説明

超音波画像処理装置

【課題】超音波診断の対象となった組織の罹患状態を直感的に把握できるようにする。
【解決手段】超音波画像64の他に被検者説明用情報67が表示される。情報67は被検者の参考モデル像66と健常モデル像68とを含む。参考モデル像66における色は組織性状の評価値により決定され、参考モデル像66における形状(表面形状)は対象組織の形状の評価値に基づいて決定される。健常モデル像68は健常者の対象組織を表す像である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波画像処理装置に関し、特に、対象組織の状態を表す参考情報を提供する超音波画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像処理装置は、一般に、超音波診断装置として構成され、あるいは、超音波データ(受信信号、ビームデータあるいは画像データ)を処理する情報処理装置として構成される。かかる超音波画像処理装置においては、二次元断層画像、三次元画像等の超音波画像が表示される。そのような超音波画像から対象組織の状態(疾患の種類や程度)を診断するには医師において熟練を要する。ましてや被検者への説明の観点から医師が被検者に組織状態の説明を行う際、素人である被検者にとって超音波画像を見ても疾患状態を良く理解できない場合が多い。特に、正常な状態を表す画像内容に対して、自己の画像内容がどの程度違うのかは見当もつかないことも多いし、それを医師が口頭で説明してもその理解は一般に困難である。
【0003】
一方、超音波画像(あるいはその基礎となった受信情報)に基づいて対象組織の状態を解析する技術も幾つか提案されている。例えば、二次元断層画像を基礎として、肝臓内部の組織の性状が解析されてその解析結果が表示され、あるいは、肝臓の形態が解析されてその解析結果が表示される。そのような解析の結果を数値として表示した場合、医師及び被検者の双方にとって罹患状態を直感的に理解できない。二次元断層画像それ自体に着色処理を施して、疾患状態を表現する技術も提案されているが(特許文献1)、そもそも二次元断層画像を見慣れていない被検者にとってはどの組織がどのような状態なのか理解困難である。
【0004】
なお、特許文献2にも、対象組織の性状を表す情報を二次元断層画像上に重ねて表示する技術が開示されている。この特許文献2ではフラクタル次元の解析によって対象組織の性状が解析されている。組織性状の解析方法としては、画素値分布の統計処理、テクスチャ解析、その他があげられる。特許文献3には、二次元断層画像上に現れた肝臓の辺縁の凹凸の程度を評価し、肝臓の疾患程度を表す情報を提供する技術が開示されている。これは対象組織の形態の解析結果を提供するものである。形態の解析法としてはパターンマッチング法その他の手法が知られている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−10171号公報
【特許文献2】特開2005−110833号公報
【特許文献3】特開2005−319080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来においては、観察者(特に被検者)をして組織状態を直感的に理解できるような情報を提供しているとは言い難い。どの組織がどのような状態にあるのかを分かり易く伝達する技術が要望されている。なお、複数の組織解析結果を同時に分かり易く表現する技術も要望されている。
【0007】
本発明の目的は、対象組織の状態を直感的に理解可能な参考情報を表示する超音波画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被検者内の対象組織に対して超音波を送受波して得られた受信データに基づいて、前記対象組織の超音波画像を形成する画像形成手段と、前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて前記対象組織の罹患状態を表す組織情報を演算する組織情報演算手段と、前記対象組織を模式的に表す像であって前記組織情報が反映された参考モデル像を生成する参考モデル像生成手段と、前記超音波画像及び前記参考モデル像を表示する表示手段と、を含むことを特徴とする超音波画像処理装置に関する。
【0009】
上記構成によれば、画像形成手段によって、被検体内の対象組織(例えば肝臓)を表す超音波画像(例えば二次元断層画像、三次元画像)が形成される。一方、受信データ又は超音波画像に基づいて、つまり画像形成処理前又は後の情報に基づいて、対象組織の罹患状態を示す組織情報(例えば、健常状態か罹患状態かを示す情報、罹患状態の程度を示す情報)が演算される。望ましくは、組織情報が少なくとも1つの評価値で構成され、特に望ましくは、組織情報が複数の評価値の組み合わせとして構成される。参考モデル像生成手段は、組織情報に基づいて、被検者内の対象組織の罹患状態が反映された参考モデル像を生成する。参考モデル像は、診断対象となっている対象組織そのものを忠実に再現した像ではなく、罹患程度をより直感的に理解しやすいような像として構成されるのが望ましい。例えば、幾つかのモデルパターンを用意しておいて、組織情報に基づいて特定のモデルパターンを選択し、その選択されたモデルパターンを使って参考モデル像を生成するようにしてもよい。参考モデル像において、対象組織についての健常状態又は非健常状態の程度を表すために、参考モデル像の属性を可変又は選択するのが望ましい。そのような属性としては、外形形状、表面形状、サイズ、色(色調、光沢、彩度)、その他があげられる。実際の超音波画像から疾患内容、疾患程度を視覚的に判断するためには熟練を要する。計測演算の結果得られる各種評価値によって対象組織の状態を評価できるとしても、それは現状においての直感的な理解に必ずしも結びつくものではない。これに対し、上記構成によれば、超音波画像からの組織状態の認識を迅速かつ容易に行える。医師が病状を説明した上で治療方法について患者の同意を求める場合において、患者の理解を促進できるから、患者本位の医療を支援することができる。
【0010】
望ましくは、前記参考モデル像生成手段は、前記組織情報に応じて前記参考モデル像の色及び形態の少なくとも一方を変更する。色には色相、光沢、彩度といったものが含まれる。形態には外形、表面形状(タイルパターン、テクスチャ)といったものが含まれる。あまり細かく形態や色を変えると、かえって直感的な理解、認識が損なわれるのであれば、それぞれの変更数を制限してもよい。勿論、段階的な変更ではなく連続的な変更を採用してもよい。参考モデル像がカラー像として構成されるのが望ましいが、白黒像として構成されてもよい。
【0011】
望ましくは、前記組織情報演算手段は、前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて、前記組織情報として、前記対象組織の内部性状に関する第1評価値を演算する第1評価手段と、前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて、前記組織情報として、前記対象組織の外部形態に関する第2評価値を演算する第2評価手段と、を含み、前記参考モデル像の第1属性が前記第1評価値に基づいて定められ、前記参考モデル像の第2属性が前記第2評価値に基づいて定められる。この構成によれば、対象組織の内部性状(組織の性質及び状態を含む概念)と対象組織の形態(外部形態)とを個別的に分析して、多面的観点から対象組織の疾病内容、疾病度を評価し、そのような多面的な評価結果を参考モデル像に反映できる。
【0012】
望ましくは、前記第1属性は前記参考モデル像の形状属性であり、前記第2属性は前記参考モデル像の色属性であり、前記参考モデル像生成手段は、形状表現が互いに異なる複数のモデル像の中から前記第2評価値に基づいて特定のモデル像を選択する選択部と、前記選択された特定のモデル像に対して、前記第1評価値に基づいて着色処理を施すことにより前記表示手段に表示する参考モデル像を生成する着色処理部と、を含む。上記構成によれば、複数のモデル像の中から選択によって、着色処理対象となる基礎モデル像を簡便に特定して、それをアレンジすることによって、被検者の対象組織の状態を分かり易く認識できる参考モデル像を生成できる。
【0013】
望ましくは、前記参考モデル像は立体感ある三次元画像である。それが、陰影、光沢、を有する立体的な像として構成されてもよい。例えば、二次元断層画像から対象組織を想像するには走査面の位置や解剖学的な知識が必要となるが、対象組織を立体的に表現すれば、多くの者にとってそれが何を表しているものかを直ちに認識できる。
【0014】
望ましくは、更に、前記参考モデル像と対比されるべき標準モデル像を生成する標準モデル像生成手段を含み、前記標準モデル像は健常者の対象組織を表すものであり、前記参考モデル像は被検者の対象組織を表すものであり、前記参考モデル像と前記標準モデル像とが画面上に一緒に表示される。この構成によれば、標準モデル像との対比において、参考モデル像を評価することが可能となる。つまり、比較対象をおくことによってそれとの相対的な違いから対象組織の状態をより的確に認識できる。
【0015】
望ましくは、前記組織情報演算手段は、更に、前記受信データ又は前記超音波画像に対して第1部分領域を設定する第1部分領域設定手段と、前記受信データ又は前記超音波画像に対して前記第1部分領域とは別の第2部分領域を設定する第2部分領域設定手段と、前記第1評価手段は前記第1部分領域内のデータ又は画像に基づいて前記第1評価値を演算し、前記第2評価手段は前記第2部分領域内のデータ又は画像に基づいて前記第2評価値を演算する。望ましくは、前記第1部分領域は前記対象組織における実質部分に設定され、前記第2部分領域は前記対象組織の辺縁部分に設定される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、対象組織の状態を直感的に理解可能な参考情報を提供できる。特に被検者への説明において有用な画像を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1には、本発明に係る超音波画像処理装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。図1に示す超音波画像処理装置は、本実施形態において、超音波診断装置である。超音波診断装置は、医療の分野において用いられ、生体内の組織(対象組織)の超音波画像を形成する機能を有している。本実施形態においては、肝臓が対象組織となっているが、もちろん各種の組織を診断対象とすることができる。
【0019】
プローブ10は、1Dアレイ振動子を有している。1Dアレイ振動子は、複数の振動素子からなるものであり、それらは直線的に配列され、あるいは円弧状に配列されている。1Dアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査される。これによって、二次元の走査面が形成される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査、等が知られている。プローブ10に、2Dアレイ振動子を設け、三次元データ取込空間を形成するようにしてもよい。
【0020】
送受信部12は送信ビームフォーマ及び受信ビームフォーマとして機能する。送信時において、送受信部12は、複数の振動素子に対して複数の送信信号を供給する。これによって1Dアレイ振動子により送信ビームが形成される。生体内からの反射波は1Dアレイ振動子で受波される。これにより、複数の振動素子から複数の受信信号が送受信部12へ出力される。送受信部12は複数の受信信号に対して整相加算処理を実行し、これによって整相加算後の受信信号すなわちビームデータが出力される。
【0021】
信号処理部14は、検波器、対数圧縮器、等を有し、入力されるビームデータに対して信号処理を実行する。信号処理後のビームデータは画像形成部16へ送られる。
【0022】
画像形成部16は、本実施形態において、デジタルスキャンコンバータによって構成され、入力される複数のビームデータに基づいて二次元断層画像(Bモード画像)を形成する。画像形成部16は、周知のように、座標変換機能、補完機能等を有している。このように形成された超音波画像の画像データは表示処理部20へ出力される。本実施形態においては、その画像データはさらにモデル像生成ユニット18へ送られている。
【0023】
以下に、モデル像生成ユニット18について詳述する。入力された画像データは、図示されるように、実質部分抽出部22及び辺縁部分抽出部36に入力される。実質部分抽出部22は、対象組織内における実質部分に相当する画像データ(部分画像データ)を抽出する機能を有している。これに関しては後に詳述するが、例えば肝臓が対象組織である場合、肝臓内における血管を外して肝臓組織についての画像データが抽出されるのが望ましい。抽出の範囲はROI(関心領域)により規定される。ROIの位置及びサイズについては自動的にあるいはマニュアルで設定することができる。
【0024】
実質部分に相当する部分画像データが抽出されると、それに基づいて平均値算出部24及び分散値算出部32によりそれぞれ平均値及び分散値が算出される。平均値はROI内における輝度の平均値であり、同様に、分散値は輝度の分散値である。必要に応じてヒストグラムが作成される。
【0025】
比較部26及び比較部34は、メモリ28に記憶された第一及び第二閾値と平均値,分散値とを比較する機能を有する。比較部26において、入力される平均値が第一閾値よりも大きければ1が出力され、そうでなければ0が出力される。同様に、比較部34において、入力される分散値が第二閾値よりも大きければ0が出力され、そうでなければ1が出力される。
【0026】
性状評価部30は、比較部26から入力される1または0の情報及び、同様に比較部34から入力される1または0の情報の組み合わせに基づき、対象組織の性状を4段階に評価する。もちろん、さらに細かく評価を行うようにしてもよいし、疾病の内容と疾病の度合等を別々に評価するようにしてもよい。いずれにしても、本実施形態においては組織内部についての評価と、以下に説明するように組織の外部形態についての評価と、が併用されている。
【0027】
なお、メモリ28に格納される第一閾値及び第二閾値は制御部46から登録されたものである。第一評価値としての性状評価値の演算方法の具体例については後に説明する。
【0028】
一方、上述した辺縁部分抽出部36は、対象組織における辺縁部分に相当する画像データを抽出する機能を有する。これについても後に詳述する。抽出された画像データは前処理部38に送られる。前処理部38は画像データを加工することにより対象組織の輪郭に相当する境界線を抽出する。
【0029】
形状評価部40は、上記のように抽出された境界線の形状を評価するモジュールであり、具体的には自由曲線としての境界線と直線との間における相関値を演算することにより、その相関値を第2評価値として出力している。その第2評価値は形状評価値と言えるものである。
【0030】
モデル像生成部42は、上記第2評価値としての形状評価値に基づいて対象組織つまり肝臓を模擬したモデル像を選択し、そのモデル像に対して、第1評価値としての性状評価値に基づく着色処理を施す機能を有する。このような処理の結果として参考モデル像が生成される。そのような参考モデル像は、肝臓の形態面の評価結果がモデル形状として表されたものであり、また肝臓内部の組織性状がその色彩として表されたものである。つまり参考モデル像から多面的に肝臓の罹患内容或いは罹患度合を診断することが可能である。
【0031】
本実施形態においては、モデル像生成部42が、参考モデル像の生成機能の他、標準モデル像の生成機能を有している。標準モデル像は、健常者の対象組織つまり肝臓を模擬したイメージである。その形状及び色の両者とも健常状態を表す。
【0032】
表示処理部20は、入力される超音波画像の画像データ及び参考モデル像のデータ等に基づいて表示画像を構成し、その画像データを表示部44へ出力する。表示部44の表示例については後に図9を用いて説明する。本実施形態においては、表示画面上に超音波画像としての二次元断層画像とともに、参考モデル像を表示することができ、また必要に応じて標準モデル像を表示することができる。二次元断層画像から疾病内容や疾病程度を診断するには熟練を要するが、本実施形態によれば自動的な計測によって得られた複数の評価値により参考モデル像が生成され、その形状及び色から疾病内容や疾病程度を視覚的に直感的に把握することができるという利点がある。すなわち患者が超音波画像を観察した場合においてその認識を支援することができるという利点がある。これは被検者への説明時の協力なバックアップシステムに相当する。
【0033】
ちなみに、制御部46は図1に示される各構成の動作制御を行っている。制御部46はCPU及び動作プログラムによって構成される。操作パネル48は制御部46に接続されており、操作パネル48はキーボードやトラックボールを有している。それらの入力デバイスを利用してユーザーは動作条件の設定やパラメータの入力を行える。ちなみに、符号18で示されたモデル像生成ユニットは実質的にプログラムによって構成することができ、当該プログラムは記憶媒体や通信回線を介して情報処理装置に提供することができる。例えば、モデル像生成ユニット18が超音波診断装置とは別のコンピュータによって構成されてもよいし、さらにそれに加えて画像形成の機能もコンピュータ上で実現されてよい。図1に示す構成によれば、超音波診断装置自体がモデル像生成機能を具備しているため、リアルタイムで参考モデル像を画面上に表示できるという顕著な利点を得られる。
【0034】
以下に、性状評価値及び形状評価値の演算例について説明する。まず最初に、性状評価値の演算方法を図2及び図3を用いて説明する。
【0035】
図2に示すS101〜S105は図1に示した実質部分抽出部22の機能に相当する。具体的には、S101において、入力される画像に対してマスク処理すなわちROI(関心領域)処理が実行される。この場合、ROIを最初に設定する位置としてデフォルト位置を定めておけばよい。S102では、ROI内の輝度のヒストグラムが算出される。S103では、そのヒストグラムに対して平滑化処理が施される。S104では、平滑化後のヒストグラムにおいてピーク数が検出される。
【0036】
S105では、ピーク数が1であるか否かが判断される。すなわち、ピーク数が1ということは、ROIが実質部分にある可能性が高いと考えられ、一方、ピーク数が2あるいはそれ以上の場合には血管と実質部分とに跨ってROIが設定されている場合等が想定される。そこで、ピーク数が1であればS106以降の工程を実行し、そうでない場合にはROIを移動させつつS101以降の各工程が繰り返し実行される。
【0037】
S106では、位置が確定したROIについて輝度の平均値と分散値とが算出される。そして、S107では、算出された平均値及び分散値の組み合わせを性状評価値とする。これは、表示色の選択に相当する。
【0038】
図3には、上述したS101〜S105の処理過程が示されている。縦方向に示される(A)〜(D)はS101〜S105それぞれの工程における処理内容を表しており、横方向に示されている(1)〜(3)は互いに異なる位置に設定されたROIについての処理を表している。(A)に示されるように、上記S101ではいずれかの位置にROIが設定され、上記S102において(B)で示すヒストグラムが計算される。そして(C)で示すように、上記S103においてヒストグラムの平滑化処理が実行され、続いて上記S104ではピーク数が検出される。その状態が(D)に示されており、ここで(D1)に示す例では、Pとして表されているピークが2つ存在しており、(D2)に示されるヒストグラムにおいてはピークが1つ存在しており、(D3)で示す例ではピークが2つ存在している。すなわち、(1)に示す例ではROIが血管に跨って設定されてしまっており、(3)で示す例では組織境界等に跨ってROIが設定されており、それらはいずれも対象組織それ自体の評価にあたっては不適切なものである。その一方、(2)に示す例ではROIが組織の実質部分に設定されており、そのような場合にはピーク数が1となって、遡ってROIの位置が適正であったことを確認できる。
【0039】
図4及び図5には形状評価値の演算方法が示されている。図4のS201では、入力される画像の全体に対して平滑化処理が適用される。この処理は図2に示したS101の前においても実行することが可能である。S202では、画像に対して位置を異ならせながらROIが設定される。S203では、各位置においてROI内における上部の輝度の平均値と下部の輝度の平均値との差が計算される。S204では、各位置において求められた平均値の差の中で最も浅い部分に発生したピーク値が特定される。つまり、プローブ側から見て最も手前側の境界すなわち対象組織の辺縁部分の特定が行われる。
【0040】
S205では、そのように特定された位置におけるROI内のつまり注目マスク内の画像に対して二値化処理が適用され、さらにS206においては上記の注目マスク内において下部(下辺)より上方に向かってエッジ検出すなわち境界検出の処理が実行される。S207では、公知のリージョングローイング法により境界が抽出され、さらにS208においては当該境界についての細線化処理が適用される。すなわち境界は一定の厚さを持っているのが通常であるため、そのままで形状評価が困難となるのであれば、このような細線化処理が望まれる。
【0041】
S209では、細線化処理後の対象組織の形状ラインと所定の直線との間において相関値が演算される。この場合においては形状ラインと直線とがもっとも合致するように、直線に対して平行移動処理がなされ、及び/または、回転移動処理がなされる。
【0042】
S210においては、他の経路上においても上記のような探索処理を行うか否かが判断され、次のラインについても行うのであれば、上述したS202以降の処理が繰り返し実行される。以上の過程により、結果として注目組織の辺縁部分にROIが設定され、それについての境界ラインの凹凸度合が相関値として得られることになるので、その相関値が形状評価値とみなされ、S211においてはモデル形状が選択される。
【0043】
図5には、上述したS202〜S208までの工程が図示されている。(A)には上述したS202の工程が表されており、画像上にROIが設定され、それが所定方向(図示の例ではZ方向)にスキャンされる。そして、S203において、各位置での平均輝度差が計算される。それをプロットしたものが(B)に示すグラフであり、そのグラフの横軸は深さ方向すなわちZ方向であり、その縦軸は平均輝度差ΔIである。上記S204では、グラフ上においてピークが特定され、しかも複数のピークがある場合には最も浅い位置に存在しているピークが特定される。それが(C)においては符号Qで表されている。この符号Qで特定されるピークは肝臓のプローブ側表面すなわちプローブ側輪郭に相当するものである。
【0044】
上記S205では、(D)に示されるように辺縁部分に設定されたROI(注目マスク)内の画像に対して二値化処理が実行され、さらにS206では、(E)に示すように注目マスク内の下部から境界検出が実行される。そして、S207では、検出された所定の境界を対象としてリージョングローイング法により対象となる境界だけが特定され、それが図5における(F)で表されている。さらにS208では細線化処理が実行される。その結果が図5における(G)に示されている。
【0045】
図4におけるS211の工程について具体例を説明する。図6において、(A)には注目組織の輪郭ラインと直線との関係が示されており、すなわち互いに異なる相関値を持った3つの状態が示されている。(B)には参考モデル像が示されている。一方、横方向に示される(1)は相関値が最大の場合を示しており、(2)は相関値が中程度の場合を示しており、(3)は相関値が小の場合を示している。(B)において3つの相関値に対応した3つの参考モデル像が表されているように、相関値が大きい場合には正常肝である可能性が高いために実際の正常肝を模擬した光沢のある、つるんとしたような肝臓モデル表現が選択される。一方、相関値が小さい場合、すなわち肝臓表面における凹凸程度が大きい場合には、それを模式的に表すモデル像が表示される。実際の肝臓の疾患例においてもこのような凹凸が見られるため、それを模擬的に表すことにより肝臓の実際の状態をより直感的に認識できる参考情報を提供できる。ちなみに、参考モデル像における色については上述した性状評価値に応じて動的に設定される。
【0046】
以上説明した参考モデル像の生成処理を整理すると、図7に示すようなものとなる。すなわち、まず形状評価値に基づいて符号50で示されるように形状モデル像が選択される。本実施形態においては、符号52〜58で示されるように4つの形状モデル像1−4が予めメモリ上に登録されている。もちろん、その都度モデル像を生成するようにしてもよい。符号50で示されるように形状モデル像の選択プロセスが実行されると、いずれかの形状モデル像がメモリから読み出され、当該形状モデル像が符号60で示される着色処理へ渡される。着色処理においては、上述した性状評価値に基づいて着色処理が施される。例えば健常状態にある場合にはより明るい色が与えられ、疾患度合が強くなるにしたがって、よりくすんだあるいは濃い色が選択されるようにしてもよい。いくつかのカラーマッピングテーブルを用意し、ユーザーの好みに応じてあるいは疾患例に応じて実際に使用するテーブルを選択するようにしてもよい。これは形状モデルについても同様に言えることである。
【0047】
図8には、画面上に表示される肝臓の参考モデル像が示されている。(A)に示す参考モデル像は形状評価値及び性状評価値の両者も正常と認められた健常例である。色は例えば鮮やかな肌色あるいはピンク色であり、その表面形状は光沢感がある、つるんとした表現となっている。
【0048】
(B)〜(D)には段階的に疾病度合が高まっている場合の参考モデル像が表されている。(A)〜(D)にかけて、まず色については明るい色からだんだん暗い色になるように変化しており、さらに彩度についても澄んだ色からくすんだ色になるように変化している。形状については、つるんとした形状を出発点としてだんだんと表面形状の凹凸感が目立つように加工されている。特に、(D)に示す参考モデル像においては表面形状としてかなり顕著な凹凸が認められ、それは実際のかなり病状が悪化した肝臓を模擬しているものである。このような参考モデル像の段階的な変化あるいは連続的な変化をもって肝臓の病態を直感的に理解することが可能となる。
【0049】
図9には、表示画像の例が示されている。符号62で示される画面上には、超音波画像64と被検者説明用情報67とが表示される。超音波画像64は二次元断層画像である。その画像上にはROI70が矩形形状で表現されている。同様にROI72が表現されている。ROI70は、組織性状評価値を演算するために設定されたマスクであり、図示されるようにそれは実質部分に設定されている。したがってそのようなROIを画像に反映させることによりユーザーにおいて適切な位置にROIが設定されたことを確認することができる。
【0050】
一方、ROI72は、形状評価値を求めるために設定されたマスクを表しており、本実施形態においては、画像の中央ライン74に沿ってROIのスキャンを行った場合において、最も浅い位置における所定のピークが生じた位置にROI72が設定されている。それが画像上において確認できる。具体的には、肝臓におけるプローブ側の辺縁部分にROI72が設定されており、その中には肝臓の手前側の境界が含まれている。ちなみに、符号73は実質部分71以外の血管等を表している。
【0051】
次に、被検者説明用情報について説明する。本実施形態においては、上述したような2つの評価値に基づいて被検者の参考モデル像66が画面上に表示される。その一方において、参考モデル像66と対比観察を行うための健常モデル像68も表示されている。この健常モデル像68は健常な注目組織すなわち健常な肝臓を色及び形状で表したものである。このように2つのモデル像を合わせて表示することにより、健常モデル像68を基準として参考モデル像66を相対的に、客観的に評価することが可能となる。ちなみに、カラーバー75A及びタイルバー75Bを表示してもよい。ここで、カラーバー75Aは疾患度合に対応付けられた色をグラデーションのように表示するものである。タイルバー75Bは、疾患度合に応じて選択される表面形状パターンを並べて構成されるものである。
【0052】
上記実施形態によれば、超音波画像を見慣れていない患者であっても、医師の説明を聞きながら参考モデル像を参照することにより自分の組織が現在においてどのような状態になっているのかを直感的に理解することができ、医師と患者との間における対話上の行き違いを防止でき、その対話を促進できるという利点がある。正確な状況理解のもとで治療方針についての合意が得られるならば、患者本位の医療をより一層推進できるという利点を得られる。なお、超音波画像上にあるいはカラー印刷された用紙として図10に示すような情報を患者に提供するようにしてもよい。すなわち治療方針の説明にあたって、参考モデル像を使った説明用のドキュメントを利用するようにしてもよい。例えば飲酒が原因による疾患の場合には、飲酒を控えた場合における今後の肝臓の状態を視覚的に表現でき、また完全に飲酒を断絶した場合にはどの程度より改善できるのかを視覚的な情報として提供することができる。さらに、複数の薬による治療計画を説明するにあたっても図10に示すようなドキュメントが有用となる。すなわち、上述した参考モデル像は超音波診断を行っている最中において有用であるが、それ以外においても活用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】性状評価値の演算プロセスを示すフローチャートである。
【図3】性状評価値の演算プロセスを説明するための説明図である。
【図4】形状評価値の演算プロセスを示すフローチャートである。
【図5】形状評価値の演算プロセスを説明するための説明図である。
【図6】相関値に応じた形状変化を説明するための図である。
【図7】参考モデル情報の生成原理を説明するための図である。
【図8】いくつかの参考モデル像を示す図である。
【図9】表示画像の例を示す図であり、健常モデル像と参考モデル像とを含む画像例である。
【図10】治療計画の説明において有用なドキュメント内容を説明するための図である。
【符号の説明】
【0054】
18 モデル像生成ユニット、22 実質部分抽出部、24 平均値算出部、26 比較部、30 性状評価部、32 分散値算出部、34 比較部、36 辺縁部分抽出部、38 前処理部、40 形状評価部、42 モデル像生成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者内の対象組織に対して超音波を送受波して得られた受信データに基づいて、前記対象組織の超音波画像を形成する画像形成手段と、
前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて前記対象組織の罹患状態を表す組織情報を演算する組織情報演算手段と、
前記対象組織を模式的に表す像であって前記組織情報が反映された参考モデル像を生成する参考モデル像生成手段と、
前記超音波画像及び前記参考モデル像を表示する表示手段と、
を含むことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記参考モデル像生成手段は、前記組織情報に応じて前記参考モデル像の色及び形態の少なくとも一方を変更する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記組織情報演算手段は、
前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて、前記組織情報として、前記対象組織の内部性状に関する第1評価値を演算する第1評価手段と、
前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて、前記組織情報として、前記対象組織の外部形態に関する第2評価値を演算する第2評価手段と、
を含み、
前記参考モデル像の第1属性が前記第1評価値に基づいて定められ、前記参考モデル像の第2属性が前記第2評価値に基づいて定められる、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記第1属性は前記参考モデル像の形状属性であり、前記第2属性は前記参考モデル像の色属性であり、
前記参考モデル像生成手段は、
形状表現が互いに異なる複数のモデル像の中から前記第2評価値に基づいて特定のモデル像を選択する選択部と、
前記選択された特定のモデル像に対して、前記第1評価値に基づいて着色処理を施すことにより前記表示手段に表示する参考モデル像を生成する着色処理部と、
を含むことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置において、
前記参考モデル像は立体感ある三次元画像である、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置において、
更に、前記参考モデル像と対比されるべき標準モデル像を生成する標準モデル像生成手段を含み、
前記標準モデル像は健常者の対象組織を表すものであり、前記参考モデル像は被検者の対象組織を表すものであり、
前記参考モデル像と前記標準モデル像とが画面上に一緒に表示される、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
請求項3記載の装置において、
前記組織情報演算手段は、更に、
前記受信データ又は前記超音波画像に対して第1部分領域を設定する第1部分領域設定手段と、
前記受信データ又は前記超音波画像に対して前記第1部分領域とは別の第2部分領域を設定する第2部分領域設定手段と、
前記第1評価手段は前記第1部分領域内のデータ又は画像に基づいて前記第1評価値を演算し、
前記第2評価手段は前記第2部分領域内のデータ又は画像に基づいて前記第2評価値を演算する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項8】
請求項7記載の装置において、
前記第1部分領域は前記対象組織における実質部分に設定され、前記第2部分領域は前記対象組織の辺縁部分に設定される、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項9】
被検者内の対象組織に対して超音波を送受波して得られた受信データに基づいて前記対象組織の超音波画像を形成する超音波画像処理装置において実行される超音波画像処理プログラムであって、
前記受信データ又は前記超音波画像に基づいて前記対象組織の罹患状態を表す組織情報を演算する機能と、
前記対象組織を模式的に表す像であって前記組織情報が反映された参考モデル像を生成する機能と、
を含むことを特徴とする超音波画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−195283(P2009−195283A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37187(P2008−37187)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】