説明

車両のカウルルーバ

【課題】 自動車のカウルトップ部に設定される歩行者保護対策において、主としてワイパ駆動系のカバーとして機能するカウルルーバの前端部がエンジンフードの後端部の下方に位置する場合には、歩行者保護対策の観点からエンジンフードの後端部付近に付加された上方からの衝撃に対してカウルルーバの前端部について衝撃吸収能力を高める必要がある。そこで、本発明では、この種の衝撃を吸収しやすいカウルルーバを提供する。
【解決手段】 エンジンフードの後端部の下方に位置するカウルルーバ10の前端部について車幅方向一部の範囲を占める第1及び第2衝撃吸収部11,12をルーバ本体部13から分離可能に構成する。エンジンフードの後端部付近に対して上方から衝撃が付加された時に、これら衝撃吸収部11,12をルーバ本体部13から分離させてルーバ本体部13の剛性を低下させる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のフロントウインド下部に沿って装備されるカウルルーバであって、いわゆる歩行者保護対策が施されたカウルルーバに関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆる歩行者保護対策として車両のフロントウインド下部周辺のカウルトップ部の衝撃吸収構造について、従来より様々な提案がなされている。例えば、特開2003-335264号公報には、ワイパ駆動系をカバーするカウルルーバに衝撃吸収凸部を設ける技術が記載されている。また、特開2004-155351号公報には、フロントウインドの下部を支持するカウルトップ部の閉じ断面構造に折れビード部等の座屈促進部を設けてカウルトップを変形しやすくすることによりフロントウインドの下部に付加された衝撃を吸収して歩行者の保護を図る技術が開示されている。
さらに、特開2000-38160号公報にはカウルトップ部を上方からの衝撃に対して変形しやすい開き断面構造とすることにより、フロントウインド下部の衝撃吸収能力を高める技術が開示されている。
また、図6には、上記公知技術と同様カウルトップ部30を開断面構造とした例を示した。このカウルトップ部30の場合、フロントウインド31の下部がカウルトップパネル32に支持されている。このカウルトップパネル32の後端部はダッシュアッパパネル33の上端に接合されている。ダッシュアッパパネル33の下部はダッシュロアパネル34の上端に接合されている。
一方、フロントウインド31の下部と、エンジンフード35の後端部との間には、カウルルーバ36が配置されている。このカウルルーバ36はカウルパネル37により下方から支持されている。カウルパネル37の後端部は上下のダッシュパネル33,34の接合部に接合されている。このカウルトップ部30によれば、フロントウインド31の下部を支持するカウルトップパネル32とダッシュアッパパネル33とカウルパネル37とにより開断面構造が形成されているため、フロントウインド31の下部に対して上方からの大きな荷重P31(衝撃)が付加された場合に当該カウルトップ部30が変形しやすくなり、これによりいわゆる歩行者保護対策を図ることができる。
【特許文献1】特開2003-335264号公報
【特許文献2】特開2004-155351号公報
【特許文献3】特開2000-38160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来のカウルトップ構造にもさらに改良を加える必要がある。すなわち、フロントウインド31の下部付近に付加された荷重P31とは別にエンジンフード35の後端部に付加された上方からの大きな荷重P35に対しても、当該カウルトップ部30の衝撃吸収能力をより一層効果的に発揮し得るようにしてさらに歩行者保護対策を図る必要がある。
そこで、本発明は、カウルトップ部の衝撃吸収機能を一層高めることにより歩行者保護対策をさらに図ることができるカウルルーバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このため、本発明は特許請求の範囲の各請求項に記載した構成のカウルルーバとした。
請求項1記載のカウルルーバによれば、エンジンフード(車両前部においてエンジンルーム等を閉止するフードパネルもしくはボンネット、以下同じ)の後端部付近に上方からの大きな荷重(衝撃)が付加されて、当該エンジンフードの後端部が下方へ変位すると、これに伴ってカウルルーバの衝撃吸収部(車幅方向一定の範囲)が下方へ押されて、当該カウルルーバのその他の部位(ルーバ本体部)から分離される。カウルルーバの衝撃吸収部がルーバ本体部から分離されることによって当該ルーバ本体部の剛性が低下して従来よりも変形しやすくなることから、エンジンフードの後端部に付加された衝撃をより効率よく吸収することができ、これにより歩行者保護対策を一層充実させることができる。
また、カウルルーバにおける衝撃吸収部がルーバ本体部から分離される際のエネルギー消費によっても衝撃が吸収され、従ってこの点でも歩行者保護対策を充実させることができる。
従来、図6に示すようにカウルルーバ36はルーバ本体36a側と一体でその前端部36bが設けられており、剛性の高い断面形状を有する構成となっていた。このため、エンジンフード35の後端部に付加された衝撃がこの前端部36bひいてはカウルルーバ36によっては十分に吸収されないおそれがあった。
この点、請求項1記載のカウルルーバによれば、その前端部の車幅方向の一定範囲(衝撃吸収部)が衝撃を受けるとルーバ本体部から分離され、これにより当該ルーバ本体部の剛性が低下することから衝撃を受けて変形しやすくなり、従って当該カウルルーバの衝撃吸収能力を従来よりも高めることができる。
請求項2記載のカウルルーバによれば、上記の作用効果に加えて、エンジンルーム内においてエンジンフードの直下に配置した艤装部品のメンテナンス性が向上する。すなわち、エンジンルーム内に艤装部品として例えばブレーキオイルのリザーバータンクやウォッシャータンク等のタンクが配置されており、このタンクの上面に補充用の開閉蓋を備えており、この開閉蓋の上方にカウルルーバの前端部が張り出した状態となっている場合に、メンテナンス作業者が衝撃吸収部をルーバ本体部から取り外すことにより、この開閉蓋の開閉あるいは脱着を楽に行うことができるようになる。
また、艤装部品の上方が衝撃吸収部によって遮蔽されるので、メンテナンス作業時等において工具類等の他物品が艤装部品に干渉することを未然に防止することができる。
請求項3記載のカウルルーバによれば、係合爪部をルーバ本体部の係合孔に差し込んで係合させれば、衝撃吸収部を簡単にルーバ本体部に取り付けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
次に、本発明の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係るカウルルーバ10を備えた車両1のカウルトップ部2の周辺を示している。図中符号3は、フロントウインドを示している。このフロントウインド3の下部はカウルトップパネル4に支持されている。このカウルトップパネル4の室内側端部はダッシュアッパパネル7の上端に接合されている。ダッシュアッパパネル7の下端部はダッシュロアパネル8の上端に接合されている。ダッシュロアパネル8の上端には、カウルパネル9の一端側が接合されている。
フロントウインド3の下部には、以下説明する本実施形態に係るカウルルーバ10の後部が覆い被さっている。図3には、カウルルーバ10が単体で示されている。このカウルルーバ10の前端部10aの上方には、エンジンルームを開閉するエンジンフード6の後端部が覆い被さっている。この前端部10aの上面にはシール台座部10bが設けられている。このシール台座部10bに沿ってシールゴム5(ウエザーストリップ)が装着されている。前端部10aとエンジンフード6の後端部との間にシールゴム5が挟み込まれることにより、エンジンルーム内が外部からシールされる。
図3に示すようにカウルルーバ10の下面はカウルパネル9の前端側に接合されている。上記カウルトップパネル4、ダッシュアッパパネル7及びカウルパネル9によって開断面を構成することにより、フロントウインド3の下部に対して上方からの大きな荷重P3が付加された場合において当該部位が変形しやすくなっており、これにより当該部位の歩行者保護対策がなされている。
【0006】
さて、図3に示すように本実施形態に係るカウルルーバ10は、その前端部10aの車幅方向の一定範囲が分離可能となっている点に特徴を有している。本実施形態では、前端部10aの車幅方向ほぼ中央の一定範囲と、車幅方向右端部寄りの一定範囲がそれぞれ分離可能に構成されている。以下の説明において、車幅方向ほぼ中央の分離可能な範囲を第1衝撃吸収部11といい、車幅方向右端部寄りの分離可能な範囲を第2衝撃吸収部12という。また、当該カウルルーバ10のうち、第1及び第2衝撃吸収部11,12以外の部分をルーバ本体部13という。図4は、第1衝撃吸収部11がルーバ本体部13から分離された状態を示している。
第1衝撃吸収部11がルーバ本体部13から分離されると、その前端部10aの車幅方向ほぼ中央の一定範囲が欠落した状態となる(第1欠落部13a)。また、第2衝撃吸収部12がルーバ本体部13から分離されると、その前端部10aの車幅方向右端部寄りの一定範囲が欠落した状態となる(第2欠落部13b、図3参照)。
第1及び第2衝撃吸収部11,12は、それぞれルーバ本体部13とは別に製作されたもので、ルーバ本体部13の本体側前端部13cと概ね同じ断面形状を有している。図4及び図5に示すように第1衝撃吸収部11は、シール台座部10bの一部となる分離側シール台座部11aと、それぞれルーバ本体部13に対する係合手段となる3つの係合爪部11b〜11bと2つの係合爪部11c,11cを備えている。
【0007】
第1衝撃吸収部11がルーバ本体部13の第1欠落部13aを塞いだ状態に取り付けられると、この分離側シール台座部11aがルーバ本体部13の本体側シール台座部13hと連続して位置され、これにより当該カウルルーバ10の連続したシール台座部10bが形成される。図2に示すようにこのシール台座部10bに沿って(分離側シール台座部11aと本体側シール台座部13hに跨って)シールゴム5が取り付けられている。なお、図3では、シールゴム5の図示が省略されている。
3つの係合爪部11b〜11bは、第1衝撃吸収部11の後端縁に沿ったほぼ中央及び左右両端部に設けられている。各係合爪部11b〜11bの先端部(後端部)は、それぞれ上方へL字形に屈曲している。また、図5に示すように2つの係合爪部11c,11cは、分離側シール台座部11aの下面両端部寄りの2箇所に下方へ突き出す状態に設けられている。
一方、ルーバ本体部13の第1欠落部13aには、上記の3つの係合爪部11b〜11bに対応して長溝孔形状の係合孔13d〜13dが設けられている。また、第1欠落部13aの車幅方向両端部には、第1衝撃吸収部11の左右両端部が載せ掛けられる支持台座部13e,13eが設けられている。この支持台座部13e,13eにもそれぞれ矩形の係合孔13gが設けられている。
この両支持台座部13e,13e上に分離側シール台座部11aの両端部を載せ掛けて、両係合孔13g,13gにそれぞれ係合爪部11cを挿入して係合させるとともに、3つの係合爪部11b〜11bをそれぞれ係合孔13dに挿入して係合させることによりなされる差し込み構造によって当該第1衝撃吸収部11がルーバ本体部13側に取り付けられる。この取り付け状態では、ルーバ本体部13の本体側前端部13cと第1衝撃吸収部11がほぼ面一に連なって第1欠落部13aが塞がれた状態となる。
【0008】
第2衝撃吸収部12は、シール台座部10bの一部となる分離側シール台座部12aと、ルーバ本体部13に対する係合手段となる係合爪部12b,12bを備えている。第2衝撃部12がルーバ本体部13の第2欠落部13bを塞いだ状態に取り付けられると、この分離側シール台座部12aがルーバ本体部13の本体側シール台座部13hと連続して位置され、これにより当該カウルルーバ10の連続したシール台座部10bが形成される。分離側シール台座部12aと本体側シール台座部13hに跨ってシールゴム5が取り付けられている点は、第1衝撃吸収部11と同じである。
第2衝撃吸収部12の係合爪部12b,12bは、本実施形態の場合、その後端部の両側2箇所に設けられている。図示は省略されているが、両係合爪部12b,12bの後端部は、前記第1衝撃吸収部11の係合爪部11bと同様、上方へL字形に屈曲している。この2つの係合爪部12b,12bに対応してルーバ本体部13の、第2欠落部13bには、長溝孔形状の係合孔13f,13fが設けられている。
また、第1衝撃吸収部11と同様、第2衝撃吸収部12の左右両端部は、第2欠落部13bの両端部に設けた支持台座部に載せ掛けられて下方から支持されている。これに加えて、両係合爪部12b,12bがそれぞれ係合孔13fに挿入して係合されることにより、第2欠落部13bが第2衝撃吸収部12によって塞がれ、この状態でルーバ本体部13に取り付けられている。
【0009】
以上のように構成した本実施形態のカウルルーバ10によれば、エンジンフード6の後端部の下方に位置する当該カウルルーバ10の前端部10aの一部を構成する第1及び第2衝撃吸収部11,12がその他の部位(ルーバ本体部13)から分離可能となっている。このため、エンジンフード6の後端部又はその周辺に対して上方から大きな荷重P6が付加されると、図2において二点鎖線で示すように当該エンジンフード6によってカウルルーバ10の前端部10aが下方へ押される。この時、第1及び第2衝撃吸収部11,12もエンジンフード6により下方へ押され、またルーバ本体部13が下方へ押されて変形等することにより、第1衝撃吸収部11の各係合爪部11b,11cが係合孔13d,13gから外れ、また第2衝撃吸収部12の各係合爪部12bが係合孔13fから外れることにより、両衝撃吸収部11,12がルーバ本体部13から外れる。
両衝撃吸収部11,12がルーバ本体部13から外れると、その本体側前端部13cには第1及び第2欠落部13a,13bが発生し、これにより当該ルーバ本体部13の剛性が低下される。こうして剛性が低下されることによってルーバ本体部13は変形しやすくなり、これにより上記荷重P6による衝撃が吸収されやすくなって、当該カウルトップ部2の歩行者保護機能を一層高めることができる。
また、図1及び図3に示すように第2衝撃吸収部12の直下に、エンジンルーム内の艤装部品としてウォッシャータンク20が配置されている場合に、メンテナンス作業時に第2衝撃吸収部12を作業者が取り外すことにより、その上面に設けられた開閉蓋21を容易に脱着することができるようになるので、ウォッシャー液の補充等のメンテナンス作業を効率よく行うことができるようになる。さらに、取り外し可能な第2衝撃吸収部12の直下にウォッシャータンク20を配置しておくことができるので、当該第2衝撃吸収部12を当該ウォッシャータンク20への他の物品(例えばメンテナンス作業時における工具類等)の干渉を防止するための遮蔽板として機能させることができる。
【0010】
以上説明した実施形態には種々変更を加えて実施することができる。例えば、第1及び第2の2箇所の衝撃吸収部11,12を設ける構成を例示したが、中央の1箇所だけに設ける構成、あるいは第1及び第2衝撃吸収部11,12に加えて第3の衝撃吸収部を前端部13cの車幅方向左端部寄りに設ける構成としてもよい。
また、第2衝撃吸収部12の直下に、エンジンルーム内の艤装部品としてウォッシャータンク20が配置されている場合を例示したが、これに代わってブレーキのリザーバタンク等その他の艤装部品が配置されている場合であっても、当該第2衝撃部材12の遮蔽板としての機能を同様に発揮させることができる。また、第1衝撃吸収部11の直下にこの種の艤装部品が配置されている場合でも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るカウルルーバを備えた車両の正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るカウルルーバを備えた車両のカウルトップ部及びその周辺の縦断面図である。
【図3】カウルルーバの全体斜視図である。
【図4】第1衝撃吸収部を外した状態のカウルルーバの第1欠落部周辺の斜視図である。
【図5】第1衝撃吸収部を、図4中矢印(5)方向から見た側面図である。
【図6】従来のカウルルーバを備えた車両のカウルトップ部及びその周辺の縦断面図である。
【符号の説明】
【0012】
1…車両
2…カウルトップ部
3…フロントウインド
5…シールゴム
6…エンジンフード
10…カウルルーバ
10a…前端部、10b…シール台座部
11…第1衝撃吸収部
11a…分離側シール台座部、11b,11c…係合爪部
12…第2衝撃吸収部
12a…分離側シール台座部、12b…係合爪部
13…ルーバ本体部
13a…第1欠落部、13b…第2欠落部、13c…本体側前端部
13e…支持台座部、13h…本体側シール台座部
20…ウォッシャータンク(艤装部品)
21…開閉蓋
30…カウルトップ部
35…エンジンフード
36…カウルルーバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントウインドの下部に沿って位置され、前端部がエンジンフードの後端部の下方に位置するカウルルーバであって、前記前端部の車幅方向の一部の範囲がルーバ本体部から分離可能な衝撃吸収部とされたカウルルーバ。
【請求項2】
請求項1記載のカウルルーバであって、前記前端部が、エンジンルーム内においてエンジンフードの直下に配置した艤装部品の上方に張り出されており、前記衝撃吸収部を該艤装部品の上方に設定したカウルルーバ。
【請求項3】
請求項1または2記載のカウルルーバであって、衝撃吸収部は、係合爪部をルーバ本体部の係合孔に差し込んで該ルーバ本体部に取り付けられる差し込み構造を備えたカウルルーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−347326(P2006−347326A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175164(P2005−175164)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】