説明

超疎水性表面組成物の製造方法、前記方法によって得られる表面およびその使用

本発明は、超疎水性表面組成物の製造方法、前記方法によって得られる組成物および前記組成物の使用に関する。前記方法は、(a)不活性溶媒環境下で、開始剤とともにモノマー対を含む活性官能基のラジカル重合または縮合重合を行う工程、および、(b)工程(a)で得られたコポリマーと、触媒と、活性基でキャップをされている末端を少なくとも一つ有する炭化水素/フッ素化/シロキサン化学剤とを混合する工程を含む方法であって、さらに以下の工程、(c)工程(b)で得られた前記混合物の電界紡糸/電気噴霧を行う工程、および、(d)前記電界紡糸/電気噴霧混合物をアニーリングおよび架橋する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超疎水性表面組成物の製造方法および前記方法によって得られる組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、超疎水性表面組成物の電界紡糸または電気噴霧製造方法およびこの方法によって得られるナノ半製超疎水性表面に関する。本発明は、また、得られる前記超疎水性表面の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
超疎水性の用語は、表面張力/エネルギーに関係する。表面張力/エネルギーは、二つの異なる物質が互いに接触され、界面または境界を形成する際に生じる、分子力の不均衡が原因の内力である。液体表面界面において、もし、粘着力が凝集力よりも強い場合、液体分子は互いの引力よりも固体表面の分子との間により強い引力を有しており、前記表面の濡れが起こる。もし、前記粘着力が弱い場合、前記液体は前記固体表面を濡らさない。
【0003】
表面上の様々な液体の接触角が測定される角度測定によって、固体の表面エネルギーは決定できる。様々な理論に従い、これら接触角の値は、実験的または理論的な式によって、表面エネルギーと関連付けられる。140〜160°以上の固体表面上の水接触角は、超疎水性表面を示す。
【0004】
一般的に、超疎水性物質表面は、表面化学および微細構成を様々な時間のかかる複雑な技術で調整することによって、または、溶媒耐性のない疎水性表面を作成することによって作成される。
【0005】
濡れ難い表面を製造するための組成物は、EP−A−1,153,987(特許文献1)に挙げられている。EP−A−1,238,717(特許文献2)は、ロータス効果を有する前記表面の幾何学的成形に関する。EP−A−1,249,280(特許文献3)およびEP−A−1,249,281(特許文献4)は、疎水性構造を有する自己清浄表面およびそれらの作成方法に関する。EP−A−1,249,467(特許文献5)およびEP−A−1,249,468(特許文献6)は、疎水性構造が原因となる自己清浄表面およびその調製に関し、EP−A−1,283,077(特許文献7)は、自己清浄表面上の微生物成長を防ぐ事によってロータス効果を得ることに関する。
【0006】
以上のように、多くの科学的および産業的研究活動が、超疎水性、低い表面エネルギー、重合性コーティング表面の開発について行われている。しかし、これら技術のいずれもが、特に、強健または長期持続性でなく、非常に清潔な環境を除いて、より実質的なスケールで制御することができない。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1,153,987号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1,238,717号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第1,249,280号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1,249,281号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1,249,467号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第1,249,468号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1,283,077号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、短時間でかつ単純な必要設備でコーティングを行う方法を提供することである。また、本発明の目的は、適用が容易でコストが最小限のコーティングを提供することである。本発明の他の目的は、体積に対する表面積比が高い優れた膜形成特性のコーティングを提供することである。本発明の他の目的は、疎水性、疎液性(lypophobic)、抗菌性等のような整調可能な表面特性を有するコーティングを提供することである。最後に、本発明の目的は、超疎水性コーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的は、出願人の発明によって達成される。
【0009】
本発明は、以下の工程:
(a)不活性溶媒環境下で、開始剤とともに活性官能基含有モノマー対のラジカル重合または縮合重合を行う工程、および
(b)工程(a)で得られたコポリマーを、触媒と、活性基でキャップをされている末端を少なくとも一つ有する炭化水素/フッ素化/シロキサン化学剤とを混合する工程
を含む超疎水性表面組成物の製造方法であって、さらに以下の工程を含むことを特徴とする製造方法に関する。
(c)工程(b)で得られた前記混合物の電界紡糸/電気噴霧を行う工程、および
(d)前記電界紡糸/電気噴霧混合物をアニーリングおよび架橋する工程。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
工程(a)において、前記モノマー対は、ラジカル重合または縮合重合可能なモノマーおよびそれらの組み合わせと段階成長重合可能なモノマーとであり、それらの一つが、フルオロ/シロキサン/炭化水素アルキル基を含み、ならびに、TMI/AN、TMI/スチレン、TMI/ポリメチルメタクリレートおよびペルフルオロ−アクリル酸アルキル/ビニルベンジル−ジメチル−ココアンモニウム(cocoamonium)塩化物(VBDMCAC)を含む基から選択される活性官能基群を含む。
【0011】
工程(a)において、前記開始剤は、AIBNのようなアゾ開始剤、BPOのような過酸化物開始剤、アンモニウム過硫酸塩、ナトリウム過硫酸塩およびT2EHを含む群から選択されるラジカル生成開始剤または縮合重合触媒である。また、工程(a)において、前記不活性溶媒は、好ましくは、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ジクロロメタン、エタノール、ギ酸、ジメチルアセトアミド、アセトンを含む群から選択される。
【0012】
工程(b)において、前記炭化水素/フッ素化/シロキサン化学剤は、ヒドロキシル、アミン、カルボキシル、イソシアナート、チオールのような活性基でキャップをされた両末端を有する。好ましくは、前記両末端活性基含有試薬は、(ペルフルオロポリエーテル、PFPE)HOCH2CF2(OCF2n(OCF2CF2mCF2CH2OH、(シロキサンジオール)HO(Me2Si−O)nH、(炭化水素ジオール)HO(CH2nOH、および(ポリエーテルジオール)HO(CH2CH2O)nHを含む群から選択される。
【0013】
また、工程(b)において、前記触媒は、スズ−2−エチルヘキサノエート(T2EH)、コバルト−2−エチルヘキサノエート、ジブチルスズジラウリン酸塩等を含む群から選択される。
【0014】
工程(c)において、毛細管の先端の表面張力によって保持されるポリマー溶液または溶融体は、高い電界(20〜30kV以下)に付される。先端から噴射された溶液の噴出流は、荷電され、コレクタ接地に向けられ、前記溶媒は蒸発し、連続不織布極薄(直径40〜2000nm)繊維および粒子が集められる。電気噴霧方法は、より高い印加電圧を必要とし、ナノメートルまたはミクロメートル範囲の小さなポリマー溶液の液滴が、接地されたスクリーンに移される。
【0015】
電界紡糸/噴霧の利点は、ナノメートル範囲の(従来の繊維よりも1〜2桁小さい)繊維/粒子を作成する能力、体積に対する高い表面積比、単純な必要設備、紡績時間が従来の紡績よりもはるかに短いことである。
【0016】
また、前記物質のバルク性質効果は、ナノメートルスケールにおいて減少し、前記原子特性はより効果的になる。従って、前記物質は、ナノメートル直径におけるバルク性質と比較した場合に予想外の特性を示す。電界紡糸/噴霧の補助により、調整可能な表面特性が現れうる。
【0017】
本発明は、また、上述の方法によって得られる超疎水性表面組成物およびこれら超疎水性表面組成物の使用に関する。
【0018】
前記使用は、アンテナ、窓、バイオリアクタ、太陽電池、交通標識、公共交通機関および動物の檻等の物質へのごみおよび異物の付着防止において可能である。
【0019】
前記使用は、また、人が作成した船舶およびビル、港の設備および石油掘削プラットホームにおける汚染防止の応用において可能である。また、前記使用は、サウナ、スイミングプール、浴室、台所、屋根、壁、建物外面、温室、庭の垣根、木製の設備における物質の汚れ耐性において可能である。
【0020】
最後に、前記使用は、多機能膜、生物医学構造要素(組織工学、創傷被覆材、薬物輸送、人工臓器において用いられる足場)、専門織物における保護用の遮蔽材、分離産業におけるサブミクロン粒子のための濾過媒体、複合強化材、およびナノ電気機械のための構造物において可能である。
【0021】
添付図面は、発明のさらなる理解を提供するために含まれ、これによって本明細書中に組み込まれ、本明細書の一部を構成し、本発明の形態を示し、明細書と共に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【0022】
図面において:
図1は、15kVでの電気噴霧膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
図2は、10kVでの電気噴霧膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
図3は、7kVでの電界紡糸膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
図4は、図3の拡大した撮影像を示す。
図5は、(a)混合物の電界紡糸織物上、(b)同混合物のキャストフィルム上、および、(c)縮合経路ポリマー化試料上の水の接触角写真を示す。
図6は、実施例2によって得られた電界紡糸膜の走査電子撮影像を示す。
図7は、架橋剤経路での付加重合におけるフッ素化ジオール置換によって得られた電界紡糸膜の走査電子撮影像を示す。
【0023】
上記の一般的な説明および下記の詳細な説明が、例示的および説明的なものであり、請求項に記載された本発明のさらなる説明の提供を意図していることを理解すべきである。
【0024】
本発明は、超疎水性表面組成物を製造する電界紡糸方法/電気噴霧方法および得られるナノ加工超疎水性表面に関する。ペルフルオロ化/シロキサン/炭化水素および架橋共重合樹脂の前記表面は、電界紡糸/噴霧およびアニーリング後に超疎水特性を示す。
【0025】
製造されたコーティング物質は、両親媒性(化学的および構造的)の広範囲にわたる様々な条件に調整可能であり、これらの特性は、前記物質の安定性、硬化能力または機械的性質に悪影響を与えることなく調整または調和可能である。
【0026】
超疎水性を得るために、前記固体表面は、前記物質においてフッ素/シリコン含有部分を用いることによって化学的に高められる。これらの物質は、低表面エネルギー、低水吸収性、汚れ耐性、高耐熱性、高レベルの化学的不活性および優れた耐候性を示す。
【0027】
化学的な増進のための他のポイントは、ポリマーまたはコポリマーにおけるフッ素化化学的部分の分離である。この分離によって、前記ポリマーのバルクと空気との間のフッ素豊富な中間層は、フッ素化部分および有機部分の表面張力差の補助によって形成される。このふるまいは、前記重合性物質の熱アニーリングによって高めることが可能である。
【0028】
最終的に、表面微細構成は、前記物質表面の湿潤性および自己清浄作用に対して重大な効果を有する。「ロータス効果」と呼ばれる前記現象は、発見され、Barthlott, W. and Neinhus, C. , 1997, Purity of the sacred lotus, or escape from contamination in biological surfaces, Planta, 202: 1-8によって公表されている。また、これらの表面が超疎水性であることも発見されている。
【0029】
ロータス効果の根拠は、前記固体表面の多くの小サイズの隆起の存在に基づく。したがって、液滴またはごみが付着している場合、前記表面の引力は非常に小さいので、異物はそこにとどまることができない。前記表面がわずかに傾いている場合、この小さな接触領域が原因で前記液滴は、自身の重量によって転がり、隆起の頂上でごみを集め、それらを運ぶ。これは水分子の引力が全体で表面力より強いため、自己清浄表面を作成するからである。
【0030】
出願人は、驚くことに、電界紡糸/電気噴霧方法によっても、同様な表面粗さと微細構成を形成できることを見出した。
【0031】
前記電界紡糸/噴霧方法において、毛細管の先端で表面張力によって保持されたポリマー溶液または溶融体は、高電界(20〜30kV以下)に付される。
【0032】
荷電反発は、前記先端において表面張力と反対の力を引き起こす。ポテンシャル場の強度が増加するにしたがって、前記毛細管先端での溶液の表面は、引き延ばされ、円錐形を形成する。
【0033】
前記電界が、電気力反発が表面張力を越える臨界値に到達する場合、前記溶液の噴出流が前記先端から噴射される。この噴出流は荷電され、コレクタ接地に向けられてもよい。
【0034】
前記噴出流が空気中を移動するに従い、前記溶媒は蒸発し、これにより薄い繊維をもたらす。最後に、連続的な不織布極薄(直径40〜2000nm)繊維および粒子は、接地されたスクリーン上に集められてもよい。
【0035】
電気噴霧方法は、電界紡糸より高い印加電圧を必要とする。電界紡糸と同様の表面荒さを作成できる。ナノメートル直径の不織布繊維の代わりに、ナノメートルまたはミクロメートル程度の小ささのポリマー溶液液滴が、前記接地されたスクリーンに移される。
【0036】
【表1】

【0037】
本発明をより容易に理解できるように、本発明を例証することを意図する以下の例を参照するが、本発明の範囲を全く限定または制限しない。
【実施例1】
【0038】
架橋剤との付加重合経路
【0039】
【化1】

【0040】
物質
第1反応スキームにおいて:
イソプロペニルジメチルベンジルイソシアナートとして知られているメタ−テトラメチルキシレンイソシアナート(TMI)は、サイテック(Cytec)によって供給され、購入して受け取ったときの状態で反応に用いた。
【0041】
前記反応スキームにおける第1反応で必要な第2の反応物質アクリロニトリル(AN)は、メルク(Merck)社製(00834)であり、ヒドロキノンモノメチルエーテルによって安定化されている。アクリロニトリルはアルミナカラムを通過させることによって精製し、反応前に無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
【0042】
同一の反応のために、開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN,フルカ(Fluka)−11630)を用い、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF,Riedel−15440)を溶媒として用いた。両者とも購入して受け取ったときの状態で用いた。
【0043】
反応スキームにおける第2の反応において:
フルオロリンクD(Fluorolink−D)(商標)(オーシモント(Ausimont)によって供給されたペルフルオロポリエーテル、PFPE)、平均当量1000g/molのジオールを、フッ素化ジオールHOCH2CF2(OCF2n(OCF2CF2mCF2CH2OHとして用いた。
【0044】
スズ(II)2−エチルヘキサノエート(T2EH)は、アルドリッチ(Aldrich)社から供給された(#28,717−2)。
【0045】
PFPEの代わりに、エチレングリコール(メルク社:#822329)および
Trialsを含むシロキサンジオール(40000g/mol)が、同様に用いられた。
【0046】
全ての化学物質は購入して受け取ったときの状態で用いた。
【0047】
[合成]
1. Poly(AN−co−TMI)
25mlのDMF、2.51gのTMI、6.67gのANおよび3mgの開始剤AIBNを、50mlのフラスコに添加する。前記フラスコの頭を、アルドリッチ社製の天然ゴムセプタムで密封する。前記溶液を、5分間撹拌する。そして、溶液中のモノマーのラジカル重合のために、前記内容物を70℃のオーブン中に置き、そこで48時間保持した。使用しない時は、前記フラスコ内容物を−20℃の冷蔵庫に貯蔵した。
【0048】
前記反応物質がポリマーに変換していることを確認するために、1.65gのDMF、poly(AN−co−TMI)混合物を、15mlのメタノール中に添加し、10分間混合する。沈殿した固体ポリマーを乾燥させ、計量する。前記反応の重合率は、およそ50〜60%であった。
【0049】
2.a フッ素含有poly(AN−co−TMI)
DMF中の1.62gのpoly(AN−co−TMI)を、別個のフラスコに移し、0.03gのPFPEを添加する。粘度を200〜1200cpの範囲に調整するために、さらに、1.05gのDMFを添加する。T2EHを3滴添加した後、前記フラスコの内容物を2分間混合し、電界紡糸のためにガラスパスツールピペットへ移す。
【0050】
2.b 炭化水素含有poly(AN−co−TMI)
DMF中の2.09gのpoly(AN−co−TMI)を、別個のフラスコに移し、0.06gのエチレングリコールを添加する。粘度を200〜1200cpの範囲に調整するために、さらに、0.5340gのDMFを添加する。T2EHを3滴添加した後、前記フラスコの内容物を2分間混合し、電界紡糸のためにガラスパスツールピペットへ移す。
【0051】
2.c シロキサン含有poly(AN−co−TMI)
DMF中の1.18gのpoly(AN−co−TMI)を、別個のフラスコに移し、0.27gのシロキサンジオールを添加する。粘度を200〜1200cpの範囲に調整するために、さらに、1.05gのDMFを添加する。T2EHを3滴添加した後、前記フラスコの内容物を2分間混合し、電界紡糸のためにガラスパスツールピペットへ移す。
【0052】
[電界紡糸]
poly(AN−co−TMI)にフルオロリンクD(商標)(ならびにエチレングリコールおよびシロキサンジオール)を加えた混合物の電界紡糸を、Demir MM et al. 2002, Electro-spinning of polyurethane fibers, Polymerで所定の装置と同種の装置を用い、室温条件で行う。前記パスツールピペットは、1mmの先端開口部を有するガラスであり、金属プローブは、電源(50kV CPS Technologies Model 2594)に直接接続されている銅線である。
【0053】
使用されたコレクタ接地は、導線の補助によって地面に接続された、電気的に導電性の表面として働く20cm×20cmの平坦なアルミ箔であった。前記先端から地面までの距離は、10cmであった。前記電界紡糸電圧は、7〜20kVであった。
【0054】
[アニーリングおよびキャスティング]
電界紡糸の後に、前記アルミ箔を:
(a)完全に架橋させるために、窒素雰囲気下、70℃で少なくとも18時間アニーリングし、電界紡糸を行い、架橋およびアニーリング膜を得た。
(b)電界紡糸膜とバルク膜との違いを比較するために、残ったpoly(AN−co−TMI)とPFPEジオールとの混合物を、膜の薄層としてガラス薄板に塗布し、70℃でアニーリングする。キャストおよびアニーリング膜を得る。
【0055】
[角度測定調査]
前記電界紡糸およびキャスト膜の接触角測定を、v.1.7ソフトウェアを有するクラウス・ジー・エム・ビー・エイチのDSA10Mk2ゴニメトリー(DSA 10 Mk 2 Goniometry of Kruss GmbH with DSA 1 v.1.7software)によって行う。
【0056】
前記電界紡糸膜のアルミ箔上での接触角測定において;両面粘着性コーティングテープをガラス薄板上に置く。そして、膜で覆われた前記アルミ箔をおよそ10cm2に切断し、前記粘着テープ上に置く。
【0057】
薄板上の前記電界紡糸膜およびキャスト膜(アニーリング有りおよびアニーリング無し)の接触角測定は、さらなる処理を行わずに実行する。接触角測定の間、いずれも同体積で少なくとも6つの静止水滴が、膜について研究される。前記測定に用いられた水は、超高純度グレードおよび新鮮であった。
【0058】
前記接触角(CA)測定は、水によって行われ、結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
テフロンの接触角測定値は文献値とよく一致しており、このことにより本方法の適用性が立証される。また、表2から、同一の組成物混合物の電界紡糸アニーリング膜(154°)とキャストフィルム(100°)との間に大きな接触角値の違いがあるとわかった。
【0061】
[他の測定器具特性表示]
poly(AN−co−TMI)+フルオロリンクDの様々な電圧での走査型電子顕微鏡(SEM)撮影像を、図1〜4に示す。使用した装置は、Jeol 840Aモデル走査型電子顕微鏡であった。SEM測定のために、電界紡糸でカバーしたアルミニウム箔を1cm×1cmに切断した。図2、3および4における前記電界紡糸の樹脂混合物の濃度は、ほぼ同一であった。
【0062】
前記紡績電圧の減少に従い、繊維構成は、異なるものとなる。前記電圧の減少に従い、電界による引力は、バランスがとれるようになり(過剰の引きがなかった)、従って、繊維が先端から収集器まで安定に形成し、溶媒を蒸発させるのに十分な時間があった。
【0063】
また、出願人は、もし、前記電界紡糸生成物がDMFまたはテトラヒドロフラン(THF)に溶解するならば、前記反応媒体が前記重合反応に好ましいことをテストした。10mlのDMFおよび10mlのTHFを、2つのフラスコにそれぞれ添加し、およそ100mgの電界紡糸膜をそれぞれのフラスコに添加する。そして、それを1時間撹拌し、1週間置いた。保存された電界紡糸生成物の溶解は、前記反応媒体DMFおよびTHFのいずれでも観察されなかった。
【0064】
[CAへのフルオロリンクD(商標)の濃度効果]
産業の経済的な理由から、フルオロリンクD(商標)の最適値は重要である。従って、1w%〜100w%(poly(AN−co−TMI)溶液中の固体内容物に対して)のフルオロリンクD(商標)を、電界紡糸溶液に添加する。
【0065】
また、各濃度において、混合物を2つの薄板上でキャスト膜とする。同等のキャスト膜のアニーリング効果を比較するために、一方はアニーリングを行い、他方は行わなかった。結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【実施例2】
【0067】
架橋反応なしの付加重合経路
【0068】
【化2】

【0069】
[物質]
化学物質は以下のものを使用した:
ビニルベンジル塩化物(VBC)は、フルカ社製(#;94907)であり、
ジメチルココアミンは、工業グレードであり、
炭酸ナトリウム(Na2CO3)は、フルカ社製(#;71352)であり、
ペルフルオロアルキルアクリル酸エチルは、カリアント(Cariant)社製のフルオロウェット(Fluowet)であり、
メチルメタクリレート(MMA)は、フルカ社製(#;71351)であり、
AIBN(フルカ−11630)は、ターポリマー合成反応のラジカル開始剤として用いた、
THFは、LabKimの分析用試薬グレードである。
全ての化学物質は購入して受け取ったときの状態で用いた。
【0070】
[合成]
ビニルベンジル−ジメチルココアンモニウム塩化物(VBDMCAC)
VBDMCACの合成は、50mlの丸底フラスコ中で行う。16.2gのジメチルココアミン、12.6gの蒸留水および0.3gのNa2CO3を混合する。そして、前記混合物を撹拌しながら8.6gのVBCを添加する。反応は大気圧下、50℃で行われ、2時間撹拌を続ける。
【0071】
[ターポリマーへの重合]
50mlのフラスコ中で、1.25gのペルフルオロアルキルアクリル酸エチル、2.23gのMMA、0.11gのVBDMCAC混合物および0.004gのAIBNを、5.4gのテトラヒドロフラン(THF)溶媒に添加する。この混合物を、窒素ガスでバブリングすることによって15分間脱気する。前記溶液中のラジカル重合は、70℃で24時間行う。生成物を、150mlの工業グレードn−ヘキサン中で沈殿させ、濾過および乾燥を行う。
【0072】
[電界紡糸]
電界紡糸は、室環境で行う。0.2gのターポリマーを、0.5gのTHFおよび0.5gのDMFを含む溶液に溶解させる。そして、前記混合物をパスツールピペットに注ぎ、高電圧装置の補助により電界紡糸を行う。生成物を、20cm×20cmの平坦なアルミニウム収集器上に集める。前記先端の地面への距離は10cmであり、電界紡糸電圧は12kVである。
【0073】
[角度測定調査]
前記電界紡糸膜の接触角測定を、V.1.7ソフトウェアを有するクラウス・ジー・エム・ビー・エイチのDSA10Mk2ゴニメトリーによって行う。アニーリングなしは、159.2±2.4であった。前記電界紡糸膜のアルミ箔上での接触角測定において;両面粘着性コーティングテープをガラス薄板上に置く。そして、膜で覆われた前記アルミをおよそ10cm2に切断し、前記粘着テープ上に置く。接触角測定の間、いずれも同体積で少なくとも6つの静止水滴が、膜について研究される。前記測定に用いられた水は、超高純度グレードおよび新鮮であった。
【実施例3】
【0074】
縮合重合経路
【0075】
【化3】

【0076】
[物質]
化学物質は以下のものを使用した:
HO−RH−OHは、分子量4000g/molポリエチレングリコール(PEG4000)(メルク社製、#07490)であり、
メチレンジフェニルジイソシアナート(MDI、C151022)は、Acros社製(#41428)であり、
スズ(II)2−エチルヘキサノエート(T2EH)は、アルドリッチ社製(#28,717−2)であり、
ジメチロールブタン酸(DMBA、C6124)は、マルベニ(Marubeni)社製であり、
F−OHは、ペルフルオロアルキルエタノール(PFAE、フルオロウェット(商標)−EA600、カリアント社製)であり、
塩化チオニルは、メルク社製(#808154)であり、および
ピリジンは、ラボスキャン(LabScan)社製(#G4544)である。
【0077】
全ての化学物質は購入して受け取ったときの状態で用いた。
【0078】
[合成]
[プレポリマーA]
30mlのトルエン溶媒、1gのMDIおよび8gのPEG4000を、50mlの丸底フラスコに添加する。また、6〜7滴のT2EHを、反応触媒として前記フラスコに添加する。前記反応の間、前記フラスコの頭を、天然ゴムセプタムで密封し、前記混合物を撹拌し、窒素雰囲気下に保つ。前記反応は、室温で24時間行われる。
【0079】
[プレポリマーB]
プレポリマーBは、2工程で合成される。最初に、50mlのフラスコ中で7.4gのDMBAを30mlの塩化チオニルと終夜還流させる。そして、塩素化されたDMBAを蒸発によって精製する。第2の工程において、3.33gの塩素化されたDMBAを、30mlのトルエン中で7.4gのフルオロウェット(商標)(PFAE)と反応させる。酸捕捉剤として、6〜7滴のピリジンを添加し、前記反応を室温で3時間行う。ピリジン.HCl錯体およびプレポリマーB溶液を除去するために、生成物を濾過する。
【0080】
[重合]
プレポリマーAおよびプレポリマーB溶液の重合に必要な量は、滴定法での活性基の決定によって計算した。プレポリマーA溶液(29.3ml)およびプレポリマーB溶液(2.28ml)を、50mlのフラスコ中で混合する。触媒として、8〜9滴のT2EHを添加する。反応は、80℃で48時間行われる。前記反応の完了後に、反応混合物を300molのn−ヘキサン中へ注ぎ、生成物を沈殿させる。前記沈殿物を、濾紙で濾過し、真空炉中、室温で48時間乾燥させる。
【0081】
[電界紡糸]
縮合重合反応生成物の電界紡糸は、室温で行われる。0.5gの縮合重合体を、2.1mlのDMFに溶解させる。そして、前記混合物をパスツールピペットへ注ぎ、高電圧装置の補助によって電界紡糸を行う。生成物は、接地コレクタ上に集められる。
【0082】
使用された接地コレクタは、導線の補助によって地面に接続された電気的に導電性の表面として働く20cm×20cmの平坦なアルミ箔である。前記先端から地面までの距離は、15cmであった。前記電界紡糸電圧は、8〜15kVであった。
【0083】
[アニーリング]
電界紡糸後に、完全な架橋のために、前記アルミ箔のアニーリングを、窒素雰囲気下、70℃で少なくとも18時間行った。電界紡糸、架橋およびアニーリング膜を得た。
【0084】
[角度測定調査]
前記電界紡糸膜の接触角測定を、V.1.7ソフトウェアを有するクラウス・ジー・エム・ビー・エイチのDSA10Mk2ゴニメトリーによって行う。
【0085】
前記電界紡糸膜のアルミ箔上での接触角測定において;両面粘着性コーティングテープをガラス薄板上に置く。そして、膜で覆われた前記アルミ箔をおよそ10cm2に切断し、前記粘着テープ上に置く。
【産業上の利用可能性】
【0086】
この物理的な現象は、印刷業、塗装業、膜製造業、潤滑剤産業または繊維工業の大部分における材料の重要な物性である。したがって、この物理的性質の決定および規定は、それら応用分野における多くの材料の性能にとって重要である。
【0087】
超疎水性表面の挿入領域は、例えば、物質へのごみおよび異物の付着防止である。それは、アンテナ、バイオリアクタ、太陽電池、交通標識、交通機関、動物の檻等に使用可能である。
【0088】
他の応用の一つは、物質の汚れ耐性である。それは、サウナ、スイミングプール、浴室、台所、屋根、壁、建物外面、温室、庭の垣根、木製の設備等に使用可能である。
【0089】
さらなる応用の一つは、海上工事の際の海洋生物および植物の粘着に対してでも良い。なぜならば、水が前記表面を濡らせない場合、海洋生物がどのようにして粘着することができるだろうか。汚染防止応用は、人が作成した船舶およびビル、港の設備および石油掘削プラットホーム等に用いても良い。
【0090】
電界紡糸繊維の他の応用は、多機能膜、生物医学構造要素(組織工学、創傷被覆材、薬物輸送、人工臓器において用いられる足場)、専門織物における保護用の遮蔽材、分離産業におけるサブミクロン粒子のための濾過媒体、複合強化材、およびナノ電気機械のための構造である。
【0091】
使用された用語および表現は、明細書の用語として用いられており、限定するものではない。また、そのような用語または表現の使用において、その一部として示され、記載された特徴のいかなる同等物をも除く意思はない。様々な変更が、明細書に記載されていることに制限するとみなされない本発明の範囲から逸脱せずに行われて良いことは、当業者に明白である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、15kVでの電気噴霧膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
【図2】図2は、10kVでの電気噴霧膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
【図3】図3は、7kVでの電界紡糸膜の走査型電子顕微鏡撮影像である。
【図4】図4は、図3の拡大した撮影像を示す。
【図5】図5は、(a)混合物の電界紡糸織物上、(b)同混合物のキャストフィルム上、および、(c)縮合経路ポリマー化試料上の水の接触角写真を示す。
【図6】図6は、実施例2によって得られた電界紡糸膜の走査電子撮影像を示す。
【図7】図7は、架橋剤経路での付加重合におけるフッ素化ジオール置換によって得られた電界紡糸膜の走査電子撮影像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)不活性溶媒環境下で、開始剤とともに活性官能基含有モノマー対のラジカル重合または縮合重合を行う工程、および
(b)工程(a)で得られたコポリマーを、触媒と、活性基でキャップをされている末端を少なくとも一つ有する炭化水素/フッ素化/シロキサン化学剤とを混合する工程
を含む超疎水性表面組成物の製造方法であって、
さらに以下の工程を含むことを特徴とする製造方法。
(c)工程(b)で得られた前記混合物の電界紡糸/電気噴霧を行う工程、および
(d)前記電界紡糸/電気噴霧混合物をアニーリングおよび架橋する工程。
【請求項2】
工程(a)において、前記モノマー対が、ラジカル重合または縮合重合可能なモノマーおよびそれらの組み合わせと段階成長重合可能なモノマーとであり、それらの一つが、フルオロ/シロキサン/炭化水素アルキル基を含み、ならびに、TMI/AN、TMI/スチレン、TMI/ポリメチルメタクリレートおよびペルフルオロ−アクリル酸アルキル/ビニルベンジル−ジメチル−ココアンモニウム(cocoamonium)塩化物(VBDMCAC)を含む基から選択される活性官能基を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において、前記不活性環境が、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、ジクロロメタン、エタノール、ギ酸、ジメチルアセトアミド、アセトンを含む群から選択される不活性溶媒である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において、前記開始剤が、アゾ開始剤、過酸化物開始剤、アンモニウム過硫酸塩、ナトリウム過硫酸塩およびスズ−2−エチルヘキサノエート(T2EH)、コバルト−2−エチルヘキサノエート、ジブチルスズジラウリン酸塩を含む群から選択されるラジカル生成開始剤または縮合重合触媒である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、前記炭化水素/フッ素化/シロキサン化学剤が、ヒドロキシル、アミン、カルボキシル、イソシアナート、チオールのような活性基でキャップをされた両末端を有し、フッ素化ジオール、シロキサンジオールおよび炭化水素ジオールから選択されるジオール含有試薬であり、好ましくは、(ペルフルオロポリエーテル、PFPE)HOCH2CF2(OCF2n(OCF2CF2mCF2CH2OH、(シロキサンジオール)HO(Me2Si−O)nH、(炭化水素ジオール)HO(CH2nOH、および(ポリエーテルジオール)HO(CH2CH2O)nHを含む群から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)において、前記触媒が、スズ−2−エチルヘキサノエート(T2EH)、コバルト−2−エチルヘキサノエート、ジブチルスズジラウリン酸塩を含む有機金属触媒から選択される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(c)において、前記混合物が、5〜35kVおよび5〜25cmの歯先距離で電界紡糸/噴霧される、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程(d)において、前記電界紡糸/噴霧マットが、ガラス遷移温度以上でアニーリングされる、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
その水接触角が少なくとも140°である、先行する請求項のいずれか一項に記載の方法によって得られる超疎水性表面組成物。
【請求項10】
アンテナ、窓、バイオリアクタ、太陽電池、交通標識、公共交通機関および動物の檻等の物質へのごみおよび異物の付着防止における、請求項9に記載の超疎水性表面組成物の使用。
【請求項11】
人が作成した船舶およびビル、港の設備および石油掘削プラットホームにおける汚染防止の応用における、請求項9に記載の超疎水性表面組成物の使用。
【請求項12】
サウナ、スイミングプール、浴室、台所、屋根、壁、建物外面、温室、庭の垣根、木製の設備における物質の汚れ耐性における、請求項9に記載の超疎水性表面組成物の使用。
【請求項13】
多機能膜、生物医学構造要素(組織工学、創傷被覆材、薬物輸送、人工臓器において用いられる足場)、専門織物における保護用の遮蔽材、分離産業におけるサブミクロン粒子のための濾過媒体、複合強化材、およびナノ電気機械のための構造物における、請求項9に記載の超疎水性表面組成物の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2007−521127(P2007−521127A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508424(P2005−508424)
【出願日】平成15年9月2日(2003.9.2)
【国際出願番号】PCT/TR2003/000067
【国際公開番号】WO2005/021843
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(506070361)サバンチ ユニバーシテシ (3)
【Fターム(参考)】