説明

距離測定装置

【課題】近距離に存在するターゲットに対する距離測定精度を向上し、誤検出を防止する。
【解決手段】ターゲット200で反射された反射波が受信されると、振幅・位相検出部23で反射波を信号処理し、振幅情報Ampと位相情報θとを距離測定演算部24に出力する。距離測定演算部24は、反射波の振幅信号のピーク位置から時間情報及び位相情報を求め、基準情報として保持されている送信波の時間情報との時間差を求める。更に、この時間差を位相情報で補正し、補正した時間差からターゲット200までの距離Rを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信した送信波と受信した反射波との時間情報に基づいてターゲットまでの距離を測定する距離測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なパルスレーダは、図22に示すように、送信したパルス信号の送信が完了してから、ターゲットで反射して受信されるまでの往復伝播時間を用いて距離を算出することを基本原理としている。物体との距離Rは、パルス波が発信され、受信されるまでの時間をΔTとすると、以下の(1)式に示す基本式を用いて求めることができる。
R=c・ΔT/2 …(1)
但し、c:光速度
【0003】
そのため、一般的なパルスレーダ装置では、パルス送信が完了しないうちにターゲットからの反射パルスが戻ってくる間、または距離領域に存在するターゲットすなわち送信するパルス幅Tより往復伝播時間ΔTが短い領域に存在するターゲットを検知することは原理的に不可能であった。これは、一般的なパルスレーダ装置が送信パルスと反射パルスとが重畳しないことを前提としていたためである。
【0004】
そこで、送信するパルス幅より往復伝播時間が短い領域に存在するターゲットを検知する技術が提案されている。例えば特許文献1(特開2000−241535号公報)には、送信信号の立ち上がり時間と受信信号の立ち上がり時間との時間差により、ターゲットまでの距離を計測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−241535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術では、図23に示すように緩やかなエンベロープを持ったパルス波(基本周波数f、波長λ=c/f)の場合、近距離に存在するターゲットまでの距離を正確に計測することは困難である。
【0007】
すなわち、図23に示すようなパルス波では、パルス幅より往復伝播時間が短い領域に存在するターゲットを検知しようとすると、反射波の大きさやバックグラウンドノイズ等の影響により、反射波の最初の波形の立ち上がりを検出できず、後の波形の立ち上がりを検出してしまう場合がある。このため、立ち上がり時間の検出に、基本周波数の半周期(λ/2)以上のずれが生じてターゲットの距離測定に大きな誤差が生じ、ターゲットを後検出する虞がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、送信するパルス幅より往復伝播時間が短い領域に存在するターゲットに対して、距離測定精度を向上することのできる距離測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明による距離測定装置は、所定の基本周波数の搬送波を振幅変調した送信波を送信する送信部と、上記送信波がターゲットに当たって反射された反射波を受信して信号処理し、エンベロープの振幅情報と位相情報とを検出する振幅・位相検出部と、上記振幅情報から算出される上記送信波及び上記反射波の時間情報を上記位相情報に基づいて補正し、補正した時間情報から上記ターゲットまでの距離を演算する距離測定演算部ととを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、送信するパルス幅より往復伝播時間が短い領域に存在するターゲットに対する距離測定精度を向上することができ、誤検出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の第1形態に係り、距離測定装置の構成を示すブロック図
【図2】同上、自動車へのバックソナーとしての搭載例を示す説明図
【図3】同上、送信波が物体にあたり反射波として戻る様子を示す説明図
【図4】同上、送信波と反射波の波形を示す説明図
【図5】同上、送信波と反射波の波形のエンベロープ及び位相を示す説明図
【図6】同上、ターゲット距離毎の反射波の測定結果を示す説明図
【図7】同上、図6のデータを絶対値で表した説明図
【図8】同上、図6のデータから抽出したエンベロープを示す説明図
【図9】同上、図6のデータから抽出した位相情報を示す説明図
【図10】同上、移動体に搭載するパルスレーダ装置の基本モデルを示す説明図
【図11】同上、送信アンテナ及び受信アンテナの位置とターゲット距離との関係を示す説明図
【図12】同上、距離と時間差と位相との関係を示すグラフ
【図13】同上、受信回路で計測した反射波の出力波形を示す説明図
【図14】同上、反射波からの振幅情報と位相情報を示す説明図
【図15】同上、時間差と距離と位相の関係をテーブル化した例を示す説明図
【図16】同上、位相差と時間補正との関係をテーブル化した例を示す説明図
【図17】同上、距離測定アルゴリズムの処理結果を示す説明図
【図18】本発明の実施の第2形態に係り、距離測定装置の構成を示すブロック図
【図19】同上、自動車へのバックソナーとしての搭載例を示す説明図
【図20】本発明の実施の第3形態に係り、送信波と基準波と反射波との関係を示す説明図
【図21】本発明の実施の第4形態に係り、距離レンジによる位相補正の制限を示す説明図
【図22】パルスレーダの基本原理を示す説明図
【図23】緩やかなエンベロープをもったパルス波形を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
[本発明の実施の第1形態]
先ず、図1〜図15に示す本発明の実施の第1形態について説明する。図1において、符号1は距離測定装置であり、比較的近距離に存在する物体との距離を測定する至近距離レーダとして用いられる。この距離測定装置1は、例えば、非接触型スイッチ、セキュリティセンサ、障害物感知センサ等として適用される。図2は、自動車100等の移動体にバックソナーとして搭載される例を示し、比較的近距離に存在する物体(ターゲット)200との距離Rを測定する。
【0014】
本実施の形態においては、距離測定装置1は、送信・受信アンテナ分離型のパルスレーダ装置である。距離測定装置1は、パルス波を発生し、送信アンテナ2から送信する送信部10と、ターゲット200で反射された反射波を受信アンテナ3で受信して信号処理を行い、ターゲット200との距離Rを出力する受信部20とを備えて構成されている。
【0015】
送信部10は、パルス信号を発生するパルス発生回路11、パルス発生回路11から出力されるパルス信号を所定の周波数帯域に制限するバンドパスフィルタ(BPF)12、及び、BPF12を通過したパルス信号を所定の出力レベルに増幅して送信アンテナ2から送信するアンプ13を備えている。
【0016】
以下に説明するように、送信アンテナ2から送信される送信波は、基本周波数fの搬送波に山状の振幅変調をかけた信号である。この信号は、比較的簡単なパルス発生回路11とBPF12とを用いて発生することが可能であり、回路構成を単純化してコストを押さえることができる。
【0017】
受信部20は、受信アンテナ3で受信したターゲット200からの反射波を所定の入力レベルに増幅するアンプ21、アンプ21からの信号をA/D変換して量子化する受信回路22、受信回路22で量子化された信号を処理して振幅情報と位相情報と取り出す振幅・位相検出部23、及び、振幅情報と位相情報とに基づいてターゲット200との距離Rを演算し、距離測定結果として出力する距離測定演算部24を備えている。振幅・位相検出部23及び距離測定演算部24は、マイクロプロセッサによる処理機能を有する機能部である。
【0018】
尚、受信アンテナ3で受信される反射波は、送信アンテナ2からの回折波がターゲットからの反射波と重なる場合、このターゲットからの反射波と回折波成分の差を反射波としたものも含む。
【0019】
以下、振幅・位相検出部23及び距離測定演算部24における距離測定のアルゴリズムについて説明する。
【0020】
この距離測定のアルゴリズムは、パルスレーダの出力波形が山状のエンベロープに沿った振幅変動を伴う一定の基本周波数の連続波形(キャリア波形)となっていることに着目するものである。すなわち、パルスレーダのパルス波は、或る周期を持った基本周波数fの波が山状のエンベロープにそって緩やかに立ち上がり、ピーク地点で最大となり、そこから緩やかに減少する(図23参照)。
【0021】
従って、ここで定義するパルス波(送信部10から送信アンテナ2を介して出力する送信波)は、基本周波数fの信号を搬送波とし、搬送波に山状の振幅変調をかけたものとする。このようなパルス波は、エンベロープ(変調信号)をX(t)、搬送波fからの位相シフトをθとすると、下記の(2)式で表現することができる。
X(t)・sin(2πft+θ) …(2)
【0022】
次に、送信波(パルス波)が物体にあたり、反射波として戻る場合について考える。図3に示すように、送信波が自由空間から物体Sに衝突するとき、反射波の位相はπだけ変化する。これは、密度が疎(自由空間)から密(物体S)の境界に入る形で反射(固定端反射)が起きるためである。
【0023】
このときの送信波及び反射波の振幅と時間との関係は、図4に示される。上述の(2)式を用い、送信波、反射波は、以下の式(3),(4)式で表すことができる。
Xb(t)・sin(2πft+θb) …(3)
Xp(t)・sin(2πft+θp) …(4)
但し、Xb(t):送信波のエンベロープ
Xp(t):反射波のエンベロープ
θb:送信波の搬送波からの位相シフト
θp:反射波の搬送波からの位相シフト
【0024】
図4で送信波と反射波とを比較すると、波形が反転している。これは、反射により位相がπ変化したためである。エンベロープは、図5に示すように、正・負対称であるため、反射したことによって位相がπ変化した影響を受けない。
【0025】
よって送信波と反射波とのそれぞれのエンベロープのピーク位置(図5中に▼印で示す位置)を特徴点として時間情報Tb,Tpを取り出し、TpとTbとの時間差ΔTを、距離測定の基本式である(1)式に適用することで、物体との距離Rを求めることができる。ここに、時間差ΔTによる距離Rの演算式を再度記載する。
R=c・ΔT/2 …(1)
但し、c:光速度
【0026】
尚、本実施の形態においては、送信波を距離計測の基準としており、時間情報Tb,Tpは、基準波(送信波)の立ち上がりを原点とするピーク位置までの時間である。
【0027】
以上が距離測定の基本アルゴリズムである。この基本アルゴリズムによる距離測定では、反射波の波形の立ち上がりを検出して距離測定を行う従来の技術と比較して、立ち上がりの誤検出によるずれが生じることがなく、距離精度を向上することができる。本実施の形態においては、更に、反射波の位相情報を利用して時間差ΔTを補正するアルゴリズムを加え、基本アルゴリズムによる距離分解能を更に向上させる。
【0028】
反射波の位相シフト分θpは、送信波の位相シフトθbに対して、電波経路長Lを用いて以下の(5)式で表すことができる。電波経路長Lは、電波が送信されてターゲットにあたり、反射されて受信されるまでの経路の距離である。尚、以下では、特記する以外の位相は、−π<θ<πの範囲とする。
θp=2π・L/λ+θb+π (5)
【0029】
ここで、電波経路長Lとターゲットまでの距離Rとは、L=2・Rの関係にあるものとする(この電波経路長Lと距離Rとの関係については後述する)。また、波長λは、λ=c/fである。従って、(5)式は、以下の(6)式のように距離Rを含む式に変形することができる。この(6)式から、距離Rは、以下の(7)式で表すことができる。
θp=2π・2・R/λ+θb+π …(6)
R=(λ/2)・(θp−θb−π)/2π (7)
【0030】
(7)式は、反射波と送信波との位相差から物体との距離Rの位置が、波長λ/2の間隔で無数にでてくることを意味している。図6に、或るターゲット距離Raに対して、Ra,Ra+d,Ra+2dというように距離dずつ遠ざけながら反射波を実際に計測した結果を示す。距離dは波長λの約1/10である。図7は、図6のデータを絶対値で表したものである。
【0031】
図6と図7からは、距離が遠ざかるに従い、パルス波のエンベロープ及び位相が時系列で規則的に遅れていくことがわかる。従って、位相から直接的に距離を求めることはできないが、送信波と反射波との時間差、送信波と反射波との搬送波の位相差の二つの情報を距離測定に利用することで、距離分解能を向上することが可能となる。尚、以下、位相については、特記する以外は位相シフトを示すものとする。
【0032】
搬送波を持つ信号波からエンベロープ(振幅情報)と位相(位相情報)を取り出すには、波形の絶対値のフィルタリング、遅延やカウンタよる検波、直交検波等の各種方法を用いることができる。ここでは、代表例として直交検波方式を用いて、信号波からI成分(In-Phase;同相成分)とQ成分(Quadrature;直交成分)とを検出し、それらの関係から振幅成分と位相成分を求める。
【0033】
図8に、図7のデータから直交検波方式によりエンベロープを抽出した結果を示す。各ターゲット距離毎の振幅のピーク位置の時間(ピーク位置時間;▼印で示す検出位置での時間)は、距離が遠ざかるに従って後方にずれていかなければならないはずであるが、実際はピーク位置が時系列に並んでいないことが分かる。
【0034】
これは、信号波からエンベロープを取り出すときに、エンベロープのピーク位置がまわりの波形やノイズ等の影響を受けて誤差が出るためである。ピーク位置時間の位置精度は、ほぼ±λ/(2・c)以下となり、(1)式から距離精度に換算すると±λ/4以下となる。
【0035】
図9に、図7のデータから直交検波方式により位相を抽出した結果を示す。位相は時系列に従ってほぼ等間隔で並んでおり、時間方向でほぼ一定の安定したデータが取得されていることが分かる。
【0036】
このことは、位相のほうがエンベロープのピーク位置より誤差が小さく、位置精度が良いことを示している。これは、エンベロープによるピーク位置検出が点で現象を捉えているのに対し、位相は現象を波形全体で捉えることにより、ノイズ等の影響を受けにくいためである。
【0037】
次に、時間差ΔTで求めた距離を位相で補正する方法について説明する。この位相による距離の補正は、同じ反射波の位相を、時間情報と位相情報とに基づいてそれぞれ求め、両者のずれを用いて行われる。時間情報から求めた反射波の位相をθp’、位相情報から直接求めた反射波の位相をθpとする。
【0038】
先ず、時間差ΔTから位相θp’を算出する。この位相θp’は、(6)式に基づいて、以下の(8)式で求めることができる。
θp’=2π・{c・ΔT/λ}+θb+π …(8)
【0039】
次に、位相情報から直接的に位相θpを求める。この位相θpは、振幅情報のピーク位置時間Tp(図9の▼印で示す検出位置での時間)における位相をθpとして求めるものである。
【0040】
続いて、2つの位相θp,θp’の位相差Δθを求める。この位相差Δθは、反射波の位相のずれを補正する値であると共に、位相差Δθから時間補正値を求めることで、測定距離を補正する値とすることができる。位相差Δθを距離測定値に反映するため、(6),(8)式を時間補正値aTに置き換えると、以下の(9)式で表すことができる。
aT=Δθ・λ/(2π・c) …(9)
【0041】
この時間補正値aTを利用して、以下の(10)式に示すように、時間差ΔTを補正する。そして、補正した時間差ΔT’を(1)式に適用して距離Rを計算する。
ΔT’=ΔT+aT=ΔT+λ・Δθ/(2π・c) …(10)
【0042】
以上のアルゴリズムを基本アルゴリズムに付加して距離を演算することにより、距離精度をより向上させることができる。しかしながら、本実施の形態のように、送信アンテナ2と受信アンテナ3とが分離している送信・受信アンテナ分離型の装置では、送信アンテナ2と受信アンテナ3との間の距離の影響についても考慮する必要がある。
【0043】
このため、本実施の形態においては、更に、送信・受信アンテナ間距離を演算パラメータの一つとして加え、送信・受信アンテナ間距離の影響を考慮した処理を追加する。尚、送信アンテナと受信アンテナが一体である場合には、以下の処理は必要ない。
【0044】
図10に示すように、移動体100’に搭載するパルスレーダ装置としての基本モデルを想定する。この基本モデルにおいて、送信アンテナ2と受信アンテナ3との間の距離をAとするとき、送信・受信アンテナ間距離A、ターゲット距離R、電波経路長Lの関係は、以下の(11)式に示すように、幾何学的に求めることができる。
L=2・(R2+0.5・A2)0.5 …(11)
【0045】
尚、ここでは、ターゲット距離Rは、単純化するために送信アンテナ2からターゲット200までの距離と、ターゲット200から受信アンテナ3までの距離が同じであるとする。また、ターゲット距離Rとは、電波経路長Lが同じもの、すなわち図11に示すように、送信アンテナ2と受信アンテナ3を2点の焦点とした楕円の軌跡上にある距離であるとする。
【0046】
また、送信アンテナ2から放出された電波がターゲット200に当たり、ターゲット200で反射して受信アンテナ3に戻る時間ΔTと電波経路長Lとの関係は、以下の(12)式で示される。
L=c・ΔT …(12)
【0047】
従って、ターゲットまでの距離Rは、(11),(12)式から以下の(13)式で表すことができる。
R=0.5・(L2−A2)0.5
=0.5・{(c・ΔT)2−A2}0.5 …(13)
【0048】
このとき、反射波の位相θrと時間差ΔTと送信波の位相θbとの関係は、以下の(14)式に示す関係となる。尚、ここでは、便宜上、反射波の位相をθrと記載しているが、これは、(8)式で算出される位相θp’と同義である。
θr=2π・L/λ+θb+π
=2π・c・ΔT/λ+θb+π
=2π・{2・(R2+0.5・A2)0.5}/λ+θb+π …(14)
【0049】
(11),(12),(14)式を元に、距離Rと時間差ΔT及び位相θrとの関係を図示すると、図12に示すようになる(但し、θb=−πとする)。図12からは、至近距離において送信・受信アンテナ間距離の影響が大きく、非線形になっていることがわかる。従って、近距離の非線形の領域では、(1)式に代えて(13)式を用い、(13)式に補正後の時間差ΔT’を適用して距離を算出することにより、送信・受信アンテナ間距離の影響を低減し、距離精度を向上することができる。
【0050】
以上のように、本実施の形態における距離測定装置1は、送信・受信アンテナ間距離Aをパラメータとして入れた(11)〜(14)式を基にして、基準波と反射波のエンベロープのピーク位置による時間差ΔTを算出し、誤差±λ/4以内のターゲット距離を把握する。更に、反射波の位相情報を利用して、エンベロープのピーク位置から求めた時間差ΔTを補正し、±λ/4以下の位置を特定することで、距離精度を向上する。
【0051】
実際に距離測定を行う場合には、計測の基準情報として、送信波のエンベロープのピーク位置の時間Tb及び位相θbを保持する必要がある。このときの位相の基準は、基本周波数fの正弦波である(距離測定処理も同様)。
【0052】
この計測の基準情報である時間Tb及び位相θbは、送信波を受信回路22へ直接入力し、振幅・位相検出部23、距離測定演算部24にて算出・保持する。或いは、測定結果や理論値から時間Tb及び位相θbを予め求めておき、振幅・位相検出部23、距離測定演算部24で保有しておくようにしても良い。
【0053】
次に、反射波が受信され、受信回路22を介して反射波が振幅・位相検出部23に入力されると、振幅・位相検出部23は反射波を信号処理し、振幅情報Ampと位相情報θとを距離測定演算部24に出力する。図13は、受信回路22で計測した反射波を示す。図14は、振幅・位相検出部23にて反射波を処理し、振幅情報と位相情報を出力した結果を示す。
【0054】
振幅・位相検出部23から反射波の振幅情報Amp及び位相情報θは、距離測定演算部24で処理される。距離測定演算部24は、以下に示す(1)〜(6)の処理を順次実施する。
(1)反射波の振幅信号のピーク位置から時間Tp及び位相θpを求める。
(2)反射波の時間Tpと基準情報として保持されている送信波の時間Tbとから時間差ΔTを求める。
(3)時間差ΔTを用いて、(8)式より位相θp’を求める。
(4)位相θp,θrから位相差Δθを求める。
(5)位相差Δθから(9)式により時間補正値aTを算出する。そして、この時間補正値aTを用いて(10)式により時間差ΔTを補正し、位相差Δθを反映した時間差ΔT’を求める。
(6)補正した時間差ΔT’を(13)式に適用して距離Rを算出する。
【0055】
以上の処理は、FFT(Fast Fourie Transform;高速フーリエ変換)等の複雑な信号処理を必要とせず、簡単な計算式を元にした信号処理アルゴリズムとして構築できる。従って、マイクロプロセッサレベルでの信号処理が可能であり、オンラインの演算処理で距離を算出することが可能である。
【0056】
この場合、主要な演算処理は、テーブル参照による処理に置き換えても良い。例えば、(13),(14)式を用いて、図12に示す時間差ΔTと距離Rと位相θrとの関係を予め計算しておき、図15に示すようなテーブルを作成しておく。同様に、(9)式を用いて位相差Δθと時間補正値aTとの関係を計算しておき、図16に示すようなテーブルを作成しておく。
【0057】
これらのテーブルは、オフラインでの計算、又は距離測定演算部24での距離測定前準備の計算で作成し、距離測定演算部24に格納しておく。これにより、距離測定処理時に、単位、二乗、平方根等を含んだ複雑な計算処理をテーブル参照に置き換えることができ、演算負荷を減らすことが可能になる。
【0058】
図17は、以上の処理による距離測定結果を示している。図17中の一点鎖線の距離測定データは、振幅情報のみによる距離(時間差ΔTで算出される距離)を示している。また、図17中の実線の距離測定データは、振幅情報に位相補正を加えた距離(時間補正値aTを用いて算出される距離)を示している。
【0059】
前述したように、振幅情報のみによる距離測定では、±λ/4以下の距離精度を得ることができる。しかしながら、至近距離の領域になる程、実測値に対して破線で示す誤差0ラインからの離間が目立つようになる。これに対して、振幅情報に位相補正を加えた距離測定結果は、ほぼ全域で良好に誤差0ラインに接近し、誤差が大幅に小さくなっていることがわかる。
【0060】
以上のように、本実施の形態においては、送信波と反射波それぞれのエンベロープのピーク位置を特徴点として時間情報を取り出している。これにより、物体の有効反射面積による反射波の振幅の大小による計測値への影響を低減し、至近距離に存在するターゲットに対する距離測定精度を向上することができる。更に、時間情報に対して位相情報による補正を加えることで、距離測定精度を大きく向上することができる。
【0061】
また、距離測定演算の計算式に、予め送・受信アンテナ間距離をパラメータとして取り入れているので、アンテナ間の距離の大小に拘わらず、ターゲットまでの距離を正確に求めることができる。
【0062】
[本発明の実施の第2形態]
次に、本発明の実施の第2形態について説明する。第2形態は、第1形態に対して、送信アンテナと受信アンテナとを一体とする例である。
【0063】
図18に示すように、第2形態の距離測定装置1Aは、ターゲットへパルス波を送信すると共にターゲットからの反射波を受信する送・受信アンテナ2Aを備えている。この送・受信アンテナ2Aは、空中線共用器30を介して、送信部10のアンプ13の出力端に接続されると共に、受信部20のアンプ21の入力端に接続されている。その他の構成は、第1形態と同様である。
【0064】
図19は、距離測定装置1Aを自動車100A等の移動体にバックソナーとして搭載した例を示している。このバックソナーとしての距離測定装置1Aは、近距離に存在するターゲット200に、送・受信アンテナ2Aからパルス波を送信し、ターゲット200で反射して戻ってきた反射波を同じ送・受信アンテナ2Aで受信して、距離Rを測定する。
【0065】
距離測定装置1Aにおける距離測定は、送信アンテナと受信アンテナが一体であるため、第1形態の(11)式及び(13)式について、送信・受信アンテナ間距離Aを、A=0として距離計算を行う。すなわち、第2形態では、エンベロープのピーク位置の時間情報から距離を算出する基本アルゴリズムに、反射波の位相による補正を加えたアルゴリズムで距離Rを算出する。
【0066】
第2形態では、送信アンテナと受信アンテナとが一体であるため、送信・受信アンテナ間距離の影響を補正するための演算が必要ない。このため、第2形態では、第1形態に対して演算負荷を低減しつつ、至近距離に存在するターゲットまでの距離を正確に測定することができる。
【0067】
[本発明の実施の第3形態]
次に、本発明の実施の第3形態について説明する。第3形態は、第1形態に対して、計測の基準となる基準波を、送信波に準ずるものとする例である。具体的には、図1に示す距離測定装置1の振幅・位相検出部23及び距離測定演算部24における処理を若干変更し、送信波を基準波とする代わりに、図20に示すように、ターゲット距離0の反射波を基準波とする。
【0068】
ターゲット距離が0の場合、第1形態で説明した(13)式より、反射波は送信されてから電波経路長Lを距離A(送信・受信アンテナ間距離)だけ進んできたとみなすことができる。よって、(12)式は、以下の(15)式のように表すことができる。
L=c・ΔT+A …(15)
【0069】
このことから、位相変化分のπが不要になり、(13)式、(14)式は、以下の(16),(17)式のようになる。
R=0.5・(L2−A2)0.5
=0.5・{(c・ΔT+A)2−A2}0.5 …(16)
θp’=2π・(c・ΔT)/λ+θb
=2π・(L−A)/λ+θb …(17)
【0070】
これにより、送信波に準ずる信号を基準波とする場合には、その基準波が伝達する時間又は経路長を電波経路長Lに反映することにより、第1形態のアルゴリズムを適用してターゲットまでの距離Rを算出することができる。
【0071】
第3形態では、距離測定を行う場合、測定前準備として、以下の(1)〜(3)の処理を行う。
(1)ターゲットなしの受信信号を基準波として記録保持する。
(2)基準波を処理して振幅・位相情報を取り出す。
(3)送信信号のピークになる時間Tb及び位相θbを算出し、以後の計測の基準情報として保持する。このときの位相基準は、基本周波数fの正弦波である(距離測定処理も同様)。基準情報の取得は、受信した基準波を信号処理してピーク時の位相情報を算出・保持する。或いは、測定結果や理論値から時間Tb及び位相θbを予め求めておき、これらを基準情報として保持しておくようにしても良い。
【0072】
次に、距離測定処理として、以下の(4)〜(9)の処理を順次実施する。
(4)反射波を振幅・位相検出部23にて信号処理し、振幅情報Ampと位相情報θを出力する。
(5)距離測定演算部24で反射波の振幅信号のピーク値からピーク位置時間Tp及び位相θpを求める。
(5)反射波のピーク位置時間Tpと基準波のピーク位置時間Tbとの差から時間差ΔTを求める。
(6)時間差ΔTを用いて(17)式から位相θp’を求める。
(7)位相θp,θp’から位相差Δθを求める。
(8)位相差Δθから(9)式により時間補正値aTを算出し、この時間補正値aTを用いて(10)式により時間差ΔTを補正する。
(9)補正した時間差ΔT’を用いて、(16)式により距離Rを算出する。
【0073】
以上の処理は、第1形態と同様、オンラインでの演算処理としても良く、テーブル参照を用いた処理としても良い。
【0074】
第3形態では、距離計測の基準を、送信波と同期した基準波とする場合であっても、基準波が伝達する時間又は経路長を考慮することで、第1形態と同様、至近距離に存在するターゲットまでの距離を精度良く測定することができる。
【0075】
[本発明の実施の第4形態]
次に、本発明の実施の第4形態について説明する。第4形態は、距離測定処理の際に位相による補正に制限を加える例である。
【0076】
すなわち、第1形態では、距離計測精度をより向上するため、位相差θで時間差ΔTを補正する位相補正を行っている。これに対して、第4形態では、位相差Δθの絶対値が補正制限値Δθm以上であるときには、位相補正を実施しない条件を追加する。このことにより、位相補正による過補正がおきることを防ぐことができる。
【0077】
また、図21に示すように、時間差ΔTから割り出される距離が下限値Rdと上限値Ruとの間の距離レンジ内にない場合は、位相補正を行なわないことを条件に追加しても良い。図21においては、下限値Rdと上限値Ruとの間の距離レンジでは、振幅情報に位相補正を加えた時間差ΔT’から算出したデータ(図21中に△印で示すデータ)が距離Rとして決定される。上限値Ruを超えた距離レンジでは、振幅情報のみによる時間差ΔTから算出したデータ(図21中に□印で示すデータ)が距離Rとして決定される。
【0078】
これにより、振幅情報のみでは誤差が大きい距離レンジでの計測時には、位相補正を実施して距離精度を高めることができる。一方、振幅情報のみでも精度が十分な距離レンジでの計測時には、位相補正を制限することで、位相ずれによる過補正を防止することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 距離測定装置
2 送信アンテナ
3 受信アンテナ
10 送信部
20 受信部
23 振幅・位相検出部
24 距離測定演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基本周波数の搬送波を振幅変調した送信波を送信する送信部と、
上記送信波がターゲットに当たって反射された反射波を受信して信号処理し、エンベロープの振幅情報と位相情報とを検出する振幅・位相検出部と、
上記振幅情報から算出される上記送信波及び上記反射波の時間情報を上記位相情報に基づいて補正し、補正した時間情報から上記ターゲットまでの距離を演算する距離測定演算部と
とを備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
上記距離測定演算部は、上記反射波の振幅情報からエンベロープのピーク位置の時間情報と位相情報とを抽出することを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項3】
上記時間情報に基づく距離演算に、送信アンテナと受信アンテナとの間の距離をパラメータとして導入することを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項4】
上記振幅情報及び上記位相情報を、上記送信波又は上記送信波に準じる受信波を基準として検出することを特徴とする請求項1記載の距離演算装置。
【請求項5】
上記時間情報の補正を、上記位相情報が設定値以上のときには実施しないことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。
【請求項6】
上記時間情報の補正を、設定距離レンジ外では実施しないことを特徴とする請求項1記載の距離測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2010−203789(P2010−203789A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46545(P2009−46545)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】