説明

超音波診断装置

【課題】超音波画像信号を再生表示する際に、階調付けする信号範囲を高い自由度で調整すること。
【解決手段】被検体に造影剤を投与し、被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号から得た超音波画像信号をリアルタイムで表示すると共に、この超音波画像信号をイメージメモリ15に記録する超音波診断装置において、リアルタイムで超音波画像を表示する際の階調を付ける信号範囲のダイナミックレンジよりも広いダイナミックレンジで超音波画像信号をイメージメモリ15に記憶するとともに、メモリ15は、スキャンコンバータ8の前に設けられ、スキャンコンバータ8によるスキャンコンバート処理の前段階にある超音波画像信号を記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体に造影剤を投与し、被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号からBモード画像やカラードプラ画像等の超音波画像信号を得て、この超音波画像をリアルタイムで表示すると共に、この超音波画像信号をメモリに記録し、このメモリから読み出した超音波画像信号を非リアルタイムで表示して、血流パフュージョンの検出およびそのパフュージョンの定量評価を行うことが可能な超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波の医学的な応用としては種々の装置があるが、その主流は超音波パルス反射法を用いて生体の軟部組織の断層像を超音波診断装置である。この超音波診断装置は無侵襲検査法で、組織の断層像を表示するものであり、X線診断装置、X線CT装置、MRIおよび核医学診断装置などの他の診断装置に比べて、リアルタイム表示が可能、装置が小型で安価、X線などの被曝がなく安全性が高く、さらに超音波ドプラ法により血流イメージングが可能であるなどの独自の特徴を有している。
【0003】
このため心臓、腹部、乳腺、泌尿器、および産婦人科などでその活用範囲は広い。特に、超音波プローブを体表から割り当てるだけの簡単な操作で心臓の拍動や胎児の動きの様子がリアルタイム表示で得られ、かつ安全性が高いため繰り返して検査が行えるほか、ベッドサイドへ移動していっての検査も容易に行えるなど簡便である。
【0004】
このような超音波診断装置において、近年、例えば心臓および腹部臓器などの検査で静脈から、毛細血管を通過する程度の小さな径の微小気泡を主成分とする超音波造影剤を投与して血流動態を評価する手法が、造影剤の侵襲性の低さと相まって普及しつつある。
【0005】
このような造影剤を投与して観察するコントラストエコー法は、他のモダリティ、例えばX線撮影やCTでの造影剤検査と同様に一過性の観測法といえる。つまり、静脈から投与された造影剤は関心部位に少しずつ流れ込み、ある時点で関心部位での造影剤の存在量が最大となって輝度増強効果がピークを迎え、そして関心部位から造影剤が少しずつ流出して行くにつれて少しずつ輝度が少しずつ低下していくので、輝度増強効果がピークを迎える撮影チャンスは非常に短期間に限られている。このためコントラストエコー法では“1回きりのチャンス”を逃さないことが非常に重要になってくる。もちろん、造影剤を繰り返し投与して、チャンスの回数を増やすことは容易であるが、これは造影剤による侵襲性の増加の観点から好ましくない。
【0006】
ところでコントラストエコー法の最も基本的なものは、造影剤によって輝度増強された領域がどのように分布しているかを調べることにより関心部位における血流の有無、例えば心筋の血管梗塞による虚血部位や肝臓における占拠性疾患(原発性肝癌)などを診察するいうものである。
【0007】
さらに進んで、関心領域(ROI)に造影剤がどのように流れ込みまた流出するかをより高精度で且つ定量的に観察するために、ROIのエコー輝度の時間変化をグラフで表現するTDC(time Density Curve)を作成し、さらにこれに基づいて造影剤を投与してからROIに到達するまでの時間や、最大輝度などを求めるようなことも行われている。
【0008】
上述のように、造影剤を用いたコントラストエコー法は血流信号の増強を目的とし、これによって造影剤投与前には確認されなかった微小血流情報が検出可能となる。しかしながら、実際にコントラストエコー法を行った場合には以下のような問題が生じる。
【0009】
超音波画像信号は本来、図7に示すように例えば1024階調に相当する情報量を持っているが、その全階調を、表示の256階調に圧縮して表示すると、肝心の部分のコントラストが低下して見え難くなってしまうので、通常は、1024階調の一部分、例えば200階調分(この幅を“表示ダイナミックレンジ”と称し、この信号範囲の中心値を“表示ゲイン”と称する)を取り出してこれを表示の256階調に拡大して表示することが行われている。
【0010】
ところで、造影剤投与による輝度増強は非常に大きく、門脈などの比較的大きな血管では約30デシベル以上の信号パワーの増強が確認されている。このため、この増強を見越して、表示ダイナミックレンジをある程度広くしておき、造影剤により増強されたエコー輝度が飽和して階調が付かなくなってしまうことのないようにしておかなければならない。しかし一方で表示ダイナミックレンジを余り広くしすぎると、コントラストが低下して見え難くなってしまうという事態に陥ってしまう。従って、表示ダイナミックレンジや表示ゲインをどの程度の増強効果があるのかを予測して最適化することが重要であるが、増強効果には個体差等がありこの最適化は難しいと言える。
【0011】
さらに、静脈投与におけるコントラストエコー法は投与後約20〜30秒で関心部位の染影が始まり、その後約10秒以内に増強のピークに達し、その後は増強は減少していく。このようにコントラストエコー法は一過性の診断法であるため、通常のカラードプラ法のように、診断中に表示ダイナミックレンジや表示ゲインを最適化する時間的な余裕は殆ど無いと言える。
【0012】
このため表示ダイナミックレンジや表示ゲイン等が最適値から少しずれた状態で診断を行っているのが現状であった。なお、同じ被検体に対して造影剤の投与回数を増やして、観測を繰り返しながらそのうちに表示ダイナミックレンジや表示ゲイン等を最適値に近似させていくことは可能ではあるが、投与量の増加に伴って侵襲性が増加してしまうのでこれは好ましくない。
【0013】
さらに、比較的細い血管系を増強を目的とする場合は、当然ながら表示ゲインを上げて観測するが、この場合、比較的太い血管系では信号値が表示ダイナミックレンジを超過して輝度飽和を起こしてしまい、コントラストが付かないという事態も生じる。このため、一度の試行によって大血管系と小血管系の両方を最適な状態、つまりいずれにも階調を付けて観測することは困難であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、超音波画像信号を再生表示する際に、階調付けする信号範囲を高い自由度で調整することのできる超音波診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号に基づく超音波画像を実質的にリアルタイムで表示すると共に、この超音波画像信号をメモリに記録する超音波診断装置において、前記リアルタイムで超音波画像を表示する際の諧調をつける信号範囲よりも広いダイナミックレンジで前記超音波画像信号を前記メモリに記憶し、前記メモリから読み出した超音波画像信号を前記実質的にリアルタイムで超音波画像を表示する際の諧調をつける信号範囲外を含む任意の信号範囲に諧調をつけて表示することが可能であり、前記超音波画像信号は前記超音波によるスキャンのラスタ信号列からなり、前記超音波画像信号を表示形態に応じたラスタ信号列からなる表示画像信号にスキャンコンバータで変更し、前記メモリは、前記スキャンコンバータの前に設けられ、前記スキャンコンバータによるスキャンコンバート処理の前段階にある超音波画像信号を記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、超音波画像信号を再生表示する際に、階調付けする信号範囲を高い自由度で調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図面を参照して、本発明を好ましい実施形態により説明する。本発明は腹部肝臓への血流状態をみる場合に限定されるものではないが、以下には肝臓実質の血流状態から異常部位を同定する場合について説明する。
【0018】
図1は本実施形態による超音波診断装置のブロック図である。本実施形態による超音波診断装置は、装置本体1と、超音波プローブ4と、操作パネル12とから構成される。操作パネル12には、関心領域(ROI)の設定、表示ダイナミックレンジや表示ゲインの指定などを行うためのトラックボール13A、キーボード13B、マウス13Cなどが設けられる。
【0019】
超音波プローブ4は、電気信号を扱う装置本体1側と、超音波に振幅変調や周波数変調をかけて内部情報を付与する被検体側との間を媒介するために、配列された複数の微小圧電素子を先端部分に有している。このプローブ4の形態としては、セクタ対応、リニア対応、コンベックス対応等の中から任意に選択される。
【0020】
超音波プローブ4から超音波を送信するための超音波送信部6は、パルス発生器6A、送信遅延回路6B、パルサ6Cとから構成されている。パルス発生器6Aから超音波の送信レート(毎秒送信回数)を決定するためのレートパルスが出力される。
【0021】
このレートパルスは、送信遅延回路6Bで超音波の指向性を決めるために必要な適当な遅延を受けて、パルサ6Cにトリガパルスとして与えられる。このトリガパルスに同期してパルサ6Cからプローブ4の圧電素子に個別に又は近隣グループ単位で高周波の信号パルスが印可される。
【0022】
プローブ4の圧電素子は、この信号パルスを受けて振動する。これにより超音波が、この振動の中心周波数で被検体に送信される。この超音波は生体内を伝播し、その途中にある音響インピーダンスの不連続面で次々と反射する。この反射によるエコーはプローブ2に返ってきて、圧電素子を振動する。これにより、圧電素子からは微弱な電気信号が発生する。
【0023】
この電気信号は、超音波受信部5に取り込まれる。超音波受信部5は、プリアンプ5A、受信遅延回路5B、加算器5Cとから構成される。プローブ4からの電気信号は、まずプリアンプ5Aで増幅され、受信遅延回路5Bで例えば送信時とは逆の適当な遅延を受けた後、加算器5Cで加算される。これにより受信指向性を持った1つのエコー信号が取得される。
【0024】
このエコー信号は、通常のBモードが選択されているときには、基本波用帯域通過型フィルタ20aを介してレシーバ部7に供給され、また造影剤を使ったコントラストエコー法のときに主に選択されるハーモニックモードのときには、ハーモニック用帯域通過型フィルタ20bを介してレシーバ部7に供給される。
【0025】
超音波が造影剤(気泡)の表面でバウンドすると、高調波成分(ハーモニック成分)が著しく増加する。従って、この高調波成分をハーモニック用帯域通過型フィルタ20bで取り出すことにより造影剤を強調することができる。
【0026】
次にレシーバ部7を説明する。レシーバ部7は、図示しないが検波回路と、対数増幅器と、アナログデジタルコンバータとから構成される。検波回路で取り出した信号成分(反射成分)を対数増幅器で対数増幅し、さらにアナログデジタルコンバータでディジタル信号に変換することにより、超音波画像信号を得る。このレシーバ部7のアナログディジタルコンバータのビット数が、リアルタイム表示時にオペレータによって設定された表示ダイナミックレンジに必要なビット数よりも常に多い情報量をカバーできる程度の性能が具備されているものとする。
【0027】
レシーバ部7から出力される超音波画像信号は、イメージプロセッサ16に送られ、超音波画像信号をオリジナルの比較的広いダイナミックレンジから、オペレータが予め指定した、リアルタイムの観測に適した比較的狭いダイナミックレンジに圧縮変換する。その後、Bモード用ディジタルスキャンコンバータ(DSC)部8で超音波スキャンのラスタ信号列から、ビデオフォーマットのラスタ信号列に変換され、メモリ合成部10に送られる。メモリ合成部10は、画像と設定パラメータ等の情報を並べる、あるいは重ねるなどしてビデオ信号として出力し、これは表示部11に送る。
【0028】
次に本実施形態の主要部分について説明する。図1におけるレシーバ部7の出力は、ディジタルスキャンコンバータ部8に送られると共に、イメージメモリ15にも送られ、そこに記録される。従来の装置においては、レシーバ部7から出力される超音波画像信号は、既に表示部11で表示する画像と同等の表示ゲイン、表示ダイナミックレンジ(例えば、表示ゲイン=60、表示ダイナミックレンジ=40と言った値)に変換されているため、イメージメモリにはこの狭い表示ダイナミックレンジの画像信号が記録されるようになっていたので、イメージメモリから読み出した超音波画像信号に対して、表示ダイナミックレンジを例えば60に拡大することはできなかった。
【0029】
これに対して本実施形態の特徴は、第1に、高ビットでディジタル変換されたレシーバ部7の出力(超音波画像信号)をその情報量(広いダイナミックレンジ)のままで、つまり狭い表示ダイナミックレンジに変換する前の比較的広いダイナミックレンジのままで高ビットのイメージメモリ15に記録し、再生時(威リアルタイム表示時)にはイメージメモリ15から読み出した超音波画像信号を、操作パネル12で広い自由度でもって任意に設定した表示ゲインや表示ダイナミックレンジに従ってイメージプロセッサ16で変換して表示することが可能な点にある。一連の動画像としてイメージメモリ15に記録された超音波画像信号を動画として再生する場合、その再生表示中に表示ゲインや表示ダイナミックレンジを様々に変えて繰り返し再生可能である。
【0030】
このように広いダイナミックレンジのままでイメージメモリ15に記録されて、再生時に読み出された超音波画像信号は、オペレータが指示した表示ダイナミックレンジ、表示ゲインに従って変換される。この指示の入力は、操作パネル12のトラックボール13A、キーボード13B、あるいはマウス13C等を用いて行われる。この指示はイメージプロセッサ16に伝わり、イメージメモリ15から読み出された超音波画像信号をこの指定された表示ダイナミックレンジ、表示ゲインに再構築する。再構築された超音波画像信号は、ディジタルスキャンコンバータ8、メモリ合成部10を介して表示部11で表示される。この表示方法は、読み出し条件を変えるだけで、動画、静止画あるいはコマ送り再生等が可能となる。
【0031】
上記の方法によって得られる効果を以下に説明する。従来では、図7を参照して説明した通り、レシーバ部7及びディジタルスキャンコンバータ8で得た超音波画像信号は、スキャン前に予め指定された比較的狭い表示ダイナミックレンジと表示ゲインに従って変換されて表示されるが、イメージメモリ15にも同じ条件で記録される(本例では0〜255階調)。このため、記録した超音波画像信号をリアルタイム表示時の表示ダイナミックレンジより広いダイナミックレンジで表示する、もしくはダイナミックレンジを変えずに表示ゲインを上下させることは出来なかった。ただし、表示ダイナミックレンジをリアルタイム時より狭くして再生することはできる。
【0032】
図2(a)にイメージメモリ15に記録される超音波画像信号のダイナミックレンジと表示ダイナミックレンジとの関係を示している。上述のように、リアルタイム表示時に指定された表示ダイナミックレンジよりも広いダイナミックレンジでイメージメモリ15に記録されていて、非リアルタイム(再生)表示時にそこから読み出される超音波画像信号は、新たに指定された表示ゲインを中心として、新たに指定された表示ダイナミックレンジの広がりを持つ信号範囲が、表示階調、例えば256階調に割り当てられて表示される。もちろん、表示ダイナミックレンジから外れている部分は最高階調と最低階調としてコントラストが付かない状態で表示される。
【0033】
図2(b)の例1と図2(c)の例2は、表示ダイナミックレンジを変えずに、表示ゲインだけを変えて非リアルタイム表示した場合を示しており、図2(d)の例3には、表示ダイナミックレンジ共に変えて表示する場合を示している。
【0034】
このように従来ではディジタルスキャンコンバータ8の後にイメージメモリでは表示ダイナミックレンジや表示ゲインといった画質パラメータを大きな自由度でもって変更することはできなかったが、本実施形態で具備されるイメージメモリ15、およびイメージプロセッサ16によってこの自由度を拡大できる。
【0035】
次に、実際のコントラストエコー法の診断時に上記の操作を行う具体例を図3、図4をもとに説明する。先に述べたように、コントラストエコー法は造影剤を投与して輝度増強が得られる間に血流情報を診断する一過性の診断法である。図3に示すように造影剤投与後にイメージメモリ15へ記録を開始し、輝度増強がピークに至り、その後流出していく過程をイメージメモリ15に記録する。
【0036】
その後、スキャンを停止し、またイメージメモリ15への記録を終了し、適時に非リアルタイム表示(再生表示)を行うが、この時、オペレータは上述のように表示ダイナミックレンジや表示ゲインといった画質パラメータを自由に設定可能である。これらの操作は、図3のフローチャートに示すように、繰り返して可能である。
【0037】
主に表示ダイナミックレンジや表示ゲインといった画質パラメータを繰り返して変化させることの利点を図4にて説明する。図4(a)は比較的細い血管(図中B)の輝度増強を観測する例を示しており、この場合、例えば図2の例1に示したように、表示ダイナミックレンジを狭く、表示ゲインを高く設定することにより得られる。この設定によれば、図中Aの比較的太い血管の血流はエコー信号が大きく飽和が起こってしまうことが予想される。
【0038】
そこで、例えば図2の例3のように表示ダイナミックレンジを広く、表示ゲインを比較的低く設定すれば、図4(b)の図中Cのように大きな血管の抽出能が改善される。一方、このパラメータにおいては、細い血管は描出しにくい。
【0039】
以上のように本実施形態では、一過性のコントラストエコー法に対して、表示ダイナミックレンジや表示ゲインを関心部位に応じて任意に変更して、それぞれ理想的な状態で観察することができるという大きな利点がある。
【0040】
また、関心部位が1カ所、例えば門脈系などの比較的大きな血流を観測する場合でも、造影剤投与前では投与後の輝く度増強レベルを正確に予想することは難しいことから、測定後にパラメータを変更可能な本手法は有効である。
【0041】
上記の観点から、本実施形態は、コントラストエコー法の応用でもあるハーモニックイメージングモードにおいてこれを行えばさらに有効であると考えられる。
【0042】
なお、再生時にイメージプロセッサ16にて画質を変えるパラメータとしては、表示ゲインや表示ダイナミックレンジに限らず、例えば、フレーム補間による画像スムージング、またはエッジ強調などを含んでもよく、これらもまた、コントラストエコー法で観測後に、最適な画像で再生する目的で使用される。
【0043】
次に、表示機能について、図5を参照して説明する。図5は、表示画面を2つに分割し、2枚の画像を同時表示させている例である。この2つの画像は、ともにイメージメモリ15より読み出された超音波画像信号を基にするが、表示ダイナミックレンジ、表示ゲインはそれぞれの画像で独立に変化させることが可能であるとする。これらのパラメータの切り換えは、例えばどちらかの画像を有効として、オペレータが操作パネル12から値を入力する。現在有効な画面情報およびパラメータ値は、図6の例のように画像表示される。なお、分割画面は2つとは限らず、2つ以上であっても良い。
【0044】
次に本実施形態をカラードプラ画像に応用した実施形態を図6をもとに説明する。カラードプラ画像生成のための信号は、カラーフローマッピングユニット(CFMユニット)31に送られる。カラーフローマッピングユニット31は、ここでは図示しないが、ミキサと、ローパスフィルタと、アナログデジタルコンバータと、MTIフィルタと、自己相関器と、演算部とから構成される。
【0045】
ミキサとローパスフィルタとは、送信周波数で振動する参照信号を使って受信信号を直交位相検波して、血球や臓器壁等の移動体から周波数偏移を受けた偏倚成分(ドプラ信号)を取り出す。このドプラ信号をアナログデジタルコンバータで所定のサンプリング周波数に従って1本の走査線に対して例えば0.5mm間隔でサンプリングしてディジタル信号に変換してから、MTIフィルタに送り込む。
【0046】
MTIフィルタでは、心臓壁等の比較的移動速度の遅い移動体に関する偏移成分(クラッタ成分)をドプラ信号から取り除き、血球等の比較的移動速度の速い成分(血流成分)だけを抽出する。そして、この血流成分の周波数を自己相関器により求め、演算部でその周波数から血流の速度と、血流速度の分散と、主に血流量を反映している血流成分の信号強度(いわゆるパワー)とを、サンプル点毎に演算する。
【0047】
これらの血流情報に関する超音波画像信号は、図示しないがCFM用ディジタルスキャンコンバータを介してメモリ合成部10に送られ、そしてCFMイメージプロセッサ不33で比較的狭い表示ダイナミックレンジに変換されてリアルタイムで表示されると共に、カラーフローマッピングユニット31から直接的に広いダイナミックレンジのままでCFMイメージメモリ32にも送られ、記憶される。
【0048】
Bモードの場合と同様に従来ではメモリ合成部10に送られる超音波画像信号とカラーフローマッピングイメージメモリ32に送られる超音波画像信号とは、既に表示部に表示されているものと同じ画像、すなわち比較的狭い表示ダイナミックレンジとなってしまっているが、本発明では比較的狭い表示ダイナミックレンジに変換前の比較的広いダイナミックレンジのままでCFM用イメージメモリ32に記録される。
【0049】
CFMイメージメモリ32から読み出して再生表示するときには、上述のBモードの場合と同様に、比較的広いダイナミックレンジのままで記憶されている超音波画像信号はCFMイメージプロセッサ33によって、オペレータが任意に指定した表示ダイナミックレンジ、表示ゲイン等のパラメータに従って変換されて動画、静止画、あるいはコマ送りで表示される。
【0050】
図6には示していないが、図1で説明したBモード用イメージメモリとCFM用イメージメモリは独立して装置に具備可能である。CMFの画像は、一般的にBモードグレースケール画像に重ねて同じ表示される。本手法は、必要であれば、CFM表示時にCFMとBモードの画像のパラメータを独立に設定して再生可能とする。
【0051】
なお、CFMイメージフレームに記録されたデータの再生時のパラメータは、ゲイン、DRに加えて、フレーム間補間、カラーマップも変更可能となる。
【0052】
以上説明したように本発明は、被検体に造影剤を投与し、前記被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号から得た超音波画像信号をリアルタイムで表示すると共に、この超音波画像信号をメモリに記録し、このメモリから読み出した超音波画像信号を非リアルタイムで表示することが可能な超音波診断装置において、前記リアルタイムで超音波画像を表示する際の階調を付ける信号範囲のダイナミックレンジよりも広いダイナミックレンジで前記超音波画像信号を前記メモリに記憶することを特徴とする。
【0053】
また本発明は、被検体に造影剤を投与し、前記被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号から得た超音波画像信号を第1のダイナミックレンジに変換してリアルタイムで表示する超音波診断装置において、前記超音波画像信号を前記第1のダイナミックレンジより広い第2のダイナミックレンジで記録することを特徴とする。
【0054】
さらに本発明は、造影剤を投与した被検体の断面を超音波でスキャンする手段と、スキャンにより得られたエコー信号に基づいて、超音波画像信号を第1のダイナミックレンジで得る手段と、前記超音波画像信号を前記第1のダイナミックレンジより狭い第2のダイナミックレンジに変換してリアルタイムで表示する手段と、前記超音波画像信号を前記第1のダイナミックレンジで記録する手段とを具備することを特徴とする。
【0055】
このように超音波画像信号を広いダイナミックレンジで記録しておくので、それを読み出して再生表示する際に、階調付けする信号範囲を高い自由度で調整することができる。これにより診断に適正な信号範囲をじっくり探すことができる。
【0056】
本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々変形して実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図。
【図2】本実施形態による記録ダイナミックレンジと表示ダイナミックレンジとの関係を示す図。
【図3】本実施形態の動作を示すフローチャート。
【図4】表示ダイナミックと表示ゲインを変更したとき、それに伴って超音波画像の表示形態がどのように変化するかを示す図。
【図5】本実施例の表示画面の一例を示す図。
【図6】本発明の他の実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図。
【図7】従来の記録ダイナミックレンジと表示ダイナミックレンジとの関係を示す図。
【符号の説明】
【0058】
1…装置本体、
4…超音波プローブ、
5…超音波受信部、
5A…プリアンプ、
5B…受信遅延回路、
5C…加算器、
6…超音波送信部、
6A…パルス発生器、
6B…送信遅延回路、
6C…パルサ、
7…レシーバ部、
8…Bモードディジタルスキャンコンバータ部、
10…メモリ合成部、
11…表示部、
12…操作パネル、
13A…トラックボール、
13B…キーボード、
13C…マウス、
14…CPU、
15…イメージメモリ、
16…イメージプロセッサ、
20a…基本波用帯域通過型フィルタ、
20b…ハーモニック用帯域通過型フィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の断面を超音波でスキャンし、得られたエコー信号に基づく超音波画像を実質的にリアルタイムで表示すると共に、この超音波画像信号をメモリに記録する超音波診断装置において、
前記リアルタイムで超音波画像を表示する際の諧調をつける信号範囲よりも広いダイナミックレンジで前記超音波画像信号を前記メモリに記憶し、前記メモリから読み出した超音波画像信号を前記実質的にリアルタイムで超音波画像を表示する際の諧調をつける信号範囲外を含む任意の信号範囲に諧調をつけて表示することが可能であり、
前記超音波画像信号は前記超音波によるスキャンのラスタ信号列からなり、前記超音波画像信号を表示形態に応じたラスタ信号列からなる表示画像信号にスキャンコンバータで変更し、
前記メモリは、前記スキャンコンバータの前に設けられ、前記スキャンコンバータによるスキャンコンバート処理の前段階にある超音波画像信号を記憶することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記メモリから非リアルタイム時に読み出した超音波画像信号の任意の信号範囲に諧調をつけて表示することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記メモリから読み出した超音波画像信号を前記ダイナミックレンジ内の任意の信号範囲に諧調をつけて表示することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記メモリから読み出した超音波画像信号の表示中に前記階調を付ける信号範囲を変更することが可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記メモリから読み出した超音波画像信号の表示中に前記階調を付ける信号範囲を操作パネル、キーボード、トラックボールの少なくとも1つで指定可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記メモリから読み出した超音波画像信号を、前記階調を付ける信号範囲以外の画質に影響を及ぼすパラメータを任意に変更して表示することが可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項7】
造影剤を用いたコントラストエコーイメージングと、エコー信号から高調波成分のみを検出するハーモニックイメージングとの少なくとも一方を実行可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記エコー信号のドプラ成分に基づいて血流の速度およびパワーの情報を検出するカラードプライメージングを実行可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記メモリから読み出した複数の超音波画像信号を1画面に同時表示する際、階調を付ける信号範囲を個別に設定可能であることを特徴とする請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項10】
被検体の断面を超音波でスキャンするスキャン部と、
前記スキャンにより得られた超音波画像のデータのダイナミックレンジを圧縮するダイナミックレンジ圧縮処理部と、
前記ダイナミックレンジ圧縮処理部により得られた超音波画像のデータに基づいて超音波画像を実質的にリアルタイムで表示する表示手段と、
前記スキャン部により得られた超音波画像のデータを、前記ダイナミックレンジ圧縮処理部によって圧縮されたダイナミックレンジよりも広いダイナミックレンジで記憶するメモリと、
前記メモリから非リアルタイム時に読み出された超音波画像のデータに基づいて、前記圧縮されたダイナミックレンジよりも広いダイナミックレンジを設定して前記表示手段に表示させるための操作部と、
前記超音波によるスキャンのラスタ信号列からなる前記超音波画像信号を表示形態に応じたラスタ信号列からなる表示画像信号に変更するスキャンコンバータとを具備し、
前記メモリは、前記スキャンコンバータの前に設けられ、前記スキャンコンバータによるスキャンコンバート処理の前段階にある超音波画像信号を記憶することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−142569(P2008−142569A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24575(P2008−24575)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【分割の表示】特願平9−125827の分割
【原出願日】平成9年5月15日(1997.5.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】