説明

距離測定装置

【課題】気象条件その他の様々な外乱要因にかかわらず、安定した距離測定を行うことが可能な距離測定装置を提供する。
【解決手段】目標物2に向けてレーザ光を出力する投光部11と、目標物2からの反射光を受光する受光部12と、投光部11によるレーザ光の出力時刻から受光部12による反射光の受光時刻までの時間差に基づいて、目標物2までの距離を演算する演算部13を備え、投光部11は、受光素子16の最大受光可能光量以上の光量のレーザ光を出力し、受光部11は、受光素子16に入射する光量が最大受光可能光量以下となるように入射光量を調節する光量調節機構17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定点と被測定点との間の距離の変化を測定するための距離測定装置に関し、特に、屋外など測定条件の悪い場所に設置して用いられるレーザ光を用いた距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地震や地滑りなど自然災害発生の予測や氷河の移動などを測定するために、地上に設定された二点間の距離を定期的に測定する距離測定装置が用いられている。そのような距離測定装置の1つとして、測定点(又は固定点)に設置された測定装置本体から被測定点(又は移動点)に設置されたミラーなどの目標物に向けてレーザ光を照射し、目標物により反射された光を受光し、レーザ光を照射してから反射光を受光するまでの時間を測定して、測定点と被測定点の間の距離を測定するアクティブ方式の距離測定装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このような距離測定装置は屋外に設置されるため、天候など自然環境による測定条件への影響を受けやすい。例えば、晴天のときには、空気中のレーザ光の減衰が小さいため、受光部に到達する目標物からの反射光の強度は高い。それに対して、雨天や霧の場合、空気中に浮遊する水滴によりレーザ光が散乱されたりするので、レーザ光の減衰が大きく、受光部に到達する目標物からの反射光の強度は小さくなり、且つその度合いは一定ではない。また、長期間距離測定装置が屋外に放置されると、筐体の投光部及び受光部の窓に砂埃や泥などが付着し、これら付着物によってもレーザ光や反射光が減衰される。さらに、被測定点にミラーなどを設置できない場合は、被測定点に元々存在する岩や樹木などを目標物として定め、そこからの反射光を受光するため、目標物の種類や表面状態などによっても、反射光の強度が小さくなる。
【0004】
一方、受光部において用いられる、目標物からの反射光を検出するための、例えばフォトダイオードなどの受光素子は、受光した光の強度に応じた適正な信号を出力しうる範囲が存在する。具体的には、受光素子に入射する光の強度が下限閾値よりも小さい場合は、暗電流の影響により出力信号のS/Nが極度に低下する。また、受光素子に入射する光の強度が上限閾値よりも大きい場合は、受光素子の光電変換能力を超えてオーバーフロー状態となる。そのため、距離測定装置の屋外設置に際しては、例えば晴天時を基準にして、受光素子に入射する目標物からの反射光の強度が上限閾値と下限閾値の間になるように、投光部から出力されるレーザ光の強度を調節している。そうすると、上記のような気象条件などの影響によって、受光素子に入射する目標物の反射光の強度が下限閾値を下回る可能性があり、その場合には適正な距離測定を行うことができないという問題を生じる。
【特許文献1】特許第2994256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来例の問題を解決するためになされたものであり、気象条件その他の様々な外乱要因にかかわらず、安定した距離測定を行うことが可能な距離測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1の発明は距離測定装置であって、目標物に向けてレーザ光を出力する投光部と、前記目標物からの反射光を受光する受光部と、前記投光部によるレーザ光の出力時刻から前記受光部による反射光の受光時刻までの時間差に基づいて、前記目標物までの距離を演算する演算部とを備え、前記投光部は、前記受光部における受光素子の最大受光可能光量以上の光量のレーザ光を出力し、前記受光部は、前記受光素子に入射する光量が前記最大受光可能光量以下となるように入射光量を調節する光量調節手段を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の距離測定装置において、前記光量調節手段は、光の透過量を減少させる光量減少素子を含むことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載の距離測定装置において、前記光量減少素子は、液晶素子であり、液晶素子の濃淡調整を行うことにより透過光量を調節することを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載の距離測定装置において、前記液晶素子は、その入射面側の偏光フィルタの偏光方向と前記目標物からの反射光の偏光方向とが一致するように取り付けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の距離測定装置において、前記光量調節手段は、前記投光部がレーザ光を出力しうる状態にないときには、受光素子に入射する光量が最小となる状態をとることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1に記載の距離測定装置において、前記光量調節手段は、集光レンズ及び前記受光素子に対する前記集光レンズの相対的な位置を変化させる変位機構で構成され、前記受光素子の受光面に対する前記集光レンズの焦点位置をその光軸方向に移動させることによって前記受光素子に入射する光量を調節することを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置において、過去の測定時において前記受光素子に入射した光量値又は前記受光素子からの出力信号のレベル値を記憶する光量値記憶手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置において、前回の測定してからの経過時間が所定時間よりも短いときは、前記光量調節手段による光量調節を停止することを特徴とする。
【0014】
請求項9の発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置において、前記目標物は、被測定箇所に向けられた反射体であることを特徴とする。
【0015】
請求項10の発明は、請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の距離測定装置において、前記光量調節手段による光量調節を行わず、前記目標物からの反射光がその光量を減衰されずに前記受光素子に入射したときでも、入射光量が前記受光素子の最小受光可能光量に満たないときは、入射光量が前記受光素子の最小受光可能光量以上となるように、前記投光部は、出力されるレーザ光の強度を高くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、投光部からは、受光部における受光素子の最大受光可能光量以上の光量のレーザ光が出力されるけれども、受光部に光量調節手段が設けられているため、仮に測定条件がよく、且つ目標物の表面の反射率が高い場合であっても、受光素子に入射する光量を最大受光可能光量以下となるように調節することができ、受光素子におけるオーバーフローを防止して、適正な距離測定を行うことができる。また、測定条件が悪く、且つ目標物の表面の反射率が低い場合であっても、投光部から出力されるレーザ光の強度を適宜選択することにより、受光素子に入射する光量を受光素子の最低受光可能光量以上にすることができる。その結果、S/Nの高い測定が可能となる。
【0017】
請求項2の発明によれば、光量調節手段が、光の透過量を減少させる光量減少素子を含んでいるので、光量分布が正規分布に近く、光束の中央部分に光線が集中しているレーザ光であっても、光量減少素子により均一に透過光量を減少させることができる。光量減少素子としては、例えばNDフィルタ、半透明の板、磨りガラス、メッシュや格子状の板、ハーフミラーなどを用いることが可能である。さらに、これら種類の異なる光量減少素子を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
請求項3の発明によれば、光量減少素子として液晶素子を用い、液晶素子の濃淡調整を行うことにより透過光量を調節するので、機械的な駆動機構を必要とせず、機械的な駆動機構の故障の可能性がないという意味では、NDフィルタなどを用いるよりも有利である。なお、NDフィルタなどにも液晶素子にはない有利点もあるため、一概にいずれが優れているとは断定できない。
【0019】
請求項4の発明によれば、光量減少素子として液晶素子を用いる場合において、液晶素子は、その入射面側の偏光フィルタの偏光方向と前記目標物からの反射光の偏光方向とが一致するように取り付けられているので、目標物からの反射光が偏光を有していても、偏光フィルタによってカットオフされる成分を少なくすることができ、そうでない場合に比べて、液晶素子に入射する目標物からの反射光の光量を増加させることができる。
【0020】
請求項5の発明によれば、光量調節手段は、投光部がレーザ光を出力しうる状態にないとき、すなわち距離測定装置1が測定態勢にないときには、受光素子に入射する光量が最小となる状態をとるので、保護窓などを通して受光素子に入射する自然光の光量を低減することができ、受光素子の劣化を防止又は低減させることができる。
【0021】
請求項6の発明によれば、光量調節手段として受光素子に対する集光レンズの相対的な位置を変化させ、受光素子の受光面に対する集光レンズの焦点位置をその光軸方向に移動させることによって受光素子に入射する光量を調節するので、上記NDフィルタや液晶素子などの光量減少素子が不要となり、部品点数の削減が可能である。なお、どのような光学系であっても、受光素子に対する集光レンズの相対的な位置調節は必要であるため、構成をさほど複雑にすることなく、光量調節手段を実現することが可能である。
【0022】
請求項7の発明によれば、過去の測定時において受光素子に入射した光量値又は受光素子からの出力信号のレベル値を記憶する光量値記憶手段をさらに備えているので、比較的長い間隔で測定を行う場合、距離測定装置の周辺の測定条件が変化していても、記憶されているレベル値を目標値にして光量調節を行うことにより、受光素子に入射する光量や出力信号の増幅度がほぼ一定になるため、受光素子の特性やノイズレベルが一定になり、測定精度が安定する。なお、過去の測定時における受光素子からの出力信号のレベル値又は受光素子に入射した光量値は、一連の測定動作における最初の測定時のものをそのまま保持し続けていてもよいし、測定動作が行われるたびに、最新の測定時のものに置き換えてもよい。
【0023】
請求項8の発明によれば、前回の測定してからの経過時間が所定時間よりも短いときは、距離測定装置の周囲の測定条件はほとんど変化していないと考えられるので、光量調節手段による光量調節を停止することによって、距離測定に要する時間を短縮することができる。また、その場合でも、受光素子に入射する光量が一定の範囲内に保持され、測定精度は維持される。
【0024】
請求項9の発明によれば、目標物として被測定箇所に向けられた反射体を用いることにより、受光素子に入射する目標物からの反射光の光量を、そうでない場合に比べて、増加させることができる。
【0025】
請求項10の発明によれば、例えば測定条件が悪く、且つ目標物の表面の反射率が低い場合など、光量調節手段による光量調節を行わず、目標物からの反射光がその光量を減衰されずに受光素子に入射したときでも、入射光量が受光素子の最小受光可能光量に満たないときに、入射光量が受光素子の最小受光可能光量以上となるように、投光部から出力されるレーザ光の強度を高くするので、どのような測定条件であっても、受光素子により検出される光のうち、目標物からの反射光成分の割合が大きい、すなわちS/Nの高い測定が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る距離測定装置について説明する。図1は、一実施形態に係る距離測定装置1のブロック構成を示す図である。距離測定装置1は、目標物2に向けてレーザ光を出力する投光部11と、目標物2からの反射光を受光する受光部12と、投光部11によるレーザ光の出力時刻から受光部12による反射光の受光時刻までの時間差に基づいて、目標物2までの距離を演算する演算部13と、これら投光部11,受光部12及び演算部13を収容する筐体14などを備えている。この距離測定装置1は屋外に設置されるため、筐体14は防水構造を有しており、投光部11及び受光部12に対向する保護窓15を有している。なお、電力供給用の太陽電池、データ記録用のメモリ、データ送信用の通信装置などは図示を省略している。
【0027】
投光部11は、特に図示していないが、所定波長を有するレーザ光を出力する半導体レーザなどのレーザ光源と、レーザ光源から出力されたレーザ光を所定のビーム径を有する平行光束にするコリメートレンズなどで構成されている。受光部12は、例えばフォトダイオードなどの受光素子16と、保護窓15と受光素子16との間に設けられた光量調節機構(光量調節手段)17と、受光素子16からの出力信号を増幅するための信号処理回路(図示せず)などを有している。光量調節機構17の詳細については後述する。
【0028】
例えば、この距離測定装置1を用いて、地滑りなどの自然災害の発生を予測する場合、地滑りが発生しそうな斜面などの被測定点に、あらかじめミラー、白色板、金属板などの反射率の高い目標物を設置しておく。あるいは、被測定点にミラーなどの目標物を設置できない場合は、被測定点に元々存在する岩や樹木などを目標物2として定め、もしも可能であれば、その表面に白色などの反射率の高いシートを貼付し又は反射率の高い塗料を塗布しておく。
【0029】
目標物としてミラーなどの反射体を用いる場合、投光部11から出力されたレーザ光を受光部12に向けて反射させるように反射体の反射面を調節する。その場合、目標物2の表面での反射率は非常に高いので、晴天時など測定条件のよいときには、投光部11から出力されたレーザ光の強度に対する受光部12に入射する反射光の強度の割合は高い。そのため、一般的には、投光部11から出力されるレーザ光の強度を小さくすることによって、受光部12に入射する光量を最大受光可能光量以下で、かつ最小受光可能光量以上となるように調節することも考えられる。しかしながら、晴天時など測定条件のよいときには、保護窓15から受光部12に入射する太陽光などの自然光(ノイズ成分)の強度も高いため、レーザ光の強度を小さくすると、受光部12に入射する反射光(信号成分)の割合が小さくなり(S/Nが小さくなり)、測定精度が低下するという問題を生じる。一方、被測定点にミラーなどの目標物を設置できない場合は、目標物に定めた物体の表面で乱反射された光の一部しか受光部12に到達しないので、晴天時など測定条件のよいときでも投光部11から出力されたレーザ光の強度に対する受光部12に入射する反射光の強度の割合は比較的小さい。さらに、雨や霧などの自然条件や保護窓15の汚れなどが重なれば、受光部12に入射する反射光の強度の割合はさらに小さくなる。そのため、投光部11から出力されるレーザ光の強度をできるだけ高くする必要がある。
【0030】
前述のように、受光素子16は、受光した光の強度に応じた適正な信号を出力するために、受光素子16に入射する光量の上限閾値、すなわち最大受光可能光量及び下限閾値、すなわち最小受光可能光量が存在する。本実施形態においては、目標物の表面における反射率が低く、且つ測定条件が悪いときでも、受光部12における受光素子16に入射する光量が最小受光可能光量以上となるように、投光部11から、受光部12における受光素子16の最大受光可能光量以上の光量のレーザ光を出力させる(レーザ光の強度一定)と共に、測定条件がよいときでも、受光素子に入射する光量が最大受光可能光量以下となるように、光量調節機構17によって、受光素子16への入射光量を調節する。なお、光量調節機構17による光量調節を行わず、目標物2からの反射光がその光量を減衰されずに受光素子16に入射したときでも、入射光量が受光素子16の最小受光可能光量に満たないときは、入射光量が受光素子16の最小受光可能光量以上となるように、投光部11は、出力されるレーザ光の強度を高くすることが好ましい。それによって、どのような測定条件であっても、受光素子16により検出される光のうち、目標物2からの反射光成分の割合が大きい、すなわちS/Nの高い測定が可能となる。
【0031】
次に、光量調節機構17の具体的構成例について説明する。図2(a)及び(b)は、光量調節機構17の第1構成例及びその変形例を示す。図2(a)に示す第1構成例では、光量調節機構17は、保護窓15を通して入射した反射光を受光素子16の受光面に集光するための集光レンズ21と、複数のNDフィルタ(光量減少素子)22と、NDフィルタ22を集光レンズ21の光軸に対して直交する方向に移動させる駆動機構(図示せず)などで構成されている。この第1構成例では、各NDフィルタ22は、それぞれ同じ濃度のものを使用している。一方、図2(b)に示す変形例では、各NDフィルタ22は、それぞれ濃度の異なるものを使用している。後者の場合、光量調節機構17による光量調節の段数をより多くすることができる。また、駆動機構は、各NDフィルタ22を個別に移動させることができることは言うまでもない。さらに、図示しないが、NDフィルタ22を1枚で構成してもよく、その場合NDフィルタ22は部分的に濃度が変化するように形成されていることが好ましい。それによって、光軸に直交する方向におけるNDフィルタ22の位置によって、透過光量を変化させることができる。
【0032】
なお、光量調節機構17として、写真レンズなどに用いられる虹彩絞りも使用可能ではあるが、レーザダイオードなどの光源から出力されるレーザ光の光量分布は正規分布に近く、光束の中央部分に光線が集中しているため、虹彩絞りよりも、均一に透過光量を減少させうるNDフィルタの方が有効である。また、光量減少素子として、NDフィルタの他に、半透明の板、磨りガラス、メッシュや格子状の板、ハーフミラーなどを用いることも可能である。さらに、これら種類の異なる光量減少素子を組み合わせて使用してもよい。さらに、光量減少素子としてハーフミラーを使用する場合、受光素子を2個使用し、ハーフミラーを透過した光を受光する場合と、ハーフミラーにより反射された光を受光する場合に切り替えて測定することも可能である。
【0033】
次に、距離測定装置1の測定動作について説明する。距離測定開始に際して、演算部13は、受光素子16からの出力をモニタし、受光素子16からの出力が上記最大受光可能光量のときの出力信号のレベル以下となるように、適宜NDフィルタ22を移動させて、集光レンズ21の光軸上に投入する。このとき、投光部11から実際にレーザ光を出力させてもよいし、あるいは、投光部11からレーザ光を出力させずに、測定開始前に、保護窓15を通して受光素子16に入射するノイズ成分である自然光の強度を測定してもよい。例えば晴天のように測定条件がよいときは自然光の強度も高いので、自然光の強度を測定することによって、測定条件を推定することが可能である。後者の場合、測定開始と同時に、適正なレベルの信号が受光素子16から出力されるため、測定に要する時間を短縮することができる。
【0034】
投光部11からは、例えば矩形パルス状のレーザ光が目標物2に対して出力され、レーザ光は目標物2によって反射される。目標物2によって反射された光は、光量調節機構17を通過して、さらに集光レンズ21により受光素子16の受光面に集光される。光量調節機構17を通過する際、目標物2からの反射光の強度が高いと予測される場合は、あらかじめNDフィルタ22などの光量減少素子が光路上に投入されているので、受光素子16に入射する光量は、最大受光可能光量以下で、かつ最小受光可能光量以上に調整されている。そのため、演算部13は、受光素子16からの出力信号から矩形パルス状の信号を取り出すことができ、投光部11によるレーザ光の出力時刻から受光部12による反射光の受光時刻までの時間差を計測し、さらにその時間差に基づいて目標物2までの距離を演算することができる。演算された目標物2までの距離は、測定開始時刻などの時間情報と共に、メモリに記憶され、あるいは遠隔地に設けられた親機に無線送信される。
【0035】
このような距離測定装置1は、あらかじめ地上に設定された測定点と被測定点の2点間の距離を定期的に測定し、距離が変化している場合は、距離の変化から測定点に対する移動量及び移動方向などを測定することができる。さらに、測定間隔と移動量から被測定点の移動速度や加速度などを演算することも可能である。距離の変化が小さい場合は、あらかじめ設定された間隔(例えば、数時間おき)で測定を行うが、距離の変化が大きくなると、地滑りなどの自然災害の発生が近くなったと推定できるため、測定間隔を短くして(例えば数分おき)、あるいは連続的に測定することが好ましい。
【0036】
距離の変化が小さく、比較的長い間隔で測定を行う場合、距離測定装置1の周辺の測定条件が変化している可能性が高いため、測定のたびに光量調節機構17による光量調節を行う必要がある。前述のように、受光素子16からの出力信号に対して増幅処理などによるレベル調節が行われるが、光量調節機構17による光量調節と増幅処理などの組み合わせによって、受光素子16の特性や信号のノイズレベルが変化し、測定精度に影響を及ぼす可能性がある。そこで、受光部12又は演算部13にメモリ(光量値記憶手段)を設け、過去の測定時における受光素子16からの出力信号のレベル値、換言すれば受光素子16に入射した光量値を記憶させるようにしてもよい。そして、メモリに記憶されているレベル値を目標値にして、出力信号の増幅度を一定にした状態で、受光素子16からの出力信号のレベルがメモリに記憶されているレベル値とほぼ同じになるように、光量調節機構17を駆動すればよい。そうすることによって、受光素子16に入射する光量や出力信号の増幅度がほぼ一定になるため、受光素子16の特性やノイズレベルも一定になり、測定精度が安定する。なお、過去の測定時における受光素子16からの出力信号のレベル値又は受光素子16に入射した光量値は、一連の測定動作における最初の測定時のものをそのまま保持し続けていてもよいし、測定動作が行われるたびに、最新の測定時のものに置き換えてもよい。
【0037】
一方、測定間隔が短い場合、あるいは連続的に測定する場合、すなわち、前回の測定してからの経過時間が所定時間よりも短いときは、距離測定装置1の周囲の測定条件はほとんど変化していないと考えられる。その場合、受光素子16からの出力信号が、最大受光可能光量に相当するレベル以下で、かつ最小受光可能光量に相当するレベル以上であることを条件として、光量調節機構17の駆動を停止してもよい。それによって、距離測定に要する時間を短縮することができる。また、その場合でも、受光素子16に入射する光量が一定の範囲内に保持され、測定精度は維持される。
【0038】
図3(a)及び(b)は、光量調節機構17の第2構成例及びその変形例を示す。図3(a)に示す第2構成例では、光量調節機構17は、集光レンズ21と、透過型の液晶素子(光量減少素子)31と、その駆動回路(図示せず)などで構成されている。また、図3(b)に示す変形例では、集光レンズ21と、反射型の液晶素子(光量減少素子)32と、その駆動回路(図示せず)などで構成されている。液晶素子は、駆動電圧を変化させることによって、透過率又は反射率を変化させること(すなわち、濃淡調整)ができるので、光量減少素子として使用することができる。液晶素子の種類や駆動特性(駆動電圧と透過率などの関係)は特に限定されない。
【0039】
図2に示す第1構成例では、NDフィルタ22などの光量減少素子を、集光レンズ21の光軸に直交する方向に移動させるように構成されているので、機械的な駆動機構を必要としている。それに対して、図3(a)及び(b)に示す第2構成例では、液晶素子31及び32は集光レンズ21の光軸上に挿入されたままであり、機械的な駆動機構を必要としていない。そのため、第2構成例の方が、機械的な駆動機構の故障の可能性がないという意味では有利である。
【0040】
レーザ光には偏光を有しており、目標物2からの反射光にも偏光を有している。一方、液晶素子の入射面側には偏光フィルタが設けられている。ここで、液晶素子への入射光、すなわち目標物2からの反射光の偏光方向と液晶素子の偏光フィルタの偏光方向とが一致していない場合、偏光フィルタの存在によって液晶素子への入射光の光量が減少されてしまう。一方、ノイズ成分となる自然光は偏光を有さないか、あるいは反射光とは異なる偏光を有していることが多い。このことは、目標物2からの反射光の光量が少ない場合に、信号である目標物2からの反射光の光量が、偏光フィルタによってさらにカットオフされ、S/Nが低下するという問題を生じる。そのため、図4に示すように、液晶素子31又は32は、その入射面側の偏光フィルタの偏光方向と目標物2からの反射光の偏光方向とが一致するように取り付けられていることが好ましい。それにより、偏光フィルタによってカットオフされる成分を少なくすることができ、そうでない場合に比べて、液晶素子に入射する目標物2からの反射光の光量を増加させることができる。
【0041】
図5は、光量調節機構17の第3構成例を示す。第3構成例では、光量調節機構17は、集光レンズ21と、集光レンズ21をその光軸方向に移動させる機構(図示せず)などで構成されている。集光レンズ21をその光軸方向に移動させることによって、焦点位置が光軸方向に移動する。図6(a)は、集光レンズ21の焦点位置が受光素子16の受光面にあり、受光素子16の受光面への入射光量が最大となる場合を示している。図6(b)及び(c)は、それぞれ集光レンズの焦点位置が受光素子16の受光面の後方及び前方にあり、入射光束が円錐形に拡大され、受光素子16の受光面へは入射光束の一部しか入射していない場合を示している。このように、集光レンズ21を光軸方向に移動させることによっても、受光素子16の受光面に入射する光量を変化させることができる。
【0042】
なお、第3構成例においては、集光レンズ21の焦点位置と受光素子16の受光面の相対的な位置を変化させられればよく、必ずしも集光レンズ21を移動させる必要はない。例えば、集光レンズ21の位置を固定し、受光素子16を光軸方向に移動させるものであってもよい。あるいは、集光レンズ21及び受光素子16の位置を固定し、集光レンズ21と受光素子16の間にプリズムなどの光学素子を挿入させるものであってもよい。あるいは、光路中に平面又は曲面ミラーを設け、ミラーを回転させることによって受光素子16に入射する光量を調節してもよい。あるいは、集光レンズやプリズムの屈折率を変化させたり、集光レンズや曲面ミラーの曲率を変化させることによって受光素子16に入射する光量を調節させたりしてもよい。さらに、これらの構成を組み合わせてもよい。
【0043】
ところで、投光部11がレーザ光を出力しうる状態にないとき、すなわち距離測定装置1が測定態勢にないときでも、受光部12の受光素子16には、保護窓15を通して、常時自然光などが入射し、受光素子16の受光面において光電変換が行われ、受光素子16の劣化が進行している。特に晴天などの測定条件がよいときには、受光素子16に入射する自然光の光量も多く、劣化の進行が速くなる。そこで、投光部11がレーザ光を出力しうる状態にないときには、光量調節機構17は、受光素子に入射する光量が最小となる状態をとることが好ましい。例えば、図2に示す光量調節機構17の第1構成例では、電源オフのときにNDフィルタ22が集光レンズ21の光軸上に位置し、目標物2間での距離を測定するときにのみ、必要に応じて、光軸上からNDフィルタ22を待避させるように、駆動機構を動作させればよい。また、図3(a)及び(b)に示す光量調節機構17の第2構成例では、電源オフのときに、液晶素子の透過率又は反射率が最小になるような液晶を用いればよい。さらに、図4に示す光量調節機構17の第3構成例では、電源オフのときに、すなわち初期位置において、集光レンズ21の焦点位置が受光素子16の受光面から離れているように設定すればよい。
【0044】
なお、本発明に係る距離測定装置は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、その発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、様々な変形が可能である。上記実施形態では、目標物として、ミラーなどを例示したが、それらに限定されるものではなく、ガラスビーズ、コーナーキューブ、プリズムなどの再起反射素子などを用いてもよい。また、目標物の表面は必ずしも平面である必要はなく、球面などの曲面であってもよい。
【0045】
また、投光部11、受光部12及び演算部13は、必ずしも同一の筐体14内に設けられている必要はなく、それぞれ別の筐体に設けられ、異なった位置に設置されていてもよい。あるいは、投光部11、受光部12及び演算部13のうちの2つが他の1つと別の筐体に設けられていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係る距離測定装置のブロック構成を示す図。
【図2】(a)は上記距離測定装置における受光部、特に光量調節機構の第1構成例を示す図、(b)はその変形例を示す図。
【図3】(a)は上記光量調節機構の第2構成例を示す図、(b)はその変形例を示す図。
【図4】上記光量調節機構の第2構成例における液晶素子の取り付け方向を説明する図。
【図5】上記光量調節機構の第3構成例を示す図。
【図6】(a)〜(c)は、それぞれ集光レンズと受光素子の相対的な位置の変化と受光素子に入射する光束の関係を示す図。
【符号の説明】
【0047】
1 距離測定装置
2 目標物
11 投光部
12 受光部
13 演算部
14 筐体
15 保護窓
16 受光素子
17 光量調節機構(光量調節手段)
21 集光レンズ
22 NDフィルタ
31、32 液晶素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物に向けてレーザ光を出力する投光部と、前記目標物からの反射光を受光する受光部と、前記投光部によるレーザ光の出力時刻から前記受光部による反射光の受光時刻までの時間差に基づいて、前記目標物までの距離を演算する演算部とを備え、
前記投光部は、前記受光部における受光素子の最大受光可能光量以上の光量のレーザ光を出力し、
前記受光部は、前記受光素子に入射する光量が前記最大受光可能光量以下となるように入射光量を調節する光量調節手段を備えたことを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
前記光量調節手段は、光の透過量を減少させる光量減少素子を含むことを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項3】
前記光量減少素子は、液晶素子であり、液晶素子の濃淡調整を行うことにより透過光量を調節することを特徴とする請求項2に記載の距離測定装置。
【請求項4】
前記液晶素子は、その入射面側の偏光フィルタの偏光方向と前記目標物からの反射光の偏光方向とが一致するように取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の距離測定装置。
【請求項5】
前記光量調節手段は、前記投光部がレーザ光を出力しうる状態にないときには、受光素子に入射する光量が最小となる状態をとることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の距離測定装置。
【請求項6】
前記光量調節手段は、集光レンズ及び前記受光素子に対する前記集光レンズの相対的な位置を変化させる変位機構で構成され、前記受光素子の受光面に対する前記集光レンズの焦点位置をその光軸方向に移動させることによって前記受光素子に入射する光量を調節することを特徴とする請求項1に記載の距離測定装置。
【請求項7】
過去の測定時において前記受光素子に入射した光量値又は前記受光素子からの出力信号のレベル値を記憶する光量値記憶手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置。
【請求項8】
前回の測定してからの経過時間が所定時間よりも短いときは、前記光量調節手段による光量調節を停止することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置。
【請求項9】
前記目標物は、被測定箇所に向けられた反射体であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の距離測定装置。
【請求項10】
前記光量調節手段による光量調節を行わず、前記目標物からの反射光がその光量を減衰されずに前記受光素子に入射したときでも、入射光量が前記受光素子の最小受光可能光量に満たないときは、入射光量が前記受光素子の最小受光可能光量以上となるように、前記投光部は、出力されるレーザ光の強度を高くすることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか一項に記載の距離測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−107212(P2010−107212A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276512(P2008−276512)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】