説明

車両のシール装置

【課題】シールリップによる窓板の拭き取り性を向上させながら、窓板昇降移動機構の小型化や軽量化の要求を満たすことができるようにする。
【解決手段】窓板13の下降移動時には、一方向回転継手(図示せず)によって窓板13に接触するシールリップ29が下方に回転移動しないようにシール支持棒28の回転を阻止することで、シールリップ29と窓板13とが滑り接触した状態にする。一方、窓板13の上昇移動時には、一方向回転継手によって窓板13に接触するシールリップ29が上方へ回転移動するようにシール支持棒28の回転を許容することで、シールリップ29と窓板13とが転がり接触した状態にする。これにより、窓板13の上昇移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(転がり摩擦力)を、窓板13の下降移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(滑り摩擦力)よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の窓開口縁と窓板の面との間をシールする車両のシール装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車体の窓開口縁に取り付けられるシールストリップは、窓開口内を昇降移動(上昇移動及び下降移動)する窓板の面にシールリップが接触することで、主に次のような2つの機能を備えている。
【0003】
(1) 車体の窓開口縁と窓板の面との間をシールして車外から異物(例えば、塵、埃、水滴等)が車内に入り込むのを防止する。
(2) 窓板が昇降移動したときに窓板の面に付着した異物をシールリップで拭き取る。
【0004】
上記(2) の窓板の拭き取り機能を向上させるためには、窓板に対するシールリップの押圧力を大きくする必要がある。しかし、窓板に対するシールリップの押圧力を大きくすると、窓板とシールリップとの間に生じる摩擦力(=押圧力×動摩擦係数)が大きくなるため、その分、窓板を昇降移動させるのに必要な駆動力が増大して、窓板昇降移動機構(パワーウインドウレギュレータ)の大型化を招くという問題がある。
【0005】
この対策として、窓板に対するシールリップの動摩擦係数を小さくして、窓板とシールリップとの間に生じる摩擦力を小さくすることが提案されている。窓板に対するシールリップの摩擦係数を小さくする技術としては、例えば、特許文献1(特開平7−323440号公報)に記載されているように、シールリップのうちの窓板(ドアウインドウガラス)と摺接する面に摺動性の優れた樹脂被膜を形成するようにしたものや、特許文献2(特開2003−182373号公報)に記載されているように、シールリップ(ガラス摺接リップ)のうちの窓板と摺接する面(ガラス摺接面)に植毛を施すようにしたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−323440号公報
【特許文献2】特開2003−182373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2の技術は、単に窓板に対するシールリップの摩擦係数を小さくして、窓板とシールリップとの間に生じる摩擦力(以下「シールリップの摩擦力」という)を小さくするだけであるため、窓板が上昇移動するときも下降移動するときもシールリップの摩擦力がほぼ同じ程度に減少する。
【0008】
窓板が上昇移動するときには、シールリップの摩擦力が窓板の上昇を妨げる方向に作用するため、シールリップの摩擦力が小さければ、窓板を上昇移動させるのに必要な駆動力を減少させることができる。
【0009】
しかし、窓板が下降移動するときには、シールリップの摩擦力が窓板の下降を妨げる方向に作用して窓板を支えるため、シールリップの摩擦力が窓板昇降移動機構に掛かる負荷(窓板の重量等による負荷)を減少させる方向に作用する。このため、窓板が下降移動するときに、シールリップの摩擦力が小さいと、窓板昇降移動機構に掛かる負荷を軽減させることができず、窓板に逆方向(窓板上昇方向)の力を作用させる装置を窓板昇降移動機構に別途設ける必要が生じる可能性があり、窓板昇降移動機構の小型化や軽量化の要求を満たすことができない可能性がある。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、シールリップによる窓板の拭き取り性を向上させながら、窓板昇降移動機構の小型化や軽量化の要求を満たすことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、弾性ポリマー材料製のシールリップを備え、車体の窓開口縁に取り付けられたときに該窓開口内を昇降移動可能な窓板の面にシールリップが接触して窓開口縁と窓板の面との間をシールする車両のシール装置であって、窓板の昇降移動方向と交差する方向に延びるように配置される長尺なシール支持棒と、シール支持棒の少なくとも一方の端末に連結されて該シール支持棒の一方向への回転を許容して逆方向への回転を阻止する一方向回転継手とを備え、シールリップは、シール支持棒の外周面の周方向の複数箇所に配置されてシール支持棒から半径方向外側に突出すると共にシール支持棒の長手方向に沿って延びるように設けられ、窓板が下降移動するときには一方向回転継手によって窓板の面に接触するシールリップが下方に回転移動しないようにシール支持棒の回転が阻止され、窓板が上昇移動するときには一方向回転継手によって窓板の面に接触するシールリップが上方へ回転移動するようにシール支持棒の回転が許容されるように構成されたものである。
【0012】
この構成では、窓板が下降移動するときには、一方向回転継手によって窓板の面に接触するシールリップが下方に回転移動しないようにシール支持棒の回転が阻止されて停止するため、シールリップと窓板とが滑り接触した状態となり、シールリップと窓板との間に滑り摩擦力が生じる。一方、窓板が上昇移動するときには、一方向回転継手によって窓板の面に接触するシールリップが上方へ回転移動するようにシール支持棒の回転が許容されるため、シールリップと窓板とが転がり接触した状態となり、シールリップと窓板との間には転がり摩擦力が生じる。
【0013】
一般に、転がり摩擦力は滑り摩擦力に比べて小さくなるため、本発明のシール装置は、窓板の上昇移動時にシールリップと窓板との間に生じる摩擦力(転がり摩擦力)を、窓板の下降移動時にシールリップと窓板との間に生じる摩擦力(滑り摩擦力)よりも小さくすることができ、窓板を上昇移動させるのに必要な駆動力を減少させることができる。逆に、窓板の下降移動時にシールリップと窓板との間に生じる摩擦力(滑り摩擦力)を、窓板の上昇移動時にシールリップと窓板との間に生じる摩擦力(転がり摩擦力)よりも大きくすることができ、窓板昇降移動機構に掛かる負荷を軽減することができる。これにより、窓板昇降移動機構に窓板を支える装置等を設ける必要がなくなり、窓板昇降移動機構を小型化や軽量化することができる。この場合、窓板の下降移動時に、シール支持棒の回転が停止してシールリップと窓板とが滑り接触することで、窓板の面に付着した異物(例えば、塵、埃、水滴等)をシールリップで拭き取ることができ、シールリップによる窓板の拭き取り性を向上させることができる。
【0014】
また、窓板の下降移動時に、シールリップと窓板とが滑り接触した状態となるが、その際、窓板と接触するシールリップは、複数のシールリップのうちのいずれかのシールリップだけであるため、各シールリップが窓板と接触する頻度を少なくすることができ、各シールリップの耐久寿命を延ばすことができるという利点もある。
【0015】
本発明は、シール支持棒の一方の端末のみに一方向回転継手を連結するようにしても良いが、請求項2のように、シール支持棒の両方の端末にそれぞれ一方向回転継手を連結するようにしても良い。このようにすれば、窓板の下降移動時に、シール支持棒及びシールリップの回転停止位置(一方向回転継手によって回転が阻止されて停止する位置)を所定位置に安定して保つことができる。
【0016】
また、請求項3のように、一方向回転継手は、シール支持棒と一体的に回転可能に連結されるラチェット部と、該ラチェット部の一方向への回転を許容して逆方向への回転を阻止する爪部が設けられた固定部とを備えた構成としても良い。このようにすれば、ラチェット部と爪部によってシール支持棒の一方向への回転を許容して逆方向への回転を阻止することができる。
【0017】
この場合、請求項4のように、ラチェット部には、爪部と噛み合う凹状段差を周方向に等間隔でシールリップと同じ数だけ設けるようにすると良い。このようにすれば、窓板の下降移動時に窓板の面に接触するシールリップの回転停止位置を一定(毎回同じ回転位置)にすることができる。
【0018】
また、請求項5のように、窓板の下降移動時にシール支持棒の回転が阻止されて停止したときにシールリップの先端部が窓板の面に対して鋭角をなした状態で接触するようにラチェット部の凹状段差の位置を設定するようにすると良い。このようにすれば、窓板の下降移動時に、シールリップによる窓板の拭き取り性を向上させながら、異音(スティックスリップ音)の発生を防止することができる。
【0019】
更に、請求項6のように、凹状段差は、周方向に延びる長辺と該長辺に隣接する短辺との組み合わせで形成するようにすると良い。このようにすれば、凹状段差と爪部とが噛み合う位置(回転が阻止されて停止する位置)を精度良く設定することができ、窓板の下降移動時に窓板の面に接触するシールリップの回転停止位置を精度良く設定することができる。
【0020】
また、請求項7のように、シール支持棒の端末とラチェット部のうちの一方に横断面形状が非円形の連結部が一体的に回転可能に設けられると共に他方に該連結部が嵌合される連結孔が形成され、連結部を連結孔に嵌合させることでシール支持棒とラチェット部とを一体的に回転可能に連結するようにしても良い。このようにすれば、シール支持棒とラチェット部との間の空転(回転位置ずれ)を防止することができ、シール支持棒とラチェット部との間の位置関係を安定して維持することができる。
【0021】
更に、請求項8のように、固定部には、爪部を周方向に等間隔でシールリップと同じ数だけ設けるようにしても良い。このようにすれば、シール支持棒の逆方向への回転(ラチェット部の逆方向への回転)を確実に阻止することができる。
【0022】
また、請求項9のように、シール支持棒には、シールリップを周方向に等間隔で3つ以上設けるようにすると良い。より好ましくは、請求項10のように、シール支持棒には、シールリップを周方向に等間隔で8つ以上設けるようにすると良い。このようにすれば、シール支持棒の回転位置が変化しても常に少なくとも1つのシールリップを窓板の面に接触させることが可能となる。
【0023】
シールリップとシール支持棒は、それぞれ別々に成形した後、シール支持棒の外周にシールリップを固定するようにしたり、或は、予め形成されたシール支持棒の外周にシールリップを成形するようにしても良いが、請求項11のように、シールリップ及びシール支持棒は、弾性ポリマー材料の押出成形又は射出成形により横断面形状が一定形状で一体的に形成するようにしても良い。このようにすれば、シールリップとシール支持棒を押出成形又は射出成形により同時に形成することができる。
【0024】
この場合、請求項12のように、弾性ポリマー材料として、ゴム又は熱可塑性エラストマーを用いるようにすると良い。このようにすれば、押出成形又は射出成形を容易に行うことができる。
【0025】
また、請求項13のように、窓板が上昇移動するときに、窓板の動力が該窓板の面に接触するシールリップに伝達されてシール支持棒が回転駆動されるようにすると良い。このようにすれば、窓板の上昇移動時の窓板の動力を利用してシール支持棒及びシールリップを回転させることができる。
【0026】
更に、請求項14のように、窓板が上昇移動するときに、窓板の面に接触するシールリップが該窓板の面から離れる前に次のシールリップが該窓板の面に接触するようにすると良い。このようにすれば、シール支持棒及びシールリップを安定して回転させることができる。
【0027】
また、本発明のシール装置は、請求項15のように、窓開口縁に取り付けられるトリム材に固定するようにしても良い。或は、請求項16のように、窓開口縁に取り付けられるトリム材を介さずに窓開口縁に固定するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は本発明の実施例1におけるフロントドアの概略構成を示す図である。
【図2】図2は図1のA−A断面図である。
【図3】図3はシール装置を窓板側から見た図である。
【図4】図4はシールリップ及びその周辺部の窓板下降移動時の状態を示す断面図である。
【図5】図5はシールリップ及びその周辺部の窓板上昇移動時の状態を示す断面図である。
【図6】図6は図3のB−B断面図である。
【図7】図7は図3のC−C断面図である。
【図8】図8は固定部とラチェット部を周方向に沿って切断した図7のD−D断面図である。
【図9】図9は実施例2のシール装置及びその周辺部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施するための形態を具体化した幾つかの実施例を説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明の実施例1を図1乃至図8に基づいて説明する。
図1に示すように、自動車のフロントドア11には、窓枠12が一体的に設けられ、この窓枠12によって形成された窓開口を開閉する窓板13(窓ガラス)が窓開口内を昇降移動(上昇移動及び下降移動)可能に設けられている。また、アウタードアパネル14の上縁(車外側の窓開口縁)に設けられた上縁フランジ15(図2参照)には、長尺なシールストリップ16が取り付けられ、このシールストリップ16によって、アウタードアパネル14の上縁フランジ15と窓板13との間を覆うようになっている。また、アウタードアパネル14の内側には、窓板13を昇降移動(上昇移動及び下降移動)させる窓板昇降移動機構17(パワーウインドウレギュレータ)が設けられている。
【0031】
次に、図2乃至図8に基づいてシールストリップ16の構成について説明する。
図2に示すように、シールストリップ16は、トリム材26にシール装置27を組み付けて一体化したものである。トリム材26は、ポリマー材料の押出成形により横断面U字形状の取付部18が形成され、この取付部18には、車内側側壁部19と車外側側壁部20と両側壁部19,20を連結する頂壁部21とが一体的に設けられている。
【0032】
取付部18の車内側側壁部19の上端には、車内側(窓板13の車外側表面)に向けて突出する遮蔽リップ23が一体的に形成され、取付部18の車内側側壁部19の内側面と車外側側壁部20の内側面には、それぞれ互いに対向する方向に向けて突出する保持リップ24,25が一体的に形成されている。
【0033】
取付部18(車内側側壁部19、車外側側壁部20、頂壁部21)を成形するポリマー材料は、剛性を有する材料であり、例えば、PP樹脂(ポリプロピレン樹脂)、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、PVC樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂)等の熱可塑性合成樹脂が用いられている。
【0034】
一方、遮蔽リップ23と保持リップ24,25を成形する弾性ポリマー材料は、柔軟性を有する材料であり、例えば、軟質ゴム又は、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)、SBC(スチレン系熱可塑性エラストマー)等の取付部18よりも軟質な熱可塑性エラストマーが用いられている。
【0035】
また、取付部18の車内側側壁部19の外側面には、シール装置27が取り付け固定され、アウタードアパネル14の上縁フランジ15に取付部18を被せて取り付けたときに、シール装置27に設けられたシールリップ29の先端側が窓板13の面に接触することで、アウタードアパネル14の上縁(車外側の窓開口縁)と窓板13の面との間をシールして車外から異物(例えば、塵、埃、水滴等)が車内に入り込むのを防止すると共に、窓板13が昇降移動したときに窓板13の面に付着した異物をシールリップ29で拭き取るようになっている。
【0036】
図2及び図3に示すように、シール装置27には、窓板13の昇降移動方向と交差する方向に延びるように配置される長尺なシール支持棒28が設けられ、このシール支持棒28の外周面の周方向の複数箇所に、シールリップ29が配置されている。このシールリップ29は、シール支持棒28から半径方向外側に突出すると共に、シール支持棒28の長手方向に沿って延びるように設けられている。シールリップ29及びシール支持棒28は、弾性ポリマー材料の押出成形又は射出成形により横断面形状が一定形状で一体的に形成されている。
【0037】
シールリップ29及びシール支持棒28を成形する弾性ポリマー材料は、例えば、ゴム又は、TPO(オレフィン系熱可塑性エラストマー)、SBC(スチレン系熱可塑性エラストマー)等の熱可塑性エラストマーが用いられている。尚、シール支持棒28は、剛性を有する材料で成形し、シールリップ29は、シール支持棒28を成形する材料よりも軟質な材料(柔軟性を有する材料)で成形するようにしても良い。また、シール支持棒28は、内周側(芯棒となる部分)を剛性を有する材料で成形し、その外周側を柔軟性を有する材料で成形するようにしても良い。
【0038】
シール支持棒28には、シールリップ29が周方向に等間隔で8つ以上(例えば8つ)設けられ、シール支持棒28の回転位置が変化しても常に少なくとも1つのシールリップ29を窓板13の面に接触させることが可能となっている。各シールリップ29は、先端部の厚さ寸法が幹部の厚さ寸法よりも小さくなるように形成され、シールリップ29の先端部が窓板13の面に接触したときに、先端部が弾性変形するようになっている。
【0039】
また、シール支持棒28の両方の端末には、それぞれシール支持棒28の正回転方向(図5に矢印Xで示す方向)への回転を許容して逆回転方向への回転を阻止する一方向回転継手30(図3参照)が連結されている。この一方向回転継手30は、本体ケース31の外周側に複数(例えば2つ)のブラケット32が設けられ、このブラケット32の貫通孔に挿通されたビス、クリップ、リベット等の締結具33によって取付部材34に取り付けられている。更に、この取付部材34がビス、クリップ、リベット等の締結具35によってトリム材26の取付部18(車内側側壁部19)の外側面に取り付けられることで、トリム材26の取付部18にシール装置27が取り付け固定されている。
【0040】
図4に示すように、窓板13が下降移動するときには、一方向回転継手30によって窓板13の面に接触するシールリップ29が下方に回転移動しないようにシール支持棒28の逆回転方向の回転が阻止されるようになっている。この場合、シールリップ29と窓板13とが滑り接触した状態となり、シールリップ29と窓板13との間に滑り摩擦力が生じる。
【0041】
このように、窓板13の下降移動時にシール支持棒28の回転が阻止されて停止したときに、シールリップ29の先端部が下方に弾性変形して、シールリップ29の先端部が窓板13の面に対して鋭角θ1 (好ましくは75度〜25度、より好ましくは55度〜35度)をなした状態となり、シールリップ29の上側先端縁が窓板13の面に線接触するようになっている。これにより、窓板13の下降移動時に、シールリップ29による窓板13の拭き取り性を向上させながら、異音(スティックスリップ音)の発生を防止する。
【0042】
また、シール支持棒28の軸芯からシールリップ29の先端までの寸法Rは、シール支持棒28の軸芯から窓板13の面までの寸法Lよりも大きくなるように設定され、シールリップ29の先端部を窓板13の面に確実に接触させるようになっている。
【0043】
一方、図5に示すように、窓板13が上昇移動するときには、一方向回転継手30によって窓板13の面に接触するシールリップ29が上方へ回転移動するようにシール支持棒28の正回転方向(図5に矢印Xで示す方向)の回転が許容されるようになっている。この場合、シールリップ29と窓板13とが転がり接触した状態となり、シールリップ29と窓板13との間には転がり摩擦力が生じる。
【0044】
この際、窓板13が上昇移動するときには、窓板13の動力が該窓板13の面に接触するシールリップ29に伝達されてシール支持棒28が回転駆動されるため、窓板13の上昇移動時の窓板13の動力を利用してシール支持棒28及びシールリップ29を回転させることができる。また、窓板13が上昇移動するときに、窓板13の面に接触するシールリップ29が該窓板13の面から離れる前に次のシールリップ29が該窓板13の面に接触するようになっているため、シール支持棒28及びシールリップ29を安定して回転させることができる。
【0045】
また、窓板13の下降移動時に窓板13の面に接触していたシールリップ29が、窓板13の上昇移動時に窓板13と反対側の位置まで回転移動したときに、窓板13の下降移動時に窓板13の面に接触していたシールリップ29の上側先端縁が下向きになるため、そのシールリップ29の先端縁に溜まっていた異物が落下する。
【0046】
図6及び7に示すように、一方向回転継手30は、円筒状の本体ケース31内に、シール支持棒28と一体的に回転可能に連結される円盤状のラチェット部36(図6参照)と、このラチェット部36の正回転方向(矢印Xで示す方向)への回転を許容して逆回転方向(矢印Yで示す方向)への回転を阻止する爪部39(図7参照)が設けられ、爪部39は、本体ケース31の底壁である固定部38(又は本体ケース31の底壁に固定された固定部)に形成されている。ラチェット部36には、爪部39と噛み合う凹状段差37が周方向に等間隔で設けられ、固定部38には、爪部39が周方向に等間隔で設けられている。
【0047】
また、ラチェット部36の背面には、横断面形状が非円形(例えば十字形)の連結部40が一体的に回転可能に設けられると共に、シール支持棒28の少なくとも端末には、連結部40が嵌合される連結孔41(図3参照)が形成され、ラチェット部36側の連結部40をシール支持棒28側の連結孔41に嵌合させることでシール支持棒28とラチェット部36とが一体的に回転可能に連結されている。これにより、シール支持棒28とラチェット部36との間の空転(回転位置ずれ)を防止することができ、シール支持棒28とラチェット部36との間の位置関係を安定して維持することができる。
【0048】
ここで、図8は、爪部39が形成された固定部38と、爪部39と噛み合う凹状段差37が形成されたラチェット部36を周方向に沿って切断した図7のD−D断面図である。図8に示すように、爪部39は、周方向に延びる長辺と該長辺に隣接する短辺との組み合わせで不等辺直角三角形状で突出するように形成され、凹状段差37は、周方向に延びる長辺と該長辺に隣接する短辺との組み合わせで不等辺直角三角形状で凹むように形成されている。これにより、凹状段差37と爪部39とが噛み合う位置(回転が阻止されて停止する位置)を精度良く設定して、窓板13の下降移動時に窓板13の面に接触するシールリップ29の回転停止位置を精度良く設定できる。
【0049】
図示しない付勢手段(例えば、バネ、ゴム等の弾性部材)によってラチェット部36が固定部38に当接する方向に付勢されることで、固定部38側の爪部39がラチェット部36側の凹状段差37に嵌まり込むようになっている。そして、ラチェット部36の逆回転方向(矢印Yで示す方向)が、爪部39と凹状段差37が噛み合う方向(爪部39と凹状段差37の短辺同士が当接する方向)となり、ラチェット部36の正回転方向(矢印Xで示す方向)が、爪部39と凹状段差37が相対的にスライド移動可能な方向となるように設定されている。これにより、ラチェット部36の正回転方向(矢印Xで示す方向)への回転を許容して逆回転方向(矢印Yで示す方向)への回転を阻止することで、シール支持棒28の正回転方向への回転を許容して逆回転方向への回転を阻止するようになっている。
【0050】
また、ラチェット部36には、爪部39と噛み合う凹状段差37を周方向に等間隔でシールリップ29と同じ数だけ設けることで、窓板13の下降移動時に窓板13の面に接触するシールリップ29の回転停止位置を一定(毎回同じ回転位置)にできるようにしている。更に、固定部38には、爪部39を周方向に等間隔でシールリップ29と同じ数だけ設けることで、シール支持棒28の逆方向への回転(ラチェット部36の逆方向への回転)を確実に阻止できるようにしている。
【0051】
また、窓板13の下降移動時にシール支持棒28の回転が阻止されて停止したときに、シールリップ29の先端部が窓板13の面に対して鋭角θ1 (好ましくは75度〜25度、より好ましくは55度〜35度)をなした状態で接触するようにラチェット部36の凹状段差37の位置(シール支持棒28の回転停止位置)が設定されている。本実施例1では、窓板13の下降移動時にシール支持棒28の回転が阻止されて停止したときに、シールリップ29の変形前の状態(フリー状態)におけるシールリップ29の根元の中心線が窓板13と直交する線よりも下方に所定角度θ2 (例えば15度)だけ傾斜するようにラチェット部36の凹状段差37の位置(シール支持棒28の回転停止位置)が設定されている。
【0052】
以上説明した本実施例1では、窓板13が下降移動するときには、一方向回転継手30によって窓板13の面に接触するシールリップ29が下方に回転移動しないようにシール支持棒28の回転が阻止されて停止するため、シールリップ29と窓板13とが滑り接触した状態となり、シールリップ29と窓板13との間に滑り摩擦力が生じる。一方、窓板13が上昇移動するときには、一方向回転継手30によって窓板13の面に接触するシールリップ29が上方へ回転移動するようにシール支持棒28の回転が許容されるため、シールリップ29と窓板13とが転がり接触した状態となり、シールリップ29と窓板13との間には転がり摩擦力が生じる。
【0053】
一般に、転がり摩擦力は滑り摩擦力に比べて小さくなるため、本実施例1のシール装置27は、窓板13の上昇移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(転がり摩擦力)を、窓板13の下降移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(滑り摩擦力)よりも小さくすることができ、窓板13を上昇移動させるのに必要な駆動力を減少させることができる。逆に、窓板13の下降移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(滑り摩擦力)を、窓板13の上昇移動時にシールリップ29と窓板13との間に生じる摩擦力(転がり摩擦力)よりも大きくすることができ、窓板昇降移動機構17に掛かる負荷を軽減することができる。これにより、窓板昇降移動機構17に窓板13を支える装置等を設ける必要がなくなり、窓板昇降移動機構17を小型化や軽量化することができると共に、窓板13の下降移動時に、シール支持棒28の回転が停止してシールリップ29と窓板13とが滑り接触することで、窓板13の面に付着した異物(例えば、塵、埃、水滴等)をシールリップ29で拭き取ることができ、シールリップ29による窓板13の拭き取り性を向上させることができる。
【0054】
また、窓板13の下降移動時に、シールリップ29と窓板13とが滑り接触した状態となるが、その際、窓板13と接触するシールリップ29は、複数のシールリップ29のうちのいずれかのシールリップ29だけであるため、各シールリップ29が窓板13と接触する頻度を少なくすることができ、各シールリップ29の耐久寿命を延ばすことができるという利点もある。
【実施例2】
【0055】
次に、図9を用いて本発明の実施例2を説明する。但し、前記実施例1と実質的に同一部分には同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主として前記実施例1と異なる部分について説明する。
【0056】
前記実施例1では、アウタードアパネル14の上縁フランジ15に取り付けられるトリム材26にシール装置27を固定するようにしたが、本実施例2では、アウタードアパネル14の上縁フランジ15に取り付けられるトリム材42を介さずにアウタードアパネル14の上縁フランジ15の下側部にシール装置43を固定するようにしている。
【0057】
図9に示すように、トリム材42は、車内側側壁部19が上縁フランジ15の下側部を残して上側部を覆うように短めの寸法で形成されている。また、シール装置43は、取付部材34の上部に第1の係止部44が設けられると共に、取付部材34の下部に第2の係止部45が設けられ、第1の係止部44を上縁フランジ15の被係止部46に係止させると共に、第2の係止部45を上縁フランジ15の下端部に係止させることで、上縁フランジ15の下側部にシール装置43が取り付け固定されている。
以上説明した本実施例2においても、前記実施例1とほぼ同じ効果を得ることができる。
【0058】
尚、上記各実施例1,2では、シール支持棒28の両方の端末に一方向回転継手30を連結することで、窓板13の下降移動時にシール支持棒28及びシールリップ29の回転停止位置(一方向回転継手30によって回転が阻止されて停止する位置)を所定位置に安定して保つことができるようにしたが、これに限定されず、シール支持棒28の一方の端末のみに一方向回転継手30を連結するようにしても良い。
【0059】
また、上記各実施例1,2では、ラチェット部36側の連結部40をシール支持棒28側の連結孔41に嵌合させることでシール支持棒28とラチェット部36とを一体的に回転可能に連結するようにしたが、これとは逆に、シール支持棒28側の連結部をラチェット部36側の連結孔に嵌合させることでシール支持棒28とラチェット部36とを一体的に回転可能に連結するようにしても良い。
【0060】
また、上記各実施例1,2では、シール支持棒28にシールリップ29を周方向に等間隔で8つ以上設けるようにしたが、これに限定されず、シールリップ29の数を8つよりも少なくしても良く、シール支持棒28にシールリップ29を周方向に等間隔で3つ以上設けるようにすれば、シール支持棒28の回転位置が変化しても常に少なくとも1つのシールリップ29を窓板13の面に接触させることが可能となる。
【0061】
また、上記各実施例1,2では、固定部38に爪部39をシールリップ29と同じ数だけ設けるようにしたが、これに限定されず、固定部38に爪部39を少なくとも1つ以上設けるようにしても良い。
【0062】
また、上記各実施例1,2では、シールリップ29及びシール支持棒28を弾性ポリマー材料の押出成形又は射出成形により一体的に形成するようにしたが、これに限定されず、シールリップ29とシール支持棒28は、それぞれ別々に成形した後、シール支持棒28の外周にシールリップ29を固定するようにしたり、或は、予め形成されたシール支持棒28の外周にシールリップ29を成形するようにしても良い。
【0063】
また、上記各実施例1,2では、シール支持棒28の外周面からシールリップ29が法線方向に延びるようにシールリップ29を形成したが、これに限定されず、シールリップ全体又はシールリップの先端部が法線に対して傾斜するようにシールリップを形成するようにしても良い。
【0064】
また、上記各実施例1,2では、本発明をフロントドアのアウタードアパネル側のシール装置に適用したが、これに限定されず、フロントドアのインナードアパネル側のシール装置に本発明を適用したり、或は、リアドアのアウタードアパネル側又はインナードアパネル側のシール装置に本発明を適用しても良い。
【0065】
その他、本発明は、シールリップやシール支持棒の形状、一方向回転継手の構成を適宜変更しても良い等、要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。
【符号の説明】
【0066】
11…フロントドア、12…窓枠、13…窓板、14…アウタードアパネル、15…上縁フランジ、16…シールストリップ、17…窓板昇降移動機構、26…トリム材、27…シール装置、28…シール支持棒、29…シールリップ、30…一方向回転継手、36…ラチェット部、37…凹状段差、38…固定部、39…爪部、40…連結部、41…連結孔、42…トリム材、43…シール装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性ポリマー材料製のシールリップを備え、車体の窓開口縁に取り付けられたときに該窓開口内を昇降移動可能な窓板の面に前記シールリップが接触して前記窓開口縁と前記窓板の面との間をシールする車両のシール装置であって、
前記窓板の昇降移動方向と交差する方向に延びるように配置される長尺なシール支持棒と、
前記シール支持棒の少なくとも一方の端末に連結されて該シール支持棒の一方向への回転を許容して逆方向への回転を阻止する一方向回転継手とを備え、
前記シールリップは、前記シール支持棒の外周面の周方向の複数箇所に配置されて前記シール支持棒から半径方向外側に突出すると共に前記シール支持棒の長手方向に沿って延びるように設けられ、
前記窓板が下降移動するときには前記一方向回転継手によって前記窓板の面に接触するシールリップが下方に回転移動しないように前記シール支持棒の回転が阻止され、前記窓板が上昇移動するときには前記一方向回転継手によって前記窓板の面に接触するシールリップが上方へ回転移動するように前記シール支持棒の回転が許容されるように構成されていることを特徴とする車両のシール装置。
【請求項2】
前記シール支持棒の両方の端末にそれぞれ前記一方向回転継手が連結されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のシール装置。
【請求項3】
前記一方向回転継手は、前記シール支持棒と一体的に回転可能に連結されるラチェット部と、該ラチェット部の一方向への回転を許容して逆方向への回転を阻止する爪部が設けられた固定部とを備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のシール装置。
【請求項4】
前記ラチェット部には、前記爪部と噛み合う凹状段差が周方向に等間隔で前記シールリップと同じ数だけ設けられていることを特徴とする請求項3に記載の車両のシール装置。
【請求項5】
前記窓板の下降移動時に前記シール支持棒の回転が阻止されて停止したときに前記シールリップの先端部が前記窓板の面に対して鋭角をなした状態で接触するように前記ラチェット部の凹状段差の位置が設定されていることを特徴とする請求項4に記載の車両のシール装置。
【請求項6】
前記凹状段差は、周方向に延びる長辺と該長辺に隣接する短辺との組み合わせで形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の車両のシール装置。
【請求項7】
前記シール支持棒の端末と前記ラチェット部のうちの一方に横断面形状が非円形の連結部が一体的に回転可能に設けられると共に他方に該連結部が嵌合される連結孔が形成され、前記連結部を前記連結孔に嵌合させることで前記シール支持棒と前記ラチェット部とが一体的に回転可能に連結されていることを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項8】
前記固定部には、前記爪部が周方向に等間隔で前記シールリップと同じ数だけ設けられていることを特徴とする請求項3乃至7のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項9】
前記シール支持棒には、前記シールリップが周方向に等間隔で3つ以上設けられていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項10】
前記シール支持棒には、前記シールリップが周方向に等間隔で8つ以上設けられていることを特徴とする請求項9に記載の車両のシール装置。
【請求項11】
前記シールリップ及び前記シール支持棒は、前記弾性ポリマー材料の押出成形又は射出成形により横断面形状が一定形状で一体的に形成されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項12】
前記弾性ポリマー材料として、ゴム又は熱可塑性エラストマーが用いられていることを特徴とする請求項11に記載の車両のシール装置。
【請求項13】
前記窓板が上昇移動するときに、前記窓板の動力が該窓板の面に接触するシールリップに伝達されて前記シール支持棒が回転駆動されることを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項14】
前記窓板が上昇移動するときに、前記窓板の面に接触するシールリップが該窓板の面から離れる前に次のシールリップが該窓板の面に接触することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項15】
前記窓開口縁に取り付けられるトリム材に固定されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の車両のシール装置。
【請求項16】
前記窓開口縁に取り付けられるトリム材を介さずに前記窓開口縁に固定されることを特徴とする請求項1乃至14のいずれかに記載の車両のシール装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−1086(P2012−1086A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137259(P2010−137259)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000219705)東海興業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】