説明

車両の懸架装置

【課題】車両の前進走行中に、走行面側から懸架装置のロアアームの突出端部に対し車体後方に向かう過大な負荷が与えられたとしても、懸架装置の所定構成が、より確実にそのままに維持されるようにする。
【解決手段】ロアアーム9の基部9bを車体に枢支する前、後枢支具11,12を設ける。ボールジョイント14のボールスタッド46が上下方向に延びる軸心45を有し、その基部46aがナックル15の下端部に固着される。ボールスタッド46のボール部46bがロアアーム9の突出端部9aに枢結される。前、後枢支具11,12とボールジョイント14との各枢支中心点36,42,51をそれぞれ通る単一の仮想平面57を設定する。後枢支具12の近傍におけるロアアーム9の基部9bの部分に貫通孔58を形成して、ロアアーム9の基部9bの部分における断面の剪断中心を仮想平面57の上方もしくは下方に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側に上下揺動可能に枢支されて、その揺動端部にボールジョイントを介しステアリングナックルを枢支するロアアームを備えた車両の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記車両の懸架装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、車両の懸架装置は、車体側から外側方に向かって突出するロアアームと、このロアアームの突出端部側が上下に揺動可能となるようこのロアアームの基部を上記車体に枢支する前、後枢支具と、車輪を支持して上記ロアアームの突出端部の上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアームの突出端部にボールジョイントを介して枢支されるステアリングナックルとを備えている。上記ボールジョイントのボールスタッドは上下方向に延びる軸心を有し、その基部が上記ナックルの下端部に固着される一方、上記ボールスタッドのボール部が上記ロアアームの突出端部に枢結されている。また、従来、ロアアームには、中空構造の板金製のものが多く見られる。
【0003】
そして、車両の走行中、走行面側から上記車輪に対し衝撃力が与えられるとき、上記ロアアームの突出端部と共に上記ボールジョイント、ステアリングナックルおよび車輪が一体的に上下に揺動し、この揺動に基づき、走行面側から車体側に与えられる衝撃力が緩和されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−106931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両の前進走行中、車輪が不意に段差に乗り上げるなどして、通常走行時の負荷を越えた過大な負荷が、上記車輪、ステアリングナックル、およびボールジョイントを順次介し走行面側から上記ロアアームの突出端部に対し車体の後方に向かって与えられたとする。
【0006】
ここで、前記した従来の技術では、ボールジョイントのボールスタッドは上下方向に延びる軸心を有し、その基部が上記ナックルの下端部に固着され、ボール部は上記ロアアームの突出端部に枢結されている。このため、上記したように、ボールジョイントを介しロアアームの突出端部に過大な負荷が与えられたとすると、このロアアームは、まず、その突出端部側が基部側に対し後方移動するよう変形すると共に、このロアアームの突出端部とボールスタッドのボール部とが互いに枢結状態を維持したままで、このボール部の枢支中心を中心として上記ロアアームの突出端部が捩り変形し始める。
【0007】
また、上記した過大な負荷が引き続き与えられると、上記ロアアームの突出端部の捩り変形が進行して、この突出端部が上記ボールスタッドの外周面の一部に圧接し始め、これらロアアームの突出端部とボールスタッドとが互いにこじり力を与え合うこととなる。そして、更に、上記ロアアームの突出端部の捩り変形が進行して上記した互いのこじり力が増加したとすると、遂には、このこじり力により上記ロアアームの突出端部から上記ボールスタッドのボール部が離脱し、上記ロアアームの突出端部とボールスタッドのボール部との枢結が解除されるおそれが生じる。つまり、上記懸架装置の所定構成が解除されるおそれが生じ、これは車両にとって好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車両の前進走行中に、走行面側から懸架装置のロアアームの突出端部に対し車体後方に向かう過大な負荷が与えられたとしても、懸架装置の所定構成が、より確実にそのままに維持されるようにし、かつ、これが簡単な構成で達成できるようにすることである。
【0009】
請求項1の発明は、車体2側から外側方に向かって突出する中空構造のロアアーム9と、このロアアーム9の突出端部9a側が上下に揺動可能となるようこのロアアーム9の基部9bを上記車体2に枢支する前、後枢支具11,12と、車輪3を支持して上記ロアアーム9の突出端部9aの上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアーム9の突出端部9aにボールジョイント14を介して枢支されるステアリングナックル15とを備え、上記ボールジョイント14のボールスタッド46が上下方向に延びる軸心45を有し、その基部46aが上記ナックル15の下端部に固着される一方、上記ボールスタッド46のボール部46bが上記ロアアーム9の突出端部9aに枢結された車両の懸架装置において、
上記前、後枢支具11,12とボールジョイント14との各枢支中心点36,42,51をそれぞれ通る単一の仮想平面57を設定し、上記後枢支具12の近傍における上記ロアアーム9の基部9bの部分に貫通孔58を形成して、このロアアーム9の基部9bの部分における断面の剪断中心59を上記仮想平面57の上方もしくは下方に位置させたことを特徴とする車両の懸架装置である。
【0010】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0011】
本発明による効果は、次の如くである。
【0012】
請求項1の発明は、車体側から外側方に向かって突出する中空構造のロアアームと、このロアアームの突出端部側が上下に揺動可能となるようこのロアアームの基部を上記車体に枢支する前、後枢支具と、車輪を支持して上記ロアアームの突出端部の上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアームの突出端部にボールジョイントを介して枢支されるステアリングナックルとを備え、上記ボールジョイントのボールスタッドが上下方向に延びる軸心を有し、その基部が上記ナックルの下端部に固着される一方、上記ボールスタッドのボール部が上記ロアアームの突出端部に枢結された車両の懸架装置において、
上記前、後枢支具とボールジョイントとの各枢支中心点をそれぞれ通る単一の仮想平面を設定し、上記後枢支具の近傍における上記ロアアームの基部の部分に貫通孔を形成して、このロアアームの基部の部分における断面の剪断中心を上記仮想平面の上方もしくは下方に位置させている。
【0013】
つまり、上記発明によれば、ロアアームの基部の部分が上記後枢支具の近傍に位置している分、上記基部の部分は上記ロアアームの突出端部と前枢支具とから遠く離れており、しかも、上記基部の部分では、その断面の剪断中心が単一の上記仮想平面の上方もしくは下方に位置している。
【0014】
このため、車両の前進走行中、車輪が不意に段差に乗り上げるなどして、通常走行時の負荷を越えた過大な負荷が、上記車輪、ステアリングナックル、およびボールジョイントを順次介し走行面側から上記ロアアームの突出端部に対し車体の後方に向かって与えられたときには、上記したようにロアアームの基部の部分が上記ロアアームの突出端部と前枢支具とから遠く離れており、しかも、その剪断中心が上記仮想平面から離れていることにより、上記ロアアームの基部の部分にはより大きい曲げ応力が生じて、この基部の部分がより早い段階で山折れ状もしくは谷折れ状に屈曲させられる。
【0015】
よって、上記したロアアームの基部の部分の屈曲に伴い、このロアアームの突出端部を含むロアアームの前縁部は全体的に上記前枢支具をほぼ中心として後方回動しがちとなり、かつ、このロアアームの突出端部は、上記負荷による捩り変形が抑制されたまま、その基部に対し後方に向かってほぼ平行移動させられる。このため、上記ロアアームの突出端部とボールスタッドのボール部との枢結状態が維持されることから、上記ロアアームの突出端部とボールスタッドとが互いにこじり力を与え合うことが抑制されて、上記ロアアームの突出端部からのボールスタッドの離脱が防止される。つまり、前進走行中に、上記したように過大な負荷が与えられたとしても、上記懸架装置の所定構成は、より確実にそのままに維持される。
【0016】
また、上記した懸架装置の所定構成が維持される、という効果は、前記したように、ロアアームの基部の部分に貫通孔を形成して、このロアアームの基部の部分の剪断中心を仮想平面の上方もしくは下方に位置させることにより達成されることから、例えば、ボールスタッドの離脱防止としてロアアームを補強するために別途の補強板を設定する、というような複雑な構成を必須としないで足りる。よって、上記効果は、懸架装置の部品点数の増加を抑制して、簡単な構成で達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】車両の部分正面図である。
【図2】ロアアームの平面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1の部分拡大断面図である。
【図5】図2のV−V線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の車両の懸架装置に関し、車両の前進走行中に、走行面側から懸架装置のロアアームの突出端部に対し車体後方に向かう過大な負荷が与えられたとしても、懸架装置の所定構成が、より確実にそのままに維持されるようにし、かつ、これが簡単な構成で達成できるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0019】
即ち、車両の車体前部構造は、車体側から外側方に向かって突出する中空構造のロアアームと、このロアアームの突出端部側が上下に揺動可能となるようこのロアアームの基部を上記車体に枢支する前、後枢支具と、車輪を支持して上記ロアアームの突出端部の上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアームの突出端部にボールジョイントを介して枢支されるステアリングナックルとを備える。上記ボールジョイントのボールスタッドが上下方向に延びる軸心を有し、その基部が上記ナックルの下端部に固着される一方、上記ボールスタッドのボール部が上記ロアアームの突出端部に枢結される。
【0020】
上記前、後枢支具とボールジョイントとの各枢支中心点をそれぞれ通る単一の仮想平面を設定し、上記後枢支具の近傍における上記ロアアームの基部の部分に貫通孔を形成して、このロアアームの基部の部分における断面の剪断中心を上記仮想平面の上方もしくは下方に位置させている。
【実施例】
【0021】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0022】
図において、符号1は、自動車で例示される車両である。また、矢印Frは、この車両1の進行方向の前方を示している。上記車両1は、車体2と、この車体2の前部に対し左右前車輪3をそれぞれ懸架させる懸架装置4とを備え、車体2の前部は、上記車輪3と懸架装置4とにより走行面上に支持される。
【0023】
上記車体2の前部は、その下部を構成し車体2の骨格部材とされる不図示の車体フレームと、この車体フレームの下方に配置されてこの車体フレームに強固に支持されるサブフレーム7と、上記車体フレームに支持され、車体2の前部の各上側部を構成する板金製のサスペンションタワー8とを備えている。
【0024】
上記懸架装置4は、上記車体2のサブフレーム7の各側部側から外側方に向かって突出するロアアーム9と、車体2の前後方向に延びる軸心10回りで、上記ロアアーム9の突出端部9a側が上下に揺動A可能となるようこのロアアーム9の基部9bを上記サブフレーム7に枢支する前、後枢支具11,12とを備えている。
【0025】
また、上記懸架装置4は、上記車輪3を支持して上記ロアアーム9の突出端部9aの上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアーム9の突出端部9aにボールジョイント14を介して枢支されるステアリングナックル15と、軸心が上下方向に延び、上記サスペンションタワー8の上端部とナックル15の上端部との間に介設され、これら8,15にそれぞれ締結具16,17により固着される油圧シリンダ式の緩衝器18とを備えている。
【0026】
上記車輪3は、車体2の前部に支持された不図示のエンジンに対し駆動軸21と等速ジョイント22とを介し連動するよう連結されている。
【0027】
上記ロアアーム9の基部9bは、上記サブフレーム7の外側縁部に沿って車体2の前後方向に細長く延びている。また、上記突出端部9a側は、上記基部9bの前端部から車体2の外側方に向かって一体的に直線的に細長く延びている。つまり、上記ロアアーム9は、車体2の平面視(図2)で、全体的にL字形状をなしている。
【0028】
上記ロアアーム9は板金製で、内部空間25を有する中空構造とされている。具体的には、このロアアーム9は、上下に重ねられて互いに結合される上、下板26,27を備えている。
【0029】
上記上板26は、その各部断面が倒立U字形状となるよう屈曲形成されて、水平方向で互いに対面する一対の外側板29,29と、ほぼ水平方向に延び、これら外側板29,29の各上端縁部同士を一体的に結合する天井板30とを備えている。一方、上記下板27は、上記天井板30の下側に位置してこの天井板30とほぼ平行に延び、上記一対の外側板29,29の下端部に架設されて溶接により結合されている。そして、上記上、下板26,27の間に上記内部空間25が形成され、この内部空間25の各部断面は、水平方向に長い長方形状とされている。
【0030】
前記前枢支具11は、前記軸心10上に配置され、締結具33により上記サブフレーム7の前側部に前、後両端支持される支持パイプ34と、この支持パイプ34に外嵌されるゴム製の弾性ブッシュ35とを備えている。そして、上記支持パイプ34に対し上記ブッシュ35を介し上記ロアアーム9の基部9bの前部が枢支されている。上記前枢支具11の枢支中心点36は、上記軸心10上、かつ、上記ブッシュ35の軸方向の中央部に位置している。
【0031】
前記後枢支具12は、軸心38が上下方向に延びて前記軸心10に直交するよう配置され、締結具39により上記サブフレーム7の後側部に上、下両端支持される支持パイプ40と、この支持パイプ40に外嵌されるゴム製の弾性ブッシュ41とを備えている。そして、上記支持パイプ40に対し上記ブッシュ41を介し上記ロアアーム9の基部9bの後部が枢支されている。上記後枢支具12の枢支中心点42は、上記軸心10上、かつ、上記ブッシュ41の軸方向の中央部であって、上記軸心10と支持パイプ40の軸心38との交点に位置している。
【0032】
前記ボールジョイント14は、軸心45が上下方向に延びるボールスタッド46を備えている。このボールスタッド46は、その上部がテーパ形状の基部46aとされている。この基部46aは、上記ナックル15の下端部に形成されたテーパ孔47に嵌入され、締結具48により上記ナックル15の下端部に締結されて強固に固着されている。
【0033】
上記ボールスタッド46は、その下部がボール部46bとされている。このボール部46bの中心が枢支中心点51とされ、この枢支中心点51は上記ボールスタッド46の軸心45上に位置している。上記ボール部46bには、上記枢支中心点51回りに自由に回動可能となるよう金属製のソケットシート52が外嵌され、つまり、上記ボール部46bとソケットシート52とは互いに枢結されている。
【0034】
一方、上記ロアアーム9の突出端部9aには上記ボールスタッド46の軸心45上で金属製のソケット53が溶接により結合され、このソケット53の上端部には内向きフランジ54が一体的に形成されている。そして、上記ソケット53に対し、その下方から上記ソケットシート52が圧入され、このソケットシート52の上端は上記内向きフランジ54に当接している。これにより、上記ボールスタッド46のボール部46bと上記ロアアーム9の突出端部9aとが互いに枢結されている。
【0035】
上記前、後枢支具11,12の各枢支中心点36,42と、ボールジョイント14の枢支中心点51とをそれぞれ通る単一の仮想平面57が設定される。上記ロアアーム9を全体的に見て、その各部断面の剪断中心は、上記仮想平面57上にほぼ位置するよう上記断面の形状が定められる。
【0036】
車体2の平面視(図2)で、上記後枢支具12の近傍における上記ロアアーム9の基部9bの部分(基部9bの後部)に平面視で円形の貫通孔58形成されている。具体的には、この貫通孔58は上記基部9bの部分における下板27に形成されている。そして、このようにロアアーム9の基部9bの部分の下部(下板27)に上記貫通孔58を形成したことにより、上記ロアアーム9の基部9bの部分における断面の剪断中心59は、上記仮想平面57の上方、かつ、上記貫通孔58の上方に位置させられている(図5)。
【0037】
なお、上記ロアアーム9の基部9bの部分における上部である上板26に上記貫通孔58を形成してもよく、このようにすれば、上記ロアアーム9の基部9bの部分における断面の剪断中心59は、図示しないが上記仮想平面57の下方に位置させることが可能となる。
【0038】
上記構成によれば、ロアアーム9の基部9bの部分が上記後枢支具12の近傍に位置している分、上記基部9bの部分は上記ロアアーム9の突出端部9aと前枢支具11とから遠く離れており、しかも、上記基部9bの部分では、その断面の剪断中心59が単一の上記仮想平面57の上方(もしくは下方)に位置している。
【0039】
このため、車両1の前進走行中、車輪3が不意に段差に乗り上げるなどして、通常走行時の負荷を越えた過大な負荷Fが、上記車輪3、ステアリングナックル15、およびボールジョイント14を順次介し走行面側から上記ロアアーム9の突出端部9aに対し車体2の後方に向かって与えられたときには、上記したようにロアアーム9の基部9bの部分が上記ロアアーム9の突出端部9aと前枢支具11とから遠く離れており、しかも、その剪断中心59が上記仮想平面57から上方(もしくは下方)に離れていることにより、上記ロアアーム9の基部9bの部分にはより大きい曲げ応力が生じて、この基部9bの部分がより早い段階で山折れ状(もしくは谷折れ状)に屈曲させられる(図3、図5中、一点鎖線)。
【0040】
よって、上記下ロアアーム9の基部9bの部分の屈曲に伴い、このロアアーム9の突出端部9aを含むロアアーム9の前縁部は全体的に上記前枢支具11をほぼ中心として後方回動Bしがちとなり(図2中、一点鎖線)、かつ、このロアアーム9の突出端部9aは、上記負荷Fによる捩り変形が抑制されたまま、その基部9bに対し後方に向かってほぼ平行移動させられる。このため、上記ロアアーム9の突出端部9aとボールスタッド46のボール部46bとの枢結状態が維持されることから、上記ロアアーム9の突出端部9aとボールスタッド46とが互いにこじり力を与え合うことが抑制されて、上記ロアアーム9の突出端部9aからのボールスタッド46の離脱が防止される。つまり、前進走行中に、上記したように過大な負荷Fが与えられたとしても、上記懸架装置4の所定構成は、より確実にそのままに維持される。
【0041】
また、上記した懸架装置4の所定構成が維持される、という効果は、前記したように、ロアアーム9の基部9bの部分に貫通孔58を形成して、このロアアーム9の基部9bの部分の剪断中心59を仮想平面57の上方もしくは下方に位置させることにより達成されることから、例えば、ボールスタッド46の離脱防止としてロアアーム9を補強するために別途の補強板を設定する、というような複雑な構成を必須としないで足りる。よって、上記効果は、懸架装置4の部品点数の増加を抑制して、簡単な構成で達成できる。
【0042】
また、上記構成において、仮想平面57を基準とした場合のロアアーム9の各部断面における剪断中心の高さ(もしくは低さ)に比べ、上記剪断中心59は最も高く(もしくは最も低く)位置させられる。また、上記ロアアーム9の基部9bは車体2の前後方向に細長く延びており、上記基部9bの部分は、前後方向に細長く延びた上記基部9bの長手方向の後部における中途部に位置している。より具体的には、上記基部9bの部分は、車体2の前後方向で、上記前、後枢支具11,12の中央よりも後方に位置している。
【0043】
このため、前記したようにロアアーム9の突出端部9aに対し過大な負荷Fが与えれたときには、上記ロアアーム9の基部9bの部分には、より確実に大きい曲げ応力が生じて、この基部9bの部分がより確実に屈曲させられる。よって、前記効果がより確実に達成される。
【0044】
なお、以上は図示の例によるが、上記ロアアーム9の上板26と下板27とは上下が逆の構成であってもよく、これらを一枚の板材などで一体的に形成してもよい。
【0045】
また、上記ボールスタッド46は上下を逆にし、そのボール部46bを上記ナックル15の下端部から上方に突出させて、上記ロアアーム9の突出端部9aに枢結させてもよい。また、上記ソケット53へのソケットシート52の固着は溶接や締結具によってもよい。
【0046】
また、上記貫通孔58はロアアーム9の塗装時の塗液の抜き孔や、他の構成部品との組立時の基準穴に兼用されるものであってもよいが、これらとは関係なく、別途に形成したものであってもよい。また、上記貫通孔58は矩形など多角形状であってもよく、長円形状や楕円形状であってもい。また、上記貫通孔58を上記ロアアーム9の基部9bの部分における上部(上板26)と下部(下板27)とにそれぞれ形成し、これら両貫通孔58の孔面積や形状を互いに相違させることにより、上記剪断中心59を仮想平面57の上方もしくは下方に位置させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 車両
2 車体
3 車輪
4 懸架装置
7 サブフレーム
8 サスペンションタワー
9 ロアアーム
9a 突出端部
9b 基部
10 軸心
11 前枢支具
12 後枢支具
14 ボールジョイント
15 ナックル
25 内部空間
26 上板
27 下板
36 枢支中心点
42 枢支中心点
45 軸心
46 ボールスタッド
46a 基部
46b ボール部
51 枢支中心点
57 仮想平面
58 貫通孔
59 剪断中心
A 揺動
B 回動
F 負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体側から外側方に向かって突出する中空構造のロアアームと、このロアアームの突出端部側が上下に揺動可能となるようこのロアアームの基部を上記車体に枢支する前、後枢支具と、車輪を支持して上記ロアアームの突出端部の上方域に設けられ、その下端部が上記ロアアームの突出端部にボールジョイントを介して枢支されるステアリングナックルとを備え、上記ボールジョイントのボールスタッドが上下方向に延びる軸心を有し、その基部が上記ナックルの下端部に固着される一方、上記ボールスタッドのボール部が上記ロアアームの突出端部に枢結された車両の懸架装置において、
上記前、後枢支具とボールジョイントとの各枢支中心点をそれぞれ通る単一の仮想平面を設定し、上記後枢支具の近傍における上記ロアアームの基部の部分に貫通孔を形成して、このロアアームの基部の部分における断面の剪断中心を上記仮想平面の上方もしくは下方に位置させたことを特徴とする車両の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−178335(P2011−178335A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46541(P2010−46541)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】