説明

超伝導素子及びその作製方法

【課題】 多層カーボンナノチューブをより高温で再現性良く超伝導状態にすることができる超伝導素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔質膜2中の細孔21内に多層カーボンナノチューブが形成されており、当該多層カーボンナノチューブは、その直径が5〜30nm、その層数が2〜20である超伝導素子であって、前記多層カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素原子で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導素子及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、その発見以来、次世代の高機能材料として注目されている。カーボンナノチューブには、カーボンナノチューブを構成するグラファイトシートが一層である単層カーボンナノチューブ(SWNT)と、2以上のグラファイトシートが同心軸状に重なった多層カーボンナノチューブ(MWNT)とがある。
【0003】
SWNTについては、その電子輸送特性や、電界放出機能などを中心に様々な研究がなされてきたが、超伝導に関する報告はまだ1件のみ(非特許文献1参照)であり、これは転移温度が0.4Kと非常に低く、追試結果がなかった。
【0004】
MWNTについては、本発明の発明者らによるMWNTを用いた超伝導素子が知られている(特許文献1参照)。特許文献1においては、多層カーボンナノチューブと金属電極とを備え、前記多層カーボンナノチューブは、その直径が5〜20nm、その層数が2〜20であり、かつ、その長手方向に対し垂直に切断された切断面を有し、前記金属電極は、この切断面で多層カーボンナノチューブと接触している超伝導素子が開示されている。この超伝導素子に金属電極から電圧を印加すると、MWNTを構成する全層(全グラファイトシート)がその切断面で金属電極と接触していることでMWNT全体が電気的に活性となり、層間相互作用の増大により一次元性が抑制された結果、MWNTが超伝導状態となる。この場合に、カーボンナノチューブ成長の触媒は強磁性体であるため超伝導の発現を妨げる。従って、なるべく少量の触媒を基板上に形成するようにしている。
【非特許文献1】M.Kociaket.al., Physical Review Letters86, 2416(2001)
【特許文献1】特開2007−251028号公報(請求項1、図5参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記発明は、カーボンナノチューブ自体が従来の30倍もの高温で超伝導転移するという点において、非常に意義深いものであった。しかし、上記特許文献1に記載された超伝導素子は、超伝導転移温度が12K以下であり、より高い温度で超伝導状態とすることが求められている。また、上記発明においては、触媒を少量形成していることからカーボンナノチューブが再現性良く成長しない場合があるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、MWNTをより高温で再現性良く超伝導状態にすることができる超伝導素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超伝導素子は、多孔質膜中の細孔内に多層カーボンナノチューブが形成されており、当該多層カーボンナノチューブは、その直径が5〜30nm、その層数が2〜20である超伝導素子であって、前記多層カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素原子で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブであることを特徴とする。
【0008】
多層カーボンナノチューブとして、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブを用いることで、より高温で超伝導状態を出現させることができる。
【0009】
前記ホウ素置換型多層カーボンナノチューブにおける前記ホウ素原子の置換率が、炭素原子100に対して0より多く、4以下であることが好ましい。この範囲であれば、特に好ましい状態で、本発明の超伝導素子を高温で超伝導状態とすることができる。
【0010】
このような本発明の超伝導素子の超伝導転移温度は、15〜30Kである。
【0011】
本発明の超伝導素子の作製方法は、金属基板上に、多孔質膜を形成する多孔質膜形成工程と、前記多孔質膜の細孔の底部に、Fe及びCoから選ばれた少なくとも1種を含む触媒金属並びにホウ素からなるカーボンナノチューブ成長用触媒を形成する触媒形成工程と、前記カーボンナノチューブ成長用触媒に少なくともHガスを含む還元ガスを接触させて前記カーボンナノチューブ成長用触媒を還元させる還元工程と、前記還元工程後、カーボンナノチューブ成長ガスを前記カーボンナノチューブ成長用触媒に接触させて、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブ形成工程とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明においては、前記触媒に少なくともHガスを含む還元ガス(例えばArとHとからなるガス)を接触させて前記カーボンナノチューブ成長用触媒を還元させる還元工程と、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブ形成工程とを備えることで、従来よりも高温で超伝導状態となる超伝導素子を再現性良く作製することが可能である。
【0013】
前記還元工程において、チャンバー中の温度が500〜600℃であり、かつ、触媒の還元時間が3〜4時間であることが好ましい。この範囲で還元工程を行うことで、微量の触媒下でもより高い再現性を持って超伝導転移する超伝導素子を作製することができる。
【0014】
また、前記触媒形成工程において、前記ホウ素原子が、前記カーボンナノチューブ成長用触媒に0原子%より多くかつ4原子%以下で含有されるように、前記カーボンナノチューブ成長用触媒を形成することが好ましい。この範囲でホウ素原子が含有されたカーボンナノチューブ成長用触媒を用いることで、ホウ素原子が、多層カーボンナノチューブ中において炭素原子100に対して0原子より多くかつ4原子以下で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブを形成することが可能である。これにより、より高温で超伝導状態を実現できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超伝導素子は、従来のカーボンナノチューブを用いた超伝導素子より高温で再現性良く超伝導状態となることができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明の超伝導素子の作製方法によれば、従来のカーボンナノチューブを用いた超伝導素子より高温で再現性良く超伝導状態にすることが可能となる超伝導素子を形成できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本実施形態のカーボンナノチューブを用いた超伝導素子を図1を用いて説明する。図1(a)は、超伝導素子の断面模式図である。図1(a)において、超伝導素子1は、基板S上に形成された多孔質膜2と、多孔質膜2の細孔21内に設けられたカーボンナノチューブ3とからなる。
【0017】
基板Sは、第1の電極として機能するものであり、通常基板として用いられる金属からなるものであればよい。この場合、Al基板を用いれば、Al基板を陽極酸化することによって基板S表層に構造パラメータの高い規則性を持った多孔質膜2としてのポーラスアルミナ膜を簡易に形成することが可能であるため、好ましい。
【0018】
多孔質膜2は、厚さが0.5〜1.5μmであり、細孔21が周期的に形成されているものであればよい。このような多孔質膜としては、例えば、ポーラスアルミナ膜や、ゼオライト、ポーラスシリコンなどがあげられる。細孔21は、その直径が5〜30nm程度であることが好ましい。この範囲であれば、細孔21内に所望のホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を形成することができる。
【0019】
ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3は、その直径が5〜30nm、好ましくは10〜20nmであり、その層数が2〜20であり、各層は同心軸状に配置されている。
【0020】
図1(b)は、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を構成する一層の展開図であり、この図に示すように、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3は、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を構成する炭素原子Cの一部が、ホウ素原子Bで置換されたものである。即ち、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3は、多層カーボンナノチューブの炭素ネットワーク(炭素による格子)中の一部の炭素原子がホウ素原子に置き換わったものである。このホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を用いることで、超伝導転移温度を従来のものよりも高くすることができる。これは、ホウ素で置換することで、カーボンナノチューブのフェルミ準位の位置を制御して最も高い電子状態密度のエネルギー(Van Hove singularity:VHS)に一致させることができるからである。このようにフェルミ準位をVHSに一致させることができると、多層カーボンナノチューブをより高温で超伝導状態とすることができる。なお、ここでは展開図でカーボンナノチューブの構造としてジグザグ型のものを示したが、これに限定されるものではない。
【0021】
この場合、ホウ素の置換率は、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を構成する炭素原子100原子%に対し0原子より多く、4原子%以下であることが好ましい。この範囲でホウ素に置換することで、フェルミ準位を第1のVHSに一致させることができ、より超伝導を発生させやすくすることができる。他方で、4原子%より大きいと、第1のVHSより高いエネルギーにある第2のVHSに一致させることができるものの、多層カーボンナノチューブが壊れてしまうことがあるからである。好ましくは、1.5原子%〜2原子%である。この範囲であれば、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブが壊れることなく、フェルミ準位置を第1のVHSに一致させることができ、超伝導転移温度を従来のものより高くすることができる。
【0022】
また、本実施形態のホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3は、後述するように還元工程により、微量の触媒でも高品質カーボンナノチューブを大量に生成できる。そのため、再現性良く多層カーボンナノチューブを高温で超伝導転移させることができる。
【0023】
このような一部をホウ素で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を用いた超伝導素子1の作製工程について、作製工程を示すフローに対応した基板の模式的断面図である図2を用いて説明する。
【0024】
まず、図2(a)に示すように、基板S上に細孔21を多数有する多孔質膜2を形成する。多孔質膜2は、例えばアルミニウム基板の陽極酸化により、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を成長させる多孔質膜2としてのポーラスアルミナ膜が形成される。
【0025】
次いで、図2(b)に示すように、この多孔質膜の細孔21の底部に、Fe及びCoから選ばれた少なくとも1種を含む触媒金属並びにホウ素からなるカーボンナノチューブ成長用触媒22を堆積させる。この場合に、このカーボンナノチューブ成長用触媒22を基板上に3cm当たり1μg以下で形成することが好ましい。この範囲でカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成することで、得られた超伝導素子にカーボンナノチューブ成長用触媒22が残らず、超伝導を発現しやすくなる。少量のカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成できる形成方法としては、蒸着法や電解析出法を用いることができる。この場合に、電界析出法においては、鉄やコバルトを含む金属塩にさらにホウ素を含有させることで、ホウ素を含有するカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成することができる。
【0026】
また、ホウ素がカーボンナノチューブ成長用触媒22に0原子%より多く、かつ4原子%以下で含まれるようにカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成すると、カーボンナノチューブ形成時において、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3中にホウ素が0原子%より多く、かつ4原子%以下で含まれるように構成することができる。即ち、ホウ素原子のカーボンナノチューブ成長用触媒22での含有量は、カーボンナノチューブ中での置換量に一致する。
【0027】
次いで、前処理として、前記カーボンナノチューブ成長用触媒22に例えばArとHとからなるガスを含む還元ガスを接触させて前記カーボンナノチューブ成長用触媒22を還元させる還元工程を行って、触媒表面を浄化する。この前処理を行う真空チャンバー内の温度が500〜600℃であることが好ましい。この温度範囲であれば、還元ガスによる還元をより効率的に行うことが可能である。かかる方法を用いて触媒からカーボンナノチューブを形成すると、触媒表面が浄化されていることにより微量のカーボンナノチューブ成長用触媒22からでも再現性よく大量の高品質なホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を形成することができる。還元ガスとしては上述したものを用いることができ、例えばArガスとHガスとを流量10:1〜100:1で導入する。この場合、還元時間は、3〜4時間程度が好ましい。
【0028】
次いで、CVD法により前記還元されたカーボンナノチューブ成長用触媒22に連続してカーボンナノチューブ成長ガスであるアルコールガス(例えば、メタノールやエタノール)を接触させて、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を形成する(図2(c)参照)。
【0029】
その後、図2(d)に示すように、前記ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を超音波処理によりその長手方向に対して垂直に切断して、超伝導素子1とする。
この得られた超伝導素子1では、超伝導の発現を抑制してしまう強磁性体であるカーボンナノチューブ成長用触媒22は予め少量しか形成していないためホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3付近に強磁性体であるカーボンナノチューブ成長用触媒22がほとんど残らない。また、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3は、ホウ素を含有しているためフェルミ準位がVHSに一致している。従って、得られた超伝導素子1は、従来のものよりも高い温度で再現性良く超伝導状態となり、その超伝導転移温度は、従来よりも高い15〜30Kであり、もっとも再現性が高かったのは18〜23Kである。
【0030】
また、本発明の別の実施形態として、超伝導素子1において、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3の一端が多孔質膜2の上面に対して水平になるように平坦に切断され、この切断面でホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3と接触する上部金属電極を形成してなる超伝導素子が挙げられる。このように上部金属電極を設けて上部金属電極と基板Sとの間で電圧を印加することで、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を構成する全層が通電される。この結果、各層に発生する電荷揺らぎを介して層間の静電結合が強まり各層の持つ一次元性が抑制され、超伝導状態が発現しうる。
【0031】
この場合、金属電極としては、Au、Pd及びTiから選ばれた少なくとも1種の金属又は合金を用いることができる。この超伝導素子において、下部基板Sと上部金属電極4間に電圧を印加すると、15K〜30K付近でホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3の超伝導転移がはじまる。
【0032】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、超伝導素子を作製してその物性を評価した。
【0034】
基板Sとして、Al基板を用意した。そして、陽極酸化を行った後にエッチングを行い、その後、1回目の陽極酸化時の電圧・温度・溶液濃度と同一条件で陽極酸化を行なった。陽極酸化により、Al基板上に多孔質膜2としてのポーラスアルミナ膜が形成された。ポーラスアルミナ膜の細孔21は規則正しく基板に対して垂直に形成されており、その直径は10〜20nmであった。
【0035】
次いで、電界析出法により、析出量が一枚の基板(1cm×3cm)当たり1μg以下となるようにアルミナ膜の細孔21中にカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成した。この場合に、カーボンナノチューブ成長用触媒22における鉄/コバルト/ホウ素の原子比が100:100:2となるようにカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成した。次いで、真空チャンバー内に基板Sを載置して、装置内温度を600℃に設定した。そして、初めにArガスとHガスとからなる還元ガスを、毎分100ml(Ar:H=10:1)で導入し、カーボンナノチューブ成長用触媒22の還元を行った。還元時間は、4時間であった。そして、真空チャンバー内を温度650℃に設定し、メタノールガスを圧力800Torrで導入し、ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を形成した。
【0036】
得られた超伝導素子1について、核磁気共鳴(NMR)測定を行った。また、カーボンナノチューブ成長用触媒22にホウ素の置換率が1原子%(1at.%)、及び3原子%(3at.%)となるようにそれぞれカーボンナノチューブ成長用触媒22を形成した以外は、上記の超伝導素子と同様に作製したものも同様にNMR測定を行った。測定結果を図3に示す。また、参考としてHBOについてもNMR測定を行った場合の測定結果を併せて図3に示す。
【0037】
図3によれば、各超伝導素子1では、ホウ素を含有しているHBOとは異なる位置にピークが表れた。この各超伝導素子1でみられるピークは、ホウ素原子と炭素原子との結合を示すピークである。このことから、超伝導素子1で用いられている多層カーボンナノチューブでは、炭素原子のネットワークの一部がホウ素原子で置き換わったホウ素置換型多層カーボンナノチューブであることが分かった。
【0038】
また、得られた超伝導素子1について、磁場を30Oe〜250Oeまで変化させて印加しながら温度を変化させて、磁場を測定し、この磁場を30Kの磁場で規格化した。結果を図4に示す。図4(a)は、印加した磁場が100Oe以下の場合、(b)は印加した磁場が100Oeよりも大きい場合の結果を示し、横軸は温度、縦軸は30Kの磁場で規格化された磁場を示す。
【0039】
図4(a)、(b)によれば、18〜23Kから規格化された磁場が下がることが分かった。従って、本発明の超伝導素子は、超伝導転移温度が18〜23Kであり、従来の超伝導素子より高い温度で超伝導転移していることが分かった。
【実施例2】
【0040】
実施例1とはカーボンナノチューブ成長用触媒22の形成条件を変えて、カーボンナノチューブ成長用触媒22が以下のような原子比となるように各サンプルを作製した点以外は全て同一条件で超伝導素子1を作製し、超伝導転移温度を調べた。
(サンプル1−1)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:4.5
(サンプル1−2)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:4
(サンプル1−3)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:3
(サンプル1−4)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:1.5
(サンプル1−5)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:1
(サンプル1−6)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:0.5
(サンプル1−7)鉄/コバルト/ホウ素の原子比=100:100:0
これらのうち、サンプル1−2〜1−6は、従来より高い12K以上で超伝導転移を示し、特にサンプル1−4では、実施例1と同程度の高温から超伝導転移を示した。他方で、超伝導サンプル1−1、1−7では従来のものと同程度の温度で超伝導転移した。従って、ホウ素は、触媒中に0.5〜4原子%、特に1.5〜2原子%含有されていることが好ましいことが分かった。
【0041】
(比較例1)
本比較例では、還元処理を行わずにホウ素置換型多層カーボンナノチューブ3を形成した点以外は、実施例1と同一の方法で超伝導素子1を作製した。しかし、カーボンナノチューブ成長用触媒22が少ないためカーボンナノチューブ成長用触媒22からはカーボンナノチューブ自体が成長できないものや、また、カーボンナノチューブが形成されたとしても欠陥があり超伝導状態とはならないものがあった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の超伝導素子は、MWNT自体が、15〜30Kという従来よりも高い温度において超伝導状態になっている。MWNT自体が超伝導状態となれば、各MWNTは強いスピンエンタングルメントを維持することができるので、量子コンピュータや量子テレポーテーションなどの次世代量子エレクトロニクス分野において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の超伝導素子の構成を説明するための(a)模式的断面図、(b)一層の展開図である。
【図2】本発明の超伝導素子の作製工程を示す模式的断面図である。
【図3】実施例1での核磁気共鳴測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例1での温度変化に対する磁場変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 超伝導素子 2 多孔質膜
3 ホウ素置換型多層カーボンナノチューブ
21 細孔 22 カーボンナノチューブ成長用触媒
S 基板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質膜中の細孔内に多層カーボンナノチューブが形成されており、当該多層カーボンナノチューブは、その直径が5〜30nm、その層数が2〜20である超伝導素子であって、
前記多層カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素原子で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブであることを特徴とする超伝導素子。
【請求項2】
前記ホウ素置換型多層カーボンナノチューブにおける前記ホウ素原子の置換率が、炭素原子100に対して、0より多く、4以下であることを特徴とする請求項1記載の超伝導素子。
【請求項3】
前記超伝導素子の超伝導転移温度が、15〜30Kであることを特徴とする請求項1又は2記載の超伝導素子。
【請求項4】
金属基板上に、多孔質膜を形成する多孔質膜形成工程と、
前記多孔質膜の細孔の底部に、Fe及びCoから選ばれた少なくとも1種を含む触媒金属並びにホウ素からなるカーボンナノチューブ成長用触媒を形成する触媒形成工程と、
前記カーボンナノチューブ成長用触媒に少なくともHガスを含む還元ガスを接触させて前記カーボンナノチューブ成長用触媒を還元させる還元工程と、
前記還元工程後、カーボンナノチューブ成長ガスを前記カーボンナノチューブ成長用触媒に接触させて、多層カーボンナノチューブを構成する炭素原子の一部がホウ素で置換されたホウ素置換型多層カーボンナノチューブを形成するカーボンナノチューブ形成工程とを含むことを特徴とする超伝導素子の作製方法。
【請求項5】
前記還元工程において、チャンバー中の温度が500〜600℃であり、かつ、触媒の還元時間が3〜4時間であることを特徴とする請求項4記載の超伝導素子の作製方法。
【請求項6】
前記触媒形成工程において、前記ホウ素原子が、前記カーボンナノチューブ成長用触媒に0原子%より多くかつ4原子%以下で含有されるように、前記カーボンナノチューブ成長用触媒を形成することを特徴とする請求項4又は5記載の超伝導素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−295887(P2009−295887A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149835(P2008−149835)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)アメリカン フィジカル ソサイエティ(アメリカ物理学会)、フィジカル レビュー ビー、第76巻、2007年12月20日
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】