説明

超伝導放射線分析装置

【課題】外部からの輻射熱や磁場による出力信号波高値の変動を、サンプル測定しながら補正できる超伝導放射線分析装置を提供する。
【解決手段】放射線のエネルギーを温度変化として検出するマイクロカロリーメータ1と、マイクロカロリーメータより抵抗値が小さいシャント抵抗2と、マイクロカロリーメータに定電圧を印加するバイアス電源5と、マイクロカロリーメータに一定の熱量を付加させるための熱付加装置8と、マイクロカロリーメータに流れる電流を検出する信号検出機構11と、熱付加装置からの熱量付加に同期して、信号検出機構からの出力信号のうち付加した熱量に対応する波高値を測定する波高値モニター9と、波高値モニターからの出力に基づいて熱付加装置からの熱量に対応するように波高値を補正するエネルギー補正装置10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、元素分析や不純物検査するための超伝導放射線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
元素分析や不純物検査等で用いられる放射線分析装置において、半導体検出器を用いた従来の放射線分析装置のエネルギー分解能を1桁以上改善することができる超伝導体検出器を利用した超伝導放射線検出装置が注目されている。
【0003】
半導体検出器を用いた放射線分析装置のエネルギー分解能は、半導体がもつエネルギーギャップ幅に依存するために、130eVを下回ることは不可能である。それに対して、超伝導体検出器を用いた超伝導放射線検出装置の中で特にエネルギー分解能を10eV以下にすることが可能なマイクロカロリーメータが期待されている。
【0004】
マイクロカロリーメータは、X線を吸収する吸収体と、吸収体により発生する熱により定電圧下で抵抗値が変化する温度計と、吸収体と温度計で発生した熱が熱槽へ逃げる熱流量を制御するためのメンブレンと、から構成される
サンプルから射出されたX線などの放射線が吸収体に入射すると、その放射線により温度計で発生するジュール熱と、メンブレンを伝わり熱浴へ逃げる熱が発生する。これらの熱のバランスを調整することにより、液体窒素温度(絶対温度77K)以下で超伝導体となる材料とからなる温度計を、超伝導状態と常伝導状態の遷移状態である超伝導転移端と呼ばれる領域内に動作点を保持するようにする。これにより、温度計では微小な温度変化に対して大きな抵抗変化を生じ、これを利用することでマイクロカロリーメータは放射線を検出し分析するものである。
【0005】
この超伝導体の超伝導転移端を利用したマイクロカロリーメータは、TES(Transition Edge Sensor)とも呼ばれている。
【0006】
図6は、従来のマイクロカロリーメータを用いた超伝導放射線分析装置の概略構成図である。
【0007】
マイクロカロリーメータ1と入力コイル3が接続され、それに対してマイクロカロリーメータ1より十分小さい抵抗値を有するシャント抵抗2が並列に接続され、バイアス電源5により定電圧が印加される。
【0008】
マイクロカロリーメータ1に流れる電流は、入力コイル3を介して、液体窒素温度(絶対温度77K)以下で動作する超電導量子干渉素子(SQUID;Superconducting QUantum Interference Device)を複数直列に接続したSQUIDアンプ4で磁場信号として検出された後に電気信号に変換し増幅される。そして、SQUIDアンプ4からの出力信号は室温アンプ6へと送られて整形し増幅され、室温アンプ6からの出力電圧を波高分析器7でエネルギーごとに波高値に対応して選別して積算して、結果を表示装置(図示せず)などでスペクトル表示したりする。
【0009】
ここで、例えば粒子線や電磁波などからなる放射線の一つであるX線が、マイクロカロリーメータ1に照射されると、マイクロカロリーメータ1の吸収体に入射したX線により温度計の温度が微小に上昇する。それにより、マイクロカロリーメータ1の温度計の抵抗値が増加する。そして、温度計は定電圧に保持されているためにマイクロカロリーメータ1に流れる電流が減少する。
【0010】
ここで、電流が減少するために温度計の温度を下がる方向に働き、一定の温度の戻そうと負帰還(フィードバック)が生じる。これを、自己電熱フィードバック(ETF:Electron-Thermal Feedback)と呼ばれている。バイアス電源の電圧と熱槽の温度を最適化することで、マイクロカロリーメータの温度計を超伝導転移端に保つようにする。
【0011】
そして、マイクロカロリーメータ1に流れる電流の変位を、SQUIDアンプなどを介して室温アンプ6で検出する。
【0012】
室温アンプ6からの出力信号の波高値は、入射したX線のエネルギー値に対して単調に増加する関係があり、マイクロカロリーメータ1に入射したX線のエネルギーは、あらかじめ室温アンプ6からの出力電圧の波高値とX線のエネルギーの相関図を求めておき、発生した出力電圧の波高値を測定することにより求めることができる。
【0013】
ここで、マイクロカロリーメータ1に入射したX線のエネルギー(E)と電流の変位量(ΔI)の関係は、式1で表される。ここでVnは動作電圧、τeffは電流パルスの時定数である。
【0014】
【数1】

この電流変位量を測定することにより、入射したX線のエネルギーを求めることができる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0015】
しかし、このような超伝導放射線分析装置では、入射するX線のエネルギーが一定である場合、室温アンプからの出力信号の波高値は一定になるが、マイクロカロリーメータを外部から熱的に保護するための熱シールド板の温度変化に伴う熱輻射、またはマイクロカロリーメータに加わる外部磁場の変化に伴うマイクロカロリーメータの抵抗変化が生じることにより、室温アンプからの出力信号の波高値が変化してしまい、検出されるX線エネルギーのシフトを生じてしまうという問題があった。
【0016】
そこで、固定されたエネルギーのX線に対する室温アンプからの出力信号の波高値が時間とともに変化した場合、高エネルギー分解能を得るためには時間に対して変化しないようにエネルギー校正する必要があった。
【0017】
そこで、従来のエネルギー校正方法を、図7と図8を用いて説明する。
【0018】
(1)図7は、エネルギー値が既知のX線をマイクロカロリーメータにパルス照射して、時間に対する室温アンプからの出力信号を測定した一例である。
【0019】
(2)図8は、図7における1パルスごとに測定した室温アンプからの出力信号をプロットしたものである。
【0020】
(3)図8の出力信号をプロットから求めた波高値20を用いて時間に対する補正関数を求める。ここでは、補正関数21として1次関数として求めた。
【0021】
(4)図9は、補正関数21を用いて、室温アンプからの出力電圧の波高値が時間に対して一定になるようにエネルギー校正を行っていた。
【0022】
また、図10は、別のマイクロカロリーメータを用いた超伝導放射線分析装置の概略構成図である。
【0023】
先に説明した図6における超伝導放射線分析装置に対して、さらにマイクロカロリーメータ1に並列に抵抗体22を設け、室温アンプ6に接続された帰還回路19が接続されている。そして、入射したX線でマイクロカロリーメータ1の温度が上昇したことによりマイクロカロリーメータの抵抗の上昇したのを、室温アンプ6からの出力信号に対応した電流に基づいて帰還回路から電流または電圧を抵抗体22に印加することで、マイクロカロリーメータ1の温度が元に戻す、つまりはマイクロカロリーメータ1の抵抗が早期に元の動作点に戻るようにして、応答速度を向上できるようしていた。(例えば、特許文献1を参照)
【非特許文献1】K. D. Irwin, “An application of electrothermal feedback for high resolution cryogenic particle detection”, Applied physics Letters, 第66巻, 1998-2000 (1995)
【特許文献1】特開2002−236052号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかしながら、上記のような超伝導放射線検出装置においては、以下の課題が残されている。
【0025】
上記のエネルギー校正方法は、X線をパルス照射して全ての出力電圧の波高値を取得した後で、補正関数を求めて出力信号の波高値の補正するために、補正関数を求めるまでに処理時間が長くかかるという問題があった。また、室温アンプからの出力信号の波高値の変動の原因となる外部からの輻射熱や磁場は刻々変動することもあり、オフラインでの補正方法では精度よく補正することができなかった。
【0026】
または、マイクロカロリーメータの抵抗を元に戻すために帰還回路設けた超伝導放射線検出装置においても、前記と同様にマイクロカロリーメータを外部から熱的に保護するための熱シールド板の温度変化に伴う熱輻射、またはマイクロカロリーメータに加わる外部磁場の変化に伴うマイクロカロリーメータの抵抗変化が生じたときに、これによる抵抗変化を含んだ状態で、帰還回路で抵抗体にフィードバックしてマイクロカロリーメータの抵抗を速く元に戻すだけで、室温アンプからの出力信号の波高値は変化したままで、検出されるX線エネルギーのシフトを生じてしまうという問題は残っていた。
【0027】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的はンプル測定しながら外部からの輻射熱や磁場による出力信号の波高値の変動によるエネルギー補正が可能な超伝導放射線分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0029】
本発明に係る超伝導放射線分析装置は、放射線のエネルギーを温度変化として検出するマイクロカロリーメータと、マイクロカロリーメータに流れる電流の変位を検出するための信号検出機構と、さらにマイクロカロリーメータに対して並列に接続したマイクロカロリーメータより抵抗値が小さいシャント抵抗と、マイクロカロリーメータやシャント抵抗に接続し定電圧を印可するバイアス電源と、マイクロカロリーメータに一定かつ既知の熱量を付加する熱付加装置と、
熱付加装置からの熱量付加に同期して、信号検出機構からの出力信号のうち付加した熱量にあたる波高値を測定する波高値モニターと、
波高値モニターからの出力に基づいて熱付加装置から熱量に対応する波高値になるように補正するエネルギー補正装置とからなる構成にしたものである。
【0030】
また、本発明に係る超伝導放射線分析装置は、マイクロカロリーメータに直列に接続した入力コイルと、入力コイルに流れる電流により生じる磁場を検出する液体窒素温度(絶対温度77K)以下で動作する超電導量子干渉素子(SQUID;Superconducting QUantum Interference Device)を複数直列に接続したSQUIDアンプと、SQUIDアンプからの出力信号を整形し増幅する室温アンプと、から構成されている信号検出機構を用いるようにした。
【0031】
また、本発明に係る超伝導放射線分析装置は、信号検出機構からの出力電圧をエネルギーごとに波高値に対応して選別して積算する波高分析器と、波高分析器におけるスペクトル表示する表示装置を備えた。
【0032】
また、本発明に係る超伝導放射線分析装置の熱付加装置は、一定のエネルギーを有するX線、レーザ、電子やイオンを照射する線源、またはマイクロカロリーメータに電流に加えるパルサー電源を用いるようにした。
【0033】
さらに、本発明に係る超伝導放射線分析装置のエネルギー補正装置は、マイクロカロリーメータに磁場を印加する電磁石やコイルなどの磁場印加手段、またはマイクロカロリーメータに電流を付加する補正電源を用いるようにした。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る超伝導放射線分析装置によれば、サンプル測定しながら、外部からの輻射熱や磁場による出力信号の波高値の変動に対してエネルギー校正をできるようになるので、高分解能な測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明に係る超伝導放射線分析装置の実施形態を、図を用いて説明する。
【0036】
なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
図1は、本実施形態にかかる超伝導放射線分析装置の概略構成図を示す。
【0038】
本実施形態におけるマイクロカロリーメータ1は、X線を吸収するための金属体、半金属、超伝導体などを用いた吸収体と、吸収体により発生する熱により抵抗値が変化する超伝導体からなる温度計と、吸収体と温度計で発生した熱が熱槽へ逃げる熱流量を制御するためのメンブレンから構成されている。本実施形態では、マイクロカロリーメータ1を構成する、吸収体はアルミニウム(Al)、温度計はチタンと金の2層からなる材料、メンブレンと熱槽はシリコン(Si)を用いた。
【0039】
マイクロカロリーメータ1に入力コイル3が直列に接続し、マイクロカロリーメータ1と入力コイル3とに並列にマイクロカロリーメータ1より抵抗値が小さいシャント抵抗2接続する。これらのマイクロカロリーメータ1と入力コイル3とシャント抵抗2に定電圧を印加するバイアス電源5を接続し、マイクロカロリーメータ1に流れる電流は、入力コイル3を介して、低温初段増幅器であるSQUIDアンプ4により電気信号として検出される。SQUIDアンプ4からの出力信号を増幅・整形処理するための室温アンプ6が接続され、室温アンプ6からの出力信号を電圧の波高値に対応して選別する波高分析器7を接続されている。
【0040】
本実施形態では、マイクロカロリーメータ1に流れる電流の変位を検出するための信号検出機構11として、入力コイル3と、SQUIDアンプ4と、室温アンプ6と、を用いているが、これらの構成に限定されず、マイクロカロリーメータ1に流れる電流の変位を検出できる構成であればよい。
【0041】
さらに、マイクロカロリーメータ1に一定の熱量をパルス的に付加するための熱付加装置8をマイクロカロリーメータ近傍に備え、この熱付加装置8からのパルス状に熱量付加に同期して室温アンプ6からの出力信号のうち、付加した熱量に対応する出力電圧の波高値を測定する波高値モニター9と、波高値モニター9からの出力に基づいて熱付加装置8から熱量に対応するエネルギーとなる波高値になるように補正するエネルギー補正装置10とからなる構成にしたものである。
【0042】
マイクロカロリーメータ1に流れる電流は、入力コイル3を介してSQUIDアンプ4で検出され、室温アンプ6で増幅・整形して出力される。マイクロカロリーメータ1に熱を付加する熱付加装置8から一定熱量がマイクロカロリーメータ1にパルス状に印加されると、室温アンプ6で増幅・整形して出力される出力電圧がパルス状に得られる。
【0043】
図2は、熱付加装置8からエネルギー値が既知であるX線をマイクロカロリーメータ1にパルス照射して、室温アンプ6からの出力電圧を波高値モニター9で測定した一例である。
【0044】
測定データの出力電圧の波高値で照射する既知のエネルギーのX線に一致する波高値12、マイクロカロリーメータ1に加わる磁場やマイクロカロリーメータ1を取り囲む熱シールドからの熱輻射の変化する影響して測定データの出力電圧変化した波高値13が測定される。
【0045】
ここで、マイクロカロリーメータ1の温度計の抵抗値(動作抵抗)と室温アンプの出力電圧との関係を図3に示す。一般的にマイクロカロリーメータの動作抵抗が小さくなると室温アンプの出力電圧は単調に増加する関係がある。
【0046】
ここで、図2の第一の波高値12が得られるときの出力電圧をV1、第二の波高値13が得られるときの出力電圧をV2とする。この出力電圧の波高値変動量がΔV(=V2−V1)であるときに、マイクロカロリーメータの動作抵抗R1が動作抵抗R2へ変動したことになる。
【0047】
そこで、熱付加装置8からのマイクロカロリーメータ1へのパルス照射に同期するように、室温アンプ6の出力電圧の波高値のデータから計測開始時からの波高値変動量を波高値モニター9で検出し、波高値モニター9から出力された波高値変動量がエネルギー補正装置10に送られ、熱付加装置8からの既知のエネルギーに対応する波高値が変動を打ち消すように、エネルギー補正装置10から所定の電流や熱量をマイクロカロリーメータ1に付加するようにする。これにより、マイクロカロリーメータ1の外部からの輻射熱や磁場による出力信号の波高値の変動を打ち消してエネルギー校正することで、マイクロカロリーメータの動作抵抗を安定化することができる。
【0048】
本実施形態では、熱付加装置8として既知エネルギーのX線のみ放出する密封式X線源を用い、密封式X線源からX線をマイクロカロリーメータ1にパルス照射させ、室温アンプ6から出力されるこのX線のエネルギーに相当する出力電圧の波高値データを選択的に波高値モニター9で取得しながら、この波高値が一定になるように、エネルギー補正装置10を用いてエネルギー校正することで、マイクロカロリーメータの抵抗動作が一定なるようにしながら、別の密封式X線源からX線をサンプルに照射して、サンプルから射出する蛍光X線をマイクロカロリーメータ1で同時に検出し、室温アンプ6から出力される出力電圧の波高値データを、波高分析器7でエネルギーごとに波高値に対応して選別して積算して、波高分析器7で積算して得られたスペクトルを表示装置(図示せず)で表示装置するようにした。
【0049】
ここで、熱付加装置8として、マイクロカロリーメータ1のパルス時定数より十分短い矩形波パルスを印加できるパルサー電源と呼ばれる付加電源を用いてマイクロカロリーメータ1に補正電流を印加することで実現した。
【0050】
また、エネルギー補正装置10として、マイクロカロリーメータ1に電流を付加する補正電源を用いて実現した。
【0051】
マイクロカロリーメータに印加する補正電流とマイクロカロリーメータの動作抵抗の関係を図4に示す。電流(It)と動作抵抗(Rt)の間には、式2の関係がありAは定数である。
【0052】
【数2】

動作抵抗(R1)のとき流れるマイクロカロリーメータに流れる電流をI1、動作抵抗R2のとき流れるマイクロカロリーメータに流れる電流をI2とする。動作抵抗(R2)をR1に変化させるためにはマイクロカロリーメータに流れる電流をI2からI1へと小さくすればよい。
【0053】
ここで、図1中のバイアス電流源となるバイアス電源5の電流(Ib)と電流(It)との間には、式3の関係がある。
【0054】
【数3】

Rsはシャント抵抗2の抵抗値であり常に一定である。式3から動作抵抗Rtを変化させるためにはIbを変化させればよいことがわかる。通常は動作抵抗を小さくする場合、バイアス電流を小さくすればよい。その結果マイクロカロリーメータ1の抵抗が変化しても、マイクロカロリーメータ1に流れる電流を変化(バイアス電流を変化)させることにより、出力電圧の値も常に一定となる。
【0055】
また、マイクロカロリーメータの動作抵抗と温度に関する特性(R−T特性)を図5に示す。
【0056】
超伝導体材料を用いたマイクロカロリーメータでは、マイクロカロリーメータに加わる磁場強度に応じて超伝導状態へ転移する温度である超伝導転移温度が変化する。例えば、ある磁場強度の時のR−T特性17とし、前記磁場強度より大きい場合のR−T特性18とすると、磁場が増加することにより低温側にR−T特性にシフトする。
【0057】
希釈冷凍機などで液体ヘリウム温度(絶対温度4K)以下に冷却されたマイクロカロリーメータ1の温度は常にT1に固定され、本来動作抵抗R1から、環境磁場の影響により動作抵抗がR2へとシフトした場合の補正は、磁場印加手段でマイクロカロリーメータ1に加わる磁場を減少させることにより、R−T特性18からR−T特性17へシフトさせる。その結果、外部の磁場環境が変化した場合マイクロカロリーメータ1に加わる磁場を調整することによりマイクロカロリーメータ1の動作抵抗は変化せず、パルス出力電圧の値も常に一定となる。
【0058】
そこで、エネルギー補正装置10として、マイクロカロリーメータ1の外周に取り付けたコイルを配置しこのコイルに電流を印加して磁場を発生させたり、マイクロカロリーメータの近傍に電磁石などを設けることで磁場を発生させたりすることで、外部環境変化にともなうマイクロカロリーメータ1の波高値の変化を打ち消すようにする。
【0059】
尚、マイクロカロリーメータ1に一定の熱量を付加させるための熱付加装置8として、レーザ光などのフォトンを発生させる線源、一定エネルギーを有するX線や、電子顕微鏡やイオン顕微鏡などで用いられる電子線源やイオン源を用いてもよい。
【0060】
尚、熱付加装置8による波高値モニター9で測定される出力電圧は、分析するサンプルから射出されるX線により発生する出力電圧と異なるように、熱付加装置8で用いる既知のエネルギーを選択することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態に関わる超伝導放射線分析装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に関わる時間に対するパルス出力電圧の関係を示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に関わる動作抵抗に対するパルス出力電圧の関係を示す概略図である。
【図4】本発明の実施の形態に関わる動作抵抗に対するTES電流の関係を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に関わる磁場強度の違いによる温度に対する動作抵抗の関係を示す概略図である。
【図6】従来の超伝導放射線分析装置を示す概略構成図である。
【図7】エネルギー値が既知のX線をマイクロカロリーメータにパルス照射して、時間に対する室温アンプからの出力信号を測定した一例である。
【図8】図7における1パルスごとに測定した室温アンプからの出力信号をプロットし、補正関数を示した一例である。
【図9】補正関数を用いて、室温アンプからの出力電圧の波高値が時間に対して一定になるようにエネルギー校正した一例である。
【図10】別の従来の超伝導放射線分析装置を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0062】
1 マイクロカロリーメータ
2 シャント抵抗
3 入力コイル
4 SQUIDアンプ
5 バイアス電源
6 室温アンプ
7 波高分析器
8 熱付加装置
9 波高値モニター
10 エネルギー補正装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線のエネルギーを温度変化として検出するマイクロカロリーメータと、
該マイクロカロリーメータに並列に接続され前記マイクロカロリーメータより抵抗値が小さいシャント抵抗と、
前記マイクロカロリーメータに流れる電流を検出する信号検出機構と、
前記マイクロカロリーメータに定電圧を印可するバイアス電源と、
前記マイクロカロリーメータに熱量を付加する熱付加装置と、
該熱付加装置からの熱量付加に同期して、前期信号検出機構からの出力信号のうち付加した熱量に対応する波高値を測定する波高値モニターと、
該波高値モニターからの出力に基づいて熱付加装置から熱量に対応する波高値になるように補正するエネルギー補正装置と、からなることを特徴とする超伝導放射線分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の超伝導放射線分析装置において、
前記熱付加装置は、一定のエネルギーを有するX線やレーザ光を照射する線源であることを特徴とする超伝導放射線分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の超伝導放射線分析装置において、
前記熱付加装置は、前記マイクロカロリーメータに流れる電流に加える付加電源であることを特徴とする超伝導放射線分析装置。
【請求項4】
請求項1記載の超伝導放射線分析装置において、
前記エネルギー補正装置は、前記マイクロカロリーメータに磁場を印加する磁場印加手段であることを特徴とする超伝導放射線分析装置。
【請求項5】
請求項1記載の超伝導放射線分析装置において、
前記エネルギー補正装置は、前記マイクロカロリーメータに電流を付加する補正電源であることを特徴とする超伝導放射線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−14775(P2008−14775A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185850(P2006−185850)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】