説明

超音波によるスポット溶接部の評価方法及び装置

【課題】短時間に限られる測定であっても、超音波探触子の位置とスポット溶接部の位置のずれや、超音波探触子と金属板との接触状態に影響されずに、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価する。
【解決手段】スポット溶接部2の外側の金属板(1a、1b)の複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波し、スポット溶接部の外側の金属板の複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波することにより、スポット溶接部の健全性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接によって形成される溶融部(ナゲット)の直径を、超音波を利用した非破壊手段にて検査する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば自動車ボディの製造工場などにおいては、スポット溶接部の検査を現場で高能率に行えるようにするため、簡便に実施可能なスポット溶接検査方法が待望されている。
【0003】
自動車のボディは、数千点にも及ぶスポット溶接によって組立てられており、スポット溶接の良否が車体の強度や耐久性に直接影響を及ぼすため、スポット溶接が適切に行われているか否かを検査することは極めて重要である。従来、このようなスポット溶接部の検査方法として、スポット溶接部をタガネで剥離することにより良否を判定する剥離検査が行われている。しかし、剥離検査は破壊検査であるので、検査に膨大な労力と時間とを要する上にコストが高くつく。また、剥離検査によってはスポット溶接の良否を正確に判定することが困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、近年、超音波を用いてスポット溶接部の良否を非破壊で検査する装置及び方法が種々提案されている。
【0005】
例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4には、2枚の板を重ねて溶接され製作されるスポット溶接部の良否の評価のために、板面に垂直に超音波を入射させて反射波を検出する方法や装置が開示されている。又、特許文献5には、被検体を介してその上下に1組の局部水浸探触子を対向に配置して被検体を水平方向に移動させることにより、送信側局部水浸探触子から送信される超音波ビームにより被検体のスポット溶接部を走査し、受信側局部水浸探触子により受信された信号からスポット溶接部中の傷の有無を判定する超音波探傷装置が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−146928号公報
【特許文献2】特開2002−131297号公報
【特許文献3】特開平11−2627号公報
【特許文献4】特開平6−265529号公報
【特許文献5】特開昭62−52456号公報
【特許文献6】特開2004−163210号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの先行技術では、平板状の被検体に対して垂直方向に超音波を送受信する。よって、図10に例示する被検体のスポット溶接部102に形成されるくぼみ102bの周囲に形成される傾斜面102cにおいて、超音波ビームを効率よく被検体内に入射させることができないため、スポット溶接部102に形成されるナゲット102aの大きさを高精度に検出することが難しいという問題がある。
【0008】
即ち、図10に示すように、上板101a下板101bとを重ねてスポット溶接すると、スポット溶接部102には、上板101aと下板101bとの接合部に「ナゲット」と呼ばれる溶融凝固組織102aが形成される。又、スポット溶接では、図示しない電極チップによって上板101a及び下板101bが強圧されるので、上板101a及び下板101bの表面には、電極チップの先端部の形状に相当するくぼみ102bが形成される。更に、当該くぼみ102bの底面と上板101a及び下板101bの表面との間には、円錐状の傾斜面102cが形成される。溶接が正常に行われた場合、前記ナゲット102aの直径は、溶接に使用される電極チップの直径よりもやや大きいか同等程度になり、くぼみ102bの内径は、電極チップの先端部の形状が面取りを有する円柱形に形成されていることから、電極チップの円柱部の直径よりもやや小さくなる。従って、くぼみ102bの内径は、ナゲット102aの径よりもやや小さくなるのが通常である。溶接が正常に行われなかった場合には、ナゲット径が正常に溶接が行われた場合に比べて小さくなり、強度不足等の異常が発生する。なお、図中の符号Sは、ナゲット102aの止端を示している。
【0009】
このように、スポット溶接部102には、くぼみ102bの底面と上板101a及び下板101bの表面との間に円錐状の傾斜面102cが形成されるので、前記先行技術に係る超音波検査装置のように、超音波ビームを被検体である上板101a及び下板101bの表面に対して垂直方向に送受信して検査すると、超音波が傾斜面102cにおいて反射され、被検体の内部に殆ど伝搬しないため、検査部位からの信号が殆ど得られない。前述のように、ナゲット102aの大きさは、電極チップの直径よりもやや大きいか同等程度の直径になるので、ナゲット102aの止端Sと被検体に形成される傾斜面102cとは殆ど重なりあっている。従って、超音波が傾斜面102cにおいて反射されると、ナゲット止端Sの近辺からの正確な信号が得られにくくなり、正確なナゲット直径の判定及び欠陥の有無の判定をすることが困難になる。
【0010】
本願発明者は既に特許文献6において、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、スポット溶接部の外側の金属板にスポット溶接部の溶接金属に向けてLamb波を励起し、該Lamb波を溶接金属に透過させ、透過後のLamb波を受信することにより、スポット溶接部の健全性を評価することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法を提案した。この発明によって、スポット溶接部に生成されるくぼみの周囲に形成される傾斜面の影響を受けずにスポット溶接部の評価を行なうことに成功した。しかし、特許文献6では、2つのLamb波探触子をスポット溶接部を挟んで向かい合わせて配置するに際し、2つのLamb波探触子とスポット溶接部との位置関係が所定の位置関係からずれると、Lamb波の伝搬経路がスポット溶接部の中心からずれるため、正しくスポット溶接部の健全性を評価できないことがあると判明した。この問題は、測定時間が短時間に限られ、Lamb波探触子とスポット溶接部との相対位置の調整を十分に行うことができない場合に顕著に発生する。
【0011】
又、特許文献6では、請求項3に示した2つの周波数f及びf(f<f)のLamb波を用いて透過したLamb波の振幅A及びAを検出し、それらの比(A/A)を求める方法を用いること無しに、スポット溶接部の健全性を評価しようとする場合には、2つのLamb波探触子と金属板との接触状態の変化によって、透過したLamb波の振幅が変化する場合があるため、正しくスポット溶接部の健全性を評価できないことがあることも判明した。この問題も、測定時間が短時間に限られ、Lamb波探触子と金属板との接触状態を十分に安定させることができない場合に顕著に発生する。なお、2つの周波数のLamb波を用いる場合には、2つの超音波振動子を1つのLamb波探触子に備える必要があるため、Lamb波探触子が大型化することが避けられないので、狭い場所にあるスポット溶接部の評価が難しい問題があった。
【0012】
本発明は、かかる従来技術の不備を解決するためになされたものであって、その課題とするところは、短時間に限られる測定であっても、超音波探触子の位置とスポット溶接部の位置のずれや、超音波探触子と金属板との接触状態に影響されずに、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、スポット溶接部の外側の金属板の複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波し、スポット溶接部の外側の金属板の複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波し、前記複数位置において受波された超音波からスポット溶接部の健全性を評価することにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
又、受波された超音波の振幅を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定するようにしたものである。
【0015】
本発明は、又、複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価装置において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、スポット溶接部の外側の金属板の複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波する手段と、スポット溶接部の外側の金属板の複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波する手段と、前記複数位置において受波された超音波からスポット溶接部の健全性を評価する手段とを備えることにより、前記課題を解決したものである。
【0016】
又、受波された超音波の振幅を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定するようにしたものである。
【0017】
更に、各送波位置から送波され、各受波位置で受波された信号の振幅を、送波位置と受波位置とを対応づけた2次元のマトリックスとして表示する表示手段を備えるようにしたものである。
【0018】
そして、前記表示手段の表示結果に基づいて、前記超音波を送波する手段および前記超音波を受波する手段と前記スポット溶接部との位置関係を調整するようにし、超音波探触子とスポット溶接部の位置ずれの影響を無くし、信頼性高く健全性評価をできるようにしたものである。
【0019】
又、前記表示手段の表示結果を参照し、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬して受波された超音波の振幅に基づいて、受波された超音波による信号の増幅度を調整するようにし、超音波探触子と金属板との接触状態の影響を無くし、信頼性高く健全性評価をできるようにしたものである。
【0020】
又、複数の送波位置から複数方向へ向けて被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波する手段を、振動子アレイを備えた超音波探触子としたものである。
【0021】
又、複数の受波位置において超音波を受波する手段を、振動子アレイを備えた超音波探触子としたものである。
【0022】
又、振動子アレイを備えた超音波探触子が金属板に当接する表面に、柔軟に変形する部材を貼付したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、スポット溶接部に形成されるくぼみの周囲に形成される傾斜面の影響を受けずに、正確に非破壊でスポット溶接部の評価を行なうことが可能になると共に、短時間に限られる測定であっても、超音波探触子の位置とスポット溶接部の位置のずれや、超音波探触子と金属板との接触状態に影響されずに、信頼性高くスポット溶接部の健全性を評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0025】
以下、2枚の金属板が接合されてなるスポット溶接部の評価を例にとり説明する。2枚の金属板の上側の板を上板、下側の板を下板と称する。本発明では、図1に示すとおり、振動子アレイ11を備えた超音波探触子10と振動子アレイ21を備えた超音波探触子20とを上板1a上のスポット溶接部2を挟んだ位置に向かい合わせて当接させる。超音波探触子10及び超音波探触子20と上板1aとの間には適当な接触媒質を介在させる。
【0026】
振動子アレイ11を備えた超音波探触子10を用いて、複数の位置から上板1aに超音波を送波する。超音波探触子10は、樹脂くさび12に振動子アレイ11が貼り付けられた構造を有しており、振動子アレイ11から送波された超音波が斜めに上板1aへ入射する。前記斜めに入射した超音波によって、図2に示す如く、上板1aの中に上板1a表面に対して斜めに進行する超音波が送波される。該斜め進行する超音波は、縦波および横波を含み、上板1aの底面及び表面において反射やモード変換を繰り返しながら、上板1a中を伝搬する。図2において実線は横波であり、破線は縦波である。超音波の上板1aへの入射角が適当な値の場合には、上記反射を繰り返して伝搬する超音波は、Lamb波と呼ばれる波動になる。伝搬してきた超音波は、振動子アレイ21を備えた超音波探触子20によって受波される。超音波探触子20は、樹脂くさび22に振動子アレイ21が貼り付けられた構造を有している。
【0027】
振動子アレイ11を備えた超音波探触子10と振動子アレイ21を備えた超音波探触子20とによって、図3に示す平面経路(金属板の上面からみた経路)を伝搬した超音波を受信することができる。超音波探触子10の振動子アレイ11の個々の振動子を11〜11と表し、超音波探触子20の振動子アレイ21の個々の振動子を21〜21と表すことにする。Nとしては例えば4、8、16、32などの個数を用いる。図3はNが8の場合である。振動子アレイの振動子11〜11から送波される超音波には空間的に広がりがあるので、振動子11〜11から図3に示した平面経路をとる超音波を送波することができる。
【0028】
超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波する。次に、超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波する。この過程を、超音波探触子10の振動子11から送波された超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波するまで、送波を行う振動子11(n=1,2,‥,N)を順次変更して行う。この結果、複数位置から送波され複数の方向へ伝搬する超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波することができる。
【0029】
スポット溶接部2に生成されるナゲット2aは、図4に示すとおり、ほぼ板厚方向に平行な方向性を有する溶融凝固組織2bとなっている。この溶融凝固組織2bが本発明にいう溶接金属である。又、この溶融凝固組織2bはデンドライト組織とも呼ばれ、一方向に延びた粗い結晶の集まりであり、鋼板の金属組織に比べ、超音波の伝達が悪い(減衰が大きい)性質を持っている。従って、被検体の表面沿いに伝搬する超音波は、溶融凝固組織2bの板表面に平行な長さに応じて減衰する。よって、図3に示した経路を伝搬する超音波は、その経路に溶融凝固組織2bが含まれる場合、伝搬経路に存在する溶融凝固組織2bの長さに応じた減衰を受けた後、超音波探触子20に受波される。
【0030】
図5は、板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接を行ったサンプルに、前記したように超音波探触子10及び超音波探触子を20をスポット溶接部2を挟んで向かい合わせて当接させ、図3に示した8×8=64の経路の超音波を受波して、その振幅を検出した結果をマトリックス表示している。図5では、上記64経路の超音波の振幅を、ハッチングによる濃淡(実際は、輝度変調、又は、グレースケールによる濃淡を用いる)によって表しており、黒い部分ほど、受波した超音波の振幅が小さい。又、縦方向の1から8が、送波に用いられる超音波探触子10の振動子アレイの各振動子11〜11、横方向の1から8が、受波に用いられる超音波探触子20の振動子アレイの各振動子21〜21に対応する。図5のマトリックスにおいて、超音波の伝搬経路に溶融凝固組織2bを含む場合の受波の振幅は、右上がりの45°の方向を中心にして並ぶ。以下、この黒い部分を減衰帯と称することにすると、この減衰帯の幅W(右下がりの45°方向での長さ)が、板表面に垂直な方向から見たときの溶融凝固組織2bの大きさ、即ち、ナゲット径に比例する。
【0031】
上記の通り、複数位置から送波され複数の方向へ伝搬する超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波して、その振幅をマトリックス表示することの利点を以下に示す。図6(a)、(b)は、超音波探触子10及び超音波探触子20とスポット溶接部2との位置関係が振動子アレイの配列方向(図の上下方向)にずれた場合を示し、図6(c)、(d)は、超音波探触子10及び超音波探触子20とスポット溶接部2との位置関係が振動子アレイの配列方向とは直角な方向(図の左右方向)にずれた場合を示している。図6において破線は超音波の平面経路を示している。超音波探触子10及び超音波探触子20とスポット溶接部2との位置関係が、図6(a)、(b)のように、振動子アレイの配列方向にずれた場合には、図5と比べ、マトリックス表示における減衰帯が左上(図6(a))または右下(図6(b))へ移動する。又、超音波探触子10及び超音波探触子20とスポット溶接部2との位置関係が、図6(c)、(d)のように、振動子アレイの配列方向とは直角な方向にずれた場合には、マトリックス表示の上端及び下端(図6(c))、あるいは、右端及び左端(図6(d))に超音波の減衰が小さい明るい表示が現われるようになる。従って、マトリックス表示の内容から、超音波探触子10及び超音波探触子20とスポット溶接部との位置関係にずれがないか検知することができる。
【0032】
本発明では、マトリックス表示を見ながら超音波探触子10及び20とスポット溶接部2との位置関係の調整ができるので、常に超音波探触子10及び20とスポット溶接部2との位置関係を一定に保つことによって、信頼性が高いスポット溶接部の健全性評価が可能である。
【0033】
又、超音波探触子10の振動子アレイ11〜11を用いて複数位置から送波され複数の方向へ伝搬する超音波を、超音波探触子20の振動子21〜21によって受波することにより、溶融凝固組織2bを含まない経路を伝搬してきた超音波を受波することが可能である。この振幅が一定になるように受波された超音波による信号の増幅度を調整することにより、超音波探触子10及び超音波探触子20と金属板(1a)との接触状態の変化による受波超音波の振幅変化を補償することができる。従って、本発明では受波した超音波の振幅に超音波探触子と金属板との接触状態変化の影響が現われることを防止できるので、信頼性が高いスポット溶接部の健全性評価が可能である。
【0034】
図7は本発明を実施するための装置の一例を示している。この装置は、超音波の送波に用いられる振動子アレイ11〜11を備えた超音波探触子10及び超音波の受波に用いられる振動子アレイ21〜21を備えた超音波探触子20、前記振動子アレイ11〜11の振動子から超音波を送波するのに用いられる電気パルスを供給し、又、前記振動子アレイ21〜21が受波した超音波の信号を増幅する超音波送受信器30、該超音波送受信器30と振動子アレイ11〜11との間に介在して、振動子アレイ11〜11の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路25、前記超音波送受信器30と振動子アレイ21〜21との間に介在して、振動子アレイ21〜21の各振動子と超音波送受信器30との接続を切り替えるスイッチ回路26、前記超音波送受信器30によって増幅された信号のうち被検体の表面沿いに伝搬する超音波による信号を取り出して、その振幅を検出するゲート手段31、該ゲート手段31によって検出された受波超音波の振幅を受け取って、表示器33に受波超音波の振幅のマトリックス表示を行う処理装置32によって構成されている。なお、超音波送受信器30によって増幅された信号をA/D変換し、ソフトウェアによって、ディジタル化された信号から被検体の表面沿いに伝搬する超音波による信号の振幅を検出するようにゲート手段31を構成することもできる。
【実施例】
【0035】
図7に示した装置において、超音波探触子10及び20のクサビ材12、22をポリスチロールとし、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を1.6mm、超音波の上板表面への入射角が34.7°となるようにしてスポット溶接部2の測定を実施した。測定の対象として板厚2.6mmの2枚の鋼板を重ねてスポット溶接して作製された30個のサンプルを用いた。この測定では、受波した超音波の振幅のマトリックス表示における減衰帯が、図5に示すように、丁度右上がりの対角線を中心として表示されるように、超音波探触子10及び20とスポット溶接部2との相対位置を調整して測定を行った。又、減衰帯の幅Wの測定では、振動子アレイの振動子11が送波し、振動子アレイの振動子21(n=1,2,‥,8,それぞれ向かい合う振動子が超音波の送波および受波を行う)が受波した超音波の振幅から、図8に示すように、アレイ配列方向でみた受波超音波の振幅プロフィルを補間によって求めて、この振幅プロフィルが所定のしきい値を下回る幅を求めた。そして、該減衰帯の幅Wをナゲット径とした。ここで、しきい値の設定方法は下記のとおりとした。即ち、予め数例のサンプルを用いて、断面検鏡の結果と前記振幅プロフィルとを比較した結果、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波の振幅に対してほぼ−6dBをしきい値とすると、検鏡により求めたナゲット径と本発明により求めたナゲット径が最もよく一致することが判明したので、ここではしきい値を−6dBとした。なお、前記しきい値(−6dB)は一例であって、実際は、測定対象ごとに実験値等に基づいてしきい値の設定を行うのが良い。
【0036】
従来技術との対比を行うため、上記測定方法及び特許文献6に示された方法を用い、超音波探触子(ここでは、特許文献6に示されたLamb波探触子も超音波探触子と称する)がサンプルに当接されてから5秒以内に測定を終了する条件を付けて測定を行った。図7に示した装置による(本発明による)測定結果を図9(b)、特許文献6に示された方法による測定結果を図9(a)に示す。図9では、横軸に切断試験の結果求められたナゲット径をとり、縦軸にそれぞれの方法により求められたナゲット径をとって散布図表示を行っている。図9(a)の特許文献6に示された方法では、超音波探触子と溶融凝固組織との位置合わせを短時間に行えないことが原因となったナゲット径の過小評価や、超音波探触子とサンプルとの接触状態が短時間ではなかなか安定しないこと、又、接触状態変化を補償する手段が無いことが原因となったナゲット径の過大評価が発生している。これに対し、図9(b)の本発明の測定結果では、全ての測定値が±0.5mm以内におさまっており、迅速に信頼性の高い測定結果が得られることがわかる。これは、受波超音波の振幅のマトリックス表示によって超音波探触子とスポット溶接部(溶融凝固組織)との位置合わせを容易に行えること、溶融凝固組織を含まない経路を伝搬して受波された超音波の振幅が一定になるように感度の調整を行うことにより、超音波探触子と金属板との接触状態の変化による受波超音波の振幅変化を補償することができることによるものである。なお、振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅を小さくすることによって、測定精度を更に高めることができる。振動子アレイ11〜11及び21〜21のアレイ配列方向における振動子の幅は、必要とされる測定精度に応じて決めるとよい。また、図8に示した受波超音波のアレイ配列方向での振幅プロフィルを用い、受波超音波の振幅の最小値と溶融凝固組織を含まない経路での受波超音波の振幅との比を求めて、特許文献6に示された方法を用いてナゲット径を求めることも可能である。
【0037】
特許文献6において、本願発明者はスポット溶接部の健全性評価に用いるLamb波として、Aモード、Sモード、あるいはA混在モードが好適であることを述べたが、この他にA2モードやS2モードのLamb波もスポット溶接部の健全性評価に好適であることが、本発明の過程において明らかになった。なお、本発明に用いる超音波は、前記したLamb波に限らず、溶融凝固組織において減衰を受ける波動であれば、縦波、あるいは横波であってもよい。
【0038】
本実施形態においては、送波側、受波側、共に振動子アレイを備えた超音波探触子を用いているので、構成が簡略である。なお、いずれか一方、又は、両方に、複数の探触子を並置して用いたり、又は、単一の探触子を走査して用いることも可能である。
【0039】
又、自動車等のスポット溶接部にはその周囲の金属板表面にゆるやかな凹凸が形成されている場合がある。このようなときには、超音波探触子10及び超音波探触子20の被検体に当接する表面にゴム等の柔軟に変形する部材を貼付しておくと、超音波探触子10及び20と金属板表面との接触が安定しやすいので、実用上、効果がある。
【0040】
なお、前記説明においては、本発明が金属板の溶接検査に適用されていたが、本発明の適用対象は、これに限定されない。又、溶接枚数も2枚に限定されず、スポット溶接部の健全性の評価も、ナゲット径のみを測定するものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態の構成を示す斜視図
【図2】本発明の原理を説明するための、超音波の伝搬経路を示す断面図
【図3】同じく平面図
【図4】スポット溶接部の断面図
【図5】受波超音波の振幅のマトリックス表示の例を示す図
【図6】超音波探触子とスポット溶接部との相対位置がずれた場合のマトリックス表示の例を示す説明図
【図7】本発明を実施するための装置の例を示す一部ブロック図を含む斜視図
【図8】受波超音波の振幅の補間曲線を示す線図
【図9】従来法と本発明法による測定結果の精度を比較して示す線図
【図10】スポット溶接部を解説するための断面図
【符号の説明】
【0042】
1a、101a…上板
1b、101b…下板
2、102…スポット溶接部
2a、102a…ナゲット
2b…溶融凝固組織(溶接金属)
10、20…超音波探触子
11、21…振動子アレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価方法において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、
スポット溶接部の外側の金属板の複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波し、
スポット溶接部の外側の金属板の複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波し、
前記複数位置において受波された超音波からスポット溶接部の健全性を評価することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、受波された超音波の振幅を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価方法。
【請求項3】
複数の金属板を重ね合わせて溶接してなるスポット溶接部の超音波による評価装置において、金属板またはスポット溶接部の表面沿いの方向と厚さ方向とによって形成される断面内を伝搬する超音波を被検体の表面沿いに伝搬する超音波と称することとしたとき、
スポット溶接部の外側の金属板の複数の送波位置から複数方向へ向けて、被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波する手段と、
スポット溶接部の外側の金属板の複数の受波位置において、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波、及び伝搬経路にスポット溶接部を含む被検体の表面沿いに伝搬してきた超音波を受波する手段と、
前記複数位置において受波された超音波からスポット溶接部の健全性を評価する手段と、
を備えたことを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置において、受波された超音波の振幅を検出することにより、スポット溶接部のナゲットの径を測定することを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の装置において、
さらに、各送波位置から送波され、各受波位置で受波された信号の振幅をマトリックス表示する表示手段を備えたことを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項6】
前記表示手段の表示結果に基づき、前記超音波を送波する手段および前記超音波を受波する手段と前記スポット溶接部との位置関係を調整することを特徴とする請求項5に記載の超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項7】
前記表示手段の表示結果を参照し、伝搬経路にスポット溶接部を含まない被検体の表面沿いに伝搬して受波された超音波の振幅に基づいて、受波された超音波による信号の増幅度を調整することを特徴とする請求項5に記載の超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれかに記載の装置において、複数の送波位置から複数方向へ向けて被検体の表面沿いに伝搬する超音波を送波する手段が、振動子アレイを備えた超音波探触子であることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項9】
請求項3乃至8のいずれかに記載の装置において、複数の受波位置において超音波を受波する手段が、振動子アレイを備えた超音波探触子であることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の装置において、振動子アレイを備えた超音波探触子が金属板に当接する表面に、柔軟に変形する部材が貼付されていることを特徴とする超音波によるスポット溶接部の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−71422(P2006−71422A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254477(P2004−254477)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】