説明

超音波診断装置

【課題】 複数の超音波造影剤を用いた診断に好適に用いることのできる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 設定記憶部21に複数の造影剤の種類に応じた送信超音波の音圧条件と、任意の音圧条件の組み合わせ及びその実行順序を定めた送信シーケンスを記憶させておき、上記送信シーケンスに従って、送信超音波の音圧を制御することによって、被検者体内に導入された複数種類の超音波造影剤をそれぞれ選択的に破裂させる。また、取得された超音波画像を撮影時の音圧条件別に記憶する画像記憶部15と各画像を演算合成する画像合成部16を設け、異なる音圧条件下で撮影された画像同士を合成表示できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受波により被検体内部の情報を取得する超音波診断装置に関するものであり、特に造影剤を用いた血流動態の評価に好適に用いることのできる超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は被検者の体表に当てたプローブから超音波を送信すると共に、被検者体内の各組織で反射された超音波信号を受信して、その送信信号と受信信号の時間差に基づいて被検者体内の情報を得るための装置であり、その高い安全性から種々の診断に広く用いられている。
【0003】
超音波診断装置は古くから体内組織の断層像を観察する目的で使用されてきたが、ドプラ効果による反射波周波数の変化を利用した超音波ドプラ法の開発により、現在では血流動態の評価にも広く利用されている。しかし、超音波ドプラ法では比較的血流量の多い箇所は検出することができるが、毛細血管などの微小血流の検出は困難である。そこで、特許文献1に記載のように、血管内に超音波造影剤を注入することにより血流情報を増強する手法が開発されている。このような手法はコントラストエコー法と呼ばれ、心筋の血液灌流状態の評価や、腫瘍への流入血管の特定、腫瘍病変の鑑別診断などに威力を発揮する。コントラストエコー法に使用される超音波造影剤には反射源として微小な気泡が含まれており、該気泡の音響インピーダンスは体内組織や血液成分の音響インピーダンスと異なるため、造影剤が存在する領域では強いエコー信号が得られる。
【0004】
ただし、造影剤の微小気泡は高い音圧を受けると破裂してしまうため、造影効果を持続させるためには、比較的低音圧での超音波観察を行う必要がある。また、逆にこの性質を利用して、高い音圧で造影剤を一度に破裂させ、その際に生じる強いエコー信号を画像化するフラッシュエコーイメージング法と呼ばれる手法も広く用いられている。
【特許文献1】特開平8-280674号公報([0003])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、我が国において市販されている超音波造影剤は1種類のみであるが、今後新しい超音波造影剤の製品化が予定されており、コントラストエコー法の応用分野が更に広がることが期待されている。
例えば、破裂音圧の異なる2種類の造影剤を体内に導入し、それらを個別に破裂させることができれば、より詳細な血流評価が可能になると考えられるが、従来の超音波診断装置は、既存の1種類の造影剤を破裂させる音圧及び破裂させない音圧の2種類の音圧設定しか備えていない。そのため、従来の超音波診断装置を用いて、体内に導入した複数の超音波造影剤をそれぞれ選択的に破裂させようとする場合には、その都度操作者が入力パネル等を用いて送信音圧を変更しなければならず、操作が煩雑になるという問題があった。
【0006】
すなわち本発明が解決しようとする課題は、複数の超音波造影剤を用いた診断を簡便に行うことのできる超音波診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係る超音波診断装置は、造影剤が導入された被検体の所定の部位に対して超音波の送受信を行うことにより、被検体内部の血流情報を取得する超音波診断装置において、a)複数の造影剤の種類に応じた送信超音波の音圧条件を記憶する音圧条件記憶手段と、b)上記音圧条件記憶手段に記憶された複数の音圧条件から選出された音圧条件の組み合わせ、及びその実行順序を定めた送信シーケンスを記憶するシーケンス記憶手段と、c)上記シーケンス記憶手段によって記憶された送信シーケンスに従って、送信超音波の音圧を制御する音圧制御手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また更に、本発明の超音波診断装置には、d)上記送信シーケンスに従って撮影された超音波画像を撮影時の音圧条件別に記憶する画像記憶手段と、e)上記画像記憶手段によって記憶された各超音波画像を演算合成する画像合成手段とを設けることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記の構成から成る本発明の超音波診断装置により、各種超音波造影剤の破裂音圧に応じた複数の音圧設定と、診断に用いる音圧設定の組み合わせや実行順序などを定めた送信シーケンスを記憶しておくことができ、該送信シーケンスに従って超音波診断が行われるため、複数の超音波造影剤を用いた超音波診断を簡便に行うことができる。
【0010】
また、更に画像記憶部及び画像合成部を設けることにより、撮影時の音圧条件別に超音波画像を記憶することができると共に、異なる音圧条件下で撮影された超音波画像を合成して表示させることができ、複数の超音波造影剤を用いた超音波診断の診断性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施例である超音波診断装置を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0012】
[実施例]
図1は本実施例の超音波診断装置の要部の構成を示すブロック図である。超音波プローブ11は、被検者の身体に当接させて超音波の送受波を行うものであり、パルサ回路12によって印加されるパルサ電圧に基づいて被検体に超音波を送波すると共に、生体内で反射された超音波を受波して電気信号に変換する。プローブ11から出力されたエコー信号がアンプ13によって増幅され、信号処理部14で所定の処理を受けることにより断層画像やカラーフローマッピング画像、流速スペクトルなどが生成され、モニタ18に表示される。画像記憶部15は上記信号処理部14で生成された画像を記憶しておくものであり、画像合成部16は該画像記憶部15に記憶された複数の画像情報に対して所定の演算処理を行うことにより画像の合成を行うものである。表示処理部17は上記信号処理部14や画像記憶部15、画像合成部16から出力された画像データなどに基づいて、モニタ18に超音波画像や流速スペクトルなどを表示させるための処理を行う。
【0013】
上記各部は制御部19によって制御され、該制御部19にはマウス等のポインティングデバイスや入力パネル等から成る入力部20によって操作者からの指示が入力される。設定記憶部21は後述の音圧条件や送信シーケンスなどの設定を記憶するものである。パルサ電圧コントロール部22はパルサ回路12から出力されるパルサ電圧をコントロールするものであり、これにより送信超音波の音圧が調節される。
【0014】
本実施例の超音波診断装置は、複数の超音波造影剤の破裂音圧に応じた送信超音波の音圧条件を記憶することができると共に、任意の音圧条件の組み合わせや各音圧条件による超音波送信の実行順序などを定めた送信シーケンスを記憶することができる。なお、上記音圧条件及び送信シーケンスはデフォルトとして予め装置に記憶させておくほかに、入力部20で操作者が所定の操作を行うことにより新たな音圧条件及び送信シーケンスを作成し登録できるようにしてもよい。
なお、上記送信シーケンスとしては、実行する音圧条件の組み合わせ及びその実行順序の他に、各音圧条件での超音波送信を実行する時間を記憶させておき、一つの音圧条件での送信時間が経過した後には、自動的に次の音圧条件に移行するようにすることが望ましいが、このような時間設定を行わずに、ある音圧条件での送信中に、操作者が入力部20で所定の操作を行うことにより、次の音圧条件での送信に移行するようにしてもよい。
【0015】
続いて本実施例の超音波診断装置を用いた超音波診断時の動作について説明する。ここでは破裂音圧の異なる2種類の超音波造影剤(破裂音圧の低い方を造影剤A、高い方を造影剤Bとする)を用いて診断を行う場合を例に挙げて説明する。
まず、操作者は診断を開始する前に、入力部20で所定の操作を行うことにより診断に用いる送信シーケンスを設定する。ここでは予め装置に記憶された複数の送信シーケンスの中から図2に示すような送信シーケンスを選択して実行する例を示す。この送信シーケンスでは、時刻T0〜T1では、造影剤A,B共に破裂しない音圧、時刻T1〜T2では造影剤Aは破裂するが造影剤Bは破裂しない音圧、時刻T2〜T3では造影剤A,B共に破裂する音圧での超音波送信を行う設定となっている。
【0016】
送信シーケンスの設定が完了したら所定の方法により被検者の体内に造影剤A,Bを導入する。これらの造影剤は同時に導入してもよく、時間をおいて順次導入するようにしてもよい。
【0017】
続いて操作者は被検者の身体の診断対象部位にプローブ11を当接させ、入力部20で所定の操作を行うことにより上記送信シーケンスに従った超音波送信を開始する。
時刻T0〜T1においては、体内の造影剤A及び造影剤Bはいずれも破裂しないため、従来の造影エコーと同様な画像が得られる。続いて、時刻T1で次の音圧条件に切り替わることにより、造影剤Aが破裂して強いエコー信号が得られる。一方、造影剤Bは破裂しないため、徐々に血流の少ない部位まで造影剤Bが流入していく。その後、時刻T2になると造影剤Bも破壊されて強いエコー信号を発する(造影剤Aは、時刻T1より既に検査領域から消えているので、造影剤B由来のエコー信号のみが得られる)。時刻T3になり、一連の送信シーケンスに従った送信が完了すると、再び、造影剤A,Bとも破裂しない音圧での超音波送信が開始され、造影剤A,Bが消滅した診断領域内に、再び造影剤A,Bが流入する。その後、入力部20で所定の終了指示操作が行われるまで上記送信シーケンスに従った超音波送信が繰り返し行われる。
以上の一連の動作によって、造影剤A,Bが共に破裂していない状態での通常の造影エコー信号と、造影剤Aの破裂に由来する比較的血流の多い領域の強いエコー信号、及び造影剤Bの破裂に由来する微小血流領域の強いエコー信号が得られる。また、時刻T1〜T2においては微小血流領域へ造影剤Bが流入していく様子を観察することもできる。
【0018】
以上の送信シーケンスに従った超音波診断を行っている間、得られたエコー信号を基に信号処理部14で生成された超音波画像はリアルタイムでモニタ18に表示されると共に、画像記憶部15に記憶される。画像記憶部15では、各超音波画像が撮影時の音圧条件別に、該音圧条件と関連づけて保存されるため、診断終了後に特定の音圧条件下で得られた超音波画像を呼び出してモニタ18に表示させることができる。
【0019】
また更に、上記画像記憶部15で撮影時の音圧条件別に記憶された各超音波画像は、画像合成部16において演算合成することもできる。なおここで、合成とは2つ以上の画像データから1つの画像を生成することを指し、ある画像データに別の画像データを加算する場合だけでなく、ある画像データから別の画像データを減算する場合も含まれる。なお、本実施例の超音波診断装置には、図3に示すように心電信号などの生体信号を計測するための生体信号計測部23を設け、該生体信号により各超音波画像を同期させるようにすることが望ましい。これにより、心臓など周期的に運動する部位の診断において、各超音波画像をその周期に一致させて合成することができる。なお、上記生体信号は心電信号に限定されるものでなく、例えば心音信号や脈波信号など生体の周期的な運動に由来する種々の信号を用いることができる。
合成された画像は表示処理部17で所定の処理を受けた後、モニタ18に表示される。モニタ18には複数種類の画像を同時に表示してもよいし、合成した画像のみを表示させてもよい。
【0020】
また、更に本実施例の超音波診断装置には、図4に示すように受信周波数選択部24を設け、エコー信号の中から各造影剤に由来する反射波の周波数成分のみを抽出して超音波画像を生成できるようにすることが望ましい。これにより各超音波造影剤から生じるエコー信号を個別に観察することができる。例えば、造影剤A及び造影剤Bからの反射波が図5に示すような周波数分布を有する場合に、上記送信シーケンスの時刻T1〜T2において、受信周波数をfOとすれば造影剤Aからのエコー信号を、受信周波数をf1とすれば造影剤Bからのエコー信号を選択的に得ることができる。
【0021】
なお、上記実施例はあくまで一例であり、本発明の範囲内で種々の変更が許容されるものである。例えば、送信音圧を調節する方法としては、上記のようにパルサ電圧を調節する方法の他に、超音波ビームのフォーカスを調節する方法を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係る超音波診断装置の要部の構成を示すブロック図。
【図2】同実施例の超音波診断装置における送信シーケンスの一例を示す図。
【図3】生体信号計測部を有する超音波診断装置の要部の構成を示すブロック図。
【図4】受信周波数選択部を有する超音波診断装置の要部の構成を示すブロック図。
【図5】造影剤A及び造影剤Bからのエコー信号の周波数特性を示す図。
【符号の説明】
【0023】
11…超音波プローブ
12…パルサ回路
13…アンプ
14…信号処理部
15…画像記憶部
16…画像合成部
17…表示処理部
18…モニタ
19…制御部
20…入力部
21…設定記憶部
22…パルサ電圧コントロール部
23…生体信号計測部
24…受信周波数選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が導入された被検体の所定の部位に対して超音波の送受信を行うことにより、被検体内部の血流情報を取得する超音波診断装置において、
a)複数の造影剤の種類に応じた送信超音波の音圧条件を記憶する音圧条件記憶手段と、
b)上記音圧条件記憶手段に記憶された複数の音圧条件から選出された音圧条件の組み合わせ、及びその実行順序を定めた送信シーケンスを記憶するシーケンス記憶手段と、
c)上記シーケンス記憶手段によって記憶された送信シーケンスに従って、送信超音波の音圧を制御する音圧制御手段と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
更に、
d)上記送信シーケンスに従って撮影された超音波画像を撮影時の音圧条件別に記憶する画像記憶手段と、
e)上記画像記憶手段によって記憶された各超音波画像を演算合成する画像合成手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
更に、
f)被検体の生体信号を計測するための生体信号計測手段を備え、
上記画像合成手段は、上記生体信号に基づいて各超音波画像を同期させて演算合成を行うことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−14938(P2006−14938A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195708(P2004−195708)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】