説明

超音波トランスデューサおよび超音波トランスデューサを備えた超音波プローブ

【課題】圧電素子とバッキング材との接続において、接着強度の低下、少なくとも音響特性の劣化を回避しつつ、バッキング材内に埋設した電極リードと圧電素子の背面駆動電極とを確実に接続する超音波トランスデューサを提供する。
【解決手段】超音波トランスデューサ100は、内部に電極リード21が埋設され、一面から電極リード21の一端部が露出されたバッキング材18の当該一面において、凹形状の接合部18aが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波プローブの技術に関し、特に超音波プローブに用いられる超音波トランスデューサの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波プローブにより被検体の所望の診断部位の情報を取得するため、その部位に超音波を送波(送信)し、音響インピーダンスの異なる被検体内の組織境界から反射波を受信する。このようにして、超音波プローブにより超音波を走査して、被検体の体内組織の情報を得て画像化することにより診断を行うものである。この超音波プローブは、被検体等に超音波を送波し、反射波を受波するために、超音波トランスデューサを有している。
【0003】
従来から、超音波診断装置の超音波プローブに用いられる超音波トランスデューサとして、複数の圧電素子をアレイ状に配列した1次元アレイの超音波トランスデューサが使用されている。しかし近年においては、圧電素子をマトリックス状に配列した2次元アレイの超音波トランスデューサが用いられるようになっている。2次元アレイの超音波トランスデューサでは、3次元で超音波画像収集・表示を行うことができる。3次元の超音波画像は2次元画像において見逃されやすい部位の診断に有用であり、また、診断や計測に適した断層像を得ることができ、診断精度の向上が期待できる。
【0004】
ただし、電子走査法の2次元アレイの超音波トランスデューサを使用する方法においては、圧電素子が2次元的に配列されることにより、圧電素子の素子数の増大(例えば、10倍〜100倍)をともなってしまう。圧電素子と超音波診断装置本体との間は、電気信号の処理、圧電素子に対しての電気信号の送受信等を行う中継基板を介して接続されており、この圧電素子数の増大によって、当該中継基板と圧電素子との電気的な接続を行う電極リード数は大幅に増加する。
【0005】
この電極リード数の大幅な増加は、超音波プローブにおける圧電素子(圧電体)と、中継基板における送受信回路および超音波診断装置本体等との接続構造の複雑化を招く。接続構造が複雑化すると2次元アレイの超音波トランスデューサの実現を困難とするおそれが生じる。よって、2次元アレイ上に配列された圧電素子と後段の回路との接続、例えば電極リードと中継基板との接続構造や、圧電素子と電極リードとの接続構造を複雑化せずに、2次元アレイの超音波トランスデューサの実現を可能とする構成が必要となる。
【0006】
このような各圧電素子と電極リードの接続構造の例として、例えば、圧電素子の背面に配設された背面電極から直接、電極リードを引き出すことが考えられる。例えば、圧電素子の音響制動を目的として、圧電素子の背面に配設されたバッキング材内に、電極リードを備え積層されたフレキシブルプリント基板(以下、FPC)を埋設することによって、FPC端面と背面電極とを電気的に接続する方法がある。このFPC端面と背面電極との電気的接続の例としては、圧電素子とバッキング材とを硬化前粘性の高い導電性接着剤で接着することによって、圧電素子の背面駆動電極とバッキング材前面に露出した電極リードとを接続する構成が考えられる(例えば特許文献1)。
【0007】
このように内部に電極リードを備えたバッキング材と圧電素子の背面電極を電気的に接続する場合においては、一般的に図10に示すような接合方法がとられる。ここで図10は、従来の超音波トランスデューサにおける電極リードを埋設したバッキング材と圧電素子との接合構造を示す概略断面図である。
【0008】
図10に示すように、従来の超音波トランスデューサ300は、2次元アレイ状に配列される圧電素子(圧電体)314の、超音波の照射方向側となる前面に前面電極312が設けられ、当該前面と相対する背面には駆動電極となる背面電極316が設けられている。また、背面電極316のさらに背面側には、バッキング材318が接合されている。また、前面電極312のさらに前方(超音波の照射方向/図10におけるX方向)には第2音響整合層311bおよび第1音響整合層311aが設けられる。
【0009】
当該バッキング材318には、電極リードを内部に備えるFPC320が圧電素子314の配列に対応して埋設されている。このFPC320の端面から電極リードが露出されており、この露出された電極リードと背面電極316とが電気的に接続される。
【0010】
このように、バッキング材318内にFPC320を積層して埋設し、電極リードを内部に備えたFPC320の端面と、背面電極316とを電気的に接続するような従来の超音波トランスデューサ300では、バッキング材318と圧電素子314の接合において硬化前に粘性の高い導電性接着剤を用いるのが一般的である。
【0011】
【特許文献1】特開2000−166923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図10に示すような従来の超音波トランスデューサ300では、圧電素子314の背面およびFPC320の端面が露出したバッキング材318の前面の形状が略平面となっている。したがって、導電性接着剤を介して接着を行おうとした際に、導電性接着剤の粘性の高さにより均一とならず、バッキング材318とFPC320の端面との接続部分となる接着面において、中央部分の厚みが厚くなり周辺部では薄くなるといったように導電性接着剤が全体に行き渡り難い。
【0013】
しかし、接着の強度と電気的接続の観点から導電性接着剤は接着面において、ある程度の厚みで均一となることが必要である。すなわち、超音波トランスデューサにおけるバッキング材と圧電素子との接続、つまり背面電極とFPC端面との接続については、接着時における電極リードと圧電素子の背面電極の電気的な接続を保持するために、接着後においてもバッキング材と圧電素子における接着強度を保持する必要があるので、導電性接着剤層の厚みは薄すぎないようにしなければならない。
【0014】
また、導電性接着剤層が厚くなりすぎても、問題が発生する。すなわち、バッキング材と圧電素子との接着面に介在する当該接着剤層が厚くなればなるほど超音波トランスデューサとしての音響面において、放射超音波の特性(波連長、周波数帯域)に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0015】
この点、バッキング材と圧電素子とを接着させる接着工程において接着面をすり合わせることによって接着面における導電性接着剤の厚みを薄くする方法があるが、この方法においても、すり合わせる面の中央付近が薄くなりすぎる傾向にあり、導電性接着剤層の厚みを均一にし難く、接着強度の保持と音響特性の向上との均衡をとることが困難である。
【0016】
この発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、圧電素子とバッキング材との接続において、接着強度の低下、少なくとも音響特性の劣化を回避しつつ、バッキング材内に埋設した電極リードと圧電素子の背面電極とを確実に接続することができる超音波トランスデューサおよび、当該超音波トランスデューサを備えた超音波プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するための本発明は、超音波を照射する方向と反対側となる背面に、背面電極を有する複数の圧電素子と、前記圧電素子の前記背面に配置されるバッキング材と、前記バッキング材の内部に埋設され、一端部が該バッキング材の一面から露出して前記背面電極に接合される電極リードと、前記圧電素子の背面、または前記バッキング材の前記一面のいずれか一方に形成された凹形状の接合部とを備えたこと、を特徴とする超音波トランスデューサである。
また、上記の課題を解決するための本発明は、超音波を照射する方向と反対側となる背面に、背面電極を有する複数の圧電素子と、前記圧電素子の前記背面に配置されるバッキング材と、前記バッキング材の内部に埋設され、一部が該バッキング材の一面から露出して前記背面電極に接合される電極リードと、前記圧電素子の背面、または前記バッキング材の前記一面のいずれか一方に形成された凹形状の接合部とを有した超音波トランスデューサを備えたこと、を特徴とする超音波プローブである。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、バッキング材の一面に一部を露出して引き出された電極リードと圧電素子の背面電極とを接続する場合において、圧電素子の背面側、およびバッキング材の電極リードが引き出された一面側のいずれか一方であって、当該対向面に対応する位置に凹部が形成されている。したがって、バッキング材と圧電素子との接着に導電性接着剤を用い、対向する接着面同士をすり合わせても、導電性接着剤が接着面全体に行き渡り、導電性接着剤層が当該接合部に留置される。したがって、背面電極と電極リードとの接続面において導電性接着剤層が均一に広がり、導電性接着剤層が薄すくなりすぎることによる接着強度の低下を回避し、背面電極および電極リード間に存在する導電性接着剤層が厚すぎることによる音響特性の劣化を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサおよび超音波プローブにつき、図面を参照して説明する。
【0020】
[実施形態]
図1(A)は、この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサ100を第1音響整合層11a側から見た状態を示す概略斜視図である。また、図1(B)は、この発明の実施形態にかかるバッキング材に埋設されるプリント基板20を示す概略斜視図である。以下、本実施形態にかかる超音波トランスデューサの構成について説明する。
【0021】
(超音波トランスデューサの概略構成)
図1(A)に示すように、この実施形態にかかる超音波トランスデューサ100は、2次元アレイ状に配列される圧電素子(圧電体)14の、超音波の照射方向側となる前面に前面電極12が設けられ、当該圧電素子14の前面と相対する背面には背面電極16が設けられている。この圧電素子14は、背面電極16とアース接続された前面電極12(アース電極)との間に印加された電気信号を超音波パルスに変換して被検体へ送波し、また、被検体から超音波を受波し、当該超音波を電気信号に変換して出力する。
【0022】
また、図1(A)に示すように、当該圧電素子14による超音波パルスの送波の際に、超音波の照射方向と反対側に放射される超音波パルスを吸収し、圧電素子の余分な振動を抑えるため、圧電素子14の背面電極(駆動電極)16のさらに背面側にはバッキング材18が接合されている。また、圧電素子14と被検体との音響インピーダンスの整合をとるため、前面電極12のさらに前方(超音波の照射方向/図1におけるX方向)には第1音響整合層11aおよび第2音響整合層11bとが設けられる。
【0023】
またこのバッキング材18には、内部に複数積層されたプリント基板20(例えばFPC;Frexible Printed Circuit)が埋設されている。このプリント基板20の一端面から他端面までは、図1(B)に示すように導電性パターンによる電極リード21が挿通されている。なお、図1(A)に示す超音波トランスデューサ100ではバッキング材18が単一材料(例えばエポキシ樹脂)で表されているが、本発明のバッキング材はこれに限定されるものではなく、例えば複数材料によって構成されていてもよい。このようにバッキング材を複数材料で構成する場合は、圧電素子14との接合部分からの距離に応じて構成材料を変化させることも可能である。
【0024】
この電極リード21は、背面電極16と、超音波診断装置本体と接続されるとともに圧電素子14との間で送受信される電気信号の処理を行う後段電子回路(例えば、図8におけるIC基板40等)とを接続するものである。また電極リード21は、プリント基板20の内部において略等間隔に配列され、プリント基板20の一端面および他端面から露出されている。なお、この実施形態においては、導電性パターンによる電極リード21がプリント基板20を介して後段の電子回路と接続されているが、本発明の電極リードはこれに限定されない。例えば、針状の電極リードがバッキング材の内部に埋設され、当該針状の電極リードの一端が圧電素子14の背面電極16と接続され、その一端に対する他端が後段電子回路と接続される構成であってもよい。
【0025】
(圧電素子およびバッキング材の接合面の構造)
次に、図2および図3を用いて本実施形態における超音波トランスデューサ100における圧電素子14とバッキング材18との接合面の構造および背面電極16と電極リード21との接合面の構造について説明する。
【0026】
図2は、この発明の実施形態にかかる圧電素子14およびバッキング材18の接合面を示す概略斜視図である。また、図3は、図1に示す超音波トランスデューサ100のA−A’断面図である。
【0027】
図2に示すように本実施形態のバッキング材18における前面には、周囲より低く落ち込んでいる凹形状の溝18dを有する接合部18aが形成されている。すなわち、図2に示す圧電素子分離溝18eによって一部に切込み溝が形成されたバッキング材18それぞれには一対の突堤部18bに挟まれるようにして、溝18dが形成され、当該溝18dの底部18cは略平面状に形成される。当該略平面状の底部18cには、図3に示すようなプリント基板20の端面から露出した電極リード21が引き出されている。さらに当該底部18cの面を含んだバッキング材18の前面全体にわたって、金属薄膜が形成される。なお、本実施形態においてこの金属薄膜は、バッキング材18の前面全体にわたって形成されるが、少なくとも接合部18aにおける底部18cの面に形成されていればよい。
【0028】
この接合部18aは、対向して配置される圧電素子14の背面側に形成された突部14aの位置に対応して配置され、かつプリント基板20の端面から露出した電極リード21に対応した位置に形成されている。また、当該接合部18aにおける溝18dの長手方向は、圧電素子14とバッキング材18の前面とが対向する方向と略直交する方向(図1(A)におけるY方向)になるように形成される。
【0029】
また、当該接合部18aにおける溝18d(底部18c)の幅は、圧電素子14の突部14aの幅よりやや広く形成され、かつ溝18dの深さ(接合部18aにおける底部18cから突堤部18bの先端面までの高さ)は突部14aの高さよりやや深くなるように形成される。この接合部18aの深さは、突部14aと接合部18aの底部18cとの間に留置される導電性接着剤22による接着剤層が厚くなりすぎないような深さに形成することが望ましい。
【0030】
また、図2に示すように、本実施形態の圧電素子14における背面には、隣接するバッキング材18側(後方)へ突出する突部14aが形成されている。この突部14aは、接合部18aの凹形状の溝18dの長手方向と同方向、かつ圧電素子14の背面のほぼ中心を通るように延伸しており、その先端は略平面状になっている。当該先端には図3に示すように背面電極16が形成されている。
【0031】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100では、バッキング材18における凹形状の接合部18aの溝18dに対し、圧電素子14の突部14aが嵌合されて接合される。さらに接合部18aと突部14aとの接合においては、図2に示すような接合部18aの底部18cに載積された導電性接着剤22を介して、接合部18aの底部18cの面に露出した電極リード21の一端上に形成された金属薄膜(底部18cの面)と、突部14aの先端に形成された背面電極16とが接着される。また、当該導電性接着剤22によって接合部18aの溝18dの壁面(突堤部18bおよび底部18cと連なる面)と突部14aの側面とが接着される。この導電性接着剤22には、例えば銀フリットを含有する導電エポキシ接着剤等が用いられる。
【0032】
このように凹形状の接合部18aに突部14aが嵌合することにより、バッキング材18と圧電素子14との接合の強度を向上させることができる。また、接合の強度が向上することにより、仮にバッキング材18の形状が熱応力等により変形してしまっても、接着剥がれや、接着剥がれによる背面電極16と電極リード21との接触不良を回避することができる。したがって、当該接触不良による超音波画像の生成に対する影響を低減させることが可能となる。
【0033】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100は、図3に示すように、圧電素子14の背面に突部14aを形成し、バッキング材18の前面に突部14aと同方向に伸延する凹形状の溝18dからなる接合部18aを形成し、これらを嵌合させるように構成されている。したがって、圧電素子14とバッキング材18との接合工程において、接着に用いる導電性接着剤22を接着面において均一に広げるために両者をすり合わせる作業(図2におけるY方向のすりあわせ移動)が容易となる。
【0034】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100は、バッキング材18の前面に凹形状の溝18dからなる接合部18aが形成され、当該接合部18aと嵌合する圧電素子14の突部14aの高さが接合部18aの溝18dの深さより低くなるように形成される。したがって、圧電素子14とバッキング材18との接合工程において、接着に用いる粘性の高い導電性接着剤22を接着面において均一に広げるために両者をすり合わせた場合に、圧電素子14における突部14aの先端面と、バッキング材18における接合部18aの底部18cとの間の空間に導電性接着剤22が留置されるので、すり合わせ作業によって導電性接着剤22の層が薄くなりすぎる事態を回避し、当該導電性接着剤22の層の厚さを均一にすることができ、層が厚すぎることによる超音波トランスデューサ100の音響特性の劣化を防止し、層が薄くなりすぎることによる、背面電極16と電極リード21との接着強度、および圧電素子14とバッキング材18との接着強度の低下を防止し、当該接着強度を向上させることができる。
【0035】
なお、図2においては、最前列のバッキング材18にのみ、接合部18aの底部18cの面に導電性接着剤22が載積されているが、実際にはすべてのバッキング材18の接合部18aの底部18cの面に対して導電性接着剤22が載積される。また、本実施形態における圧電素子14の突部14aは、圧電素子14の配列方向に伸延しているが、本発明の突部はこれに限定されず、例えば、圧電素子14の配列方向と直交する方向へ伸延してもよい。この場合、バッキング材18の接合部18aにおける溝18dの伸延する方向も圧電素子の配列方向と直交する方向に形成される。このように突部14aの伸延する方向と、接合部18aにおける溝18dの伸延する方向とを略同方向に形成すればよい。
【0036】
また、図2に示すように、本実施形態のバッキング材18における接合部18aの溝18dの底部18cの面は、略平面状となっているが、圧電素子14とバッキング材18のすり合わせ作業に支障を来たさない範囲において、略平面状に形成しなくてもよい。
【0037】
(製造工程)
次に、図1〜図7を用いて本実施形態における超音波トランスデューサ100の製造工程の概略について説明する。
【0038】
図4は、この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサ100の製造段階におけるバッキング材18の前面を示す概略斜視図である。また、図5は、この発明の実施形態にかかる圧電素子14が分割される前の圧電素子板4の背面を示す概略斜視図である。また、図6は、この発明の実施形態にかかる圧電素子板4とバッキング材18とが接合され、分割される前の状態を示す概略斜視図である。また、図7は、この発明の実施形態にかかる圧電素子板4とバッキング材18とが接合され、分割された後の状態を示す概略斜視図である。以下、本実施形態にかかる超音波トランスデューサ100の製造工程について概略を説明する。
【0039】
(ステップ1)
まず図1(B)に示すような内部に導電性パターンが形成された複数のプリント基板20を同方向に積層し、音響減衰効果のある樹脂で樹脂封止する。このようにプリント基板20が埋設され封止された樹脂の一面およびその一面と相対する他面を、埋設された複数のプリント基板20ごと切断し、当該封止された樹脂の端面にプリント基板20の端面を露出させる。このように樹脂の端面にプリント基板20の切断された端面を露出させることにより、一面および相対する他面に電極リード21が露出されたバッキング材18を形成する。
【0040】
(ステップ2)
バッキング材18が形成されると、電極リード21が露出された一面に溝を形成し、図4に示すバッキング材18の接合部18aを形成する。当該溝は、このバッキング材18の一面におけるプリント基板20が露出している位置に対応して形成され、かつ当該溝の長手方向は、圧電素子14とバッキング材18の前面とが対向する方向と略直交する方向(図1(A)におけるY方向)に形成する。このようにして、接合部18aが形成されたバッキング材18の一面が超音波の照射方向側の前面となり、当該前面が圧電素子14との接合面となる。また、接合部18aが形成されると、バッキング材18の前面に金属薄膜が形成される。この金属薄膜は、電極リード21と背面電極16との接触面積を広くするためのものである。
【0041】
(ステップ3)
図4に示すような接合部18aが形成されたバッキング材18の前面に対し、図5に示すような分割される前の圧電素子板4の背面が嵌合される(図6)。すなわち、図4に示すバッキング材18の前面に金属薄膜が形成されると、接合部18aの溝18dの底部18cの面に導電性接着剤22が載積される。導電性接着剤22が載積されると、当該接合部18aに対し、図5に示すような圧電素子板4の背面に形成された突出レール4aを嵌合させる。突出レール4aと接合部18aが嵌合されると、圧電素子板4とバッキング材18を、接合部18aの溝18dの伸延する方向(突出レール4aの伸延する方向)にすり合わせ、導電性接着剤22の層を均一化する。なお、図示されていないが、圧電素子板4の突出レール4aの先端面(バッキング材18の前面と対向する側の面)には背面電極16が形成されている(図3参照)。
【0042】
(ステップ4)
圧電素子板4とバッキング材18とのすり合わせ作業を経ると、図7に示すように、圧電素子板4を2次元アレイ状に分割する。この圧電素子分離溝18eは、図2および図7に示すようにバッキング材18まで至るように形成される。このようにバッキング材18まで至る切込み溝を形成することにより、圧電素子板4を確実に分割させ、隣接する圧電素子14それぞれの間を確実に分離することができる。
【0043】
(ステップ5)
圧電素子板4が分割されると、すべての圧電素子14の前面に対し接合される、板状の前面電極12を形成する。前面電極12が形成されると、当該前面電極12の前方(前面電極12から超音波の照射方向へ向かう方向)に第2音響整合層板、第1音響整合層板を、形成し、これらが形成されると、第2音響整合層板、第1音響整合層板のみを分割する音響整合層分離溝を形成し、第1音響整合層11aおよび第2音響整合層11bが形成される(図1および図3参照)。このようにして図1に示すような超音波トランスデューサ100が形成される。
【0044】
なお、本実施形態にかかる当該超音波トランスデューサ100の製造工程は、本発明にかかる超音波トランスデューサの製造工程の一例であってこの工程に限られない。
【0045】
(超音波トランスデューサとIC基板との接続)
次に図8を用いて本実施形態にかかる超音波トランスデューサ100とIC基板40との接続構成の一例について説明する。図8は、超音波トランスデューサ100の接続方法の一例であり、本実施形態における超音波トランスデューサ100とIC基板40とを接続する機構および、IC基板40上のIC45と超音波診断装置本体に接続されるケーブルとを接続する機構を示す概略斜視図である。
【0046】
図8に示すように、超音波トランスデューサ100とIC基板40とは中継基板41を介して接続される。すなわち、各プリント基板20それぞれにおける超音波照射方向側の一端と相対する他端が、中継基板41と接続され、当該接続されたプリント基板20の両面に配列された複数の電極リード21が中継基板41を介し、IC基板40上のIC45と接続される。
【0047】
この中継基板41は、例えば、超音波トランスデューサ100に対向する側の面に中継パッドが電極リード21それぞれの位置に応じて配設され、超音波トランスデューサ100の電極リード21のそれぞれと接続される。このとき超音波トランスデューサ100側のプリント基板20の端面に電極パッドを設け、電極パッドと中継パッドを接続してもよい。また、中継基板41としては、樹脂やセラミクスなどからなる平板形状の基板を用いることが望ましい。
【0048】
また、図示しないが、前面電極12は、例えば不図示の超音波プローブの筐体等を介してアース接続される。
【0049】
また、図8に示すように、IC基板40は超音波診断装置本体と電気的に接続を行うケーブル(共に図示せず)を介して接続され、IC基板40と当該ケーブルとはケーブル接続基板50によって接続される。当該ケーブル接続基板50としては、例えば柔軟性を備えたFPCが用いられ、その一端は、IC基板40における信号リード(図示せず)が設けられた一端とは反対側の一端に接続されている。
【0050】
コネクタ62は、ケーブル接続基板50の他端及び前記ケーブルの一端にそれぞれ設けられている。このコネクタ62によって、ケーブル接続基板50と超音波診断装置本体に接続されるケーブルとが接続される。
【0051】
図8に示すように、超音波トランスデューサ100と超音波診断装置本体との間に設けられたIC基板40にはIC45が形成されており、IC45は中継基板41などを介して電極リード21と接続されている。また、IC45は、超音波トランスデューサ100によって超音波の送波または受波を行うために圧電素子14を駆動させ、圧電素子14が受波した信号の処理を行う。このような構成により、圧電素子14が受波して信号に変換し、IC基板40上の各IC45に送信され、IC45によって処理された信号は、ケーブル接続基板50を介して超音波診断装置本体に送信されることとなる。なお、本実施形態ではIC45を用いているが、ASIC、その他の手段を含む。
【0052】
(作用・効果)
以上説明した本実施形態にかかる超音波トランスデューサ100の作用及び効果について説明する。
【0053】
本実施形態にかかる超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブは、バッキング材18の前面において、露出したプリント基板20および電極リード21の位置と対応する部分に溝18dを形成した接合部18aが設けられている。
【0054】
したがって、圧電素子14とバッキング材18との接合に導電性接着剤22を用い、対向する接着面同士をすり合わせて導電性接着剤22の層の厚さを薄くしようとした場合に、導電性接着剤22が接着面全体に行き渡り、導電性接着剤層が当該接合部18aの溝18dに留置される。したがって、背面電極16と電極リード21との接着面において導電性接着剤層が均一に広がり、導電性接着剤層が薄すくなりすぎることによる接着強度の低下を回避し、背面電極16および電極リード21間に存在する導電性接着剤層が厚すぎることによる電気抵抗の増大および音響特性の劣化を防止することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブは、図3に示すように、圧電素子14の背面において、バッキング材18の接合部18aの溝18dと同方向に伸延する突部14aを形成し、これらを嵌合させるように構成されている。
【0056】
したがって、圧電素子14とバッキング材18との接合工程において、接着に用いる導電性接着剤22を接着面において均一に広げるために両者をすり合わせる作業(図2におけるY1方向およびY2方向)が容易となる。
【0057】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブでは、バッキング材18の前面に形成された凹形状の接合部18aに対し、圧電素子14の突部14aが嵌合することにより、バッキング材18と圧電素子14との接合の強度を向上させることができる。また、接合の強度が向上することにより、仮にバッキング材18の形状が変形してしまっても、接着剥がれや、接着剥がれによる背面電極16と電極リード21との接触不良を回避することができる。したがって、当該接触不良による超音波画像の生成に対する影響を低減させることが可能となる。
【0058】
(変形例)
次に、本発明にかかる超音波トランスデューサの変形例について以下に説明する。
【0059】
以上説明した本実施形態の超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブにおいては、圧電素子14における前面に突部14aが形成されているが、本発明の超音波トランスデューサ100はこれに限られない。例えば、圧電素子14の背面は、略平面であってもよい。
【0060】
この変形例においても、導電性接着剤22による圧電素子14とバッキング材18との接合において、接着面同士をすり合わせた場合に、導電性接着剤22が接着面全体に行き渡り、導電性接着剤層が当該接合部18aの溝18dに留置される。したがって、導電性接着剤22の層が薄すくなりすぎることによる接着強度の低下を回避し、背面電極16および電極リード21間に存在する導電性接着剤層が厚すぎることによる電気抵抗の増大および音響特性の劣化を防止することが可能となる。
【0061】
また、本実施形態の超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブにおいては、圧電素子14における前面に突部14aが形成されているが、本発明の超音波トランスデューサ100はこれに限られない。例えば、圧電素子14の背面において溝が形成され、バッキング材18の前面は略平面に形成されていてもよい。ただし、この場合は、圧電素子14の背面に形成する溝の深さを超音波トランスデューサ100の音響特性に影響しないようにすることが必要である。
【0062】
この変形例においても、導電性接着剤22による圧電素子14とバッキング材18との接合において、接着面同士をすり合わせた場合に、導電性接着剤22が接着面全体に行き渡り、導電性接着剤層が当該圧電素子14の溝に留置される。したがって、導電性接着剤22の層が薄すくなりすぎることによる接着強度の低下を回避し、背面電極16および電極リード21間に存在する導電性接着剤層が厚すぎることによる電気抵抗の増大および音響特性の劣化を防止することが可能となる。
【0063】
また、本実施形態の超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブにおいては、圧電素子14における背面に突部14aが形成されているが、本発明の超音波トランスデューサ100はこれに限られない。例えば、圧電素子14に溝が形成され、対向するバッキング材18の前面において突部が形成されていてもよい。ただし、この場合、圧電素子14の背面に形成する溝の深さを超音波トランスデューサ100の音響特性に影響しないようにすることが必要である。
【0064】
この変形例においても、圧電素子14の溝とバッキング材18の突部とが、嵌合することにより、圧電素子14とバッキング材18との接合工程において、接着に用いる導電性接着剤22を接着面において均一に広げるために両者をすり合わせる作業が容易となる。また、バッキング材18と圧電素子14との接合の強度を向上させることができ、バッキング材18の変形があっても、接着剥がれや、接着剥がれによる背面電極16と電極リード21との接触不良を回避することができる。したがって、当該接触不良による超音波画像の生成に対する影響を低減させることが可能となる。
【0065】
また、本実施形態における超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブでは、内部に導電性パターンが形成されたプリント基板20を埋設したバッキング材18と、圧電素子14とを接合することにより、圧電素子14の背面に形成された背面電極16と、バッキング材18の前面に露出した電極リード21とを、導電性接着剤22を介して電気的に接続する構成となっているが、本発明にかかる超音波トランスデューサのバッキング材前面または圧電素子背面の構造は、例えば次のような超音波トランスデューサにも適用することが可能である。
【0066】
図9は、この発明にかかる超音波トランスデューサ200のバッキング材218の前面および圧電素子214の背面の構造を本実施形態の変形例に適用した状態を示す概略斜視図である。
【0067】
図9に示す超音波トランスデューサ200は、多層構造のプリント基板220の一辺に沿って音響整合層211が形成され、その背面に圧電素子214が形成され、音響整合層211と圧電素子214の間には前面電極212が形成されている。また、圧電素子214の背面は、図2に示す圧電素子14と同様に背面方向に突出する突部が形成されており、突部214aの先端には背面電極が形成されている。また、圧電素子214の背面には、バッキング材218が形成されており、バッキング材218の前面には突部214aと対向する位置に凹形状の溝からなる接合部218aが形成されている。また、この変形例における電極リードは、前面電極212および背面電極216の双方から、多層構造のプリント基板220の各層を通り、後段電子回路(IC基板40等)に接続されるように構成されている。
【0068】
この変形例においても、圧電素子214の溝とバッキング材218の突部とが、嵌合することにより、また、バッキング材218と圧電素子214との接合の強度を向上させることができ、バッキング材218の変形があっても、接着剥がれや、接着剥がれによる背面電極216と電極リードとの接触不良を回避することができる。したがって、当該接触不良による超音波画像の生成に対する影響を低減させることが可能となる。また、圧電素子の両極(前面電極及び背面電極)毎にパルサを接続し、交互に動作させることでバイポーラパルスを出力することが可能である。
【0069】
また、本実施形態の超音波トランスデューサ100およびそれを用いた超音波プローブにおいては、バッキング材18における突堤部18bの先端、底部18cの面および当該突堤部18b・底部18cと連なる壁面が略平面状に形成されているが、本発明の超音波トランスデューサ100はこれに限られない。例えば、これらが曲面状に形成されていてもよい。
【0070】
この変形例においても、圧電素子14の溝とバッキング材18の突部とが、嵌合することにより、圧電素子14とバッキング材18との接合工程において、接着に用いる導電性接着剤22を接着面において均一に広げるために両者をすり合わせる作業が容易となる。また、バッキング材18と圧電素子14との接合の強度を向上させることができ、バッキング材18の変形があっても、接着剥がれや、接着剥がれによる背面電極16と電極リード21との接触不良を回避することができる。したがって、当該接触不良による超音波画像の生成に対する影響を低減させることが可能となる。なお、この変形例は、上述した変形例にかかる超音波トランスデューサにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】(A)この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサを示す概略斜視図。(B)この発明の実施形態にかかるバッキング材に埋設されるプリント基板を示す概略斜視図。
【図2】この発明の実施形態にかかる圧電素子およびバッキング材を示す概略斜視図。
【図3】この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサの概略断面図。
【図4】この発明の実施形態にかかる超音波トランスデューサの製造段階におけるバッキング材の前面を示す概略斜視図。
【図5】この発明の実施形態にかかる圧電素子が分割される前の圧電素子板の背面を示す概略斜視図
【図6】この発明の実施形態にかかる圧電素子板とバッキング材とが接合され、分割される前の状態を示す概略斜視図。
【図7】この発明の実施形態にかかる圧電素子板とバッキング材とが接合され、分割された後の状態を示す概略斜視図。
【図8】超音波トランスデューサの接続方法の一例であり、本実施形態における超音波トランスデューサとIC基板とを接続する機構および、IC基板上のICと超音波診断装置本体とを接続する機構を示す概略斜視図。
【図9】この発明にかかる超音波トランスデューサのバッキング材および圧電素子の構造を本実施形態の変形例に適用した状態を示す概略斜視図。
【図10】従来の超音波トランスデューサにおける電極リードを埋設したバッキング材と圧電素子との接続構造を示す概略断面図。
【符号の説明】
【0072】
4 圧電素子板
11a 第1音響整合層
11b 第2音響整合層
12 前面電極
14 圧電素子
14a 突部
16 背面電極
18 バッキング材
18a 接合部
18b 突堤部
18c 底部
18d 溝
18e 圧電素子分離溝
20 プリント基板
21 電極リード
22 導電性接着剤
40 IC基板
41 中継基板
45 IC
50 ケーブル接続基板
62 コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を照射する方向と反対側となる背面に、背面電極を有する複数の圧電素子と、
前記圧電素子の前記背面に配置されるバッキング材と、
前記バッキング材の内部に埋設され、一端部が該バッキング材の一面から露出して前記背面電極に接合される電極リードと、
前記圧電素子の背面、または前記バッキング材の前記一面のいずれか一方に形成された凹形状の接合部とを備えたこと、
を特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記凹形状の接合部が形成された前記圧電素子の背面または前記バッキング材の前記一面のいずれか一方に対する他方には、該接合部と嵌合する突部が形成されていること、
を特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記接合部は、先端が略平坦状となる突堤部と、当該突堤部に挟まれ、前記電極リードの一端部が露出された略平坦状の底部とを備えて構成された凹形状の溝であり、
前記突部が凹形状の前記底部に嵌合すること、
を特徴とする請求項2に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記電極リードの前記一端部と前記背面電極とは、前記底部と前記突部の間にある導電性の接着剤を介して接着されること、
を特徴とする請求項3に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記突部の高さより、前記接合部の前記溝を形成する前記底部から前記突堤部の先端までの方が深く形成され、
前記導電性の接着剤は前記突部の先端と、前記接合部の底部との間に留置されること、
を特徴とする請求項4に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
超音波を照射する方向と反対側となる背面に、背面電極を有する複数の圧電素子と、
前記圧電素子の前記背面に配置されるバッキング材と、
前記バッキング材の内部に埋設され、一部が該バッキング材の一面から露出して前記背面電極に接合される電極リードと、
前記圧電素子の背面、または前記バッキング材の前記一面のいずれか一方に形成された凹形状の接合部とを有した超音波トランスデューサを備えたこと、
を特徴とする超音波プローブ。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−38675(P2009−38675A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202277(P2007−202277)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】