超音波による耐火建物の受熱影響に関する測定方法及び装置
【課題】火災の焼け跡のコンクリート構造物に対して非接触式で空間超音波を照射して受熱状態を分析する方法を提供する。
【解決手段】極めて強力な超音波発生装置を用いて、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定し、その測定値のうち特に2次高調波成分を分析することにより、コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することができる。
【解決手段】極めて強力な超音波発生装置を用いて、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定し、その測定値のうち特に2次高調波成分を分析することにより、コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波用いて構造物の火災等による受熱状態を分析する方法に関し、特に、構造物に対して非接触式で空間超音波を照射して受熱状態を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建築物で火災が発生した場合、焼け跡に残る壁、柱などの構造物には、その出火原因を推定する重要な情報が多く含まれる。これらの構造物の受熱状態が明らかとなれば、火元や出火原因を推定することが可能となる。そこで、火災後のコンクリート構造物の状態を非破壊的に検査することにより、受熱状態を推定する方法が提案されている。
【0003】
一般的に、コンクリート構造物の非破壊的検査方法としては、電磁波照射、音波・超音波照射、通電などを行い、その伝搬速度等を測定するものが一般的である。
例えば、特許文献1には、コンクリ−ト表層部に2つの測定孔を設け、一方の測定孔から超音波を発振し、他方の測定孔において伝搬された超音波を受振した結果を基に、所定の強度計算を行うことにより、コンクリ−トの劣化状態を深度毎に定量的に測定する技術が開示されている。
また、特許文献2には、トンネル等のコンクリート壁面に添わせたワイヤの一端に超音波探触子を設けて超音波を入射し、その反射波を超音波センサで受信することにより、トンネル崩落等によるワイヤ断線を検知する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−28842号公報
【特許文献2】特開平10−205300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示された測定・検査技術、その他の従来技術では、超音波等を発振・受振する探索子を対象物の表面に接触させて測定を行うものである。
しかしながら、火災の焼け跡においては、接触式の測定を適切に行えるような条件を確保するのは困難であったり、危険が伴ったりする場合が多い。また、火災直後であれば、対象物が高温状態であり、接触式の測定を行うのは危険である。
【0005】
このような実情に鑑みて、本発明は、火災の焼け跡のコンクリート構造物に対して非接触式で空間超音波を照射して受熱状態を分析する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の通り、火災の焼け跡のコンクリート構造物に対して接触式で超音波を入射させる測定方法は、測定条件確保が困難であったり危険であったりする場合が多いが、非接触式で超音波を入射させて測定することができれば、そのような問題は生じない。
一方で、コンクリート構造物に非接触式で超音波を照射しても、そのほとんどは表面で反射されてしまうので、コンクリート構造物内に超音波を入射させるには極めて強力な超音波を照射する必要がある。また、極めて強力な超音波を照射したとしても、コンクリート構造物内にごく僅かなエネルギーの超音波を伝搬させることができるに過ぎない。
現在、コンクリート構造物内に入射できる程度の強力な空中超音波を発生可能な発振器であって、火災の焼け跡に持ち込んで測定を行えるようなものは存在しない。また、コンクリート構造物内に伝搬するごく僅かなエネルギーの超音波を測定する技術も確立されていない。
【0007】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、コンクリート構造物内に入射可能な空間超音波の発振器と、コンクリート構造物内に伝搬する超音波の伝搬状態を測定する手段とを開発するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、コンクリート構造物の受熱状態を分析する方法であって、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、当該コンクリート構造物表面の振動変位を測定し、当該測定値を分析することにより、当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかがを判定する方法を提供するものである。
【0009】
本発明の分析方法は、また、前記コンクリート構造物表面の振動変位の測定値から2次高調波成分を抽出し、当該2次高調波成分に基づいて当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することを特徴とする。
【0010】
本発明の分析方法は、また、超音波発生手段と、当該超音波発生手段により発生した超音波を空間に放射する振動板と、放物面状の反射曲面を有し、振動板から空間に放射された超音波を一定の集束面に向けて反射させる集束手段とを備えた超音波発生装置を用いて、前記集束面に配置したコンクリート構造物に超音波を照射して、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析することを特徴とする。
【0011】
本発明の分析方法は、また、前記超音波発生手段への供給電力を一定範囲で変更するとともに、供給電力の変化と、コンクリート構造物表面の振動変位との関係を分析することにより、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析する。
【発明の効果】
【0012】
以上、説明したように、本発明によれば、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定・分析することにより、従来とは全く異なる新しい方法でコンクリート構造物の受熱状態を分析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法を実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1〜図14は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0014】
[1]超音波の発生装置
図1は、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法において用いる、超音波の発生装置の概略を示す図である。
図1において、超音波発生装置は、BLT(ボルト締めランジュバン型振動子)と、BLTにより発生した超音波を振幅拡大させるエクスポネンシャルホーンと、エクスポネンシャルホーン先端に備えられた棒状の超音波伝導部材と、超音波伝導部材先端に備えられた矩形の縞モードたわみ振動板と、振動板の両面上備えられた放射方向変換器とから構成される。また、図示しないが、BLTへの電源供給装置を備えている。
【0015】
縞モードたわみ振動板は、ジュラルミン製であり、330mm×170mm×5mmの寸法を有する。この振動板では、共振周波数19.62kHzで節線数14本の縞モード振動が発生する。
【0016】
図2は、図1に示す縞モードたわみ振動板上に備えられた放射方向変換器の構成を概略的に示す図である。
図2において、放射方向変換器は、縞モードたわみ振動板上にほぼ一定間隔で、縞モードたわみ振動板とほぼ垂直に配置された離隔板と、隣り合う離隔板の端縁間に形成された方向反射板とから構成される。離隔板は、縞モードたわみ振動板の各面上に14枚配置されている。離隔板は、図1に示すように、超音波の集束点に向かって放物面を成す形状となっている。
【0017】
以上のように構成された超音波発生装置において、BLTにより発生された超音波が縞モードたわみ振動板に伝導され、縞モードたわみ振動板では縞モード振動が発生する。ここで、図3に示すように、縞モードたわみ振動板上では14の節を持つ屈曲定在波が生じ、各節間から縞モードたわみ振動板と垂直な方向に超音波が放射されることになる。尚、図3において、実線の矢印と点線の矢印とはそれぞれの音波の位相が互いに反転していることを示す。
【0018】
縞モードたわみ振動板の各面から上下に放射された超音波は、離隔板の放物面にて反射され、図1に示すように所定の集束点に向かう。実際には、集束点を中心とした直径約1cmの円形面(以下、「集束面」という)内に超音波が集束される。
尚、縞モードたわみ振動板からは互いに位相が反転した2種類の超音波が発生するが、図2に示すように、離隔板のy軸方向の設置位置を調整することにより、集束面では位相が一致するように調整されている。
【0019】
この超音波発生装置に電力を供給し、集束面を縞モードたわみ振動板の端から140mmとして超音波を発生させ、集束面内の1点での音圧を測定した。その測定結果を図4に示す。
測定結果によれば、50Wの電力供給により、約4040Pa(約172dB)の音圧となるが、これは極めて強力な空間超音波である。このことは、ジャンボジェット機のターボファンエンジン付近の騒音レベル(約140dB)や、国産H−II型ロケットのエンジン付近の騒音レベル(約162dB)であることと比較すれば明らかである。
【0020】
尚、超音波発生装置は上記の構成に限定されるものではなく、発生させようとする超音波の性質に応じて、音源、振動板、放射方向変換器などの寸法、形状、材料を適宜選択して、所望の超音波発生装置を作成することが可能である。
【0021】
[2]コンクリート構造物試料への超音波照射
上記の超音波発生装置を用いて、高温に晒されたコンクリート構造物試料に空間超音波を照射し、その振動変異特性を分析した。
【0022】
コンクリート構造物試料として、コンクリートの基礎材料であるモルタル試料を用いた。ここで用いた3種類のモルタル試料の性質を図5に示す。まず、常温で直径49.96mm、厚さ21.42mm、重量91.08gの円筒状のモルタル試料を準備し、これを常温の試料とした。さらに、常温の試料と同様の試料を2つ用意し、一方を電気炉で500℃に加熱した後冷却し、他方を電気炉で1000℃に加熱した後冷却し、それぞれを500℃、1000℃に晒された試料とした。
【0023】
上記の超音波発生装置を用いて、上記3種類の試料に空間超音波を照射し、図6に示す。
図6において、上記のモルタル試料を超音波の集束面内(縞モードたわみ振動板の端から140mm)に配置するとともに、モルタル試料と縞モードたわみ振動板との間にレーザードップラー振動計のセンサを配置している。レーザードップラー振動計によりモルタル試料表面の振動変位を測定し、その測定値に基づきFFTアナライザにより周波数分析を行う。構造物表面の振動を計測する方法としては、マイクロホンや接触式ピックアップによる計測も可能であるが、ここでは、非接触式で高感度の計測が可能なレーザードップラー振動計を用いることとした。
【0024】
上記の3種類のモルタル試料各々に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した。
常温のモルタル試料(以下、「常温試料」という)における測定結果を図7及び図8に示す。
500℃に晒されたモルタル試料(以下、「500℃試料」という)における測定結果を図9及び図10に示す。
1000℃に晒されたモルタル試料(以下、「1000℃試料」という)における測定結果を図11及び図12に示す。
【0025】
試料表面に生じる振動変位は、照射した超音波の共振周波数19.62kHzのほか、この基本波周波数の整数倍の高調波となって現れる。これは、超音波発生装置から照射された超音波が有限振幅音波であるため、空気中を伝搬する間に歪みを生じて、共振周波数の整数倍の高調波を発生することを原因とする。
そこで、レーザードップラー振動計による測定値をFFTアナライザで周波数分析することにより、周波数ごとに振動変位を計測することが可能となる。
【0026】
図7、図9、図11に示すグラフでは、それぞれ、常温試料、500℃試料、1000℃試料の表面の振動変位の測定値を周波数ごとに示している。各グラフにおいて、基本波から5次高調波までの振動変位と、全周波数の振動変位の合計(overall)とを示している。
図8、図10、図12に示すグラフでは、それぞれ、同測定値を基本波と2次〜5次高調波との比で示している。
【0027】
図7〜図12のグラフに示された測定結果を見ると、3つの試料間で特に2次高調波成分の現れ方が大きく異なっていることが分かる。
図13及び図14は、常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。このように、3つの試料間で2次高調波成分の現れ方を比較することで、3つの試料の違いがはっきりと分かる。
【0028】
以上説明したように、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法では、図1に示す超音波発生装置を用いて、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定し、その測定値のうち特に2次高調波成分を分析することにより、コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することができる。
【0029】
尚、上記はモルタル試料の集束面内における1点の振動特性を測定した例であるが、図1に示す超音波発生装置は、超音波を直径約1cmの集束面内に照射することができるので、当該集束面内にわたる振動特性を測定することも可能である。これにより、コンクリート構造物の一定面内の受熱状況の分布を分析することも可能となる。
【0030】
以上、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更・改良を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法において用いる、超音波の発生装置の概略を示す図で得ある。
【図2】図1に示す縞モードたわみ振動板上に備えられた放射方向変換器の構成を概略的に示す図である。
【図3】図1に示す縞モードたわみ振動板からの超音波の放射を示す図である。
【図4】図1に示す超音波発生装置を用いて発生させた超音波の測定結果を示す図である。
【図5】空間超音波を照射したモルタル試料の性質を示す図である。
【図6】図1に示す超音波発生装置を用いたコンクリート構造物試料の測定方法を示す図である。
【図7】常温のモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図8】常温のモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図9】500℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図10】500℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図11】1000℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図12】1000℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図13】常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。
【図14】常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波用いて構造物の火災等による受熱状態を分析する方法に関し、特に、構造物に対して非接触式で空間超音波を照射して受熱状態を分析する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート建築物で火災が発生した場合、焼け跡に残る壁、柱などの構造物には、その出火原因を推定する重要な情報が多く含まれる。これらの構造物の受熱状態が明らかとなれば、火元や出火原因を推定することが可能となる。そこで、火災後のコンクリート構造物の状態を非破壊的に検査することにより、受熱状態を推定する方法が提案されている。
【0003】
一般的に、コンクリート構造物の非破壊的検査方法としては、電磁波照射、音波・超音波照射、通電などを行い、その伝搬速度等を測定するものが一般的である。
例えば、特許文献1には、コンクリ−ト表層部に2つの測定孔を設け、一方の測定孔から超音波を発振し、他方の測定孔において伝搬された超音波を受振した結果を基に、所定の強度計算を行うことにより、コンクリ−トの劣化状態を深度毎に定量的に測定する技術が開示されている。
また、特許文献2には、トンネル等のコンクリート壁面に添わせたワイヤの一端に超音波探触子を設けて超音波を入射し、その反射波を超音波センサで受信することにより、トンネル崩落等によるワイヤ断線を検知する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−28842号公報
【特許文献2】特開平10−205300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示された測定・検査技術、その他の従来技術では、超音波等を発振・受振する探索子を対象物の表面に接触させて測定を行うものである。
しかしながら、火災の焼け跡においては、接触式の測定を適切に行えるような条件を確保するのは困難であったり、危険が伴ったりする場合が多い。また、火災直後であれば、対象物が高温状態であり、接触式の測定を行うのは危険である。
【0005】
このような実情に鑑みて、本発明は、火災の焼け跡のコンクリート構造物に対して非接触式で空間超音波を照射して受熱状態を分析する方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の通り、火災の焼け跡のコンクリート構造物に対して接触式で超音波を入射させる測定方法は、測定条件確保が困難であったり危険であったりする場合が多いが、非接触式で超音波を入射させて測定することができれば、そのような問題は生じない。
一方で、コンクリート構造物に非接触式で超音波を照射しても、そのほとんどは表面で反射されてしまうので、コンクリート構造物内に超音波を入射させるには極めて強力な超音波を照射する必要がある。また、極めて強力な超音波を照射したとしても、コンクリート構造物内にごく僅かなエネルギーの超音波を伝搬させることができるに過ぎない。
現在、コンクリート構造物内に入射できる程度の強力な空中超音波を発生可能な発振器であって、火災の焼け跡に持ち込んで測定を行えるようなものは存在しない。また、コンクリート構造物内に伝搬するごく僅かなエネルギーの超音波を測定する技術も確立されていない。
【0007】
そこで、本発明者は、鋭意研究の結果、コンクリート構造物内に入射可能な空間超音波の発振器と、コンクリート構造物内に伝搬する超音波の伝搬状態を測定する手段とを開発するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、コンクリート構造物の受熱状態を分析する方法であって、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、当該コンクリート構造物表面の振動変位を測定し、当該測定値を分析することにより、当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかがを判定する方法を提供するものである。
【0009】
本発明の分析方法は、また、前記コンクリート構造物表面の振動変位の測定値から2次高調波成分を抽出し、当該2次高調波成分に基づいて当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することを特徴とする。
【0010】
本発明の分析方法は、また、超音波発生手段と、当該超音波発生手段により発生した超音波を空間に放射する振動板と、放物面状の反射曲面を有し、振動板から空間に放射された超音波を一定の集束面に向けて反射させる集束手段とを備えた超音波発生装置を用いて、前記集束面に配置したコンクリート構造物に超音波を照射して、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析することを特徴とする。
【0011】
本発明の分析方法は、また、前記超音波発生手段への供給電力を一定範囲で変更するとともに、供給電力の変化と、コンクリート構造物表面の振動変位との関係を分析することにより、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析する。
【発明の効果】
【0012】
以上、説明したように、本発明によれば、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定・分析することにより、従来とは全く異なる新しい方法でコンクリート構造物の受熱状態を分析することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法を実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1〜図14は、本発明の実施の形態を例示する図であり、これらの図において、同一の符号を付した部分は同一物を表わし、基本的な構成及び動作は同様であるものとする。
【0014】
[1]超音波の発生装置
図1は、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法において用いる、超音波の発生装置の概略を示す図である。
図1において、超音波発生装置は、BLT(ボルト締めランジュバン型振動子)と、BLTにより発生した超音波を振幅拡大させるエクスポネンシャルホーンと、エクスポネンシャルホーン先端に備えられた棒状の超音波伝導部材と、超音波伝導部材先端に備えられた矩形の縞モードたわみ振動板と、振動板の両面上備えられた放射方向変換器とから構成される。また、図示しないが、BLTへの電源供給装置を備えている。
【0015】
縞モードたわみ振動板は、ジュラルミン製であり、330mm×170mm×5mmの寸法を有する。この振動板では、共振周波数19.62kHzで節線数14本の縞モード振動が発生する。
【0016】
図2は、図1に示す縞モードたわみ振動板上に備えられた放射方向変換器の構成を概略的に示す図である。
図2において、放射方向変換器は、縞モードたわみ振動板上にほぼ一定間隔で、縞モードたわみ振動板とほぼ垂直に配置された離隔板と、隣り合う離隔板の端縁間に形成された方向反射板とから構成される。離隔板は、縞モードたわみ振動板の各面上に14枚配置されている。離隔板は、図1に示すように、超音波の集束点に向かって放物面を成す形状となっている。
【0017】
以上のように構成された超音波発生装置において、BLTにより発生された超音波が縞モードたわみ振動板に伝導され、縞モードたわみ振動板では縞モード振動が発生する。ここで、図3に示すように、縞モードたわみ振動板上では14の節を持つ屈曲定在波が生じ、各節間から縞モードたわみ振動板と垂直な方向に超音波が放射されることになる。尚、図3において、実線の矢印と点線の矢印とはそれぞれの音波の位相が互いに反転していることを示す。
【0018】
縞モードたわみ振動板の各面から上下に放射された超音波は、離隔板の放物面にて反射され、図1に示すように所定の集束点に向かう。実際には、集束点を中心とした直径約1cmの円形面(以下、「集束面」という)内に超音波が集束される。
尚、縞モードたわみ振動板からは互いに位相が反転した2種類の超音波が発生するが、図2に示すように、離隔板のy軸方向の設置位置を調整することにより、集束面では位相が一致するように調整されている。
【0019】
この超音波発生装置に電力を供給し、集束面を縞モードたわみ振動板の端から140mmとして超音波を発生させ、集束面内の1点での音圧を測定した。その測定結果を図4に示す。
測定結果によれば、50Wの電力供給により、約4040Pa(約172dB)の音圧となるが、これは極めて強力な空間超音波である。このことは、ジャンボジェット機のターボファンエンジン付近の騒音レベル(約140dB)や、国産H−II型ロケットのエンジン付近の騒音レベル(約162dB)であることと比較すれば明らかである。
【0020】
尚、超音波発生装置は上記の構成に限定されるものではなく、発生させようとする超音波の性質に応じて、音源、振動板、放射方向変換器などの寸法、形状、材料を適宜選択して、所望の超音波発生装置を作成することが可能である。
【0021】
[2]コンクリート構造物試料への超音波照射
上記の超音波発生装置を用いて、高温に晒されたコンクリート構造物試料に空間超音波を照射し、その振動変異特性を分析した。
【0022】
コンクリート構造物試料として、コンクリートの基礎材料であるモルタル試料を用いた。ここで用いた3種類のモルタル試料の性質を図5に示す。まず、常温で直径49.96mm、厚さ21.42mm、重量91.08gの円筒状のモルタル試料を準備し、これを常温の試料とした。さらに、常温の試料と同様の試料を2つ用意し、一方を電気炉で500℃に加熱した後冷却し、他方を電気炉で1000℃に加熱した後冷却し、それぞれを500℃、1000℃に晒された試料とした。
【0023】
上記の超音波発生装置を用いて、上記3種類の試料に空間超音波を照射し、図6に示す。
図6において、上記のモルタル試料を超音波の集束面内(縞モードたわみ振動板の端から140mm)に配置するとともに、モルタル試料と縞モードたわみ振動板との間にレーザードップラー振動計のセンサを配置している。レーザードップラー振動計によりモルタル試料表面の振動変位を測定し、その測定値に基づきFFTアナライザにより周波数分析を行う。構造物表面の振動を計測する方法としては、マイクロホンや接触式ピックアップによる計測も可能であるが、ここでは、非接触式で高感度の計測が可能なレーザードップラー振動計を用いることとした。
【0024】
上記の3種類のモルタル試料各々に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した。
常温のモルタル試料(以下、「常温試料」という)における測定結果を図7及び図8に示す。
500℃に晒されたモルタル試料(以下、「500℃試料」という)における測定結果を図9及び図10に示す。
1000℃に晒されたモルタル試料(以下、「1000℃試料」という)における測定結果を図11及び図12に示す。
【0025】
試料表面に生じる振動変位は、照射した超音波の共振周波数19.62kHzのほか、この基本波周波数の整数倍の高調波となって現れる。これは、超音波発生装置から照射された超音波が有限振幅音波であるため、空気中を伝搬する間に歪みを生じて、共振周波数の整数倍の高調波を発生することを原因とする。
そこで、レーザードップラー振動計による測定値をFFTアナライザで周波数分析することにより、周波数ごとに振動変位を計測することが可能となる。
【0026】
図7、図9、図11に示すグラフでは、それぞれ、常温試料、500℃試料、1000℃試料の表面の振動変位の測定値を周波数ごとに示している。各グラフにおいて、基本波から5次高調波までの振動変位と、全周波数の振動変位の合計(overall)とを示している。
図8、図10、図12に示すグラフでは、それぞれ、同測定値を基本波と2次〜5次高調波との比で示している。
【0027】
図7〜図12のグラフに示された測定結果を見ると、3つの試料間で特に2次高調波成分の現れ方が大きく異なっていることが分かる。
図13及び図14は、常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。このように、3つの試料間で2次高調波成分の現れ方を比較することで、3つの試料の違いがはっきりと分かる。
【0028】
以上説明したように、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法では、図1に示す超音波発生装置を用いて、超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、その際のコンクリート構造物表面の振動変位を測定し、その測定値のうち特に2次高調波成分を分析することにより、コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することができる。
【0029】
尚、上記はモルタル試料の集束面内における1点の振動特性を測定した例であるが、図1に示す超音波発生装置は、超音波を直径約1cmの集束面内に照射することができるので、当該集束面内にわたる振動特性を測定することも可能である。これにより、コンクリート構造物の一定面内の受熱状況の分布を分析することも可能となる。
【0030】
以上、本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法について、具体的な実施の形態を示して説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、様々な変更・改良を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のコンクリート構造物の受熱状態を分析する方法において用いる、超音波の発生装置の概略を示す図で得ある。
【図2】図1に示す縞モードたわみ振動板上に備えられた放射方向変換器の構成を概略的に示す図である。
【図3】図1に示す縞モードたわみ振動板からの超音波の放射を示す図である。
【図4】図1に示す超音波発生装置を用いて発生させた超音波の測定結果を示す図である。
【図5】空間超音波を照射したモルタル試料の性質を示す図である。
【図6】図1に示す超音波発生装置を用いたコンクリート構造物試料の測定方法を示す図である。
【図7】常温のモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図8】常温のモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図9】500℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図10】500℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図11】1000℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図12】1000℃に晒されたモルタル試料に対して、供給電力を10W〜50Wの範囲で変化させながら超音波を照射し、振動変位を測定した結果を示す図である。
【図13】常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。
【図14】常温試料、500℃試料、1000℃試料における2次高調波の現れ方を比較して示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の受熱状態を分析する方法であって、
超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、当該コンクリート構造物表面の振動変位を測定し、当該測定値を分析することにより、当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかがを判定する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分析方法であって、
前記コンクリート構造物表面の振動変位の測定値から2次高調波成分を抽出し、当該2次高調波成分に基づいて当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することを特徴とする分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分析方法であって、
超音波発生手段と、
当該超音波発生手段により発生した超音波を空間に放射する振動板と、
放物面状の反射曲面を有し、振動板から空間に放射された超音波を一定の集束面に向けて反射させる集束手段とを備えた超音波発生装置を用いて、
前記集束面に配置したコンクリート構造物に超音波を照射して、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析することを特徴とする分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析方法であって、
前記超音波発生手段への供給電力を一定範囲で変更するとともに、
供給電力の変化と、コンクリート構造物表面の振動変位との関係を分析することにより、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析する分析方法。
【請求項1】
コンクリート構造物の受熱状態を分析する方法であって、
超音波を非接触式でコンクリート構造物に照射し、当該コンクリート構造物表面の振動変位を測定し、当該測定値を分析することにより、当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかがを判定する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分析方法であって、
前記コンクリート構造物表面の振動変位の測定値から2次高調波成分を抽出し、当該2次高調波成分に基づいて当該コンクリート構造物が受熱影響を有するものであるかどうかを判定することを特徴とする分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分析方法であって、
超音波発生手段と、
当該超音波発生手段により発生した超音波を空間に放射する振動板と、
放物面状の反射曲面を有し、振動板から空間に放射された超音波を一定の集束面に向けて反射させる集束手段とを備えた超音波発生装置を用いて、
前記集束面に配置したコンクリート構造物に超音波を照射して、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析することを特徴とする分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析方法であって、
前記超音波発生手段への供給電力を一定範囲で変更するとともに、
供給電力の変化と、コンクリート構造物表面の振動変位との関係を分析することにより、当該コンクリート構造物の受熱状態を分析する分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−69027(P2009−69027A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238546(P2007−238546)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(591043581)東京都 (107)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】
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