説明

車両の動力伝達装置

【課題】変速機に設けられているシンクロ機構の過度の摩耗を防止することが可能な車両の動力伝達装置を提供する。
【解決手段】変速時に摩擦力を利用して軸とギアとを同期させるシンクロ機構21、22を備えた変速機10が内燃機関2と駆動輪4との間の動力伝達経路中に設けられた車両の動力伝達装置において、モータ・ジェネレータ3と、モータ・ジェネレータ3を変速機10の入力軸11又は出力軸12と選択的に接続する第2クラッチ32とを備え、シンクロ機構21、22が摩耗しているか否か診断し、シンクロ機構21、22が摩耗していると診断した場合にはモータ・ジェネレータ3が入力軸11と接続されるように第2クラッチ32が制御し、変速機10の変速が行われるときにモータ・ジェネレータ3を用いて入力軸11と変速後に用いられるドライブギアとを同期させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機にシンクロ機構が設けられ、かつ電動機の接続先を変速機の入力軸又は出力軸に選択的に切り替えることが可能な車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用動力源として内燃機関とモータ・ジェネレータとが搭載されたハイブリッド車両が知られている。このようなハイブリッド車両において内燃機関と駆動輪との間の動力伝達経路中に変速機が設けられ、その変速機の入力軸及び出力軸のうちのいずれか一方にモータ・ジェネレータを選択的に接続可能な車両が知られている(特許文献1参照)。その他、本発明に関連する先行技術文献として特許文献2、3が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−208518号公報
【特許文献2】特開2004−125114号公報
【特許文献3】特開平10−111218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されているような常時噛み合い式の変速機には、一般的に変速時に入力軸又は出力軸等の回転軸とその回転軸に設けられたギアとを同期させるためのシンクロ機構が設けられている。このようなシンクロ機構として回転軸とギアとを摩擦係合させ、摩擦力でこれらを同期させるものが知られている。このように摩擦係合によって回転軸とギアとを同期させるシンクロ機構では、摩擦係合させる部分が摩耗する。そして、この部分が過度に摩耗すると変速時にギア鳴り等の異常が発生するおそれがある。特許文献1には、このようなシンクロ機構の過度の摩耗を防止するために変速機をどのように制御するか開示されていない。
【0005】
そこで、本発明は、変速機に設けられているシンクロ機構の過度の摩耗を防止することが可能な車両の動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両の動力伝達装置は、走行用動力源と駆動輪との間の動力伝達経路中に変速機が設けられ、前記変速機は、前記走行用動力源から出力された動力が入力される入力軸と、前記駆動輪と動力伝達可能に接続された出力軸と、それぞれが一対のギアを有し、前記一対のギアの一方のギアが前記入力軸に設けられるとともに前記一方のギアと噛み合うように前記一対のギアの他方のギアが前記出力軸に設けられ、かつ互いに異なる変速比が設定された複数の変速ギア対と、前記複数の変速ギア対のうちのいずれか一つの変速ギア対による前記入力軸から前記出力軸への回転伝達を選択的に成立させることにより変速段を切り替える変速段切替機構と、を備え、前記変速段切替機構は、前記入力軸又は前記出力軸に設けられ、回転伝達に用いる変速ギア対を変更するときに、その設けられた軸とその軸に設けられて変更後に用いられる変速ギア対のギアとを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構を備えている車両の動力伝達装置において、電動機と、前記電動機を前記入力軸又は前記出力軸と選択的に接続するクラッチ手段と、前記シンクロ機構が摩耗しているか否か診断する摩耗診断手段と、前記摩耗診断手段により前記シンクロ機構が摩耗していると診断された場合に、前記電動機が前記入力軸と接続されるように前記クラッチ手段を制御し、前記変速段切替機構によって回転伝達に用いられる変速ギア対が変更されるときに前記シンクロ機構が設けられた軸とその軸に設けられて変更後に用いられる変速ギア対のギアとを前記電動機を用いて同期させる制御手段と、を備えた(請求項1)。
【0007】
本発明の動力伝達装置によれば、シンクロ機構が摩耗していると診断された場合には電動機が入力軸と接続され、変速時に電動機でシンクロ機構が設けられた軸と、その軸に設けられたギアとの同期が行われる。この場合、シンクロ機構で軸とギアとを同期させる必要がないので、シンクロ機構を保護できる。そのため、シンクロ機構の摩耗の進行を防止できる。従って、シンクロ機構が過度に摩耗することを防止できる。さらに、シンクロ機構に異常が有り、シンクロ機構で軸とギアの同期ができない場合であっても変速機の変速を行うことができる。
【0008】
本発明の動力伝達装置の一形態において、前記制御手段は、前記変速段切替機構によって回転伝達に用いられる変速ギア対が変更されるときに前記電動機が前記出力軸と接続されている場合には、変速ギア対の変更時に前記駆動輪に伝達されるトルクが変動しないように前記電動機の動作を制御してもよい(請求項2)。この形態によれば、変速時に駆動輪に伝達されるトルクの変動が抑制できる。そのため、ドライバビリティを改善できる。
【発明の効果】
【0009】
以上に説明したように、本発明の動力伝達装置によれば、シンクロ機構が摩耗していると診断された場合には電動機が入力軸と接続されるので、電動機で軸とギアの同期を行うことができる。そのため、シンクロ機構の摩耗を防止できる。従って、シンクロ機構が過度に摩耗することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれた車両を模式的に示す図。
【図2】第1シンクロ機構の断面を拡大して示す図。
【図3】変速途中の第1シンクロ機構の断面を示す図。
【図4】変速完了後の第1シンクロ機構の断面を示す図。
【図5】制御装置が実行する摩耗診断ルーチンを示すフローチャート。
【図6】制御装置が実行する変速補助制御ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の一形態に係る動力伝達装置が組み込まれた車両を模式的に示している。車両1には、走行用動力源として内燃機関2が搭載されている。また、この車両1には、電動機としてのモータ・ジェネレータ(以下、MGと略称する。)3が搭載されている。MG3は、電動機及び発電機として機能する周知のものであり、ロータ軸3aと一体回転するロータ3bと、ロータ3bの外周に同軸に配置されて不図示のケースに固定されたステータ3cとを備えている。
【0012】
この図に示すように車両1は、変速機10を備えている。変速機10は内燃機関2と駆動輪4との間の動力伝達経路中に設けられている。変速機10は、入力軸11と、出力軸12と、入力軸11と出力軸12との間に設けられた常時噛み合い式の第1〜第4変速ギア対G1〜G4とを備えている。第1変速ギア対G1は互いに噛み合う第1ドライブギア13及び第1ドリブンギア14にて構成され、第2変速ギア対G2は互いに噛み合う第2ドライブギア15及び第2ドリブンギア16にて構成されている。第3変速ギア対G3は互いに噛み合う第3ドライブギア17及び第3ドリブンギア18にて構成され、第4変速ギア対G4は互いに噛み合う第4ドライブギア19及び第4ドリブンギア20にて構成されている。各変速ギア対G1〜G4には互いに異なる変速比が設定されている。変速比は、第1変速ギア対G1、第2変速ギア対G2、第3変速ギア対G3、第4変速ギア対G4の順に小さくなるように設定されている。そのため、第1変速ギア対G1が1速に対応し、第2変速ギア対が2速に対応する。また、第3変速ギア対G3が3速に対応し、第4変速ギア対G4が4速に対応する。
【0013】
第1〜第4ドライブギア13、15、17、19は、入力軸11に対して相対回転可能なように入力軸11に設けられている。この図に示したようにこれらのギアは、第1ドライブギア13、第2ドライブギア15、第3ドライブギア17、第4ドライブギア19の順番で軸線方向に並ぶように配置されている。第1〜第4ドリブンギア14、16、18、20は、出力軸12と一体に回転するように出力軸12に固定されている。
【0014】
入力軸11には、第1シンクロ機構21及び第2シンクロ機構22が設けられている。第1シンクロ機構21は、第1ドライブギア13と第2ドライブギア15との間に設けられている。第2シンクロ機構22は、第3ドライブギア17と第4ドライブギア19との間に設けられている。第1シンクロ機構21及び第2シンクロ機構22は、いずれもいわゆるキー式シンクロメッシュ機構として構成されている。図2〜図4を参照して第1シンクロ機構21について説明する。なお、第2シンクロ機構22も第1シンクロ機構21と同様に構成されている。そのため、第2シンクロ機構22の説明は省略する。
【0015】
図2は、第1シンクロ機構21の断面を拡大して示している。第1シンクロ機構21は、クラッチハブ23と、キー24と、シンクロナイザリング25、26と、スリーブ27とを備えている。クラッチハブ23は、軸線方向Axに移動可能かつ入力軸11と一体回転するように入力軸11にスプライン嵌合されている。クラッチハブ23の外周には、キー24が設けられている。クラッチハブ23とキー24との間にはスプリング28が設けられている。スプリング28は、クラッチハブ23に固定されており、キー24を外周側に付勢している。また、クラッチハブ23の外周には、軸線方向Axに移動可能かつクラッチハブ23と一体回転するようにスリーブ27がスプライン嵌合されている。スリーブ27の外周面には、スリーブ27を軸線方向Axに駆動するためのシフトフォーク29が係合されている。この図に示すように第1ドライブギア13及び第2ドライブギア15には、第1シンクロ機構21に近付くにつれて半径が小さくなるコーン部13a、15aが設けられている。シンクロナイザリング25、26は、ドライブギア13、15に対して相対回転可能かつ軸線方向Axに相対移動可能なようにコーン部13a、15aの外周面に設けられている。この図に示すようにシンクロナイザリング25、26は、それぞれのクラッチハブ23側の端部がキー24とコーン部13a、15aとの間に配置されている。各シンクロナイザリング25、26の外周面には、スリーブ27がスライドしてきたときにスリーブ27のスプラインと噛み合うスプライン25a、26aが設けられている。また、各ドライブギア13、15には、シンクロナイザリング25、26の外側を通過してきたスリーブ27のスプラインと噛み合うスプライン部13b、15bが設けられている。第1シンクロ機構21では、スリーブ27のスプラインが第1ドライブギア13のスプライン部13bと噛み合うと入力軸11と第1ドライブギア13とが接続される。また、スリーブ27のスプラインが第2ドライブギア15のスプライン部15bと噛み合うと入力軸11と第2ドライブギア15とが接続される。
【0016】
この第1シンクロ機構21では、図3に示すようにシフトフォーク29によってスリーブ27が第1ドライブギア13側に駆動されると、スリーブ27とともにキー24及びクラッチハブ23も同様に駆動される。そして、この図に示すようにスリーブ27によってキー24が内周側に押し下げられると、キー24がシンクロナイザリング25をコーン部13aに押し付ける。これによりシンクロナイザリング25とコーン部13aとが摩擦係合し、入力軸11と第1ドライブギア13の同期が開始される。その後、入力軸11の回転数と第1ドライブギア13の回転数とが略等しくなると同期が終了し、スリーブ27がさらに第1ドライブギア13側に駆動される。そして、図4に示すようにスリーブ27のスプラインがシンクロナイザリング25のスプライン25a及び第1ドライブギア13のスプライン部13bとそれぞれ噛み合う。これにより入力軸11が第1ドライブギア13と接続される。
【0017】
上述した説明では、第1ドライブギア13と接続する場合について説明したが、第2ドライブギア15と接続する場合も同様に摩擦力にて入力軸11と第2ドライブギア15とを同期させ、その後これらを接続する。このようにシンクロ機構21では、摩擦力を利用して入力軸11とドライブギア13、15とを同期させている。
【0018】
図1に戻って変速機10の説明を続ける。この図に示すように変速機10は、各シンクロ機構21、22を駆動するためのアクチュエータ30を備えている。アクチュエータ30は、各シンクロ機構21、22のシフトフォーク29を駆動し、これによりスリーブ27を駆動する。このように変速機10の変速段の切り替えることにより、各シンクロ機構21、22及びアクチュエータ30が本発明の変速段切替機構に相当する。
【0019】
この図に示すように入力軸11には、第1クラッチ31を介して内燃機関2の出力軸2aが接続されている。第1クラッチ31は、内燃機関2と入力軸11との間で動力が伝達される係合状態と、その動力伝達が遮断される解放状態とに切り替え可能な周知のものである。MG3のロータ軸3aには、クラッチ手段としての第2クラッチ32が設けられている。ロータ軸3aと出力軸12との間には、常時噛み合い式のギア対34が設けられている。ギア対34は、出力軸12に固定された第1ギア35と、ロータ軸3aに設けられて第1ギア35と噛み合う第2ギア36とを備えている。
【0020】
第2クラッチ32は、ロータ軸3aと入力軸11とが相互に動力伝達可能に接続される第1係合状態と、ロータ軸3aと出力軸12とがギア対34を介して相互に動力伝達可能に接続される第2係合状態と、ロータ軸3aが入力軸11及び出力軸12のいずれとも切り離される解放状態とに切り替え可能に構成されている。第2クラッチ32には、例えばスリーブの位置を変更することにより接続先を切り替え可能な周知のドグクラッチが使用される。そのため、第2クラッチ32の詳細な説明は省略する。
【0021】
出力軸12には、出力ギア37が一体回転するように設けられている。出力ギア37は、デファレンシャル機構38のリングギア38aと噛み合っている。デファレンシャル機構38は、リングギア38aに入力された動力を左右の駆動輪4に伝達する周知の機構である。
【0022】
内燃機関2、MG3、変速機10の動作は、制御装置40にて制御される。制御装置40は、マイクロプロセッサ及びその動作に必要なRAM、ROM等の周辺機器を含んだコンピュータユニットとして構成されている。制御装置40は、車両1を適切に走行させるための各種制御プログラムを保持している。制御装置40は、これらのプログラムを実行することにより内燃機関2、MG3等の制御対象に対する制御を行っている。制御装置40は、例えば車両1の走行状態に応じて第2クラッチ32の状態を切り替える。また、制御装置40は、車両1に対して変速が要求された場合には変速機10の変速が完了するまで第1クラッチ31を解放状態に切り替える。制御装置40には、車両1に係る情報を取得するための種々のセンサが接続されている。例えば、アクセル開度に対応した信号を出力するアクセル開度センサ41等が接続されている。この他にも種々のセンサが接続されているが、それらの図示は省略した。
【0023】
また、制御装置40には、シフト操作装置42が接続されている。シフト操作装置42は、ドライバが操作するシフトレバー42aを有し、シフトレバー42aが動かされたシフト位置に応じた信号を出力する。制御装置40は、その出力信号に応じてアクチュエータ30を制御し、変速機10をシフト位置に応じた変速段に切り替える。例えば、シフトレバー42aが1速に切り替えられたときには第1変速ギア対G1を介して入力軸11と出力軸12との間の回転伝達が行われるようにアクチュエータ30を制御する。
【0024】
上述したように各シンクロ機構21、22は、シンクロナイザリング25、26とドライブギア13、15とを摩擦係合させることによって入力軸11とドライブギア13、15を同期させる。そのため、シンクロナイザリング25、26やドライブギア13、15のコーン部13a、15aが摩耗する。そして、この摩耗が過度に進行すると入力軸11とドライブギア13、15を同期させる際にギア鳴り等の異常が発生する可能性がある。そこで、制御装置40は、各シンクロ機構21、22が摩耗しているか否か診断する。また、各シンクロ機構21、22が摩耗している場合には、それ以上摩耗が進行しないように変速機10の動作を制御する。
【0025】
図5は、制御装置40がシンクロ機構21、22が摩耗しているか否か診断するために実行する摩耗診断ルーチンを示している。このルーチンは、車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。このルーチンを実行することにより制御装置40が摩耗診断手段として機能する。
【0026】
このルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS11で車両1に対して変速が要求されたか否か判定する。変速が要求されたか否かは、ドライバによってシフトレバー42aのシフト位置が変更されたか否かに応じて判定すればよい。変速が要求されていないと判定した場合には今回のルーチンを終了する。
【0027】
一方、変速が要求されたと判定した場合にはステップS12に進み、制御装置40はシンクロ機構21、22のシンクロナイザリング25、26等が摩耗しているか否か診断する。この摩耗診断は、例えば変速時のスリーブ27のストローク量、入力軸11の回転数、及び出力軸12の回転数に基づいて行えばよい。シンクロナイザリング25、26やコーン部13a、15aが摩耗していない場合、スリーブ27が図3に示した位置まで動かされるとシンクロナイザリング25、26とコーン部13a、15aとが接触して同期が開始される。これにより入力軸11とスリーブ27が接触したドライブギアとの回転数差が小さくなる。各ドライブギア13、15、17、19は、ドリブンギア14、16、18、20と常に噛み合っている。そのため、スリーブ27がいずれかのドライブギアと摩擦係合すると出力軸12の回転数は、そのドライブギアを含む変速ギア対の変速比及び入力軸11の回転数に応じた回転数とほぼ同じになる。
【0028】
これに対してシンクロナイザリング25、26やコーン部13a、15aが摩耗している場合には、スリーブ27が図3に示した位置まで動かされてもシンクロナイザリング25、26とコーン部13a、15aとが十分に摩擦係合しない。そのため、同期が行われず、変速後にスリーブ27が噛み合うべきドライブギアを含む変速ギア対の変速比及び入力軸11の回転数に基づいて求められる回転数と出力軸12の回転数との差が大きいままに維持される。そこで、例えばスリーブ27が所定の位置まで動かされたときに、変速後にスリーブ27が噛み合うべきドライブギアを含む変速ギア対の変速比及び入力軸11の回転数から求められた回転数と出力軸12の回転数との差が予め設定した許容範囲外の場合に、シンクロ機構21、22が摩耗していると診断すればよい。
【0029】
次のステップS13において制御装置40は、摩耗診断の結果に基づいてシンクロ機構21、22が摩耗しているか否か判定する。摩耗していると判定した場合にはステップS14に進み、制御装置40はシンクロ機構21、22が摩耗していることを示す摩耗フラグをオンに切り替える。その後、今回のルーチンを終了する。一方、摩耗していないと判定した場合にはステップS15に進み、制御装置40は摩耗フラグをオフに切り替える。その後、今回のルーチンを終了する。なお、摩耗フラグは制御装置40のRAMに記憶され、制御装置40が実行する他のルーチンで使用される。
【0030】
図6は、制御装置40が変速機10の変速を補助するために実行する変速補助制御ルーチンを示している。この制御ルーチンは車両1の走行中に所定の周期で繰り返し実行される。この制御ルーチンを実行することにより制御装置40が本発明の制御手段として機能する。
【0031】
この制御ルーチンにおいて制御装置40は、まずステップS21において摩耗フラグがオンか否か判定する。摩耗フラグがオフと判定した場合にはステップS22をスキップしてステップS23に進む。一方、摩耗フラグがオンと判定した場合にはステップS22に進み、制御装置40は第2クラッチ32を第1係合状態に切り替えてMG3を入力軸11と接続する。次のステップS23において制御装置40は車両1に対して変速が要求されたか否か判定する。ここでは図5のステップS11と同様の処理が行われる。変速が要求されていないと判定した場合には、今回の制御ルーチンを終了する。
【0032】
一方、変速が要求されたと判定した場合にはステップS24に進み、制御装置40はMG3の接続先が入力軸11か否か判定する。接続先が入力軸11と判定した場合にはステップS25に進み、制御装置40は回転同期制御を実行する。周知のように変速が行われる場合、各シンクロ機構21、22のスリーブ27と各ドライブギア13、15、17、19との接続が一時解除される。これにより各シンクロ機構21、22が一時図2に示したニュートラル状態になる。回転同期制御では、この状態において入力軸11の回転数をMG3で調整し、変速後にスリーブ27が噛み合うべきドライブギアと入力軸11とを同期させる。そして、変速が完了するまで入力軸11とドライブギアの同期を行う。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0033】
一方、MG3の接続先が入力軸11ではないと判定した場合にはステップS26に進み、制御装置40は接続先が出力軸12か否か判定する。接続先が出力軸12ではない、すなわち第2クラッチ32が解放状態と判定した場合には、今回の制御ルーチンを終了する。一方、接続先が出力軸12と判定した場合にはステップS27に進み、制御装置40はトルク補償制御を実行する。上述したように変速時には各シンクロ機構21、22が一時図2に示したニュートラル状態になる。この場合には内燃機関2のトルクが出力軸12に伝達されないため、駆動輪4に伝達されるトルクが一時減少する。また、同様に第1クラッチ31が解放状態に切り替えられてから変速完了後に第1クラッチ31が係合状態に切り替えられるまでの期間においても内燃機関2のトルクが出力軸12に伝達されない。そのため、この期間も駆動輪4に伝達されるトルクが減少する。トルク補償制御では、これらのときにMG3で出力軸12を駆動し、このトルクの減少を補償する。これにより変速時に一時的に駆動輪4に伝達されるトルクが低下する、いわゆるトルク抜けを防止する。その後、今回の制御ルーチンを終了する。
【0034】
本発明の動力伝達装置によれば、シンクロ機構21、22が摩耗していると診断された場合には、MG3が入力軸11と接続されて変速時に回転同期制御が実行される。この制御では、シンクロ機構21、22がニュートラル状態の時に入力軸11とドライブギアとの同期を行うため、シンクロナイザリング25、26とコーン部13a、15aとを摩擦係合して入力軸11とドライブギアとを同期する必要がない。そのため、シンクロ機構21、22を保護できる。これによりシンクロ機構21、22の摩耗の進行を抑制できるので、シンクロ機構21、22の過度の摩耗を防止できる。さらにシンクロ機構21、22に異常が有り、シンクロ機構21、22で同期を行うことができない場合であっても変速機10の変速を行うことができる。
【0035】
また、本発明では、変速時にMG3が出力軸12と接続されている場合にはトルク補償制御を実行するので、変速時にトルク抜けが発生することを防止できる。また、この場合にはMG3で駆動輪4を駆動できるので、変速時でもドライバの要求するトルクで車両1を走行させることができる。そのため、ドライバビリティを改善できる。
【0036】
本発明は、上述した形態に限定されることなく、種々の形態にて実施することができる。例えば、本発明に設けられる変速機のシンクロ機構は、キー式シンクロメッシュ機構に限定されない。本発明に設けられる変速機には、変速時に摩擦力を利用して回転軸とギアとの同期を行う種々のシンクロ機構を設けてよい。また、本発明に設けられる変速機は、シンクロ機構が入力軸に設けられた変速機に限定されない。例えば、各ドライブギアが入力軸に一体回転するように設けられるとともに各ドリブンギアが出力軸に相対回転可能に支持され、かつ出力軸とドリブンギアとの間にシンクロ機構が設けられた変速機であってもよい。
【0037】
上述した形態では、モータ・ジェネレータを変速機の入力軸又は出力軸と選択的に接続したが、モータ・ジェネレータの代わりに電動機としてのみ機能する電動モータを設けてもよい。
【0038】
シンクロ機構のシンクロナイザリングやギアのコーン部が摩耗しているか否か診断する方法は、上述した形態で示した方法に限定されない。これらの部分の摩耗を検出可能な種々の方法を用いてよい。
【符号の説明】
【0039】
1 車両
2 内燃機関(走行用動力源)
3 モータ・ジェネレータ(電動機)
4 駆動輪
10 変速機
11 入力軸
12 出力軸
21 シンクロ機構(変速段切替機構)
22 シンクロ機構(変速段切替機構)
30 アクチュエータ(変速段切替機構)
32 第2クラッチ(クラッチ手段)
40 制御装置(制御手段、摩擦診断手段)
G1〜G4 変速ギア対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用動力源と駆動輪との間の動力伝達経路中に変速機が設けられ、
前記変速機は、前記走行用動力源から出力された動力が入力される入力軸と、前記駆動輪と動力伝達可能に接続された出力軸と、それぞれが一対のギアを有し、前記一対のギアの一方のギアが前記入力軸に設けられるとともに前記一方のギアと噛み合うように前記一対のギアの他方のギアが前記出力軸に設けられ、かつ互いに異なる変速比が設定された複数の変速ギア対と、前記複数の変速ギア対のうちのいずれか一つの変速ギア対による前記入力軸から前記出力軸への回転伝達を選択的に成立させることにより変速段を切り替える変速段切替機構と、を備え、
前記変速段切替機構は、前記入力軸又は前記出力軸に設けられ、回転伝達に用いる変速ギア対を変更するときに、その設けられた軸とその軸に設けられて変更後に用いられる変速ギア対のギアとを摩擦力を利用して同期させるシンクロ機構を備えている車両の動力伝達装置において、
電動機と、前記電動機を前記入力軸又は前記出力軸と選択的に接続するクラッチ手段と、前記シンクロ機構が摩耗しているか否か診断する摩耗診断手段と、前記摩耗診断手段により前記シンクロ機構が摩耗していると診断された場合に、前記電動機が前記入力軸と接続されるように前記クラッチ手段を制御し、前記変速段切替機構によって回転伝達に用いられる変速ギア対が変更されるときに前記シンクロ機構が設けられた軸とその軸に設けられて変更後に用いられる変速ギア対のギアとを前記電動機を用いて同期させる制御手段と、を備えた動力伝達装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記変速段切替機構によって回転伝達に用いられる変速ギア対が変更されるときに前記電動機が前記出力軸と接続されている場合には、変速ギア対の変更時に前記駆動輪に伝達されるトルクが変動しないように前記電動機の動作を制御する請求項1に記載の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−60043(P2013−60043A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198333(P2011−198333)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】