説明

超音波探知装置および超音波探知方法

【課題】サイドローブによる偽像が表示されない超音波探知装置および超音波探知方法を提供する。
【解決手段】受信ビーム形成部9L、9Rは、振動子2、2などの受信信号から左受信ビーム信号、右受信ビーム信号を形成する。両受信ビームでスプリットビームが構成される。位相差算出部11はスプリットビームの位相差を算出する。メインローブ信号抽出部12は、1走査分の各走査角度での位相差データから位相差のゼロクロス点を探し、ゼロクロス点の前後で位相が±180度変化するときの走査角度幅を算出する。さらに、この走査角度幅とゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅との比率に基づいて、受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、サイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探知対象物で反射した超音波エコーを振動子で受信し、超音波エコーを含む受信信号に基づいて探知対象物の画像を表示する超音波探知装置および超音波探知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、超音波探知装置の1つである従来の水中探知装置で海底地形を探知する態様を示す。船舶102に搭載された水中探知装置103は、船舶102の左右方向(船舶の進行方向に直交する方向)の真下に送受波器104から扇状の送信ビーム(図示せず)を放射して、扇状の探知範囲105をペンシル状の受信ビーム106で走査する。そして、海底100からのエコーを含む受信ビーム106の受信信号に基づいて、海底地形の画像を表示部(図示せず)に表示する。図において、101は海面、107は送受波器104の直下の海底地点(以下、直下地点107という)、108は右下方の海底地点である。図6は送受波器104の受信特性を示す。MLはメインローブ(破線で指向特性の主軸を示す)であり、SLはメインローブMLの左右に生じるサイドローブである。図7は表示部に表示された海底地形の画像を示す。
【0003】
鉛直下方を向いた受信ビーム106aによって送受波器104の鉛直下方を探知するとき、直下地点107よりも遠方の海底地点108などからのエコーもサイドローブSLによって受信される。しかも、サイドローブSLによって受信したエコーも鉛直下方から到来したものとして処理するため、当該エコーの画像121(サイドローブSLによる偽像121という)が実際の海底面120の下方に表示される。偽像とは、探知対象物ではないものの画像である。一方、右下方を向いた受信ビーム106bによって海底地点108の方向を探知するとき、サイドローブSLにより直下地点107や、その近辺からのエコーも受信される。このため、直下地点107から送受波器104までの距離や、それよりも幾分大きい距離を半径とする円弧状の画像122(サイドローブSLによる偽像122という)が表示される。このようなサイドローブSLによる偽像121、122が表示されると、水中探知装置103のオペレータが海底地形などの探知対象物を誤判定するおそれが生じる。
【0004】
下記の特許文献1に示されるものでは、略平行な2つの受信ビームからなるスプリットビームを用いることにより、サイドローブSLによる偽像121、122が表示されないようにする。図8は、スプリットビームとエコーの到来方向とを示す。ここでは2つの受信ビームRB、RBを指向特性の主軸で表す。受信ビームRB、RBは、それぞれ送受波器104の左右の振動子104、104(実際は複数の振動子から構成されるが、ここでは左右それぞれ1つの振動子で表す)の受信信号の位相を整相して2つ受信ビーム信号を生成することにより形成される。位相の整相は、エコーが受信ビームRB、RBの方向(探知方向)と同じ方向から送受波器104に到来したときに、2つ受信ビーム信号の位相が等しくなるように行われる。したがって、エコーが受信ビームRB、RBの方向とは異なる方向から到来したとき、すなわちエコーがサイドローブSLによって受信されるときは、2つの受信ビーム信号の間で位相差が生じる。
【0005】
上記の受信ビームRB、RBは、走査角度(振動子104、104の送受波面の法線と受信ビームRB、RBとのなす角度)を変えながら探知範囲内で走査される。例えば、図8(a)では、受信ビームRB、RBの走査角度は0度であり、この状態で右下方からエコーが到来すると、このエコーがサイドローブSLによって受信される。このことが偽像121の原因となる。また、図8(b)では、受信ビームRB、RBの走査角度はαであり、この状態で鉛直下方からエコーが到来すると、このエコーがサイドローブSLで受信される。このことが偽像122の原因となる。
【0006】
図9はスプリットビームの信号強度特性と位相差特性とを示す。これらの特性はシミュレーションによって求めたものである。シミュレーションでは、点音源を送受波器の直下に配置して、スプリットビームの走査角度を1度ずつ変えながら−90度から+90度までの範囲を走査したときのスプリットビームの信号強度と位相差とを求める。図9(a)は信号強度特性を示す。横軸は走査角度(単位は度)であり、縦軸はスプリットビームの信号強度(単位はdB)である。図9(b)は位相差特性を示す。横軸は走査角度であり、縦軸はスプリットビーム(2つの受信ビーム)の位相差(単位は度)である。走査角度が0度の近傍ではスプリットビームの方向と点音源の方向とが一致し、点音源からの超音波はメインローブの中央部で受信されるため、信号強度は大きく位相差は小さい。
【0007】
Raは点音源からの超音波がメインローブMLで受信される領域を示す。領域Raの位相差をそれ以外の領域(サイドローブSLで受信される領域)の位相差よりも大きな黒点で示す。領域Raでは位相差が+180度から−180度の範囲で変化し、走査角度が0度のときに位相差がゼロクロスする。領域Ra以外の領域では位相差が±150度から±180度の範囲で変化する。位相差がこのように変化するのは、上述の受信ビーム信号を生成する際に、各振動子の受信信号にガウス関数やハニング窓によるウエイト値を乗算することによる。なお、点音源が送受波器の直下ではなく、左下方あるいは右下方に位置するときは、点音源の方向に相当する角度分だけ信号強度特性および位相差特性は左あるいは右に移動する。特許文献1に示されるものでは、スプリットビームの位相差が所定値を超えるときは、エコーがサイドローブSLで受信されたものとして、当該エコーの画像を表示しないようにするので、サイドローブSLによる偽像121、122が表示されなくなる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−208110号公報(段落0022〜0044)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図10は、点音源の個数が3つであるときのスプリットビームの信号強度特性と位相差特性とを示す。(a)は信号強度特性を示す。(b)は位相差特性を示す。これらの特性は、図9に示す特性と同様にシミュレーションによって求めたものである。3つの点音源は、走査角度が−33度、−1度および+4度の方向の、送受波器から等距離の位置に配置されている。Rb、Rc、Rdは点音源からの超音波がメインローブで受信される領域を示す。領域Rb、Rc、Rdでは位相差が+180度から−180度の範囲で変化する。また、領域Rb、Rc、Rdでの位相差をそれ以外の領域(サイドローブSLで受信される領域)での位相差よりも大きな黒点で示す。
【0010】
Rx、Ryは点音源からの超音波がサイドローブSLで受信される領域であるが、この領域内の走査角度が30度強や40度弱の位置にゼロクロス点Zx、Zyが存在する。つまり、エコーがサイドローブSLで受信されるときでも、スプリットビームの位相差が所定値以下になることがある。このため、特許文献1に示されるものでは、サイドローブSLによる偽像121、122の多くが表示されなくなるものの、偽像121、122の一部は表示されてしまう。なお、走査角度が30度強や40度弱のときに位相差がゼロクロスするのは、複数のサイドローブSLで同時に受信される超音波が混じり合うことが原因と考えられる。また、実際に海底100で反射したエコーを送受波器104で受信する場合にも、スプリットビームの信号強度特性および位相差特性の特徴は図10に示すものと同様のものになると考えられる。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するものであって、その課題とするところは、サイドローブによる偽像が表示されない超音波探知装置および超音波探知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、探知対象物で反射した超音波エコーを振動子で受信し、超音波エコーを含む受信信号に基づいて探知対象物の画像を表示する超音波探知装置であって、複数の振動子の受信信号を整相することにより、略平行な2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム形成手段と、受信ビーム形成手段で形成した2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出手段と、位相差算出手段で算出した各走査角度における位相差の変化態様に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、サイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにする制御手段と、を備える。
【0013】
このようにすることで、略平行な2つの受信ビーム信号(スプリットビーム)の位相差にサイドローブに起因するゼロクロス点があっても、受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを判定することができ、サイドローブによる偽像が表示されなくなる。なお、特許文献1に示されるものでは、個々の走査角度でのスプリットビームの位相差だけから受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを判定する。これに対し、本発明では、各走査角度における位相差の変化態様に基づいて、受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを判定するので、サイドローブに起因するゼロクロス点とメインローブに起因するゼロクロス点とを識別することができる。上記の各走査角度における位相差の変化態様とは、実施形態に示すように、当該位相差のゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅、あるいはゼロクロス点近傍での位相差特性の傾き、あるいはゼロクロス点近傍での位相差の変化幅などである。
【0014】
第1の発明においては、制御手段が、探知範囲内の各走査角度における位相差のゼロクロス点を探し、ゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅を求め、当該走査角度幅とゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅との比率に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定する。上記の比率を適切に設定することで、受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを間違いなく判定することができる。
【0015】
また、第1の発明においては、複数の振動子は平面状に配列されており、ゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅が、走査角度が0度のときのメインローブ角度幅をcosα(αはゼロクロス点の走査角度)で除算することにより算出される。このようにすることで、複数の振動子が平面状に配列されている場合であっても、走査角度の違いによって生じるメインローブ角度幅の変動の影響がキャンセルされるので、受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを間違いなく判定することができる。
【0016】
第2の発明は、探知対象物で反射した超音波エコーを振動子で受信し、超音波エコーを含む受信信号に基づいて探知対象物の画像を表示する超音波探知方法であって、複数の振動子の受信信号を整相することにより、略平行な2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム形成工程と、受信ビーム形成工程で形成した2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出工程と、位相差算出工程で算出した各走査角度における位相差の変化態様に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、サイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにする工程と、を備える。このようにすることで、第1の発明と同様な作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サイドローブによる偽像が表示されなくなり、探知対象物の誤判定を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に係る超音波探知装置の1つである水中探知装置の構成を示すブロック図である。図2は船舶の船底に取り付けられた送受波器の形状を示す図であり、船舶の後方から見たものである。まず、送受波器1について説明する。送受波器1の下面には複数の振動子2、ここでは20個の直方体状の振動子2が一列に配置されている。図の紙面に直交する方向が振動子2の長手方向であり、図の左右方向が船舶の左右方向である。この送受波器1を使用するものとして、上述のシミュレーションを行っている。各振動子2から一斉に超音波を送信することで、船舶の左右方向に沿った鉛直面に扇状の送信ビームが形成される。後述するように、左側の振動子2L1〜2L10の受信信号を合成することで、左受信ビーム信号(図8に示す受信ビームRBに係る信号)が形成され、右側の振動子2R1〜2R10の受信信号を合成することで、右受信ビーム信号(図8に示す受信ビームRBと略平行な右受信ビームRBに係る信号)が形成される。以下では、スプリットビームを構成する受信ビームRB、RBは、走査角度を1度ずつ変えながら−55度〜+55度の範囲で走査されるものとする。
【0019】
図1を参照して水中探知装置20の構成および動作について説明する。以下の説明では、振動子2ごとの送信または受信の系統をチャンネルとよぶ。制御部3は、CPU、メモリなどから構成され、図示しない操作部から入力されたデータや予めメモリに設定されているデータなどに基づいて、水中探知装置20の各部を制御する。送信信号生成部5は、送受信切換回路4を介して各チャンネルの振動子2を駆動する所定周波数(例えば、40kHz)の正弦波の送信信号を所定時間(例えば、1ms)だけ出力する。この送信信号で各振動子2が一斉に駆動されると、扇状の超音波の送信ビームが送受波器1から放射される。
【0020】
次に、受信系について説明する。海底などからのエコー信号を含む振動子2の受信信号は、チャンネルごとに送受信切換回路4を介して受信アンプ6で増幅される。増幅された受信信号は、BPF(バンドパスフィルタ)7で所定の帯域幅以外の周波数の信号成分がノイズとして除去された後、A/D変換器8でデジタル信号に変換される。A/D変換器8は、所定のサンプリング周期で、送信信号と同じ周波数の内部的な正弦波信号の第1位相と、第1位相と90度だけ位相の異なる第2位相とで受信信号をサンプリングし、サンプリングした信号を順次出力する。第1位相でサンプリングした信号をI信号とし、第2位相でサンプリングした信号をQ信号とすると、A/D変換器の出力信号からI+jQ(jは虚数単位)で表されるIQ信号が得られる。
【0021】
受信ビーム形成部9Lは、振動子2L1〜2L10の受信信号に対して以下の処理を施すことにより、左受信ビーム信号を形成する。まず、各チャンネルの受信信号(IQ信号)にexp(jθMN)(θMNは位相調整量、Mはチャンネル番号(1〜10)、Nは走査角度に応じた整数値)を乗算して、各チャンネルの受信信号の位相を整相させる。次に、整相させた受信信号にチャンネルごとのウエイト値を乗算する。チャンネルごとのウエイト値は、ガウス関数やハニング窓などによって決められる。次に、ウエイト値を乗算した各チャンネルの受信信号を加算する。この加算値が左受信ビーム信号である。そして、走査角度を変えながら上記の処理を行うことで、1走査分の走査角度ごとの左受信ビーム信号が受信ビーム形成部9Lから順次出力される。受信ビーム形成部9Rは、振動子2R1〜2R10の受信信号に対して上記の処理を施すことにより、右受信ビーム信号を形成する。この結果、1走査分の走査角度ごとの右受信ビーム信号が受信ビーム形成部9Rから順次出力される。
【0022】
信号強度算出部10は、受信ビーム形成部9L,9Rからそれぞれ出力される左受信ビーム信号と右受信ビーム信号とから受信信号(スプリットビーム)の信号強度を算出する。左受信ビーム信号をI+jQとし、右受信ビーム信号をI+jQとすると、信号強度は下記の式(1)で算出される。
信号強度=√{(I+I+(Q+Q
(1)
位相差算出部11は、上記の左受信ビーム信号と右受信ビーム信号とから両信号の位相差、すなわちスプリットビームの位相差を下記の式(2)によって算出する。
位相差=tan−1(Q/I)−tan−1(Q/I
(2)
そして、信号強度算出部10および位相差算出部11から、それぞれ1走査分の走査角度ごとの信号強度データと位相差データとが順次出力される。
【0023】
メインローブ受信信号抽出部12は、1走査分の走査角度ごとの位相差の変化態様に基づいて、各走査角度での受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれによって受信されたかを判定し、受信信号がサイドローブで受信されたと判定した場合には、当該走査角度での信号強度データを無効にする。つまり、サイドローブで受信されたエコーの画像、すなわち偽像121、122(図7参照)が表示部14に表示されないようにする。なお、上述の受信ビーム形成部9L、9R、信号強度算出部10、位相差算出部11およびメインローブ受信信号抽出部12は、ある時刻の受信信号に対する1走査分の信号処理(スプリットビームの位相差の算出など)を終了すると、次の時刻の受信信号に対する1走査分の信号処理を引き続き行う。そして、最大探知距離からの受信信号に対する信号処理が終了するまで1走査分の信号処理を繰り返し行う。
【0024】
図3は、メインローブ受信信号抽出部12の動作、すなわちメインローブ受信信号抽出処理を示す。以下、図3を参照しつつメインローブ受信信号抽出処理について説明する。まず、メインローブ受信信号抽出部12は、1走査分の全ての信号強度データに無効マークを付ける(S1)。例えば、信号強度データに無効フラグ領域を設けて、無効フラグをオンにする。次に、1走査分の位相差データを走査角度の負側から正側に向かって調べ、位相差のゼロクロス点を探す(S2)。ゼロクロス点であるための条件は、連続する(すなわち、走査角度が1度だけ異なる)2つの位相差データが異符号であること、および両データの位相差の変化幅が所定値以下(例えば100度以下)であることである。この判定条件によれば、図10に示すZbやZx、Zyはゼロクロス点であるが、Zzはゼロクロス点ではないことになる。
【0025】
ゼロクロス点が見つかった場合(S3:YES)、ゼロクロス点の前後で位相差が±180度変化するときの走査角度幅を算出する(S4)。この走査角度幅は、ゼロクロス点から走査角度の負側に向かって位相差データを順番に調べ、位相差データの値が正から負に変化するとき(すなわち、位相差特性の傾きの符号が負から正に変化するとき)の走査角度と、ゼロクロス点から走査角度の正側に向かって位相差データを順番に調べ、位相差データの値が負から正に変化するとき(すなわち、位相差特性の傾きの符号が負から正に変化するとき)の走査角度とから算出する。例えば、図10に示すゼロクロス点Zbでの上記の走査角度幅、すなわち上述の領域Rbの角度幅は約22度である。上記のステップS3、S4によって、図10に示す領域Rb、Rc、Rdや領域Rx、Ryなどに相当する領域の走査角度幅が算出される。ここでは位相差が±180度変化するときの走査角度幅を算出しているが、これに限定されるものではなく、位相差が所定範囲にわたって(例えば±100度の範囲で)変化するときの走査角度幅を算出すればよい。
【0026】
次に、ゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅に対する上記の走査角度幅の比率が所定値以上(例えば50%以上)であれば(S5:YES)、当該走査角度幅内の信号強度データに付けられた無効マークを除去する(S6)。このメインローブ角度幅は、走査角度が0度のときのメインローブ角度幅(以下、基準メインローブ角度幅という)をcosα(αはゼロクロス点の走査角度)で除算したものである。基準メインローブ角度幅としては、図9に示す領域Raの角度幅(約18度)や、メインローブの最大強度レベルから−6dBあるいは−3dBの強度レベルに対する角度幅が用いられる。この基準メインローブ角度幅は予めシミュレーションによって算出されており、算出値が制御部3のメモリに格納されている。また、振動子2が平面状に配列された送受波器1(フラットアレイ)では、走査角度の違いによって受信ビームに対する送受波器1の開口面積が変化し、これにともなってメインローブ角度幅も変動する。基準メインローブ角度幅をcosαで除算することで、走査角度の違いによって生じるメインローブ角度幅の変動の影響をキャンセルしている。なお、円弧配列アレイでは、メインローブ角度幅は走査角度によらず一定であるので、cosαによる除算は不要である。また、コンフォーマルアレイでは、各受信方位についてビーム合成した際の開口長の割合に応じて除算が行われる。
【0027】
上記のステップS5、S6によって、ステップS5の条件を満たす領域Rb、Rc、Rd(図10参照)に相当する領域の信号強度データに付けられた無効マークが除去される。一方、ステップS5の条件を満たさない上記以外の領域、例えば領域Rx、Ryに相当する領域の信号強度データに付けられた無効マークは除去されずに残る。次に、ステップS2と同様にして、次のゼロクロス点を探す(S7)。次のゼロクロス点が見つかったときは(S8:YES)、上記のステップS4〜S7を再び実行する。ゼロクロス点が見つからなかったときは(S8:NO)、メインローブ受信信号抽出処理が終了する。ここではメインローブの全範囲(位相差が−180度から+180度の範囲)で受信された信号強度データを有効にしているが、メインローブの中央部(例えば、位相差が−100度から+100度の範囲)で受信された信号強度データだけを有効にするようにしてもよい。なお、位相差特性にヒステリシスが生じる場合のことを考慮して、上述のゼロクロス点の探索や走査角度幅の算出を行うことも可能である。また、走査角度が走査範囲の端にありメインローブの全てが走査範囲内に収まらない場合には、判定条件に用いるメインローブ角度幅を適宜変更するようにしてもよい。
【0028】
画像処理部13は、メインローブ受信信号抽出部12から出力される信号強度データの受信時刻および走査角度の情報から、表示部14におけるエコー画像の表示位置を求める。そして、その表示位置に信号強度データに応じた濃淡または色彩でエコー画像を描画する。なお、メインローブ受信信号抽出部12で無効マークが付けられたままの信号強度データは、信号強度が0であるとして処理される。図4は本発明を実施したときのエコー画像の表示例を示す。サイドローブによる偽像121、122(図7参照)が消えていることが分かる。
【0029】
以上で述べたように、本発明では、1走査分の走査角度ごとの位相差の変化態様に基づいて、各走査角度で受信した受信信号がメインローブまたはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、当該受信信号がサイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにするので、サイドローブによる偽像121、122が表示されなくなる。
【0030】
以上述べた実施形態においては、ゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定するようにしたが、ゼロクロス点近傍での位相差特性の傾きに基づいて判定することもできる。また、上記実施形態では、位相差の変化幅が所定値以下(例えば、100度以下)であることをゼロクロス点の条件としたが、ゼロクロス点近傍での位相差の変化幅が所定値以下(例えば、40度以下)であるか否かよって、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定することもできる。例えば、受信信号がサイドローブで受信される領域Rx、Ryでは、ゼロクロス点近傍での位相差の変化幅が50度以上である。
【0031】
さらに、上記実施形態では、扇状の探知範囲内を受信ビームで走査して海底地形を探知する場合を例にして説明したが、魚群を探知するときに本発明を適用すれば、サイドローブによる魚群の偽像が表示されなくなる。さらに、上記実施形態では、送受波器1の下面に振動子2が平面状に配置されていたが、円筒状あるいは球状の本体の表面に多数の振動子が配置された送受波器を用いる場合にも本発明を実施することができる。さらに、上記実施形態では、特許文献1の図5に示されるエコーの到来方向の細分化については説明しなかったが、本発明においてもエコーの到来方向の細分化を行うようにしてもよい。さらに、上記実施形態では、超音波探知装置の1つである水中探知装置における本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の超音波探知装置、例えば超音波エコーを利用する医療機器や陸上で探知対象物を探知する探知装置などにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る超音波探知装置の1つである水中探知装置の構成を示すブロック図である。
【図2】送受波器の形状を示す図である。
【図3】メインローブ受信信号抽出処理を示すフローチャートである。
【図4】サイドローブによる偽像が表示されない表示例を示す図である。
【図5】従来の水中探知装置で海底地形を探知する態様を示す図である。
【図6】送受波器の受信特性を示す図である。
【図7】サイドローブによる偽像が表示された従来の表示例を示す図である。
【図8】スプリットビームとエコーの到来方向とを示す図である。
【図9】スプリットビームの信号強度特性と位相差特性とを示す図である。
【図10】スプリットビームの信号強度特性と位相差特性とを示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1 送受波器
2、2L1〜2L10、2R1〜2R10 振動子
9L,9R 受信ビーム形成部
10 信号強度算出部
11 位相差算出部
12 メインローブ受信信号抽出部
20 水中探知装置
RB 左受信ビーム(スプリットビーム)
RB 右受信ビーム(スプリットビーム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探知対象物で反射した超音波エコーを振動子で受信し、超音波エコーを含む受信信号に基づいて探知対象物の画像を表示する超音波探知装置であって、
複数の振動子の受信信号を整相することにより、略平行な2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム形成手段と、
前記受信ビーム形成手段で形成した2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出手段と、
前記位相差算出手段で算出した各走査角度における位相差の変化態様に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、サイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにする制御手段と、を備えることを特徴とする超音波探知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探知装置において、
前記各走査角度における位相差の変化態様が、当該位相差のゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅、あるいはゼロクロス点近傍での位相差特性の傾き、あるいはゼロクロス点近傍での位相差の変化幅であることを特徴とする超音波探知装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波探知装置において、
前記制御手段が、探知範囲内の各走査角度における位相差のゼロクロス点を探し、ゼロクロス点の前後で位相差が所定範囲にわたって変化するときの走査角度幅を求め、当該走査角度幅とゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅との比率に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定することを特徴とする超音波探知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波探知装置において、
前記複数の振動子は平面状に配列されており、
前記ゼロクロス点における既知のメインローブ角度幅が、走査角度が0度のときのメインローブ角度幅をcosα(αはゼロクロス点の走査角度)で除算することにより算出されることを特徴とする超音波探知装置。
【請求項5】
探知対象物で反射した超音波エコーを振動子で受信し、超音波エコーを含む受信信号に基づいて探知対象物の画像を表示する超音波探知方法であって、
複数の振動子の受信信号を整相することにより、略平行な2つの受信ビーム信号を探知範囲内の走査角度ごとに形成する受信ビーム形成工程と、
前記受信ビーム形成工程で形成した2つの受信ビーム信号の位相差を走査角度ごとに算出する位相差算出工程と、
前記位相差算出工程で算出した各走査角度における位相差の変化態様に基づいて、受信信号がメインローブあるいはサイドローブのいずれで受信されたかを判定し、サイドローブで受信されたと判定した場合、当該受信信号に係る画像を表示しないようにする工程と、を備えることを特徴とする超音波探知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−232795(P2008−232795A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72110(P2007−72110)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】