説明

超臨界または近超臨界の水中での芳香族カルボン酸製造用の接触酸化反応

芳香族カルボン酸を製造するための酸化方法であって、連続流れ反応器内で芳香族カルボン酸の1種以上の前駆体を触媒の存在において酸化剤と接触させ、このような接触が超臨界条件または近超臨界条件下で水を含む水性溶媒中で前記前駆体および酸化剤とで行われ、前記触媒が銅を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2008年4月30日出願の英国特許出願No.0807904.8からの優先権のメリットを主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、超臨界または近超臨界の水中での合成接触酸化方法、特にアルキル置換芳香族炭化水素の対応する芳香族カルボン酸、特にテレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、およびナフタレンジカルボン酸への酸化に関する。
【背景技術】
【0003】
水の誘電定数は、水がその臨界点(374℃および220.9バール)に接近するにしたがって、ほぼ80C/Nmの室温値から5C/Nmの値まで劇的に減少して、有機分子の可溶化が可能となる。結果として、水は、有機溶媒のように挙動して、炭化水素、例えばトルエンは超臨界条件または近超臨界条件下の水と完全に混和する。テレフタル酸は、例えば約200℃以下では水に実質的に不溶性である。二原子酸素も亜臨界−および超臨界水に高溶解性である。
【0004】
非特許文献1は、なかんずく亜臨界水の反応媒体中で分子状酸素を酸化剤としてアルキル芳香族から芳香族カルボン酸を合成する、密封オートクレーブ中で行うバッチ法を述べている。多数の異なる触媒系がHollidayの研究において検討され,アルキル芳香族基質を対応する芳香族カルボン酸に完全酸化するのを促進するためにはMn(II)またはCo(II)のいずれかの臭化物を使用しなければならないということが示された。Hollidayは、Fe(II)およびNi(II)塩が大量の炭素質材料を生じるので不利であるということを報告した。臭化銅は、トルエンをベンズアルデヒドに酸化するための最も効率的な触媒であるが、そうでなければ厳しい炭化およびカップリング反応を生じ、それゆえ芳香族カルボン酸の製造には不利であることが判明した。
【0005】
銅は、以前には、慣用の条件および溶媒において、p−キシレンまたは他のアルキル芳香族を対応するカルボン酸に単独でまたは共触媒として酸化するために、劣った触媒活性を有するか、または触媒活性を持たないと報告された(例えば、非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7および特許文献1)。実際、酢酸溶媒中でアルキル芳香族を酸化反応するために銅を混合コバルト/マンガン/臭化物触媒に添加することによって、酸化反応が阻害されると報告された(非特許文献8および非特許文献9)。特許文献2は、酢酸中でp−トルアルデヒドを酸化して、主としてp−トルイル酸が形成されること、臭化物の不在において酢酸コバルトおよび酢酸銅を触媒として使用して少量のテレフタル酸も形成されること、しかし極めて長い滞留時間が必要とされることを述べている。Borovkovaら(非特許文献10)は、無溶媒系においておよび臭化物の不在において、酢酸コバルトおよび酢酸銅ならびに鉄および銅ジメチルベンゾエートを触媒として使用してプソイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)を酸化することを述べている。この著者らは、コバルトおよびマンガン塩は中間体生成物の酸への急速な転化を確保する一方で、銅および鉄塩に対する低触媒活性を報告している。低Cu/Co比(Cu/Co<0.1)で銅を酢酸コバルト触媒に添加するのは、プソイドクメンの酸化において弱い相乗性を示し、トリメリット酸の形成でなく中間生成物についてのみの観察として、酸化速度の増加および酸収率の増加が見られる。しかしながら、金属添加物の濃度を0.1超のCu/Co比まで増加するのは、コバルト触媒を不活性化して、酸化速度の低下と、酸化反応の完全な阻害に導く。特許文献3は、臭素化合物と水溶性銅塩を含有する水性溶媒中で比較的低い圧力および温度の条件下でキシレンを酸化することにより、芳香族ジカルボン酸を製造することを開示し、キシレン燃焼が260℃以上の温度において厳しくなり、製品収率が低下するということを教示している。特許文献4は、水含有溶媒中、およびCe、Fe、Co、Mn、V、Ti、Zrおよび/またはCuの酸化物である、不均質(すなわち、固体)触媒によりアルキルベンゾールを、350℃未満の温度および20から80バールの範囲の圧力を用いて酸化すること、好ましくは温度が280から320℃であり、圧力が25から35バールであり、水が蒸気相にあることを開示し、高い圧力における触媒性能が低下することを開示している。
【0006】
芳香族カルボン酸を連続流れ反応器中で製造するために媒体として超臨界水を使用することは、特許文献5で最初に開示された。その明細書で含まれる方法は、芳香族カルボン酸の1種以上の前駆体を酸化剤と酸化触媒の存在において、連続流れ反応器内で接触させ、前記1種以上の前駆体、酸化剤、および水性溶媒が反応域中で実質的に単一の均質相を構成するように、このような接触を超臨界条件または超臨界点に接近した近超臨界条件下で前記前駆体と水を含む水性溶媒中の酸化剤により行うことを開示した。特許文献5で述べられている方法においては、前駆体の少なくとも一部と酸化剤との接触は、触媒と酸化剤の少なくとも一部との接触と同時発生的である。特許文献5で開示されている酸化触媒は、1種以上の重金属化合物、例えば臭化物、ブロモアルカノエートまたはアルカノエート(通常、アセテートなどのC−Cアルカノエート)などのコバルトおよび/またはマンガン化合物を含む。バナジウム、クロム、鉄、モリブデンセリウムなどのランタナイド、ジルコニウム、ハフニウム、および/またはニッケルなどの他の重金属の化合物も特許文献5に想定され、酸化触媒は、1つ以上の貴金属またはその化合物、例えば白金および/またはパラジウムまたはその化合物を代替的または更に含み得る。特許文献5の連続法においては、反応動力学は、高温により更に増進され、水溶媒が超臨界または近超臨界条件下にある場合に優勢になる。高温、高濃度、および均質性の組み合わせは、結晶化三相酸化反応器を用いる慣用の方法によるテレフタル酸などの芳香族カルボン酸の製造に使用される滞留時間と比較して、前駆体を芳香族カルボン酸に転化する反応が極めて迅速に起こり得るということを意味する。これらの条件下で、中間体アルデヒド(例えば、テレフタル酸の場合の4−カルボキシベンズアルデヒド(4−CBA))は、超臨界または近超臨界流体に可溶性である所望の芳香族カルボン酸に容易に酸化され、回収芳香族カルボン酸生成物のアルデヒド中間体による汚染の著しい低下を可能とする。(特許文献5)の工程条件は、前駆体と酸化剤との間の自己接触破壊的反応と、触媒の消費を実質的に低減または回避させる。この連続法は、短い滞留時間を含み、生成物形成の高い収率および良好な選択性を呈する。
【0007】
非特許文献11は、酸素濃度および触媒濃度の効果と、バッチ法において高温の液体水を溶媒として用いる、p−キシレンのテレフタル酸への部分酸化における同一性を研究した。その研究は、この酸化反応における触媒としてCoBr、ZrBr、およびMn(OAc)と比べてMnBrが好ましいことを主張した。
【0008】
超臨界酸化における芳香族カルボン酸の製造用の好ましい触媒は、マンガン塩(特に、MnBr)を含むが、反応の強酸化条件時にはマンガン塩は、酸化物(MnO、Mn、およびMnO(OH)を含む)に不可逆的に酸化されるということが観察されてきた。このマンガン酸化物は、触媒と酸化剤(通常、分子状酸素)との間の初期の接触の後内壁に付着する不溶性沈澱を形成して、反応器の漸次的なファウリングおよび/または圧力降下装置中の閉塞を生じる。マンガン酸化物のこの沈澱は、工程の有効な操作のために触媒を再循環する機会を低下または妨害し、触媒のこの損失は経済的に望ましくない。加えて、この沈澱は、管状反応器中の流れを低下または妨害し、反応器の操作を継続するためには、装置中のチャンネルをクリーニングまたは閉塞除去する必要があり、これは不経済であり、非効率的である。非特許文献5で述べられている具体的な混合構成は、他の構成と比較して触媒酸化を最少として、反応器ファウリングを最少とする。
【0009】
芳香族カルボン酸を製造するための酸化反応において改善を行うこと、特に標的化合物の収率および/または選択性を改善することが未だに望ましい状況である。もう一つの重要な考慮は、反応の「燃焼」を最少とすることである。本明細書中で使用されるとき、反応の「燃焼」は、前駆体の標的化合物までの選択的酸化と反対に最終的には炭素酸化物まで進行する可能性のある、前駆体、酸化中間体および/または標的最終生成物の非選択的酸化および/または分解と定義される。燃焼は、一つの態様では反応により生じる炭素酸化物の比率により定量化される。加えて、特に収率および/または選択性および/または燃焼を維持し、または改善する一方で、酸化工程の本質的な操作性を維持するためには、上述の反応器のファウリングを回避することが未だに望ましい状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】US−3299125
【特許文献2】GB−644667
【特許文献3】JP−58/023643−A
【特許文献4】DE−10/2006/016302−A
【特許文献5】WO−02/06201−A
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Holliday R.L.ら,J.Supercritical Fluids 12,1998,255−260
【非特許文献2】W.Partenheimer,J.Mol.Catal.,67(1991)、35−46
【非特許文献3】Alper et al.,J.Mol.Catalysis,vol.61,p.51−54,1990
【非特許文献4】M.Hronec and A.Bucinska,Oxid.Commun.10(3)(1987)193
【非特許文献5】Okada and Kamiya Bull.Chem.Soc.Japan,Vol.54(9),2724−7,1981
【非特許文献6】Okada and Kamiya Bull.Chem.Soc.Japan,Vol.52,3321,1979
【非特許文献7】V.N.Aleksandrov,Kinetika i Kataliz,19(4),1057−1060、1978
【非特許文献8】G.H.Jones,J.Chem.Res.,Synopses(1982),(8),207
【非特許文献9】Y.Kamiya et al.,Bull.Chem.Soc.Japan.Vol.39(10),2211−15,1966
【非特許文献10】Borovkovaら,Neftekhimiya,16,235(1976)
【非特許文献11】DunnとSavage,Environ.Sci.Technol.2005,39,5427−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記に挙げた問題の1つ以上を低減または回避することである。特に、本発明の目的は、前駆体の接触酸化により芳香族カルボン酸を製造するための代替のまたは改善された連続法、特に(i)芳香族カルボン酸に対する良好な選択性および/または(ii)芳香族カルボン酸の高収率、および/または(iii)低燃焼性の1つ以上を有する方法を提供することである。本発明の更なる目的は、前駆体を接触酸化することに
より芳香族カルボン酸を製造するための代替のまたは改善された連続法、特に芳香族カルボン酸の選択性および/または収率の損失を招かず、および/または燃焼の増加をさせずに、触媒系によって、MnBrと比較した必要触媒量を低減させることができる方法を提供することである。本発明の更なる目的は、特に収率および/または選択性および/または燃焼を維持または改善する一方で、酸化方法の本質的な操作性を保持するために、反応器のファウリングを回避することである。更なる目的は、芳香族カルボン酸を製造するための超臨界(または近超臨界)水の合成酸化方法用の代替のまたは改善された触媒系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
芳香族カルボン酸を製造するための酸化方法であって、連続流れ反応器内で芳香族カルボン酸の1種以上の前駆体を触媒の存在において酸化剤と接触させ、典型的には、前記1種以上の前駆体、酸化剤、および水性溶媒が反応域中で単一の均質相を構成するように、このような接触を超臨界条件または近超臨界条件下で水を含む水性溶媒中で前記前駆体および酸化剤とで行い、前記触媒が銅を含む方法が本発明によって提供される。
【0014】
特許文献5と比較した場合、本発明による方法の触媒系は、標的化合物の選択性および/または収率の想定外の改善をもたらし、および/または燃焼性の低減を呈する。加えて、本明細書で述べられている銅含有触媒は、有利なこととして、反応器が触媒沈澱の結果としてファウリングされる傾向の低減を呈する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、下記の態様Iについて述べられる基本配置を図示する、概略のフローシートである。
【図2A−2B】図2Aおよび2Bは、下記の態様IIについて述べられる基本配置を図示する、概略のフローシートである。図2Bでは、酸化剤は、反応域に沿って多数の注入点で連続的に導入される。
【図3】図3は、前駆体と酸化剤との接触が触媒と酸化剤との接触と非同時進行的である、配置(下記の態様IIIなどの)を図示する、概略のフローシートである。
【図4】図4は、前駆体を酸素と水の予備混合された流れに添加する配置(すなわち、図1に図示する方法による配置)を詳細に図示する、概略のフローシートである。
【図5A−6】図5A、5B、5C、5D、および6は、反応試剤の少なくとも1種と水性溶媒との混合を行うのに使用可能な、種々の予備混合器の構成を図示する。
【図7】図7は、酸化剤の多数段階での注入を図示する、概略図である。
【図8−9】図8および9は、テレフタル酸前駆体を超臨界または近超臨界水中で酸化する場合に使用する母液再循環と、反応器からの熱除去を図示する概略のフローシートである。図8の態様では実質的に純粋な酸素が酸化剤として使用され、図9の態様では空気が酸化剤である。
【図10】図10は、実験室規模の実験に使用される装置の詳細な図示である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語「合成酸化反応」とは、前記前駆体を部分酸化することにより、その1種以上の酸化可能な前駆体から1種以上の標的化合物を製造するという意味である。用語「部分酸化」とは、前記前駆体の炭素酸化物への完全酸化に必要とされるよりも少ない酸化(または酸素の吸収)度からなる酸化反応の意味である;このような反応は、制御された酸化剤/前駆体の化学量論、少数の化合物を高収率で合成するための選択的反応、および前駆体の芳香族基中の化学構造の保持に関連する。用語「完全酸化」とは、炭素酸化物(通常二酸化炭素)への化合物の酸化、すなわち破壊的な酸化の意味である。
【0017】
工程の圧力および温度は、超臨界または近超臨界条件を確保するために選択される。本
明細書中で使用されるとき、用語「近超臨界条件」は、溶媒が220.9バールにおける水の臨界温度よりも100℃以上低い温度にあるということを意味する。一つの態様では、溶媒は、220.9バールにおける水の臨界温度よりも80℃以下低い、および更なる態様では70℃以下低い、更なる態様では50℃以下低い、および更なる態様では35℃以下低い、および更なる態様では20℃以下低い温度にある。このように、操作温度は、通常、約280から約480℃の、更に好ましくは約280から約380℃の、通常約300から約370℃の、特に約300から約340℃の範囲にある。操作圧力は、好ましくは少なくとも約64バール、好ましくは少なくとも約71バール、好ましくは少なくとも約81バール、および更に好ましくは少なくとも約86バール、ならびに好ましくは約350バール以下、好ましくは約300バール以下、および好ましくは約250バール以下である。好ましい態様では、操作圧力は、約64から約350バールの、好ましくは約81から約350バールの、更に好ましくは約86から約350バールの、より好ましくは約180から約250バールの、および一つの態様では、約200から約230バールの範囲にある。好ましい態様では、温度は、少なくとも280℃であり、圧力は少なくとも64バールである。近超臨界条件に関する本発明の態様では、温度および圧力は、好ましくは反応条件が水の相図(圧力(y軸)を温度(x軸)に対してプロットした)の液相領域の中に入るように選択される。
【0018】
好ましい態様では、用語「近超臨界条件」は、反応物質と溶媒が単一の均質相を構成するということを意味する。本明細書中で使用される用語「単一の均質相」とは、前駆体、酸化剤、水性溶媒、触媒、および反応生成物の各々の少なくとも80重量%、通常少なくとも90重量%、通常少なくとも95重量%、更に通常少なくとも98%、および最も通常実質的に全部が反応域中で同じ単一の均質相中にあるという意味である。
【0019】
本明細書中で使用される用語「芳香族カルボン酸」とは、カルボン酸基(−COH)が芳香族基(Ar)に直接に結合している芳香族化合物の意味である。芳香族カルボン酸は、芳香族基に直接に結合した1個以上のカルボン酸基を含有し得、本発明は、特に芳香族基に直接に結合した少なくとも2個の、特に2個のみのカルボン酸基(COH)を含有する芳香族カルボン酸に関する。アルコキシ基(特にC1−4アルコキシ基、特にメチル)などの水素およびカルボン酸基以外の1個以上の置換基も芳香族基(Ar)に直接結合し得るが、通常、芳香族基(Ar)に直接結合している置換基は、水素およびカルボン酸基からなる群から選択される。芳香族基(Ar)は、単一の芳香族環を含み得るか、または2個以上の芳香族環、例えば通常5、6、7または8個の環原子、更に通常6個の環原子を有する2個以上の縮合芳香族環を含み得る。通常、芳香族基は単環である。芳香族基は、炭素環の芳香族基であり得るか、または1個以上のヘテロ芳香族環(例えば、N、O、およびSから選択される1、2または3個のヘテロ原子(通常ヘテロ原子1個のみ)、通常Nを含有するもの)を含み得る。一つの態様では、芳香族基はフェニルである。代替の態様では、芳香族基はピリジルである。本発明を用いて合成され得る通常の芳香族カルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ニコチン酸、およびアニス酸を含む。本発明は、特に、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、およびナフタレンジカルボン酸、特にテレフタル酸の製造に関する。
【0020】
本明細書中で使用される用語「芳香族カルボン酸の前駆体」とは、超臨界条件または近超臨界条件下で酸化剤により標的芳香族カルボン酸に酸化可能である、芳香族化合物の意味である。前駆体は、芳香族基(Ar;上記に定義のもの)に結合し、カルボン酸部分に酸化可能である、少なくとも1つの置換基を有する芳香族化合物から選択される。好適な置換基は、アルキル、アルコール、アルコキシアルキル、およびアルデヒド基、特にC1−4アルキル、C1−4アルコール、(C1−4アルコキシ)C1−4アルキル、およびC1−4アルデヒド基、好ましくはアルキル基(好ましくはC1−4アルキル基、好ましくはメチル)から通常選択される。2個以上の置換基が存在する場合には、これらは同一
であるか、または異なってもよいが、好ましくは同一である。例えば、テレフタル酸の前駆体は、パラ−キシレン、4−トルアルデヒド、および4−トルイル酸から選択され得、パラ−キシレンが好ましい。ニコチン酸の前駆体は、例えば3−メチルピリジンである。前駆体が2個以上の置換基を呈する場合には、各置換基が酸化工程でカルボン酸基に酸化されることが好ましい。しかしながら、一つの態様では、前駆体は、カルボン酸基に酸化可能でなく、上記に挙げた置換基に比べて酸化に対してより抵抗性であり得る、芳香族基(Ar)に直接に結合している1個以上の置換基も呈し得、このような基は、例えばアルコキシ基(特にCアルコキシ基、特にメトキシ)を含むことができる。
【0021】
本発明の実施に好適な反応器は、連続流れ反応器である。本明細書中で使用される「連続流れ反応器」とは、反応物質が導入、混合され、バッチ形反応器と対照的に同時に生成物が連続的に取り出される反応器の意味である。例えば、本明細書で定義されている本発明の種々の態様は、これらの特定のタイプの連続流れ反応器に限定されるものでないが、反応器は、管状流れ反応器(乱流または層流のいずれかの)または連続攪拌タンク反応器(CSTR)であり得る。連続流れ反応器中で工程を行うことにより、反応に対する滞留時間は、分解生成物を著しく生成させずに、前駆体を所望の芳香族カルボン酸に転化することと両立可能となる。反応域内の反応媒体の滞留時間は、一般に、10分以下、好ましくは8分以下、好ましくは6分以下、好ましくは5分以下、好ましくは3分以下、好ましくは2分以下、好ましくは1分以下、および一つの態様では約30秒以下、例えば約0.1から20秒である。
【0022】
前駆体を芳香族カルボン酸に高効率で転化して、反応を完結させた後、反応媒体から沈澱する芳香族カルボン酸が約5000ppm以下の、好ましくは約3000ppm以下の、更に好ましくは約1500ppm以下の、更に好ましくは約1000ppm以下の、および最も好ましくは約500ppm以下の、反応の過程で中間体として生成するアルデヒド(例えば、テレフタル酸製造の場合の4−CBA)を含有するように、滞留時間を制御し得る。通常、反応後少なくとも若干のアルデヒドが存在し、通常少なくとも5ppmである。
【0023】
本発明の方法における酸化剤は、好ましくは分子状酸素、例えば空気または酸素富化空気であるが、好ましくは酸素をその主成分として含有するガス、更に好ましくは純粋酸素、または液体に溶解した酸素を含む。本発明の範囲から排除されるのではないが、空気の使用は、大きな圧縮コストを生じ、空気の窒素含有量が高いことによるオフガス取り扱い装置の大量のオフガスの処理の改善の必要があるので、好まれていない。他方、純粋酸素または酸素富化ガスは、小型の圧縮機および小型のオフガス処理装置の使用を可能とする。本発明の方法における二原子酸素の酸化剤としての使用は、二原子酸素が超臨界または近超臨界条件下で水に極めて可溶性であるので、特に有利である。
【0024】
分子状酸素の代わりに、酸化剤は、例えば1分子当り1個以上の酸素原子を含有する室温での液相化合物から誘導される原子状酸素などの化合物を含み得る。1つのこのような化合物は例えば過酸化水素であり、反応または分解により酸素源として作用する。
【0025】
本発明による酸化反応では、銅含有酸化触媒は均質であり、溶媒と前駆体も含む反応媒体に可溶性である。銅含有触媒は、場合によっては、1種以上の他の金属、特にマンガン、コバルト、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、鉄、ニッケルまたはセリウムなどの遷移金属ならびに非遷移金属を含む。一つの態様では、銅含有触媒系は、マンガン、鉄、クロム、およびコバルトから選択される1種以上の更なる金属、好ましくはコバルトを含む。疑義を回避するために、本明細書での用語「遷移金属」への言及は、d−またはf軌道の電子を授受することができ、複数の酸化状態を呈し、遷移金属のランタナイドおよびアクチナイド系列を含む金属の慣用の定義に対するものである。触媒系が銅および1種以上の更なる金属(M)を含む場合には、[M]:[Cu]モル比
は、通常約500:1以下、更に通常約100:1以下、更に通常約20:1以下、および一つの態様では約10:1以下であり、[M]は他の金属の合計モル量である。
【0026】
銅含有触媒中の銅および随意の更なる金属は、通常、1種以上の金属塩の形の金属である。好適な金属塩は、脂肪族カルボン酸溶媒中の芳香族カルボン酸前駆体の液相酸化において使用されてきた金属、例えば臭化物またはベンゾエート(または他の芳香族酸塩)のいずれかを含む。触媒が臭化物イオンを含むこと、好ましくは触媒中に存在する金属、または金属の少なくとも1種、好ましくは全部が臭化物として存在することが好ましい。触媒は、好ましくは事前に作製された形で反応に添加されるが、引き続いて一体化して、触媒を形成する反応試剤を添加することにより、系内で触媒を形成することも可能である。例えば、CuBrそれ自身を系の中に導入すること、または一体化して、反応条件下でCuBrを形成する、銅ベンゾエートおよびHBrなどの反応試剤を系の中に導入することのいずれかが可能である。
【0027】
本明細書で述べられている酸化反応における触媒としての銅それ自身の想定外の活性に加えて、本発明者らは、混合金属触媒中の銅の存在が触媒の銅と他の金属成分との間に想定外の相乗的な相互作用を生じることを見出した。想定外の相乗的な相互作用は、触媒を構成する成分に対する収率の和と比較した場合に想定されるよりも高い収率を生じることと本明細書では規定される。この想定外の相乗的な相互作用によって、反応の収率および/または選択性および/または燃焼性に悪影響を及ぼさずに、慣用のMnBr触媒に対して必要とされる触媒量を低下させることが可能となる。
【0028】
一つの態様では、触媒系はコバルトと銅を含み、この態様では、Co:Cuモル比は、好ましくは約500:1以下、好ましくは約100:1以下、好ましくは約20:1以下、および一つの態様では約10:1以下である。一つの態様では、Co:Cuモル比は、少なくとも1:1、特に約2:1と10:1との間、特に低燃焼が望ましい場合には特に約2:1と9:1との間にある。一つの態様では、触媒は銅およびコバルトを含み、少なくとも1種の金属、好ましくは各金属はその臭化物として存在する。一つの態様では、触媒系の金属は、銅およびコバルトからなる。
【0029】
この発明の一つの態様では、特に前駆体がp−キシレンである場合には、臭化水素(HBr)が反応混合物に添加される。しかし、HBrは系中で腐食を引き起こし、多過ぎる量は望ましくない。添加されるHBrの量は、好ましくはモル比[HBr]:[M](ここで、Mは触媒の金属イオンである)が少なくとも1.0:1、好ましくは少なくとも2.0:1、および通常約50.0:1以下、更に通常約25.0:1以下、更に通常約12.0:1以下、更に通常約6.0:1以下、および最も通常約4.0:1以下であるような量である。HBrを反応混合物に添加する態様では、本明細書で言及されている好ましい単一の均質相中にHBrが存在するように、特に金属含有触媒が酸化剤と接触している、いかなる場所にもHBrが存在するように添加が行われる。このように、金属含有触媒と少なくとも一部、通常実質的に全部の酸化剤との接触がHBrの存在において行われる。このように、HBrは、通常、酸化剤との接触の前に、または金属含有触媒、酸化剤/溶媒混合物、およびHBrを含むそれぞれの流れを同時に接触させる別な流れとして金属含有触媒と予備混合することにより反応域の中に導入される。別なHBr流れは、加圧され、望まれる場合には、加熱される。
【0030】
この発明の方法を実施するのに好適な反応器系は、一般に、下記に述べるように構成され得る。
【0031】
酸化反応は、反応試剤を加熱、加圧し、それに続いて加熱、加圧された反応試剤を反応域中で合体することにより開始される。これは多数の方法で行われ得、このような混和は
、反応試剤の一方または両方を超臨界または近超臨界条件の達成の前または後で水性溶媒と混和し、反応域中で一緒にするまで反応試剤を相互に単離し、維持する方法で行われる。
【0032】
本明細書で述べられるカルボン酸を製造するための連続工程では、反応器系は、酸化剤と前駆体の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部との間の接触を触媒の存在において行うように構成される。触媒が存在しない状態で前駆体と酸化剤とを接触させると、反応物の燃焼は許容不能なほど高くなる。このように、前駆体は、触媒と酸化剤の少なくとも一部の間の接触と反応器系中の同一かつ同時進行的な点で酸化剤の少なくとも一部と接触され得る。図1にこのような混合構成を示す。しかしながら、好ましくは、酸化剤は、触媒と前駆体との間の接触以降に前駆体と接触される。図2Aおよび2Bにこのような配置を示す。
【0033】
このように、態様Iでは、水性溶媒との混合の前に好適な加圧と、所望ならば酸化剤を加熱しながら、水性溶媒を加熱、加圧して、超臨界または近超臨界状態を確保した後で、酸化剤を水性溶媒と混合する。前駆体を加圧し、所望ならば、加熱する。触媒を含む成分を加圧し、所望ならば加熱する。次いで、前駆体、触媒、および酸化剤/溶媒混合物を含む別々な流れを同時に接触し得る。図1に態様Iを表す概略の流れ図を示す。
【0034】
本発明の態様IIでは、水性溶媒との混合の前に水性溶媒を好適に加圧し、所望ならば前駆体を加熱しながら加熱、加圧して、超臨界または近超臨界状態を確保した後で、前駆体を水性溶媒と混合する。一つの配置では、均質な触媒成分を加圧し、所望ならば、加熱した後、前駆体と水性溶媒との接触と同時に水性溶媒と接触させる。水性溶媒を加熱、加圧して、超臨界または近超臨界状態を確保した後で、酸化剤を加圧し、所望ならば前駆体を加熱後水性溶媒と混合し、次いで酸化剤/水性溶媒混合物を前駆体、触媒、および水性溶媒を含む混合物と接触させる。図2Aおよび2Bにこのような配置を示す。態様IIの混合構成、特に酸化剤を反応域にわたって多数の場所で導入する、図2Bの配置がこの発明において特に好ましい。この構成は、反応に対して想定外に低い燃焼を生じるということが判った。
【0035】
酸化剤と、前駆体の少なくとも一部、好ましくは実質的に全部との間の接触を触媒の存在において行うという前提ならば、反応器系の他の構成は排除されない。図3に態様IIIに対する概略の流れ図である、一つのこのような配置を示す。このように、態様IIIでは、水性溶媒との混合の前に好適な加圧と、所望ならば酸化剤を加熱しながら、水性溶媒を加熱、加圧して、超臨界または近超臨界状態を確保した後で、酸化剤を水性溶媒と混合する。触媒を加圧し、所望ならば加熱する。前駆体を加圧し、所望ならば加熱し、次いで酸化剤および触媒を含む混合物と反応域中で接触させる。
【0036】
種々の流れの接触は、装置への別々のフィードにより行われ得、フィードを合体して、好ましい単一の均質流体相を形成し、酸化剤と前駆体を反応させる。フィードを合体する装置は、例えばY、T、X型または他の構成を有し、別々のフィードを、連続流れ反応器を形成する単一の流路、またはある場合には2個以上の連続流れ反応器を形成する多数の流路で合体し得る。フィードを合体する流路は、動的または静的の内部混合要素を含む、または含まない管状構成の区分を含み得る。
【0037】
好ましい態様では、有利にはインラインまたは静的混合器を使用して、急速な混合と均質性を確保し、例えば水性溶媒の中への酸化剤の溶解および単一相の形成を促進する。
【0038】
酸化剤フィードと前駆体フィードを単一の場所で合体してもよく、または一方のフィードまたは両方のフィードの少なくとも一部を、連続的に、例えば反応器を通る流れの方向
に対して多数の注入点経由で導入し、接触を2つ以上の段階で行ってもよい。例えば、一方のフィードを連続的な流路に沿って通し、反応を漸次行わせるように、連続的流路の長さの向きに間隔を置いた多数の点で他方のフィードをその中に導入してもよい。連続的流路に沿って通されるフィードは、多数の位置で導入されるフィードと同じように水性溶媒を含み得る。
【0039】
一つの配置では、酸化剤を2個以上の場所で反応に導入する。このような場所は、便宜的には始めの場所と、前記始めの場所の下流の少なくとも1つの更なる場所において酸化剤を反応に導入するように、酸化域を通る溶媒および反応物質のバルク流れに対して配置される。
【0040】
同様に、触媒の添加を反応器を通る流れの方向に対して、反応域に沿って多数の注入点で連続的に行ってもよい。2個以上の金属含有種、例えば臭化銅および臭化コバルトを含む場合には、触媒系を、反応器の中に、および反応器中の同一の場所または異なる場所において、一緒にまたは別々にフィードしてもよい。
【0041】
1つ以上の反応域が直列または並列に存在してもよい。例えば、並列の多数の反応域を使用する場合、反応試剤および溶媒が反応域を通る通路のために別々の流れを形成してもよく、所望ならば、単一の生成物流れを形成するためにこのような多数の反応域からの生成物流れを合体してもよい。1つ以上の反応域を使用する場合には、温度などの条件は、各反応器中で同一であるかまたは異なってもよい。この反応器または各反応器は断熱的または等温的に運転され得る。反応が反応器中で進行するにしたがって、予め決められた温度プロフィールを規定するために、等温的なまたは制御された温度上昇を熱交換により維持してもよい。
【0042】
当業者に既知であり、例えば開示が参照として本明細書に組み込まれている、特許文献5で述べられている慣用の方法にしたがって、熱を受け取る流体との熱交換により、反応熱を反応から除去してもよい。便宜的には、熱を受け取る流体は水を含む。
【0043】
反応混合物は、連続流れ反応器を横断した後、および酸化工程を完了した時、反応媒体から回収される必要がある、芳香族カルボン酸の溶液を含む。この段階では、実質的に、反応で製造される芳香族カルボン酸の全量が溶液中に存在する。本発明の方法では、反応で製造される芳香族カルボン酸の通常少なくとも80重量%、更に通常少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、更に好ましくは少なくとも98重量%、および最も好ましくは実質的に全部は、反応の間溶液中に維持され、溶液が酸化反応域を出て、冷却されるまで、沈澱し始めない。溶液は、触媒および中間体(例えば、テレフタル酸の場合にはp−トルイル酸および4−CBA)などの比較的少量の副生成物、安息香酸などの脱カルボキシル化生成物、およびトリメリット酸などの分解生成物と、任意の過剰な反応試剤も含有し得る。所望の生成物、テレフタル酸などの芳香族カルボン酸は、1つ以上の段階で芳香族カルボン酸を溶液から結晶化させ、続いて1つ以上の段階で固体−液体分離することにより回収され得る。
【0044】
生成物流れを固体−液体分離にかけて、芳香族カルボン酸を回収し、母液(絶対ではないが、溶解した触媒成分を含有してもよい)を酸化反応域に再循環させる。好ましくは、酸化反応域の中に再導入する前に、母液を生成物流れとの熱交換により加熱し、生成物流れを冷却する。
【0045】
母液を反応域に再導入する前に、反応試剤のいずれかを母液再循環流れまたは別の母液再循環流れと混和してもよく、母液再循環流れ(または反応試剤との合体対象の少なくともその区分)を加熱、加圧し、超臨界/近超臨界条件を確保し、その後反応試剤またはそ
れぞれの反応試剤と混和してもよい。
【0046】
添付の図面を参照しながら本発明を例により更に説明する。
【0047】
図1を参照すると、水を加熱し、混合物を加圧し、場合によっては予熱器1中で更に加熱した後、二原子酸素を加圧後水と混合し、超臨界状態に達せしめる。加圧後前駆体および触媒を反応器2の始めまたは直前にO/水流に添加し、混合物を反応器に通す。反応器を出る時、流れを冷却し、背圧調整器3で放圧する。生成物を冷却された水流中で搬出する。
【0048】
図2Aおよび2Bを参照すると、水を加圧し、場合によっては加熱した後、加圧後の前駆体および触媒を水に添加する。混合物を、場合によっては、予熱器lA中で更に加熱して超臨界状態に達せしめる。二原子酸素ガスを加圧後水と超臨界状態で混合し、場合によっては予熱器1中で更に加熱する。図2Aでは、流れを反応器2の始めまたは直前で混合し、混合物を反応器に通す。図2Bでは、O/水流を多数の注入点で連続的に反応器に添加する。反応器を出る時、流れを冷却し、背圧調整器3で放圧する。生成物を冷却された水流中で搬出する。
【0049】
図3は、図1に対応し、どちらかの流れを前駆体と接触させる前に触媒および酸化剤を混合する。二原子酸素ガスを加圧後水と超臨界状態で混合し、場合によっては予熱器1中で更に加熱する。
【0050】
図4を参照すると、水、前駆体(例えば、テレフタル酸の製造用の工程におけるパラキシレン)、および二原子酸素ガスを含むフィード原料成分を操作圧力まで加圧し、それぞれの源10、12、および14から予熱器16を通って連続的に供給する。予熱器では、成分を、300から480℃の、更に好ましくは330から450℃の、通常約350から370℃の下限から約370から約420℃の上限の温度まで加熱し、圧力および温度を、超臨界または近超臨界条件を確保するために選択する。フィード原料成分の予熱に使用される熱の一部は、前駆体と酸化剤の間の以降の反応の過程で生じる発熱に由来するものでよい。他の源からの熱は、例えば、高圧水蒸気の形の熱でもよく、および/または加熱は水流の直接火力加熱により行われてもよい。反応の熱は、いかなる好適な方法でも、例えば反応後の流体と水などの好適な熱を受け取る流体の間の熱交換によっても回収され得る。例えば、熱を受け取る流体を、反応域を通る反応試剤および溶媒と熱交換する関係、すなわち向流および/または併流で流れるように配置してもよい。熱を受け取る流体が反応域の横断時に流れる流路は、反応域の外部であってもよく、および/または反応域を通って内部に延びてもよい。このような内部に延びる流れ通過は、例えば反応域を通る反応試剤/溶媒の流れの概略の方向と概ね平行および/または横断して延びてもよい。例えば、熱を受け取る流体を、反応器の内部内に配置された1つ以上のコイル管を通る流路により反応域を横断させてもよい。反応のエンタルピーを使用して、タービンなどの好適な電力回収系により電力を回収することができる;例えば、熱を受け取る流体、例えば水を使用して、例えば300℃/100バールのオーダーの温度および圧力で高圧飽和水蒸気を発生させ、これを外部の熱により過熱し、高効率凝縮蒸気タービンに供給して、電力を回収することができる。この方法で、反応器を最適温度に維持し、有効なエネルギー効率を達成することができる。代替のアプローチでは、反応器を断熱的条件下で操作し、反応域を通る水流の好適に高い速度を使用して、操作における反応器での温度上昇を抑制してもよい。所望ならば、両方のアプローチの組み合わせを使用してもよく、すなわち、熱を受け取る流体による反応のエンタルピーの回収が反応域を通る好適な水流量と結合する。
【0051】
フィード原料成分の加熱の後、予熱および加圧の結果として超臨界または近超臨界条件下にあり、フィード原料を可溶化する能力のある水と酸素を混合する。図4に図示する態
様では、酸素と水を予備混合器18A中で混合する。前駆体も予備混合器18B中で水と混合する。勿論、前駆体も予熱器16に入る前に水と別に予備混合可能である。
【0052】
図5A、5B、5C、5D、および6にそれぞれ図示するように、予備混合器(または各反応試剤および水の予備混合が行われる予備混合器)は、Y、LまたはT型部材、二重T型構成または静的混合器などの種々の形状をとり得る。図5Aから5Dおよび6では、Aは予備混合器への予熱された水供給を図示し、Bは反応試剤(前駆体または酸素)を図示し、Pは得られる混合流れを図示する。図5Dの二重T型構成では、2つの混合流れは、生成されるPlおよびP2である。これらを別々の連続流れ反応器に通してもよく、または単一の流れに一体化し、次いで単一の連続流れ反応器に通してもよい。当業者に既知であるように、X型部材構成を使用してもよい。いかなる好適な混合装置もこの発明で使用し得るということも認識されるであろう。上記で言及した混合装置は、連続工程装置で使用するためのものであるということが更に認識されるであろう。バッチ系では、勿論連続的な流れは存在せず、それゆえ特定な流れに関連する混合の必要条件は存在しない。連続容器反応器では、反応試剤も容器に独立にフィード可能である。
【0053】
反応域に導入する前に1種または各々の反応試剤を水と予備混合する代わりに、反応試剤と水を反応域に独立に導入し、ある形の混合配置(例えば、スタティック混合器)の助けを得て反応域内で混合し、成分の実質的にすべての混合を反応域内で起こし得るということが認識されるであろう。
【0054】
前駆体を予備混合された酸素/水流れに添加するのと同時に、反応器に入る直前または反応器(すなわち、図1に示すように)の始めに、均質触媒を源19から予備混合された酸素/水流れに溶液として添加する。
【0055】
予熱および予備混合の後、フィード原料成分を反応域20中で一体化して、反応試剤を合体した単一の均質流体相を形成する。反応域20は、一体化された反応試剤の流量と関連して、好適な反応時間をもたらして、例えば、パラ−キシレンのテレフタル酸への転化を高転化効率および低4−CBA含有量で行う、管状流れ反応器、例えば長いパイプの形の単純な混合器配置からなり得る。
【0056】
反応試剤を反応器の長さに沿った多数の点において他の反応試剤を含有する流れの中に1つの反応試剤を注入することにより、連続的に一体化し得る。反応器がパイプまたは容器Pにより構成される図7の連続流れ反応器中に多数の注入配置を行う一つの方法が示される。予備混合された酸素/水流を予備混合された前駆体/水流れに添加する態様では、予備混合された前駆体/超臨界または近超臨界水流Wをパイプまたは容器Pの上流端に供給する。水流Wは均質触媒も含有する。流れを反応器のパイプまたは容器Pに通し、パイプまたは容器Pの長さに沿って間隔を置いた一連の場所において、超臨界または近超臨界水に溶解した予備加熱された圧縮酸素を多数の注入通路AからEにより供給して、カルボン酸生成物(例えばテレフタル酸)を超臨界または近超臨界水溶液中に含む生成物流れSを生成させる。この方法で、例えば、酸化を制御し、副反応を最少とし、およびパラ−キシレン、テレフタル酸またはテレフタル酸中間体を多分燃焼させる目的で、パラ−キシレンのテレフタル酸への完全酸化を行うのに必要な酸素を漸次注入する。
【0057】
図4に戻ると、所望の度合いまで反応に追随して、予熱器16で使用するための熱を回収することができるように、熱交換流体を閉ループ24により循環する、熱交換器22超臨界または近超臨界流体を通す。カルボン酸生成物溶液を反応後に冷却するための一つのスキーム(図示せず)は、熱交換器ネットワークを使用して、流れを例えば300℃のオーダーの亜臨界温度まで冷却して、カルボン酸生成物を溶液中に保持し、それにより熱交換器表面のファウリングを低減し、続いてフラッシュ型結晶化装置(水素化による慣用の
テレフタル酸精製で使用されるものに類似)の列を使用して、冷却し、カルボン酸生成物を沈澱させることを含む。
【0058】
次いで、冷却された溶液を生成物回収部26に供給して、カルボン酸を溶液から沈澱させる。例えば開示が参照として本明細書に組み込まれている、特許文献5または英国特許出願0621970.3および0621968.7に由来する本出願人の同時継続出願で開示されている方法などの当業者に既知の生成物回収のいかなる好適な方法も使用し得る。一般に、更なる精製を不必要とさせるほど充分に純粋である、テレフタル酸などのカルボン酸生成物を製造することが望ましいが(例えば、場合によって、テレフタル酸の水溶液を酸化および/または水素化して、4−CBAをテレフタル酸またはパラ−トルイル酸に転化することにより)、本発明者らは、超臨界または近超臨界水酸化反応に引き続いてこのような精製を行う可能性を排除しない。
【0059】
芳香族カルボン酸生成物の回収に続いて、酸化反応で再使用するために、例えば新しい水および/または反応試剤と混和することにより水性母液の少なくとも一部を再循環し得る。しかしながら、触媒成分を含有する場合には、再循環される母液を、好ましくは前駆体の添加の前にはO/水流に添加しない。再循環される量は、通常、回収された母液の主な区分であり、工程中の副生成物の定常的な濃度を低下させるためにパージを行う。可能な場合には含有触媒と、含有有機物を回収するために、パージ流れを処理してもよい。
【0060】
図8を参照すると、この態様では、酸素(ライン30)、液体前駆体(例えば、テレフタル酸製造用の工程の場合には、パラ−キシレン(ライン32)、および水(ライン34)を混合ユニット36に供給する。酸素および前駆体の供給物をポンプ38、38Aにより加圧し、例えば熱交換器40、40A中で高圧水蒸気により高い温度まで加熱する。図4に示すように、反応試剤を水供給物と混合して、水/前駆体混合物を含む一方の流れと、水に溶解した酸素を含む他方の流れの2つの流れ42、44を生じさせ、これをパイプの形の連続流れ反応器46にフィードし、図示していないが例えばパイプ内のスタティック混合器により流れを混合して、反応を開始させるように、混合ユニット36は構成される。急速混合を用いて、例えばスタティック混合器または類似の器具を使用して、水中の溶液として反応器に入る直前に前駆体/水流れ42、または反応器の始めもしくは直前で流れ42および44の合併流れのいずれかに、均質触媒を添加してもよい。
【0061】
系への新しい補給水の供給を種々の点で行ってもよい。最も便利な点の一つは、主要な加圧ポンプ68の上流、例えばライン116経由の点であり、図9で下記に更に詳述する。水もポンプ38Cで加圧し、熱交換器40C中で加熱した後、または熱交換器(50、70)の前にライン35A経由でライン74の中にフィードし得る。あるいは、水をポンプ38Bで加圧し、熱交換器40B中で加熱した後、独立にライン35経由で予熱器36の中にフィードしてもよい。
【0062】
超臨界または近超臨界条件下での反応に続いて、反応生成物(プラス少量の未反応反応物質、中間体など)の溶液の形の生成物流れ48を熱交換器50および52に通すことにより冷却し、場合によってはフラッシュ容器54中で低い圧力および温度にフラッシュしてもよい。この点においてまたは生成物回収部62においてこのような段階を行う手段は、既知の装置を単一または多数含み得る。しかしながら、当業者には既知であるように、局所加熱などの手段により固体の堆積を回避するように、これを構成しなければならない。このように、反応器46からの流れを熱交換器50および52に通す場合、流れの温度をモニターし、生成物が沈澱しないように制御する;フラッシュ容器54まで沈澱を起こさせてはならない。実質的な量の蒸気と、窒素、酸素、炭素酸化物などの若干のガス状成分をライン56経由でエネルギー回収系58に供給し、一方テレフタル酸溶液をライン60経由で生成物回収部62に供給する。
【0063】
図8では、回収されるカルボン酸結晶をライン64経由で乾燥器(図示せず)またはポリエステルの直接製造に供給する。固体−液体分離を高い圧力条件下で行う場合には、好適には、好適な装置(例えば、国際特許出願番号WO−A−95/19355または米国特許第5,470,473号で開示されているような)を用いて、結晶を大気圧まで放圧し、その後乾燥装置に移送する。固体−液体分離からの母液をライン66経由で回収し、ポンプ68により再加圧し、熱交換器70、ライン72、熱交換器50、ライン74、スタートアップ/トリムヒーター76、およびライン34経由で混合器ユニット36に再循環する。このように、定常状態の操作条件下で再循環される母液を、反応器46への供給用の水源、および触媒の工程に再循環するための媒体に提供してもよい。再循環される母液が触媒、すなわち均質触媒を含有し得る場合には、混合物ユニット36は、酸化剤への触媒の添加は、好ましくは酸化剤への前駆体の添加と同時進行的であるので、再循環される母液を好ましくは酸化剤流れよりも前駆体流れと混合するように構成される。このように、再循環される母液が触媒を含有する場合には、混合物ユニットは、酸化剤流れ30がライン35からの新しい水と混合され得るように構成される。同様に、更なる触媒は、要求に応じて、ライン34中の母液、または直接的に反応域46に添加され得る。
【0064】
水が反応の過程で生成するために、系からの水パージを行う。これは、いくつかの方法で行われ得る;例えば、パージはライン78経由でまたは好適なフラッシュ凝縮物(例えば、エネルギー回収系と関連して下記に述べるように)に行われ得る。後者は、ライン66経由で回収される母液からのパージよりも有機物による汚染が若干少ないので、より有利であり得る。しかしながら、パージは、流出物処理、例えば好気性および/または嫌気性処理に通され得る。
【0065】
熱交換器70では、結晶化段階、例えば第1の段階の最高の温度および圧力の結晶化装置容器の1つ以上からフラッシュされる水蒸気からの伝熱により、母液の温度は約30から100℃増加する。この目的で使用されるフラッシュ(ライン79)は、熱交換器70に通した後、固体−液体分離により製造されるカルボン酸生成物フィルターケーキの洗浄において洗浄水として使用するための生成物回収部への凝縮物として戻され得る。熱交換器50では、母液の温度は、反応器46からの高温生成物流れ48からの伝熱の結果として、例えば約100から200℃更に増加する。この方法で、生成物流れは、母液再循環流れの温度を著しく増加させながら冷却を受ける。トリム/スタートアップヒーター76は、母液再循環流れの温度を急上昇させて、必要ならば、超臨界または近超臨界条件を確保する役割をする。工程の定常状態の操作下では、熱交換器50に通った後で母液を超臨界または近超臨界とし得るので、このような急上昇は随意であり得る。それゆえ、ヒーター76は、定常状態の条件下では必要でないかもしれず、初めは母液以外の源からの加圧された水を用いるスタートアップ操作のみのために配置されてもよい。この態様では、水溶媒は、反応試剤の一方または両方と混合する前に超臨界または近超臨界となされる。しかしながら、温度を上昇させて、所望の超臨界または近超臨界条件を確保することを、混合段階の前、間および/または後に行い得るということが理解されるであろう。
【0066】
図8の態様では、前駆体と酸素との反応の過程で発生する反応熱は、コイル管80または一連の概ね平行な管(シェル熱交換器設計における管など)などにより反応器46の内部に通される、熱を受け取る流体、好ましくは水と熱交換することにより少なくとも一部除去される。水を反応器に導く導管80の外表面においてテレフタル酸などの成分を反応媒体中で沈澱させる、局所化された冷却を回避するのに充分に高い温度まで、使用される水を加圧し、加熱する。この目的の水はエネルギー回収系58に由来するものである。このように、図8では、高い圧力および温度の水をライン82経由で熱交換器52に供給し、熱交換器50に更に通した後、生成物流れの冷却に使用する。次いで、水をライン83経由で導管80を通し、高温、高圧の水蒸気を発生させ、ライン84経由でエネルギー回
収系58にフィードする。
【0067】
エネルギー回収系58も結晶化装置列の1つ以上の段階からフラッシュされる水蒸気の供給を受ける。これはライン88により表される。この水蒸気を例えばライン82経由で伝熱導管80に供給される水の予熱に使用してもよい。エネルギー回収系58に供給される水蒸気フィードの処理から生じる凝縮物を例えば固体−液体分離で製造されるテレフタル酸のフィルターケーキの洗浄において使用するために、ライン90経由で生成物回収部に通してもよい。この点で行われるパージがライン78経由で母液から行われるパージよりも低汚染であるという利点によって、所望ならば、水パージ92をライン90から行い得る。
【0068】
図8では、反応試剤を、母液が熱交換器50中での生成物流れとの熱交換により加熱した後、再循環されている母液の中に導入するものとして示す。改善としては、生成物流れとの熱交換の上流で反応試剤を母液再循環流れと混和してもよい。両方の反応試剤を母液再循環流れとこのように混和する場合には、後者を別々な流れに分割し、それと反応試剤をそれぞれに混和して、反応のために合体するまで、反応試剤を相互に単離して維持する。反応試剤の一方または両方を反応物に徐々に導入するように、反応試剤の一方または両方とも反応媒体の流れ経路に沿った多数の注入点経由で導入することにより、図8の態様を図7に示す方法により改善し得るということも理解されるであろう。
【0069】
エネルギー回収系58において、工程エネルギーを効率化するために、種々の熱回収工程を行い得る。例えば、水を導管80に通した後で発生させた高圧水蒸気を、可燃性燃料を供給する炉中で過熱し、次いで過熱された水蒸気を1つ以上の水蒸気凝縮タービン段階に通して、電力を回収してもよい。高い熱効率の系を実施するために必要な場合には、高圧蒸気の一部を反応試剤の予熱における使用(熱交換器40、40A、および40B)または流れ82の予熱のために分岐してもよい。次いで、水を予熱して、熱交換器52経由で反応器46に再循環するために加熱段階の列にタービン段階および熱交換器40、40A、および40Bから回収される凝縮された水を通し、閉ループを形成し、補給水を必要に応じて添加する。加熱段階は、通常、熱交換器のカスケードを含み、それにより、反応器46に戻る再循環水流の温度を漸次上昇させる。いくつかの加熱段階では、熱供与流体は、異なる圧力および温度で結晶化装置列の異なる段階に由来するフラッシュ水蒸気により構成され得る。他の加熱段階では、熱供与流体は、ライン84経由で供給される高圧水蒸気の過熱に使用される炉に関連する炉スタック中で生じる燃焼ガスであり得る。
【0070】
図8の態様は、酸化剤として実質的に純粋な酸素を使用する。図9は、類似の態様を例示するが、酸化剤として圧搾空気(酸素富化されていてもよい)の供給を使用している。図9の態様は、概ね、図8のそれに類似である。概ね同一の方法で機能する部分を両方の図中で同一の参照番号により表わし、文脈により必要とされるのでなければ更に説明しない。図示するように、空気供給100を空気圧縮機102により供給する。空気を使用する結果として、実質的な量の窒素を工程の中に導入し、それゆえ、適切に取り扱わなければならない。この場合、熱交換器50および52に通した後の生成物流れを、フラッシュ容器103中で低温までフラッシュして、図8の態様におけるよりも大量の水を凝縮させ、オーバーヘッドの水含有量を低減させる。図8に関連して説明するように、生成物の沈澱がフラッシュ容器103中でのみ起こるように、熱交換器50および52を通る生成物流れの温度を制御する。オーバーヘッド流れをライン104、熱交換器106、および燃料を燃焼するヒーター108経由でガスタービン110に供給する。オーバーヘッド流れを例えば洗浄水として使用するためにライン112経由で生成物回収部62に通される更なる水を排除する一方で、母液再循環流れに伝熱するために、熱交換器106に通す。エネルギー効率の理由によってガス状オーバーヘッド流れをタービン110の中に導入する前に高温まで加熱することが望ましく、オーバーヘッド流れをヒーター108により加熱
する理由である。1つ以上のガスタービン段階が存在してもよく、その場合にはオーバーヘッド流れをこのようなタービン段階の上流で高い温度まで加熱する。ライン114は、低圧および低温でタービン110を出るオーバーヘッド流れを示す。酸化工程が例えば腐食および/または環境的な理由により望ましくない一酸化炭素などの種を生成する場合には、タービン110および/または排出部に通す前後でこのような成分を低減/除去するためにオーバーヘッド流れを処理してもよい。このような処理は、オーバーヘッド流れを接触燃焼および/または好適な試剤、例えばアルカリ性スクラブ液によるスクラビングにかけることを含み得る。空気圧縮機がタービンにより駆動されるように、タービン110を空気圧縮機と機械的に連結してもよい。
【0071】
図9の態様では、水をオーバーヘッド流れ経由で系から排出させる。生成物回収部62で例えば洗浄水として使用するために、この水の少なくとも一部を所望ならば回収し、再循環してもよい。別法または追加として、圧搾空気の使用の結果として大容積の窒素の処理において失われる水を補うために、補給水をライン116経由で生成物回収部に供給してもよい。このような補給水を予熱し、洗浄水として使用し、フラッシュ流れ(参照番号88により総括的に示される)の一部をライン116経由で熱交換器120に分岐し、フラッシュ流れから凝縮される水を洗浄水として生成物回収部62に戻すことにより、予熱を行う。
【0072】
主としてパラ−キシレンをテレフタル酸の前駆体として参照しながら、本発明を説明してきたが、対応するカルボン酸を製造するのにパラ−キシレンの代わりまたはそれに追加として他の前駆体を使用してもよく、このような前駆体は、オルト−キシレン、メタ−キシレン、4−トルアルデヒド、4−トルイル酸、および3−メチルピリジンを含むということが認識されるであろう。上記のように、本発明は、対応するアルキル芳香族化合物(好ましくは、メチル化合物)または他の前駆体からのイソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、およびナフタレンジカルボン酸などの他の芳香族カルボン酸の製造にも適用可能である。本発明を次の非限定的な実施例により更に例示する。
【実施例】
【0073】
アルキル芳香族を近超臨界または超臨界水中約330から380℃および230から250バールでOにより触媒溶液(下記に詳述される)で連続的酸化することにより、実験を実験室規模で行った。比較的希薄な溶液(0.4%−2.0%有機w/w)を使用することにより、発熱を最少とした。図1に系の基本構成を示す。図10にこれらの実験室規模の実験で使用される系の更に詳細な図示を示す。
【0074】
は、H/HO混合物を予熱器152中で400℃超で加熱することにより発生する。Hは分解して、Oを放出する。次いで、O/HO流体は、交差型部材154を通り、それ自身のポンプから注入されるアルキル芳香族および触媒溶液と接触する。反応混合物を反応器156を通す。反応器端で、反応物をポンプにより添加される苛性溶液により急冷する。排出流れ中で>12のpHを得るのに充分な苛性を使用する。このpHにおいて、製品の酸(例えばテレフタル酸)および他の中間体(例えば、p−トルイル酸、4−カルボキシベンズアルデヒド(4−CBA))がそのナトリウム塩として溶液中に存在し、溶液中でCOを炭酸ナトリウムとして捕捉する。
【0075】
図10中で示す他の配置要素は次の通りである:冷却コイル158;0.5μmフィルター159;背圧調整器160;バルブ162AからD;非リターンバルブ164AからD;圧力トランスジューサー165AからD;熱電対T(予熱器152および反応器156のアルミニウムヒーターブロックは図示していない熱電対も含む)。ポンプはGilson305、306、および303であり;背圧調整器はTescomから入手したものであった。
【0076】
最大の腐食は、O、フィード原料、および触媒溶液がぶつかる交差部材154の領域で、特に加熱されていない触媒フィード流入部パイプにおいて生じる。触媒フィードパイプおよび反応器にはハステロイを使用し、他の構成部材には316ステンレススチールを使用した。
【0077】
各実験の前に、装置を冷時に静水圧で試験し、次いで純水の流れ(5−10mL/分)により加熱した。操作温度に到達したならば、H/HOをフィードし、アルキル芳香族および触媒のポンプを通常この順序でスタートした。各実験の滞留時間を一定に保つ。滞留時間は、通常約1分までであるが、大部分の場合約0.1−20秒である。
【0078】
製品、中間体、および(非ガス状)副生成物をHewlett Packard1050を用いたHPLCにより定量した。例えば、p−キシレン(p−X)フィードを使用する場合には、通常の成分は、テレフタル酸(TA)、p−トルイル酸(p−Tol)、4−カルボキシベンズアルデヒド(4CBA)、および安息香酸(BA)であった。冷却器の排出流れを希塩酸によりpH滴定して、その炭酸ナトリウム含有量を求めることにより、芳香族の燃焼からの二酸化炭素(CO)を定量した。
【0079】
結果を供給したアルキル芳香族からの生成物の%収率、および供給され、COに転化されたアルキル芳香族の%として表に表す。中間体および副生成物を%収率または
=100Y/ΣYAr
と定義される%選択性のいずれかで表す。
式中、
は成分Xの%選択性であり、
は成分Xの%収率であり、
ΣYArは芳香族成分の収率の和である。
【0080】
実施例1−22
次の実験条件を用いて、実験を行った。
温度=ほぼ380℃;圧力=ほぼ230バール
触媒流量=4.0mL/分
p−キシレン流量=0.061mL/分流量
酸化剤(HO中のH)=8.1mL/分(水性Hとして0.276モルL−1の[O]量をもたらす(有機前駆体の芳香族酸への完全酸化に必要とされる化学量論、p−キシレンの場合には3O/有機物であるモル比の1.5モル等量))。
【0081】
データの分析
表1−4にデータを示す。慣用のマンガンまたはコバルトをベースとする触媒と比較したとき、表1中のデータは、超臨界水酸化反応における銅をベースとする触媒の収率および選択性の両方の点で驚くべき卓越性を実証する。
【0082】
表2中のデータは、銅およびコバルトを触媒として組み合わせたとき、しかるべき金属比において低燃焼性を呈する、改善された収率および選択性を示す。このデータは、収率を最大とする、組み合わせの臭化コバルト−臭化銅媒系におけるCo/Cu比の好ましい範囲を示し、約5:1と100:1(Co:Cu)の間にあることを示す。更に、約1:1と9:1の間のCo:Cu比は、驚くほど低い燃焼性を呈し、4−カルボキシアルデヒドおよびp−トルイル酸が低い。それゆえ、一つの態様では、Co:Cu比は、好ましくは約1:1から10:1の範囲にある。
【0083】
表3中のデータは、銅触媒系中の更なる金属の効果と、コバルト−銅−臭化物触媒の特
に有利な性状を実証する。
【0084】
表4中のデータは、系中の臭化水素酸の効果を実証する。この酸によって、酸を無添加の場合と比較して、卓越した選択性および燃焼と共に高収率が可能となる。実施例19−22は、充分な改善を達成するには、酸および更なる臭化物の両方の存在が必要であるということを例示する。
【0085】
実施例23−28
実験条件は、下記の事項を除いて実施例1−22におけるのと同一であった。
p−キシレンの流量=0.28mL/分
圧力=ほぼ250バール
酸化剤の流量(HO中のH)=8.1mL/分(水性Hとして1.26モルL−1の[O]量をもたらす(有機前駆体の芳香族酸への完全酸化に必要とされる化学量論、p−キシレンの場合には3O/有機物であるモル比の1.5モル等量))。
【0086】
表5中のデータは、触媒濃度の増加がテレフタル酸の収率を増加させ、二酸化炭素への燃焼を低減させるということを示す。それは、また、銅−コバルト触媒により得られる活性の増加と、燃焼の低下も更に実証する。
【0087】
実施例29−30
実験条件は、代替のフィード原料4−メチルアニソールおよびo−キシレンを濃度0.4%W/Wで使用することを除いて、実施例1−22におけるのと同一であった。
【0088】
表6aに示すように、4−メチルアニソール酸化に対する温度は亜臨界であった。過酸化水素濃度を、有機前駆体の芳香族酸への完全酸化に要求される1.5モル等量の化学量論を維持するのに必要なように調整した。これらの化学量論比は、4−メチルアニソールおよびo−キシレンのそれぞれに対して1.5および3.0モルO/モル有機物である。
【0089】
表6aおよび表6b中のデータは、4−メチルアニソールおよびo−キシレンの水をベースとする酸化に対して、銅コバルトをベースとする触媒系を使用することを例示する。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
【表5】

【0095】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カルボン酸を製造するための酸化方法であって、連続流れ反応器内で芳香族カルボン酸の1種以上の前駆体を触媒の存在において酸化剤と接触させ、このような接触が超臨界条件または近超臨界条件下で水を含む水性溶媒中で前記前駆体および酸化剤とで行われ、前記触媒が銅を含む方法。
【請求項2】
触媒が銅以外の1種以上の更なる金属を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1種以上の更なる金属が遷移金属から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1種以上の更なる金属がマンガン、コバルト、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、クロム、モリブデン、鉄、ニッケル、およびセリウムから選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
モル比[M]:[Cu]が約500:1以下であり、[M]が他の金属の合計のモル量である、請求項2から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
触媒がコバルトを更に含む、請求項2から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
銅含有触媒がコバルトを含み、Co:Cuモル比が約1:1と10:1の間にある、請求項2から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
触媒中に存在する金属イオンまたは各金属イオンがその臭化物として存在する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
触媒が銅およびコバルトを含み、前記金属の少なくとも1種が臭化物として存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
反応混合物に臭化水素を導入することを更に含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
HBrの量がモル比[HBr]:[M]は約1.0:1から約50.0:1の範囲にあり、[M]は触媒の金属イオンの合計濃度であるようなものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記1種以上の前駆体、酸化剤、および水性溶媒が反応域中で単一の均質相を構成する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記前駆体の少なくとも一部と前記酸化剤との前記接触が前記触媒と前記酸化剤の少なくとも一部との接触と同時進行的である、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
製造される芳香族カルボン酸の少なくとも98重量%が反応時に溶液中に維持される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
反応後の芳香族カルボン酸が反応媒体から沈澱し、反応の過程で中間体として製造される、重量で5000ppm以下のアルデヒドを含有する、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
反応後芳香族カルボン酸含有溶液が処理されて、芳香族カルボン酸を沈澱し、沈澱が母
液から分離される、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、トリメリット酸、ナフタレンジカルボン酸、ニコチン酸、およびアニス酸から選択される、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、およびナフタレンジカルボン酸から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記芳香族カルボン酸がテレフタル酸である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記前駆体がアルキル、アルコール、アルコキシアルキル、およびアルデヒド基から選択される少なくとも1個の置換基を有する芳香族化合物から選択される、請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記前駆体がアルキル基から選択される少なくとも1個の置換基を有する芳香族化合物から選択される、請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記前駆体がC1−4アルキル基から選択される少なくとも1個の置換基を有する芳香族化合物から選択される、請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記前駆体がパラ−キシレンである、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記水性溶媒が近超臨界条件下液相で水を含む、請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
操作温度が約280から約480℃の範囲にあり、操作圧力が約86バールから約350バールの範囲にある、請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
反応の滞留時間が10分以下である、請求項1から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項1から26のいずれかに記載の方法により製造されるときの芳香族カルボン酸。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−520795(P2011−520795A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507609(P2011−507609)
【出願日】平成21年4月29日(2009.4.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/042096
【国際公開番号】WO2009/134872
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(309028329)インビスタ テクノロジーズ エス エイ アール エル (80)
【Fターム(参考)】