超音波探触子及び超音波診断装置
【課題】音響特性への影響を抑制することを可能とする超音波探触子及び超音波診断装置を提供する。
【解決手段】超音波が通過する領域23において、cMUTチップ20上部の接着層90aの厚さを薄くすることにより、接着層90aによる音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。望ましくは、接着層90aの厚さを10μm程度とする。また、音響レンズ26aの上面は、V字状凹部を有さない形状とすることが望ましい。また、音響レンズ26aとcMUTチップ20との間に絶縁層やグランド層を設けてもよい。また、平滑化樹脂層を設けることにより、接着層90aの厚さを薄くしたまま音響レンズ26aの下面を平坦形状とすることもできる。
【解決手段】超音波が通過する領域23において、cMUTチップ20上部の接着層90aの厚さを薄くすることにより、接着層90aによる音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。望ましくは、接着層90aの厚さを10μm程度とする。また、音響レンズ26aの上面は、V字状凹部を有さない形状とすることが望ましい。また、音響レンズ26aとcMUTチップ20との間に絶縁層やグランド層を設けてもよい。また、平滑化樹脂層を設けることにより、接着層90aの厚さを薄くしたまま音響レンズ26aの下面を平坦形状とすることもできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断画像を撮像する超音波探触子及び超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波探触子から出力される反射エコー信号に基づいて診断画像を撮像する装置である。超音波探触子には、複数の超音波振動子が配列される。超音波振動子は、駆動信号を超音波に変換して超音波を被検体に送波すると共に、被検体から発生した反射エコー信号を受波して電気信号に変換する。
近年、cMUT(Capative Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いた超音波探触子が開発されている。cMUTは、半導体微細加工プロセスにより製造される超微細容量型超音波振動子である。cMUTでは、バイアス電圧の大きさに応じて超音波送受信感度すなわち電気機械結合係数が変化する。尚、バイアス電圧は、超音波送受信部から供給される駆動信号に重畳して印加される(例えば、[特許文献1]参照。)。PZT(ジルコンチタン酸鉛)探触子では、パルス特性に尾引きが残留しやすい。一方、cMUT探触子では、パルス特性が大幅に改善されて距離分解能が向上する。さらに、周波数特性も広帯域となるのでペネトレーション(深達度)も向上する。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5894452号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PZT探触子では圧電素子自体を伸縮させるので、負荷による影響を受けにくいが、cMUT探触子では静電力で振動膜を振動させるので、負荷の影響を受けやすいという問題点がある。例えば、cMUT直上に硬質層が形成されると、当該硬質層が振動膜の剛性を変化させ、音響特性が劣化したり中心周波数が高周波数側に大きくずれるという問題点がある。
【0005】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、音響特性への影響を抑制することを可能とする超音波探触子及び超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層と、を備える超音波探触子において、少なくとも前記超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを薄くすることを特徴とする超音波探触子である。
【0007】
第1の発明の超音波探触子では、少なくとも超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、音響レンズとcMUTチップとを接着する接着層の厚さは薄く形成される。接着層の厚さは、例えば、10μm以下とすることが望ましい。また、接着層の材質は、音響レンズと類似の材質とすることが望ましい。
【0008】
このように、cMUTチップ上部の接着層の厚さを薄くすることにより、接着層による音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。
【0009】
第2の発明は、被検体に超音波を送受信する超音波探触子と、前記超音波探触子から出力される超音波受信信号に基づいて超音波画像を構成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、を備える超音波診断装置において、前記超音波探触子は請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の超音波探触子を備える超音波診断装置に関する発明である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、音響特性への影響を抑制することを可能とする超音波探触子及び超音波診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及び超音波診断装置の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、以下の説明及び添付図面において、略同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0013】
(1.超音波診断装置の構成)
最初に、図1を参照しながら、超音波診断装置1の構成について説明する。
図1は、超音波診断装置1の構成図である。
超音波診断装置1は、超音波探触子2、送信手段4、バイアス手段6、受信手段8、整相加算手段10、画像処理手段12、表示手段14、制御手段16、操作手段18から構成される。
【0014】
超音波探触子2は、被検体に接触させて被検体との間で超音波を送受波する装置である。超音波探触子2から超音波が被検体に射出され、被検体から発生した反射エコー信号が超音波探触子2により受波される。
【0015】
送信手段4及びバイアス手段6は、超音波探触子2に駆動信号を供給する装置である。
受信手段8は、超音波探触子2から出力される反射エコー信号を受信する装置である。受信手段8は、さらに、受信した反射エコー信号に対してアナログデジタル変換等の処理を行う。
【0016】
整相加算部10は、受信された反射エコー信号を整相加算する装置である。
画像処理手段12は、整相加算された反射エコー信号に基づいて診断画像(例えば、断層像や血流像)を構成する装置である。
表示部18は、画像処理された診断画像を表示する表示装置である。
制御手段16は、上述した各構成要素を制御する装置である。
操作手段18は、制御手段16に指示を与える装置である。操作手段18は、例えば、トラックボールやキーボードやマウス等の入力機器である。
【0017】
(2.超音波探触子2)
次に、図2〜図4を参照しながら、超音波探触子2について説明する。
【0018】
(2−1.超音波探触子2の構成)
図2は、超音波探触子2の構成図である。図2は、超音波探触子2の一部切り欠き斜視図である。
超音波探触子2は、cMUTチップ20を備える。cMUTチップ20は、複数の振動子21−1、振動子21−2、…が短柵状に配列された1次元アレイ型の振動子群である。振動子21−1、振動子21−2、…には、複数の振動要素28が配設される。尚、2次元アレイ型やコンベックス型等の他の形態の振動子群を用いてもよい。
cMUTチップ20の背面側には、バッキング層22が設けられる。cMUTチップ20の超音波射出側には、音響レンズ26が設けられる。cMUTチップ20及びバッキング層22は、超音波探触子カバー25に格納される。
【0019】
cMUTチップ20は、送信手段4及びバイアス手段6からの駆動信号を超音波に変換して被検体に超音波を送波する。受信手段8は、被検体から発生した超音波を電気信号に変換して反射エコー信号として受波する。
バッキング層22は、cMUTチップ20から背面側に射出される超音波の伝搬を吸収して、余分な振動を抑制する層である。
音響レンズ26は、cMUTチップ20から送波される超音波ビームを収束させるレンズである。音響レンズ26は、1つの焦点距離に基づいて曲率が定められる。
【0020】
尚、音響レンズ26とcMUTチップ20との間にマッチング層を設けてもよい。マッチング層は、cMUTチップ20及び被検体の音響インピーダンスを整合させて、超音波の伝送効率を向上させる層である。
【0021】
(2−2.振動子21)
図3は、振動子21の構成図である。
振動要素28の上部電極46は、長軸方向Xに区分された振動子21毎に結線される。すなわち、上部電極46−1、上部電極46−2、…は、長軸方向Xに並列配置される。
振動要素28の下部電極48は、短軸方向Yに区分された区分毎に結線される。すなわち、下部電極48−1、下部電極48−2、…は、短軸方向Yに並列配置される。
【0022】
(2−3.振動要素28)
図4は、振動要素28の構成図である。図4は、1つの振動要素28の断面図である。
振動要素28は、基板40、膜体44、膜体45、上部電極46、枠体47、下部電極48から構成される。振動要素28は、半導体プロセスによる微細加工により形成される。尚、振動要素28は、cMUTの1素子分に相当する。
【0023】
基板40は、シリコン等の半導体基板である。
膜体44及び枠体47は、シリコン化合物等の半導体化合物から形成される。膜体44は、枠体47の超音波射出側に設けられる。膜体44と枠体47との間に上部電極46が設けられる。基板40と膜体45との間に下部電極48が設けられる。枠体47及び膜体45により区画された内部空間50は、真空状態とされるか、あるいは、所定のガスにより充填される。
上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、駆動信号として交流高周波電圧を供給する送信手段4と、バイアス電圧として直流電圧を印加するバイアス手段6とに接続される。
【0024】
超音波を送波する場合には、振動要素28に上部電極46及び下部電極48を介して、直流のバイアス電圧(Va)が印加され、バイアス電圧(Va)により電界が発生する。発生した電界により膜体44が緊張して所定の電気機械結合係数(Sa)になる。送信手段4から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sa)に基づいて超音波が膜体44から射出される。
また、振動要素28に上部電極46及び下部電極48を介して、直流のバイアス電圧(Vb)が印加されると、バイアス電圧(Vb)により電界が発生する。発生した電界により膜体44が緊張して所定の電気機械結合係数(Sb)になる。送信手段4から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sb)に基づいて超音波が膜体44から射出される。
【0025】
ここで、バイアス電圧が「Va<Vb」の場合には、電気機械結合係数は「Sa<Sb」となる。
一方、超音波を受波する場合には、被検体から発生した反射エコー信号により膜体44が励起されて内部空間50の容量が変化する。この内部空間50の変化量に基づいて、電気信号が上部電極46を介して検出される。
【0026】
尚、振動要素28の電気機械結合係数は、膜体44の緊張度により決定される。従って、振動要素28に印加するバイアス電圧の大きさを変えて膜体44の緊張度を制御すれば、同一振幅の駆動信号が入力される場合であっても、振動要素28から射出される超音波の音圧(例えば、振幅)を変化させることができる。
【0027】
(3.第1の実施形態)
次に、図5〜図13を参照しながら、第1の実施形態について説明する。
【0028】
(3−1.超音波探触子2の構成部材)
図5は、第1の実施形態に係る超音波探触子2を示す図である。図5は、図2の超音波探触子2の平面A断面図である。
【0029】
音響レンズ26の下面には、絶縁層である絶縁膜78が形成される。絶縁膜78は、例えば、シリコン酸化物膜、パラキシリレン膜である。
【0030】
cMUTチップ20は、接着層70を介してバッキング層22の上面に接着される。バッキング層22の上面周縁から四方側面に渡って、フレキシブル基板72(Flexible printed circuits:FPC)が設けられる。フレキシブル基板72は、接着層71を介してバッキング層22の上面周縁に接着される。
【0031】
接着層70及び接着層71は、例えば、エポキシ樹脂からなる接着剤である。接着層70及び接着層71の層厚を任意に調整して、cMUTチップ20及びフレキシブル基板72の高さ方向位置を調整することができる。
【0032】
フレキシブル基板72とcMUTチップ20とは、ワイヤ86を介して電気的に接続される。ワイヤ86は、ワイヤボンディング方式により接続される。ワイヤ86としては、Auワイヤ等を用いることができる。ワイヤ86の周囲には、光硬化樹脂88が充填される。
【0033】
音響レンズ26は、接着層90を介してcMUTチップ20の上面に接着される。音響レンズ26の材質としては、例えば、シリコンゴムが用いられる。接着層90の材質に関しては、音響レンズ26と類似の材質(例えば、シリコン)とすることが望ましい。
音響レンズ26の上面は、少なくとも領域23の範囲内において、超音波照射方向に凸状である。音響レンズ26の上面は、領域23の境界部分にV字状凹部を有する。cMUTチップ20には、少なくとも領域23に対応する範囲内に、振動要素28が配置される。音響レンズ26の凸状の部分から超音波が照射される。
音響レンズ26の下面は、cMUTチップ20の周縁に対応する位置に、U字状凹部を有する。このU字状凹部には、cMUTチップ20とフレキシブル基板72との接続部分(光硬化樹脂88の部分)が嵌合される。
【0034】
超音波探触子カバー25は、超音波探触子2の四方側面に設けられる。超音波探触子カバー25は、音響レンズ26の四方側面に固定される。検者は、超音波探触子カバー25を手で把持して超音波探触子2を操作する。
【0035】
(3−2.超音波探触子2の接続)
図6は、超音波探触子2の接続を示す模式図である。
上部電極46は、ケーブル96及び送受分離回路98を介して受信アンプ100及び送信手段4に接続される。下部電極48は、ケーブル102を介してバイアス手段6に接続される。
抵抗110は、バイアス手段6の電位をグランド電位に安定化させる抵抗素子である。コンデンサ112は、信号電流のバイパス用の容量素子である。
【0036】
(3−3.超音波探触子2の配線)
図7は、超音波探触子2の配線を示す図である。
cMUTチップ20の基板40は、バッキング層22の上面に固定される。フレキシブル基板72は、バッキング層22の上面周縁に固定される。
フレキシブル基板72には、紙面上下で対になる信号パターン38−1〜信号パターン38−n及び紙面左右で対になる信号パターン41−1〜信号パターン41−4が配設される。
【0037】
上部電極46−1〜上部電極46−nは、信号パターン38−1〜信号パターン38−nに接続される。下部電極48−1〜下部電極48−4は、信号パターン41−1〜信号パターン41−nに接続される。隣接する下部電極48−1〜下部電極48−4は、絶縁される。上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、ワイヤ86を介してワイヤボンディング方式によりフレキシブル基板72に接続される。
【0038】
尚、下部電極48−1〜下部電極48−4の形状は、振動要素28の形状(例えば、六角形)に応じた形状(例えば、波形)とすることが望ましい。これにより、各振動要素28を下部共通電極48−1〜下部共通電極48−4のいずれかのみに対応させて配置することができる。
【0039】
また、下部電極48−1〜下部電極48−4が4個配設されるが、数はこれに限られない。
また、信号パターン38−1〜信号パターン38−nは紙面上下に対にして設けられ、信号パターン48−1〜信号パターン48−4は紙面左右に対にして設けられるものとして説明したが、これに限られず、対にせずに片方だけでもよい。
また、信号パターンと上部電極又は下部電極とがワイヤボンディング方式により接続されるものとして説明したが、これに限られず、パッド同士で接続するフリップチップボンディング方式を用いてもよい。
【0040】
(3−4.接着層厚と音響特性)
図8は、接着層90の厚さ毎に伝達関数を示す図である。
図9〜図13は、接着層90の厚さ毎にインパルス応答を示す図である。
【0041】
超音波探触子2の接着層90には音響レンズ26と同様の材料であるシリコンを用い、領域23における接着層90の厚さ(接着層厚)毎に、−20dBパルス幅への影響を計算することにより、図8及び図9〜図13に示す結果が得られた。
【0042】
図8のグラフ201〜グラフ205は、それぞれ、接着層90の厚さが10μm、50μm、100μm、200μm、300μmの場合における伝達関数を示す。
グラフ201が示すように、最薄の接着層厚10μmにおける周波数特性が最も良好である。
【0043】
図9〜図13のグラフ211〜グラフ215は、それぞれ、接着層90の厚さが10μm、50μm、100μm、200μm、300μmの場合におけるインパルス応答を示す。
グラフ211は、他のグラフ212〜グラフ215と比較して、超音波ビーム形状がシャープであり、サイドローブも小さい。
【0044】
(3−5.)
以上説明したように、第1の実施形態では、cMUTチップ20上部の接着層90の厚さを薄くすることにより、接着層90による音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。望ましくは、接着層90の厚さを10μm程度あるいは10μm以下とする。
【0045】
(4.第2の実施形態)
次に、図14を参照しながら、第2の実施形態について説明する。
図14は、第2の実施形態に係る超音波探触子2aを示す図である。
【0046】
第1の実施形態の超音波探触子2は、絶縁層として絶縁膜78を備える。また、音響レンズ26の上面の形状に関しては、領域23の境界部分にV字状凹部が存在する。一方、第2の実施形態の超音波探触子2aは、絶縁層を備えない。また、音響レンズ26aの上面の形状に関しては、領域23で盛り上がる凸部を有する。領域23の境界部分で上面の高さが下がらない。
【0047】
超音波が通過する領域23では接着層90aの厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。一方、領域23の外側では接着層90aの厚さに関しては、光硬化樹脂88を被覆するのに十分な厚さとすることが望ましい。音響レンズ26aの下面は、接着層90aの厚さや光硬化樹脂88の高さに基づいて形状を決定することが望ましい。図14では、音響レンズ26aの下面は、領域23において下方に突出する。
【0048】
このように、第2の実施形態では、領域23において接着層90aの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性与える影響を抑制することができる。
また、音響レンズ26aの上面にV字状凹部が存在しないので、レンズ面形状に起因する撮像時の画像の「抜け」を防止して、超音波画像の画質を向上させることができる。
【0049】
(5.第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態に係る超音波探触子2bを示す図である。
【0050】
第2の実施形態の超音波探触子2aは、絶縁層やグランド層を備えない。一方、第3の実施形態の超音波探触子2bは、絶縁層として2層の絶縁膜78b及び絶縁部74bを備え、導電層として導電膜76bを備える。導電膜78bは、絶縁膜78bと絶縁部74bとの間に形成される。導電膜76bは、例えば、Cu膜である。導電膜76bは、グランド電位であるグランド108に接続される。
【0051】
超音波が通過する領域23では接着層90bの厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。尚、音響レンズ26bは、図14の音響レンズ26aと同様のものである。
【0052】
このように、第3の実施形態では、領域23において接着層90bの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性与える影響を抑制することができる。
また、超音波送受信面とcMUTチップとの間は、音響レンズ及び2層の絶縁層により三重絶縁される。これにより、超音波探触子の絶縁性を高めて安全性を向上させることができる。
さらに、絶縁層としての絶縁膜78bの下方にグランド層としての導電膜76bが設けられる。これにより、音響レンズ26b及び絶縁膜78bが破損した場合でも導電膜76bがグランド電位のために感電を防止し、超音波探触子の安全性を向上させることができる。
【0053】
(6.第4の実施形態)
図16は、第4の実施形態に係る超音波探触子2cを示す図である。
【0054】
第2の実施形態では、音響レンズ26aとcMUTチップ20との間には、接着層90aのみが形成される。一方、第4の実施形態では、音響レンズ26cとcMUTチップ20との間には、接着層90cだけでなく平滑化樹脂層120が形成される。
【0055】
平滑化樹脂層120は、音響レンズ26cと比較して音響インピーダンスが同程度の樹脂層である。平滑化樹脂層120として、例えば、トリメチルペンテンを用いることができる。平滑化樹脂層120の厚さは、ワイヤ86周辺に充填される光硬化樹脂88の高さに応じて決定することが望ましい。平滑化樹脂層120の厚さは、例えば、光硬化樹脂88の高さと同程度とする。
【0056】
超音波が通過する領域23では、平滑化樹脂120の上方及び下方の接着層90c−1及び接着層90c−2の厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。
【0057】
音響レンズ26cの上面の形状は、第2の実施形態の音響レンズ26aと同様である。音響レンズ26cの下面の形状は、平滑化樹脂層120が存在するので、接着層90cの厚さを薄くした場合であっても、領域23において突出させる必要がない。すなわち、音響レンズ26cの下面の形状を平坦にすることができる。
【0058】
このように、第4の実施形態では、領域23において接着層90cの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性に与える影響を抑制することができる。
また、平滑化樹脂層120を形成することにより、接着層90cの厚さを薄くしても音響レンズ26cの下面を平坦とすることができ、音響レンズ26cの成形や超音波探触子の製作が容易である。
【0059】
(7.その他)
上述の実施の形態では、絶縁層を形成する場合には、膜厚を1μm程度とすることが望ましい。絶縁層の膜厚をそれぞれ薄くすることにより、cMUTチップにおいて送受される超音波への影響(パルス特性・周波数特性への影響や減衰)を抑制することができる。
【0060】
膜形成方法に関しては、音響レンズの成形と同時に絶縁シートをインモールド成形する方法や絶縁膜を物理的蒸着あるいは化学的蒸着により形成する方法がある。インモールド成形では、低コストに膜を形成することができるが、膜厚10μm程度が限界である。一方、蒸着による膜形成では、膜厚1μm程度とすることができる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及び超音波診断装置の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】超音波診断装置1の構成図
【図2】超音波探触子2の構成図
【図3】振動子21の構成図
【図4】振動要素28の構成図
【図5】超音波探触子2を示す図(第1の実施形態)
【図6】超音波探触子2の接続を示す図
【図7】超音波探触子2の配線を示す図
【図8】接着層厚毎に伝達関数を示す図である。
【図9】インパルス応答を示す図(接着層厚=10μm)
【図10】インパルス応答を示す図(接着層厚=50μm)
【図11】インパルス応答を示す図(接着層厚=100μm)
【図12】インパルス応答を示す図(接着層厚=200μm)
【図13】インパルス応答を示す図(接着層厚=300μm)
【図14】超音波探触子2aを示す図(第2の実施形態)
【図15】超音波探触子2bを示す図(第3の実施形態)
【図16】超音波探触子2cを示す図(第4の実施形態)
【符号の説明】
【0063】
1………超音波診断装置
2………超音波探触子
4………送信手段
6………バイアス手段
8………受信手段
10………整相加算手段
12………画像処理手段
14………表示手段
16………制御手段
18………操作手段
20………cMUTチップ
21−1、21−2、…、………振動子
22………バッキング層
25………超音波探触子カバー
26………音響レンズ
28………振動要素
40………基板
46………上部電極
48………下部電極
72………フレキシブル基板
70、71………接着層
90………接着層
78………絶縁膜(絶縁層)
86………ワイヤ
88………光硬化樹脂
26a、26b、26c………音響レンズ
74b、78b………絶縁膜
76b………導電膜
90a、90b、90c………接着層
108………グランド
120………平滑化樹脂層
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断画像を撮像する超音波探触子及び超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波探触子から出力される反射エコー信号に基づいて診断画像を撮像する装置である。超音波探触子には、複数の超音波振動子が配列される。超音波振動子は、駆動信号を超音波に変換して超音波を被検体に送波すると共に、被検体から発生した反射エコー信号を受波して電気信号に変換する。
近年、cMUT(Capative Micromachined Ultrasonic Transducer)を用いた超音波探触子が開発されている。cMUTは、半導体微細加工プロセスにより製造される超微細容量型超音波振動子である。cMUTでは、バイアス電圧の大きさに応じて超音波送受信感度すなわち電気機械結合係数が変化する。尚、バイアス電圧は、超音波送受信部から供給される駆動信号に重畳して印加される(例えば、[特許文献1]参照。)。PZT(ジルコンチタン酸鉛)探触子では、パルス特性に尾引きが残留しやすい。一方、cMUT探触子では、パルス特性が大幅に改善されて距離分解能が向上する。さらに、周波数特性も広帯域となるのでペネトレーション(深達度)も向上する。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5894452号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PZT探触子では圧電素子自体を伸縮させるので、負荷による影響を受けにくいが、cMUT探触子では静電力で振動膜を振動させるので、負荷の影響を受けやすいという問題点がある。例えば、cMUT直上に硬質層が形成されると、当該硬質層が振動膜の剛性を変化させ、音響特性が劣化したり中心周波数が高周波数側に大きくずれるという問題点がある。
【0005】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、音響特性への影響を抑制することを可能とする超音波探触子及び超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために第1の発明は、バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層と、を備える超音波探触子において、少なくとも前記超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを薄くすることを特徴とする超音波探触子である。
【0007】
第1の発明の超音波探触子では、少なくとも超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、音響レンズとcMUTチップとを接着する接着層の厚さは薄く形成される。接着層の厚さは、例えば、10μm以下とすることが望ましい。また、接着層の材質は、音響レンズと類似の材質とすることが望ましい。
【0008】
このように、cMUTチップ上部の接着層の厚さを薄くすることにより、接着層による音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。
【0009】
第2の発明は、被検体に超音波を送受信する超音波探触子と、前記超音波探触子から出力される超音波受信信号に基づいて超音波画像を構成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、を備える超音波診断装置において、前記超音波探触子は請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置である。
【0010】
第2の発明は、第1の発明の超音波探触子を備える超音波診断装置に関する発明である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、音響特性への影響を抑制することを可能とする超音波探触子及び超音波診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及び超音波診断装置の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、以下の説明及び添付図面において、略同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0013】
(1.超音波診断装置の構成)
最初に、図1を参照しながら、超音波診断装置1の構成について説明する。
図1は、超音波診断装置1の構成図である。
超音波診断装置1は、超音波探触子2、送信手段4、バイアス手段6、受信手段8、整相加算手段10、画像処理手段12、表示手段14、制御手段16、操作手段18から構成される。
【0014】
超音波探触子2は、被検体に接触させて被検体との間で超音波を送受波する装置である。超音波探触子2から超音波が被検体に射出され、被検体から発生した反射エコー信号が超音波探触子2により受波される。
【0015】
送信手段4及びバイアス手段6は、超音波探触子2に駆動信号を供給する装置である。
受信手段8は、超音波探触子2から出力される反射エコー信号を受信する装置である。受信手段8は、さらに、受信した反射エコー信号に対してアナログデジタル変換等の処理を行う。
【0016】
整相加算部10は、受信された反射エコー信号を整相加算する装置である。
画像処理手段12は、整相加算された反射エコー信号に基づいて診断画像(例えば、断層像や血流像)を構成する装置である。
表示部18は、画像処理された診断画像を表示する表示装置である。
制御手段16は、上述した各構成要素を制御する装置である。
操作手段18は、制御手段16に指示を与える装置である。操作手段18は、例えば、トラックボールやキーボードやマウス等の入力機器である。
【0017】
(2.超音波探触子2)
次に、図2〜図4を参照しながら、超音波探触子2について説明する。
【0018】
(2−1.超音波探触子2の構成)
図2は、超音波探触子2の構成図である。図2は、超音波探触子2の一部切り欠き斜視図である。
超音波探触子2は、cMUTチップ20を備える。cMUTチップ20は、複数の振動子21−1、振動子21−2、…が短柵状に配列された1次元アレイ型の振動子群である。振動子21−1、振動子21−2、…には、複数の振動要素28が配設される。尚、2次元アレイ型やコンベックス型等の他の形態の振動子群を用いてもよい。
cMUTチップ20の背面側には、バッキング層22が設けられる。cMUTチップ20の超音波射出側には、音響レンズ26が設けられる。cMUTチップ20及びバッキング層22は、超音波探触子カバー25に格納される。
【0019】
cMUTチップ20は、送信手段4及びバイアス手段6からの駆動信号を超音波に変換して被検体に超音波を送波する。受信手段8は、被検体から発生した超音波を電気信号に変換して反射エコー信号として受波する。
バッキング層22は、cMUTチップ20から背面側に射出される超音波の伝搬を吸収して、余分な振動を抑制する層である。
音響レンズ26は、cMUTチップ20から送波される超音波ビームを収束させるレンズである。音響レンズ26は、1つの焦点距離に基づいて曲率が定められる。
【0020】
尚、音響レンズ26とcMUTチップ20との間にマッチング層を設けてもよい。マッチング層は、cMUTチップ20及び被検体の音響インピーダンスを整合させて、超音波の伝送効率を向上させる層である。
【0021】
(2−2.振動子21)
図3は、振動子21の構成図である。
振動要素28の上部電極46は、長軸方向Xに区分された振動子21毎に結線される。すなわち、上部電極46−1、上部電極46−2、…は、長軸方向Xに並列配置される。
振動要素28の下部電極48は、短軸方向Yに区分された区分毎に結線される。すなわち、下部電極48−1、下部電極48−2、…は、短軸方向Yに並列配置される。
【0022】
(2−3.振動要素28)
図4は、振動要素28の構成図である。図4は、1つの振動要素28の断面図である。
振動要素28は、基板40、膜体44、膜体45、上部電極46、枠体47、下部電極48から構成される。振動要素28は、半導体プロセスによる微細加工により形成される。尚、振動要素28は、cMUTの1素子分に相当する。
【0023】
基板40は、シリコン等の半導体基板である。
膜体44及び枠体47は、シリコン化合物等の半導体化合物から形成される。膜体44は、枠体47の超音波射出側に設けられる。膜体44と枠体47との間に上部電極46が設けられる。基板40と膜体45との間に下部電極48が設けられる。枠体47及び膜体45により区画された内部空間50は、真空状態とされるか、あるいは、所定のガスにより充填される。
上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、駆動信号として交流高周波電圧を供給する送信手段4と、バイアス電圧として直流電圧を印加するバイアス手段6とに接続される。
【0024】
超音波を送波する場合には、振動要素28に上部電極46及び下部電極48を介して、直流のバイアス電圧(Va)が印加され、バイアス電圧(Va)により電界が発生する。発生した電界により膜体44が緊張して所定の電気機械結合係数(Sa)になる。送信手段4から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sa)に基づいて超音波が膜体44から射出される。
また、振動要素28に上部電極46及び下部電極48を介して、直流のバイアス電圧(Vb)が印加されると、バイアス電圧(Vb)により電界が発生する。発生した電界により膜体44が緊張して所定の電気機械結合係数(Sb)になる。送信手段4から上部電極46に駆動信号が供給されると、電気機械結合係数(Sb)に基づいて超音波が膜体44から射出される。
【0025】
ここで、バイアス電圧が「Va<Vb」の場合には、電気機械結合係数は「Sa<Sb」となる。
一方、超音波を受波する場合には、被検体から発生した反射エコー信号により膜体44が励起されて内部空間50の容量が変化する。この内部空間50の変化量に基づいて、電気信号が上部電極46を介して検出される。
【0026】
尚、振動要素28の電気機械結合係数は、膜体44の緊張度により決定される。従って、振動要素28に印加するバイアス電圧の大きさを変えて膜体44の緊張度を制御すれば、同一振幅の駆動信号が入力される場合であっても、振動要素28から射出される超音波の音圧(例えば、振幅)を変化させることができる。
【0027】
(3.第1の実施形態)
次に、図5〜図13を参照しながら、第1の実施形態について説明する。
【0028】
(3−1.超音波探触子2の構成部材)
図5は、第1の実施形態に係る超音波探触子2を示す図である。図5は、図2の超音波探触子2の平面A断面図である。
【0029】
音響レンズ26の下面には、絶縁層である絶縁膜78が形成される。絶縁膜78は、例えば、シリコン酸化物膜、パラキシリレン膜である。
【0030】
cMUTチップ20は、接着層70を介してバッキング層22の上面に接着される。バッキング層22の上面周縁から四方側面に渡って、フレキシブル基板72(Flexible printed circuits:FPC)が設けられる。フレキシブル基板72は、接着層71を介してバッキング層22の上面周縁に接着される。
【0031】
接着層70及び接着層71は、例えば、エポキシ樹脂からなる接着剤である。接着層70及び接着層71の層厚を任意に調整して、cMUTチップ20及びフレキシブル基板72の高さ方向位置を調整することができる。
【0032】
フレキシブル基板72とcMUTチップ20とは、ワイヤ86を介して電気的に接続される。ワイヤ86は、ワイヤボンディング方式により接続される。ワイヤ86としては、Auワイヤ等を用いることができる。ワイヤ86の周囲には、光硬化樹脂88が充填される。
【0033】
音響レンズ26は、接着層90を介してcMUTチップ20の上面に接着される。音響レンズ26の材質としては、例えば、シリコンゴムが用いられる。接着層90の材質に関しては、音響レンズ26と類似の材質(例えば、シリコン)とすることが望ましい。
音響レンズ26の上面は、少なくとも領域23の範囲内において、超音波照射方向に凸状である。音響レンズ26の上面は、領域23の境界部分にV字状凹部を有する。cMUTチップ20には、少なくとも領域23に対応する範囲内に、振動要素28が配置される。音響レンズ26の凸状の部分から超音波が照射される。
音響レンズ26の下面は、cMUTチップ20の周縁に対応する位置に、U字状凹部を有する。このU字状凹部には、cMUTチップ20とフレキシブル基板72との接続部分(光硬化樹脂88の部分)が嵌合される。
【0034】
超音波探触子カバー25は、超音波探触子2の四方側面に設けられる。超音波探触子カバー25は、音響レンズ26の四方側面に固定される。検者は、超音波探触子カバー25を手で把持して超音波探触子2を操作する。
【0035】
(3−2.超音波探触子2の接続)
図6は、超音波探触子2の接続を示す模式図である。
上部電極46は、ケーブル96及び送受分離回路98を介して受信アンプ100及び送信手段4に接続される。下部電極48は、ケーブル102を介してバイアス手段6に接続される。
抵抗110は、バイアス手段6の電位をグランド電位に安定化させる抵抗素子である。コンデンサ112は、信号電流のバイパス用の容量素子である。
【0036】
(3−3.超音波探触子2の配線)
図7は、超音波探触子2の配線を示す図である。
cMUTチップ20の基板40は、バッキング層22の上面に固定される。フレキシブル基板72は、バッキング層22の上面周縁に固定される。
フレキシブル基板72には、紙面上下で対になる信号パターン38−1〜信号パターン38−n及び紙面左右で対になる信号パターン41−1〜信号パターン41−4が配設される。
【0037】
上部電極46−1〜上部電極46−nは、信号パターン38−1〜信号パターン38−nに接続される。下部電極48−1〜下部電極48−4は、信号パターン41−1〜信号パターン41−nに接続される。隣接する下部電極48−1〜下部電極48−4は、絶縁される。上部電極46及び下部電極48は、それぞれ、ワイヤ86を介してワイヤボンディング方式によりフレキシブル基板72に接続される。
【0038】
尚、下部電極48−1〜下部電極48−4の形状は、振動要素28の形状(例えば、六角形)に応じた形状(例えば、波形)とすることが望ましい。これにより、各振動要素28を下部共通電極48−1〜下部共通電極48−4のいずれかのみに対応させて配置することができる。
【0039】
また、下部電極48−1〜下部電極48−4が4個配設されるが、数はこれに限られない。
また、信号パターン38−1〜信号パターン38−nは紙面上下に対にして設けられ、信号パターン48−1〜信号パターン48−4は紙面左右に対にして設けられるものとして説明したが、これに限られず、対にせずに片方だけでもよい。
また、信号パターンと上部電極又は下部電極とがワイヤボンディング方式により接続されるものとして説明したが、これに限られず、パッド同士で接続するフリップチップボンディング方式を用いてもよい。
【0040】
(3−4.接着層厚と音響特性)
図8は、接着層90の厚さ毎に伝達関数を示す図である。
図9〜図13は、接着層90の厚さ毎にインパルス応答を示す図である。
【0041】
超音波探触子2の接着層90には音響レンズ26と同様の材料であるシリコンを用い、領域23における接着層90の厚さ(接着層厚)毎に、−20dBパルス幅への影響を計算することにより、図8及び図9〜図13に示す結果が得られた。
【0042】
図8のグラフ201〜グラフ205は、それぞれ、接着層90の厚さが10μm、50μm、100μm、200μm、300μmの場合における伝達関数を示す。
グラフ201が示すように、最薄の接着層厚10μmにおける周波数特性が最も良好である。
【0043】
図9〜図13のグラフ211〜グラフ215は、それぞれ、接着層90の厚さが10μm、50μm、100μm、200μm、300μmの場合におけるインパルス応答を示す。
グラフ211は、他のグラフ212〜グラフ215と比較して、超音波ビーム形状がシャープであり、サイドローブも小さい。
【0044】
(3−5.)
以上説明したように、第1の実施形態では、cMUTチップ20上部の接着層90の厚さを薄くすることにより、接着層90による音響特性への影響を抑制し、パルス特性や周波数特性を向上させることができる。望ましくは、接着層90の厚さを10μm程度あるいは10μm以下とする。
【0045】
(4.第2の実施形態)
次に、図14を参照しながら、第2の実施形態について説明する。
図14は、第2の実施形態に係る超音波探触子2aを示す図である。
【0046】
第1の実施形態の超音波探触子2は、絶縁層として絶縁膜78を備える。また、音響レンズ26の上面の形状に関しては、領域23の境界部分にV字状凹部が存在する。一方、第2の実施形態の超音波探触子2aは、絶縁層を備えない。また、音響レンズ26aの上面の形状に関しては、領域23で盛り上がる凸部を有する。領域23の境界部分で上面の高さが下がらない。
【0047】
超音波が通過する領域23では接着層90aの厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。一方、領域23の外側では接着層90aの厚さに関しては、光硬化樹脂88を被覆するのに十分な厚さとすることが望ましい。音響レンズ26aの下面は、接着層90aの厚さや光硬化樹脂88の高さに基づいて形状を決定することが望ましい。図14では、音響レンズ26aの下面は、領域23において下方に突出する。
【0048】
このように、第2の実施形態では、領域23において接着層90aの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性与える影響を抑制することができる。
また、音響レンズ26aの上面にV字状凹部が存在しないので、レンズ面形状に起因する撮像時の画像の「抜け」を防止して、超音波画像の画質を向上させることができる。
【0049】
(5.第3の実施形態)
図15は、第3の実施形態に係る超音波探触子2bを示す図である。
【0050】
第2の実施形態の超音波探触子2aは、絶縁層やグランド層を備えない。一方、第3の実施形態の超音波探触子2bは、絶縁層として2層の絶縁膜78b及び絶縁部74bを備え、導電層として導電膜76bを備える。導電膜78bは、絶縁膜78bと絶縁部74bとの間に形成される。導電膜76bは、例えば、Cu膜である。導電膜76bは、グランド電位であるグランド108に接続される。
【0051】
超音波が通過する領域23では接着層90bの厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。尚、音響レンズ26bは、図14の音響レンズ26aと同様のものである。
【0052】
このように、第3の実施形態では、領域23において接着層90bの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性与える影響を抑制することができる。
また、超音波送受信面とcMUTチップとの間は、音響レンズ及び2層の絶縁層により三重絶縁される。これにより、超音波探触子の絶縁性を高めて安全性を向上させることができる。
さらに、絶縁層としての絶縁膜78bの下方にグランド層としての導電膜76bが設けられる。これにより、音響レンズ26b及び絶縁膜78bが破損した場合でも導電膜76bがグランド電位のために感電を防止し、超音波探触子の安全性を向上させることができる。
【0053】
(6.第4の実施形態)
図16は、第4の実施形態に係る超音波探触子2cを示す図である。
【0054】
第2の実施形態では、音響レンズ26aとcMUTチップ20との間には、接着層90aのみが形成される。一方、第4の実施形態では、音響レンズ26cとcMUTチップ20との間には、接着層90cだけでなく平滑化樹脂層120が形成される。
【0055】
平滑化樹脂層120は、音響レンズ26cと比較して音響インピーダンスが同程度の樹脂層である。平滑化樹脂層120として、例えば、トリメチルペンテンを用いることができる。平滑化樹脂層120の厚さは、ワイヤ86周辺に充填される光硬化樹脂88の高さに応じて決定することが望ましい。平滑化樹脂層120の厚さは、例えば、光硬化樹脂88の高さと同程度とする。
【0056】
超音波が通過する領域23では、平滑化樹脂120の上方及び下方の接着層90c−1及び接着層90c−2の厚さは薄く、例えば、10μm程度とすることが望ましい。
【0057】
音響レンズ26cの上面の形状は、第2の実施形態の音響レンズ26aと同様である。音響レンズ26cの下面の形状は、平滑化樹脂層120が存在するので、接着層90cの厚さを薄くした場合であっても、領域23において突出させる必要がない。すなわち、音響レンズ26cの下面の形状を平坦にすることができる。
【0058】
このように、第4の実施形態では、領域23において接着層90cの厚さが薄いので、第1の実施形態と同様に、音響特性に与える影響を抑制することができる。
また、平滑化樹脂層120を形成することにより、接着層90cの厚さを薄くしても音響レンズ26cの下面を平坦とすることができ、音響レンズ26cの成形や超音波探触子の製作が容易である。
【0059】
(7.その他)
上述の実施の形態では、絶縁層を形成する場合には、膜厚を1μm程度とすることが望ましい。絶縁層の膜厚をそれぞれ薄くすることにより、cMUTチップにおいて送受される超音波への影響(パルス特性・周波数特性への影響や減衰)を抑制することができる。
【0060】
膜形成方法に関しては、音響レンズの成形と同時に絶縁シートをインモールド成形する方法や絶縁膜を物理的蒸着あるいは化学的蒸着により形成する方法がある。インモールド成形では、低コストに膜を形成することができるが、膜厚10μm程度が限界である。一方、蒸着による膜形成では、膜厚1μm程度とすることができる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る超音波探触子及び超音波診断装置の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】超音波診断装置1の構成図
【図2】超音波探触子2の構成図
【図3】振動子21の構成図
【図4】振動要素28の構成図
【図5】超音波探触子2を示す図(第1の実施形態)
【図6】超音波探触子2の接続を示す図
【図7】超音波探触子2の配線を示す図
【図8】接着層厚毎に伝達関数を示す図である。
【図9】インパルス応答を示す図(接着層厚=10μm)
【図10】インパルス応答を示す図(接着層厚=50μm)
【図11】インパルス応答を示す図(接着層厚=100μm)
【図12】インパルス応答を示す図(接着層厚=200μm)
【図13】インパルス応答を示す図(接着層厚=300μm)
【図14】超音波探触子2aを示す図(第2の実施形態)
【図15】超音波探触子2bを示す図(第3の実施形態)
【図16】超音波探触子2cを示す図(第4の実施形態)
【符号の説明】
【0063】
1………超音波診断装置
2………超音波探触子
4………送信手段
6………バイアス手段
8………受信手段
10………整相加算手段
12………画像処理手段
14………表示手段
16………制御手段
18………操作手段
20………cMUTチップ
21−1、21−2、…、………振動子
22………バッキング層
25………超音波探触子カバー
26………音響レンズ
28………振動要素
40………基板
46………上部電極
48………下部電極
72………フレキシブル基板
70、71………接着層
90………接着層
78………絶縁膜(絶縁層)
86………ワイヤ
88………光硬化樹脂
26a、26b、26c………音響レンズ
74b、78b………絶縁膜
76b………導電膜
90a、90b、90c………接着層
108………グランド
120………平滑化樹脂層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層と、を備える超音波探触子において、
少なくとも前記超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを薄くすることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の材質は、前記音響レンズと類似の材質であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを略10μm以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
被検体に超音波を送受信する超音波探触子と、前記超音波探触子から出力される超音波受信信号に基づいて超音波画像を構成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、を備える超音波診断装置において、
前記超音波探触子は請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項1】
バイアス電圧に応じて電気機械結合係数または感度が変化する複数の振動要素を有し超音波を送受波するcMUTチップと、前記cMUTチップの上方に設けられる音響レンズと、前記cMUTチップの下方に設けられるバッキング層と、を備える超音波探触子において、
少なくとも前記超音波が通過する領域では、他の領域と比較して、前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを薄くすることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の材質は、前記音響レンズと類似の材質であることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記音響レンズと前記cMUTチップとを接着する接着層の厚さを略10μm以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
被検体に超音波を送受信する超音波探触子と、前記超音波探触子から出力される超音波受信信号に基づいて超音波画像を構成する画像処理部と、前記超音波画像を表示する表示部と、を備える超音波診断装置において、
前記超音波探触子は請求項1から請求項3までのいずれかに記載の超音波探触子であることを特徴とする超音波診断装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−119318(P2008−119318A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307988(P2006−307988)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】
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