。このテーブル21Bでは、設計速度が大きくなるに伴い、縦断勾配の上限値Jmaxが小さくなるように設定されている。
【0035】
片勾配テーブル22は、改正前の道路構造令に従って、カーブにおける片勾配を定めた第1片勾配テーブル22Aと、改正後の道路構造令に従って、カーブにおける片勾配を定めた第2片勾配テーブル22Bとを有している。また、地域に特異性がある場合に適用される特別勾配テーブル22Cを有している。尚、片勾配は、道路の進行方向に沿った内側端よりも外側端を高くした、道路の幅方向に沿って設けられる勾配であって、例えばカーブにおいては、走行時に加わる遠心力により、車両の横転や走行軌跡の外側への膨らみを抑制するために設けられる。本実施形態では、片勾配は百分率で表され、例えばカーブの内側の側端から10メートル道路の幅方向に離れた位置が、50cmの高低差を持つ場合、片勾配は5%となる。カーブ形状に対して過大な片勾配が設定されると、制動時の横滑りが発生しやすくなったり運転操作が困難となり、カーブ形状に対して過小な片勾配が設定されると、運転操作上、無理が生じやすくなる。このため、第1片勾配テーブル22A及び第2片勾配テーブル22Bでは、曲率半径に応じて必要な片勾配の基準値Irfを規定している。また、各テーブル22A,22Bに設定された片勾配の基準値Irfは、カーブに対して設定された基準値であるため、道路の外側の側端が、内側の側端よりも高く、正の値をとるものとする。
【0036】
図4(a)に示す第1片勾配テーブル22Aは、道路区分及び道路の曲率半径(曲線半径)に応じて、その曲率半径を有するカーブ形状の道路に設けられるべき、片勾配の基準値Irf(勾配規定)を規定している。曲率半径が小さくなるに伴い、大きな遠心力が生じやすいため、基準値Irfは大きくなる。また、山地部の基準値Irfは、平地部の基準値Irfよりも小さくなる傾向にある。
【0037】
図4(b)に示す第2片勾配テーブル22Bは、第1片勾配テーブル22Aに対し、片勾配の規定方法が異なっている。即ち、第2片勾配テーブル22Bでは、設計速度及び曲率半径に応じて、その曲率半径を有するカーブ形状の道路に設けられるべき片勾配の基準値Irfを規定している。曲率半径の範囲に含まれる値が小さくなり、急カーブとなるに従って、大きな片勾配の基準値Irfが設定されている。また、設計速度が大きくなるに伴い、大きな片勾配の基準値Irfが設定されている。
【0038】
図5に示す特別勾配テーブル22Cは、積雪寒冷地域に対する最大勾配値Imaxを規定している。この特別勾配テーブル22Cは、道路区分に応じて、最大勾配値Imaxを規定しており、積雪が多い寒冷地には、低い最大勾配値Imaxを設定している。第1片勾配テーブル22A及び第2片勾配テーブル22Bによる基準値Irfが、この特別勾配テーブル22Cに規定された値を満たさない場合には、特別勾配テーブル22Cの最大勾配値Imaxが優先される。
【0039】
また、図1に示すように、走行軌跡記憶部23には、走行軌跡データ24が格納されている。走行軌跡データ24は、リンク識別子と、そのリンク識別子に対応する道路における走行軌跡とを関連付けて記憶している。例えば、走行軌跡データ24は、走行軌跡を示す点群の2次元座標を有している。
【0040】
次に、ナビゲーションユニット10に格納された走行軌跡演算プログラムの機能について説明する。図6は、ナビゲーションユニット10の機能ブロック図である。
自車位置判定部30は、上記車載センサ5に基づき、上記電波航法、自律航法及びマップマッチングにより、自車位置を判定する。走行軌跡演算部31は、車載センサ5に基づき、2次元の走行軌跡を演算する。例えば、基準位置からの相対移動距離を車速センサ7に基づき算出し、相対移動方向をジャイロセンサ8に基づき算出して、所定時間毎又は所定移動距離毎に設定された計測点毎に、基準位置に対する相対位置を示す2次元座標を算出する。
【0041】
道路建設年判定部32は、道路属性データ17に含まれる建設時期に基づき、少なくとも処理対象の道路が、道路構造令改正前であるか否かを判定する。
規定値取得部33は、道路建設年判定部32から、道路の建設時期が、道路構造令の改正前か改正後かを示すフラグ等を取得する。そして、建設時期に対応する縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22を読み出す。例えば、処理対象の道路が、道路構造令の改正前に建設されている場合には、改正前に対応する第1縦断勾配テーブル21A及び第2片勾配テーブル22Bを読み出す。処理対象の道路が、道路構造令の改正後に建設されている場合には、改正後に対応する第2縦断勾配テーブル21B及び第2片勾配テーブル22Bを読み出す。
【0042】
走行軌跡補正部35は、規定値取得部33により取得した勾配規定値と、走行軌跡演算部31から取得した走行軌跡とを用いて走行軌跡を補正する。
まず、処理対象区間内の縦断勾配の上限値Jmaxと、走行軌跡演算部31から取得した走行軌跡とを用いて、道路の進行方向に沿った補正を行う。
【0043】
図7に模式的に示すように、道路の縦断勾配を考慮しない車両Cの走行軌跡101は、
鉛直方向(図中Z方向)における位置変化はなく、一定距離だけ走行した後に到達する位置は、位置P1となる。しかし、道路に縦断勾配が設けられている場合、実際の走行軌跡102は、鉛直方向において湾曲し、一定距離だけ走行した後に到達する実際の位置は、縦断勾配が無いと想定した場合の位置P1よりも手前の位置P2になる。その結果、ナビゲーションユニット10が算出した走行軌跡101に基づき自車位置を特定すると、平面地図上において自車位置のずれΔLが生じることがある。また、このずれΔLは、道路の縦断勾配が、上限値Jmaxである場合に最も大きくなる。従って、走行軌跡補正部35では、各センサ7,8に基づき算出された走行軌跡の長さ(軌跡長Ltr)を求めるとともに、処理対象区間の道路が縦断勾配の上限値Jmaxを有していた場合の軌跡長(最短軌跡長Lmin)を求める。
【0044】
尚、処理対象区間内の道路の実勾配を示すデータは所持していないものの、実勾配は上限値Jmax以下であるため、軌跡長Ltrは、常に最短軌跡長Lmin以上である(Ltr≧Lmin)。
【0045】
また、平面地図上の処理対象区間内の道路の長さ(地図道路長Lmp)を算出する。そして、軌跡長Ltrと地図道路長Lmpとの差分を算出する。地図道路長Lmpは、道路を鉛直方向上方から俯瞰した場合の道路の長さに相当するので、勾配を考慮していない軌跡長Ltrは、地図道路長Lmp以上であり、上記差分は正の値或いは「0」となる。そして、上記差分が、所定値Lzよりも大きい場合には、道路に縦断勾配が設けられていると推定されるため、軌跡長Ltrが短くなるように補正する。本実施形態では、地図道路長Lmpにも誤差が含まれているとみなし、軌跡長Ltrを、最短軌跡長Lminと同値になるように補正する。或いは、軌跡長Ltrの取り得る範囲を、最短軌跡長Lminから軌跡長Ltrまでとして決定してもよい。或いは、差分の大きさに基づき、軌跡長Ltrから減算する長さを決定してもよい。つまり、差分が大きくなるほど、縦断勾配が大きいと推定されるため、軌跡長Ltrが最短軌跡長Lmin以上であるという条件下で、軌跡長Ltrから減算する長さを大きくしてもよい。
【0046】
また、走行軌跡補正部35は、規定値取得部33により取得した処理対象区間内の片勾配の基準値Irfを用いて、走行軌跡演算部31から取得した走行軌跡を補正する。図8に示すように、カーブにおいて道路の片勾配を考慮していない場合、車速センサ7及びジャイロセンサ8のみに基づく走行軌跡106を、そのまま平面地図上に投影すると、平面地図の道路上にマッチングした走行軌跡107に比べ、旋回量が少なくなる。このため、車速センサ7及びジャイロセンサ8に基づき算出された走行軌跡を、片勾配の基準値Irfを用いて補正する。
【0047】
尚、処理対象区間が、積雪寒冷地域である場合には、基準値Irfと最大勾配値Imaxとを比較し、基準値Irfが、最大勾配値Imaxよりも大きい場合には、最大勾配値Imaxで基準値Irfを補正する。
【0048】
走行軌跡を補正すると、走行軌跡補正部35は、その補正した走行軌跡を、走行軌跡データ24として走行軌跡記憶部23に記憶する。こうして記憶された走行軌跡データ24は、マップマッチングによる自車位置の修正や、道路形状データ19の補正に用いられる。
【0049】
次に、本実施形態の処理手順について、図9〜図13に従って説明する。
まず、ナビゲーションユニット10は、走行軌跡補正を開始するか否かを判断する(ステップS1)。走行軌跡補正を開始するためのトリガは特に限定されないが、例えば、イグニッションスイッチがオン状態とされたとき、又はインストルメントパネル等に設けられたスイッチがオン操作されたとき、走行軌跡補正を開始すると判断する。
【0050】
走行軌跡補正を開始すると判断すると(ステップS1においてYES)、車載センサ5に基づき、処理対象区間の走行軌跡を算出する(ステップS2)。処理対象区間は、ノード毎に区切られた区間でもよいし、所定数の形状補間点毎に区切られた区間でもよく、平均走行時間毎に区切られた区間でもよい。走行軌跡を算出する際は、処理対象区間を走行する間に入力した車速パルス数に基づき、基準位置(処理対象区間の始点)からの相対移動距離ΔLを算出する。また、ジャイロセンサ8から出力された角速度を積分して、基準位置からの相対方向ΔDを算出し、基準位置に対する相対位置を特定する。
【0051】
次に、自車位置に対応する道路属性データ17を読み出し、その道路属性データ17に基づき、自車両が走行している道路の道路建設時期を取得する。そして、取得した道路建設時期をRAM12等に記憶するとともに、その道路建設時期が、道路構造令の改正前であるか否かを判断する(ステップS3)。
【0052】
道路建設時期が改正前であると判断すると(ステップS3においてYES)、自車両が走行している道路の道路区分及び地形を、道路属性データ17から取得する(ステップS4)。そして、道路法令情報記憶部20から、第1縦断勾配テーブル21Aを読み出し、ステップS4で取得した道路区分及び地形に対応する縦断勾配の上限値Jmaxを取得する(ステップS5)。
【0053】
一方、道路建設時期が改正後であると判断すると(ステップS3においてNO)、自車両が走行している道路の道路区分及び設計速度を、道路属性データ17から取得する(ステップS6)。そして、道路法令情報記憶部20から、第2縦断勾配テーブル21Bを読み出し、ステップS6で取得した道路区分及び設計速度に対応する縦断勾配の上限値Jmaxを取得する(ステップS7)。
【0054】
縦断勾配の上限値Jmaxを取得すると、処理対象区間が、カーブを含むか否かを判断する(ステップS8)。このとき、ジャイロセンサ8に基づく相対方向の変化量、又は舵角センサ9に基づく舵角変化量が所定値以上となった区間が存在するか否かを判断してもよいし、道路形状データ19に基づき道路の曲率半径を算出し、曲率半径が所定値以上である区間が存在する場合には、カーブが含まれると判断してもよい。
【0055】
処理対象区間がカーブでなく、直線区間であると判断すると(ステップS8においてNO)、図10に示すステップS20に進む。一方、処理対象区間がカーブを含むと判断すると(ステップS8においてYES)、処理対象区間に含まれるカーブ区間を、公知の方法で判定し、カーブに設けられるべき片勾配の基準値Irfを取得する。
【0056】
具体的には、まずステップS9において、道路形状データに基づき、曲率半径を取得する。曲率半径を取得する方法は公知の方法を用いる。例えば、上記道路形状データに基づき、自車位置が通過した形状補間点又はノード又は任意の地点(以下、座標点)を特定し、特定した座標点Pを含む3つの座標点Pn−1〜Pn+1を取得する。そして、円周上の任意の3点が満たす式に、3つの座標点Pn−1〜Pn+1を当てはめ、それらの3点がなす曲率半径Rを算出する。
【0057】
曲率半径を取得すると、ステップS3においてRAM12等に記憶された処理対象の道路の道路建設時期を読み出し、道路建設時期が、道路構造令の改正前であるか否かを判断する(ステップS10)。
【0058】
道路建設時期が改正前である場合(ステップS10においてYES)、処理対象区間の道路区分を道路属性データ17から取得する(ステップS11)。そして、改正前に対応
する第1片勾配テーブル22Aを読み出し、第1片勾配テーブル22Aの中から、ステップS11で取得した道路区分と、取得した曲率半径とに対応する片勾配の基準値Irfを取得し(ステップS12)、ステップS20に進む。尚、ここで、道路属性データ17に含まれる地域属性を判断し、処理対象区間が、積雪寒冷地域であるか否かを判断する。積雪寒冷地域でない場合には、そのまま基準値Irfを用いる。積雪寒冷地域である場合には、基準値Irfが、特別勾配テーブル22Cを満たすか否かを判断し、満たさない場合には、基準値Irfを特別勾配テーブル22Cが示す最大勾配値Imaxと同値にする。
【0059】
一方、道路建設時期が改正後である場合(ステップS10においてNO)、処理対象区間の設計速度を道路属性データ17から取得する(ステップS13)。そして、改正後に対応する第2片勾配テーブル22Bを読み出し、ステップS13で取得した設計速度と、取得した曲率半径とに対応する片勾配の基準値Irfを取得し(ステップS14)、ステップS20に進む。尚、ここで、ステップS12と同様に、道路属性データ17に含まれる地域属性を判断し、処理対象区間が、積雪寒冷地域であるか否かを判断する。積雪寒冷地域でない場合には、そのまま基準値Irfを用いる。積雪寒冷地域である場合には、基準値Irfが、特別勾配テーブル22Cを満たすか否かを判断し、満たさない場合には、基準値Irfを特別勾配テーブル22Cが示す最大勾配値Imaxと同値にする。
【0060】
図10に示すステップS20では、ステップS2で算出した走行軌跡の軌跡長Ltrを取得する。このとき取得された軌跡長Ltrは、車速センサ7に基づき算出された距離であるため、処理対象区間における実際の走行距離を示している。
【0061】
軌跡長Ltrを取得すると、ステップS12又はステップS13で取得した縦断勾配の上限値Jmaxに基づき、最短軌跡長Lminを算出する(ステップS21)。
このステップについて詳述すると、まず、百分率で示される縦断勾配の上限値Jmaxから、下記に示す式1に従って、道路の傾きθ(rad)を算出する。この道路の傾きθは、許容される道路の傾きの最大値に相当する。
【0062】
θ=arctan(Imax/100)=tan−1(Imax/100)・・・(1)
次に、図11に示すように、処理対象区間内の道路に傾きθの勾配が設けられている場合を想定して、軌跡長Ltrから、2次元の地図平面(XY平面)上に投影される最短軌跡長Lminを求める。
【0063】
Lmin=Ltr・cosθ・・・(2)
ステップS22では、道路形状データに基づき、処理対象区間内の平面地図上の道路の長さを示す地図道路長Lmpを取得する。尚、ステップS20〜ステップS22は時系列的順序は特に限定されない。
【0064】
そして、ステップS20で取得した軌跡長Ltrから、地図道路長Lmpを減算した差分が、所定値Lzを超えるか否かを判断する(ステップS23)。
軌跡長Ltrと地図道路長Lmpとの差分が所定値Lz以下であると判断すると(ステップS23においてNO)、走行軌跡を補正せずに、ステップS25に進む。
【0065】
一方、軌跡長Ltrと地図道路長Lmpとの差分が所定値を超えると判断した場合(ステップS23においてYES)、少なくとも、処理対象区間の道路は縦断勾配を有していると推定される。このため、軌跡長Ltrを、その値が小さくなるように補正する(ステップS24)。このときの補正方法としては、上記したように、軌跡長Ltrが、最短軌跡長Lminとなるように補正してもよいし、また、軌跡長Ltrの取り得る範囲を決定してもよい。或いは、軌跡長Ltrを、補正前の軌跡長Ltrと最短軌跡長Lminとの
間になるように補正してもよい。
【0066】
ステップS25では、ステップS12又はステップS14において片勾配の基準値Irfを取得したか否かを判断する。処理対象区間がカーブを含まず、片勾配の基準値Irfが取得されていないと判断すると(ステップS25においてNO)、ステップS27に進み、走行軌跡補正を終了するか否かを判断する。例えば、イグニッションスイッチがオフ状態とされたとき、又はインストルメントパネル等に設けられたスイッチがオフ操作されたとき、走行軌跡補正を開始すると判断する。走行軌跡補正を終了しないと判断すると(ステップS27においてNO)、図9に示すステップS2に戻る。
【0067】
ステップS25において、片勾配の基準値Irfが取得されていると判断すると(ステップS25においてYES)、処理対象区間の走行軌跡を、片勾配の基準値Irfを用いて補正する(ステップS26)。
【0068】
具体的には、片勾配の基準値Irfを、式1に基づき、道路の幅方向の傾きθxに変換する。さらに、ジャイロセンサ8が検出した角速度に基づき、処理対象区間に含まれるカーブ区間の曲率半径Rを算出する。図12の道路の幅方向(X方向)における横断面図に示すように、このとき算出される曲率半径Rは、道路面に沿った曲率半径である。さらに、算出した曲率半径Rを、下記に示す式3に従って、地図平面(XY平面)上の曲率半径Rhに変換する。
【0069】
Rh=R・cosθx・・・(3)
地図平面(XY平面)上の曲率半径Rhが算出されると、この曲率半径Rhを用いて、走行軌跡を補正する。例えば、図13に示すように、この曲率半径Rhで旋回する場合の円軌跡50上の任意の2点PA,PBを特定し、この2点間の距離Labを算出する。さらに、式4に従って、任意の2点PA,PBがなす中心角A(°)を算出する。
【0070】
A=(Lab/2πRh)・360・・・(4)
また、中心角Aから、点PAと点PBとを接続する直線52と、点PAから直進する場合の直進方向を示す、点PAにおける接線51とがなす旋回角φを、下記に示す式5に従って算出する。
【0071】
φ=A/2・・・(5)
そして、旋回角φを距離Labで除算した、単位距離あたりの旋回角φを用いて、上記カーブ区間内の走行軌跡を補正する。或いは、旋回角φを距離Labの走行時間で除算して、単位時間あたりの旋回角φとしてもよい。例えば、走行軌跡上の2点P,Pn+1を特定し、Pにおける単位距離あたりの旋回角φと曲率半径Rhとに基づく旋回軌跡に近付くように、Pn+1の2次元の座標を補正する。また、Pn+1とPn+2について、同様な処理を行い、Pn+2の座標を補正する。そして、カーブ区間内の全ての座標点について、単位距離あたりの旋回角φに基づき、補正を行う。補正が完了すると、その走行軌跡を走行軌跡データ24として走行軌跡記憶部23に格納する。
【0072】
また、曲率半径Rhを用いた他の補正方法として、曲率半径Rhの円軌跡50と、上記カーブ区間内の走行軌跡とをフィッティングさせてもよい。そして、円軌跡50と走行軌跡との乖離度を調べ、乖離度が大きい場合には、走行軌跡を、円軌跡50に近付くように補正する。
【0073】
走行軌跡を補正すると、ステップS27に進み、走行軌跡補正を終了するか否かを判断する。走行軌跡補正を終了すると判断すると(ステップS27においてYES)、処理を終了する。
【0074】
このように走行軌跡を補正すると、走行軌跡に基づき、道路形状データ19を補正することができる。即ち、走行軌跡データ24を基準として、道路形状データ19との類似度を判断し、類似度が所定値よりも低い場合には、道路形状データ19を補正する。このようにすると、平面地図上の道路形状の精度を高めることができる。また、走行軌跡の精度を向上できるので、マップマッチングの精度が向上し、自車位置をより正確に特定することができる。
【0075】
また、道路の縦断勾配及び片勾配の規定値(上限値Jmax、基準値Irf)を取得する際、道路の建設時期に合わせて作成された各縦断勾配テーブル21A,21B及び各片勾配テーブル22A,22Bのうち、処理対象区間の道路建設時期に合ったテーブルを選択するので、適正な規定値を取得することができる。ここで、道路構造令の改正前及び改正後における規定の変化を考慮しない場合、例えば、改正前に建設された道路であるにも関わらず、改正後の規定に合わせて、道路区分と設計速度とに応じて縦断勾配の上限値Jmaxを取得する等、誤った規定値を取得してしまう可能性がある。取得した規定値に誤差がある場合、誤差を含む規定値に基づき走行軌跡を補正しても、効果的な補正ができない。本実施形態では、適正な規定値を取得することができるので、地図上における走行軌跡の精度を向上することができる。
【0076】
さらに、各縦断勾配テーブル21A,21B及び各片勾配テーブル22A,22Bと、道路区分や曲率半径を用いて、勾配を考慮した走行軌跡の補正を行うことができるので、各道路の実勾配を示すデータや、3Dジャイロ等の特殊な装置が無くても、走行軌跡の精度を高めることができる。
【0077】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態では、ナビゲーション装置2は、処理対象区間の自車両の走行軌跡を算出するとともに、処理対象区間の道路建設時期を判定する。さらに、道路建設時期に応じて規定された道路構造令に基づき道路の勾配を定めた縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22を記憶した道路法令情報記憶部20を備える。そして、処理対象区間の道路建設時期に対応した縦断勾配テーブル21又は片勾配テーブル22を取得し、取得したテーブル21,22に基づき、算出した平面上の走行軌跡を補正する。このため、センサや、道路の実勾配等に起因する累積誤差を含む走行軌跡を、地図平面上において、道路構造令に基づく規定を満たすように補正することができる。従って、例えば、道路形状データを補正したり、マップマッチングを精度良く行うことができる。
【0078】
(2)上記実施形態では、片勾配テーブル22は、道路建設時期に応じて、曲率半径等に対応したカーブにおける片勾配の基準値Irfを規定している。また、ナビゲーション装置2は、処理対象区間の道路区分等を取得し、片勾配テーブル22に基づき道路区分等に対応する片勾配を取得する。そして、取得した片勾配の基準値Irfと実際に計測した曲率半径Rに基づき、地図上での旋回角φを算出し、走行軌跡を旋回角φを用いて補正する。このため、カーブにおける片勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、道路構造規定を満たすように補正することができる。
【0079】
(3)上記実施形態では、縦断勾配テーブル21は、道路建設時期に応じて、道路区分に対応した縦断勾配の上限値Jmaxを規定している。また、ナビゲーション装置2は、処理対象区間の道路区分等を取得し、縦断勾配テーブル21に基づき、道路区分等に対応する縦断勾配の上限値Jmaxを取得する。そして、縦断勾配の上限値Jmaxに基づき、算出した走行軌跡を、処理対象区間の進行方向において補正する。このため、カーブにおける縦断勾配等に起因する誤差を含む走行軌跡を、道路構造規定を満たすように補正することができる。
【0080】
(4)上記実施形態では、補正した走行軌跡と、道路形状データ19とに基づいて、処理対象区間の道路形状を推定する。このため、勾配がつけられた道路でも、走行軌跡に基づき道路形状を推定し、道路形状データの精度を高めることができる。
【0081】
尚、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・ステップS8において、処理対象区間がカーブであるか否かを判断するようにしたが、これを省略してもよい。
【0082】
・ステップS23では、軌跡長Ltrから地図道路長Lmpを減算した差分が、所定値Lzを超えるか否かを判断するようにしたが、軌跡長Ltrがその他の数式を満たすか否かを判断してもよい。
【0083】
・上記実施形態では、縦断勾配テーブル21及び片勾配テーブル22は、道路構造令に基づくテーブルとしたが、道路構造令以外の法令に基づくテーブルでもよい。
・上記実施形態では、縦断勾配の上限値Jmaxと、片勾配の基準値Irfを取得して、走行軌跡を、縦断勾配と片勾配の両方を用いて補正するようにしたが、処理対象区間の道路の勾配の種類に応じて、補正を行うようにしてもよい。例えば、縦断勾配を有しているか、片勾配を有しているか、或いはその両方を有しているかを判断してから、道路に設けられた勾配の種類に応じて、縦断勾配を用いた補正、片勾配を用いた補正、又はそれらの両方を用いた補正を行うようにしてもよい。縦断勾配を有しているか否かは、地図道路長Lmpと軌跡長Ltrとの比較で判断することができる。また、片勾配を有するか否かは、カーブが含まれているか否かで判断することができる。
【0084】
・上記実施形態では、走行軌跡演算装置を、車両に搭載されたナビゲーションユニット10に具体化したが、各車両に搭載された通信装置との間でデータの送受信を行うサーバ等の外部装置に具体化してもよい。サーバに具体化する場合、当該サーバは、各車両から走行軌跡を収集し、収集した情報と、各テーブル21,22に基づき走行軌跡を補正する。補正した走行軌跡データ24は、各車両に配信される。このようにすると、走行軌跡データ24を受信した各車両は、過去に走行したことがない区間に対しての走行軌跡データ24を得ることができるので、走行軌跡データ24を、初めて走行する区間に対する支援に反映することができる。
【0085】
・上記実施形態では、走行軌跡演算装置を、ナビゲーション装置2に具体化したが、これ以外のシステムを構成する装置に具体化してもよい。例えば、車両前方のカーブ区間に対する情報をドライバーに提供するシステム、カーブ区間を走行する際の運転操作を支援するシステム、カーブ区間におけるドライバーの死角を補助するシステム、又は懸架装置、制動装置、灯光装置、自動変速機等、車載装置を制御する支援を行うシステムに具体化してもよい。
【0086】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)請求項1〜4のいずれか1項に記載の走行軌跡演算装置において、前記軌跡補正手段は、前記取得した勾配規定情報に基づき、前記走行軌跡情報を、2次元平面上に投影した走行軌跡情報として補正することを特徴とする走行軌跡演算装置。
【0087】
この(a)に記載の発明によれば、走行軌跡情報は、勾配規定情報に基づき2次元平面上の走行軌跡情報として補正される。このため、勾配がつけられた道路を走行する場合でも、走行軌跡を2次元平面に適した形状に補正することができる。
【符号の説明】
【0088】
1…ナビゲーションシステム、2…走行軌跡演算装置としてのナビゲーション装置、10…走行軌跡算出手段、建設時期判定手段、勾配取得手段、軌跡補正手段、及び制御手段としてのナビゲーションユニット、20…規定情報記憶手段としての道路法令記憶部、21…勾配規定情報としての縦断勾配テーブル、22…勾配規定情報としての片勾配テーブル、C…自車両。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段と、
処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する走行軌跡算出手段と、
前記処理対象区間の前記道路建設時期を判定する建設時期判定手段と、
前記処理対象区間の前記道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得する勾配取得手段と、
前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する軌跡補正手段とを備えたことを特徴とする走行軌跡演算装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走行軌跡演算装置において、
前記勾配規定情報は、道路属性とカーブにおける片勾配との関係を規定し、
前記勾配取得手段は、前記処理対象区間の道路属性を取得するとともに、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報の中から、当該道路属性に対応する片勾配の規定値を取得し、
前記軌跡補正手段は、前記取得した片勾配の規定値に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正することを特徴とする走行軌跡演算装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の走行軌跡演算装置において、
前記勾配規定情報は、道路属性と縦断勾配との関係を規定し、
前記勾配取得手段は、前記処理対象区間の道路属性を取得するとともに、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した勾配規定情報の中から、当該道路属性に対応する縦断勾配の規定値を取得し、
前記軌跡補正手段は、前記縦断勾配の規定値に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正することを特徴とする走行軌跡演算装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行軌跡演算装置において、
前記補正した走行軌跡情報と、道路情報とに基づいて、前記処理対象区間の道路形状を推定する形状推定手段をさらに備えたことを特徴とする走行軌跡演算装置。
【請求項5】
処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する制御手段を用いた走行軌跡演算方法において、
前記制御手段が、
前記処理対象区間の道路建設時期を判定し、
前記道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段から、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得し、
前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正することを特徴とする走行軌跡演算方法。
【請求項6】
処理対象区間の自車両の走行軌跡情報を算出する制御手段を用いた走行軌跡演算プログラムにおいて、
前記制御手段を、
前記処理対象区間の道路建設時期を判定する建設時期判定手段と、
前記道路建設時期と道路の勾配を定めた勾配規定情報とを対応付けて記憶する規定情報記憶手段から、前記処理対象区間の道路建設時期に対応した前記勾配規定情報を取得する勾配取得手段と、
前記取得した勾配規定情報に基づき、前記算出した走行軌跡情報を補正する軌跡補正手段として機能させることを特徴とする走行軌跡演算プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−169440(P2010−169440A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10207(P2009−10207)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】