説明

超電導素子、超電導素子の製造方法および超電導限流器

【課題】はんだに含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の超電導層への拡散が抑制される。
【解決手段】基板32と、基板32上に形成された中間層34と、中間層34上に形成された超電導層36と、超電導層36上の少なくとも一部に、金属微粒子を焼結することで形成された金属微粒子焼結層40と、金属微粒子焼結層40上に、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだ42によって接合された電極44と、を有する超電導素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導素子、超電導素子の製造方法および超電導限流器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、超電導限流器に用いられる超電導素子として、基板上に中間層と超電導層とを形成し、且つ該超電導層に電極を接続した超電導素子が用いられている。
【0003】
ここで、電極を固定する方法として、超電導層上にインジウム等のはんだを用いて電極を固定する方法が開示されている。
例えば特許文献1には、インジウムはんだを用いて酸化物超電導膜上に電流リードを固定する方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、酸化物基材上に設けられた酸化物超電導薄膜と、酸化物超電導薄膜上にAu層とAg層とを積層して設けられた電極と、In、InAg合金、SnまたはSnAg合金を含むはんだを介して電極と接続された線材とを有する超電導部材が開示されている。
【0005】
更に特許文献3には、高温超電導導体に電極をはんだ接合する際に、高温超電導導体と支持部材との間の接着部を、導電性樹脂の加熱硬化温度より低い温度に冷却しながらはんだ付けする方法が開示されている。
【0006】
また、電極を固定する方法として、電極部にインジウムを用いて導電性薄膜を圧着する方法が開示されている。
例えば特許文献4には、接合にあたって、Inバンプなどの導電性バンプを介在させ、この導電性バンプで電気的および機械的な接合を実施する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−251761公報
【特許文献2】特開2003−298129公報
【特許文献3】特開2009−211899公報
【特許文献4】特開平11−204845公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の超電導素子では、電極の接着をインジウムやスズ等を用いてはんだ付けや圧着によって行っていたが、例えば超電導限流器に用いる超電導素子において過電流が流れた際に生じるクエンチのように、超電導状態から常電導状態への切り替わりが起きた際、はんだ付けや圧着に用いられているインジウムやスズ等がクエンチ時に発生するジュール熱によって超電導層内部へ拡散し、素子破壊が生じる問題があった。
【0009】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、はんだに含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の超電導層への拡散を抑制した超電導素子、該超電導素子の製造方法、該超電導素子を備えた超電導限流器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記課題は下記の手段によって解決された。
<1>基板と、前記基板上に形成された中間層と、前記中間層上に形成された超電導層と、前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を焼結することで形成された金属微粒子焼結層と、前記金属微粒子焼結層上に、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだによって接合された電極と、を有する超電導素子。
【0011】
<2>前記金属微粒子が、Ag,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金の微粒子である、前記<1>に記載の超電導素子。
【0012】
<3>前記金属微粒子の粒子径が150nm以下である、前記<1>または<2>に記載の超電導素子。
【0013】
<4>前記超電導層が、組成式REBaCu7−δ(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素であり、前記δは酸素不定比量である)で表される酸化物超電導体を主成分として含有する、前記<1>〜<3>の何れか1項に記載の超電導素子。
【0014】
<5>前記超電導層と前記金属微粒子焼結層との間に金属保護膜を有する、前記<1>〜<4>の何れか1項に記載の超電導素子。
【0015】
<6>前記基板は、サファイア基板であり、前記中間層は、CeOおよびREMnO(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素である)から選ばれる少なくとも1つを含んで構成される、前記<4>または<5>に記載の超電導素子。
【0016】
<7>基板上に中間層を形成する中間層形成工程と、前記中間層上に超電導層を形成する超電導層形成工程と、前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を焼結することで金属微粒子焼結層を形成する金属微粒子焼結層形成工程と、前記金属微粒子焼結層上に、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだによって電極を接合する電極接合工程と、を有する超電導素子の製造方法。
【0017】
<8>前記金属微粒子焼結層形成工程が、前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を含有する塗布液を塗布した後、該金属微粒子を350℃以下の温度で焼結する工程である、前記<7>に記載の超電導素子の製造方法。
【0018】
<9>前記金属微粒子焼結層形成工程における前記焼結を、酸素雰囲気下で行う、前記<7>または<8>に記載の超電導素子の製造方法。
【0019】
<10>前記金属微粒子焼結層形成工程にて用いる前記金属微粒子が、Ag,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金の微粒子である、前記<7>〜<9>の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【0020】
<11>前記金属微粒子焼結層形成工程にて用いる前記金属微粒子の粒子径が150nm以下である、前記<7>〜<10>の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【0021】
<12>前記超電導層形成工程は、組成式REBaCu7−δ(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素であり、前記δは酸素不定比量である)で表される酸化物超電導体を主成分として含有する超電導層を形成する、前記<7>〜<11>の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【0022】
<13>前記超電導層形成工程の後であって前記金属微粒子焼結層形成工程の前に、前記超電導層上に金属保護膜を形成する金属保護膜形成工程を有し、且つ前記金属微粒子焼結層形成工程は、前記金属微粒子焼結層を前記金属保護膜上の少なくとも一部に形成する、前記<7>〜<12>の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【0023】
<14>前記基板は、サファイア基板であり、前記中間層形成工程は、CeOおよびREMnO(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素である)から選ばれる少なくとも1つを含んで構成される中間層を形成する、前記<12>または<13>に記載の超電導素子の製造方法。
【0024】
<15>内部に液体窒素が充填される密閉容器と、前記密閉容器の外部から内部へ電流を導入して流出する電流導入出部と、前記<1>〜<6>の何れか1項に記載の超電導素子を用いて構成され、前記密閉容器内で前記電流導入出部に接続される超電導限流素子と、を備える超電導限流器。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、はんだに含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の超電導層への拡散を抑制した超電導素子、該超電導素子の製造方法、該超電導素子を備えた超電導限流器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態に係る超電導限流器の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る超電導素子の断面構造を示す断面図である。
【図3】実施例2の超電導素子における液体窒素冷却下での電流−電圧測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例3の超電導素子における液体窒素冷却下での電流−電圧測定の結果を示すグラフである。
【図5】比較例1で得た2つのサンプルについてのYBCOの結晶状態の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る超電導素子、その製造方法および超電導限流器について具体的に説明する。なお、図中、同一または対応する機能を有する部材(構成要素)には同じ符号を付して適宜説明を省略する。
【0028】
<超電導限流器>
図1は、本発明の実施形態に係る超電導限流器10の概略構成図である。
【0029】
本発明の実施形態に係る超電導限流器10は、超電導体のS/N転移(superconducting-normal state transitions)を利用して、通常時はゼロ抵抗で、臨界電流以上の過電流が流れた時には高抵抗となって過電流を抑制する機能を持つ機器である。
【0030】
この超電導限流器10は、容器本体12Aを蓋12Bで閉じて密閉される密閉容器12を備えている。
容器本体12Aには、冷凍機14が接続され、冷凍機14から密閉容器12の内部に液体窒素が導入される。蓋12Bには、密閉容器12の外部から内部へ電流を導入して流出する電流導入出部16が接続されている。電流導入出部16は、3相交流回路で構成され、具体的には3つの電流導入部16Aと、これらに対応する3つの電流流出部16Bとを含んで構成されている。
【0031】
電流導入部16Aと電流流出部16Bは、それぞれ、蓋12Bに対して貫通して垂直方向に伸びた導線18と、当該導線18を被覆する筒体20とで構成される。
電流導入部16Aの導線18のうち外部に露出した一端は、対応する電流流出部16Bの導線18のうち外部に露出した一端と、分流抵抗としての外部抵抗22を介して接続されている。
【0032】
各筒体20の容器本体12A内部にある端部には、素子収容容器24が支持されている。
この素子収容容器24は、密閉容器12に内蔵され、密閉容器12に充填される液体窒素により内部まで冷却される。
【0033】
素子収容容器24には、複数の薄膜型超電導素子30で構成された限流ユニット26が内蔵されている。本発明の実施形態では、具体的に、薄膜型超電導素子30が4行2列で配列された組が3組で限流ユニット26を構成している。
この限流ユニット26は、電流導入部16Aの導線18のうち内部にある他端と、電流流出部16Bの導線18のうち内部にある他端と、支柱28で支持されており、3相交流回路を構成するように、電流導入部16Aの導線18のうち内部にある他端と、電流流出部16Bの導線18のうち内部にある他端とが、薄膜型超電導素子30を介して電気的に接続されている。
【0034】
<超電導素子>
次に、薄膜型超電導素子30の概略を説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る薄膜型超電導素子30の断面構造を示す図である。
【0035】
図2に示すように、薄膜型超電導素子30は、基板32上に中間層34、超電導層36、金属保護膜38が順に形成された積層構造を有する超電導薄膜100を備える。そして、金属保護膜38上には金属微粒子焼結層40が積層され、更に金属微粒子焼結層40上には、上述した導線18に電気的に接続される電極(電極導線)44がはんだ42により金属微粒子焼結層40に固定されている。
【0036】
(金属微粒子焼結層)
金属微粒子焼結層40は、超電導層36(金属保護膜38)とはんだ42との間に介在して超電導層36(金属保護膜38)と電極導線44とを接続する層である。
【0037】
従来の超電導素子において、電極の接着をIn,Bi,Sn,Pb等を含むはんだによって行った場合、超電導状態から常電導状態への切り替わりが起きた際(例えば超電導限流器に用いる超電導素子において過電流が流れた際に生じるクエンチ等)に、はんだに含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)が、クエンチ時に発生するジュール熱等によって超電導層内部へ拡散し、素子破壊が生じる問題があった。
これに対し本実施形態では、超電導層36とはんだ42との間に金属微粒子焼結層40が介在しているため、はんだ42に含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の超電導層36内部への拡散が抑制され、その結果超電導素子30の破壊が抑制される。なお、金属保護膜38は、はんだ成分と反応性を有するため、はんだ42に含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の拡散抑制には寄与しない。
【0038】
・材質
金属微粒子焼結層40は、金属微粒子を焼結することで形成される。
該金属微粒子の材質としては、特に限定されるものではないが、低抵抗という点から例えばAg,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金が挙げられる。これらの中でも、液体窒素中での安定性という理由から特にAg単体金属が好ましい。
【0039】
・粒子径
金属微粒子焼結層40の形成に用いられる金属微粒子の粒子径は、150nm以下であることが好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。
【0040】
尚、本明細書において金属微粒子の粒子径とは、個数平均粒子径を表す。
金属微粒子の粒子径は、一般的には電子線顕微鏡等により直接観察することで測定され、また材料メーカから提供される値を用いることができる。(例えば、ハリマ化成製の銀ナノ粒子:NPSであれば「平均粒子径12nm(粒子径の範囲8nm以上15nm以下)」と記載されている)
【0041】
・焼結
前記金属微粒子焼結層40は、金属微粒子が焼結されて形成される。
但し、金属微粒子の焼結の際の温度によって、超電導層36の酸素欠陥生成により超電導素子の特性が劣化することがある。よって超電導層36の酸素欠陥生成を抑制する観点から、上記焼結は350℃以下の温度で行われていることが好ましく、更には250℃以下の温度で行われていることがより好ましい。尚、下限値は特に限定されるものではないが、金属微粒子を効率的に焼結する観点で100℃以上であることが好ましい。
また、焼結が行われる雰囲気としては、大気雰囲気下や酸素雰囲気下が好ましい。
【0042】
・膜厚
金属微粒子焼結層40の厚みは、特に限定されないが、はんだ42に含まれる成分(In,Bi,Sn,Pb)の超電導層36内部への拡散をより効率的に抑制する観点から、5μm以上であることが好ましい。また、膜剥がれの改善という観点から、10μm以下であることが好ましい。
【0043】
(はんだ)
はんだ42は、金属微粒子焼結層40の表面に電極導線44を固定するために用いる。
本実施形態においては、超電導層36へのはんだ付けの際の熱処理の緩和という点から、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだが用いられ、中でも液体窒素中での展性が最も低いという理由から、Inが好適に用いられる。
【0044】
(電極)
電極導線44の材質としては、銅、金、銀等の単体金属や、それらを含む合金等の導電部材が挙げられる。また、電極導線44に替えて、板状、網目状、ブロック状等の電極を用い、該板状等の電極をはんだ42によって金属微粒子焼結層40表面に固定してもよい。低抵抗かつ弾性力による応力緩和という理由から、電極導線44は銅編組線を用いることが好ましい。
【0045】
次いで、図2に示される超電導薄膜100の構成について説明する。
(基板)
基板32は、金属酸化物やセラミックスの単結晶構造を有している。基板32の形状は、中間層34や超電導層36が成膜される主面があることを前提として様々な形状を採用することができるが、取扱いが容易な矩形平板形状を採用することが好ましい。
基板32の厚みは、特に限定されないが、例えば1mmとされている。
【0046】
・組成物
金属酸化物の具体例としては、Al(酸化アルミニウム、特にサファイア)、(Zr,Y)O(イットリア安定化ジルコニア)、LaAlO(ランタンアルミネート)、SrTiO(チタン酸ストロンチウム)、(LaSr1−x)(AlTa1−x)O(酸化ランタンストロンチウムタンタルアルミニウム)、NdGaO(ネオジムガレート)、YAlO(イットリウムアルミネート)、MgO(酸化マグネシウム)、TiO(チタニア)、BaTiO(チタン酸バリウム)等が挙げられる。セラミックスの具体例としては、炭化ケイ素、黒鉛等が挙げられる。
特に、これらの中でも、高い強度と熱伝導率の面からサファイア基板を採用することが好ましい。
【0047】
(中間層)
中間層34は、超電導層36において高い面内配向性を実現するために基板32上に形成される層であり、単層膜で構成されていても多層膜で構成されていてもよい。
この中間層34は、特に限定されないが、具体的にはCeOおよびREMnOから選ばれる少なくとも1つを含んで構成されることが好ましい。尚、REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、YbやLuなどの単一の希土類元素または複数の希土類元素である。
中間層34の膜厚は、特に限定されないが、例えば20nmとされている。
【0048】
(超電導層)
超電導層36は、中間層34上に形成され、酸化物超電導体、好ましくは銅酸化物超電導体で構成されている。
【0049】
銅酸化物超電導体としては、REBaCu7−δ(RE−123と称す),BiSrCaCu8+δ(BiサイトにPb等をドープしたものも含む),BiSrCaCu10+δ(BiサイトにPb等をドープしたものも含む),(La,Ba)CuO4−δ,(Ca,Sr)CuO2−δ[CaサイトはBaであってもよい],(Nd,Ce)CuO4−δ,(Cu,Mo)Sr(Ce,Y)CuO[(Cu,Mo)−12s2と称し、s=1、2、3,4である],Ba(Pb,Bi)OまたはTlBaCan−1Cu2n+4(nは2以上の整数である)等の組成式で表される結晶材料を用いることができる。また、銅酸化物超電導体は、これら結晶材料を組み合わせて構成することもできる。
上記REBaCu7−δ中のREは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、YbやLuなどの単一の希土類元素または複数の希土類元素であり、これらの中でもBaサイトと置換が起きない、且つ超電導転移温度Tcが高い等の理由でYであることが好ましい。また、δは、酸素不定比量であり、例えば0以上1以下であり、超電導転移温度が高いという観点から0に近いほど好ましい。なお、酸素不定比量は、オートクレーブ等の装置を用いて高圧酸素アニール等を行えば、δは0未満、すなわち、負の値をとることもある。
ここで、REをPrとしたPrBaCu7−δだけは、現在、超電導現象が確認されていないが、将来酸素不定比量δを制御するなどして超電導現象が確認できた場合には、本発明の実施形態に係わる酸化物超電導体にPrBaCu7−δも含むものとする。
また、REBaCu7−δ以外の結晶材料のδも酸素不定比量を表し、例えば0以上1以下である。
超電導層36は、上記REBaCu7−δで表される酸化物超電導体を主成分として含有することが好ましい。尚、「主成分」とは、超電導層36に含まれる構成成分中で含有量が最も多いことを示し、好ましくは50%以上の含有量を有する。
超電導層36の膜厚は、特に限定されないが、例えば200nmとされている。
【0050】
(金属保護膜)
超電導層36の表面には金属保護膜38を形成してもよい。金属保護膜38の材質としては、金、銀、銅等の単体金属や、それらを含む合金等の導電部材が挙げられる。金属保護膜38の膜厚は、特に限定されないが、100nm以上300nm以下であることが好ましい。
【0051】
<超電導素子の製造方法>
次に、以上のような超電導素子30の製造方法について具体的に説明する。
【0052】
−中間層形成工程−
まず、研磨済みの基板32に対し中間層を形成する中間層形成工程を行う。中間層34の形成方法としては、例えばPLD法、CVD法、MOCVD法、IBAD法、TFA−MOD法、スパッタ法、または電子ビーム蒸着法などを用いることができる。これらの中でも、高配向度を実現できるという点で、IBAD法を用いることが好ましい。また、高効率の成膜が実現できるという点で電子ビーム蒸着法を用いることが好ましい。
中間層形成工程で、例えば電子ビーム蒸着法を用いる場合、1×10−2Pa以上1×10−1Pa以下の酸素中でプラズマを発生させ、700℃以上に基板32を加熱した状態で当該基板32上にCeO等からなる膜を10nm以上20nmの範囲で蒸着させて、中間層34を形成する。
【0053】
−超電導層形成工程−
次に、超電導層形成工程を行う。超電導層36の形成(成膜)方法としては、例えばPLD法、CVD法、MOCVD法、MOD法、またはスパッタ法などが挙げられる。これら成膜方法の中でも、高真空を必要としない、大面積、複雑な形状の基板32にも成膜可能、量産性に優れているという理由からMOCVD法を用いることが好ましい。また、高効率の成膜が実現できるという点でMOD法を用いることが好ましい。
超電導層形成工程で、例えばMOD法を用いてYBCOからなる超電導層36を形成する場合、まず、イットリウム、バリウム、銅の有機錯体の溶液をスピンコーターで中間層34の表面上に塗布して前駆体の膜を形成する。そして、前駆体の膜を例えば空気中において300℃以上600℃以下で仮焼成する。
仮焼成で有機溶媒を除去した後、前駆体の膜を700℃以上900℃以下で本焼成して、前駆体の膜からYBCOの酸化物超電導体で構成される超電導層36を得る。
また、この本焼成において、最初に不活性雰囲気中で焼成を行ない、途中から酸素雰囲気に切り替えることもできる。
【0054】
−金属保護膜形成工程−
得られた超電導層36上に金銀合金等の導電部材からなる金属保護膜38を形成する。金属保護膜38を形成する方法としては、スパッタ法、真空蒸着法等が挙げられ、中でもスパッタ法が好ましい。
【0055】
−金属微粒子焼結層形成工程−
上記金属保護膜38を有する場合には該金属保護膜38の表面の少なくとも一部に、有しない場合には前記超電導層36の表面の少なくとも一部に、銀ナノ粒子や銅ナノ粒子等の金属微粒子を用いて金属微粒子焼結層40を形成する。このとき用いる金属微粒子はAg,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金であることが好ましい。
尚、金属微粒子焼結層40の形成は、例えば超電導層36または金属保護膜38上の少なくとも一部に、金属微粒子を含有する塗布液を塗布した後、焼結する方法により行う方法が挙げられる。
【0056】
上記塗布液の塗布方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット法等が挙げられる。
【0057】
また、超電導層36の酸素欠陥生成抑制の観点から、上記焼結は350℃以下の温度で行われていることが好ましく、更には250℃以下の温度で行われていることがより好ましい。尚、下限値は特に限定されるものではないが、金属微粒子を効率的に焼結する観点で100℃以上であることが好ましい。
【0058】
尚、焼結を行う雰囲気としては、酸素欠陥生成の抑制という点から大気雰囲気下や酸素雰囲気下が好ましい。
【0059】
−電極接合工程−
上記金属微粒子焼結層40の表面に、はんだ42によって電極導線44を接合する。尚、はんだ42の接合温度は超電導層へのダメージを最小化するため、融点が250℃以下の低温はんだを用いることが好ましい。
【0060】
こうして、本実施形態に係る超電導素子が製造される。
【0061】
<変形例>
なお、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかであり、例えば上述の複数の実施形態は、適宜、組み合わせて実施可能である。また、以下の変形例同士を、適宜、組み合わせてもよい。
【0062】
例えば、基板32上に、他の層を介して中間層34を形成してもよい。
また、金属保護膜38も適宜省略することができる。
【0063】
また、本実施形態では、超電導素子を超電導限流器10の薄膜型超電導素子30として用いる場合を説明したが、例えば基板32として長尺のものを用いて、超電導線材を得る等、超電導素子は他の様々な機器に応用することができる。SMES(Superconducting Magnetic Energy Storage)、超電導トランス、NMR(核磁気共鳴)分析装置、単結晶引き上げ装置、リニアモーターカー、磁気分離装置等の機器に広く用いられている。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明に係る超電導素子について、実施例により説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0065】
<実施例1および比較例1>
〔In拡散性の評価試験〕
透明基板上に、後述の実施例2における「金属微粒子焼結層の形成」に記載の方法により厚さ10μmの金属微粒子焼結層を形成し、且つ該金属微粒子焼結層上の一部に1mmのインジウムはんだ片を設け、実施例1に係るIn拡散性評価用のサンプルを得た。
また、上記金属微粒子焼結層に替えて銀蒸着膜(厚さ10μm)を形成した以外は、上記と同じ方法により、比較例1に係るIn拡散性評価用のサンプルを得た。
上記実施例1サンプルおよび比較例1サンプルを、200℃のホットプレートにのせて10sec後,1min後,3min後,5min後の透明基板側を観察し、金属微粒子焼結層または銀蒸着膜を透過してきたインジウムの広がり(面積)を測定した。結果を下記表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1からわかるように、実施例1のIn拡散抑制が比較例1よりも高いことが確認できた。これは、ナノオーダーの微粒子は焼結によって粒子同士が接着する網目状のネットワーク構造をとることが知られているが、この網目にはんだ成分がトラップされやすいため拡散を抑制できているものと推測している。
【0068】
また、上記実施例1、比較例1におけるインジウムはんだ片の替わりに、Bi,Sn,およびPbのはんだ片を用いて、同様の拡散性評価を行った。その結果、実施例1と比較例1との差と同様に、Bi,Sn,およびPbのはんだ片においても本実施形態によって拡散抑制が高いことが確認された。
【0069】
〔電気抵抗率の性能評価試験〕
透明基板上に、上記と同様の方法により、厚さ10μmの金属微粒子焼結層を形成して実施例1に係る抵抗率評価用のサンプルを得、四端針法にて電気抵抗率を測定した。その結果抵抗率2.24μΩcmとなった。
また、上記金属微粒子焼結層に替えて銀蒸着膜(厚さ10μm)を形成した以外は、上記と同じ方法により、比較例1に係る抵抗率評価用のサンプルを得、同様に四端針法にて電気抵抗率を測定した。その結果抵抗率3.79μΩcmとなった。
なお四端針法による電気抵抗率測定は、JIS K 7194(導電性プラスチックの四探針法による抵抗率試験方法)に準拠した低抵抗率計を用いて行った。
【0070】
<実施例2>
・中間層の形成
市販の研磨済みR面サファイア基板(京セラ製片面研磨サファイア基板、サイズ210×30×1)を800℃で加熱しながら、EB(電子ビーム)蒸着により、酸化セリウム(CeO)の薄膜を15nm蒸着し、中間層を形成した。尚、成膜時には、酸素分圧が5×10−2Paとなるように少量の酸素を導入しさらにRFを用いて酸素プラズマをたてた。
【0071】
・超電導層の形成
この中間層の表面に、イットリウム、バリウム、銅の有機錯体の溶液をスピンコーターで塗布し、500℃空気中で仮焼成を行ない、次いで不活性雰囲気中800℃で本焼成を行ない、途中から酸素雰囲気に切り替えて、最終的にYBCOからなる超電導層を形成した。超電導層の厚さは150nmであった。
【0072】
・金属保護膜の形成
得られた超電導層上に金銀合金製(Au−23atm%Ag)の金属保護膜を、スパッタ法により成膜した。スパッタ法による金属保護膜の厚さは300nmであった。
【0073】
・金属微粒子焼結層の形成
金属微粒子として銀ナノ粒子(ハリマ化成製、NPS、平均粒子径12nm)を用い、スクリーン印刷法にて所望の領域に塗布した後、酸素雰囲気炉において230℃、60min加熱を行って焼結させ、金属微粒子焼結層を形成した。金属微粒子焼結層の厚さは、段差計(CS−5000、ミツトヨ製)を用いて測定した結果10μmであった。
【0074】
・電極導線の形成
上記金属微粒子焼結層の表面に、インジウムはんだを用いて電極導線を取り付けた。
こうして、超電導素子を得た。
【0075】
−素子特性の評価−
得られた超電導素子を液体窒素冷却下で電流−電圧測定を行ったところ、電極形成前の臨界電流密度Jcから推測される臨界電流Ic(約60A)と同等の、臨界電流Ic(53A)が観測され、良好な素子特性が確認された(図3参照)。
これは、焼結時における超電導層の酸素欠陥生成が抑制されているためと推察される。
【0076】
<実施例3>
前記実施例2において、金属微粒子焼結層の形成の際の焼結を、酸素雰囲気炉において230℃、60min加熱から、大気雰囲気炉において500℃、30min加熱に変更し、且つ使用した銀ナノ粒子を(ハリマ化成製、NPS−HTB、平均粒子径12nm)に変更したこと以外、実施例2に記載の方法により超電導素子を得た。
【0077】
−素子特性の評価−
得られた超電導素子を液体窒素冷却下で電流−電圧測定を行ったところ、電極形成前の臨界電流密度Jcから推測される臨界電流Icから、劣化が生じていることがわかった(図4参照)。
これは、焼結時における超電導層で酸素欠陥が生成しているためと推察される。
【0078】
<実施例4,5>
前記実施例2と実施例3のように加熱温度および雰囲気を下記表2に示すように変化させて超電導素子を得、素子特性劣化の有無を評価した。
【0079】
【表2】

【0080】
表2より、酸素雰囲気中かつ230℃で加熱した場合のみ素子特性劣化が見られないことがわかる。
【0081】
<比較例1>
−酸素欠陥生成の有無の評価−
金属保護膜の形成までを前記実施例2の方法によって行った超電導素子を(1)酸素雰囲気下350℃、60minの条件で熱処理したサンプルと、(2)大気雰囲気下500℃、30minの条件で熱処理したサンプルとを得た。この両サンプルについて、X線回折法によりYBCOの結晶状態の測定を行ったところ、大気雰囲気下500℃で熱処理したサンプル(2)では、酸素雰囲気下350℃で熱処理したサンプル(1)に比べ、YBCOのピークがシフトしていることがわかった(図5参照)。このYBCOのピークシフトは、YBCOのc軸の成長ということを意味し、結果、酸素欠陥生成によるIcの劣化であるといえる。
また350℃以下の温度条件ではより条件が緩和されるため素子特性の劣化はありえないものと考えられる。
【符号の説明】
【0082】
10 超電導限流器
12 密閉容器
16 電流導入出部
24 素子収容容器
30 薄膜型超電導素子(超電導限流素子)
32 基板
34 中間層
36 超電導層
38 金属保護膜
40 金属微粒子焼結層
42 はんだ
44 電極(電極導線)
100 超電導薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された中間層と、
前記中間層上に形成された超電導層と、
前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を焼結することで形成された金属微粒子焼結層と、
前記金属微粒子焼結層上に、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだによって接合された電極と、を有する超電導素子。
【請求項2】
前記金属微粒子が、Ag,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金の微粒子である、
請求項1に記載の超電導素子。
【請求項3】
前記金属微粒子の粒子径が150nm以下である、
請求項1または請求項2に記載の超電導素子。
【請求項4】
前記超電導層が、組成式REBaCu7−δ(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素であり、前記δは酸素不定比量である)で表される酸化物超電導体を主成分として含有する、
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の超電導素子。
【請求項5】
前記超電導層と前記金属微粒子焼結層との間に金属保護膜を有する、
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の超電導素子。
【請求項6】
前記基板は、サファイア基板であり、
前記中間層は、CeOおよびREMnO(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素である)から選ばれる少なくとも1つを含んで構成される、
請求項4または請求項5に記載の超電導素子。
【請求項7】
基板上に中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上に超電導層を形成する超電導層形成工程と、
前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を焼結することで金属微粒子焼結層を形成する金属微粒子焼結層形成工程と、
前記金属微粒子焼結層上に、In,Bi,Sn,およびPbから選ばれる少なくとも一種を含むはんだによって電極を接合する電極接合工程と、を有する超電導素子の製造方法。
【請求項8】
前記金属微粒子焼結層形成工程が、前記超電導層上の少なくとも一部に、金属微粒子を含有する塗布液を塗布した後、該金属微粒子を350℃以下の温度で焼結する工程である、
請求項7に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項9】
前記金属微粒子焼結層形成工程における前記焼結を、酸素雰囲気下で行う、
請求項7または請求項8に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項10】
前記金属微粒子焼結層形成工程にて用いる前記金属微粒子が、Ag,Au,Cu,およびPtのうちから選ばれる少なくとも一種を含む単体金属または合金の微粒子である、
請求項7〜請求項9の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項11】
前記金属微粒子焼結層形成工程にて用いる前記金属微粒子の粒子径が150nm以下である、
請求項7〜請求項10の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項12】
前記超電導層形成工程は、組成式REBaCu7−δ(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素であり、前記δは酸素不定比量である)で表される酸化物超電導体を主成分として含有する超電導層を形成する、
請求項7〜請求項11の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項13】
前記超電導層形成工程の後であって前記金属微粒子焼結層形成工程の前に、前記超電導層上に金属保護膜を形成する金属保護膜形成工程を有し、
且つ前記金属微粒子焼結層形成工程は、前記金属微粒子焼結層を前記金属保護膜上の少なくとも一部に形成する、
請求項7〜請求項12の何れか1項に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項14】
前記基板は、サファイア基板であり、
前記中間層形成工程は、CeOおよびREMnO(REは単一の希土類元素または複数の希土類元素である)から選ばれる少なくとも1つを含んで構成される中間層を形成する、
請求項12または請求項13に記載の超電導素子の製造方法。
【請求項15】
内部に液体窒素が充填される密閉容器と、
前記密閉容器の外部から内部へ電流を導入して流出する電流導入出部と、
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の超電導素子を用いて構成され、前記密閉容器内で前記電流導入出部に接続される超電導限流素子と、
を備える超電導限流器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8962(P2013−8962A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119006(P2012−119006)
【出願日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】