説明

車両のアイドルストップ制御装置

【課題】特に新たなセンサ等を設けることなく、路面の冠水を早期に精度良く検出し、アイドルストップ状態におけるエンジン、排気系への水の侵入を未然に確実に防止する。
【解決手段】アイドルストップ実行条件が成立した場合には、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、前方環境認識装置11で走行路の白線が認識され、且つ、路面がウェット路であることが認識され、且つ、ワイパーが作動されている場合は、路面が冠水していると判断してアイドルストップの実行を禁止させる。また、アイドルストップによりエンジンを自動停止させている際に、エンジンの再始動条件が成立した場合は、エンジン1を再始動するが、たとえ、エンジンの再始動条件が成立していない場合であっても、上述の路面が冠水していることが判定された場合は、エンジン1を再始動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定しておいた運転条件が成立している場合にエンジンのアイドル運転を停止してエンジンを自動停止させるアイドルストップ機能を備えた車両のアイドルストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、燃費の低減や、排気ガスの低減を目的として、信号待ちや、電車通過待ち、人待ち等をしている際の車両停止時等のエンジンの作動が不要の時には自動的にエンジンを停止して、エンジンの作動が必要になった時には再びエンジンを始動するアイドルストップ機能についての様々な技術が種々提案され実用化されている。例えば、特開2005−69136号公報(以下、特許文献1)では、排気管の排気浄化装置に触媒の温度を検出する触媒温度センサを備え、排気口近傍に排気口の温度を検出する排気口温度センサを備え、触媒温度が所定温度以上である場合、或いは、排気口温度から触媒温度を減算して得た温度差が所定温度差以上である場合に、アイドルストップを禁止して、アイドル運転状態での目標エンジン回転数を所定回転数だけ増大させて、エンジンの排気系に車両外部から水が侵入することを防止するアイドルストップ制御装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−69136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1に開示されるアイドルストップ制御装置の技術では、あくまでも、水が侵入してきてから表出される状態を検出してアイドルストップの禁止やアイドル回転数の上昇を実行するようになっているため、水の侵入を、未然に確実に防止することができない虞がある。また、上述の特許文献1に開示されるアイドルストップ制御装置の技術では、水の侵入を判断するために、排気口温度と触媒温度の計測をすること、或いは、液面センサを設けて水の液面高さを計測することが開示され、水の侵入を判断するための、専用の新たなセンサを設けなければならず、センサ設置のための新たな設計的な対応が必要なばかりでなく、コストの上昇、重量の増加を招くという課題がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、特に新たなセンサ等を設けることなく、路面の冠水を早期に精度良く検出し、アイドルストップ状態におけるエンジン、排気系への水の侵入を未然に確実に防止することができる車両のアイドルストップ制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、カメラによる撮像画像を基に自車両の前方環境情報を取得する前方環境認識手段と、少なくとも上記前方環境認識手段で認識した前方環境情報に基づいて路面の冠水を検出する路面冠水検出手段と、予め設定しておいた運転条件が成立する場合にエンジンのアイドル運転を停止して上記エンジンを自動停止させるアイドルストップ実行手段と、上記路面冠水検出手段で路面の冠水を検出した場合に上記アイドルストップ実行手段に対して上記エンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ禁止手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による車両のアイドルストップ制御装置によれば、特に新たなセンサ等を設けることなく、路面の冠水を早期に精度良く検出し、アイドルストップ状態におけるエンジン、排気系への水の侵入を未然に確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態に係る、車両に搭載されるアイドルストップ制御装置の全体構成説明図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る、アイドルストップ制御プログラムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1はエンジンを示し、このエンジン1はスタータモータ2により始動され、これらエンジン1及びスタータモータ2はエンジン制御部3により制御される。
【0010】
エンジン制御部3はアイドルストップ制御部4からの信号が入力されて、この入力信号によってアイドルストップに係る、エンジン1の自動停止、及び、自動停止状態からの再始動を実行する。
【0011】
アイドルストップ制御部4には、ステレオカメラ11aによる撮像画像を基に自車両の前方環境情報(走行路の白線データ、前方走行路の路面状態(舗装路ウェット路面であるか否か)等の情報)を取得する前方環境認識手段としての前方環境認識装置11が接続されている。
【0012】
ステレオカメラ11aは、例えば、電荷結合素子(CCD)等の固体撮像素子を用いた左右1組のCCDカメラで構成されている。これら1組のCCDカメラは、ぞれぞれ車室内の天井前方に一定の間隔を持って取り付けられ、車外の対象を異なる視点からステレオ撮像し、撮像した画像情報を前方環境認識装置11に出力する。
【0013】
前方環境認識装置11は、例えば、ステレオカメラ11aで撮像した自車進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から三角測量の原理によって距離情報を生成し、例えば、以下のようにして白線データの取得を行う。白線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、前方環境認識装置11は、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の白線の位置を画像平面上で特定する。この白線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差dとに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、ステレオカメラ11aの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をx軸、車高方向をy軸、車長方向(距離方向)をz軸とする。このとき、x−z平面(y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車線を距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の白線を三次元の直線で近似し、これらを折れ線状に連結することによって表現される。
【0014】
また、前方環境認識装置11は、ステレオカメラ11aで撮像した画像情報を基に、例えば、本出願人が特開2001−43495号公報で詳述する方法で舗装路ウェット路面の検出を行う。具体的には、画像データに設定した画像データ監視領域の水平方向の輝度変化の状態(輝度エッジの個数)を求め、また、距離データに設定した距離データ監視領域の各データの高さ方向の座標値を求める。そして、まず、高さ方向の座標値が−0.4m以上0.3m以下の場合に白線、路面のわだち、砂利等のドライデータとして検出し、−0.4mより小さいデータはウェットデータ(舗装路ウェット路面)として検出する。尚、白線データの取得、及び、舗装路ウェット路面検出方法は、上述のものに限るものではなく、また、ステレオカメラ11aではなく単眼カメラ等を用いて検出する方法であっても良い。
【0015】
更に、アイドルストップ制御部4には、ワイパースイッチ12、車速センサ13、シフトレバー位置センサ14、ブレーキペダル踏み込み量センサ15、アクセルペダル踏み込み量センサ16等からの信号が入力される。
【0016】
そして、アイドルストップ制御部4は、通常、予め設定しておいた運転条件(エンジン自動停止条件:アイドルストップ実行条件)が成立した場合に、エンジン制御部3に信号を出力して、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、前方環境認識装置11で走行路の白線が認識され、且つ、路面がウェット路であることが認識され、且つ、ワイパーが作動されている場合に、路面が冠水していると判断してアイドルストップの実行を禁止させるようになっている。ここで、アイドルストップ実行条件とは、例えば、ブレーキペダルが踏み込まれ、アクセルペダルが踏まれておらず、シフトレバー位置が「P」、「N」、「D」、「3速」、「2速」、「1速」の何れかで、車速が略0であり、バッテリ容量が十分にある等の条件を全て満足する場合である。
【0017】
また、アイドルストップ制御部4は、アイドルストップによりエンジンを自動停止させている際、予め設定しておいたエンジンの再始動条件が成立した場合に、エンジン制御部3に信号を出力してエンジン1を再始動するが、たとえ、エンジンの再始動条件が成立していない場合であっても、上述の路面が冠水していることが判定された場合は、エンジン1を再始動させる。ここで、エンジンの再始動条件とは、例えば、上述のアイドルストップ実行条件が非成立となった場合である。
【0018】
このように、アイドルストップ制御部4は、路面冠水検出手段、アイドルストップ実行手段、アイドルストップ禁止手段としての機能を有している。
【0019】
次に、上述のアイドルストップ制御部4で実行されるアイドルストップ制御を、図2のフローチャートで説明する。
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要なパラメータ、すなわち、前方環境認識装置11からの前方環境情報(走行路の白線データ、前方走行路の路面状態(舗装路ウェット路面であるか否か)等の情報)、ワイパースイッチ12、車速センサ13、シフトレバー位置センサ14、ブレーキペダル踏み込み量センサ15、アクセルペダル踏み込み量センサ16等からの信号が読み込まれる。
【0020】
次に、S102に進み、アイドルストップによりエンジンが自動停止中か否か判定される。
【0021】
S102の判定の結果、エンジンが自動停止中ではないと判定された場合は、S103に進み、上述のエンジン自動停止条件(アイドルストップ実行条件)が成立しているか否か判定され、アイドルストップ実行条件が非成立の場合はそのままプログラムを抜け、アイドルストップ実行条件が成立している場合はS104に進む。
【0022】
そして、S104では白線が検出されているか否か判定され、白線が検出されていない場合は、S105に進み、前方走行路が舗装路ウェット路面か否か判定され、前方走行路が舗装路ウェット路面の場合は、S106に進み、ワイパーが作動されているか否か判定される。そして、ワイパーが作動されている場合は、前方走行路は冠水状態と判断して、S107に進んで、アイドルストップによるエンジンの自動停止を禁止させてプログラムを抜ける。
【0023】
また、S104、S105、S106の判定の結果、白線が検出されている(S104で「YES」の場合)、前方走行路が舗装路ウェット路面ではない(S105で「NO」の場合)、ワイパーが非作動(S106で「NO」の場合)の何れか一つでも該当する場合は、前方走行路は冠水状態ではないと判定し、S108に進んで、エンジン制御部3に信号を出力し、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせてプログラムを抜ける。
【0024】
一方、前述のS102で、エンジンが自動停止中と判定された場合は、S109に進み、エンジンの再始動条件が成立しているか否か判定し、エンジンの再始動条件が成立している場合は、S110に進み、エンジン制御部3に信号を出力してエンジン1を再始動させてプログラムを抜ける。また、エンジンの再始動条件が非成立の場合は、S111に進み、白線が検出されているか否か判定して、白線が検出されていない場合は、S112に進み、前方走行路が舗装路ウェット路面か否か判定され、前方走行路が舗装路ウェット路面の場合は、S113に進み、ワイパーが作動されているか否か判定される。そして、ワイパーが作動されている場合は、前方走行路は冠水状態と判断して、S110に進んで、エンジン制御部3に信号を出力してエンジン1を再始動させてプログラムを抜ける。
【0025】
また、S111、S112、S113の判定の結果、白線が検出されている(S111で「YES」の場合)、前方走行路が舗装路ウェット路面ではない(S112で「NO」の場合)、ワイパーが非作動(S113で「NO」の場合)の何れか一つでも該当する場合は、前方走行路は冠水状態ではないと判定し、そのままプログラムを抜ける。
【0026】
このように、本発明の実施の形態によれば、アイドルストップ実行条件が成立した場合には、エンジン1のアイドル運転を停止してエンジン1を自動停止させるアイドルストップを行わせるが、この際、前方環境認識装置11で走行路の白線が認識され、且つ、路面がウェット路であることが認識され、且つ、ワイパーが作動されている場合は、路面が冠水していると判断してアイドルストップの実行を禁止させる。また、アイドルストップによりエンジンを自動停止させている際に、エンジンの再始動条件が成立した場合は、エンジン1を再始動するが、たとえ、エンジンの再始動条件が成立していない場合であっても、上述の路面が冠水していることが判定された場合は、エンジン1を再始動させる。このため、特に水面高さ等を検出する新たなセンサ等を設けることなく、既に車載のステレオカメラ11a、前方環境認識装置11、各種センサ等を利用して、路面の冠水を、水が車両に侵入する前の早い段階で精度良く検出し、アイドルストップ状態におけるエンジン、排気系への水の侵入を未然に確実に防止することが可能となっている。
【符号の説明】
【0027】
1 エンジン
2 スタータモータ
3 エンジン制御部
4 アイドルストップ制御部(路面冠水検出手段、アイドルストップ実行手段、アイドルストップ禁止手段)
11 前方環境認識装置(前方環境認識手段)
11a ステレオカメラ
12 ワイパースイッチ
13 車速センサ
14 シフトレバー位置センサ
15 ブレーキペダル踏み込み量センサ
16 アクセルペダル踏み込み量センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラによる撮像画像を基に自車両の前方環境情報を取得する前方環境認識手段と、
少なくとも上記前方環境認識手段で認識した前方環境情報に基づいて路面の冠水を検出する路面冠水検出手段と、
予め設定しておいた運転条件が成立する場合にエンジンのアイドル運転を停止して上記エンジンを自動停止させるアイドルストップ実行手段と、
上記路面冠水検出手段で路面の冠水を検出した場合に上記アイドルストップ実行手段に対して上記エンジンの自動停止を禁止させるアイドルストップ禁止手段と、
を備えたことを特徴とする車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項2】
上記アイドルストップ実行手段は、上記エンジンを自動停止させている際に、予め設定しておいた上記エンジンの再始動条件が成立した場合に上記エンジンを再始動するものであって、上記アイドルストップ実行手段は、上記予め設定しておいた上記エンジンの再始動条件が成立しない場合であっても、上記路面冠水検出手段で路面の冠水を検出した場合には上記エンジンを再始動させることを特徴とする請求項1記載の車両のアイドルストップ制御装置。
【請求項3】
上記路面冠水検出手段は、上記前方環境認識手段で走行路の白線が認識され、且つ、路面がウェット路であることが認識され、且つ、ワイパーが作動されている場合に、路面が冠水していると検出することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両のアイドルストップ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112357(P2012−112357A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264112(P2010−264112)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】