説明

超臨界二酸化炭素反応方法及び装置

【課題】有機反応基質と反応剤を、選択透過膜を介して反応させて、効率的に生成物を合成することが可能な反応方法及びその装置を提供する。
【解決手段】二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応装置であって、反応剤を含む二酸化炭素の流路、有機反応基質を含む二酸化炭素の流路、及び反応剤選択透過膜を、該選択透過膜を介して反応剤が他の流路に透過可能となるように配設し、有機反応基質と該透過膜を選択的に透過した反応剤が反応する反応域に、触媒を存在させた反応装置及び反応方法。
【効果】本発明により、穏やかな反応条件下で、高収率で、生成物の選択性に優れた反応を短時間で遂行することが可能な新しい反応手法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、選択透過膜を介して有機反応基質と反応剤を反応させる反応方法、及びその反応装置に関するものであり、更に詳しくは、アルミナ壁面に担持された水素選択性のメソポーラスシリカ膜と不均一触媒を有する反応装置からなり、超臨界二酸化炭素媒体中で膜を透過した水素と有機反応基質の反応を遂行することが可能な新しい反応装置に関するものである。
【0002】
本発明では、無機質の多孔性選択透過膜と不均一触媒とを組み合わせることにより、高反応収率、高選択性を有する反応を、極めて短時間で達成することを可能とするものである。また、本発明は、コンパクトで、エネルギー消費量を最小限とすることが可能な、環境に優しい有機化合物の合成装置を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
薄膜分離技術を利用した膜反応装置は、コンパクトなデサインからなる新しいタイプの反応装置である。この装置は、作動時のエネルギー消費量を最小限にすることができる、安全に反応を遂行することができる等の優れた利点を有するものである。前世紀においては、燃料や化学物質の製造技術において、数々の大きな技術、例えば、触媒、熱統合、生成物の精製、排出物の浄化等に関する技術の進展がなされてきた。
【0004】
しかしながら、今世紀になっても、新しい製造技術はもちろん、製造プロセスや触媒技術において更なる改善が必要とされている。こうした中で、膜反応装置は、革新的な技術の一つとして、製造プロセスを更にコンパクト化し、その構築に必要とする資金を最小限に抑えることに大きく貢献する可能を有するものである。
【0005】
膜反応装置に係る技術は、平衡現象により制約されている従来反応の反応率を改善し、反応をコントロールすることを容易とし、エネルギー消費量を減少し、更に高温度下での反応における原料/生成物の分離に要する費用を低減することを可能とする。膜反応装置の基本的な原理は、有機反応基質又は反応剤が膜を通して透過、拡散する現象を利用して、それらを反応域に選択的に供給することにある。それにより、膜反応技術では、望ましくない反応の防止や、触媒への触媒毒の吸着等を阻止することが可能となる。
【0006】
一方、超臨界二酸化炭素(scCO)を反応媒体とすることにより、高密度ガスに独特な特性を利用した画期的な反応プロセスを構築することができる。最も重要な超臨界二酸化炭素の特性として、超臨界二酸化炭素が他のガス状物質を完全に溶解可能であることが挙げられる。ほとんどの液体が、ある限られた量のガス状物質を溶解することしかできないのに対し、超臨界二酸化炭素は、水素ガス、酸素ガスのような他のガス状物質を高濃度に溶解し、有機反応基質と共に単一相を形成することができる特性を示す。
【0007】
したがって、超臨界二酸化炭素中での反応は、溶液中での反応に比較して、反応速度が極めて速くなる。このことは、大量の物質移動を要する反応においては、特に重要な要素となる。更に、超臨界状態において、部分モル体積が負となることを反応の速度定数を制御することに利用できる。この特性を、超臨界二酸化炭素において見出された高度な物質移動速度と組み合わせることにより、超臨界二酸化炭素を媒体とする反応が、触媒反応において多くの利点をもたらす。
【0008】
これまで、超臨界二酸化炭素を利用した膜反応装置には、主に、均一触媒反応が用いられてきた。既存の技術のほとんどが、有機反応基質と反応生成物との分離に膜を利用するものであり、そのために、小孔径を有し、超臨界二酸化炭素中で使用可能な分離膜が開発されてきた。これらのナノ分離膜は、簡単な有機化合物分子と、金属錯体の分子大きさの差に依存して分離作用を発揮するものであり、溶媒と反応生成物分子は通過させるが、分子の大きい触媒は通過させないで保持する。
【0009】
したがって、超臨界二酸化炭素と、反応生成物は膜を通して移送されるが、触媒は反応器中に残存することになる。しかしながら、この方法では、例えば、超臨界二酸化炭素への触媒の溶解度が低い等のいくつかの欠点を有している。触媒の超臨界二酸化炭素への溶解度を上げるには、低凝集エネルギー密度を有するペルフルオロアルキル基等の高価なリガンドを触媒に結合することが必要となる。こうした問題を解決するために、本発明では、不均一触媒を使用した超臨界二酸化炭素による新しい膜反応に好適な反応装置を開発した。
【0010】
従来、二酸化炭素を媒体とした反応装置には、有機質膜が主に使用されてきた。しかしながら、有機質膜を二酸化炭素媒体中で使用すると、膨潤や安定性の面においていくつかの欠点を示す。そのため、数多くの異なるタイプの無機質膜が開発され、それらを、二酸化炭素を使用した反応装置において利用することが可能となっている。
【0011】
それらの無機質膜は、有機質膜が有する物理的、化学的特性を全く、又は、ほんの部分的にしか示さないばかりか、膨潤やコンパクト化に対する問題がなく、構造安定性に優れた膜である。更に、無機質のシリカ膜は、二酸化炭素よりも、水素をより高度に透過する特性を有している。しかしながら、無機質膜を、二酸化炭素を媒体とする反応装置へ適用することについては充分な研究がなされていないのが現状である。
【0012】
超臨界二酸化炭素を媒体とする不均一触媒反応により化合物を合成する従来技術としては、例えば、炭素−炭素二重結合、又は炭素−炭素三重結合を含有する化合物と、水素と、一酸化炭素とを、超臨界二酸化炭素中、第VIII族遷移金属触媒前駆体とホスファイトリガンドとの存在下、ヒドロカルボニル化反応に付したヒドロカルボニル化方法が報告されている(特許文献1参照)。
【0013】
また、反応媒体として超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素又は二酸化炭素を用い、触媒に無機酸化物及び/又は貴金属を用いて、オレフィン系炭化水素を、酸素、空気又は酸素を含むガスで酸化することによりカルボニル化合物、エポキシド等を製造する、転化率や反応生成物の収率を向上させたオレフィン系炭化水素の酸化方法が報告されている(特許文献2参照)。
【0014】
また、超臨界又は近臨界条件下での脂肪族又は芳香族基質の選択的水素化方法において、水素化が超臨界又は近臨界の反応媒質を含有する連続流反応器において不均一触媒を用いて遂行され、その生成物製造の選択性が、温度、圧力、触媒及び流量の一つ又はそれ以上を変えることにより達成される超臨界水素化方法が報告されている(特許文献3参照)。しかしながら、超臨界二酸化炭素を媒体として、不均一触媒の存在下に化合物を合成する反応において、膜反応装置を使用した従来例は見当たらない。
【0015】
【特許文献1】特開2000−53606号公報
【特許文献2】特開昭2005−170856号公報
【特許文献3】特表2000−508653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、有機反応基質と反応剤を反応させて、効率的に生成物を合成することが可能な有機化合物の合成技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、二酸化炭素を媒体とし、選択透過膜を介して有機反応基質と反応剤を反応させることにより、短時間で、高収率で反応を遂行することを可能とする新しい合成技術を見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0017】
本発明は、二酸化炭素を媒体とし、選択透過膜を介して有機反応基質と反応剤を反応させることにより、短時間で、高収率で反応を遂行することができる有機化合物の合成方法及びその装置を提供すること、また、本発明は、超臨界状態の二酸化炭素媒体中で作動可能な膜反応装置であって、穏やかな反応条件下で、高い反応速度を達成することが可能であり、また、目的とする化合物の選択性に優れた反応を短時間で進行させることが可能な反応装置を提供すること、また、本発明は、有機反応基質と反応性ガス、例えば、水素、酸素との反応により、効率的な酸化、還元、水素添加反応等を行うことができる反応方法及び装置を提供すること、を目的とするものである。
【0018】
また、本発明は、超臨界二酸化炭素媒体中で、不均一触媒の存在下に、膨潤、安定性に問題のない無機選択透過膜を利用して反応を行うための新規な反応装置を提供すること、また、本発明は、アルミナ表面に支持されたメソポーラスシリカ膜を利用した膜反応装置を提供すること、更に、本発明は、触媒、及び消費エネルギーに係る費用を最小限度に押さえることが可能な環境に優しい反応装置を提供すること、を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応装置であって、反応剤を含む二酸化炭素の流路(第1流路)、有機反応基質を含む二酸化炭素の流路(第2流路)、及び反応剤選択透過膜を有し、第1流路と第2流路が、上記第1流路の反応剤が透過膜を介して他の流路に選択的に透過可能となるように配設され、第1流路の有機反応基質と上記透過膜を透過した反応剤が反応する反応域に、触媒が存在していることを特徴とする反応装置。
(2)触媒が、不均一触媒である前記(1)に記載の反応装置。
(3)反応剤選択透過膜が、シリカ膜、メソポーラスシリカ膜、Pd膜、ベントナイト膜、アルミナ膜、Pdイオン交換膜、銅−LaNi膜、アルミノシリケート膜、ゼオライト膜、パラジウム合金膜、ペロブスカイト膜、又はCeO/ZrO被覆TiO膜である前記(1)に記載の反応装置。
(4)反応剤選択透過膜が、多孔質部材により支持されている前記(1)に記載の反応装置。
(5)反応剤が、水素、又は酸素である前記(1)に記載の反応装置。
(6)上記第1流路及び第2流路が、多重管構造の内管ないし外管を形成している前記(1)に記載の反応装置。
(7)二酸化炭素が、4〜20MPaの圧力範囲、及び室温〜100℃の温度範囲で使用される前記(1)に記載の反応装置。
(8)二酸化炭素が、亜臨界ないし超臨界状態の二酸化炭素である前記(8)に記載の反応装置。
(9)前記(1)から(8)のいずれかに記載の反応装置を使用して、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応方法であって、第1流路を通して投入された二酸化炭素媒体に含まれる反応剤を、反応剤選択透過膜を介して選択的に透過させて反応域に導入し、該反応域で、透過した反応剤と第2流路を通して投入された有機反応基質とを、触媒の存在下に反応させることを特徴とする反応方法。
(10)反応剤として、水素、又は酸素を用いる前記(9)に記載の反応方法。
(11)亜臨界ないし超臨界状態の二酸化炭素を媒体として有機反応基質と反応剤を反応させる前記(9)に記載の反応方法。
【0020】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応装置であって、反応剤を含む二酸化炭素の流路(第1流路)、有機反応基質を含む二酸化炭素の流路(第2流路)、及び反応剤選択透過膜を有し、第1流路と第2流路が、上記第1流路の反応剤が透過膜を介して他の流路に選択的に透過可能となるように配設され、第1流路の有機反応基質と上記透過膜を透過した反応剤が反応する反応域に、触媒が存在していることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明は、上記の反応装置を使用して、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応方法であって、第1流路を通して投入された二酸化炭素媒体に含まれる反応剤を、反応剤選択透過膜を介して選択的に透過させて反応域に導入し、該反応域で、透過した反応剤と第2流路を通して投入された有機反応基質とを、触媒の存在下に反応させることを特徴とするものである。
【0022】
本発明では、反応剤として、水素、酸素を使用し、反応剤選択透過膜として、シリカ膜、メソポーラスシリカ膜、Pd膜、ベントナイト膜、アルミナ膜、Pdイオン交換膜、銅−LaNi膜、アルミノシリケート膜、ゼオライト膜、パラジウム合金膜、ペロブスカイト膜、CeO/ZrO被覆TiO膜を使用する。
【0023】
また、触媒として、不均一触媒を使用し、不均一触媒が、反応域から流出しないように保持されている。また、二酸化炭素は、4〜20MPaの圧力、室温〜100℃の温度範囲にあり、好ましくは、超臨界ないし亜臨界状態であることを好ましい実施態様としている。
【0024】
また、本発明では、超臨界状態の二酸化炭素を媒体中で作動可能な反応装置を用いて、穏やかな反応条件下で、高反応速度の反応が可能であり、目的とする生成物の選択性に優れた反応を短時間で実行することが可能である。
【0025】
本発明では、二酸化炭素、例えば、超臨界ないし亜臨界二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、選択透過膜を透過した反応剤と有機反応基質から、例えば、酸化、還元等の反応により所望の有機化合物に変換する。反応媒体としては、二酸化炭素が用いられるが、具体的には、例えば、圧力4〜20MPa、温度35〜100℃の加圧二酸化炭素であり、好適には、超臨界ないし亜臨界状態の二酸化炭素が用いられる。
【0026】
二酸化炭素は、気体、液体、固体の三態があり、更に、臨界温度(Tc=31.1℃)を超え、且つ臨界圧力(Pc=7.38MPa)を超えると、圧力をかけても凝縮せず、気体と液体との境界がなくなり、単一の流体相が出現し、この状態が超臨界状態と定義される。
【0027】
こうした臨界点以上の超臨界状態ないし、臨界状態に近い亜臨界状態の二酸化炭素は、気体や液体の通常とは異なる特性を示す。すなわち、超臨界状態ないし亜臨界状態の二酸化炭素は、その密度は液体に近く、粘度は気体に近く、熱伝導率と拡散係数は基体と液体との中間的特性を示す。また、ガスや有機化合物の溶解性が増加するため、化学反応の進行に特異な影響を与える。
【0028】
本発明で用いる、超臨界状態等の高圧二酸化炭素の温度、圧力条件は、例えば、高圧ボンベから供給される際の圧力調整、反応器の外部からヒーターや加熱水槽等による加熱、あるいは反応器内での内熱方式によって制御される。流通式の超臨界装置では、反応容器中の圧力は、圧力弁により簡便に制御することができる。上記反応媒体として用いられる二酸化炭素は、特に制限はなく、例えば、市販の加圧二酸化炭素を用いることができる。
【0029】
本発明において、反応剤としては、特に限定されるものではなく、二酸化炭素に溶解し、選択性透過膜を透過して、有機反応基質と反応する特性を有するものであれば何れの物質であっても用いられる。反応剤としては、例えば、気体としては、水素ガス、酸素ガスが例示される。有機反応基質としては、二酸化炭素に溶解し、選択透過膜を透過した反応剤と二酸化媒体中で反応する物質であれば何の制限もなく、何れの物質であっても用いられるが、例えば、ケイ皮アルデヒド、シトラール、クロトンアルデヒドが例示される。
【0030】
本発明は、上述の反応装置を用いることが重要であり、本発明で行われる反応としては、上記有機反応基質及び反応剤の組み合わせに応じた、様々な反応が可能であり、その反応に応じて各種化合物が生成されるものであって特に制限はない。本発明では、例えば、水素を反応剤とすると、還元反応、水素添加反応が進行し、酸素を反応剤とすると、酸化反応が進行する。更に具体的には、シンナムアルデヒドを有機反応基質とし、水素を反応剤として反応させると、シンナムアルデヒドが水素添加反応されたヒドロシンナムアルデヒド、及びアルデヒド基が還元されてアルコール基となったヒドロシンナミルアルコールが生成する。
【0031】
本発明で使用する透過膜は、反応剤を選択的に透過する特性を有していることが必要であり、好適には、多孔性無機質膜が使用されるが、反応剤を選択的に透過する特性を有する膜であれば何れのものでも使用できる。無機質膜の多孔度は、好適な選択特性を達成するための重要な要因である。膜の多孔度は、均一型であっても、傾斜型であってもよい。孔の網状構造が全体に亘って同質であるときに膜の多孔度が均一型であるといい、多孔度が網状構造の全体に亘って均質でないとき、傾斜型であるという。本発明では、多孔度が均質であると、水素を一様に分散させるために好適である。
【0032】
反応剤選択透過膜としては、例えば、シリカ膜、メソポーラスシリカ膜、Pd膜、ベントナイト膜、アルミナ膜、Pdイオン交換膜、銅−LaNi膜、アルミノシリケート膜、ゼオライト膜、パラジウム合金膜、ペロブスカイト膜、CeO/ZrO被覆TiO膜が例示される。これらの中で、例えば、水素を反応剤とする場合は、その選択透過膜として、シリカ膜、Pd膜、Pdイオン化膜が例示され、酸素を反応剤とする場合は、その選択透過膜として、ペロブスカイト膜、CeO/ZrO被覆TiO膜が例示される。
【0033】
これらの選択透過膜は、多孔質セラミックス材料等の部材表面に形成されていてもよく、例えば、アルミナ多孔管の内表面に選択透過膜を形成したアルミナ管を、反応剤を含有する二酸化炭素の通路の一部として使用し、その部分を透過してきた反応剤が有機反応基質と反応する。本発明の反応は、反応が穏和な条件で行われるので、膜の熱安定性については、大きな問題となることは少ない。
【0034】
本発明では、好適には、不均一触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤の反応が行われる。触媒としては、好適には、反応に選択性のある触媒が選定されるが、触媒の材質に特に制限はなく、既知の反応触媒から適宜選択してもよい。具体的には、例えば、選択性のある水素化触媒として、少なくとも1の金属、好適には、貴金属、遷移金属からなる触媒が反応装置の触媒チャンバー中に導入される。他に、不飽和カルボニル化合物の選択的水素化反応では、第VIII属の金属触媒が例示される。
【0035】
触媒は、焼成した粉末状の形態とすることが好適であり、また、担体に担持して用いられるが、担体としては、カーボン、ゼオライト、シリカ、及びメソポーラス物質等が好適である。触媒は、反応開始前に予め活性化しておく必要があり、活性化は、水素による還元反応、又は特にメソポーラス物質では焼成によりなされ、このとき金属触媒が還元される。また、一旦使用したことにより不活性化した触媒は、それぞれの触媒において既に確立されている賦活技術により再生される。
【0036】
これらの触媒は、有機反応基質と選択的に透過した反応剤が接触し、反応が進行する反応域に導入すればよい。導入された触媒は、反応時間が経過するにともない、例えば、超臨界二酸化炭素の流れに伴って反応域から流出し、反応に関与することができなくなるため、触媒を反応域に保持して反応を遂行することが好適である。
【0037】
そのためには、反応域を、例えば、有機反応基質及び二酸化炭素は自由に通過できるが、触媒が通過できない特性を有する多孔質部材により他の領域から隔離することにより、反応域内の触媒量が減少することなく反応を長期にわたり持続させることができる。具体的には、例えば、セラミックス製の多孔ネット等により反応域を他の領域から隔離することが好適である。また、例えば、触媒を強固に担持した多孔質体を反応域内に設置することにより触媒を長期間にわたって保持することが可能となる。
【0038】
本発明では、反応生成物、有機反応基質、及び反応剤の特性に応じてその合成条件を適宜調整して効率的な反応を実施することができる。例えば、二酸化炭素の温度及び圧力、有機反応基質及び反応剤の濃度又は圧力、流速、選択性透過膜の選択率及びその透過速度、反応時間等を適宜制御することにより、効率よく、高選択性で、副反応の生起を防ぎながら反応を進行させることができる。
【0039】
本発明の流通式反応装置としては、例えば、反応温度室温〜100℃、圧力4〜20MPaの範囲にある反応条件に、好適には、数秒以下の時間内で到達することが可能な機構を有する流通式高圧反応装置が用いられる。本発明における設定反応条件に至る経過時間は、例えば、バッチ方式反応装置(1〜5時間)及び従来の連続式反応装置(10〜120秒)と比べて、極端に短縮される。これにより、反応収率、及び生成物の選択性を大きく高めることができる。
【0040】
本発明では、上記した反応条件を採用することにより、例えば、10分から6時間の時間で、有機反応基質と反応剤を反応させることができる。流通式反応装置を使用した場合には、反応時間は、反応温度、反応圧力、二酸化炭素の流速、反応器の形状、反応器の内径、反応器の流通経路の長さ等を制御することにより反応時間を制御することができる。
【0041】
より好適な反応時間としては、1〜3時間の値を選択でき、最も好適には2時間の範囲の値を選択できるがこれらの値に限定されるものではない。反応条件を適切な値に設定するにより、その設定反応条件に到達するまでの経過時間を短縮でき、複雑な反応が生じにくくなり、シャープな反応が可能となる。すなわち、本発明では、目的の化合物を高選択率で合成することが可能となる。また、本発明では、短時間のうちに大量の生成物を得ることが可能であり、生産効率の高い化合物の製造方法を構築し、提供することができる。
【0042】
生成した反応混合物には、高転化率で目的化合物が含まれるが、未反応の原料又は副生成物等の不純物が含まれることがあるので、これらを精製分離することにより所望とする化合物を高純度で得ることができる。分離精製の方法は、特に限定されるものではなく、工業的に通常用いられている、蒸留抽出、イオン交換処理等が適用される。
【0043】
次に、水素ガスを反応剤として、超臨界二酸化炭素(scCO)を媒体とした反応装置を例に、本発明の装置について詳細に説明する。図1は、本発明の、新規に開発された反応装置の構造を示す概略図である。反応器は恒温水浴槽中に設置され、反応器の端部Dには、HとscCOを反応器中に導入するためのシリンジポンプが連結されている。
【0044】
有機反応基質とscCOを、HPCLポンプにより、混合機C中で混合した後、流路Gを通って反応器に供給する。反応器の他端部Eには、二つの圧力計I1及びI2が設けられ、H+scCOの圧力とそれらの反応遂行時の圧力差を個別にチェックする。反応終了後、反応生成物は背圧制御器Jを通って減圧され、コールドトラップに回収される。未反応のH及びscCOは、他の経路Kを通って排出される。
【0045】
図2(a)と図2(b)は、それぞれ、反応器、及び膜ユニット部の拡大破断面を示す。反応器は、例えば、(i)外管Aと(ii)内管Bの二重管構造からなる。外管Aは、径2.55cmのステンレス鋼SUS316管から作製され、内管Bは、径0.9cm、長さ30cmの管から作製されている。外管Aには触媒導入口Cを有すると共に、入口及び出口以外から、反応ガスが漏れ出さないように強固に封鎖されている。内管Bは、B1、B2、及びB3の3部分からなり、B1とB3は、ステンレス鋼SUS316から作製されている。
【0046】
中央部分B2は、Alで支持された水素選択透過シリカ膜をその内面に有した管からなっている。有機反応基質とシリカ膜から選択的に透過したHが接触する部分が反応域となり、この領域に触媒が導入される。反応域内に触媒が効率的に保持されるように、触媒粒子が通過できないAl製のネット等によって、反応域を他の部分から隔離し、触媒の流出を阻止している。水素選択透過メソポーラスシリカ膜は、3ブロックコポリマーを使用した室温法によりAl管の内壁面に形成されている。
【0047】
本発明の反応方法又は反応装置の操作処理条件、例えば、反応温度、CO圧力、H圧力、有機反応基質濃度、有機反応基質とCO混合物の組成比、それらの流速等、の許容範囲は広いので、反応の遂行は容易である。本発明の反応を行うための一般的な反応条件を以下に示すが、これらの反応条件は、本発明の高圧反応装置において、scCO媒体中で、不均一触媒を使用した場合の水素の選択的拡散と水素化反応に適したものである。
1)二酸化炭素圧力:4〜20MPa、好適には、6〜16MPa、更に好適には、6〜12MPa
2)水素ガス圧力:0.1〜4MPa、更に好適には、0.2〜2MPa
3)反応温度:室温〜100℃、更に好適には、35〜70℃
4)有機反応基質とscCOの混合物の流速:水素化される有機反応基質流速0・01〜2.00ml/分、更に好適には0.05〜0.1ml/分
【0048】
本発明は、scCO中で、不均一触媒及び膜の選択透過性を利用した反応システムであり、選択透過膜を介した反応、及びscCOを媒体とした反応、の両者の利点を併せ持つコンパクトな反応システムを展開し、開発したものである。本発明は、例えば、メソポーラス触媒の存在下で、シンナムアルデヒドの水素化反応を、全圧10MPa、反応温度50℃で行うことが可能である。
【0049】
本発明で用いたシリカ透過膜は、従来文献に記載された膜と比較して、明らかな利点を有している。その中で、大きな利点のひとつは、透過性の優れた膜を通して二酸化炭素が流動するために、高い圧力差を必ずしも必要としないことである。また、本発明の反応方法は、scCO中で、不均一触媒を使用した反応の様々な可能性を導き出すことを可能とするものである。
【0050】
本発明では、scCO中での膜反応装置を使用することにより、更に高い触媒活性と高い効率等の利点を得ることができる。また、この装置は、反応混合物から目的とする反応生成物を、何ら困難に遭遇することなく、連続して分離することができる。また、本発明の反応装置は、単に、膜部分のみを酸素選択透過膜に交換することにより、scCO中で有機反応基質の酸化反応に使用することができる。更に、本発明の反応プロセスにより、環境に優しく、広範囲にわたる様々な反応条件下で各種の反応を実行することが可能である。
【0051】
反応剤選択透過膜は、H等の反応剤を触媒床へと選択的に大量に透過移動させる役割を果たす。本発明では、scCOを媒体とすることにより、物質移動の制限がないという超臨界媒体の特性を発揮して、触媒床への水素ガスの選択的拡散、移動を容易とすることから、Hの供給が制限されることがない。このように、本発明により高度の反応選択性、及び効率的な反応性を得ることが容易となる。
【発明の効果】
【0052】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)二酸化炭素を媒体とし、選択透過膜を介して有機反応基質と反応剤を反応させることにより、短時間で、高収率で反応を遂行することができる有機化合物の合成方法及びその装置を提供することができる。
(2)穏やかな反応条件下で、高い反応速度を達成し、目的とする生成物の選択性に優れた反応を遂行できる反応方法及びその装置を提供することができる。
(3)反応剤を、水素、酸素、等の反応性ガスから選定することにより、効率的に酸化、還元、水素添加反応を遂行することができる。
(4)超臨界二酸化炭素媒体中で、常に、十分な量の不均一触媒を存在させて反応を遂行させることができ、また、膨潤、安定性に問題のない無機選択透過膜を利用した反応装置を提供することができる。
(5)超臨界二酸化炭素媒体と選択透過膜を使用して、有機基質や反応剤の溶解性や、平衡定数に影響されないで、反応を容易に制御することができる反応装置を提供することができる。
(6)触媒の取扱いや、装置の作動に要するエネルギー等に要する出費を最小に押さえることが可能な、安全性に優れ、環境に優しいコンパクトな反応装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
本実施例では、シンナムアルデヒド(α,−β不飽和アルデヒド)の選択的水素化反応を、超臨界二酸化炭素を媒体として行った。本実施例で設定した反応条件の下で推定される反応過程を、次の化学式(化1)に示した。
【0055】
【化1】

【0056】
本実施例で使用した高圧反応装置の構造の概要を図1に示す。反応器は恒温水浴槽中に設置され、反応器の端部Dには、HとscCOを反応器中に導入するためのシリンジポンプ(A:49MPaまでの耐圧性を有する、ISCOモデル260D)が連結されている。有機反応基質とscCOを、HPCLポンプ(B:JASCO880PUモデル)により送液し、混合機C中で混合した後に、流路Gを通って反応器に供給した。反応器の他端部Eには、二つの圧力計I1及びI2が設けられ、H+scCOの圧力と、反応遂行時の圧力差を個別にチェックする。反応終了後、反応生成物は背圧制御器Jにより減圧し、コールドトラップに回収され、未反応のH及びscCOは、他の流路Kより排出された。
【0057】
図2(a)と図2(b)に、それぞれ、反応器、及び膜ユニット部の拡大破断面を示す。反応器は、(i)外管Aと(ii)内管Bの二重構造からなる。外管Aが、径2.55cmのステンレス鋼SUS316管から作製され、内管Bが、径0.9cm、長さ30cmの管から作製されている。外管Aには触媒導入口Cを設けると共に、入口及び出口以外から、反応ガスが漏れ出さないように強固に密封されている。内管Bは、B1、B2、及びB3の3部分からなり、B1及びB3は、ステンレス鋼SUS316から作製されている。
【0058】
中央部分B2は、Alに支持された水素選択透過シリカ膜をその内面に有する管から構成されている。また、反応基質と選択透過した反応剤が反応する反応域に触媒が保持されるように、scCOは通過できるが触媒粒子は通過できないAlネットによって、反応域は他の部分から隔離されている。水素選択透過メソポーラスシリカ膜は、3ブロックコポリマーを使用した室温法によりAl管の内壁面に形成されている。
【0059】
本実施例の反応装置により反応を行うにあたり、まず、2.13gの焼成Pt−MCM−41(〜1wt%のPt)触媒を、図2aの触媒導入口Cより導入した。反応器を、50℃の水浴中に90分間設置して、反応温度を一定に保持した。反応剤として、Hガス及びシンナムアルデヒド(有機反応基質)を導入する前に、反応器の漏れを注意深く検査して、反応器の安全性を確認した。
【0060】
反応を開始するにあたり、シリンジポンプにより1MPaのHを、シリカ膜をその内壁に有するAl管内に導入し、次いで、9MPaのCOを2.00ml/分の流速で同管内に導入した。これらを導入している間、反応器内の全圧力を図1に示した圧力検出器I1によりモニターした。次に、有機反応基質と二酸化炭素を混合し、0.1ml/分の定常流速で触媒を通過させた。背圧制御器を使用して、未反応のガスと反応生成物を分離して、反応生成物をクールトラップ中に回収した。反応生成物は、キャピラリーカラムと水素炎イオン化検知器を有するGC(HP6890)により分析した。その結果を表1に示す。
【0061】
上記反応により、2分間という非常に短時間で、シンナムアルデヒドから、ハイドロシンナムアルデヒドとハイドロシンナミルアルコールが、それぞれ75%、25%得られた。この結果、Hは、シリカ膜に浸透し、通過して触媒を活性化し、次いで、シンナムアルデヒドと媒体(CO)と触媒存在下に接触して、シンナムアルデヒドは水素化反応を受けたことが分かる。
【0062】
この反応方法に適切な触媒、例えば、Pt−MCM−41を選択し、使用することにより、反応を、高速に、選択的に進行させることができた。水素選択透過多孔質のシリカ膜を使用することにより、反応に必要とされるHが触媒に分配されるが、この膜による選択的拡散現象により反応が制御されて、ハイドロシンナムアルデヒドとハイドロシンナミルアルコールが高選択性で得られた。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
以上詳述したように、本発明は、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、選択透過膜を介して有機反応基質と反応剤を反応させる反応方法、及びその反応装置に係るものであり、本発明により、選択透過膜を利用した膜反応方式と、超臨界二酸化炭素を媒体とする反応方式の優れた特徴を併せ持つ、新しい反応方法及びその装置を提供することが可能である。本発明により、短時間で、高収率で反応を遂行することができ、しかも反応生成物の選択性に優れた有機化合物の合成方法及びその装置を提供することができる。
【0065】
本発明は、医薬、農薬、染料、樹脂等の広範囲にわたる有機工業製品の出発原料又は中間体として重要な化合物を合成する効率的で簡便な反応プロセスを提供するものであり、有機反応基質、反応剤、及び反応方式に制限されるとなく、各種の有機化合物の合成に広く適用可能である。本発明により、例えば、オレフィン系炭化水素を酸化してカルボニル化合物、及びエポキシドを製造する酸化反応、不飽和化合物の水素添加反応、オレフィン系炭化水素のヒドロカルボニル反応、アルデヒドのアルコールへの還元反応等の各種の酸化、還元反応が効率よく実現することができる。また、本発明により、コンパクトで、エネルギー消費量を最小限とすることが可能であり、しかも環境に優しい有機化合物の合成反応及び装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の膜反応装置の構造の概要を示す。
【図2】反応器を拡大して詳細な内部構造を示す。
【符号の説明】
【0067】
(図1の符号)
A:シリンジポンプ
B:HPLCポンプ
C:混合機
D:反応器入口端部
E:反応器出口端部
G:有機反応基質と二酸化炭素の流路
H:反応生成物と二酸化炭素の流路
I1、I2:圧力計
J:背圧制御器
K:未反応HとCOの排出口
V1、V2:圧力調節器
(図2の符号)
A:反応器外管
B(B1、B2、B3):反応器内管
B3:膜ユニット
C:触媒導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応装置であって、反応剤を含む二酸化炭素の流路(第1流路)、有機反応基質を含む二酸化炭素の流路(第2流路)、及び反応剤選択透過膜を有し、第1流路と第2流路が、上記第1流路の反応剤が透過膜を介して他の流路に選択的に透過可能となるように配設され、第1流路の有機反応基質と上記透過膜を透過した反応剤が反応する反応域に、触媒が存在していることを特徴とする反応装置。
【請求項2】
触媒が、不均一触媒である請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
反応剤選択透過膜が、シリカ膜、メソポーラスシリカ膜、Pd膜、ベントナイト膜、アルミナ膜、Pdイオン交換膜、銅−LaNi膜、アルミノシリケート膜、ゼオライト膜、パラジウム合金膜、ペロブスカイト膜、又はCeO/ZrO被覆TiO膜である請求項1に記載の反応装置。
【請求項4】
反応剤選択透過膜が、多孔質部材により支持されている請求項1に記載の反応装置。
【請求項5】
反応剤が、水素、又は酸素である請求項1に記載の反応装置。
【請求項6】
上記第1流路及び第2流路が、多重管構造の内管ないし外管を形成している請求項1に記載の反応装置。
【請求項7】
二酸化炭素が、4〜20MPaの圧力範囲、及び室温〜100℃の温度範囲で使用される請求項1に記載の反応装置。
【請求項8】
二酸化炭素が、亜臨界ないし超臨界状態の二酸化炭素である請求項8に記載の反応装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の反応装置を使用して、二酸化炭素を媒体として、触媒の存在下に、有機反応基質と反応剤を反応させる反応方法であって、第1流路を通して投入された二酸化炭素媒体に含まれる反応剤を、反応剤選択透過膜を介して選択的に透過させて反応域に導入し、該反応域で、透過した反応剤と第2流路を通して投入された有機反応基質とを、触媒の存在下に反応させることを特徴とする反応方法。
【請求項10】
反応剤として、水素、又は酸素を用いる請求項9に記載の反応方法。
【請求項11】
亜臨界ないし超臨界状態の二酸化炭素を媒体として有機反応基質と反応剤を反応させる請求項9に記載の反応方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−173596(P2008−173596A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10912(P2007−10912)
【出願日】平成19年1月21日(2007.1.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】