説明

車両のスライドドア用ガイドローラー

【課題】外周面に合成樹脂の被覆部を設けたスライドドア用ガイドローラーの転動性および耐久性を向上させること。
【解決手段】車体のガイドレール8に沿って転動するスライドドアのガイドローラー2であって、支軸3に固定された金属製の内輪4と、これに回転可能に保持された金属製の外輪6と、その外周面61に固着されてこれを被覆して外輪6と一体に回転する合成樹脂の被覆部7とで構成され、外輪6の外周面61に、その周方向に対して斜め方向に延びる複数条の傾斜溝63を外周面61の幅方向に所定の間隔をおいて設け、合成樹脂材料を外周面61にインサート成形して被覆部7を形成し、被覆部7の内周面71と外輪6の外周面61とを凹凸状に密着せしめて長期使用にかかわらず、スライドドア開閉時に被覆部7と外輪6との間に外輪6の周方向に滑りが生じるのを防止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のスライドドア用ガイドローラーに関するものである
【背景技術】
【0002】
図2に示すように、一般にワゴン車のスライドドア1は、その上縁前端、下縁前端、および後縁中段にそれぞれ設置されたガイドローラー2を、車体のドア開口部10の上縁、下縁、およびドア開口部10の後方の車体の外側面に沿ってそれぞれ設けられたガイドレール8に係合せしめて車体へ建付けられ、上記各ガイドローラー2が各ガイドレール8に沿って転動移動することでスライドドア1が開閉移動するようにしている。
【0003】
図3は従来の代表的なガイドローラー2を示し、ガイドローラー2は図略のスライドドアに設けられたローラアームから突出する支軸3に、金属製の内輪4がカシメ固定され、内輪4の外周に、鋼球等の転動部材5を介して金属製の外輪6が回転自在に設置されている。
【0004】
またガイドローラー2は、ガイドレール8に沿って転動するときの転動音を小さくするために、外輪6の外周面61が合成樹脂の被覆部7で被覆され、被覆部7をガイドレール8に当てるようにしている。
被覆部7は、金型にセットした外輪6の外周に合成樹脂材料を注入するインサート成形により外輪6の外周面61に一体に固着されている。この場合、被覆部7の外輪6への固着性をよくするために、外輪6の外周面61にその周方向に沿って平行に複数条の円周溝62,62を形成しておき、上記インサート成形時に、被覆部7の合成樹脂材が円周溝62,62に充填され、外輪6の外周面61と被覆部7の内周面とが凹凸状に密着するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−351249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガイドローラー2は、長期使用により、合成樹脂からなる被覆部7に経年劣化や変形が生じ、外輪6の外周面61との結合力が低下して、スライドドアの開閉時に被覆部7が外輪6の外周面61に対してその周方向に滑るおそれがある。外輪6に対して被覆部7が滑ると、スライドドアの開閉時にガイドローラー2がガイドレール8内をスムーズに転動しないので引きずられるように滑り、ドアの開閉操作が重くなり、また異音が発生するといった問題が生じる。
そこで本発明は長期使用しても外輪とその外周面を被覆する合成樹脂の被覆部との間でスライドドア開閉時に滑りが発生せず、耐久性の良好な車両のスライドドア用ガイドローラーを実現することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両のスライドドアに設けられた支軸に回転可能に保持せしめ、スライドドア開閉時に、車体に設置されたガイドレールに沿って転動するガイドローラーであって、上記支軸に固定された金属製の内輪と、該内輪に回転可能に保持された金属製の外輪と、上記外輪の外周面に固着されてこれを被覆し、外輪と一体に回転する合成樹脂の被覆部とで構成された車両のスライドドア用ガイドローラーにおいて、上記外輪の外周面に、その周方向に対して斜め方向に延びる複数条の傾斜溝を上記外周面の幅方向に所定の間隔をおいて設け、上記被覆部を上記外周面にインサート成形により形成し、被覆部の内周面と上記外周面とを凹凸状に密着せしめる(請求項1)。
外輪の外周面に形成した複数条の傾斜溝は外輪の回転方向に対して傾斜方向に形成されているので、外輪と被覆部との結合力が低下しても、スライドドア開閉時に被覆部が外輪に対して滑るのを防止できる。
【0007】
上記外輪の外周面にはその幅方向の両側縁に、外周面の周方向に沿う円周溝を設け、上記複数条の傾斜溝を、上記両円周溝の間で、両円周溝をつなぐように設けるようになす(請求項2)。
複数条の傾斜溝により被覆部が外輪に対して周方向に滑ることを防ぎ、円周溝により被覆部が外輪の外周面に対して軸方向(幅方向)にずれるのを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図2に示すスライドドア1の上縁前端、下縁前端および後縁中間位置で、スライドドア1を開閉案内する各ガイドローラー2に本発明を適用した実施形態を説明する。
スライドドア1の上縁前端、下縁前端および後縁中間位置の各ガイドローラー2は、ドアから車内方向に突出するローラアームの先端に立設した支軸に水平方向に回転自在に軸支されている。なお、下縁前端および後縁中間位置では、上記水平方向に支持されたガイドローラー2とともに、ローラアームから水平に突設した支軸に垂直方向に回転自在に軸支されたガイドローラーが設けてあり、スライドドア1をガイドレール8に支持せしめている。上記各ガイドローラー2の基本構造は同一で、図1に基いて水平方向に軸支されたガイドローラー2の構造を説明する。
【0009】
図1に示すように、ガイドローラー2は、中心に貫通穴を有する金属製の内輪4と、内輪4の外周に、リング状の保持部材50に支持された複数個の鋼球からなる転動部材5を介して回転可能に装着した金属製の外輪6とで構成してある。内輪4と外輪6との間隙には上部および下部が、芯材を埋設したゴム製の平板リング状のシール材51で密閉してあり、密閉された間隙内には転動部材5の作動を円滑にする潤滑剤53が充填してある。
【0010】
外輪6の外周面61には、その幅方向の両側縁に沿ってそれぞれ、外周面61の周方向に延びる円周溝62が形成してある。
また外周面61には両円周溝62間に、両円周溝62をつなぐように、外周面61の周方向に対して斜め方向に延びる傾斜溝63が複数条ほぼ平行に形成してある。各傾斜溝63は、外周面61の幅方向に一定の間隔をおいて形成してある。各傾斜溝63の傾斜角は外周面61の周方向に対して傾斜角が10°〜30°の範囲に設定してある。
【0011】
そして外輪6の外周面61は合成樹脂からなる厚肉の被覆部7で被覆してある。被覆部7の合成樹脂材料としては例えばナイロンまたはポリアセタール樹脂が用いられる。
被覆部材7は、金型内に予め外輪6をセットした状態で外輪6の外周の金型内に上記材料を注入するするインサート成形により成形され、外輪6の外周面61に一体に固着してある。この場合、外周面61の各円周溝62および各傾斜溝63に上記材料が充填され、これにより被覆部7の内周面71に、上記各円周溝62および各傾斜溝63に密着する複数条の凸部72が形成される。
【0012】
支軸3は金属製の円柱体で、根本部30に比べてガイドローラー2を支持する支持部31が細くしてある。
ガイドローラー2は、その内輪3の貫通孔に支軸3の支持部31を圧入して貫通せしめた状態で、支軸3の先端に内輪4の内径よりも大径の金属リング状の押さえ板33を嵌合してこれを支軸3先端にカシメ固定して、押さえ板33と、支軸3の支持部31および根本部30との間の段差とで内輪4を上下に挟み込んで固定してある。
これによりガイドローラー2は支軸3に固定支持された内輪4に対して、転動部材5を介して外輪6および被覆部7が一体に回転する。
【0013】
ガイドローラー2は、車体側に設けられた下向きの断面コ字形をなすガイドレール8にその下方より嵌入し、被覆部7の外周面70をガイドレール8の対向側壁81の内面に転動自在に当接せしめ、スライドドアの開閉時にガイドレール8に沿って転動してスライドドアを開閉案合する。
【0014】
ガイドローラー2は、長期使用により合成樹脂製の被覆部7が経年劣化して被覆部7の内周面71と外輪6の外周面61との結合力が低下する。
本実施形態によれば、内周面71の凸部72と外周面61の傾斜溝63とが外周面61の周方向と交差する傾斜方向に嵌合しているので、上記結合力が低下しても、スライドドア開閉時、外輪6に対して被覆部7が外輪6の外周面61の周方向に滑ることがなく、被覆部7は外輪6と一体にガイドレール8内をスムーズに転動移動する。従って、外輪の外周面に周方向に円周溝を設けてその上に被覆部を形成した従来のガイドローラーのように、スライドドアの開閉操作が重くなったり異音が発生したりすることがなく耐久性が良好である。
また、被覆部7は、その内周面71の幅方向両側の凸部72が外輪6の外周面61の幅方向両側縁に沿う円周溝62に嵌合しているので、外輪6の外周面61に対して軸方向(幅方向)にずれることもない。
【0015】
本実施形態では、外輪6の外周面61の傾斜溝63はその傾斜角を、外周面61の周方向に対して10°〜30°の範囲と比較的小さく設定したが、これよりも傾斜角を大きく設定してもよい。しかしながら傾斜溝63はその傾斜角を小さくすることで、円周溝62と同様に、傾斜溝63も外輪6を周方向に回転させた状態で切削加工や転造加工により形成することができ、低コストですむ。一方、傾斜角を小さくし過ぎると被覆部7の滑り防止効果が低下するおそれがあり、傾斜角を10°ないしそれ以上とすることが望ましい。
また、本発明は水平に設置したガイドローラーに限らず垂直に設置したガイドローラーにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用したガイドローラーの一部断面とした側面図である。
【図2】車両のスライドドアの支持構造を示す概略説明図である。
【図3】図1に対応して、従来のガイドローラーの一部断面とした側面図である。
【符号の説明】
【0017】
1 スライドドア
2 ガイドローラー
3 支軸
4 内輪
5 転動部材
6 外輪
61 外周面
62 円周溝
63 傾斜溝
7 被覆部
8 ガイドレール



【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のスライドドアに設けられた支軸に回転可能に保持せしめ、スライドドア開閉時に、車体に設置されたガイドレールに沿って転動するガイドローラーであって、上記支軸に固定された金属製の内輪と、該内輪に回転可能に保持された金属製の外輪と、上記外輪の外周面に固着されてこれを被覆し、外輪と一体に回転する合成樹脂の被覆部とで構成された車両のスライドドア用ガイドローラーにおいて、
上記外輪の外周面に、その周方向に対して斜め方向に延びる複数条の傾斜溝を上記外周面の幅方向に所定の間隔をおいて設け、上記被覆部を上記外周面にインサート成形により形成し、被覆部の内周面と上記外周面とを凹凸状に密着せしめたことを特徴とする車両のスライドドア用ガイドローラー。
【請求項2】
上記外輪の外周面にはその幅方向の両側縁に、外周面の周方向に沿う円周溝を設け、
上記複数条の傾斜溝を、上記両円周溝の間で、両円周溝をつなぐように設けた請求項1に記載の車両のスライドドア用ガイドローラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−102868(P2009−102868A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−275020(P2007−275020)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】