説明

超電導スイッチ,超電導磁石、およびMRI

【課題】超電導スイッチの構造強度を保ちつつ、超電導スイッチのON状態(超電導状態)/OFF状態(常電導状態)を切り替える際の、超電導膜とヒータとの間の熱効率が高い超電導スイッチを提供する。
【解決手段】超電導スイッチ1は、基板7と、通電により発熱するヒータ6と、導電性膜4と、前記導電性膜4に蒸着されたMgB2膜3とを備えている。この基板7の一の面に前記ヒータ6,前記導電性膜4,前記MgB2膜3の順で積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
超電導スイッチ,超電導磁石,MRIに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルと超電導スイッチにて超電導閉回路を形成する場合、超電導スイッチに用いる超電導体は、超電導コイルに用いる超電導体の中から選択するのが一般的である。超電導体の冷却手段には冷媒浸漬方法と伝導冷却方法とがあるが、ある超電導回路を構成する超電導コイルと超電導スイッチは同一の冷却方法が採用される場合が多い。
【0003】
超電導スイッチは、一般的にヒータで超電導体を温めることでスイッチとしての切り替えを行う。超電導体は、その臨界温度以下に冷却されることで抵抗がゼロ(ON状態)となるが、臨界温度以上に温めると常電導体となり抵抗が発生する(OFF状態)。
【0004】
超電導磁石の励磁時には、超電導スイッチをOFF状態とし、励磁電源から供給する電流のほとんどを超電導磁石に通電させる。超電導スイッチのON/OFFの切り替えを早くする、またはその切り替えの間の冷媒蒸発量を抑制するためには、ON状態の超電導スイッチの温度と臨界温度との温度差はなるべく小さいほうがよい。一方、ON状態の超電導スイッチの温度設定が超電導体の臨界温度に近いと、超電導スイッチに外部じょう乱が印加された際に、超電導体の温度が臨界温度に近づきクエンチしやすくなるため、超電導スイッチの安定性が低くなる。
【0005】
NbTiなどの低温超電導体は液体ヘリウムによる冷却が一般的であるため、低温超電導体を用いた超電導スイッチでは、ON状態の温度は液体ヘリウム温度(約4K)とし、OFF状態の温度は臨界温度付近(約9K)である。この場合、ヒータによる加熱で超電導スイッチの超電導体を約5K上昇させることになる。
【0006】
近年の高温超電導体の発見により超電導体の臨界温度は上昇した。例えば臨界温度が90Kである高温超電導体を用いた超電導スイッチを、液体ヘリウム中で使用する場合、4Kから90Kまで超電導スイッチの温度を上昇させる必要がある。この加熱を効率良く行うには超電導膜とヒータ間の熱伝達効率を高める必要がある。
【0007】
例えば特許文献1には、高温超電導膜を用いた超電導スイッチが示されており、高温超電導体にYBCOなどが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−142744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記特許文献1のものは、超電導膜とヒータの間に強度を保つのに十分な厚さの絶縁物基板を有しているため、超電導膜とヒータ間に存在する熱容量が大きいという課題がある。
【0010】
本発明の目的は、超電導スイッチの強度を保ちつつ超電導膜とヒータ間の熱効率が高い超電導スイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、基板と、通電により発熱するヒータと、導電性膜と、前記導電性膜に蒸着されたMgB2膜とを備えた超電導スイッチにおいて、前記基板の一の面に前記ヒータ,前記導電性膜,前記MgB2膜の順で積層することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、超電導スイッチの強度を保ちつつ超電導膜とヒータ間の熱効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】超電導スイッチの斜視図と部分断面図。
【図2】超電導磁石11の概略構成。
【図3】MRIにおける実施例。
【図4】実施例2における超電導スイッチの断面略図。
【図5】ヒータ用端子の配置例。
【図6】実施例4における超電導スイッチの断面略図。
【図7】並列接続した超電導スイッチの概略構成。
【図8】直列接続した超電導スイッチの概略構成。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0015】
図1に、各実施例に共通する超電導スイッチ1の(a)斜視図と(b)部分断面図を示す。基板7を除く構成要素は膜状であるため、基板7の厚さは、超電導スイッチ1の剛性を保てる厚さとしておく。ヒータ6は超電導スイッチ1のON状態とOFF状態を切り替えるための発熱体であり、図示しないヒータ用電源に接続される。ヒータ6は、金属箔、または回路パターン状に切り出した金属箔で作成可能であり、また、基板7の上に回路パターンを蒸着するなどでも作成可能である。絶縁膜5は、ヒータ6と導電性膜4との電気的絶縁を確保するための膜である。導電性膜4は絶縁膜5の上に導電性材料を蒸着することで作成できる。導電性膜4は金属蒸着膜または導電性セラミックスで作成することが好ましい。この導電性膜4は、MgB2膜3と電気的に接続している。MgB2膜3は、導電性膜4へMgB2を蒸着することで作成できる。所定の大きさの基板7の上で、MgB2膜3からなる回路長を長くするためには、図1に示すように、ミアンダ状回路とすればよい。この時、導電性膜4もMgB2膜3の形状に合わせるとよい。電極2は、MgB2膜3で作成したミアンダ状回路の両端のみに設けられ、図示しない超電導コイル10などに接続される。
【0016】
図2に、超電導磁石11の概略構成を示す。超電導スイッチ1は、液体ヘリウムなどの冷媒、またはヘリウムガスなどでMgB2膜3が超電導状態となる温度まで冷却される。超電導コイル10を励磁する際、ヒータ6に通電し超電導スイッチ1をOFF状態とすることで、超電導スイッチ1に所定の抵抗値Rを発生させる。超電導コイル10のインダクタンスをL、超電導コイル10に流れる電流をIL、超電導スイッチに流れる電流をIRとすると、L(dIL/dt)=RIRの関係が成り立つ。よって、OFF状態の超電導スイッチ1の抵抗値は、超電導コイルのインダクタンスLと超電導コイル10に流す電流の掃印速度dIL/dtとで決定される。超電導コイル10に流れる電流が所定の値に到達した後、ヒータ6による過熱を止め、超電導スイッチ1をON状態とする。すると、超電導コイル10と超電導スイッチ1で超電導ループが形成され、永久電流運転が可能となる。
【0017】
超電導スイッチをOFF状態に切り替えるためのヒータによる加熱量は少ないほうが良い。MgB2膜はMgB2線に比べ、臨界電流密度が約100倍も向上する。そのため、MgB2膜で超電導スイッチを作成すれば、スイッチの体積を小さくできるので、熱容量が低下する。熱容量が低下するとヒータによる加熱量を抑制することができ、またヒータ熱への応答性も速くすることができる。一方でON状態における温度を臨界温度よりも十分低くし、超電導スイッチ1がクエンチする可能性を低くするのが理想的である。この2点において、本実施例ではON状態を約4K、OFF状態を約20Kと設定できるため、両状態の温度差が小さい。すなわち、OFF状態のときに酸化物超電導体のように100K付近まで温める必要がないのでヒータによる加熱量が少なくてすむ。また、臨界温度20Kと比べてON状態の4Kは十分温度が低いので、超電導スイッチ1がクエンチする可能性が低くなる点で優れている。さらに、ヒータ6とMgB2膜3との間に、基板7のように熱伝達を阻害し易い部材を含まないため、ヒータ6の熱を効率良くMgB2膜3に伝えることが可能となる。MgB2膜3,導電性膜4,絶縁膜5,ヒータ6を積層し、これらを膜状にすることで各々の接触面積が増えるので、ヒータ6からMgB2膜3へ効率よく熱伝達することができる。また、MgB2膜3と基板7との間にヒータ6が設けられているので、基板7により超電導スイッチ1の強度を保ちつつ、ヒータ6からMgB2膜3へ効率よく熱伝達することができる。
【0018】
本実施例の超電導スイッチ1は、主に蒸着法により作製するため、例えば、絶縁膜5,導電性膜4,MgB2膜3を一つの蒸着装置内で作製するなど、作製が容易である点でも優れている。
【0019】
本実施例のMgB2膜3は、導電性膜4にMgB2を蒸着することで作製するため、パウダーインチューブ法などで作製するMgB2超電導線よりも、臨界電流密度が高くできる。これはON状態における超電導スイッチ1の電流容量確保と、OFF状態における所定の抵抗値発生とを両立させるのに優位である。
【0020】
OFF状態における超電導スイッチ1の抵抗値は、OFF状態の超電導スイッチ1の温度における、MgB2膜3の抵抗率と膜厚および、導電性膜4の抵抗率と膜厚で決定される。MgB2膜3の膜厚は、ON状態における電流容量とも関連するので、OFF状態の抵抗値は、比較的選択性のある導電性膜4の膜厚で制御するとよい。
【0021】
材料によって膨張・収縮係数が異なるため、膜状の超電導体を作製する際には、温度変化に伴う超電導体の劣化に注意しなければならない。これはMgB2膜3に限らない。一般的には超電導体に隣接する部材を、その熱膨張係数が超電導体に近いものから選択すればよい。本実施例では、導電性膜4の熱膨張係数は、MgB2膜3の熱膨張係数の±10%以内である材料で導電性膜4を作成する。これにより、熱によるMgB2膜3と導電性膜4の膨張(収縮)の差が小さくなり、超電導体が劣化しにくくなる。
【0022】
図3に、MRIにおける実施例を示す。超電導スイッチ1は、超電導コイル10と共に、冷凍容器14に格納され、液体ヘリウムまたはヘリウムガスで冷却される。超電導スイッチ1と超電導コイル10に流れる永久電流は、測定対象19の位置に、時間安定性の高い静磁場を発生させる。この静磁場強度が高いほど、核磁気共鳴周波数が高くなり、核磁気共鳴信号強度も高くなる。傾斜磁場コイル17は、必要に応じて時間変化する電流を傾斜磁場用アンプ18から供給され、空間的に分布を持つ静磁場を測定対象19の位置に発生させる。さらに、RF(Radio Frequency)アンテナ15とRF送受信機16を用いて測定対象に核磁気共鳴周波数の磁場を印加,反応信号を測定することで、測定対象19の断面画像診断が可能となる。
【実施例2】
【0023】
以下に示す実施例では、実施例1との相違点のみを説明する。図4に、保護膜12を積層した場合の超電導スイッチ1の一部断面図を示す。保護膜12はMgB2膜の基板と反対側になる面(冷却面)に設けられる。(a)はMgB2膜3上にのみ保護膜12が設けられ、(b)はMgB2膜3だけでなく導電性膜4,絶縁膜5まで全体を被覆するように保護膜12が設けられている。
【0024】
本実施例では、OFF状態におけるMgB2膜3は、液体ヘリウムまたはヘリウムガスと直接熱をやり取りせず、保護膜12を介すことになる。保護膜12がある場合は、MgB2膜3が直接ヘリウムに曝され冷やされている場合と比べて、MgB2膜3を冷却しにくくなる。保護膜12は熱伝導率が10W/m/K以上であることが好ましい。
【0025】
MgB2膜3は外部じょう乱により発熱してON状態の4Kから局所的に温度が上昇してしまう。しかしMgB2膜3の臨界温度は約20Kと高めであるため、保護膜12による温度マージンが存在して多少冷却が遅れても許容できるので、保護膜12を配置可能である。保護膜12を配置することによって、OFF状態からON状態へ切り替える際、保護膜12の分だけMgB2膜3を温めやすくなるため、ヒータ効率が改善される。また、基板7上に各膜を積層すると剥がれる場合があるが、(b)のように全体的に保護膜12を設けると各膜をはがれにくくすることができる。
【実施例3】
【0026】
図5にヒータ用電極対8の配置例を示す。本実施例は導電性膜4にヒータの役割を兼ねさせる実施例である。超電導スイッチ1をOFF状態とし、超電導コイル10を励磁する場合、電極2の両端、MgB2膜3の両端、および導電性膜4の両端には、前述の電位差RIRが印加される。例えば一端の電位をゼロ(ボルト)とすると、もう一端はRIR(ボルト)の電位を有している。図5に示すように、電極2の一端から等距離となる導電性膜4の2点にヒータ用電極対8を設置した場合を考える。MgB2膜3および導電性膜4からなる両電極2間の電流路の長さをl、電流路の一端(電極2)からヒータ用電極対8までの各々の距離をx、この電極の一端の電位をゼロ(ボルト)とすると、ヒータ用電極対8の2か所の電位は等しく、RIRx/l(ボルト)である。これは、図示しない第2のヒータ用電源をヒータ用電極対8に接続し、導電性膜4に対しヒータ用電流を通電可能であることを意味する。ヒータ用電極対8に第2のヒータ用電源から直流電圧を印加しても、この電位差はヒータ用電極対を結ぶ方向(図5では横方向)にのみ印加されるため、電極2の両端には影響を与えない。
【0027】
このように導電性膜4にもヒータとしての能力を持たせることで、MgB2膜3を効率良く温めることが可能となる。
【実施例4】
【0028】
図6に基板7の両面にヒータ6,絶縁膜5,導電性膜4,MgB2膜3,電極2を積層した場合の超電導スイッチ1の断面略図を示す。このように両面を使用し、超電導スイッチ1の設置スペースを小さくすることが可能となる。
【実施例5】
【0029】
図7に超電導スイッチ1を並列接続して使用する場合の概略構成を示す。ON状態における超電導スイッチ1一つ当たりの電流容量は、MgB2膜3の臨界電流密度,膜厚,膜幅で設計される。膜厚,膜幅を増やすことで電流容量を増加できるが、膜厚を厚くしていくと臨界電流密度が低下することや、膜厚,膜幅を増やすと、OFF状態におけるMgB2膜3の抵抗値が下がりすぎることから、超電導スイッチ1一つ当たりの電流容量には限界がある。そこで、永久電流運転で必要とされる電流容量を満たすためには、超電導スイッチ1を並列接続するとよい。図7は、超電導スイッチ1を4つ並列に用いる場合を示している。超電導コイルへとつながる電流リード(図示なし)から、4本並列に分割した電流リード(図示なし)を用いて、図7手前側の4つの電極(うち、2つは図示なし)に接続する。さらに図7奥側の4つの電極(うち、2つは図示なし)から電流リード4本を伸ばし、一つにまとめ、超電導コイルへと接続する。例えば、超電導スイッチ1を一枚の板に横並びに配置することも可能であるが、電流を均等に分配することを考慮すると、並列接続する超電導スイッチ1同士は、すべて幾何学的対称とし、超電導スイッチ1のインダクタンスを揃えるよう、図7のように配置するのが理想である。本実施例では4並列の場合を示したが、並列数はいくつでもよい。また、超電導スイッチ1間の電流均等化には、超電導スイッチ1と、電流リード間の接続抵抗を揃えることも重要である。
【0030】
超電導スイッチをn個並列接続すると、ON状態の電流容量は約n倍へと増加するが、OFF状態の抵抗値が1/nに低下する。OFF状態の抵抗値を増加する場合は次の実施例を用いる。
【実施例6】
【0031】
図8に超電導スイッチ1を直列接続して使用する場合の概略構成を示す。ON状態での電流容量を確保するなどの理由で、OFF状態の抵抗値が所望の値より低下した場合、本実施例のように超電導スイッチ1を直列接続して用いる。超電導スイッチ1をm個直列接続すると、ON状態の電流容量は変わらず、OFF状態の抵抗値を約m倍に増加できる。図7に示した並列接続との併用も可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 超電導スイッチ
2 電極
3 MgB2
4 導電性膜
5 絶縁膜
6 ヒータ
7 基板
8 ヒータ用電極対
9 励磁電源
10 超電導コイル
11 超電導磁石
12 保護膜
13 MRI
14 冷凍容器
15 RFアンテナ
16 RF送受信機
17 傾斜磁場コイル
18 傾斜磁場用アンプ
19 測定対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、通電により発熱するヒータと、導電性膜と、前記導電性膜に蒸着されたMgB2膜とを備えた超電導スイッチにおいて、
前記基板の一の面に前記ヒータ,前記導電性膜,前記MgB2膜の順で積層することを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導スイッチにおいて、
前記MgB2膜の前記基板側と反対の面に、熱伝導率が10W/m/K以上である保護膜を積層することを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の超電導スイッチにおいて、
前記MgB2膜で形成された電流路と、前記電流路を挟む2点であって前記電流路の一端から等距離となる前記導電性膜に設けられた電極対とを有することを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の超電導スイッチにおいて、
前記基板の他の面に前記ヒータ,前記導電性膜,前記MgB2膜の順で積層することを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の超電導スイッチを直列かつ/または並列接続することを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の超電導スイッチにおいて、
前記導電性膜の熱膨張係数は、前記MgB2膜の熱膨張係数の±10%以内であることを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかに記載の超電導スイッチにおいて、
前記導電性膜は導電性セラミックスであることを特徴とする超電導スイッチ。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の超電導スイッチと、超電導コイルとを有する超電導磁石。
【請求項9】
請求項8に記載の超電導磁石を有するMRI。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−16664(P2013−16664A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148757(P2011−148757)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】