説明

超音波画像診断装置

【課題】超音波画像診断装置の距離分解能および方位分解能を向上する。
【解決手段】受信超音波信号を処理する回路14において、送信パルスと同じ基本周波数f1の成分をマッチトフィルタから成る相関部F1で抽出する一方、被検体の非線形歪みによって発生する高次調波f2,f3,…の成分は1または複数のBPFF2,F3,…で抽出し、係数器K1,K2,…で所定の計数k1,k2,…を乗算した後加算し、画像処理に使用する。したがって、基本周波数成分に対して相関処理を行うことでS/Nを向上でき、さらにパルス圧縮効果によって信号の検出能力を大きくでき、ペネトレーション(深さ方向の距離分解能)を向上できるとともに、ノイズとのコントラストも向上できる。また、相関処理は、送信信号自体を参照信号として使用可能な基本周波数成分のみとし、高次調波に対しては作成の容易な旧来のBPFを用い、方位分解能も向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信部から第1の超音波信号を被検体内へ送信し、それによる反射波などの被検体内から来た第2の超音波信号を受信部で受信し、その受信信号から、画像処理部が前記被検体内の断層画像を作成し、表示部に表示させる超音波画像診断装置に関し、特に第2の超音波信号から高次調波成分を抽出するものに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、通常、16000Hz以上の音波をいい、非破壊、無害および略リアルタイムでその内部を調べることが可能なことから、欠陥の検査や疾患の診断等の様々な分野に応用されている。その1つに、被検体内を超音波で走査し、被検体内から来た超音波の反射波(エコー)から生成した受信信号に基づいて当該被検体内の内部状態を画像化する超音波画像診断装置がある。この超音波画像診断装置は、医療用では、他の医療用画像装置に較べて小型で安価であり、そしてX線等の放射線被爆が無く安全性が高いこと、また、ドップラ効果を応用した血流表示が可能であること等の様々な特長を有している。このため、超音波画像診断装置は、循環器系(心臓の冠動脈等)、消化器系(胃腸等)、内科系(肝臓、膵臓および脾臓等)、泌尿器系(腎臓および膀胱等)および産婦人科系等で広く利用されている。
【0003】
中でも近年では、超音波探触子から被検体内へ送信された前記第1の超音波信号の周波数(基本周波数)の信号成分(基本周波数成分)ではなく、その基本周波数の整数倍の周波数(高次調波周波数)の信号成分(高次調波成分)によって被検体内の内部状態の画像を形成するハーモニックイメージング(Harmonic Imaging)技術が研究、開発されている。このハーモニックイメージング技術は、基本周波数成分のレベルに比較してサイドローブレベルが小さく、S/N比(signal to noise ratio)が良くなってコントラスト分解能が向上すること、周波数が高くなることによってビーム幅が細くなって方位分解能が向上すること、近距離では音圧が小さくて音圧の変動が少ないために多重反射が抑制されること、および、焦点以遠の減衰が基本波並みであり、高次調波自体の周波数を基本波とする場合に較べて深速度を大きく取れること等の様々な利点を有している。
【0004】
しかしながら、発生した高次調波は、超音波探触子へ戻るまでの間の減衰が激しく、探索できる深度が浅いという問題がある。そこで、特許文献1では、高次調波成分と共に、基本周波数成分も診断に用いるようにしている。その従来技術の概略構成を図14で示す。この図14で示すように、超音波探触子101で受信された信号は、相互に並列に接続されたバンドパスフィルタB1,B2,B3,・・・,BmからアンプA1,A2,A3,・・・,Amを介して画像合成部102で合成され、画像形成に使用される。前記バンドパスフィルタB1の中心周波数f1は、前記基本周波数に設定されており、残余のバンドパスフィルタB2,B3,・・・,Bmの中心周波数f2,f3,・・・,fmは、2次高調波、3次高調波、4次高調波・・・に設定されている。こうして抽出された各基本周波数成分および高次調波成分は、アンプA1,A2,A3,・・・,Amにおいて、それぞれのゲインa1,a2,a3,・・・,amで増幅された後、加算される。このように構成し、深部は基本周波数成分で、浅部は高次調波成分で診断画像を作成することで、深部から浅部まで高精度な画像形成が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−208918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、送信用の第1の超音波信号として、パルスを用いることで、S/Nを高め、距離分解能を高められる可能性がある。しかしながら、前記高次調波を含む広帯域の信号をバンドパスフィルタに入力すると、図15で示すように、抽出信号以外にプリリンギングやポストリンギングが発生し、距離分解能の向上の妨げになる。すなわち、図15(a)は基本波パルスを基本波のバンドパスフィルタB1に通した波形を表し、図15(b)は3次調波を3次調波のバンドパスフィルタB3に通した波形を表す。これらから、本来、周波数が高く、距離分解能の向上が期待される高次調波が、基本波に対して距離分解能があまり向上していないことが理解される。したがって、前記高次調波をバンドパスフィルタB2,B3,・・・,Bmに通すことでは、方位分解能の向上は期待できるが、距離分解能の向上は期待できない。また、バンドパスフィルタは、入力信号を帯域制限して出力するだけであるので、S/Nの向上に対する期待はできない。
【0007】
本発明の目的は、距離分解能、方位分解能およびS/Nを向上することができる超音波画像診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波画像診断装置は、第1の超音波信号を被検体内へ送信する送信部と、前記第1の超音波信号が被検体内で反射された第2の超音波信号を受信する受信部と、前記受信部での受信信号に予め定める信号処理を施すことで所望信号成分を抽出する信号処理部と、前記信号処理部での抽出結果から前記被検体内の断層画像を作成する画像処理部と、作成された前記断層画像を表示する表示部とを備えて構成される超音波画像診断装置において、前記送信部は、第1の超音波信号をパルスで送信し、前記信号処理部は、前記第1の超音波信号の周波数を基本周波数とした場合に、前記受信部の出力と予め設定された参照信号との相関処理を行うことによって、前記受信部の出力から前記第2超音波信号に含まれる前記基本周波数の成分を検出する相関部と、前記受信部の出力から、予め設定された1または複数の高次調波の成分を抽出するフィルタと、前記相関部および1または複数のフィルタからの出力にそれぞれ所定の重みを施して加算する加算部とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、送信部から第1の超音波信号を被検体内へ送信し、それによる反射波などの被検体から来た第2の超音波信号を受信部で受信し、信号処理部がその受信信号に予め定める信号処理を施すことで所望信号成分を抽出し、その抽出結果から、画像処理部が前記被検体内の断層画像を作成し、表示部に表示させる超音波画像診断装置において、注目すべきは、前記送信部から送信される第1の超音波信号をパルスとし、それによって受信された第2の超音波信号の内、送信した第1の超音波信号と同じ基本周波数成分を相関部で抽出する一方、前記被検体の非線形歪みによって発生する高次調波の成分は、バンドパスフィルタなどの通過帯域の制限を行う1または複数のフィルタで抽出することである。そして、前記相関部および1または複数のフィルタからの出力は、加算部においてそれぞれ所定の重みを施して加算し、前記画像処理部に与える。
【0010】
したがって、基本周波数成分に対して、帯域制限フィルタを使用した場合には、抽出信号以外にプリリンギングやポストリンギングが発生し、S/Nが低下してしまうのに対して、相関処理を行うことで、そのような余分な信号は発生せずS/Nを向上することができるとともに、戻ってきたタイミングを正確に検出することができる。さらに、パルス圧縮効果によって、信号の検出能力を大きくできるとともに、物理周波数の波長によって決定される距離分解能以上に距離分解能を向上させることも可能であり、前記S/Nの向上およびタイミング精度の向上と合わせて、ペネトレーション(深さ方向の距離分解能)を向上することができるとともに、ノイズとのコントラストが明確になり、コントラストも向上することができる。また、前記相関処理にあたって、送信信号自体を参照信号として使用できる基本周波数成分に対しては、適切な相関演算器(マッチトフィルタ)を実現できるのに対して、どのようなレベルで発生するか予測が困難な高次調波に関しては、そのような適切な相関演算器(マッチトフィルタ)の実現が困難であるため、旧来のバンドパスフィルタを用いて関係のない帯域を確実に制限し、方位分解能の向上のみに利用する。こうして、距離分解能、方位分解能およびS/Nを向上することができる。
【0011】
また、本発明の超音波画像診断装置は、前記加算部における重みを、前記被検体における診断部位と診断深度との少なくとも一方に応じて設定する重み設定部をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、基本周波数成分および1または複数の高次調波成分を重み付けして用いることで、減衰が激しいけれど高解像な高次調波成分は浅い部位(近距離部位)を見るのに好適であり、解像度に劣るが遠くまで届く基本周波数成分は深い部位(遠距離部位)を見るのに好適であり、こうして浅い部位から深い部位までに亘って、しかも重みによって、診断により適した、より高精度な超音波画像を形成することができる。ここで、前記被検体の診断部位や診断深度は、たとえば第1および第2の超音波信号のフォーカルポイントや第1の超音波信号の送信時刻を時間原点とした経過時間で表すことができ、前記重みは、そのフォーカルポイントや経過時間に応じて設定される。
【0013】
さらにまた、本発明の超音波画像診断装置では、前記送信部は、前記パルスとしてチャープ波を用いることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、前記第1の超音波信号としてのパルスに、単純なガウシアンエンベロープ波形ではなく、周波数が時間経過に伴って増加または減少するチャープ波を用いることで、レンジサイドロープ(時間的サイドロープ)を抑制することができる。
【0015】
好ましくは、前記相関部は、CCD原理に基づくアナログ積和演算装置を備えて構成されることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、微弱な信号レベルでもより適切に相関処理を行うことが可能となる。
【0017】
また、本発明の超音波画像診断装置では、前記送信部および受信部における超音波振動子は、送信用の無機圧電素子上に、受信用の有機圧電素子を積層して成ることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、前記送信部および受信部における超音波振動子に、送信用として大パワー送信可能な無機圧電素子を用い、受信用として比較的広帯域で超音波を受信することができる有機圧電素子を用いることで、高次調波成分を高感度に受信可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の超音波画像診断装置は、以上のように、送信部から送信される第1の超音波信号をパルスとし、それによって受信された第2の超音波信号の内、送信した第1の超音波信号と同じ基本周波数成分を相関部で抽出する一方、被検体の非線形歪みによって発生する高次調波の成分はバンドパスフィルタなどの通過帯域の制限を行う1または複数のフィルタで抽出し、前記相関部および1または複数のフィルタからの出力を、加算部においてそれぞれ所定の重みを施して加算し、画像処理に使用する。
【0020】
それゆえ、基本周波数成分に対して相関処理を行うことで、S/Nを向上することができるとともに、戻ってきたタイミングを正確に検出することができる。さらに、パルス圧縮効果によって、信号の検出能力を大きくできるとともに、物理周波数の波長によって決定される距離分解能以上に距離分解能を向上させることも可能であり、前記S/Nの向上およびタイミング精度の向上と合わせて、ペネトレーション(深さ方向の距離分解能)を向上することができるとともに、ノイズとのコントラストが明確になり、コントラストも向上することができる。また、前記相関処理にあたって、送信信号自体を参照信号として使用できる基本周波数成分に対しては、適切な相関演算器(マッチトフィルタ)を実現できるのに対して、どのようなレベルで発生するか予測が困難な高次調波に関しては、そのような適切な相関演算器(マッチトフィルタ)の実現が困難であるため、旧来のバンドパスフィルタを用いて関係のない帯域を確実に制限し、方位分解能の向上のみに利用する。こうして、距離分解能、方位分解能およびS/Nを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態における超音波診断装置の外観構成を示す図である。
【図2】実施形態における超音波診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【図3】実施形態の超音波診断装置における超音波探触子の構成を示す図である。
【図4】受信超音波信号を処理する実施形態の信号処理回路のブロック図である。
【図5】相関処理および画像処理の説明に当たって、実施形態にかかる超音波診断装置のより具体的な構成を示す図である。
【図6】電荷を転送する動作を説明するための図である。
【図7】1つの電荷を2等分する動作を説明するための図である。
【図8】2つの電荷を統合する動作を説明するための図である。
【図9】相関演算を説明するための波形図である。
【図10】本願発明による信号処理の様子を模式的に説明するための図である。
【図11】本願発明者による実験結果を示すシミュレーション画像である。
【図12】本願発明によるペネトレーションの向上の様子を模式的に説明するための図である。
【図13】本願発明によるコントラストの向上の様子を模式的に説明するための図である。
【図14】典型的な従来技術の信号処理回路のブロック図である。
【図15】送信信号をパルスとして受信信号を前記信号処理回路でバンドパスフィルタ処理した際に発生するリンギングを説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その説明を省略する。また、本明細書において、適宜、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0023】
図1は実施形態における超音波画像診断装置Sの外観構成を示す図であり、図2は実施形態における超音波画像診断装置Sの電気的な構成を示すブロック図である。超音波画像診断装置Sは、図1および図2に示すように、図略の生体等の被検体に対して超音波(第1の超音波信号)を送信するとともに、この被検体や造影剤で反射(エコー)もしくは発生した超音波(第2の超音波信号)を受信する超音波探触子2と、前記超音波探触子2とケーブル3を介して接続され、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に被検体に対して前記第1の超音波信号を送信させるとともに、超音波探触子2で受信された被検体内から来た第2の超音波信号に応じて超音波探触子2で生成された電気信号の受信信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する診断装置本体1とを備えて構成される。
【0024】
診断装置本体1は、例えば、図2に示すように、操作入力部11と、送信部12と、受信部13と、信号処理部14と、画像処理部15と、表示部16と、制御部17と、参照信号記憶部18と、タイミング発生部19とを備えて構成されている。
【0025】
操作入力部11は、たとえば診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータの入力を受け付ける装置であり、たとえば複数の入力スイッチを備えた操作パネルやキーボード等である。
【0026】
送信部12は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2へケーブル3を介して電気信号の送信信号を供給して超音波探触子2に第1の超音波信号を発生させる回路である。第1の超音波信号には、通常自然界に存在することなく相関処理によって検出することが容易である観点から、周波数を時間経過に伴って予め設定された割合で増加または減少させるチャープ波のパルスが用いられる。送信部12は、たとえば制御部17からの送信信号に応じて送信ビームを形成する送信ビームフォーマ回路122(図4参照)およびその送信ビームに応じて超音波探触子2の各無機圧電素子22を実際に駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成回路121(図4参照)等を備えて構成される。各送信信号には、フォーカルポイント(フォーカス点)および/またはステアリング角度(方位)に対応した時間差が付与されている。受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2の各有機圧電素子21からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を信号処理部14へ出力する。受信部13は、たとえば受信信号を予め設定された増幅率で増幅する増幅器等を備えて構成される。
【0027】
信号処理部14は、後述するようにして、受信部13の出力をフィルタ処理することで、受信部13で受信された第2の超音波信号から、送信用の第1超音波信号を基本周波数とした場合に、その基本周波数成分と、複数の高次調波成分とを抽出し、所望の割合で加算した後、画像処理部15へ与えるものである。
【0028】
参照信号記憶部18は、ROMあるいはEEPROM等の記憶素子を備えて構成され、送信信号および後述の相関処理の参照信号となる信号を記憶する回路である。前記信号処理部14への参照信号は、送信部12供給されてもよい。
【0029】
タイミング発生部19は、診断装置本体1の各部の動作タイミングを生成し、動作タイミングの必要な各部へ出力する回路である。
【0030】
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、前述のように信号処理部14で抽出された、基本周波数成分および高次調波成分に基づいて被検体の内部状態の画像(超音波画像)を形成する回路である。なお、画像処理部15は、受信部13での受信信号から、従来のBモード断層画像を生成する機能などを適宜備えていてもよい。
【0031】
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された被検体の超音波断層画像を表示する装置である。この表示部16は、CRTディスプレイ、LCD、有機ELディスプレイおよびプラズマディスプレイ等の表示装置や、プリンタ等の印刷装置等で実現することができる。
【0032】
制御部17は、たとえばマイクロプロセッサ、記憶素子およびその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、表示部16および参照信号記憶部18を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって、該超音波画像診断装置Sの全体制御を行う回路である。
【0033】
図3は、実施形態の超音波探触子2を構成する超音波振動子20の断面図である。超音波探触子(超音波プローブ)2は、前述のように、被検体内に第1の超音波信号を送信し、この第1の超音波信号に応じて被検体内から来た第2の超音波信号を受信する装置であって、無機および有機の圧電材料を備えて成り、圧電現象を利用することによって電気信号と超音波信号との間の変換を行う。すなわち、大略的に、超音波振動子20は、前記無機圧電素子22上に有機圧電素子21が積層されて成る。具体的には、この図3に示すように、バッキング層となる平板状の音響制動部材23と、この音響制動部材23上に積層された複数の前記無機圧電素子22と、これら複数の無機圧電素子22における隙間に充填される音響吸収材24と、これら複数の無機圧電素子22上に積層された共通接地電極層25と、この共通接地電極層25上に積層される中間層26と、この中間層26上に積層されるシート状の前記有機圧電素子21と、この有機圧電素子21上に積層される音響整合層27とを備えて構成される。
【0034】
前記音響制動部材23は、超音波を吸収する材料から構成され、無機圧電素子22から背面側へ放射された超音波を吸収するものである。音響吸収材24には、ポリイミド樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が用いられ、前記音響制動部材23と同様に超音波を吸収し、複数の各無機圧電素子22間におけるクロストークを低減する。
【0035】
各無機圧電素子22は、無機圧電材料から構成される圧電体(素圧電体)221の両表面にそれぞれ電極(素電極)222,223を備えて構成される。前記無機圧電材料は、たとえば、ジルコン酸チタン酸塩(PZT(登録商標))、水晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸タンタル酸カリウム(K(Ta,Nb)O)、チタン酸バリウム(BaTiO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO)等である。
【0036】
これらの無機圧電素子22は、音響制動部材23に、それを貫通して信号電極224が形成された上に、シート状の圧電体221の両表面に電極222,223が積層されたものが積層された後、各無機圧電素子22に切出され、各無機圧電素子22間に音響吸収材24が充填されて成り、或いは各無機圧電素子22が切出され、音響吸収材24が充填されて成るシート状の部材が音響制動部材23上に積層されて成る。電極223は共通接地電極層25を介して接地され、信号電極224から電極222には前記送信部12の駆動信号生成回路からケーブル3を介して個別の駆動信号が入力される。
【0037】
中間層26は、無機圧電素子22上に有機圧電素子21を積層するための部材であり、それらの音響インピーダンスを整合させるものである。
【0038】
有機圧電素子21は、所定の厚さを持った平板状の有機圧電材料から成る圧電体211と、この圧電体211の一方の面に形成された個別電極212と、圧電体211の他方の面に略全面に亘って一様に形成された共通電極213とを備えて構成されたシート状の圧電素子である。このように構成することで、一体的なシート状に形成しても、各有機圧電素子21を個別に動作させることができ、有機圧電素子22のように素子の切出しや隙間の充填といった作業が不要になり、製造工程を簡略化することができる。個別電極212は、受信部13の受信ビームフォーマに受信信号を出力する。
【0039】
なお、有機圧電素子21の素子数などによっては、幾つかの素子でグループを構成し、前記共通電極231は、それらのグループ毎に設けられてもよい。また、図3に示す例では、有機圧電素子21は無機圧電素子22の全体に亘って積層されているけれども、一部に亘って積層されるだけでもよい。また、有機圧電素子21と無機圧電素子22との素子数は、同一でもよいが、異なっていてもよく、それぞれの占有面積はそれぞれの素子に要求される仕様に応じて設計されればよい。この図3のように、有機圧電素子21の素子数を無機圧電素子22の素子数より多く形成する場合、無機圧電素子22の1個当りのサイズ(大きさ)を大きくすることが可能となり、該無機圧電素子22を送信に用いるにあたって、送信パワーを大きくすることができるとともに、有機圧電素子21の素子数を多くでき、該有機圧電素子21を受信に用いるにあたって、受信分解能を向上することができる。前記有機圧電素子21は、たとえば64×64の4096個が2次元マトリクス状に配列される。
【0040】
前記有機圧電材料には、たとえばフッ化ビニリデン(VDF)の重合体を用いることができる。または、前記有機圧電材料には、フッ化ビニリデン系コポリマを用いることができる。このフッ化ビニリデン系コポリマは、フッ化ビニリデンと他の単量体との共重合体(コポリマ)であり、他の単量体としては、3フッ化エチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレン等を用いることができる。フッ化ビニリデン系コポリマは、その共重合比によって厚み方向の電気機械結合定数(圧電効果)が変化するので、超音波探触子2の仕様等に応じて適宜な共重合比が採用される。たとえば、フッ化ビニリデン/3フッ化エチレンのコポリマの場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が60mol%〜99mol%が好ましく、有機圧電素子を無機圧電素子に積層する複合素子の場合では、フッ化ビニリデンの共重合比が85mol%〜99mol%がより好ましい。また、このような複合素子の場合では、他の単量体は、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、パーフルオロアルコキシエチレン(PAE)およびパーフルオロヘキサエチレンが好ましい。またたとえば、有機圧電材料は、ポリ尿素を用いることができる。このポリ尿素の場合では、蒸着重合法で圧電体を作成することが好ましい。ポリ尿素用のモノマとして、一般式、H2N−R−NH2構造を挙げることができる。ここで、Rは、任意の置換基で置換されてもよいアルキレン基、フェニレン基、2価のヘテロ環基、ヘテロ環基を含んでもよい。ポリ尿素は、尿素誘導体と他の単量体との共重合体であってもよい。好ましいポリ尿素として、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(MDA)と4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(MDI)を用いる芳香族ポリ尿素を挙げることができる。
【0041】
音響整合層27は、無機圧電素子22の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとるとともに、有機圧電素子21の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの整合をとる部材である。そして、音響整合層27は、円弧状に膨出した形状とされ、被検体に向けて送信される超音波を収束する音響レンズとしての機能も備えている。
【0042】
このような構成の超音波画像診断装置Sでは、たとえば操作入力部11から診断開始の指示が入力されると、制御部17の制御によって送信部12では、ROI(注目領域)を基に指定するステアリング角度(方位)とフォーカルポイントの深度とからビームフォーマ122(図5参照)の遅延が付与されるとともにPCMによって形成された上記チャープ波の送信信号が生成される。この送信信号は、ケーブル3を介して超音波探触子2の無機圧電素子22の内、ビームフォミングすべき素子へ供給され、その素子が厚さ方向に伸縮し、共振することで、大きな振幅の超音波振動を発生することができる。この超音波振動は、第1の超音波信号として、中間層26から有機圧電素子21および音響整合層27を通って、被検体内に入射される。なお、超音波探触子2は、被検体(生体)の体表面上に接触して用いられてもよいし、被検体の内部、たとえば生体の体腔内に挿入して用いられてもよい。
【0043】
この被検体に対して送信された超音波は、前記ステアリング角度(方位)のフォーカルポイントで収束され、被検体内部における音響インピーダンスが異なる1または複数の境界面で反射され、超音波の反射波(第2の超音波信号)となる。この第2の超音波信号には、送信された第1の超音波信号の周波数成分だけでなく、この第1の超音波信号の周波数を基本周波数とした場合に、その整数倍の高次調波の成分も含まれる。このため、受信用には広帯域の超音波信号を受信可能なように、前記有機圧電素子21が用いられる。本実施の形態は、有機圧電素子21での受信信号から、以下に詳述するように、これらの基本周波数成分および高次調波成分を信号処理部14で抽出し、画像処理部15での断層画像の作成に用いる。なお、無機圧電素子22には送受信切換え回路を接続し、基本周波数成分は送信を行った該無機圧電素子22で受信し、前記有機圧電素子21では高次調波成分のみを受信するようにしてもよい。
【0044】
図4は、本発明の実施の一形態の信号処理回路14の概略構成を示すブロック図である。注目すべきは、本実施の形態の信号処理回路14では、前記有機圧電素子21で受信された信号は、受信部13からこの信号処理回路14に入力され、相互に並列に接続された相関部F1およびバンドパスフィルタF2,F3,・・・,Fmに入力されることである。これらの相関部F1およびバンドパスフィルタF2,F3,・・・,Fmからの出力は、それぞれ係数器K1,K2,・・・,Kmにおいて所定の係数k1,k2,・・・,kmが乗算されて画像処理部15で合成され、画像形成に使用される。前記相関部F1の中心周波数f1は、前記基本周波数に設定されており、残余のバンドパスフィルタF2,F3,・・・,Fmの中心周波数f2,f3,・・・,fmは、2次高調波、3次高調波、4次高調波・・・に設定されている。
【0045】
次に、前記相関部F1における相関処理に関し、より具体的に説明する。図5は、前記相関部F1の具体的な一構成例を示す図である。ここで、高次調波成分が受信信号全体に占めるエネルギー量は微弱であるので、受信したアナログ信号(第2の超音波信号)をデジタル変換してから相関処理を行ったのでは、良質な超音波画像の形成に必要なダイナミックレンジが取れない。そのため、注目すべきは、本実施形態における相関部F1は、相関処理自体をアナログ処理で行うものである。
【0046】
そのため、相関部F1は、i個の有機圧電素子21毎に設けられ、対応する有機圧電素子21の各出力がそれぞれ入力される。すなわち、多数の有機圧電素子21は、時分割で、i個をグループとしてこの相関部F1に接続され、このi個の相関部を、参照符号F1−1,F1−2,F1−3,・・・,F1−i(総称するときは、前記参照符号F1で示す)で示す。残余のバンドパスフィルタF2,F3,・・・,Fmについても同様に、i個の有機圧電素子21毎に設けられるが、この図5では、1個分だけ示している。各相関部F1は、対応する有機圧電素子21からの受信信号(第2の超音波信号)と、係数設定部33で予め設定された参照信号との相関処理を行うことによって、両者の一致度を検出する回路であり、同様の構成を有している。本実施形態では、上述したように、参照信号は送信信号と同一であり、参照信号記憶部18に記憶されている係数列が制御部17によって読出され、前記送信信号として送信部12の送信ビームフォーマ122に与えられるとともに、テンプレートデータ列として前記係数設定部33に設定される。
【0047】
前記相関部F1は、CCD原理に基づくアナログ積和演算を行うことによって受信部13の出力と参照信号との相関を演算する回路であり、サンプルホールド部31と、電荷転送部32と、前記係数設定部33と、デジタルアナログ乗算部34と、加算部35とを備えて構成される。
【0048】
サンプルホールド部31は、タイミング発生部19からの動作タイミングに応じたサンプリング周期で、受信部13の出力(当該サンプルホールド部31に接続されている有機圧電素子21の出力)を保持する回路である。サンプルホールド部31は、動作タイミングに応じたタイミングで、この保持した受信部13の出力に対応する電荷Qを電荷転送部32へ出力する。
【0049】
電荷転送部32は、前記電荷Qを保持する複数の電荷保持部321−1,321−2,321−3,・・・,321−n(総称するときは、以下参照符号321で示す)を備えて構成され、これら各電荷保持部321は、直列に接続されている。そして、前記サンプルホールド部31のサンプリングタイミングで、保持している電荷Qを後段の電荷保持部321へ出力し、前段の電荷保持部の電荷Qを取込み、こうしてシフトレジスタのように保持電荷Qを順次転送してゆく。
【0050】
このような電荷転送部32は、たとえば図6に示すように、半導体41と、該半導体41上に形成された絶縁体層42と、連続的に配置されるように絶縁体層42上に形成された複数の電極(ゲート電極)43とを備えて構成され、これら各電極43に電荷Qを転送するような所定パターンの駆動電圧を印加することによって、或る電極下のポテンシャル井戸に蓄積された電荷Qを順次に後段の電極下のポテンシャル井戸へ転送する電荷転送素子(電荷結合素子、Charge-Coupled Devices、CCD)TDによって構成することができる。図6に示す例では、6個の電極43−1〜43−6を備える電荷転送素子TDが示されている。また、各電極43(43−1〜43−6)には、電極43に電圧を印加するための信号線P41〜P43が接続されている。たとえば、時刻t1において、第1電極43−1に電圧が印加されることによって形成された第1ポテンシャル井戸PW1に電荷Qが保持されている。次の動作タイミングの時刻t2(t21、t22)において、まず、第1および第2電極43−1,43−2のそれぞれに電圧が印加されることによって、第1ポテンシャル井戸PW1が第1電極43−1下だけでなく第2電極43−2下にも拡がり、電荷Qがこれら各電極43−1,43−2下に形成されたポテンシャル井戸PW12に保持され(時刻t21)、続いて、第2電極43−2の電圧がそのままで、第1電極43−1の電圧が時間経過に従って徐々に0に変化されることによって、第1ポテンシャル井戸PW1の電荷Qが徐々に第1ポテンシャル井戸PW2へ移動する(時刻t22)。そして、次の動作タイミングの時刻t3において、第1電極43−1に印加されていた電圧が解消されることで、前記の電荷Qが第2電極43−2下に形成されたポテンシャル井戸PW2に完全に移動する。このような動作を繰返すことで、第1電極43−1下のポテンシャル井戸PW1に蓄積されていた電荷Qが、隣接する第2電極43−2下のポテンシャル井戸PW2へ転送されて保持される。このような動作をサンプリング周期内で順次下流側の電荷保持部321−nから上流側の電荷保持部321−1に向って行われることで、上述のように各電荷保持部321内の電荷が順次後段側へ転送されてゆく。
【0051】
デジタルアナログ乗算部34は、電荷転送部32の各電荷保持部321(321−1〜321−n)に対応して設けられた複数のデジタルアナログ乗算器(DA乗算器)341−1〜341−n(総称するときは、以下参照符号341で示す)を備えて構成されている。DA乗算器341は、係数設定部33によって予め設定されている係数g(l)(0≦g(l)<1)で対応する電荷保持部321の電荷Qを乗算し、その乗算結果を加算部35へ出力する回路である。より具体的には、g(l)×Q=g1(l)×2−1Q+g2(l)×2−2Q+g3(l)×2−3Q+・・・+gn(l)×2−nQと表現することができることから、DA乗算器341では、電荷保持部321に保持されている電荷(アナログ信号)Qが2等分され、一方がさらに2等分され、これが繰り返されることで、2−1Q、2−2Q、2−3Q、・・・、2−nQの複数の電荷が生成され、これら各電荷が、乗数である係数g(l)の2進表現g1(l)、g2(l)、g3(l)、・・・、gn(l)に従って取捨され、そのうちの取り上げられた電荷が1個に統合されることで、前記g(l)×Qの乗算をアナログ処理で行うものである。
【0052】
このようなDA乗算器341も、電荷転送素子(電荷結合素子)を用いて構成することができ、たとえば電荷分割部CDと、電荷統合部SDとを備えて構成することができる。たとえば、1個の電荷Qを2個の電荷に2等分する電荷分割部CDは、図7に示すように、半導体51と、該半導体51上に形成された絶縁体層52と、絶縁体層52上に連続的に形成された複数の電極(ゲート電極)53(53−1〜53−6)とを備えて構成され、3個1組の電極53を含んで1個の分割部CDkが構成され、図7には、電極53−1〜53−3を含む第1分割部CD1と、電極53−4〜53−6を含む第2分割部CD2とが図示されている。また、各電極53(53−1〜53−6)には、電極53に電圧を印加するための信号線P51〜P53が接続されている。
【0053】
このような電荷分割部CDでは、電極53に外部から電圧を印加することによって電極53下の半導体31内にポテンシャル井戸PWが形成される。ポテンシャル井戸PWは、その対応する電極53に外部から印加される電位によってその深さが制御される。このような電荷分割部CDでは、第1および第2分割部CD1、CD2における各電極53−1〜53−3;53−4〜53−6に、電荷Qを分割するような所定パターンの駆動電圧を印加することによって、第1分割部CD1に保持されている電荷Qが2個の電荷Q1,Q2(Q1=Q2=Q/2)に等分され、各電荷Q1,Q2がそれぞれ第1および第2分割部CD1,CD2に保持される。
【0054】
たとえば、時刻t11において、初期状態(2等分前、分割前)として、第1分割部CD1の第3電極53−3に電圧が印加されることによって形成された第1分割部CD1の第1ポテンシャル井戸PW3に電荷Qが保持されているとする。そして、次の動作タイミングの時刻t12において、第1分割部CD1の第2および第3電極53−2,53−3ならびに第2分割部CD2の第1電極53−4のそれぞれに電圧が印加されることによって、第1分割部CD1の第1ポテンシャル井戸PW3が第3電極53−3下だけでなく第1分割部CD1の第2電極53−2下および第2分割部CD2の第1電極53−4下にも拡がり、電荷Qがこれら各電極53−2〜53−4下に形成されたポテンシャル井戸PW234に保持される。
【0055】
次の動作タイミングの時刻t13において、第1分割部CD1の第3電極53−3に印加されていた電圧が解消され、そして、第1分割部CD1の第2電極53−2および第2分割部CD2の第1電極53−4に電圧が印加されることによって、電荷Qが第1分割部CD1の第2電極53−2下に形成されたポテンシャル井戸PW2および第2分割部CD2の第1電極53−4下に形成されたポテンシャル井戸PW4にそれぞれ分割されて保持される。このように1個のポテンシャル井戸PW3に蓄積されていた電荷Qが、電極53に所定パターンの駆動電圧を印加することによって、このポテンシャル井戸PW3に隣接するポテンシャル井戸PW2,PW4へ2等分されて保持される。
【0056】
続いて、図7では、次の動作タイミングの時刻t14において、第1分割部CD1では、第1および第2電極53−1,53−2に電圧が印加されることによって、第1分割部CD1の第2ポテンシャル井戸PW2が第2電極53−2下だけでなく第1電極53−1下にも拡がり、電荷Q1(=Q/2)がこの第1および第2電極53−1,53−2下に形成されたポテンシャル井戸PW12に保持される。そして、第2分割部CD2では、第1および第2電極53−4,53−5に電圧が印加されることによって、第2分割部CD2の第1ポテンシャル井戸PW4が第1電極53−4下だけでなく第2電極53−5下にも拡がり、電荷Q2(=Q/2)がこの第1および第2電極53−4,53−5下に形成されたポテンシャル井戸PW45に保持される。
【0057】
次の動作タイミングの時刻t15において、第1分割部CD1では、第1分割部CD1の第2電極53−2に印加されていた電圧が解消されるとともに、第1分割部CD1の第1電極33−1に電圧が印加されることによって、2等分された電荷Q1が第1分割部CD1の第1電極53−1下に形成された第1分割部CD1の第1ポテンシャル井戸PW1に保持される。そして、第2分割部CD2では、第2分割部CD2の第1電極53−4に印加されていた電圧が解消されるとともに、第2分割部CD2の第2電極53−5に電圧が印加されることによって、2等分された電荷Q2が第2分割部CD2の第2電極53−5下に形成された第2分割部CD2の第2ポテンシャル井戸PW5に保持される。
【0058】
このように電荷分割部Dは、電荷Qを2等分に分割するような所定パターンの駆動電圧を各電極53に印加することによって、第1分割部CD1の第3ポテンシャル井戸PW3に保持されている電荷Qを2等分し、第1分割部CD1の第2ポテンシャル井戸PW2(第1ポテンシャル井戸PW1)および第2分割部CD2の第2ポテンシャル井戸PW5(第3ポテンシャル井戸PW6)のそれぞれへ導き保持することによって、電荷Qを2個の電荷に2等分することができる。
【0059】
そして、複数の電荷を1個の電荷に統合する電荷統合部SDも、たとえば図8に示すように、半導体61と、半導体61上に形成された絶縁体層62と、絶縁体層62上に連続的に形成された複数の電極(ゲート電極)63(63−1〜63−6)とを備えて構成され、3個1組の電極63を含んで1個の統合部SDkが構成され、図8には、電極63−1〜63−3を含む第1統合部SD1と、電極63−4〜63−6を含む第2統合部SD2とが図示されている。また、各電極63(63−1〜63−6)には、電極63に電圧を印加するための信号線P61〜P63が接続されている。
【0060】
このような電荷統合部SDでは、電極63に外部から電圧を印加することによって電極63下の半導体61内にポテンシャル井戸PWが形成される。ポテンシャル井戸PWは、その対応する電極63に外部から印加される電位によってその深さが制御される。このような電荷統合部SDでは、第1および第2統合部SD1,SD2における各電極63−1〜63−3;63−4〜63−6に電荷を統合するような所定パターンの駆動電圧を印加することによって、第1統合部SD1に保持されている第1電荷Q1と第2統合部SD2に保持されている第2電荷Q2とが合わせられて1個の電荷Q(Q=Q1+Q2)に統合され、この電荷Qが第1統合部SD1(第2統合部SD2)に保持される。
【0061】
たとえば、時刻t21において、初期状態(加算処理前)として、第1統合部SD1の第1電極63−1に電圧が印加されることによって形成された第1統合部SD1の第1ポテンシャル井戸PW1に第1電荷Q1が保持され、第2統合部SD2の第2電極63−5に電圧が印加されることによって形成された第2統合部SD2の第2ポテンシャル井戸PW5に第2電荷Q2が保持されている。次の動作タイミングの時刻t22において、第1統合部SD1では、第1統合部SD1の第1および第2電極63−1,63−2に電圧が印加されることによって、第1統合部SD1の第1ポテンシャル井戸PW1が第1電極63−1下だけでなく第2電極63−2下にも拡がり、第1電荷Q1がこの第1および第2電極63−1,63−2下に形成されたポテンシャル井戸PW12に保持される。そして、第2統合部SD2では、第2統合部SD2の第1および第2電極63−4,63−5に電圧が印加されることによって、第2統合部SD2の第2ポテンシャル井戸PW5が第2電極63−5下だけでなく第1電極63−4下にも拡がり、第2電荷Q2がこの第1および第2電極63−4,63−5下に形成されたポテンシャル井戸PW45に保持される。
【0062】
次の動作タイミングの時刻t23において、第1統合部SD1では、第1統合部SD1の第1電極63−1に印加されていた電圧が解消され、そして、第2電極63−2に電圧が印加されることによって、第1および第2電極63−1,63−2下に形成されたポテンシャル井戸PW12に保持されていた第1電荷Q1が第2電極63−2下に形成された第1統合部SD1の第2ポテンシャル井戸PW2に移動して保持される。そして、第2統合部SD2では、第2統合部SD2の第2電極63−5に印加されていた電圧が解消され、第1電極63−4に電圧が印加されることによって、第1および第2電極63−4,63−5下に形成されたポテンシャル井戸PW45に保持されていた第2電荷Q2が第1電極63−4下に形成された第2統合部の第1ポテンシャル井戸PW4に移動して保持される。このような動作によって第1統合部SD1の第1電荷Q1が第2統合部SD2へ寄るとともに、第2統合部SD2の第2電荷Q2が第1統合部SD1へ寄り、第1統合部SD1の第2電極63−2と第2統合部SD2の第1電極63−4とが1個の電極(第1統合部の第3電極63−3)63を隔てて配置される。
【0063】
そして、次の動作タイミングの時刻t24において、第1統合部SD1の第1電荷Q1と第2統合部SD2の第2電荷Q2とを隔てているこの第1統合部SD1の第3電極63−3に、第1統合部SD1の第2電極63−2および第2統合部SD2の第1電極63−4にそれぞれ印加されている電圧と同じ電圧が印加されることによって、第1統合部SD1の第2ポテンシャル井戸PW2が第2電極63−2下だけでなく第3電極63−3下にも拡がるとともに、第2統合部SD2の第1ポテンシャル井戸PW4が第1電極63−4下だけでなく第1統合部SD1の第3電極63−3下にも拡がる結果、第1統合部SD1の第2および第3電極63−2,63−3下ならびに第2統合部SDの第1電極63−4下に亘るポテンシャル井戸PW234が形成され、第1統合部SD1の第1電荷Q1と第2統合部SD2の第2電荷Q2とが統合される。
【0064】
そして、次の動作タイミングの時刻t25において、第1統合部SD1の第2電極63−2に印加されていた電圧が解消されるとともに第2統合部SD2の第1電極63−4に印加されていた電圧が解消され、第1統合部SD1の第3電極63−3に電圧が印加されることによって、この統合された第1統合部CD1の第1電荷Q1と第2統合部SD2の第2電荷Q2とが第1統合部SD1の第3電極63−3下に形成された第1統合部SD1の第3ポテンシャル井戸PW3に保持され、加算結果Q(=Q1+Q2)となる。
【0065】
このように電荷統合部SDは、所定パターンの駆動電圧を各電極に印加することによって、第1統合部SD1のポテンシャル井戸PWに保持されている第1電荷Q1と第2統合部SD2のポテンシャル井戸PWに保持されている第2電荷Q2とを1個のポテンシャル井戸PWへ導き統合することによって、第1統合部SD1の第1電荷Q1と第2統合部SD2の第2電荷Q2とを電荷のままで加算することができるものである。すなわち、電荷統合部SDは、第1統合部SD1の第1電荷Q1と第2統合部SD2の第2電荷Q2とをアナログで加算することができる。
【0066】
DA乗算器341は、たとえば係数g(l)の2進表現に従ったビット数個の直列に接続された複数の前記電荷分割部CDと、前記電荷統合部SDとを備え、電荷保持部321の出力値に対応する電荷量Qを、前述のように電荷分割部CDで2等分し、その一方を、この2等分した電荷分割部CDにおける後段の電荷分割部CDで2等分し、これを繰り返すことで、2−1Q、2−2Q、2−3Q、・・・、2−nQの複数の電荷を生成し、これら各電荷を、係数g(l)の2進表現g1(l)、g2(l)、g3(l)、・・・、gn(l)に従って取捨し、そのうち取り上げた電荷を電荷統合部SDで統合することで、G(l)×Qの乗算をアナログで行うことができるものである。そのため、係数g(l)の2進表現g1(l),g2(l),g3(l),・・・,gn(l)に従った取捨では、ビットが0の場合には捨て、ビットが1の場合には残す。たとえば、Q×0.36827(10進数)の乗算を行う場合は、Q×0.01011110(2進数)となって、Q×(0+0/2+1/4+0/8+1/16+1/32+1/64+1/128+0/256)となる。各DA乗算器341−1〜341−nでの乗算結果は、前記電荷統合部SDと同様に構成される加算部35によって相互に加算され、各相関部F1−1,F0−2,F0−3,・・・,F0−iの出力Y1,Y2,・・・,Yiとなる。なお、DA乗算器341では、電荷保持部321の電荷量Qをセンシングフローティングゲートを介して転写し、電荷保持部321の出力値(電荷量Q)と等しい電荷量Qが保持される。
【0067】
このように相関部F1は、アナログ信号である電荷Qを用い、上述したように、遅延(転送)、乗算および加算が可能な、CCD原理に基づくアナログ積和演算装置を備えて構成されたデバイスであり、これを用いることで、高分解能、高速かつ低消費電力に、相関処理演算が可能となる。
【0068】
なお、このような構成の相関部F1では、扱われる電荷Qが正の値であることから、受信部13の正負いずれの出力にも対応すべく、たとえば受信部13とサンプルホールド部31との間に、入力信号の絶対値を出力するとともに入力信号における正負の符号(符号ビット列)を出力する絶対値化回路が介挿されてもよく、この場合では、その符号(符号ビット列)は、以後、絶対値化された信号の各処理に伴って、サンプルホールド部31、電荷転送部32、デジタルアナログ乗算部34および加算部35の各部を伝播するように、これら各部が構成される。
【0069】
このようなDA乗算器341は、たとえば特開平6−237173号公報(特許第2599679号公報)、特開平6−350453号公報(特許第2955734号公報)、特開平7−335866号公報(特許第2665726号公報)および特開平8−050546号公報も参照することができる。
【0070】
係数設定部33は、参照信号記憶部18に記憶されている参照信号に基づいて、デジタルアナログ乗算部34の各DA乗算器341に対し、前記係数g(l)を設定する回路である。
【0071】
このような構成の相関部F1は、次のように動作する。相関部F1における相関処理とは、2つの波形がどの程度似ているかを判定する処理であり、たとえば2つの数列xnとznとがあった場合、次の式1で示される相関値Yが大きい程、2つの数列が似通っていることになる。
【0072】
Y=Σxkzk ・・・(1)
ただし、Σは、k=1からk=nまでの和を求める。
【0073】
ここで、送信信号(参照信号)をs(t)とし、該送信信号s(t)に雑音を含ませたものを受信信号x(t)とし、上記の式1からなる相関値(判定基準)をYとすると、図9に波線で示すように、参照信号s(t)と受信信号x(t)とが重なる瞬間に急峻なピークが検出されることになる。このピークが大きければ大きいほど、参照信号s(t)とよく類似した信号が受信されたことになる。なお、図9では、送信信号s(t)は、太い実線で示され、受信信号x(t)は、細い実線で示されている。また、図9では、相関のピークがずれているように見えるけれども、参照信号s(t)と受信信号x(t)との相関演算後、相関結果を信号の開始タイミングに合わせて出力しており、デジタル演算で相対的な時間遅延が生じ、このような波形となる。
【0074】
実際には、図5のように、受信部13で受信される連続的な受信信号x(t)が時間τでサンプルホールドされ、離散量f(t)、f(t−τ)、f(t−2τ)、f(t−3τ)、f(t−4τ)、・・・とされる。図5に示す例では、f(t)=xa(1)、f(t−τ)=xa(2)、f(t−2τ)=xa(3)、f(t−3τ)=xa(4)、f(t−4τ)=xa(5)、・・・である。したがって、前記相関値Yは、式2に示すように、これら各々に相当する係数g(1)〜g(l)を掛けて総和を取ることによって、得られる。
【0075】
Y=Σf(t−kτ)g(k) ・・・(2)
ただし、Σは、k=1からk=nまでの和を求める。
【0076】
このように電荷転送部32の電荷保持部321の各ステージに蓄えられている電荷量Qkに参照信号(テンプレート)の対応する係数g(l)を乗じ、和をとることで、ノイズの中に信号が存在するか否かを高いS/N比で計算することができる。
【0077】
一方、前記相関部F1に並列に接続されるバンドパスフィルタF2,F3,・・・,Fmからの出力Y2,Y3,・・・,Ymは、前記係数器K1,K2,・・・,Kmを経た後、遅延器D1,D2,・・・,Dmにおいて、前記電荷転送部32における転送遅延時間やDA乗算器341における転送および演算処理時間に対応した時間だけ遅延されて、加算器H1で係数器K1を介する対応する相関部F1からの出力と加算され、出力Y’として画像処理部15に入力される。前記係数器K1,K2,・・・,Kmと加算器H1とは、加算部を構成する。
【0078】
画像処理部15は、位相ばらつき検出部151と、遅延補正部152と、整相加算部153とを備えて構成される。位相ばらつき検出部151は、信号処理部14の各出力Y’から位相のばらつきを検出する回路である。フォーカルポイントと超音波探触子2の圧電素子21,22との間における平均音速は、圧電素子21,22毎に異なっているため、位相がずれてしまうことが知られている。位相ばらつき検出部151は、この位相のずれを検出するものである。
【0079】
遅延補正部152は、前記各出力Y’に対し、前述のような音速補正を行うとともに、フォーカルポイント(フォーカス点)および/またはステアリング角度(方位)に対応した時間差を付与することによって遅延(位相)を調整する。整相加算部153は、遅延補正部152で音速補正および遅延補正された出力Y’を整相加算する回路である。そして、画像処理部15は、その加算値Y(t)に基づいて超音波画像を生成する。
【0080】
このとき、前記i個の有機圧電素子21の出力の内、バンドパスフィルタF3から得られる3次調波(中心周波数f3)の成分は、レベル検出部37によってその信号レベルがそれぞれ検知されており、前記制御部17は、その内、送信超音波の中心音線に対応する素子の3次調波の振幅の最大値を1.0として、残余の音線における3次調波の振幅を正規化するとともに、その正規化した値を各係数器K1,K2,K3,・・・,Kmの係数k1,k2,k3,・・・,kmに設定する。図10に、その様子を示す。
【0081】
図10では、前記中心音線を参照符号Aで、両側の音線を参照符号B,Cで、基本周波および3次調波のみを示し、それぞれ添え数字1と3とを付している。したがって、この図10では、中心音線Aの3次調波のレベルをA3とするとき、その係数器K3の係数k3には1/A3が設定されてその出力は1.0となり、基本周波の振幅A1には、係数k1として1.0が乗算されている。一方、左右の音線B,Cの3次調波のレベルをB3,C3とするとき、係数k3にも1/A3が設定されてその出力はB3/A3,C3/A3となり、これらの信号振幅B3/A3,C3/A3が係数k1に設定され、基本周波の出力は、B1・B3/A3,C1・C3/A3となる。
【0082】
図11は、本願発明者による実験結果を示すものであり、水中内の反射物に対して、本願発明手法を適用した場合のシミュレーション画像である。図11(a)は相関部F1の出力Y1のにみによる画像を表し、図11(b)はバンドパスフィルタF3から得られる3次調波Y3のにみによる画像を表している。図の左方から超音波を入射した状態を示し、したがって図の上下(y)方向が方位分解能を表し、左右(x)方向が距離(深さ)分解能を表している。図11(a)で示すように、基本周波数では、周波数が低いことから、ビームが拡がり、方位分解能が劣っている。しかしながら、相関部F1によるマッチトフィルタ処理によって、余分な信号は発生せず、高いS/Nが得られるとともに、戻ってきたタイミングを正確に検出することができている。こうして、ペネトレーション(深さ方向の距離分解能)に対しては高い性能が得られている。
【0083】
これに対して、図11(b)で示すように、3次調波では、周波数が高いことから、ビームが狭く、高い方位分解能が得られているものの、前記プリリンギングやポストリンギングによって、抽出信号以外の信号が発生し、S/Nが低下して、距離分解能が著しく劣っている。
【0084】
そこで上述のようにこれらの信号を加算した出力Y1’,Y2’,・・・,Ym’を得ることで、図11(c)で示すように、距離分解能,方位分解能およびS/Nを共に向上することができる。
【0085】
以上のように、本実施の形態の超音波画像診断装置Sでは、送信部12から送信される第1の超音波信号をパルスとし、それによって受信部13で受信された第2の超音波信号の内、信号処理部14では、送信した第1の超音波信号と同じ基本周波数成分を相関部F1で抽出する一方、被検体の非線形歪みによって発生する高次調波の成分は、通過帯域の制限を行うバンドパスフィルタF2,F2,・・・.Fmで抽出する。そして、前記相関部F1およびバンドパスフィルタF2,F2,・・・.Fmからの出力は、係数器K1,K2,・・・,Kmにおいてそれぞれ所定の重みを施した後、加算部H1で加算し、画像処理部15に与える。
【0086】
したがって、基本周波数成分f1に対して、帯域制限フィルタを使用した場合には、抽出信号以外にプリリンギングやポストリンギングが発生し、S/Nが低下してしまうのに対して、相関部F1において相関処理を行うことで、そのような余分な信号は発生せず、S/Nを向上することができるとともに、戻ってきたタイミングを正確に検出することができる。さらに、送信超音波信号をパルスとすることで、パルス圧縮効果によって信号の検出能力を大きくできるとともに、物理周波数の波長によって決定される距離分解能以上に距離分解能を向上させることも可能であり、前記S/Nの向上およびタイミング精度の向上と合わせて、ペネトレーション(深さ方向の距離分解能)を向上することができるとともに、ノイズとのコントラストが明確になり、コントラストも向上することができる。図12には前記ペネトレーションの向上の様子を模式的に示し、図13には前記コントラストの向上を模式的に示す。すなわち、図12では、(a)で示すように、最小検知レベルV1の信号が深さD1まででしか検知できなかったところ、前記相関処理でS/Nが向上すると、(b)で示すように、前記深さD1の同じ反射物に対する検知レベルがV2に上昇し、前記最小検知レベルV1では、深さD2まで探索深度を深くすることができる。また、図13では、(a)で示すように、レベルV3の信号に対して、レベルV4のノイズが生じている場合、前記パルス圧縮法にて信号強度が強くなることで、(b)で示すように、信号のレベルはV5に上昇し、前記レベルV4のノイズフロアとのコントラストを明確にすることができる。
【0087】
また、前記相関処理にあたって、送信信号自体を参照信号として使用できる基本周波数成分f1に対しては、適切な相関演算器(マッチトフィルタ)を実現できるのに対して、どのようなレベルで発生するか予測が困難な高次調波f2,f3,・・・に関しては、そのような適切な相関演算器(マッチトフィルタ)の実現がなかなか困難であるため、すなわち参照信号記憶部18に記憶されるテンプレートデータ列の作成が困難であるため、旧来のバンドパスフィルタF2〜Fmを用いて関係のない帯域を確実に制限し、方位分解能の向上のみに利用することで、フィルタの構造を無闇に複雑にすることなく、方位分解能を向上することができる。こうして、距離分解能、方位分解能およびS/Nを向上することができる。
【0088】
また、減衰が激しいけれど高解像な高次調波成分は浅い部位(近距離部位)を見るのに好適であり、解像度に劣るが遠くまで届く基本周波数成分は深い部位(遠距離部位)を見るのに好適である。そこで、重み設定部として、前記操作入力部11から、重みとなる前記係数器K1,K2,・・・,Kmの係数k1,k2,・・・,kmを、前記被検体における診断部位と診断深度との少なくとも一方に応じて設定することで、浅い部位から深い部位までに亘って、しかも重みによって、診断により適した、より高精度な超音波画像を形成することができる。ここで、前記被検体の診断部位や診断深度は、たとえば第1および第2の超音波信号のフォーカルポイントや第1の超音波信号の送信時刻を時間原点とした経過時間で表すことができ、前記係数k1,k2,・・・,kmは、そのフォーカルポイントや経過時間に応じて設定される。
【0089】
さらにまた、前記送信部12は、前記第1の超音波信号としてのパルスに、単純なガウシアンエンベロープ波形ではなく、また、ノイズ耐性を高める観点から、可能な限り冗長な、自然界に無い信号周波数が時間経過に伴って増加または減少するチャープ波を用いることで、レンジサイドロープ(時間的サイドロープ)を抑制することができる。
【0090】
また、前記相関部F1を、CCD原理に基づくアナログ積和演算装置で構成することで、微弱な信号レベルでもより適切に相関処理を行うことが可能となる。
【0091】
さらにまた、前記超音波振動子20を、送信用として大パワー送信可能な無機圧電素子22上に、比較的広帯域で超音波を受信することができる有機圧電素子21を積層して構成することで、高次調波成分を高感度に受信することができる。
【符号の説明】
【0092】
S 超音波画像診断装置
1 診断装置本体
2 超音波探触子
11 操作入力部
12 送信部
121 駆動信号生成回路
122 送信ビームフォーマ
13 受信部
14 信号処理部
15 画像処理部
151 位相ばらつき検出部
152 遅延補正部
153 整相加算部
16 記憶部
17 制御部
18 参照信号記憶部
20 超音波振動子
21 有機圧電素子
22 無機圧電素子
31 サンプルホールド部
32 電荷転送部
33 係数設定部
34 デジタルアナログ乗算部
35 加算部
F1 相関部
F2,F3,・・・,Fm バンドパスフィルタ
K1,K2,・・・,Km 係数器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超音波信号を被検体内へ送信する送信部と、前記第1の超音波信号が被検体内で反射された第2の超音波信号を受信する受信部と、前記受信部での受信信号に予め定める信号処理を施すことで所望信号成分を抽出する信号処理部と、前記信号処理部での抽出結果から前記被検体内の断層画像を作成する画像処理部と、作成された前記断層画像を表示する表示部とを備えて構成される超音波画像診断装置において、
前記送信部は、第1の超音波信号をパルスで送信し、
前記信号処理部は、
前記第1の超音波信号の周波数を基本周波数とした場合に、前記受信部の出力と予め設定された参照信号との相関処理を行うことによって、前記受信部の出力から前記第2の超音波信号に含まれる前記基本周波数の成分を検出する相関部と、
前記受信部の出力から、予め設定された1または複数の高次調波の成分を抽出するフィルタと、
前記相関部および1または複数のフィルタからの出力にそれぞれ所定の重みを施して加算する加算部とを含むことを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項2】
前記加算部における重みを、前記被検体における診断部位と診断深度との少なくとも一方に応じて設定する重み設定部をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の超音波画像診断装置。
【請求項3】
前記送信部は、前記パルスとしてチャープ波を用いることを特徴とする請求項1または2記載の超音波画像診断装置。
【請求項4】
前記送信部および受信部における超音波振動子は、送信用の無機圧電素子上に、受信用の有機圧電素子を積層して成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図9】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−10793(P2011−10793A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156678(P2009−156678)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】